著者
日本ペインクリニック学会用語委員会 西江 宏行 長櫓 巧 有田 英子 表 圭一 鈴木 孝浩 寺井 岳三 中谷 俊彦 藤井 善隆 森脇 克行
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.505-508, 2009-09-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
12

Painは,日本ペインクリニック学会用語集第2版で痛み,疼痛と和訳されているが,日本ペインクリニック学会用語委員会では第3版編集にあたりpainの訳語を,現代と過去の国語辞典,英和辞典,医学辞典,日中辞典,痛みに関する論文を調べ,再検討した.現代と過去の国語辞典は,「痛み」と「疼痛」を区別しており,「疼痛」とは疼く痛みのことであり,「痛み」の中のごく一部を意味すると定義されている.Painの訳語は,現代の主な英和辞典では,苦痛,苦しみ,痛みなどが記載されており,過去の英和辞典でも,主に痛,痛みと記載されており,疼痛という訳語は記載されていない.これに対して医学辞典では過去と現代ともに,ほとんどがpainの訳語を「痛み,疼痛」と記載し,「痛み」と「疼痛」を同義語としている.中国語では「疼:teng」「痛:tong」「疼痛:tengtong」は,ほぼ同じ意味である.用語委員会ではpainの訳語が医学界と一般社会で違いがあるのは望ましくないと考え,第3版のpainの和訳として「痛み」あるいは「痛」が適切であると結論し,ただ,疼痛がすでに定着した言葉になっているので,「疼痛」も併記することになった.
著者
岡崎 良平 難波 宏好 吉田 広幸 岡井 恒 河村 稔
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.407-413, 2008-09-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
24

目的:ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®,以下NTP)と疼痛疾患治療に使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)および抗うつ薬の抗アロディニア作用を比較した.また,NTPとミルナシプランの併用効果についても検討した.方法:9週齢Wistar系雄性ラットを用い,麻酔下でL5脊髄神経の後根神経節末梢側を結紮した.手術28日後に薬物を経口投与し,機械刺激性アロディニアを測定した.NTPとミルナシプランの30%有効用量を求め,アイソボログラムにより併用効果を評価した.結果:NTPは400 NU/kgでアロディニアを抑制した.NSAID(ロキソプロフェン)およびCOX-2選択的阻害薬(セレコキシブ)は100 mg/kgで抑制しなかった.抗うつ薬であるSNRI(ミルナシプラン)は100 mg/kgでアロディニアを抑制したが,SSRI(パロキセチン)は10 mg/kgで抑制しなかった.NTPとミルナシプランとの併用により相加効果が認められた.結論:神経障害性疼痛に対してNTPはSSRIおよびNSAIDより有効であり,NTPとSNRIの併用が有用であることが示唆された.
著者
境 徹也 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.21-24, 2010-01-25 (Released:2010-08-04)
参考文献数
13

虚偽性障害は,身体的・心理的症状または徴候を意図的に作り出す疾患であり,特に身体的症状と徴候の優勢なものはミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる.われわれは複合性局所疼痛症候群(CRPS)様症状をきたしたミュンヒハウゼン症候群患者を報告する.患者は47歳の男性であった.腰椎椎間板術後の腰下肢痛と歩行不能を訴え,車椅子で当科へ紹介受診となった.腰椎のMRIで,明らかな異常はなく,院外では普通に歩行していた.その後,咽喉頭部違和感,腹部不快感,上顎痛,発熱など多彩な身体症状を次から次へと訴えていたが,検査で異常はなかった.8カ月後に,右肘部管症候群に対する尺骨神経移行術後に,右腕の腫脹が出現し,CRPSが疑われた.13カ月後に,腹部不快感を訴え,腹部CTにて腸管内に金属異物が発見された.40カ月後に,右腕の腫脹が著明になり,右上腕がバンドで強く締め付けられているのが発見された.医療スタッフは早期にこの病態を認識し,この病的行動により混乱させられないことが重要である.
著者
安部 伸太郎 原賀 勇壮 比嘉 和夫 楠本 剛 重松 研二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.506-510, 2014 (Released:2014-11-07)
参考文献数
6

【目的】使い捨て注射器は,プランジャー(押し子)と注射器内側が接する部位があり,注射器内側が汚染する可能性がある.プランジャーの往復回数と使い捨て注射器内側の汚染の程度を検討した.【方法】菌液塗布群5本,対照群5本の計10本の20 ml使い捨て注射器で実験を行った.滅菌した液体培地を最大目盛の25 ml吸引し,プランジャーの突出部に菌液を塗布し,液体培地をすべて排出するという操作を,注射器1本につき10回繰り返した.対照群では,菌液ではなく滅菌した液体培地を塗布して同様の操作を行った.排液25 mlのうち0.1 mlを培養し,菌数を計測した.【結果】菌液塗布群では,1回目の排液に菌が含まれていた使い捨て注射器は1本,2回目では0本,3回目では3本,4回目では4本,5回目以降では5本すべての使い捨て注射器の排液から菌が検出された.使用回数の増加とともに排液中の菌数が増加した.対照群では,1本の使い捨て注射器で9回目の排液から菌が1個検出され,それ以外の検体からは菌は検出されなかった.【結論】使い捨て注射器のプランジャーが汚染された状態で往復運動を繰り返すと,注射器の内側が汚染され,使用回数が増えると汚染の程度は増加する.
著者
石橋 幹子 比嘉 和夫 廣田 一紀 平田 和彦 林 文子 濱田 孝光
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.505-508, 2003-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
10

40歳の男性が第3~第5仙髄神経領域の帯状疱疹を発症した後に排尿障害をきたし, 死亡まで6週間持続導尿を必要とした. この症例では髄液と血清の水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体価から, くも膜下で水痘・帯状疱疹ウイルスに対する抗体が産生されたことが推測された.
著者
小佐井 和子 宇野 武司 小金丸 美桂子 高崎 眞弓
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.26-30, 1999-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
15

目的: 神経因性疼痛患者に0.05%カプサイシン軟膏を塗布し, カプサイシン軟膏の鎮痛効果と副作用を検討した. 対象と方法: 従来の治療法で除痛困難であった患者12名, 帯状疱疹後神経痛 (PHN) 群6名と神経外傷後疼痛 (外傷後疼痛) 群6名を対象とした. 塗布前, 塗布中, 中止後の痛みの強さを, 0~100の Visual Analogue Scale (VAS: 0=痛みなし, 100=耐えがたい痛み) で比較した. さらに睡眠, 気分, 日常動作の変化, および塗布中の副作用を調べた. 結果: VASの中央値はPHN群で塗布前45, 塗布中10, 中止後10であり, 外傷群で塗布前80, 塗布中40, 中止後50で, 両群とも塗布中および中止後は塗布前に比較して有意に低下した (p<0.05). 睡眠, 気分, 日常動作の改善がそれぞれ42%, 75%, 58%で認められた. 軽度の皮膚剥離を1名に認めた以外, 重篤な合併症は認めなかった. 中止後, PHN群では痛みは変化しなかったが, 外傷群では痛みは少し増強した. 結論: 0.05%カプサイシン軟膏は, PHNおよび外傷後疼痛の治療に有効であることがわかった.
著者
大野 由夏 小長谷 光
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.93-100, 2019-06-25 (Released:2019-06-28)
参考文献数
37

遷延性術後痛の発症危険因子は明らかではないが,内因性鎮痛系の減弱も一部関与している可能性がある.生体に備わっている内因性鎮痛系の一種に,身体のある部位に与えた刺激により別の部位の痛みが抑制される現象があり,これは,動物においては広汎性侵害抑制調節(diffuse noxious inhibitory controls:DNIC),またヒトにおいてはconditioned pain modulation(CPM)と呼ばれる.DNIC/CPMは中枢性の抑制性修飾であり,セロトニン作動系やノルアドレナリン作動系などの内因性鎮痛系が関与する.健康成人を対象にCPM評価を行うとCPM効果の大きさに個人差が認められることから,CPM効果は内因性鎮痛系の評価法として応用できると考えられる.さらに,予定手術患者を対象に術前のCPMを評価した結果,術後痛とCPM効果の関連が示されたことから,CPMは遷延性術後痛発症危険因子スクリーニング検査として応用できる可能性がある.本総説では,DNIC/CPMの概要,CPM評価法について概説し,さらにCPMの遷延性術後痛発症危険因子スクリーニング検査としての可能性について,最新の知見を自験例とともに報告する.
著者
中村 好美 吉村 文貴 田辺 久美子 山口 忍 杉山 陽子 飯田 宏樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.107-110, 2019-06-25 (Released:2019-06-28)
参考文献数
6

セロトニン症候群は,中枢および末梢神経シナプス後部のセロトニン過剰刺激によって精神状態の変化,神経・筋症状,自律神経症状を生じ,薬物の過剰摂取だけでなく,薬物の投与または薬物相互作用によって発症する.今回われわれは,慢性疼痛患者に対する少量のデュロキセチンとトラマドールの併用により,セロトニン過剰状態を起こした3症例を経験した.3症例とも併用開始直後に焦燥感があり,発汗過多,動悸,振戦のうちの1つ以上の症状が出現したが,両薬物もしくはデュロキセチンの内服中止直後に症状が改善した.セロトニン症候群の診断基準を満たしていないが,セロトニン過剰状態と考えられ注意が必要であった.デュロキセチンはCYP2D6を阻害するためトラマドールの代謝が抑制され血中濃度が上昇し,セロトニン過剰状態を引き起こしたと考えられた.さらに1症例ではCYP3A4阻害薬であるビカルタミドを内服しており,これもトラマドールの代謝を阻害したと考えられた.慢性痛を有する患者は多剤併用されることが多いが,薬物相互作用をよく理解し副作用の出現に注意が必要である.
著者
小川 真生 土田 英昭
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.336-340, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
10

患者は76歳の男性.6年前に三叉神経痛を発症し,カルバマゼピン(CBZ)が投与された.しかし,薬剤性過敏症症候群を発症してプレドニゾロン(PSL)が投与され,その後に痛みは改善した.2年前にも左三叉神経痛が再発したが,プレガバリンで改善した.今回,左奥歯から顎にかけての痛みが会話時に出現し,三叉神経痛の再発と診断してプレガバリンを開始したが十分に効果を認めず,嚥下痛や咀嚼痛のために固形物の摂取が困難になった.リドカインを口腔内へ散布したところ痛みが改善し,器質的所見を認めないことから,舌咽神経痛の発作と診断した.患者の強い希望によりCBZを開始すると痛みは改善したが,2日後に薬剤性過敏症症候群が発症した.CBZを中止し,PSLパルス療法を開始すると,薬疹のみならず疼痛も改善した.PSLを中止しても疼痛は再発しなかった.ステロイドパルス療法は,治療の困難な典型的三叉神経痛や舌咽神経痛に対して試みる価値がある治療法となる可能性がある.
著者
萩原 綾希子 小田 浩之 牧野 綾 合田 由紀子 松山 茂子 長尾 知哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.323-326, 2020-10-25 (Released:2020-10-28)
参考文献数
11

症例は虫垂がん,腹膜転移根治術後の20歳代女性で,2年4カ月間明らかな再発を認めなかった.治療過程でフェンタニル口腔粘膜吸収剤[以下,OF(oral fentanyl)]を使用していたが,次第に回数が増加し,800 μg/回のOFを1日に10回以上使用するようになった.OF処方を過剰に要求し,希死念慮も出現したため入院管理下に減量・中止が計画された.1,800 μg/日まで減量されたが,それ以上の減量が困難となったため,薬剤調整目的に当院に紹介となった.精神科病棟に入院させ,本人の同意を得てOFをメサドン10 mg/日へ置き換えた.当初はOF使用を強く要求したが,クエチアピンの投与やスタッフによる支持的精神療法を行ううちに要求は減少した.入院15日目にはブプレノルフィン貼付剤に切り替え,25日目にオピオイド使用を完全終了した.入院経過を通じて身体離脱症候は認められなかった.OFの断薬には,精神療法・支持療法とともにメサドン・ブプレノルフィンへの切り替えが有効であった.
著者
更科 紗和子 松崎 孝 小野 大輔 中村 龍 賀来 隆治 森松 博史
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-4, 2021-01-25 (Released:2021-01-25)
参考文献数
10

ドライアイ類似の慢性難治性眼痛の3症例を経験した.当院の眼科治療後難治性眼痛の治療プロトコールに基づき,オキシブプロカイン点眼検査,リドカイン静脈内投与,薬物療法,神経ブロックを行い,痛みの機序を考慮し診断的治療を施行した.眼科領域では,客観的所見と疼痛の乖離を説明する概念として神経障害性眼痛(neuropathic ocular pain:NOP)が報告されているが,病態が国際疼痛学会の提唱する神経障害性痛の定義に適さないため,本稿では神経障害性痛を部分的に有する神経障害類似の眼痛(neuropathic like ocular pain:NLOP)と定義して症例を提示した.
著者
田中 ふみ 井上 潤一 中村 武人 松村 陽子 前田 倫
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.341-344, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
12

がんへの放射線治療により発生する口内炎などの粘膜炎の薬物治療には,抗炎症薬や局所麻酔薬の含嗽,非ステロイド性抗炎症薬や麻薬などの鎮痛薬があるが,その効果は十分といえない.粘膜炎による痛み,感染,栄養状態の悪化のために放射線治療を中断することは予後に直結するため,新たな治療薬が期待されている.今回,放射線治療による肺腺がん患者の食道粘膜炎と頬粘膜がん患者の口内炎に対し,桔梗湯を使用することで症状の改善を認め,放射線治療を完遂した症例を経験した.桔梗湯は桔梗と甘草からなる漢方薬であるが,桔梗・甘草それぞれに抗炎症,抗潰瘍効果があることが報告されており,桔梗湯にも同様の効果があると想定され,放射線性粘膜炎に対する有効な支持療法になりうると考えられる.
著者
小川 節郎 鈴木 実 荒川 明雄 荒木 信二郎 吉山 保
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.141-152, 2010-05-25 (Released:2010-08-22)
参考文献数
15
被引用文献数
18

帯状疱疹の皮疹消褪後に3カ月以上痛みが持続している帯状疱疹後神経痛患者371例を対象に,プレガバリン150 mg/日,300 mg/日,600 mg/日(1日2回投与)を13週間投与したときの有効性および安全性を無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験にて検討した.いずれのプレガバリン群においても疼痛は投与開始1週後から速やかに軽減し,最終評価時の疼痛スコアは300 mg/日群および600 mg/日群ではプラセボ群に比べ有意に低下した.プレガバリンは痛みに伴う睡眠障害を改善し,アロディニアや痛覚過敏にも有効であることが示された.主な有害事象は浮動性めまい,傾眠,便秘,末梢性浮腫,体重増加などであった.これらの有害事象は用量依存的に発現頻度が高くなる傾向があったが,ほとんどが軽度または中等度であった.以上の結果より,プレガバリンは帯状疱疹後神経痛に対して有用性の高い薬剤であることが示された.
著者
又吉 宏昭 川井 康嗣 白源 清貴 大竹 由香 松本 美志也 坂部 武史
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.494-497, 2010-09-25 (Released:2010-10-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

カルバマゼピン内服中に高度の低ナトリウム血症を生じ,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)が疑われた症例を報告する.75歳の女性で,特発性三叉神経痛の治療をカルバマゼピンの内服と下顎神経ブロックで行っていた.下顎神経ブロックの効果が減弱し,カルバマゼピン600 mg/日でも痛みがコントロールできなかったので,下顎神経ブロックの目的で入院した.入院当日夜に痛みが増強し,血圧が上昇した.カルバマゼピン100 mgを追加した.翌日から気分不良,全身倦怠感,嘔気と頭痛が生じた.血清ナトリウムが119 mEq/Lと低下していた.尿量が減少しており,血漿浸透圧が低値で,尿浸透圧は高値であった.カルバマゼピンを中止し,水分摂取を制限した.入院8日目に血清ナトリウムは 135 mEq/Lに改善した.その後,下顎神経の高周波熱凝固を行い,痛みは消失し,カルバマゼピンを中止した.カルバマゼピンによるSIADHの頻度は低いが,注意すべき副作用である.三叉神経痛で,薬物療法の副作用が生じた場合は,高周波熱凝固術は有意義であると考えられた.
著者
伊吹 京秀
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.71-80, 2012 (Released:2012-06-20)
参考文献数
26
被引用文献数
1

近年医学研究の進歩はめざましく,痛みの研究については,米国議会の決議した1990年からのThe Decade of the Brainや2001年からのDecade of Pain Control and Researchキャンペーンにより,新たな知見が集積されてきた.しかし残念ながら,難治性の痛みの画期的な治療を生み出すには至っていない.その実現には,われわれ実地医家も基礎にある科学的知識を習得する必要がある.本稿では,このような視点から痛み学説の変遷,痛覚神経系の特徴,痛覚伝導の仕組み,末梢感作,中枢感作を解説する.20世紀初頭われわれが受け継いだ痛みの理論は,17世紀以来のデカルトの特異説であるが,1965年革命的なゲートコントロール説が提唱され多くの疑問が解決された.しかしその後,機序の解明されていない現象を説明できる新たな学説はまだ日の目を見ていない.人間の痛みを対象として診療を行っているという非常に有利な立場から,われわれには新たな発想で画期的な説を打ち出せる可能性がある.本稿が実地医家の方々に何らかの影響を及ぼすことになれば,幸いである.
著者
森脇 克行 大下 恭子 堤 保夫
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.91-99, 2021-06-25 (Released:2021-06-25)
参考文献数
27

2022年1月1日に国際疾病分類第11版(ICD-11)が発効される.ICD-11には,はじめて慢性疼痛の分類コードが加えられる.この分類コードは国際疼痛学会(IASP)のタスクフォースによって開発された慢性疼痛の体系的な分類に基づいている.分類の特徴は慢性疼痛を3カ月以上持続または再発する痛みと定義した上で,慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分けたことである.慢性一次性疼痛には基礎疾患や組織障害が明らかでない線維筋痛症や複合性局所疼痛症候群などの慢性疼痛症候群が含まれる.一方,慢性二次性疼痛は基礎疾患や組織障害による二次的な疼痛で,病態や身体部位によってさらに6つのカテゴリーに分類されている.IASPの分類には慢性疼痛に関する最近の新しい科学的知見をもとにした疼痛概念が反映されており,今後の慢性疼痛の診療に大きな進歩をもたらすと考えられる.また公開されたWHOのICD-11ブラウザは,慢性疼痛の診療用ツールとしても有用である.
著者
金井 成行 岡野 英幸 織田 真智子 阿部 博子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.393-399, 1996

<b>目的</b>: 肩凝りに対する磁気治療器の効果を皮膚温度, 深部温度, 皮膚血流量など客観的な方法を用いて検討した. <b>方法</b>: 肩凝りの強い患側とその反対側 (健側) の皮膚温度をサーモグラフィで測定した. また, 磁気治療器の効果は, 二重盲検法により無作為に患者を磁気治療器貼付群とダミー貼付の対照群に分け, 4日間の疼痛, 筋硬結の症状, 皮膚温度, 深部温度, 皮膚血流量を測定した. <b>結果</b>: 肩凝りを訴える患者は, 肩の強く凝る部位の皮膚温が反対側より低い者 (低温群), 高い者 (高温群), 両側に差のみられない者 (均一群) の3種類に分類され, 罹病期間が短いほど高温群が多く, 罹病期間が長くなると低温群が増加した. 罹病期間1カ月以上の低温群に磁気治療器を貼付すると貼付24時間目から疼痛, 筋硬結の症状が改善されはじめ, 48時間後には皮膚温度, 深部温度も有意の上昇を示した. 血流量の有意な増加は72時間後にみられた. <b>結論</b>: 磁気治療器は, 患部が低温化した凝りの部位を明らかに改善し, 皮膚温度, 深部温度, 血流量を上昇させた.