著者
黒田 唯 野中 美希 山口 敬介 井関 雅子 上園 保仁
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.167-174, 2021-08-25 (Released:2021-08-25)
参考文献数
40

痛みは,さまざまな要因で発生し,時に患者の精神をむしばみ苦痛を伴う.適切なペインコントロール,マネジメントは実施されているものの,現在使用されている鎮痛薬,鎮痛補助薬では克服できないものも多く存在している.血管内皮由来の血管収縮作用を有するペプチドとして発見されたエンドセリン(ET)は生体において心血管系に対する作用が強力であるため,これまで循環器疾患にかかわる因子として知られてきた.しかしながら近年,ETはETA受容体(ETAR)を介して痛みを惹起し,がん性疼痛をはじめとする炎症性疼痛や神経障害痛などのさまざまな痛みに関与することが報告されており,疼痛領域においても注目されている.またこれまでの報告から,ETAR拮抗薬はオピオイドの鎮痛作用の増強ならびにオピオイド耐性の解除に関与することが報告されているため,新規鎮痛補助薬としてETARをターゲットとした薬剤開発が期待される.本総説ではET-1と疼痛発現機序に関する知見およびETAR拮抗薬とオピオイド鎮痛シグナルとの関連性について概説し,ETARをターゲットとした新規鎮痛補助薬の可能性について,筆者らの研究とともに報告する.
著者
松本 園子 光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.318-324, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
14

腰椎手術後に再度腰痛・下肢痛が出現する腰椎手術後疼痛症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)の治療には苦慮することが多い.今回当院外来でFBSS患者での難治性腰下肢痛に対する後仙腸靱帯ブロックの有効性を検討した.2010年4月~2016年3月の6年間に当科に初回受診したFBSS患者64症例のうち,仙腸関節関連痛と認められた55症例について後仙腸靱帯ブロック後の数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)の経時的変化,罹患期間,罹患部位,下肢痛の有無などについて検討した.初診時FBSSと診断した64例中,仙腸関節関連痛と認められた55症例について後仙腸靱帯ブロックのみで痛みが軽減した症例は85.5%(47/55)であった.罹患期間は中央値18カ月で,腰痛だけでなく下肢痛を伴う症例が68.1%(32/47)であった.NRSは経時的に有意に低下した.1回のブロックで50%以上のNRS改善を示した症例は53.2%(25/47)であった.後仙腸靱帯ブロックはFBSSの治療に対して有意に疼痛を軽減し,診断的ブロックとしても治療としても有効であり,FBSSには少なくない割合で仙腸関節関連痛が含まれていた.
著者
山田 直人 相原 孝典 加藤 幸恵 木村 丘 松井 秀明
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.488-490, 2013 (Released:2013-11-07)
参考文献数
11

水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)感染によるRamsay-Hunt症候群(ハント症候群)はまれに第7,8脳神経以外の脳神経症状を合併することがある.今回,多発性脳神経障害を伴うハント症候群の1例を経験したので報告する.症例は79歳の男性,左耳介部の帯状疱疹,顔面脱力および左の声帯,軟口蓋と舌の麻痺等を認め,第9~12脳神経の障害を伴うハント症候群の診断となった.柳原スコアで6/40と重症であり,入院のうえ,抗ウイルス薬,ステロイドおよび神経ブロック等で治療をしたが,難治性で顔面神経麻痺の改善は乏しかった.それ以外にも嚥下困難や吃逆,誤嚥性肺炎等の対症療法に苦慮した症例であった.
著者
西 啓太郎 江原 弘之 岩﨑 かな子 内木 亮介 中西 一浩
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.7, pp.157-160, 2022-07-25 (Released:2022-07-25)
参考文献数
9

頚肋を有し,他院で胸郭出口症候群と診断された20代男性に対して,医師と理学療法士が協働して上肢痛の治療選択をした.その結果,頚肋による神経および血管の圧迫の可能性が低く,非特異的上肢痛であり,運動器リハビリテーションの適応があると判断した.10回のリハビリテーションとデュロキセチンの内服により,123日目に症状が改善した.集学的な評価が侵襲的治療を最小限に抑えることに有効であった.
著者
加藤 佳子 山川 真由美 長岡 由姫 加藤 滉
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-28, 2005-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7
被引用文献数
3

1988年から2004年3月までの16年間に,「WHO方式がん疼痛治療法」に準じて100人以上の非がん性疼痛患者にモルヒネによる疼痛治療を行った. そのうち1年以上モルヒネの内服治療を継続した患者は16人, 原病の進行によって死亡した2人を除いた14人は現在も内服を継続中である. 最長例は骨粗鬆症・圧迫骨折の疼痛を治療中の全身性エリテマトーデス (SLE) 患者で13年である. モルヒネの服用量は, 痛みが強くなって増量しても, 痛みが軽減するとすべての患者で必ず減量できた. また痛みの変動がなければモルヒネ必要量は長期間変化しなかった, 病状の変化に対応して服薬指導を繰り返し,「痛みの自己管理」へ導くことによって, モルヒネによる治療は長期間にわたって確実で安全な除痛法となる.
著者
立岡 良夫 小野 ゆき子 海法 悠 大西 詠子 村上 衛 山内 正憲
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.259-262, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
14

【背景】市販メントールクリームは,皮膚に清涼感と侵害刺激と類似した感覚を生じさせる.その主成分であるL-メントールは,鎮痛効果と痛覚過敏の誘発という二面性を持つことが報告されている.メントールクリームが痛覚と知覚に及ぼす影響を詳細に検討することは,痛み発生メカニズム解明の一助となる可能性がある.【目的】メントールクリームが機械刺激と電流刺激の感受性に及ぼす影響を明らかにする.【対象と方法】健常者80名の前腕にメントールクリームを塗布し,塗布前後でピン刺激に対する視覚アナログスケール(VAS)値とPainVision®[ニプロ(株)]の電流刺激に対する知覚閾値と痛覚閾値を測定した.【結果】ピン刺激に対するVAS値と知覚閾値は塗布前後で有意に変化しなかった.塗布後に痛覚閾値は平均19.2%(95% CI 18.6~19.8,P<0.01)低下し,塗布前の痛覚閾値が高い被験者ほど塗布後の低下が大きい傾向があった(r=−0.39,P<0.001).【結語】メントールクリームは電流刺激に対する痛覚過敏を惹起し,その程度は電流刺激で痛みを感じにくい被験者ほど大きかった.
著者
杉山 陽子 飯田 宏樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.7-13, 2019-02-25 (Released:2019-03-12)
参考文献数
35

喫煙はさまざまながんの発生に関連していることが明らかであるにもかかわらず,がんと診断された後も喫煙を継続する患者がいる.しかし喫煙はがん患者のQOLに最も影響する“痛み”にも悪影響を及ぼす.喫煙者は非喫煙者に比較してがんに関連する痛みの頻度や程度が大きい.ニコチンは急性作用として鎮痛効果を有するが,喫煙者のような慢性的なニコチン摂取は痛みのプロセシングを変化させ,さらにニコチン摂取の中断による離脱症状で痛覚過敏が生じる.喫煙は創傷治癒を遅延させ組織損傷を助長する.また,さまざまな薬物と相互作用があり抗がん薬や鎮痛薬の作用を減じて痛みを増悪させるリスクもある.しかし痛みがあると喫煙欲求が増すため患者は痛みと喫煙の悪循環に陥る.よって,がんと診断された時点から痛み治療に並行して禁煙支援を行うことが,がん患者のQOL維持に重要である.
著者
福井 晴偉 大瀬戸 清茂 塩谷 正弘 有村 聡美 多久島 匡登 大野 健次 唐沢 秀武 長沼 芳和
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.29-33, 1996-01-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1

目的: 椎間関節を支配する各々の脊髄神経後枝内側枝がどの部位に関連痛として腰痛に関与しているか調べる目的で調査を行った. 対象と方法: 腰椎椎間関節症が疑われた患者で, 高周波凝固法による facet rhizotomy の電気刺激時に痛みの部位に放散痛が得られ, かつ疼痛再現性が得られた患者30人とした. 結果: 放散痛の部位を body diagram に記載し, L1~S1までの後枝内側枝の関連痛の部位チャートを作った. 結論: 各々の後枝内側枝の放散痛の部位について, L1はL1/2椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, L2は主にL2/3椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, 一部がその上下の傍脊柱部, 啓部, L3はL3/4椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, 一部がその上下の傍脊柱部, 大腿外側部, L4はL3/4からL4/5椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, 一部がその上下の傍脊柱部, 大腿外側部からそけい部, L5はL4/5からL5/S1椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, 一部がその上下の傍脊柱部, 臀部, 大腿外側部, S1はL5/S1椎間関節直上を中心とする傍脊柱部, 一部がその上下の傍脊柱部, 臀部, 大腿外側部であった.
著者
天日 聖 谷口 巧
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.99-102, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
7

急性下肢動脈閉塞術後の下腿コンパートメント症候群(CS)に対して減張切開を行った後の疼痛コントロールに末梢神経ブロックが著効した症例を報告する.患者は56歳の男性,X−1日に左膝色調不良を認め,X日に左総大腿動脈の急性下肢動脈閉塞と診断され緊急下肢血栓除去術が施行された.術後,ICUにて左下腿CSを認め減張切開を2回施行した.フェンタニルで疼痛コントロールを行ったが,フェンタニルを増量しても疼痛コントロールが困難であったため,X+2日目に超音波ガイド下に末梢神経ブロック(左伏在神経・左坐骨神経ブロック:膝下部法)を施行した.施行後,下腿の疼痛は軽快しフェンタニルを減量,中止できた.ICUにおいても薬物による疼痛コントロールが困難な場合,全身状態の安定化に十分寄与することが期待される症例では末梢神経ブロックを積極的に考慮すべきである.
著者
宮崎 有 駒澤 伸泰 城戸 晴規 兵田 暁 藤原 俊介 南 敏明
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.47-50, 2017

小児の複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対して末梢神経ブロックを施行し,症状改善を認めた症例を経験したため今回報告する.症例は13歳,女性.転倒による右足関節の捻挫に対し,近医でギプス固定を受けた.その後3カ月間受診せず,両松葉杖での免荷歩行をしていた.ギプス脱後,再度3カ月間受診をせず,右足部の腫脹,痛み,運動障害を認めたため,総合病院整形外科を受診し,CRPSと診断された.入院のうえ加療するも痛みによりリハビリテーション困難となり,当院ペインクリニック科に紹介となった.持続硬膜外麻酔を施行するも,リハビリ中の体動による抜去を繰り返したため,持続坐骨神経ブロック,大伏在神経ブロックを併用し,症状の改善を認めた.さらに病院関係者だけでなく両親および学級担任を含めた心理社会的サポートを追加することで,運動療法を継続でき寛解を得た.小児のCRPSに対して心理社会的なサポートおよび末梢神経ブロックと運動療法の併用は有効な可能性がある.
著者
高谷 哲夫 安心院 純子 長谷川 純 山崎 一
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.516-518, 2003-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
11

星状神経節ブロック (SGB) は網膜の血流を増やし, 視神経炎の治療に有効とされている. SGBで, 視神経炎後の視覚障害が著明に改善した症例を経験した. 症例は60歳の女性で, 左眼の視力低下と両眼の乳頭浮腫, および右眼のマリオット盲点の拡大, 左眼の中心暗点とマリオット盲点の拡大を認め, 両眼の視神経炎と診断された. ステロイド治療によって視力はかなり改善したが, 左眼の色覚異常や変視症などの視覚異常が残った. 視神経炎罹患1年6カ月後, 両手のレイノー現象のために当科外来で左SGBを開始した. 7回目のSGBを行った頃より左眼の変視症と色覚異常の改善を徐々に自覚するようになった. 約半年間の計23回のブロック後には, 色覚異常と変視症は著明に改善し, 視力もさらに改善して軽度の小視症を残すのみとなった. 陳旧性の視神経炎でも積極的にSGBを試みる価値があると考える.
著者
木村 健
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.40-43, 2012-02-25
参考文献数
10

帯状疱疹後神経痛の治療開始1カ月後に自殺企図を起こした1症例を報告する.79歳の女性で,帯状疱疹のために,急性期より強い痛みが持続し,不眠となっていた.鎮痛薬で痛みが軽減せず,副作用で日常生活動作が著しく障害されていたので,当科を紹介された.当科受診後,薬物による副作用は改善したが,痛みの治療に難渋した.神経ブロックによる治療を後日予定し,退院した.退院の翌朝に自殺目的で服薬し,意識が消失した状態で家人に発見された.本患者は,精神神経疾患の既往はなく,入院中に自殺念慮を示唆する明らかな言動はみられなかった.再入院後,頸部硬膜外ブロック,星状神経節ブロックを施行しながら精神科医による治療を受け,痛みは軽減した.高齢者の慢性痛患者では,自殺の可能性に留意する必要があると考えられた.
著者
星野 陽子 住谷 昌彦 日下部 良臣 佐藤 可奈子 冨岡 俊也 小川 真 関山 裕詩 山田 芳嗣
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.98-102, 2012-06-25
参考文献数
11

エピドラスコピーは腰部脊柱管狭窄症などによる痛みに対して,硬膜外腔の癒着剥離および神経根周囲の洗浄を目的として行われる治療手技である.このようなエピドラスコピーの利用法とは異なり,腰部脊柱管硬膜外腔内嚢胞性病変による腰下肢痛に対して,エピドラスコピーを造影のために使用し,Tuohy針による穿刺によって嚢胞性病変の縮小と痛みの緩和に成功した1症例を経験したので報告する.症例は52歳の女性である.半年前から左臀部痛および左下肢痛を発症し,腰椎MRI所見から第4腰椎硬膜外腔内の嚢胞性病変による第5腰髄神経根の圧迫が痛みの原因と診断した.嚢胞性病変の成因としては第4/5腰椎椎間関節滑液嚢胞が示唆された.まず行われた低侵襲治療である椎間関節ブロック,腰部硬膜外ブロック,薬物療法では痛みは軽減しなかった.そこで,エピドラスコピーを用いて直視的に嚢胞を穿破しようと試みた.しかし,エピドラスコピー本体での穿破は硬度が足りず成功しなかったため,硬膜外腔の局所的な造影で不染部から嚢胞の位置を同定し,第4/5腰椎椎間板間隙からTuohy針を穿刺し嚢胞内容の減量に成功した.穿刺直後から痛みは軽減し,その後の腰椎MRIでは嚢胞性病変が縮小した.
著者
中島 邦枝 肥塚 史郎
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.345-348, 2017-10-25 (Released:2017-11-08)
参考文献数
13

小児における下腿の複合性局所疼痛症候群症例に対し,薬物療法と鏡療法の併用が有効であったので報告する.症例は11歳,男児.持久走中に転倒し右足関節を受傷した.近医に通院するも軽快しないため受傷から3カ月後当院へ紹介となった.受診時,右足関節以下に強いアロディニアと右足優位に冷感を認めた.関節可動域は完全に制限されていた.わずかな運動でも痛みを強く訴え,数値評価スケール(numerical rating scale)は10/10であった.プレガバリンの内服を開始し,増量後多少の効果が認められた.鏡療法の併用とクロナゼパムの追加投与を行ったところその3週間後にはアロディニアが軽減し,6週間後には部分歩行が可能となりプレガバリンを減量した.初診後11週で歩行が可能となりクロナゼパムの内服を中止した.初診時より6カ月後の受診時では日常生活は問題なく,痛みがないためプレガバリンの内服を中止した.その後1年半以上経過したが再発はみられていない.小児の複合性局所疼痛症候群では,診断の遅れが重症化に影響するため早期の診断が重要であり,集学的に治療する必要性が高いと考えられた.
著者
鮫島 達夫 前田 岳 土井 永史 中村 満 一瀬 邦弘 米良 仁志 武山 静夫 小倉 美津雄 諏訪 浩 松浦 礼子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.126-133, 2000

神経ブロック, 各種薬物療法などの効果なく, 反応性にうつ状態を呈した帯状疱疹後神経痛 (PHN) 10例に対し電気けいれん療法 (ECT) を施行し, その長期観察を行なった. 全例で持続性疼痛, 発作性疼痛, allodynia がみられ, 意欲低下, 食思不振など日常生活に支障をきたし, 抑うつ症状がみられた. 第1クールでこれらは改善したが, 7例に2~26カ月で疼痛, allodynia の再発がみられた. Allodynia の再発は, 知覚障害のある一定部位にみられ, 徐々に拡大した. しかし, 抑うつ症状の増悪はなかった. ECT第2クールは, 第1クール後5~26カ月後に施行し, より少ない回数で同様の効果を得ることができたことから, ECTの鎮痛効果に耐性を生じにくいことが示唆された. 以上より, ECT鎮痛効果は永続的ではないが, 1クール後数週間に1回施行する維持療法的ECT (continuation ECT: ECT-Cまたは maintenance ECT: ECT-M) を施行することで, 緩解維持できる可能性が示された. 対象に認めた抑うつ症状は疼痛の遷延化による2次的なものであり, 抑うつ症状の改善もECTの鎮痛効果による2次的産物であることが示唆された.<br>ECTは「痛み知覚」と「苦悩」の階層に働きかけるものであり,「侵害受容」,「痛み行動」には直接効果を示さないことから, その適応には痛みの多面的病態把握, すなわち生物-心理-社会的側面からの病態評価が必要となる.