著者
今井 美奈 三枝 勉 松本 園子 山口 敬介 光畑 裕正
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.106-109, 2016 (Released:2016-06-30)
参考文献数
10

舌痛症は器質的変化がないにもかかわらず,舌に慢性的な痛みやしびれが生じる疾患である.とくに更年期の女性に多く発症し,歯科治療後に発症することが多いが,原因は不明なことが多く難治性である.心因性の問題が大きく関与していると考えられている.疼痛は舌尖部から舌縁部に好発し,摂食時,睡眠時には軽減する傾向がある.今回,舌痛症の診断で西洋医学的治療を行ったが無効であった4症例に対して,証に合わせてそれぞれ四逆散合香蘇散(柴胡疎肝湯の方意),桂枝人参湯,加味逍遙散,四逆散を使用し,numerical rating scale(NRS)で0~3に痛みが改善した.このように難治性舌痛症に対しては証(漢方学的所見)に従う漢方を使用することにより,効果があることが示された.
著者
有川 智子 眞鍋 治彦 久米 克介 加藤 治子 武藤 官大 武藤 佑理
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
pp.15-0010, (Released:2017-05-26)
参考文献数
11

静脈穿刺による末梢神経障害は,時に痛みや感覚障害が長期に持続し,治療に難渋する.静脈穿刺に伴う末梢神経障害で受診した16例について,症例の背景,穿刺部位,症状,治療経過を診療記録より後ろ向きに検討した.対象は,女性14例,男性2例,21~79歳.穿刺部位は,肘皮静脈11例(正中5例,橈側4例,尺側2例),橈側皮静脈3例,前腕尺側静脈2例であり,初診時に14例が痛み,2例が違和感を訴えた.握力低下10例,アロディニア6例,冷覚鈍麻6例,腫脹3例,血腫2例があった.治療は薬物療法を13例,リドカイン点滴を8例,星状神経節ブロックを4例,持続硬膜外ブロックを2例で行った.転帰は軽快10例,治療中4例,転院2例であった.今回の調査では,静脈穿刺による末梢神経障害は報告が少ない肘部橈側静脈でも発生していた.末梢神経と静脈の走行と神経損傷の知識の普及が重要である一方,どの部位でも起こりうることから,末梢神経障害を疑った場合にはただちに抜針・止血し,早期より治療を開始するよう啓発する必要がある.
著者
齋藤 朋之 橋本 雄一 立川 真弓 島崎 睦久 新井 丈郎 奥田 圭子 斎間 俊介 安達 絵里子 奥田 泰久
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.516-518, 2012 (Released:2012-11-16)
参考文献数
8

神経障害痛に対する各治療ガイドラインで第一選択薬であるプレガバリンの通常初回投与量は150 mg/日とされる.主な副作用に浮動性めまい,傾眠,浮腫および体重増加などがあり,強く発現した場合はその投与の継続を中止せざるを得ない場合も少なくはない.今回,他施設にて150 mg/日の投与が開始されたが,副作用のために投与が中止された4症例に対して,当科ペインクリニック外来において再度75 mg/日から開始して,その後に重篤な副作用は発現せずに継続および増量投与が可能となった症例を経験したので報告する.特に副作用が生じやすい高齢者などでは,初回は少量投与で開始し,徐々に増量する方法が推奨される.
著者
御村 光子 佐藤 公一 井上 光 並木 昭義
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.141-144, 2003-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
7
被引用文献数
1

目的: 発症より1年以上経過した帯状疱疹後神経痛 (PHN) における局所麻酔薬による神経ブロックの効果を retrospective に検討した. 方法: 発症後平均31.5ヵ月を経過したPHNの6症例を対象とし, 痛みの推移を pain relief score (PRS) を指標として評価した. これら症例においてはアミトリプチリンを併用し, 1%リドカインを用いた星状神経節ブロックまたは硬膜外ブロックを初診より1~2ヵ月間は週1~2回の頻度で行った. 結果: 6症例はすべて女性, 平均年齢64歳, 平均観察期間は19ヵ月, 罹患部位は三叉神経第1枝3症例, 頸, 胸神経各々1, 2症例であった. 初診より約4週間において痛みの程度の低下は顕著であり, その後疼痛が軽減した症例は1症例のみであった. 5症例については神経ブロックにより段階的に痛みが軽減した. 初診時の痛みの程度を10とするPRSでみた場合, 最終的に3症例でPRS 5, 2症例で3, 1症例で1となった. 結論: 発症後1年以上を経過したPHN症例においても, アミトリプチリン併用下に局所麻酔薬を用いた神経ブロックにより痛みの軽減を期待できる.
著者
鵜瀬 匡祐 木本 文子 中原 春奈 別府 幸岐 吉村 真紀 深野 拓
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.165-168, 2009-05-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
12

アルコール性慢性膵炎の急性増悪による上腹部痛が柴胡桂枝湯で消失し,画像所見も改善した症例を報告する.62歳の維持透析中の男性で,内科に入院中であった.視覚アナログスケールで60-80/100 mmの上腹部痛と背部痛があり,疼痛の治療のために麻酔科を紹介された.モルヒネの持続静脈内投与を開始し,疼痛は軽減し,2週間後にモルヒネを中止した.しかし,経口摂取を開始後に膵炎が再燃し,上腹部痛が再発した.モルヒネ,フェンタニルの持続静脈内投与,アトロピン,非ステロイド性抗炎症薬を併用したが,上腹部痛は軽減しなかったので,柴胡桂枝湯の内服を追加した.上腹部痛は10日後に消失し,オピオイドを中止した.腹部CTで遷延していた膵の炎症性変化が軽減していた.柴胡桂枝湯は単に疼痛を軽減しただけでなく,膵炎の治癒も促進したと考えられた.
著者
裏辻 悠子 入江 潤 森川 修 伊福 弥生 末原 知美
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
The journal of the Japan Society of Pain Clinicians = 日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.361-366, 2011-09-25

各種有痛疾患(n=456)にトラマド-ルをシロップ製剤として経口投与し,鎮痛効果,至適維持量,副作用,安全性を検討した.痛みの程度が5段階の言語式評価スケール(verbal rating scale:VRS)で3以上の症例を検討の対象とした.トラマドールを0.5-2 mg/kg/日(分2-4)で服用を開始し,2日から84日後まで服用量を調節した.トラマドールの服用量は20-450 mg/日であった.全体の50%の症例で,痛みはVRSで2以下になった(38.2%は痛みが軽快し,トラマドールの服用が不要になり,11.8%ではトラマドールを服用し,痛みが軽減していた).トラマドールは,帯状疱疹,帯状疱疹後神経痛で有効例が多く,複合性局所疼痛症候群,血管病変,がん性痛では,他の薬剤や治療法へと変更した症例が多い傾向であった.トラマドールの服用後に,嘔気・嘔吐,ふらつき,便秘が生じたのは全体平均で2-12%であったが,重篤な副作用はなかった.トラマドールでは,侵害受容痛,神経障害痛ともに良好な鎮痛効果が得られたので,各種難治性の痛みの治療法の一つとして,幅広い臨床応用が期待される.
著者
滝本 佳予 西島 薫 森 梓 金 史信 小野 まゆ
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
2016

全身の痛みを中心とする多彩な症状を訴え心因性多飲を合併する患者に対し,薬物療法・認知行動療法と併せて行った,患者の語りの傾聴と対話を重視した診療が有用であった1例を報告する.症例は68歳の女性,全身の痛みを訴えて当科を紹介受診した.併存合併症として心因性多飲による低ナトリウム血症と意識混濁,むずむず脚症候群,過敏性腸症候群,睡眠障害,失立失歩があり,ドクターショッピングを長年続けた後の受診であった.患者の語りの傾聴と対話により,まず心因性多飲が改善した.次いで痛みの訴えを線維筋痛症・中枢感作性症候群と診断し薬物療法・認知行動療法を実施したところ,ドクターショッピングをやめ症状も軽減した."説明不能な"痛みの訴えはペインクリニックではたびたび遭遇する.器質的原因が明確ではない疾患の症状を一元的にとらえ,診断治療を行う役目を果たすためには,患者との語り合いにも問題解決への可能性があることが示唆された.
著者
伊東 久勝 服部 瑞樹 堀川 英世 竹村 佳記 山崎 光章
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.231-237, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
40
被引用文献数
3

遷延性術後痛(chronic postsurgical pain:CPSP)は,多くの患者のQOLを損失する深刻な手術合併症である.CPSPは侵襲の大きさなどの手術因子,精神・心理的因子や遺伝素因などの患者関連因子,環境因子を含んだ複合的なメカニズムによって発症し,その病態の理解は単純ではない.これまでにCPSP対策として薬物療法,神経ブロック,低侵襲手術の普及などさまざまな治療介入が行われており一定の効果は得られているが,より効果的な治療介入の開発のためにさらなる研究が望まれる.精神・心理的因子はCPSPの明らかな危険因子であり,これらの影響を評価し適切な治療介入を行うためには,痛みの有無や強度のみの単純な評価だけではなく,痛みの多面的評価が必要である.最近では,遺伝子解析やMRIなどの先進的な手法を用いてCPSPのリスクや病態を客観的に評価する試みがなされている.本稿ではCPSP対策の現状と今後の課題を中心に概説する.
著者
金澤 慧 野里 洵子 佐藤 信吾 髙橋 萌々子 入山 哲次 三宅 智
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.119-122, 2022-06-25 (Released:2022-06-25)
参考文献数
13

II型呼吸不全を合併した下咽頭がんの患者に,ヒドロモルフォンを投与したところ重大な呼吸抑制を認めた症例を経験したため報告する.症例は,下咽頭がんによる左頚部リンパ節転移,左肩甲骨転移,肺転移,肝転移を認める77歳男性.痛みと呼吸困難の症状緩和目的で緩和ケア病棟へ入棟した.ヒドロモルフォン経口徐放性製剤4 mg/日導入後,重大な呼吸抑制が生じた.ナロキソン投与にて呼吸状態は改善し,以降オピオイドの使用を控えることで呼吸抑制は認めなかった.呼吸不全や肝腎機能等の臓器障害の合併症のある終末期の患者では,全身状態をより慎重に評価し,薬物代謝能力の低下による生体内利用率の増加等を考慮して,投与量や投与方法を注意深く検討する必要があると考える.
著者
益田 律子 井上 哲夫 横山 和子 志賀 麻記子
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.397-402, 1999-10-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
11

モルヒネによる癌性疼痛治療中の眠気に対し, 塩酸メチルフェニデートを用い, 著しい生活の質 (quality of life) 改善が得られた4症例を経験した. いずれもモルヒネによる除痛効果は不十分であるにもかかわらず, 眠気のためにモルヒネ増量が困難な症例であった. 少量の塩酸メチルフェニデート (10~20mg/day) によって得られた効果は, (1)日中の傾眠と夜間覚醒の是正, 睡眠型の正常化, (2)夜間の不安, 恐怖の消失, (3)モルヒネ至適量投与による無痛, (4)摂食・歩行・会話など日常行動型の改善であった. 使用期間は7~50日間で, 明らかな副作用を認めなかった. 少量の塩酸メチルフェニデート投与はモルヒネ治療中の末期癌患者における生活の質 (quality of life) 改善に寄与する.
著者
前島 英恵 北原 雅樹
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.184-187, 2020-06-25 (Released:2020-06-30)
参考文献数
6

認知症は慢性疼痛の症状や治療に大きく影響するため,早期に気づき介入することが必要である.痛みの訴えによってペインクリニック外来を訪れる患者のなかには,痛みが実は認知症のために表れている症状の一つに過ぎず,本当の問題は認知症であるということがある.今回,睡眠障害を伴う難治性の背部痛として当科を紹介受診し,軽度のparkinsonismや幻覚,強い抑うつの存在からレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の診断に至った1症例を経験した.診断後はDLBに対する薬物治療,認知機能に影響を及ぼす可能性のある鎮痛薬の整理のほか,今後予想される生活機能の低下への福祉的対応が必要であった.DLBは多彩な症状(認知機能低下以外に睡眠行動異常やparkinsonism,幻覚など)があるものの,アルツハイマー型認知症(Alzheimer's disease:AD)のように早期から記憶障害が前面に出現せず,疑わなければ気づきにくい.認知症の存在に気づくためには,認知症に関する知識の習得や高齢者に対する積極的な認知機能検査が必要である.
著者
増田 豊
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.42-47, 1994-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
11

The effect of stellate ganglion block (SGB) on peripheral facial palsy were studied by comparing the results of electroneuronography (ENoG), palsy score (40-point scoring method) and the period from onset to initial block and recovery. The subjects were 114 patients with Bell's palsy and Hunt syndrome who were treated in our department within 14 days after onset.Of the 114 patients, 102 patients had a response to ENoG of 5% or greater and 97% among these caces revealed complete recovery. On the other hand, 12 patients had a response of 4% or less of normal and 67% of those showed unsatisfactory recovery of function. In addition, 8 patients had mild to moderate sequela.In conclusion, excellent therapeutic cure rate of facial palsy was obtained by SGB. More earlier treatment of SGB shortened the period of recovery and diminished the drop of ENoG value. From electrophysiological examination, it was suggested that SGB prevented the progress of the nerve degeneration and accelerated the recovery of injured nerve.
著者
横田 敏勝 檀 健二郎 小山 なつ
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.112-118, 1998-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
39

After chicken pox, varicella-zoster virus (VZV) establishes latent infection in satellite cells in sensory ganglia and eventually reactivates as acute herpes zoster (AHZ) or shingles. The reactivation leads to infection of other cells within the ganglion and results in inflammation of the posterior spinal cord, peripheral nerve and skin. Pain in AHZ is primarily due to inflammation of the infected structures. Epidural block soothes inflammation in the epineurium and controls the ongoing afferent barrage in the affected nerve fibers, preventing sensitization of second order neurons.Postherpetic neuralgia (PHN) is the commonest and perhaps most-dreaded complication of AHZ. Pain of PHN is often of three types; ongoing pain, superimposed paroxysmal pain and allodynia. An ongoing pain is described as burning, aching or tearing, and a superimposed paroxysmal pain as stabbing or electric shock-like. For many patients, sensations evoked by clothes contact or skin stretching with movement constitute the most unbearable part of PHN. There are sensory deficits affecting all modalities in the involved dermatomes, indicative of partial deafferentation. Intravenous lidocaine produces significant relief for PHN, and pain relief with topically applied lidocaine has also been reported. It is likely that ectopic impulses are generated from surviving axons and induce hypersensitivity of second-order neurons.The ectopic impulses are abolished by concentrations of lidocaine much lower than that required for blocking normal axonal conduction. Unfortunately lidocaine is not always effective. Thus deafferentation hyperactivity of second order neurons is another possible explanation.Allodynia is most often elicited by innocuous moving stimuli, and the mechanical allodynia appears to be mediated by large fibers. This implies abnormal synaptic connectivity at the spinal-cord level between large afferent fibers and the central pain signaling secondary neurons. It has been hypothesized that deafferentation of nociceptive fibers leads to vacancies at the level of second-order neurons, enabling these neurons to create new working synaptic connections with surviving large fibers. This reorganization may involve WDR neurons. Then the wind up response of WDR neurons which normally occurs in response to repetitive C fiber stimulation through activation of NMDA receptors, may be brought about by large fiber inputs. This may account for the wind up of tactile allodynia in PHN.
著者
十時 忠秀 森本 正敏 谷口 良雄 平川 奈緒美 谷口 妙子 峯田 洋子 加藤 民哉 原野 清
出版者
Japan Society of Pain Clinicians
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.3-11, 1994-04-25 (Released:2009-12-21)
参考文献数
12

(1) 遺体で星状神経節の位置を肉眼解剖学的に検討したところ, 大部分の例で, 第1胸椎の高さで肋骨頸部に位置していた.(2) 星状神経節節前線維の起始細胞は第1胸髄から第10胸髄まで認められた.(3) 星状神経節の節後線維が分布する皮膚領域は, C3~T12で, 最も多く分布している領域はC6~T5であった.(4) 心臓における交感神経支配は, 両側性で, 中頸神経節の関与が最も多く, 星状神経節の遠心性線維は, 主に洞房結節, 心房に終止していた.洞房結節に至る遠心性線維は, 右の中頸神経節および星状神経節からの方が多く, 右の星状神経節ブロックの方が, 左のブロックよりも心拍数, 心リズムに与える影響が多いと思われた.(5) 内頸および外頸動脈には, 星状神経節の節後線維は分布しておらず, 主に, 上頸神経節の節後線維が分布していた.(6) 上腕骨の骨髄には, 星状神経節の節後線維が多数分布していることがわかった.(7) 星状神経節には感覚神経が投射していることがわかった.(8) 上頸神経節, 中頸神経節, 星状神経節には, 相互投射があることがわかった.(9) C6-SGBは, 上頸, 中頸神経節ブロックが適応となる顔面, 頭部の疾患に, C7-SGBは, 上肢の交感神経遮断が必要な疾患に行った方がよいと考えた.
著者
阿瀬井 宏佑 佐藤 仁昭 本山 泰士 上嶋 江利 高雄 由美子 溝渕 知司
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.27-31, 2020-02-25 (Released:2020-03-04)
参考文献数
12

オピオイド鎮痛薬は非がん性痛患者の痛みを和らげるが,オピオイド誘発性便秘(opioid induced constipation:OIC)が生じる.OICに対しては緩下剤で治療を行うが,治療に難渋することがある.非がん性痛患者では,がん性痛患者に比べ,オピオイドやOICに対する治療薬の投与期間が長くなることが考えられるため,副作用や経済的負担を考慮する必要がある.今回,これまでの緩下剤治療では排便コントロールが困難な非がん性痛患者で,ナルデメジンを新しく使用開始したことによる効果,副作用および費用について後ろ向き観察研究を行った.症例数は36症例(男性17症例,女性19症例)であった.便秘が改善したのは33症例(92%),改善なしが3症例(8%)であり,26症例(72%)は併用していた他の緩下剤を減量あるいは中止できた.17%で一過性下痢,8%で軟便がみられたが重篤な副作用は認めなかった.患者が負担する緩下剤内服にかかる費用については,ナルデメジン開始前は1カ月あたり平均1,148円であったが,開始後は同6,102円と5.3倍に増加した.
著者
前田 薫 生駒 美穂
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.251-258, 2018-10-25 (Released:2018-11-07)
参考文献数
19

【目的】がん患者の痛みを緩和するために,オピオイドを漸増し,結果的に非常に高用量となる症例をしばしば経験する.今回,がん患者のオピオイド投与量に影響する因子について検討した.【方法】2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した患者のうち,20歳以上で固形がんと診断され,オピオイドの処方を開始から死亡まで当院で行った症例について,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.オピオイド徐放製剤の量に応じてA群(経口モルヒネ換算で120 mg/日未満),B群(同120 mg/日以上300 mg/日未満),C群(300 mg/日以上)の3群に分け,オピオイド量に影響する因子について検討した.【結果】対象は109名.A群は51名,B群は33名,C群は25名であった.C群では他群に比べ年齢が低く,オピオイドの投与期間が長く,増量幅が大きく,神経浸潤が多かった.【結論】がん患者において,若年,長いオピオイドの投与期間,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経障害性痛の要素が,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.