著者
松川 慎也
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.109, no.2, pp.101-118, 2001 (Released:2008-02-26)
参考文献数
34

Finite Element Scaling Analysis (FESA) and Euclidean Distance Matrix Analysis (EDMA) are two methods widely used in three dimensional morphometry of landmark coordinate data. The purpose of this study is to examine sexual dimorphism of adult human hip bones by applying these two techniques. Landmark data of adult hip bones of modern Japanese osteological specimens (19 male, 16 female) were Analyzed. In this paper, the author dicussed the analytical characteristics of each of the two techniques, and examine how sexual dimorphism was expressed when one considered the morphological differences of hip bones as represented by a large set of 33 landmarks.The result of these analyses demonstrated that sexual dimorphism is expressed not only in those features traditionally pointed out, such as the relative location of the auricular surface, the width of the superior pubic ramus, the width of the pubic body, the depth of the acetabulum, but also in the curvature of the arcuate line near the auricular surface, which was more remarkable in the male hip bones. Moreover, results showed that regions which were significantly larger in females were highly limited (approximately 5% of landmark or distances), while regions which were significantly larger in males were over 45% of distances in EDMA and over 70% of landmarks in FESA. This indicates that sexual dimorphism in modern human hip bones, aside from difference of general size associated with body size, tends to be highly concentrated near the birth canal.
著者
田原 郁美 海部 陽介
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
pp.150908, (Released:2015-11-11)
被引用文献数
1 3

縄文時代人の四肢骨長さの遠位/近位比は,弥生時代以降の日本人集団に比べて大きく,世界の現代人集団と比較しても大きい部類であることが知られている。一方で,現代人におけるこの比はアレンの法則と関連づけられ,居住地の気温の指標になるとの考えがある。そうであれば,縄文時代人の四肢内プロポーションは熱代謝の上で熱帯的ということになり,温帯~亜寒帯に属する日本列島に1万年以上に渡って居住してきたこととの矛盾を説明しなければならない。本来,アレンの法則は四肢の遠位/近位比ではなく胴体サイズに対する突出部の大きさを問うもので,ヒトにおいてもこの指標の方が気候との対応がより明確である。そこで本研究では,日本の縄文・渡来系弥生・江戸時代集団を対象に,胴体サイズに対する相対的な上肢・下肢長を比較した。結果として縄文と弥生の間に有意差は認められず,それらの値は海外の温帯~亜寒帯地域集団と対比できることがわかった。従って縄文時代人の体形は,熱代謝の観点において,熱帯的であるとは言えない。この知見は縄文時代人が北東アジアに起源したという近年の仮説を排他的に支持するものではないが,これとも調和的である。ただし低身長の江戸時代人では四肢長:胴体サイズ比がさらに低下していたことから,この値には,身長のような気温以外の環境要因も影響する可能性を考慮しなければならない。一方で,四肢骨長と骨盤幅を変数とした身体の全体的プロポーションの多変量解析の結果は,縄文と渡来系弥生の間に,特に男性において明確な違いが認められた。これは両者の系譜的相違を反映していると考えられる。
著者
竹中 正巳 蔡 佩穎 蔡 錫圭 盧 國賢
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.145-155, 2014 (Released:2014-12-19)
参考文献数
33

台湾花蓮県萬榮郷馬遠村から出土したブヌン族の頭蓋(男性26例,女性16例)について,顔面平坦度を含む頭蓋計測を行った。周辺諸族近現代人頭蓋との比較から,ブヌン族頭蓋の特徴として,頭蓋長幅示数が中頭およびバジオン・ブレグマ高が低いことが上げられる。顔面頭蓋は比較的高く,前頭部が立体的である。頭蓋計測値9項目(脳頭蓋最大長,脳頭蓋最大幅,バジオン・ブレグマ高,頬骨弓幅,上顔高,眼窩幅,眼窩高,鼻幅,鼻高)から,ペンローズの形態距離を求めたところ,ブヌン族には同じ台湾原住民のパイワン族が最も類似性が強く,タイヤル族が続く。ヤミ族は類似性が弱い。
著者
百々 幸雄 川久保 善智 澤田 純明 石田 肇
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.135-149, 2012-12-01
参考文献数
60
被引用文献数
1 2

北海道の南西部,中央部,および北東部のアイヌにサハリンアイヌを加えたアイヌ4地域集団を対象にして,日本本土と琉球諸島諸集団の地域差と比較しながら,アイヌの地域差とはいったいどの程度のものであったのかを,頭蓋形態小変異20項目を指標にして評価してみた。地域差の大小関係は,スミスの距離(MMD)を尺度として比較した。北海道アイヌ3集団の地域差の程度は,奄美・沖縄・先島の琉球諸島近世人3集団の地域差よりはやや大きく,東北・関東・九州の日本本土の現代人3集団の地域差とほぼ同程度であった。北海道アイヌのなかでは,道北東部アイヌが道南西部および道中央部のアイヌとやや距離を置く傾向が観察された。サハリンアイヌは北海道アイヌから相当程度遠く離れ,その距離(MMD)の平均値は,北海道アイヌ3地域集団相互の距離の平均値の約4倍にも達した。このような関係は,18項目の頭蓋計測値にもとづいたマハラノビスの距離(D<sup>2</sup>)でも確かめられた。<br>
著者
百々 幸雄 川久保 善智 澤田 純明 石田 肇
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.120, no.2, pp.135-149, 2012 (Released:2012-12-21)
参考文献数
60
被引用文献数
3 2

北海道の南西部,中央部,および北東部のアイヌにサハリンアイヌを加えたアイヌ4地域集団を対象にして,日本本土と琉球諸島諸集団の地域差と比較しながら,アイヌの地域差とはいったいどの程度のものであったのかを,頭蓋形態小変異20項目を指標にして評価してみた。地域差の大小関係は,スミスの距離(MMD)を尺度として比較した。北海道アイヌ3集団の地域差の程度は,奄美・沖縄・先島の琉球諸島近世人3集団の地域差よりはやや大きく,東北・関東・九州の日本本土の現代人3集団の地域差とほぼ同程度であった。北海道アイヌのなかでは,道北東部アイヌが道南西部および道中央部のアイヌとやや距離を置く傾向が観察された。サハリンアイヌは北海道アイヌから相当程度遠く離れ,その距離(MMD)の平均値は,北海道アイヌ3地域集団相互の距離の平均値の約4倍にも達した。このような関係は,18項目の頭蓋計測値にもとづいたマハラノビスの距離(D2)でも確かめられた。
著者
河野 礼子 土肥 直美
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.125, no.2, pp.101-125, 2017

<p>ここに寄せる文章は,沖縄の新聞・琉球新報に,2016年2月17日から2017年5月31日にかけて計30回にわたり連載された『旧石器人研究最前線』の記事である。人類誌本号と次号の2回に分けて掲載していただくこととなった。石垣島・白保竿根田原洞穴遺跡の発掘調査と出土人骨の整理作業が進むかたわら,旧石器時代の遺跡から見つかる人骨資料の重要性を,とりわけ地元沖縄の人たちにもっとよく知ってもらいたい,との思いから,連載を開始した。沖縄には港川や山下町など人骨出土遺跡があり,またサキタリ洞遺跡からも近年目覚ましい成果があがっているなど,旧石器人の研究において重要であることは言うまでもない。特にこの数年は,白保やサキタリ洞での成果が報道され,三万年前の航海再現プロジェクトがスタートして注目されるなど,沖縄の旧石器人研究がひときわ盛り上がりを見せていると言っても過言ではなかろう。そうした中で地元への啓発・還元の意味で開始した連載であるが,回が進むうちに,この贅沢なラインナップの記事を地方紙への掲載にとどめておくには惜しい気がしてきた。そこで沖縄外の人類学会員や,広くは関心のある全国の読者にも読んでもらえる媒体での再発信を模索していたところに,今回の寄書の計画が持ち上がったというわけである。各記事の筆者の承諾を得た上で,連載を企画した土肥と河野でとりまとめて「寄書」として投稿したものであり,それぞれの記事の内容は各筆者によるものである。また,もともとが新聞の連載記事である性質上,その時点で進行中の時事ネタが多分に盛り込まれているが,どのように事態が動いていたかを記録する意味で,あえて改稿せずほぼ新聞掲載時のまま全文転載させていただくこととした(各記事の筆者の所属も掲載時点のものである)。この点ご理解の上,その時その時の「今」を感じて楽しんでいただければ幸いである。</p><p>これまで沖縄の旧石器時代研究に関わって来られた先達と,現在進行中のさまざまな研究プロジェクトに加わっておられるすべての関係者に,この機会に改めて敬意を表したい。また多忙ななかで原稿を執筆してくださり,また今回の転載を快諾してくださった筆者の皆様と,連載の趣旨に賛同し牽引してくださった琉球新報社の米倉外昭氏に心より感謝する。本寄書のこれ以降の内容はすべて,琉球新報社の提供によるものである。</p>
著者
河野 礼子 土肥 直美
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.63-78, 2018

<p>ここに寄せる文章は,沖縄の新聞・琉球新報に,2016年2月17日から2017年5月31日にかけて計30回にわたり連載された『旧石器人研究最前線』の記事の後半部分である。沖縄には港川や山下町など人骨出土遺跡があり,さらにこの数年は白保竿根田原洞穴遺跡やサキタリ洞遺跡での成果が報道され,三万年前の航海再現プロジェクトがスタートして注目されるなど,沖縄の旧石器人研究がひときわ盛り上がりを見せていると言っても過言ではなかろう。そうした中で地元への啓発・還元の意味で開始した連載記事を,沖縄外の人類学会員や,広くは関心のある全国の読者にも読んでもらいたく,再発信するものである。もともとが新聞の連載記事である性質上,その時点で進行中の時事ネタが多分に盛り込まれているが,その時その時の「今」を記録する意味で,あえて改稿せずほぼ新聞掲載時のまま全文転載させていただくこととした(各記事の筆者の所属も掲載時点のものである)。</p><p>今回の転載を快諾してくださった筆者の皆様と,連載の趣旨に賛同し牽引してくださった琉球新報社の米倉外昭氏に心より感謝する。本寄書のこれ以降の内容はすべて,琉球新報社の提供によるものである。</p><p>(なお,連載17~19回の記事については,筆者の希望により掲載しない。)</p>
著者
川久保 善智 澤田 純明 百々 幸雄
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.65-87, 2009-12-01
参考文献数
70
被引用文献数
3 3

南東北(宮城・福島・山形)由来の古墳時代人・古代人と北東北(青森・岩手・秋田)由来の江戸時代人の頭蓋について,計測的分析と形態小変異の分析を行い,これら東北地方の古人骨に,縄文人やアイヌの形態的特徴が,どの程度遺残しているかを調べた。比較資料として,東日本縄文人,北海道アイヌ,関東の古墳時代人と江戸時代人,それに北部九州の古墳時代人と江戸時代人の頭蓋を用いた。計測的分析では,顔面平坦度計測を含めた18項目の頭蓋計測値を用い,マハラノビスの距離(D<sup>2</sup>)にもとづいた分析と線形判別分析を試みた。頭蓋形態小変異については,観察者間誤差が少なく,日本列島集団の類別に有効であることが知られている6項目に絞って,スミスの距離(MMD)にもとづく分析を行った。D<sup>2</sup>でもMMDでも,縄文人に最も近いのは北海道アイヌであったが,東北地方の古墳時代人(計測的分析では古代人も含む)がこれに次いでおり,古墳時代でも江戸時代でも,九州→関東→東北→北海道アイヌまたは東日本縄文人という,明瞭な地理的勾配が観察された。同様の地理的勾配は,判別分析においても確かめられた。このような地理的勾配から判断すると,今回研究の対象にすることができなかった北東北の古墳時代人は,南東北の古墳時代人よりも,さらに縄文・アイヌ群に近接するであろうと推測された。もし彼らが古代の文献に出てくる蝦夷(エミシ)に相当する人々であったとしても,東北地方の古代日本人(和人)と縄文・アイヌ集団の身体的特徴の違いは連続的であったと思われるので,古代蝦夷がアイヌであるか日本人であるかという"蝦夷の人種論争"は,あまり意味がある議論とは思われなかった。<br>
著者
水嶋 崇一郎 諏訪 元 平田 和明
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.118, no.2, pp.97-113, 2010 (Released:2010-12-21)
参考文献数
60

成人期縄文人の四肢骨骨幹部は現代日本人より断面が太く扁平であることが知られている。本研究では,胎生8ヶ月から生後3ヶ月にわたる縄文人と現代日本人の主要四肢骨を用いて,骨幹中央部の各種の断面特性値を群間比較することにより,従来指摘されてきた頑丈性と扁平性の成因について改めて考察した。資料は縄文人49個体,現代日本人185個体の上腕骨,橈骨,尺骨,大腿骨,脛骨,腓骨を用いた。内部断面計測では高精細のマイクロCT装置を導入した。解析においては各四肢骨の骨幹長を相対的な年齢指標とみなし,骨幹長を共変量とする共分散分析を実施した。その結果,全身の四肢骨にわたり,縄文人の骨幹は一貫して現代日本人より外径が太く,断面上の骨量が多く,力学的に頑丈な傾向にあり,さらには二集団の断面拡大パターンの間に有意な違いはないことがわかった。二集団の外部形状と骨分布形状は胎児・乳児期を通じてほとんど変化しておらず,大半の四肢骨の断面示数において有意な集団差は認められなかった。ただし,縄文人の大腿骨の外部形状は一貫して現代日本人より前後方向に扁平であることがわかった。本研究では,成人期縄文人で指摘されてきた骨幹部形質のうち,外径の太さ,骨量の多さ,さらに大腿骨骨体上部の相対的に前後径が短い(内外側方向に長い)扁平さに関しては,既に胎生期にそれらの傾向が存在し,発生初期におけるパターン形成の影響が示唆された。
著者
田中 和彦
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.111, no.1, pp.69-85, 2003 (Released:2003-11-19)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2
著者
斎藤 成也
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.1-9, 2009-06-01
参考文献数
31

20世紀末にはじまったゲノム研究は,ヒトゲノム解読をひとつの到達点とした。しかしそれは終わりではなく,始まりだった。ヒトゲノム配列をもとにして膨大なSNPやマイクロサテライト多型の研究が急激に進み,小数の古典多型マーカーを用いた従来の研究成果を追認しつつ,日本列島人の遺伝的多様性についても新しい光が当てられつつある。また個々人のゲノム配列を決定する研究も進展している。これらヒトゲノム研究の新しい地平を紹介した。<br>
著者
山崎 真治 藤田 祐樹 片桐 千亜紀 黒住 耐二 海部 陽介
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.9-27, 2014 (Released:2014-06-24)
参考文献数
8
被引用文献数
1

2012~2013年に沖縄県南城市サキタリ洞遺跡調査区IのII層(約16400~19300 BP[未較正])を発掘し,人骨2点(臼歯1点と舟状骨1点)とともに39点の断片化した海産貝類を検出した。先に報告したI層出土のものと合わせ,計47点にのぼる海産貝類は,人為的に遺跡近辺に運搬され,埋没したものと考えられる。II層由来のマルスダレガイ科(マツヤマワスレ[Callista chinensis]・ハマグリ類[Meretrix sp. cf. lusoria]),クジャクガイ[Septifer bilocularis],ツノガイ類[“Dentalium” spp.]について組成や形状,割れ方について記載するとともに,微細な線条痕および摩滅・光沢を観察したところ,マルスダレガイ科の破片には定型性が認められ,二次加工と考えられる小剥離痕が高い頻度で見られた。また,特定の部位に使用痕や加工痕と推定できる摩滅・光沢や線条痕が観察できることから,少なくともその一部は利器として使用されたと考えられる。また,クジャクガイの一部にも,使用痕と見られる線条痕や損耗が観察できた。ツノガイ類は,産状から装飾品(ビーズ)として用いられた可能性が高く,その一部には人為的な線条痕が観察できた。以上のことから,II層出土の海産貝類の少なくとも一部は,利器・装飾品を含む道具(貝器)として使用されたものと考えられる。II層出土の人骨と合わせて,こうした貝器の存在は,サキタリ洞での人類の活動痕跡が,少なくとも16400~19300 BP にまで遡ることを示している。
著者
香原 志勢 茂原 信生 西沢 寿晃 藤田 敬 大谷 江里 馬場 悠男
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
pp.1111180003-1111180003, (Released:2011-11-22)
被引用文献数
3 4

長野県南佐久郡北相木村の縄文時代早期の地層(8300から8600 BP(未較正))から,12体の人骨(男性4体,女性4体の成人8体,および性別不明の幼児4体)が,1965年から1968年にかけての信州大学医学部解剖学教室を中心とする発掘で出土した。数少ない縄文時代早期人骨として貴重なもので,今回の研究は,これらの人骨の形態を報告し,従来明らかにされている縄文時代早期人骨の特徴を再検討するものである。顔高が低い,大腿骨の柱状性が著しい,歯の摩耗が顕著である,など一般的な縄文人の特徴を示すとともに,早前期人に一般的な「華奢」な特徴も示す。脳頭蓋は大きいが下顎骨は小さく,下顎体は早期人の中でもっとも薄い。下顎骨の筋突起は低いが前方に強く張り出している。上肢は華奢だが,下肢は縄文時代中後晩期人と同様に頑丈である。他の縄文時代早前期人と比較検討した結果,縄文時代早期人の特徴は,従来まとめられているものの若干の改定を含めて,次のように再確認された。1)顔面頭蓋が低い。2)下顎は小さいが,筋突起が前方に強く張り出す。3)下肢骨に比べて上肢骨が華奢である。4)下顎歯,特に前歯部には顕著な磨耗がある。
著者
香原 志勢 茂原 信生 西沢 寿晃 藤田 敬 大谷 江里 馬場 悠男
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.91-124, 2011 (Released:2011-12-22)
参考文献数
75
被引用文献数
3 4

長野県南佐久郡北相木村の縄文時代早期の地層(8300から8600 BP(未較正))から,12体の人骨(男性4体,女性4体の成人8体,および性別不明の幼児4体)が,1965年から1968年にかけての信州大学医学部解剖学教室を中心とする発掘で出土した。数少ない縄文時代早期人骨として貴重なもので,今回の研究は,これらの人骨の形態を報告し,従来明らかにされている縄文時代早期人骨の特徴を再検討するものである。顔高が低い,大腿骨の柱状性が著しい,歯の摩耗が顕著である,など一般的な縄文人の特徴を示すとともに,早前期人に一般的な「華奢」な特徴も示す。脳頭蓋は大きいが下顎骨は小さく,下顎体は早期人の中でもっとも薄い。下顎骨の筋突起は低いが前方に強く張り出している。上肢は華奢だが,下肢は縄文時代中後晩期人と同様に頑丈である。他の縄文時代早前期人と比較検討した結果,縄文時代早期人の特徴は,従来まとめられているものの若干の改定を含めて,次のように再確認された。1)顔面頭蓋が低い。2)下顎は小さいが,筋突起が前方に強く張り出す。3)下肢骨に比べて上肢骨が華奢である。4)下顎歯,特に前歯部には顕著な磨耗がある。
著者
鳩貝 太郎
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.56-60, 2007
被引用文献数
2 1

わが国では法的な根拠を持った学習指導要領が教科・科目の内容等を定め,それに沿った教科書が発行されている。現行の高等学校学習指導要領では理科は11科目からなり,それらから必要な科目を数科目選択することになっている。そのため,生物Iの履修率は約67%,生物IIは約18%である。現状では生物に関する基本的な内容を学ばないまま高等学校を卒業する生徒が少なくない。高校生の3分の2ほどが選択している生物Iの内容にはヒトの遺伝,変異,進化,生態に関する内容及び生命現象の仕組みを分子レベルで扱うことなども含まれていない。学習指導要領で生物の内容を充実させることと,生物の基礎・基本の定着を図る指導の充実が求められている。<br>
著者
金澤 英作
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.1, pp.54-56, 2008-06-01

人類学の国際組織として最も歴史の古いInternational Union of Anthropological and Ethnological Sciences(IUAES,通称ユニオン)は1948年に組織されたものであるが,5年に1回の本会議とその間に配置される中間会議などの開催準備や調整,またこの組織に登録された専門研究領域(Commission)による国際的研究活動を行っている。日本が1968年に本会議を,また2002年には中間会議を開催したことは記憶に新しい。一方,ラテンアメリカの人類学会を中心としたWorld Council of Anthropological Associations(WCAA)が2004年にブラジルにおいて組織された。この組織は世界の人類学関連学会の連携と協力のため組織で,インターネットを活用して研究情報の交換,研究協力などを行うことを目的としている。今のところ国際会議の開催などは予定されていないとのことである。本稿ではこれらの国際組織の動きと現在生じている問題点などについて情報を提供したい。<br>
著者
佐伯 史子
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.114, no.1, pp.17-33, 2006-06-01
被引用文献数
3 3

縄文人の身長および身長と下肢長のプロポーションを明らかにすることを目的として,男女各10体の交連骨格を復元し,解剖学的方法(anatomical method)を用いて身長と比下肢長を求めた。現代のアジア集団,オーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団の生体計測値と比較した結果,縄文人の身長は男女とも現代のオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団よりも低く,東アジア集団に近い値を示した。縄文人の比下肢長もオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団に比べて小さかったが,東アジア集団の中ではやや大きく,特にアイヌと近い値を示した。縄文人の比下肢長が東アジア集団の中では比較的高い値であったことに鑑みると,縄文人と典型的なモンゴロイドとは異なるプロポーションを有する集団との関係を想定する必要も考えられた。<br>
著者
山田 博之 近藤 信太郎 花村 肇
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological science. Japanese series : journal of the Anthropological Society of Nippon : 人類學雜誌 (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.112, no.2, pp.75-84, 2004-12-01
被引用文献数
4 3

人の第3大臼歯は最も発生が遅く,形態変異も大きく,欠如率も高い。環境要因の影響を最も受けやすく,小進化を反映しやすい歯である。そこで,日本人集団の歯牙形態の小進化を考察する目的で,第3大臼歯の先天的欠如率を時代順に調べた。その結果,縄文時代人は欠如頻度が低く,ほとんどの第3大臼歯は発生していたが,弥生時代人になると急激に欠如頻度が高くなっていた。この急激な変化は,外来集団からの遺伝的影響によって生じたと考えられる。弥生時代人以降,欠如頻度はさらに高くなり,昭和初期にはピークに達した。その後,先天的欠如頻度は急激に減少し,第3大臼歯が存在する人は多くなっていた。昭和時代以降の変化は高栄養物の摂取と,それに伴う高身長化や性成熟の加速化によるものと思われる。<br>