著者
志賀 令明
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.315-320, 2012-03-31 (Released:2017-01-26)

若年女性の性交疼痛障害の一例が報告された.症例はA市で,双子の妹として生まれたが,その母親によって幼い頃から「性交」を嫌い恐れるようにしつけられた.症例は,A県の郡部出身の男性と結婚したが,彼は「イエ」を継ぐのが当たり前として育ってきており,郡部で,実家の母親と妻と一緒に暮らしたいと考えていた.結婚初夜から症例の性交疼痛障害は始まり,約2年間持続した.カップルカウンセリングが行われ,夫,妻双方ともその実家からの精神的な自立ができていないことが明らかになった.特に症例は,夫により,彼の「イエ」に連れ去られるのを恐れていた.症例の性交疼痛障害は,我が国での伝統的なイエ制度とそれを維持しようとする夫に対する異議申し立てであると解釈された.
著者
高木 絢加 山口 光枝 脇坂 しおり 坂根 直樹 森谷 敏夫 永井 成美
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.193-205, 2012
被引用文献数
1

邦人若年女性の約半数が日常的に四肢などに冷え感を有していることが報告されている.我々はこれまでに,若年女性の冷え感と低いエネルギー摂取量や体温・熱産生に関与する交感神経活動が関連していることを見出している.この結果に基づき本研究では,「若年女性の冷え感は,体熱産生が低いために,深部体温は保持されるものの末梢体温が低下し,その自覚症状として表れている」との仮説を立て,以下の実験による検証を試みた.被験者は,「四季を通じて日常的に四肢などに強い冷え感を自覚している女性(冷え群)」と「四季を通じて日常的に四肢などに冷え感をほとんど自覚したことのない女性(非冷え群)」各10名(18-21歳)とした.前夜から絶食した被験者に半袖半ズボンの検査衣を着用してもらい,異なる2日の午前8時30分に,体組成と安静時エネルギー消費量測定,もしくは体温と温度感覚(冷え感),交感神経活動(心拍変動解析)測定を26℃の実験室で行った.深部体温の指標として鼓膜温,末梢体温の指標として手先と足先の皮膚温度を,高感度サーモセンサーで60分間連続測定した.冷え感はビジュアルアナログスケールを用いて15分間隔で測定した.冷え群では非冷え群と比較して,体温・熱産生に関与する交感神経活動が有意に低く,除脂肪体重あたり安静時エネルギー消費量も低値傾向を示した.鼓膜温は全測定ポイントで2群で差がなかったが,冷え群では60分後の体温較差(鼓膜-手先,鼓膜-足先)が開始時と比べて有意に増加した.足先の冷え感スコアと鼓膜-足先の体温較差には,有意な正の相関を認めた.以上の結果から,日常的こ強い冷え感を有する若年女性は,(1)低い安静時エネルギー消費量,(2)深部体温には差がないが26℃・60分の曝露で深部-末梢体温較差が増加,(3)体温較差が大きいほど冷え感を強く感じるといった特徴を有することが示唆され,本研究の仮説が支持されたと考えられる.
著者
甲斐村 美智子 上田 公代
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.412-421, 2014-03-30 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
1

本研究の目的は,若年女性における月経随伴症状と関連要因がQOLに及ぼす影響について,因果モデルを用いて構造的に明らかにすることである.2012年4月〜12月,熊本市と隣接市の看護系及び非看護系の4年制大学5校に在籍する1,215名の女子学生を対象に,無記名式自記式質問紙調査を実施した.その結果,月経随伴症状を軽減させる要因は肯定的月経観と健康的生活習慣であり,増強させる要因は効果的ではない症状対処行動であった.月経随伴症状はQOLを低下させる要因であり,向上させる要因は健康的生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動であった.生活習慣,自己効力感,ストレス対処行動はQOLへ直接関連しているだけでなく,月経随伴症状を介した間接的な関連も示されたことから,月経随伴症状を軽減しQOLを向上させるためには,生活習慣を整えるとともに自己効力感,ストレス対処行動に焦点を当てた支援が有効であることが示唆された.特に生活習慣は月経随伴症状,QOLの両者に直接関連していることから,重要だと考える.
著者
野田 洋子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.53-63, 2003-03-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
2

本研究は18歳,19歳を中心とした女子学生の月経の経験と関連要因を明らかにすることを目的として,1年間の間隔で縦断的調査研究を行った.対象はA女子短大生で,月経調査への協力に同意し,2回の調査にともに有効であった18〜22歳の1,045名である.調査は自己記入式記名式で,質問紙は月経の経験(月経状況,初経観・月経観,月経周辺期の変化,月経痛とセルフケア)と関連要因(自尊感情,楽観性・悲観性,ジェンダー満足度,ストレスとストレス発散,自覚的健康観,ライフスタイル)に関する調査項目で構成される.第1報では月経の経験の実態および経時的推移について報告する.90%の者が月経痛を自覚しており,ほぼ全員(98.4%)が月経周期に伴い何らかのネガティブ変化を自覚しているが,ポジティブ変化を自覚している者はほとんどいない.月経周辺期のネガティブ変化をその時期と程度により4群に分類した結果,月経前のみ(PMS傾向群)あるいは月経期のみ(月経困難I群)は少なく,月経前から月経期にかけて引き続き強い変化を自覚する群(月経困難II群)が多かった(34.5%).また2回の調査を経時的に再分類した結果,月経周辺期のネガティブ変化が継続して強度であるハイリスク群(困難不変群)が26.9%を占め,若年女性における月経教育・月経相談の必要性が再確認された.
著者
松浦 倫子 安達 直美 小林 俊二郎 中埜 拓 白川 修一郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.114-120, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
34

【目的】睡眠に関する訴えは50代以降の女性で高率に見られる.本研究では,睡眠の質の低下を訴える中高年女性の主観的な睡眠改善を目的に,αs1-カゼイン加水分解物(カゼインペプチド)+L-テアニン含有食品の有効性をプラセボと比較し検証した.【対象と方法】56~69歳の女性11名を解析対象者とした.参加者は,カゼインペプチド+L-テアニン含有食品あるいはプラセボ食品をそれぞれ10日間ずつ就床1時間前に摂取した.各条件の間で4日間のウォッシュドアウト期間を設けた.食品摂取の順序は,参加者間で順序効果が相殺されるようランダムに配置し,食品条件についてはダブルブラインドとした.各条件の後半3日間は,就床・起床時の気分と眠気(Visual Analog Scale),起床時の睡眠内省(OSA睡眠感調査票MA版,入眠感調査),最終日にはピッツバーグ睡眠質問票を聴取した.事前調査時と各条件の最終日には,参加者に簡略更年期指数質問票の記入をさせた.【結果】カゼインペプチド+L-テアニン含有食品の摂取は,プラセボに比べて就床前に眠気が高まっており,PSQIにより評価した睡眠の質が高かった.また,カゼインペプチド+L-テアニン含有食品を摂取した条件でのみ簡略更年期指数による自律神経症状の得点が,事前調査時に比べて有意に低下し改善した.【考察】カゼインペプチドとL-テアニンを併せて摂取することにより,就床前の眠気を高め,睡眠の総合的な質を改善する可能性が示唆された.
著者
松岡 治子 花沢 成一
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.22-28, 1999

本研究の目的は,褥婦とその夫の母性度・父性度の測定を行い,マタニティ・ブルーズとの関連をみることを通して,日本における産褥期のマタニティ・ブルーズの意味を再考することである.褥婦とその夫28組(56名)を対象として「マタニティ・ブルーズ質問紙」と「母性度・父性度尺度」による調査を行った.その結果,父性度の高い褥婦のマタニティ・ブルーズ得点は,父性度の低い褥婦の得点よりも「神経過敏」の項目が有意に低かった.また,夫の年齢が高い新婦のマタニティ・ブルーズ得点は,夫の年齢が低い新婦の得点よりも有意に低かった.以上のことから,褥婦は夫の年齢などに影響を受けるが,新婦自身が「やさしさ」や「あたたかさ」といった母性的な側面だけでなく,ある程度の「きびしさ」や「たくましさ」などの父性的な側面を合わせ持つことにより,産褥期をより安定した状態で過ごすことができるのではないかと考えられた.
著者
平出 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.144-148, 2019 (Released:2020-01-15)
参考文献数
11
著者
太田 大介
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.215-220, 2020 (Released:2020-04-09)
参考文献数
8

総合病院総合病院心療内科を訪れる原因不明の身体症状を有する患者は,これまでに受診した医療機関での説明に納得がいかなかったり,本人の望むレベルでの症状改善が得られなかったり,またそのためにドクターショッピングを重ねてきた方々であり,そのような患者のニーズに応えるには,初診時にある程度の時間をかけて,患者の解釈モデルとこちらへの期待を聴取し,必要に応じて検査を行い,身体科医としての経験に基づきこちらの患者理解を伝え,その上で,患者の期待に対する現実的な治療目標を設定する必要がある.忙しい外来では再診時に十分に時間をかけることが難しいが,診察時間が短いことは必ずしも悪いことではない.短い診察時間のもとで患者も治療者も重要課題を意識するため,治療目的を志向しやすくなり患者が治療者に過度に依存的になるなどの退行を防止することができる.そのような短い診察時間の中では,治療者が話しすぎないよう留意することで患者が自分の話を聞いてもらえたという満足度もあがる.患者が主役であることを意識させることで治療者への依存が適度に抑制される.そのような短い診察の繰り返しのなかでは,治療の継続性が治療的に重要な役割を果たしており,安定した治療構造自体が患者の精神状態や身体症状を安定させる働きを持っている.原因不明の身体愁訴の背景にある抑うつ,不安,認知機能低下,患者自身の身体的な衰えなどの諸要因を意識しながら,患者自身の健康な部分を伸ばしていくことも重要である.「この症状さえなければ」と症状に固執しがちな患者に対して,症状の原因検索はほどほどに,症状のためにうまくいかなくなっている日々の生活全般を整えていくことに目を向けるように促していく.日々の生活全般を可能な範囲で整えていくことで,やがては身体症状も改善するという見通しを伝えることが重要である.