著者
大関 信子 大井 けい子 佐藤 愛 葛西 紗幸 池田 礼美
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.213-219, 2012

本研究は,産後1年未満の母親を対象に次子を産みたいがが産まない理由を明らかにすることを目的とした.本研究は,調査結果を基に周産期ケアや母子保健サービスの向上を図り,母親の次子出産意欲向上へつなげるものである.A県在住の1,8OO名の母親へ質問紙調査を実施した.有効回答499名のうち,次子を「望まない」と答えた母親はI4.6%であった.最も重要な因子が経済的側面であった.また,「今回望まない妊娠・出産」と次子を「望まない」とに関連が見られた.女性の心理社会的観点から,以下のケアが次子出産意欲へつながる可能性か示唆された.1.望まない妊娠をした母親に対しては.児の受容と子を持つことの喜びを感じることができるようなケア.2.妊娠・出産がつらく卜ラウマになっている母親に対しては,異常の早期発見と予防,満足感が得られる出産体験となるケア.3.子育てに自信が持てない母親には,子育て支援及び子育ての喜びを発見できるケア.4.経済状況により次子を「望まない」理由が異なることから,母親の状況に応じたケアを優先させることが重要である.
著者
岩崎 和代 齋藤 益子 木村 好秀
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.225-233, 2013-11-30 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
2

20歳女子大生,小学生保護者,勤労女性の3群62名を対象に子宮頸がん検診行動の影響要因をフォーカス・インタビューで明らかにした.過去2年以内の子宮頸がん検診率は,保護者群90.5%,勤労女性群66.7%,女子大生群0%で,住民検診の利用が多く,きっかけは年齢的な動機や自治体からの案内であった.検診行動への影響要因として8カテゴリーが集約され,「必要性に対する情報不足・知識不足」「検診方法のためらい」「受診行動の相互影響」「受診アクセスの不便」「受診環境への不満」「きっかけ不足」「皆で受ける安心感」「教育不足」であった.このうち,検診行動を高める要因は「皆が受ける安心感」に集約され,連帯意識や待ち時間が少ない巡回検診車の利用,集団検診が支持された.保護者群や勤労女性群でも検診目的の理解は不十分で,検診環境への不満や検診時に痛みや出血を経験し,医師への技術不信を抱いていた.大学生群は子宮頸がん予防行動への教育機会の不足が伺われた.物理的な検診促進の要件として夜間・土日の検診を求めていた.
著者
宮岡 佳子 秋元 世志枝 上田 嘉代子 加茂 登志子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.194-201, 2009-10-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
4

近年,月経前不快気分障害(PMDD)が,精神科医,婦人科医双方で注目されている.PMDDは,PMSのある種の重症型であり,うつ病に類似した症状を持っている.著者らは,DSM-IVの診断基準を基に,Steinerら(2003)の尺度を参考にしてPMDD評価尺度を開発し,その妥当性と信頼性を検討した.20から45歳までの327名の女性に尺度を実施した.因子分析では,3因子が抽出され,「疲れ・身体症状」「抑うつ気分」「対人関係・怒り」と名付けた.PMDD評価尺度の各因子と項目全体のCronbach'sα係数から,高い内的整合性が得られた.黄体期後期つまり月経前にある女性を抽出し,その群で,PMDD評価尺度と自己記入式抑うつ尺度の相関に有意な相関がみられた.よって,この尺度は妥当性と信頼性があることが示された.PMDDの発症頻度は5.9%であった.以上の結果から,PMDD評価尺度は,PMDDをスクリーニングするために有効な尺度であることが示唆された.
著者
甲斐村 美智子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.277-284, 2010-02-28 (Released:2017-01-26)

本研究では,わが国の文化を考慮し新たに作成された自己肯定感尺度を用い,女子学生の初経教育時からの月経の経験と自己肯定感の関連について検討した.その結果,初経時に家族が祝福する態度を示す,肯定的月経観・積極的対処行動の促進,随伴症状の軽減により,自己肯定感が向上することが示唆された.これらのことから,初経は一つ上の発達段階に到達した重要な節目という意識をもち,祝福することの重要性が再確認された.さらに,月経問題を主体的に捉え積極的に対処するスキルが獲得できるよう,初経教育のみならず発達段階や月経の成熟に応じた月経教育を家庭・学校・地域が連携して行っていく必要性がある.
著者
大関 信子 大井 けい子 佐藤 愛
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.189-196, 2014-11-30 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
1

【目的】本研究は,乳幼児を持つ母親と父親のメンタルヘルス状態と夫婦愛着,及び自尊感情との関連を明らかにすることを目的とした.本研究の意義は,母親のメンタルヘルス向上の支援策の検討に役立てることである.【方法】簡易サンプル法を用いた無記名自己記入式調査用紙を用いた横断的研究で,A県内在住で6歳未満の子供を持つ父母552組に調査票を配布し郵送にて回収した.調査内容は,社会的背景の他にメンタルヘルスの測定には「精神健康度調査票」(General Health Questionnaires:以下GHQ12),夫婦愛着を測るために「夫婦関係尺度」(Quality Marriage Index:以下QMI),自尊感情を測るため「自尊感情尺度」(Self Esteem Scale:以下SES)を用いた.統計分析は,記述統計や重回帰分析を用いた.【結果】母親のGHQ得点とQMI得点,SES得点とに有意な相関関係が見られた.「父親の子育てに満足」の要因は母親のQMI得点に最も関連していた.母親のQMI得点は母親のSES得点に最も関連し,このSES得点は母親のGHQ得点に最も関連していた.父親にも同様な結果が得られ,「母親の子育てに満足」の要因が父親のQMI得点,SES得点そしてGHQ得点に有意な関連がみられた.【考察】母親,父親とも夫婦愛着が直接メンタルヘルスに関連するのでなく,自尊感情を介して影響することが明らかになった.父親の育児参加は,母親が認知する夫婦愛着を促進し,夫婦愛着が母親の自尊感情を高め,結果的に母親のメンタルヘルス向上に関連するとの示唆を得た.
著者
渡邊 香織 本岡 夏子 古川 洋子 渡邊 友美子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.256-263, 2013-11-30 (Released:2017-01-26)

【目的】本研究は,縦断的調査により妊娠期の身体活動量を明らかにし,不安および分娩経過との関連性を検討することを目的とした.【方法】対象は妊娠の経過が正常である初産婦28名であり,分娩経過との関連についての検討は37週以降の経膣分娩をした20名(正常分娩)を対象とした.また,帝王切開などの8名を異常分娩として,正常分娩との比較を行った.身体活動量(歩数,活動強度・時間)は,妊娠20週より分娩前日までの期間に,連続して生活習慣記録機を装着して得られたデータを対象とした.身体活動量は活動強度の低い順から,強度1〜3を低強度,4〜6を中強度,7〜9を高強度とそれぞれの身体活動に分類し時間を求めた.不安は妊娠13〜18週,妊娠24〜27週,妊娠32〜36週の3回,State-Trait Anxiety Inventory(以下STAI)の測定を実施した.【結果】歩数について回帰分析の結果,正常分娩であった妊婦では「歩数=8,719.73-55.76×妊娠週数」(p<0.001,Adjusted R^2=.646),異常分娩であった妊婦では「歩数=8,966.29-62.37×妊娠週数」(p<0.05, Adjusted R^2=.913)の回帰式が得られた.妊娠32〜36週のSTAIと妊娠末期の身体活動量との相関では,STAI状態不安と平均歩数,及び中強度身体活動時間に中程度の負の相関を認め,分娩所要時間と体重増加量,及び状態不安に中程度の正の相関を認めた.さらに「分娩所要時間(分)=693.43+69.97×体重増加量-7.24×妊娠末期の妊娠中期に対する歩数の比率」の重回帰式が得られた(p<0.05,Adjusted R^2=.339).【結論】妊娠中期以降の歩数は,妊娠週数を重ねるに従い減少すること,妊娠中の歩数よりも妊娠経過に伴う身体活動量の減少率と体重増加量が分娩所要時間に影響することが明らかになった.また,日常生活に中強度以上の身体活動に相当する早歩きを取り入れることで,妊娠期の不安を軽減できる可能性が示唆された.
著者
日下部 典子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.278-284, 2017 (Released:2018-04-13)
参考文献数
20

産後の母親のメンタルヘルスを考えたとき,産後うつ病,マタニティ・ブルース,育児ストレスなどがあり,母子の心身の健康のために有効な介入が望まれている.たとえば産後うつ病の発症に妊娠中のメンタルヘルスが大きく関与していることが明らかとなっている.すなわち,妊娠中のメンタルヘルスを明らかにし,うつ症状の緩和やストレス低減を図ることは,妊婦はもちろん,出産後の女性のメンタルヘルスにとっても重要である.そこで,本研究では,妊婦49名(平均年齢31.82歳)を対象に,うつ状態とストレスコーピングおよび被援助志向性との関連を明らかにすることを目的とした.EPDSの結果から,18%にうつ症状が,さらにそのうち半数がうつ病の可能性が濃厚であった.またうつ得点の高い対象者は「夫へのサポート希求」,「夫以外の知り合いへのサポート希求」が有意に低く,「回避・諦め」コーピングと「被援助への懸念」が有意に高かった.階層的重回帰分析の結果,「夫へのサポート希求」がうつ傾向に影響を及ぼす要因であることが明らかとなった.以上のことから,妊娠中の女性約2割にも抑うつ症状が認められ,妊婦への抑うつ状態軽減の対策が必要であることが明らかとなり,サポート希求コーピングの獲得,被援助懸念への認知修正が抑うつ状態緩和に関係することが示唆された.妊娠中のうつ軽減は妊婦自身はもちろん,産後うつ予防にも有効であると考えられる.
著者
Takahisa USHIROYAMA Chisato KIUCHI Hiroko KOMURA Tamaki MATSUMOTO Mina MORIMURA
出版者
Japanese Soiety of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology
雑誌
Journal of Japanese Society of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1-2, pp.327-335, 2007-04-30 (Released:2017-01-26)

DSM-IVによりpre-menstrual dysphoric disorder (PMDD)と診断された61例に対し,十分なインフォームド・コンセントの後, 36例にフルボキサミンを連続投与し,症状の変化をdaily symptom report (DSR), STAI, SDSおよびWHO QOL26にて評価し,薬剤非投与群(コントロール)と比較した.フルボキサミン投与1周期目に,気分(32.0±27.2),行動(35.9±27.9)および痛み(9.8±11.6)の黄体後期の5日間平均DSRスコアは,投与前(それぞれ55.0±31.4, 49.2±26.8,および16.7±15.5)に比べ有意に低下した(P<0.05).一方,コントロールではスコア変化はなかった. WHO QOL26では,フルボキサミン投与により,精神的項目(18.8%),身体的項目(14.2%)および社会的項目(11.7%)において有意に(それぞれP<0.01, P<0.01およびP<0.05)スコアの増加(QOL向上)が観察された.特に,「生活の質について」,「健康状態について」の質問項目では,フルボキサミンの服用で前者は1周期目に21.4% P<0.05),後者は3周期目に27.4%のスコアの増加(QOL向上)が認められた(P<0.01). PMDDに対するフルボキサミンの連続投与は,黄体期後期の気分,行動および痛みの症状を軽減させ,低下しているQOLを向上させる効果が期待できることがわかった.