- 著者
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土井 由利子
石原 金由
内山 真
- 出版者
- 国立保健医療科学院
- 雑誌
- 保健医療科学 (ISSN:13476459)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, pp.104-111, 2015-04
サマータイム制度のサマータイムは,daylight saving time(DST)を日本語に訳したもので,DSTは,今から100年前の1916年に英国を中心に導入された. 1 年を夏時間(DST)と冬時間に 2 分割し,DST開始初日に時計を 1 時間進め,日没から就寝までの時間を 1 時間減少させて照明用の電力消費を1 時間分減少させ,電力消費に係る費用を削減しようという狙いがあった.現在,比較的高緯度地域の国々を中心に,この制度が実施されている.例えば,DSTは, 3 月最後の日曜日の午前 2 時が午前3 時へ切り替わって始まり,10月最後の日曜日の午前 3 時が午前 2 時に切り替わって終わる.近年,ヒトの睡眠研究の進歩と相俟って,DSTによる睡眠や健康への影響に関する研究成果が発表されるようになった.本稿では,睡眠と覚醒のしくみ(生物時計(概日リズム)と社会的時計)について説明し,DSTによる睡眠や健康への影響について,文献レビューをもとに解説を行った.要約すると,次のとおりである.1. 睡眠への影響:( 1 )概日リズムの再同調に要する時間(数日から数週間);( 2 )睡眠の断片化と睡眠効率の低下;( 3 )睡眠時間の減少(30 〜 60分程度(DST開始後(春));( 4 )睡眠時間の増加(40分程度(DST終了後(秋)). 2 .健康への影響:( 1 )急性心筋梗塞発症の増加(DST開始後(春));( 2 )急性心筋梗塞の発症は増加または不変(DST開終了後(秋)). 3 .DSTの影響を受けやすいリスクグループ:( 1 )睡眠時間が短い,または不足している人;( 2 )夜型化傾向の人;( 3 )高齢者;( 4 )循環器疾患(心疾患,糖尿病,高血圧)の既往歴のある人;( 5 )循環器疾患の薬を服用している人.サマータイム制度によるDSTは,その制度が導入されている地域全体に及ぶので,その地域の中で,DSTをリスク要因とした非曝露集団を設定することができない.正確なリスク分析を行うには,DST が導入されていない地域で,DSTの導入の有無で適切にランダム化した比較試験が必要であるが,先行研究(ヒトを対象とした睡眠研究および疫学研究)でリスクの可能性が指摘されている以上,倫理的に,この研究デザインを用いた研究を実施する可能性は極めて低い.しかしながら,DSTのリスクグループとされる人々が,特殊な限られた集団ではない点は注目に値する.DST(曝露)が地域全体に及んでいることとも考え合わせると,DSTによる睡眠や健康への全体としての影響は大きいと考えられ,この分野での研究の動向に注目して行く必要があると思われる.