著者
山西 歩 岩佐 弘一 大坪 昌弘 佐々木 綾 平杉 嘉一郎 中村 光佐子 岩破 一博 北脇 城
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.311-317, 2013-03-31 (Released:2017-01-26)

月経前不快気分障害(PMDD)はDSM-IV-TRで特定不能のうつ病性障害に分類される疾患である.今回我々はPMDDと診断し,その治療中に顕在化した双極II型障害の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例1は20歳,病歴および連続2性周期の経過観察によりPMDDと診断した.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与を開始したところ,軽躁症状が出現したためSSRIは漸減中止,抗不安薬と漢方薬に変更した.その後,軽躁症状が再度出現し,精神科に受診したところ双極II型障害と診断された.症例2は27歳主婦,性周期における精神症状の消長はPMDDに典型的ではなかったが,病歴から大うつ病性障害に合併したPMDDを疑った.SSRI増量後より軽躁症状があらわれたためSSRIは漸減中止し,炭酸リチウム,バルプロ酸および低用量ピル(LEP)に変更した.その後軽躁症状は生じておらず,精神科で双極II型障害と診断された.躁うつ双極性(bipolarity)を有する症例ではSSRIの投与初期や増量期に賦活化症候群(activation syndrome)を発症して軽躁症状を呈する場合や,SSRIが引き金となって病相の急速交代現象が誘発される場合がある.若年女性でPMDDと診断されるものには,双極II型障害が潜んでいる可能性がある.PMDDの診断・治療に際しては,病歴や月経周期における症状の消長を詳細に聴取すること,投薬中の経過観察を密にすること,精神科と連携を図ることが重要であると思われる.若年女性でPMDDと診断した場合には,SSRIを第一選択とするのではなく,先にLEP,抗不安薬,漢方薬を試みるほうが安全なのではないかと考える.
著者
橋本 有紀 目崎 登
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.108-115, 2001-06-30 (Released:2017-01-26)

女性のスポーツ選手においては,トレーニングの過程や,競技におけるパフォーマンスの発揮のために,女性特有の月経現象を含めたコンディショニングが必要不可欠といえる.そこで本研究では,PMS症状調査表を用いたコンディション調査と瞬発力,敏捷性を評価するための運動テストを行い,月経周期と女子ハンドボール選手のパフォーマンスの関連について検討することを目的とした.なお対象は,基礎体温が二相性を示す大学女子ハンドボール選手8名(19.0±1.1歳)とした.基礎体温に基づいて月経周期を月経期,卵胞期,黄体期の三期に分けて比較したところ,心身の状態に関する調査では,身体症状に関する項目のうち,「下腹痛],「下腹部がはる」,「乳房が痛い」,「乳房がはる」,「にきびができやすい」で月経期に最も点数が高かった.精神症状に関する項目では,すべての項目で明らかな差は認められなかった.また,運動テストのうち,25m方向変換走は月経期に明らかに低かったが,垂直跳びとサイドステップでは月経周期の時期による差は認められなかった.これらの結果より,女子ハンドボール選手は,月経周期によりパフォーマンスに何らかの影響を受けると考えられる.特に,月経期においてパフォーマンスが低下する可能性が示唆された.また,月経期にパフォーマンスを低下させる要因として,下腹痛,乳房痛などの身体症状の影響が考えられる.
著者
福元 崇真 乾 明夫 田中 洋 野添 新一
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.308-315, 2016-03-31 (Released:2017-01-26)

発達障害は,従来遺伝と環境という二つの要因が相互に関係して発症すると考えられ,特に遺伝要因が重要視されてきた.しかし近年,海外を初め,我が国の調査では発達障害,あるいは発達障害の疑われる子どもの増加が報告されている.遺伝要因を考慮すれば一定になるはずの発達障害の増加が指摘されていることから,遺伝要因を重要視する見方は徐々に弱まっており,代わりに最近,調査・報告による環境要因の重要性が見直されつつある.本研究の目的は環境要因に注目し,発達障害および発達障害様相を持つ児童の母親(以下,障害あり群)と健常児童の母親(以下,障害なし群)を対象に後方視的質問紙調査を行い,妊娠後期(28週目)と出産後1年半での養育環境における母親の育児ストレスと児童の抱える発達障害様相との関連性を明らかにすることである.調査には,養育者が育児中に生じる心の状態を尋ねる「育児不安尺度(中核的育児不安,育児時間)」と,養育者の育児環境について尋ねる「育児ソーシャルサポート尺度(精神的サポート)」を使用し,有効回答数は154名であった.養育している児童の診断の有無,育児支援関連施設の利用経験の有無などによって選定し,障害あり群47名(41.4±6.5歳),障害なし群107名(40.4±4.9歳)の2つの群の妊娠後期と出産後1年半における育児不安・育児ソーシャルサポートの得点についてt検定,2要因分散分析を行った.その結果,1)妊娠後期において,障害あり群の精神的サポート得点は有意に低く(p<0.05),2)出産後1年半において,障害あり群の中核的育児不安得点は有意に高かった(p<0.05).今回の結果から,妊娠後期における配偶者(夫)からの育児に関する妊婦(妻)への精神的サポートの低さが,胎児の養育環境を介して発達障害ないし発達障害を呈する症例に何らかの影響を与えていた可能性が示唆された.
著者
志賀 令明 本多 たかし
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.492-497, 2007-11-30 (Released:2017-01-26)

21歳から32歳の9名の女性を対象にして,1月経周期に3回の採血と各種心理検査を行い,月経前症候群(PMS)に該当する者を抽出すると同時に,血液成分(エストラジオール,プロゲステロン,ACTH,コルチゾール,レプチン,IL-1β),及び心理検査(PMS調査票,POMS,Y-G性格検査)各項目の検討を行った.採血時の各人の最終月経からの経過日数は1日から37日であった.各人の最終月経からの経過日数を横軸,血液成分,心理検査各項目得点を縦軸にして単回帰分析を行うと,有意な相関が見られたのは,コルチゾール,PMS調査票得点であり,双方とも月経周期が後半になるにつれて上昇した.PMS調査票得点と月経周期との単回帰式から算出した予測値との差に基づき,月経周期20日以上でPMS得点が予測値より高かった者をgroup H(n=4),下回った者をgroup L(n=7)とし比較した.その結果,group Hはgroup Lに比し,IL-1βで有意に高い値を示し,コルチゾール,レプチンで高い傾向を示した.また心理検査でも抑うつ性に関する得点が有意に高い値を示した.特にgroup Hは平均22日目にあたる採血時において,平均15日目にあたるその他の者(n=23)に比し,有意に高いIL-1βを示した.上記から,PMS群と考えられるgroup Hでは排卵周辺に炎症反応が強まり,炎症性サイトカイン濃度が上昇し,それが視床下部-下垂体-副腎皮質系に影響を与えて特有の抑うつ症状を起こさせるだけでなく,レプチンを抑制するコルチゾールの上昇は,レプチン抵抗性を引き起こし高レプチン血症を生じさせると考えた.またIL-1βの上昇はバソプレッシンの分泌亢進を引き起こし水分貯留などの原因になると考えた.上記から,PMSにおいて,排卵ないしは月経そのものを「炎症」ととらえる免疫系のメカニズムの不全を示唆した.
著者
石 明寛 石 政道 高橋 文成 吉田 耕治 柏村 正道
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.146-151, 2004

目的:今日,経済発展の結果,日本では,物が溢れ,一部の若年者はジュースを飲む感覚で飲酒している.女性若年者の飲酒の問題は,急性アルコール中毒,内分泌障害,自律神経失調などである.しかしアルコール依存症にまでいたる例は少ないため,若年者女性アルコール依存症の内分泌学及び心理学的な分析の報告はほとんど無いのが現状である.われわれは,無月経を合併した21歳女性アルコール依存症患者を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は21歳女性で,未婚,未妊.初経11歳.月経周期28日型,月経痛は軽度.16歳の時に両親離婚が原因で高校を退学し,不良グループと付き合うようになった.飲酒,不純異性交遊などに耽溺し,一日の飲酒量が焼酎一升をこえるまでになった.この大量飲酒が数年続き,続発性無月経状態となった.平成14年2月(20歳)で黄疸が出現したため,近医受診し,禁酒により症状は改善した.しかし受診を中止すると直ぐに大量飲酒し,時々奇声を発声するようになり,家族同伴で精神科病院を受診した.アルコール依存症と診断され,別のアルコール専門病院に入院後,無月経症が合併しているため,当科を紹介され受診に至った.内分泌検査結果は,PRL63.0ng/ml,LH35miu/ml,FSH43miu/ml,E_216pg/mlでhypergonadotropic hypogonadism の状態であった.心理的検査ではCMIは65点,(深町分類ではIV),MAS36点と高く顕著な不安傾向があり,ANS-S23点で自律神経失調症も認められた.Kaufamann療法,禁酒,運動療法などの治療により症状は改善された.考察:21歳の女性アルコール依存症を経験した.この患者は性成熟期における女性アルコール依存症のような無月経,性交痛,不定愁訴などの症状を認めた.患者は情緒不安定,緊張,神経過敏などのfright反応も認めた.このfright反応から逃避するために,飲酒に依存するようになって無月経になった.治療には,患者の飲酒歴の検討,家庭背景への理解に加えて心理治療も大切と考えられる.
著者
野田 洋子
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.64-78, 2003
被引用文献数
6

女子学生の月経の経験の実態と関連要因を明らかにすることを目的として縦断的調査研究を行った.第2報では月経の経験に関連する身体的要因,心理社会的要因の分析結果を報告する.対象はA女子短大生で2回の調査に連続して有効であった1,045名である.質問紙は回顧的,自己記入式記名式で,月経の経験と関連要因(自尊感情,楽観性・悲観性,ジェンダー満足度,ストレスとストレス発散,自覚的健康観,ライフスタイル)に関する調査項目で構成される.各要因について2群に分割した平均値の差の検定結果及び先行研究の結果を参考に変数を選択,パスモデルを作成し,共分散構造分析を行なった.結果は以下のとおりである.女子学生の月経周辺期の変化,月経痛,月経観,セルフケア行動の関連要因として身体的要因(経血量,女性年齢)だけではなく,ストレス,ストレス発散や自覚的健康観,楽観性,自尊感情,ライフスタイルという心理社会的要因が重要な関連を持つこと,また月経痛・月経周辺期の変化には月経観が影響することが認められた.月経教育は月経痛・月経周辺期の変化を軽減するセルフケア教育が重要であると共に,ストレスマネージメントや健康的なライフスタイルの奨励,月経観をポジティブにリフレーミングすることの重要性が示唆された.
著者
稲吉 玲美
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.114-122, 2018 (Released:2018-12-07)
参考文献数
21

月経随伴症状に対しては,医学的アプローチと並行して心理社会的な視点からの支援が重要である.心理学的視点からは,症状がありながらもそれらとうまく付き合いながら,女性が自分の価値に沿った生活を送るための支援をしていくことが求められる.しかし,現存の尺度は症状の種類や程度を測定するためのものであり,女性が症状によって日常的に抱く心理的な苦痛を定量化する手段が存在しない.そこで,本研究では,先行研究をもとに月経随伴症状負担感尺度を作成し,月経随伴症状に対する有効な心理学的アプローチのあり方を検討する際の有用な知見を得ることを目的とした.20~39歳の女性318名を対象としたインターネットによるアンケート調査を実施した.因子分析の結果,「コントロール不能感」および「不遇感」の2因子からなる尺度が作成された.各因子のCronbach's α係数から,それぞれ高い内的整合性が得られた.また,月経随伴症状の程度を測定する月経随伴症状日本語版および国外にて作成された症状による心理社会的影響を測定する尺度との間に,それぞれ有意な正の相関がみられた.よって,この尺度は妥当性と信頼性があることが示された.また,日本語版Ten Item Personality Inventoryとの間には,「コントロール不能感」と「協調性」および「不遇感」と「外向性」に弱いながらも有意な負の相関関係が示された.即時的・回顧的回答および属性による得点差についてダミー変数を用いた重回帰分析によって検討したところ,月経中に比して月経前の方が負担感およびコントロール不能感をより抱くことが示された.本尺度は,月経随伴症状とうまく付き合っていくための心理的アプローチの介入効果を検討する指標となることが期待される.また,本尺度によって女性が月経随伴症状による二次的な負担感を明示することにより,女性の苦痛について,社会の理解を促すことに貢献すると考えられる.
著者
李 貞美 小川 俊樹
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.120-143, 2010

社会が望む美の基準に合わせるために,醜いと考えている身体部分に手を加えることは自分の外見を変える方法の一つである.現代社会において外見の魅力はますます強調されている.本研究では女性を対象に,美容のために体に手を加えることに関する認識の特徴を検討するために,"美容のための身体可変性の認識尺度(BMB)"を作成し,"有用性の認知および結果に対する期待"と"罪悪感および人工性の観点にとらわれない傾向"の2つの次元で構成されていることを確認した.この結果は,女性が美容のために体に手を加える際の葛藤を明確に示している.いくつかの例外を除けば,多くの身体加工においてBMBの第1因子の特性が重要であること,またBMBの第2因子はより危険性が高い身体加工と関与していることが示された.韓国と日本の女子大生を対象にBMBと身体可変リストについて比較検討を行った結果,身近に行われる身体加工について受容しやすくなることが推察された.また自分の体に手を加えて外見を変えられるという認識は,主に体重と関連した統制の認識とは異なる概念である可能性も示唆された.