著者
川瀬 良美 森 和代 吉崎 晶子 和田 充弘 松本 清一
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.119-133, 2004-07-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
3

本研究の目的は,成熟期の女性のPMSの実態について即時的な記録から明らかにしようとするものである.成熟期の25歳以上45歳以下の141名の388月経周期について月経前期と月経期に記録された身体症状,精神症状そして社会的症状の合計51症状について検討した.月経前症状の頻度,平均値,最大値からみた主症状は,精神症状のイライラする,怒りやすい,身体症状の乳房の張りの3症状といえた.また特定の人に強く経験されている症状も認められた.対象者の諸属性のうち,年齢グループ別,出産経験有無別,就労形態別で検討したところ,それぞれの属性で有意に高い平均値を示す症状群が認められた.月経前期から月経期への推移について検討したところ,月経前期から月経へ減少または消失するというPMSの特徴を統計的に有意に示す症状は15症状であった.それら症状の相互関連をクラスター分析によって検討した結果,イライラ,怒りやすい,そして食欲増加という選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)に反応するような脳レベルの問題と考えられる症状のクラスターAと,乳房の張り,ニキビができやすいなど卵巣ホルモンが直接発症に関与している症状のクラスターBが見いだされた.また,クラスター分析と属性別の結果から出産経験の有無による相違が認められ,出産経験が症状と特異的に関連していることが示唆された.また,月経前期から月経期へ統計的に有意な増加を示す症状は12症状で,クラスター分析の結果,下腹痛など子宮レベルの問題を背景とした症状と精神症状と社会的症状で構成されたクラスターCが見いだされ,成熟期女性にも周経期症候群(PEMS)の概念で説明できる月経前症状が認められた.以上の結果から,本邦における成熟期女性の月経前症状は,脳レベルの問題,卵巣レベルの問題,子宮レベルの問題を背景として,PMSとPEMSという特徴的な臨床像による2つの概念で説明できる.
著者
志賀 令明
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.89-94, 2011-06-30 (Released:2017-01-26)

18歳から77歳までの72名の健常女性(平均年齢±1SD:33.5±18.5歳)を対象にして,血液検査と心理検査(Y-G性格検査及びPOMS)を行い,血液成分(ACTH,コルチゾール,IL-1β,TNF-α)と心理検査各因子との関連を検討した.抑うつと関係が深いとされる血漿中IL-1β濃度は,重回帰分析の結果,Y-G性格検査の抑うつ因子得点で有意に説明され,末梢でのIL-1β濃度と性格的な抑うつとの関連性が支持された.このIL-1β濃度とY-G抑うつ性得点が双方とも平均値よりも1SD以上高かったものをgroup H(n=4),その他をgroup L(n=68)として比較すると,group Hはgroup Lに比して有意にコルチゾールとTNF-α濃度が高かった.年齢,身長,体重,肥満度には有意差はみられなかった.他方,対象者全員でのIL-1βとTNR-αには有意な正の相関傾向があったが,TNF-αと心理検査各項目の得点やコルチゾールとの間には有意な相関は見られなかった.上記の結果から,抑うつ傾向の高い者ではこれまで言われてきたようにHPA-axisの亢進が起こっており,併行して血漿中のIL-1β濃度も上昇することが知られた.他方,今回の結果からは,TNR-αと心理検査各項目やコルチゾールとの間には有意な関係性が認められなかったので,抑うつが即TNF-αを上昇させるのではなく,抑うつによって生じたIL-1βの上昇が付随的にTNF-αを上昇させる,ないしは,高コルチゾール血症下での全般的な細胞性免疫や液性免疫の低下が貧食細胞系を活性化させることにより高サイトカイン状態が生じる,ないしは高コルチゾール血症によって生じた糖新生の結果としてのフリーラジカルの上昇がサイトカイン系を駆動することで結果的にTNF-αを上昇させる結果を生み出すのではないかと推測した.いずれにせよ,IL-1βとTNF-αは連動し,TNF-αは血管炎症を促進させることから,抑うつ状態を有する人は動脈硬化などの血管障害に至る危険性が高いことが示唆された.
著者
山蔦 圭輔
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.196-207, 2021 (Released:2021-12-02)
参考文献数
25

本研究では,一般女子学生の摂食障害予防を目的とした心理教育プログラムの開発と効果検証を行うことを目的としたものであった.本研究は試験的に実施された.ここでは,CBT-E(enhanced cognitive behavior Therapy)を踏まえた心理教育プログラムが開発された.心理教育プログラムは,知識教育セッション(1週間)と介入セッション(1週間)から構成された.解析の対象者は,介入群3名(平均20.33±0.58歳),統制群4名(平均21.25±1.89歳)であった.解析の結果,介入セッションの前後で,「腹囲」,「臀部」,「太もも・脚」の不満足感,全身のふくよかさ不満足感が低減した.また,介入セッションの前後で,むちゃ食いの頻度が低減した.今後,こうした予備的試行が蓄積されることで,精度が高く簡便な一般女子学生に対する予防プログラムが開発されることが望まれる.
著者
川瀬 良美 松本 清一
出版者
Japanese Soiety of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.43-57, 2006-03-31 (Released:2017-01-26)
被引用文献数
1

先行研究ならびに臨床的知見によると,大学生など若年女性の月経前症状は,月経開始と共に減少あるいは消失するという月経前症候群(PMS)の定義にあてはまらないことが報告されており,我々はその症状の増悪の推移が月経痛の推移に一致することに着目した.そこで本研究では,月経痛症を伴う月経前症状の中には,月経痛に起因する症状が含まれているのではないかということを,大学生を対象に検証することを目的とした.日本の大学生109名のPMSメモリーによる238周期の即時的記録による月経前期(月経前7日間)と月経期(出血期間)の随伴症状について,下腹痛の有無を類別して因子分析によってその構造と特性を検討した結果,腹痛なし群では,「貯留症状と気分の変化因子」「攻撃的変化因子」「PMS身体症状因子」「高揚的因子」の4因子を抽出した.主症状は乳房症状と皮膚症状で,月経前症状を中心とした月経前症候群(premenstrual syndromes: PMS)様のパターンを示した.一方,腹痛群は「負の気分と社会性低下因子」「PMS身体症状因子」「能力感低下因子」「気力低下因子」「高揚的因子」「活動性低下因子」「健康感低下因子」の7因子を抽出した.これらの因子の症状は月経前期に発症しても月経期まで持続し月経期にピークを示す様態にその特性があり,イライラ,不安,無気力,一人でいたいなどを主症状とした精神症状と社会的症状であった.下腹痛との因果関係を回帰分析によって検討した結果,腹痛群の特性は下腹痛に起因することが明らかとなり,従来のPMSの定義とは相容れない特徴であることから「周経期症候群」(peri-menstrual syndromes: PEMS)を提唱した.そして周経期症候群の定義を「月経前期から月経期にかけておこり,月経中に最も強くなる精神的,社会的症状で,月経終了と共に消失する月経痛に起因する症状」とした.本研究の結果から,大学生の月経前症状には,PMSとPEMSとがあり,その鑑別は月経痛の有無で可能であり,また「周経期症候群」(PEMS)の治療は,月経痛症に対する治療と同様な方法で症状の消失,軽減を得ることが可能と考えられる.
著者
野村 由実 荒木 智子 吉岡 マコ 杉田 正明
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.153-164, 2021 (Released:2021-12-02)
参考文献数
27

【目的】本研究は,新型コロナウイルス感染症流行下における産後女性の健康増進を目的としたオンラインプログラムについて精神的・身体的側面から効果検証を行った.【方法】産後セルフケアオンライン教室に参加する産後1年未満の女性のうち研究同意が得られた研究参加者142人の中で,4回のプログラムおよび4回のアンケート調査を完遂した71人を対象とした.プログラムはストレッチ・筋力トレーニング・参加者間の対話・セルフケアで構成された.オンラインビデオ会議システムを介して週1回75分,4回行い,母親と乳児は自宅から参加した.評価指標は身体症状,セルフケアの行動変容,主観的健康感(WHO Subjective Well-being Inventory)に関する23項目を設定し,プログラム実施前(ベースライン),実施直後,終了後1カ月,終了後3カ月の4時点でwebアンケート調査を行った.【結果】身体症状(慢性的な疲労を感じる,肩がこる,腰が痛い),主観的健康感(陽性感情,陰性感情,自信,至福感,精神的コントロール感,身体的不健康感),セルフケアの行動変容(セルフケア実施頻度,腰や関節の痛みへの自覚,疲労の予測,肩や体のこりに対する予防・調整,腰や関節への痛みに対する予防・調整,疲労に対する予防・調整)において経時的変化が認められた.陽性感情はベースライン(41.6±5.9)から1カ月後(43.5±6.2)まで有意に高まり(p=0.002),3カ月後(41.4±6.8)にはベースラインの水準に戻っていた(p=0.000).陰性感情はベースライン(49.7±5.8)から3カ月後(53.8±6.4)にかけて有意に低下した(p=0.000).【考察】運動と対話で構成されたオンラインプログラムは,身体症状の改善,主観的健康感の向上,セルフケアの継続,健康への意識や取組の変化など,母親の心身の健康増進に寄与した.
著者
藤林 真美 齋藤 雅人 大田 香織 松本 珠希 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1-2, pp.86-93, 2008-06-30 (Released:2017-01-26)

女性の就業率が増加し,多忙で不規則な生活を強いられることと相俟って,簡便で即効性の保湿・栄養効果があり,尚且つ爽快感や心地よさなどの心理的作用を期待できるスキンケアが求められている.本研究では,化粧水などの液状製剤を含浸させたシート型コスメティック・フェイシャルマスクによる心身のリラクセーション効果を自律神経活動の観点から評価することを試みた.14名の健康な若年女性(年齢21.2±0.8歳)を対象に,フェイシャルマスクを15分間装着させ,マスクの使用前・使用中・使用後の心電図を胸部CM_5誘導より測定した.自律神経活動は,心拍のゆらぎ(心電図R-R間隔)をパワースペクトル解析し,非観血的に交感神経活動と副交感神経活動を弁別定量化した.また,フェイシャルマスク使用前後に,Visual Analog Scale(VAS法)を用いて主観的心理反応(さわやかさ,うるおい感)も計測した.その結果,マスク使用前と比較して,心拍数は,使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)に有意に低下した.総自律神経活動は,使用中に有意に増加(p<0.05),副交感神経活動については使用中(p<0.05),使用後(p<0.05)ともに顕著な増加を示した.また使用感スコアは,フェイシャルマスク使用後,さわやかさ(p<0.01),うるおい感(p<0.01)ともに顕著な上昇を認めた.これらの結果から,フェイシャルマスクの総合的な質感が,直接的あるいは間接的に自律神経系に作用し,副交感神経活動の亢進により,心拍数を減少させたことが考えられた.また短時間のフェイシャルマスクの装着により,肌のうるおい感と心理的な爽快感を生み出すことから,心身のリラクセーション効果も得られることが推察された.
著者
森 美加 馬渕 麻由子 酒井 佳永 安田(鹿内) 裕恵 岩満 優美 飯嶋 優子 日高 利彦 亀田 秀人 川人 豊 元永 拓郎
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.132-145, 2013-07-15 (Released:2017-01-26)

女性が多数を占める疾患である関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis : 以下,RAとする)患者がどのような心理的支援を望んでいるのか,そのニーズを調査し,さらに,RA患者に対するサービスのあり方を検討し,ニーズに合わせた支援プログラムを提案することを目的として,2011年2月から8月,RAに罹患し医療機関にて治療を受けているRA患者で,研究参加に同意した20名(女性18名,男性2名)を対象として,調査票および面接による調査を行い,面接の逐語記録の文書データをグラウンデッドセオリーアプローチを参考にして分析した.その結果,電話相談,ホームページ,メール相談,個別心理相談,心理教育,セルフケアグループすべての支援に対してニーズがあり,特に電話相談(必要時),個別心理相談(通院先),心理教育のニーズは顕著であった.そこで,個別心理相談,心理教育を中心とした,チームによる包括的なケアシステムがRA患者のQOLを高めるためには有効なのではないかと考えられる.また,心理教育のテーマとしては,確定診断時においては,(1)病気の具体的な説明,(2)身体的ケア,(3)心理的ケア,(4)療養上の工夫が,生物学的製剤開始時においては,(1)効果と副作用を中心とした具体的説明,(2)自己注射について,(3)費用について,(4)生物学的製剤を使用する上での不安と期待についてが,家族向けとしては,(1)病気の説明,(2)RA患者の心理について,(3)家族へのケアが考えられる.さらに,不安の受容と変化を併せ持った心理療法的チームアプローチであるDBTを参考にした包括的ケアシステムの開発は,不安と安心の間で揺れ動くRA患者の心理的ケアのモデルとして有効であり,また,RA患者の長期的Quality of Lifeを最大にすることを治療目標とするT2T(Treat to Target)の有効性に繋がるのではないかと考えられる.
著者
今井 千鶴子 今井 正司 嶋田 洋徳
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1-2, pp.309-316, 2007-04-30 (Released:2017-01-26)

本研究の目的は,心身ともに健康な女子大学生を対象に,不安感受性(anxiety sensitivity)が痛み経験(痛みの閾値,痛みの耐性の程度,痛みの主観的評価,痛みへの恐怖感,痛みへの認知的対処方略)に及ぼす影響について実験的に検討することであった.実験参加者31名は,日本語版不安感受性尺度によって,不安感受性低群(n=12)ならびに不安感受性高群(n=19)に分けられ, 3℃の冷水に手を浸す課題(コールドプレッサーテスト)に取り組むことが要求された.コールドプレッサーテスト中に閾値,耐性の程度の測定を行うとともに,コールドプレッサーテスト終了後には,ペインスケール(痛みの主観的評価),多面的痛み尺度(痛みへの恐怖感),日本語版coping strategy questionnaire (痛みへの認知的対処方略)を実施した.その結果,不安感受性高群は不安感受性低群に比べて,痛みの主観的評価が高いことや,自分自身を励ますといった肯定的な自己教示の対処方略を多く用いていることが示された.以上の結果から,不安感受性は痛みの主観的評価や痛みへの認知的対処方略に影響を与える重要な変数であることが示唆された.
著者
丸山 知子 吉田 安子 杉山 厚子 須藤 桃代
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-99, 2001
被引用文献数
3

本調査の目的は,妊娠後期から出産後2年間の女性の心理・社会的状態と育児に対する意識,及びその影響要因について分析することである.本報は,妊娠後期の心理・社会的状態について分析を行った.1.対象と方法:対象者は,札幌市内8ヵ所及び道内7ヵ所の産婦人科病院または総合病院で妊婦健診を受け,研究に同意の得られた妊娠28週以降の妊婦である.調査期間は,平成12年3月下旬から5月上旬である.調査方法は,外来受診時,依頼文書,質問紙を渡し,郵送によって回収した.調査内容は,調査者が作成した29項目からなる心配尺度の質問紙(丸山知子.心身医.1999),ローゼンバーグ(1965)のセルフエスティーム(SE),及びエジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)を用いた.2.結果:妊婦695名に配布し,467名より回収(回収率67.2%),そのうち有効回答数は465名であった.(1)対象の背景は,初妊婦61.5%,経妊婦38.5%,平均年齢は28.9歳,最終学歴は高校卒業が最も多く48.1%であった.家族構成は核家族が83.0%,拡大家族は10.8%であった.職業は,専業主婦が70.8%,有職者は28.0%であった.(2)心配尺度とEPDSは0.618,SEは-0.448で各々有意に相関があった(p<0.001).(3)妊婦の援助者は実母が最も多く(59.8%),次いで夫であった(43.4%).今回の妊娠は,計画的43.9%,計画外23.2%,どちらでもよかった30.1%であった.(4)妊娠中の心配尺度が平均3以上の項目は,夫の育児への協力,夫が側にいてほしいという夫のサポートと,妊娠前の容姿にもどるか気になる,体重が気になるという身体的イメージに関する項目であった.この他,育児や子供の健康状態,疲労感,体調不良,いらいら等,心身疲労や情緒不安定も70%以上の者にみられた.(5)心配尺度と年齢,学歴,計画の有無,妊娠歴,職業,援助者との関連をみた.その結果,初妊婦,計画外妊娠では心配尺度が有意に高かった.
著者
添田 梨香 上田 公代 SOEDA Rika UEDA Kimiyo
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 = Journal of Japanese Society of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.306-313, 2016

本研究では,妊娠中の「ストレス要因とそのストレス反応」について,その「ストレス対処」には「ソーシャルサポート」の強化,「生活満足度」や「心の健康度」の向上が有効に関連する,という概念枠組みのもと,相互の関連性を明らかにすることを目的とした.2011年4月25日~2012年3月9日,質問紙調査を行い,妊娠初期175名,中期207名,末期191名の計573名の妊婦を分析した.その結果,ストレス要因とその反応の得点は,妊娠3期別比較で有意差はなかった.ソーシャルサポートの実現度は,妊娠の全期間を通じて高い傾向にあり,生活満足度は初期より末期が有意に高く,夫に関連する満足度が高い傾向にあった.重回帰分析により,妊娠ストレスを低下させた要因は,生活満足度と心の疲労度(低い)であった.一方,妊娠ストレスを高めた要因は,日常ストレスであった.ストレス要因とストレス対処についての記述では,どちらも「夫」に関する内容が,それぞれ23.6%,33%と最も多く言及されており,夫に関することはストレス要因であり,同時にストレス対処要因と考えられた.</p><p> これらより,ストレス要因の緩和やストレス対処には,生活満足度の高揚と,心の疲労度(が低いこと)が重要であり,特に夫との関係性や夫のサポート力を高めることの重要性が示唆される.
著者
松岡 治子 竹内 一夫 竹内 政夫
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.46-54, 2002
被引用文献数
1

本研究の目的は,障害児をもつ母親が現在受けているソーシャルサポートと母親のメンタルヘルス,特に抑うつ症状との関連を明らかにすることである.肢体不自由児を中心とした療育施設,G療護園に子どもが入園あるいは通園している母親169名を対象として,ソーシャルサポートと母親のメンタルヘルスに関する自記式質問紙を用いて調査を行った.その結果,児の障害について夫など他者から母親のせいといわれた経験をもつ母親は46名,自分のせいと「いつも」あるいは「時々」思う母親は76名で,これらの母親はそうでない母親よりも有意に抑うつ性得点が高かった(P<0.01).母親へのサポートの量については,夫からのサポートと母親の親・兄弟・親戚からのサポートが多かった.また,母親の抑うつの程度は夫のサポートの程度,および子どもの障害を自分のせいと思うことが関連していた(それぞれ,β=-0.304,p<O.01; β=0.284,p<O.01).
著者
土井 麻里
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.186-192, 2019

<p>近年,女性の生き方は多様化し,女性を取り巻く社会的・家庭的状況は大きく変化した.現代社会では女性が女性性の尊重と自己実現の双方を求めるようになった結果,心理社会的ストレスは複合的になり,結婚・妊娠・子育て等のライフイベントと就労との両立,ワークライフバランスの不均衡,給与面の男女間格差,企業や組織でのガラスの天井,多様な家族関係での対人関係ストレス,自己実現における困難等が,女性の健康に大きな影響を与えている.そのため女性の健康を維持するためには,女性のリプロダクティブな生物学的特性・心理特性・ライフサイクルの理解に基づく社会対策と女性心身医療が必要である.さらにスピリチュアリティを含めた生き方を尊重,支援することも求められ,身の医療は,こころ,体,いのちの健康改善とバランス回復に重要な役割を果たしている.「身」の医療が普及し,個人また社会全体が性に対する文化社会的な偏見・とらわれから解放され,性差に対する相互理解,相互尊重が深まり,より包括的な精神性を持つ成熟した社会の創造が望まれる.</p>