著者
黒沢 香 米田 恵美
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.84-90, 2006

食品偽装を報じるテレビニュースを作成し、大学生153名に見せた。上司の部長に強制され、食肉加工会社の工場長が、不正ラベルを使用、普通の食肉を無農薬飼育の高級品として出荷したとする事件である。上司命令の状況は、強制された本人の釈明か、強制した上司の供述、またはニュースのアナウンサーの言葉として説明された。また営業不振を理由に、部長の命令に、従わなければ工場長から降格される、従えば降格されないとして、または、このような直接的な脅しや約束の言及なしに、不正行動が強制されたことが全員に知らされた。この3×3の要因計画で、強制され犯罪を実行した工場長の責任は、脅しによる強制では相対的に有利に判断され(すなわち、誘導強制バイアス)、約束による利益誘導では、他の話者に比べてアナウンサーによる言葉の場合、とくに不利に判断された。
著者
野口 康彦
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.8-13, 2013

本稿では、子どもの心理発達のプロセスを踏まえたうえで、親の離婚を経験した子どもの心理について、特に喪失体験とレジリアンスについて言及した。また、親の離婚を経験した大学生を対象として、ベック抑うつ尺度(Beck Depression Inventory)の日本語版を用いた調査を行った。調査の結果から、親の離婚時と子どもの年齢は子どもの精神発達と密接に関連しており、思春期以降に親の離婚を経験した子どもは、親の離婚の影響を受けやすい傾向が示された。親の離婚に起因する子どもの心理的な問題の多くは、親が離婚する前の家庭環境が大きく関与している。親の離婚を経験した子どもが思春期において、親に対する葛藤をどのように体験するのかという点が重要である。
著者
村本 邦子
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.7-13, 2011

筆者は女性と子どもを対象とした開業臨床を実践してきた臨床心理士として、法と心理の協働の可能性を模索してきたが、2010年3月にトロントの治療型裁判所を見学する機会を得た。治療的司法とは80年代アメリカにおいて提唱された治療的法学に基づく司法を意味し、実践的には問題解決型裁判所や治療型裁判所を挙げることができる。カナダにおいても、1990年代後半、ドラッグコート、メンタルヘルスコート、先住民コート、DVコートという四種類の問題解決型裁判所が設立されたが、今回視察したのは、トロントのドラッグコートとメンタルヘルスコートである。いずれにおいても、専門の裁判官、検察官、カウンセラー、精神科医、ソーシャルワーカー、保護観察官など異なる分野の専門家が協働してチームとして取り組むこと、地域の公的機関や民間団体と連携して取り組むことが特徴であり、肯定的評価データが蓄積されつつある。今後は、正義の倫理とケアの倫理を相互補完させながら、法と心理の協働を含む学際的なアプローチによって新しい司法の形が模索される時代となっていくだろう。
著者
藤原 映久 宮阪 敏章 鳥羽 幸恵
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.92-105, 2002 (Released:2017-06-02)

全国の中央児童相談所の職員、島根県内の保育所の職員(保育士)及び島根県内の病院職員(看護婦・士)を対象に、「父親・母親」、「子どもに"おまえが生まれてこなければよかった"と言う父親・母親」「子どもに食事を与えない父親・母親」「子どもを殴る父親・母親」の8概念について、SD法によるイメ-ジ調査を実施した。各概念は、親一般を意味する「父親・母親」を除いて、心理的虐待、ネグレクト、身体的虐待といった虐待を行う親を表している。集められたデ-タを因子分析にかけた結果、3つの因子が抽出され、それぞれの因子は、「明朗性因子」「情動性因子」「活動性因子」と命名された。さらに、児童相談所職員、保育士、看護婦の3職種全てが、親一般よりも虐待を行う親のイメ-ジをネガティブに評価するが、児童相談所職員は、保育士もしくは看護婦・士よりも、虐待を行う親を親一般のイメージに比較してネガティブに評価する傾向が弱いことが示された。本研究からは、虐待を行う親のイメージは職種間によってずれのあることが示唆されたが、このことは、異なる機関同士での連携を困難にする可能性を示している。よって、児童虐待事例において、異なる機関同士でのよりよい連携を目指すためには、それぞれの機関のそれぞれの職員が、これらのことを自覚する必要がある。
著者
伊田 政司 谷田部 友香
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.71-80, 2005-01

法的判決と一般の人々が行う主観的な「判決」はくいちがうことがある。この差はどの程度のものなのだろうか。大学生を調査対象として調査を行った。新聞報道された20の刑事事件裁判を選択し、それらの要約を示し、適切と思われる主観的判決を求めた。主観的判決は判決を知らされていない条件では平均して5.3年、判決を知らされた条件では3.6年それぞれ重い刑を科していた。また、犯罪の特徴を評価する質問への評定平均値より事例間の類似度を求め、多次元尺度構成法によって犯罪イメージの二次元空間表現を求めたところ、第1次元は「犯罪のひどさ-同情の余地」、第2次元は「意図的-偶発的」と解釈することのできる布置が得られた。
著者
松宮 孝明
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.22-27, 2001-10

本稿は、「交通事故における刑事過失責任の意味と機能」を論ずるものである。「原因」という概念は、それが使用される文脈によって多様である。刑事責任追及は、出来事をある個人ないしその誤りのせいにするシステムである。そのためには個人の過失、つまり不注意が必要である。ところが、注意は社会的脈絡によって決まる。情況が悪いときは過大な期待がなされることもあるし、状況がよければたいした期待はされないこともある。しかし、人間の能力には限界があり、かつ人間のエラーは不可避である。ときには、刑事責任追及および処罰が、交通事故の予防にとって逆機能的に働く場合もある。本稿は、合衆国やヨーロッパにあるような交通事故調査とそのための独立の調査委員会の必要性をも含めて、刑事処罰の合理的な役割と限界について指摘し、法学と心理学の課題を明らかにするものである。
著者
安原 浩
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.12-15, 2012-10

刑事裁判実務に長年携わった経験からは、取調べの科学化、あるいは高度化がいかに困難かを指摘せざるを得ない。日本では密室の取調べが定着し、裁判所もこれまでその結果を尊重してきたからである。しかし裁判員裁判をきっかけに、これまでのような供述調書依存の刑事裁判が構造的に変化しつつあり、可視化が進展する素地が生まれつつある。
著者
指宿 信
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.102-103, 2006-08
著者
白井 美穂 黒沢 香
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.114-127, 2009-10

本研究では裁判員制度の枠組みから「専門家でない人々による量刑判断の要因」について、前科情報による効果を中心に、しかし今後の研究の土台として他要因についても多角的な検討を試みた。大学生及び社会人を対象とした2つの質問紙実験の結果から、量刑判断の主な要因としては被告人の再犯可能性や事件の悪質性の推測が挙げられ、また厳罰傾向と呼べる個人変数も重要な要因であることが示された。本研究でみられた主な前科情報の効果は、被告人に前科がある場合はより再犯可能性が高く推測され量刑も重くなったこと、また呈示事件が前科から長期間経過しておりかつそれらの事件内容が類似している場合に、事件の種類に関わらず量刑が最も重くなったことが挙げられるが、量刑判断と前科情報の関連は被告人についての情報呈示のあり方によって顕著となる可能性が示された。また本研究では性犯罪である強姦致傷も含め量刑判断において性差は一貫してみられなかったが、参加者の性別とJW得点の交互作用が厳罰傾向を媒介して量刑判断に関連したことを示し、間接的に量刑へ影響を及ぼし得ることを示した。
著者
村山 満明
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.121-124, 2011-10

強姦致傷被告事件について行った外傷性記憶に関する専門家証言ならびに被害者供述の供述分析の結果について報告した。専門家証言においては、文献に基づいて、外傷的体験の記憶であるということのみで、その記憶は正確であるというように一般化することはできないこと、また、外傷的体験を想起することは記憶の断片をつなぎ合わせて受け入れられるストーリーを構成することであり、その過程では記憶が歪曲を受ける可能性があることなどを述べた。次に供述分析では、被害者供述には加害者の特定、犯行内容、加害者特定の手がかりとなる情報に関して種々の変遷がある、加害者について被告人には当てはまらない事柄を述べている、重要な物証の存在について述べながらその証拠が提出されていない、一時期「rapeは嘘だった」と述べているなどのことを指摘した。そのうえで、被告人が真犯人であると考えると、被害者の一連の供述には理解が困難となる点が認められるのに対し、被告人が真犯人ではないと考えると、偽りの記憶が生まれる可能性さえ考慮すれば、その一貫した理解が可能であると結論した。
著者
久保山 力也
出版者
法と心理学会
雑誌
法と心理 (ISSN:13468669)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.45-50, 2010

本稿では、交通事故ADR(裁判外紛争解決)システムに着目し、特にわが国のADRにおける「相談」の価値を再評価しながら、ADRがおかれた環境の変化にも依拠しつつ、「法と心理」研究の可能性について探る。交通事故ADRについては、「相談」が紛争解決プロセスの一翼を担っており、さまざまな問題をはらみつつも、一定の成果をあげてきた。次世代型ADRでは、こうした環境を発展させ、より紛争当事者の「想い」にそった紛争解決システムの充実が望まれている。たとえば、リーガルプロフェッションと紛争当事者とのコミュニケーションを通じ、「協働」により紛争解決を達成する仕組みづくりが求められる。「法と心理」研究は、さまざまな「想い」を含む「相談」フェイズの具体的、実証的な研究の分野において、特に強い貢献が期待されているのである。