著者
松田 淳 大津 広敬 藤田 和央 鈴木 俊之 澤田 恵介 安部 隆士
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-18, 2006-03

USERSミッションでは再突入フェーズを利用して,再突入時に発生する衝撃層内の輻射光の分光スペクトル取得実験が行われた.再突入カプセルの先端ノーズ部半径は0.55mで,再突入速度は約7.5km/sであった.高度約90km付近で取得されたスペクトルからは,従来の予測では考慮されていなかったOH,NH,CH等のアブレータと大気構成化学種との反応生成化学種からの発光が支配的であった.そこで,アブレーションを考慮したCFD解析を行い,その影響についての評価を試みた.その結果,壁面付近ではアブレータ起源化学種と大気構成化学種の反応化学種からの発光が無視できないほどの強度になることが示唆された.
著者
三浦 裕一 石川 正道 竹之内 武義 小林 礼人 大西 充 吉原 正一 桜井 誠人 本多 克也 松本 昌昭 河合 潤
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-100, 2005-03

1990 年代に行われた宇宙実験によって,ピストン効果は,臨界点近傍において普遍的に成立する臨界減速(critical slowing down)に桁違いの速さで熱を伝える効果をもち,結果的に熱輸送は臨界加速(critical speedingup)するメカニズムとして作用することが明確となった.その速さは音速によって規定され,対流,拡散,輻射とは異なる,第4 の熱輸送メカニズムとして認知されるに至った.宇宙実験と平行して発展したピストン効果の理論的検討は,ピストン波が加熱ヒーターの境界層で断熱膨張によって励起され,バルク流体中を高速に伝播することを明らかにした.このような研究の進展において,次の点がいまだ不十分であることが明らかとなった.(1)これまで行われたピストン波の観測は,高々ビデオ収録の時間分解能(1/30 秒)の範囲であり,音速(〜 100 m/s)から見積もられる進行速度と比較すると,実際に観測された現象は試料セル内を数100 往復した後の現象しか捉えていない.すなわち,ピストン波の素過程を直接見たとは言えず,平均化された間接的な効果しか見ていない.(2)実験的に実現された臨界温度への接近は,高々T - T_C 〜 30 mK であり十分臨界点に近いとは言えない.(3)小貫による精密な動的臨界現象理論によると,ピストン波に強い影響をもつ体積粘性係数(bulk viscosity)は,臨界温度T_C に十分近づいた場合に強く発散する.しかしながら,これまでのピストン効果の実験研究では,このような効果に関する観測事実は全く報告されていない.すなわち,理論と実験的事実とが食い違っている,あるいは実験が理論に追いついていない.そこで,我々の研究の目的は,上記の研究の不足を克服することを目的として,(1)音速で伝播するピストン波の素過程を直接観測する.(2)臨界温度への接近は,T - T_C 〜 1 mK を実現する.(3)ピストン波の直接観測により,ピストン波の熱輸送量をT - T_Cを関数として定量的に計測する.これによって,動的臨界現象理論が成り立つかどうかを検証する.このような高精度の実験を前提とした研究目的を実現するためには,微小重力環境を利用することは不可欠である.特に,理論と実験との食い違いを克服し,新規な動的臨界現象理論を実証するためには,重力効果による未知の効果を取り除き,不必要な可能性を排除することは極めて重要である.本研究では臨界流体を用いた欧州のフライト実験で観測されているピストン効果について,その素過程からの解明を目指した地上実験を実施してきた.我々が技術開発を進めた結果,多段の熱シールドからなる温度制御・測定系を構築し,常温において± 1 mK の精度で温度制御することが可能となり,マイクロ秒レベルのパルス加熱によって,臨界点近傍で相関距離に近い厚みの熱拡散層を励起できるようになった.さらに,マイケルソン干渉計とフォトマルを組み合わせた光学測定系を構築し,相対密度感度7 桁の精密測定によりマイクロ秒のオーダーでの高速現象の観測を可能にした.このような技術開発は,従来の実験技術を格段に上回るものであり,従来全く得ることができなかったピストン波の特性を定量的に測定することを可能とし,ピストン波の発信に伴うエネルギー輸送の効率計測,流体全体が音速で瞬時に均一に温度上昇する断熱昇温現象の観測,また,理論的にのみしか予想されていなかった臨界点に極めて近い領域における動的な輸送係数の発散を初めて観測するなど,極めて多くの知見を得ることに成功した.また,臨界点近傍のピストン効果ダイナミクスは重力に強く影響することも明らかにし,微小重力実験の有望性を実証した.このような技術開発の蓄積を踏まえ,ロケット実験を想定した実験装置の小型化およびリソースの軽減,臨界流体を扱う場合避けることのできない臨界タンパク光散乱によるSN 比の低下を回避するための宇宙用赤外干渉計の新規開発,試料充填時における臨界密度の設定誤差低減に関する試料取り扱い技術の向上,実験計画の作成など,宇宙実験実施に関わる中核技術の開発と運用構想を作成し,その有望性を評価した.
著者
鈴木 広一 苅田 丈士 甲斐 高志 小林 弘明 高嵜 浩一 廣谷 智成 倉谷 尚志
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-20, 2008-01

宇宙航空研究開発機構では,将来の宇宙輸送システムコンセプトの絞り込み,開発すべき技術課題の抽出,および現状技術の改善目標を設定するため,概念設計ツール(Systems Evaluation and Analysis Tool: SEAT)を開発中である。本報告書では,まずSEAT開発の目的,開発シナリオをまとめ,開発した雛形ツールについて報告する。ついで,代表的なエンジンの評価を行うため,雛形ルールを用いて5種類の宇宙輸送システムの概念設計を行った。本報告書では,液体ロケットエンジン,Turbine-Based Combined Cycle(TBCC)エンジン,およびRocket-Based Combined Cycle(RBCC)エンジンを対象とした。概念設計は,全備重量が最小となるように行った。その結果,母機,軌道機共にロケットエンジンを使用する二段式宇宙往還機のコンセプトが,最も軽量となる結果が得られた,本システムはエンジン搭載性についても問題がなく,最も現実的なシステムである。TBCCエンジンやRBCCエンジンといった空気吸い込み式のエンジンを使用する場合には,必要なエンジン基数が多くなり,その搭載性に問題があるという結果が得られた。
著者
堀之内 茂 大貫 武 吉田 憲司 郭 東潤 徳川 直子 滝沢 実 進藤 重美 町田 茂 村上 義隆 中野 英一郎 高木 正平 柳 良二 坂田 公夫
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-162, 2006-03
被引用文献数
1

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は航空宇宙技術研究所(NAL)の時代から次世代超音速機技術研究開発プロジェクトを開始し、ロケットにより打ち上げる無人の小型超音速実験機(NEXST-1;以下ロケット実験機)の開発と飛行実験を行った。実験機の空力形状はJAXAが開発したCFDコードにより設計されており、飛行実験の目的はその実証にある。基本設計は平成9年度から開始し詳細設計、維持設計を経て平成13年度に実験機システムが完成した。平成14年7月にオーストラリアのウーメラ実験場で第1回飛行実験を実施したが、打上ロケットのオートパイロットの不具合により実験は失敗に終わった。その後、信頼性向上ための改修を行い、平成17年10月10日に第2回飛行実験を成功裏に完了した。本報告書は研究開発プロジェクトの概要と第1回飛行実験にいたる設計の結果、及び地上での確認試験の結果についてまとめたものであり、補足として、第1回飛行実験の状況、その原因調査、及び対策検討の結果にも触れた。改修設計の結果、及び第2回飛行実験のフェーズについては別途報告書がまとめられる予定である。
著者
入交 芳久 落合 啓 笠井 康子 山上 隆正 斉藤 芳隆 飯嶋 一征 井筒 直樹 並木 道義 冨川 善弘 村田 功 佐藤 薫
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.67-74, 2008-02

気球搭載型超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(BSMILES:Balloon-borne Superconducting Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder)は,成層圏中の微量分子を観測する有用な装置である.2006年9月4日,成層圏中のHO_2の日変化の観測することを目的に,BSMILES による第三回目の放球実験が行われた.BSMILES には直径300mm のオフセットパラボラアンテナ,液体ヘリウム冷却の630GHz 帯超伝導受信機,音響光学型分光計,3軸光ファイバジャイロ等が搭載されている.BSMILES はB200型気球により放球され,高度約37.9km においてオゾンや微量分子の観測を行い,観測終了後海上回収された.
著者
菅原 敏 橋田 元 石戸谷 重之 並木 道義 飯嶋 一征 森本 真司 青木 周司 本田 秀之 井筒 直樹 中澤 高清 山内 恭
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.77-87, 2005-02

第45次南極地域観測隊行動の一環として,南極昭和基地においてクライオジェニックサンプラー回収気球実験が実施された.実験は2回実施され,2003年12月26日と2004年1月5日にそれぞれ気球が放球され,高度10kmから30kmにおいて成層圏の大気サンプルを採取することに成功した.大気サンプルの採取が終了した後,観測器はパラシュートによって海氷上に着地し,無事にヘリコプターで回収された.日本に持帰った後にサンプル容器の内圧を計測したところ,採取された成層圏大気サンプルの量は,9〜18L(STP)であり,さまざまな大気成分の分析をするために十分な量のサンプルが得られていた.今後進められる分析の結果を,1998年の実験結果と比較することにより,南極成層圏における大気成分の長期変動などが明らかにされるものと期待される.
著者
田中 昌宏 建部 修見
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.67-75, 2012-03

大規模な科学データ処理のため,計算機クラスターによる高性能な並列処理が必要とされている.特別な並列プログラミングを必要とせずにこれを実現するため,私たちはワークフローシステムPwrake を開発している.Pwrake はRake というビルドツールをベースにしており,これによりプログラミング言語を活用した高度な科学ワークフロー定義が可能となる.Rake に並列分散機能およびGfarm ファイルシステムのサポート機能を拡張したものがPwrake である.Pwrake の性能評価のため,天文画像処理ソフトウェアMontage のワークフローをRake で記述し,Pwrake を用いて実行時間を測定した.Gfarm で実行した結果はスケーラブルな性能向上を示し,ローカルストレージの利用を高めることで性能が14% 向上した.さらに2 拠点のクラスタを用いた測定においてもスケーラブルな性能向上を達成した.
著者
梁 忠模 青山 剛史
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-24, 2008-02

ロータの回転や6自由度の機体運動等の複雑な動きのため、メイン/テールロータ及び胴体からなるヘリコプタの数値シミュレーションにおいて、正確で速い補間アルゴリズムの重要性が高まってきている。本報告では、直交格子と曲線格子で構成される移動重合格子を利用したCFD コードに対して、より正確で早い補間法を提案した。新しい補間法では、(1)直交格子の特性、(2)ヘリコプタ・ブレードの特殊な幾何学的配置、及び(3)並列計算時の計算負荷バランスなどを十分有効に利用できるアルゴリズムが考案されている。第一章では、Alternating Index Searching (AIS) アルゴリズムを提案し、従来のLinear Searching アルゴリズムに対し、2 次元の簡単なケースと実際のヘリコプタを模擬した3 次元計算のケースで補間計算の速度を比べた。第二章では、並列計算における各計算ノードの負荷バランスを考慮したReverse Index Searching (RIS) アルゴリズムを提案した。この補間法を利用することによって、ヘリコプタのより効果的な大型計算を実現することができた。
著者
吉田 純 高橋 幸弘 福西 浩 堤 雅基 牛尾 知雄
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-54, 2005-03

現在,金星大気超回転の解明を主目的とした金星気象衛星(VCO:Venus Climate Orbiter)を打ち上げるPlanet-Cミッションが宇宙航空研究開発機構/宇宙科学研究本部を中心として進行中である.我々はVCOに搭載する雷・大気光カメラ(LAC:Lightning and Airglow Camera)の開発を行っている.LACは金星夜面における雷放電発光・大気光を2次元で高速イメージングする観測器である.雷放電観測では,まずこの現象の存在の決定的な証拠を得て,長年の論争を収束させることを目標とする.さらに,その電荷生成・分離メカニズムの解明や硫酸雲物理学の理解,惑星メソスケール気象学の発展,金星大気中における熱的・化学的寄与の見積もりなど,様々な分野に貢献することが期待される.大気光観測では,発光強度の緯度・経度分布から金星超高層大気の運動を継続的にモニターし,さらに波状構造をイメージングすることで,金星下部熱圏と下層大気の力学的結合過程の解明,金星熱圏大気大循環メカニズムの理解の進展が期待される.さらに近年,地上望遠鏡で発見された558nm[OI]の連続観測も実施し,その発光強度分布や時間変動を捉え,オーロラとも解釈できるこの発光現象の解明を目指す.LACのセンサーとしては,高感度を有し,かつ高速サンプリングが可能なものが要求される.また本観測器は,雷放電発光観測用に波長777nm[OI]の干渉フィルタを採用し,50kHzプレトリガーサンプリングでデータを取得する.一方,大気光観測時には波長551nm[O_2Herzberg II],558nm[OI]で連続サンプリングを行い,積分時間10secで1枚の画像を作成する.VCOは金星低緯度を周回する長楕円軌道をとるが,LACはこのうち近金点(高度300km)付近から金星より3Rv離れた地点までの高度範囲で運用する.その際,雷放電発光観測に関しては距離3Rvの地点から地球の平均的発光強度のものを,1000kmの高度からはその1/100レベルのものまでを検出することを目標とする.一方,大気光に関しては発光強度100Rのものを,SN比=10を確保して検出することを目標とする.上記の性能を達成するため,我々は第一に,LACのセンサーとして光電子増倍管(PMT:Photo Multiplier Tube)とアバランシェ・フォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diode)の2つを検討した.いずれも8×8の2次元配列素子である.絶対感度校正実験から得られた出力電流値と,暗電流測定試験から得られた暗電流値から,本観測器で100Raylieghの光源を観測した場合の暗電流統計揺らぎによるSN比が10以上であることを確認した.しかしながらAPDについてはバックグラウンドレベルの温度安定性が低く,光量の小さい大気光観測は適さないことがわかった.またPMTに関しては波長777nmにおける量子効率がAPDに比べて小さく,雷放電発光観測は困難であることが判明した.第二に,金星夜面観測の際に視野内に混入することが予想される迷光(太陽直達光,金星昼面光)の量を見積もり,迷光減衰要求量11桁を達成する高い遮光技術を有する光学系の設計・開発を行った.衛星側面に設置し片側を宇宙空間に暴露させ,対物側に4枚の遮光板(vane)と1段バッフルを取り付けた光学系を設計した.本光学系を採用する際,衛星表面を覆う金色のサーマルブランケットや設置面上にある突起物を介して,迷光が観測視野内に混入することが懸念されるため,我々は暗室内で精密な模型実験を行った.その結果,衛星突起物がベーン陰影内にある場合,その迷光量はカメラ部の1段バッフルから検出器間の遮光対策で十分減衰可能な量であることを定量的に示した.第三に,高速サンプリング時におけるデータ取得方法の考案・検討を実施した.忘却係数という概念を用いてトリガーサンプリング方法を考案し,地上フォトメータで捉えられた地球雷放電発光の波形で試験した結果,ノイズと分離して信号を検出することに成功した.本研究成果により,LAC開発に必要不可欠な基礎技術の活用に見通しを立てることができた.
著者
河村 洋
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-10, 2006-03

本研究は,微小重力科学国際公募(IAO)のテーマの一環として,国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)に搭載される実験装置の相互利用を目的として行われた.ハーフゾーン液柱内の対流場を可視化する方法として,一般にトレーサ粒子法が用いられる.地上実験において,対流場が三次元回転振動流を呈する際,トレーサ粒子が1 つの閉じたひも状に集合する現象を捉えている.これをSpiral Loop Particle Accumulation Structure(SL-PAS)と名づけた.本研究では,実験用小型ロケットMAXUS6 を用いた宇宙実験を,2004 年11 月22 日に欧州宇宙機構(ESA)の支援により行った.これにより,微小重力環境下においても粒子が集合し,SL-PAS が形成されることが始めて明らかになった.さらに周方向波数m = 2 及び3 のいずれの場合もSL-PAS の形成に成功した.SL-PAS の上面及び側面の2 方向からの可視化により,微小重力環境下におけるSL-PAS の三次元的構造を再構築することに成功した.さらに同条件での数値シミュレーションによってもSL-PAS の再現に成功した.
著者
村上 義隆 多田 章 滝沢 実 中野 英一郎
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-66, 2007-03

小型超音速実験機NEXST-1(以下,ロケット実験機)の第2回飛行実験は,平成17年10月10日早朝,南オーストラリア州ウーメラの実験場で実施され,CFD検証データ取得を始め全てのミッションを達成して飛行実験は成功した。 ロケット実験機の通信系統は,機上と地上を一対の通信系として,飛行データ伝送系のテレメータ装置,非常指令系のコマンド装置,飛行追跡系のレーダ・トランスポンダ装置の3つの通信系で構成されている。本研究開発報告書においては,第2回飛行実験における各通信系の改良設計およびシステム改修について,飛行実験前にオーストラリアARA社の小型飛行機を用いて実施した各通信系装置の機能確認飛行試験の結果について述べ,最後にロケット実験機の飛行15分22秒間で得られた各通信系受信信号強度指示値(RSSI)と回線設計値の解析・比較を行い,通信系統設計の妥当性ならびにIMUと追跡レーダの測位を比較した結果について報告する。実験機は背面状態でロケットブースタにより打ち上げられる。本回線設計の検証評価ではロケット噴煙損失モデルの妥当性についても触れた。
著者
中川 道夫 海老原 祐輔 江尻 全機 福田 真実 平田 憲司 門倉 昭 籠谷 正則 松坂 幸彦 村上 浩之 中村 智一 中村 康範 並木 道義 小野 孝 斎藤 芳隆 佐藤 夏雄 鈴木 裕武 友淵 義人 綱脇 恵章 内田 正美 山上 隆正 山岸 久雄 山本 幹生 山内 誠
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.75-90, 2009-02

オーロラX線イベントの2 次元イメージを得ることと,30keV から778keV の領域でエネルギースペクトルを得ることを目的として,大気球を編隊飛行させ観測を行うバルーンクラスター計画の下に,2003 年1 月13 日にPPB8 号機とPPB10 号機の2機が南極の昭和基地より放球された.両機は大気深さ9-12 g / cm^2を保ち,磁気緯度55°.5-66°.4 の範囲を飛翔し南極大陸を半周した.両機はフライト中に多くのオーロラX線イベントを観測した.特に,1月22 日から1 月25 日には,数例のイベントが両機で同じ時間帯に観測されている.2003 年1 月23 日には,始めに10 号機,218sec. の間隔をあけて8 号機でイベントが観測された.このとき8 号機は10 号機の西650km に位置していた.このことはオーロラX線源が速さ約3.0km / sec.で西に向かって移動していたことを示唆している.本論文では同じ時間帯に観測された,オーロラX線イベントについてその描像を述べる.
著者
山本 明 安部 航 泉 康介 板崎 輝 大宮 英紀 折戸 玲子 熊沢 輝之 坂井 賢一 志風 義明 篠田 遼子 鈴木 純一 高杉 佳幸 竹内 一真 谷崎 圭裕 田中 賢一 谷口 敬 西村 純 野崎 光昭 灰野 禎一 長谷川 雅也 福家 英之 堀越 篤 槙田 康博 松川 陽介 松田 晋弥 松本 賢治 山上 隆正 大和 一洋 吉田 哲也 吉村 浩司 Mitchell John W. Hams Thomas Kim Ki-Chun Lee Moohyung Moiseev Alexander A. Myers Zachary D. Ormes Jonathan F. Sasaki Makoto Seo Eun-Suk Streitmatter Robert E. Thakur Neeharika
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.81-96, 2008-02

本研究は,南極周回超伝導スペクトロメータによる宇宙線観測(BESS-Polar 実験)を通して,『宇宙起源反粒子,反物質の精密探査』を目的としている.地球磁極領域に降り注ぐ低エネルギー宇宙線に注目し,反陽子スペクトルを精密に測定して,衝突(二次)起源反陽子流束の理解を深めるとともに,『原始ブラックホール(PBH)の蒸発』,『超対称性粒子・ニュートラリーノの対消滅』等,初期宇宙における素粒子現象の痕跡となる『宇宙(一次)起源反粒子』を精密探査する.反ヘリウムの直接探査を通して,宇宙における物質・反物質の存在の非対称性を検証する.同時に陽子,ヘリウム流束を精密に観測し,これまでのカナダでの観測(BESS実験,1993-2002)の結果と合わせて,太陽活動変調とその電荷依存性について系統的に観測し,宇宙線の伝播,相互作用に関する基礎データを提供する.本研究では,これまでのBESS 実験で培われた超伝導スペクトロメータによる宇宙線観測の経験をもとに,低エネルギー領域での観測感度を高め,南極周回長時間飛翔を可能とする超伝導スペクトロメータを新たに開発した.2004年12月13日,南極(米国,マクマード基地)での観測気球打ち上げ,高度37km での9日間に及ぶ南極周回飛翔に成功し,9億イベントの宇宙線観測データを収集した.運動エネルギー0.1〜1.3GeV の範囲に於いて,これまでの約4倍の統計量でエネルギースペクトルを決定した.結果は,衝突(二次)起源モデルとよく整合し,一次起源反陽子の兆候は観測されていない.太陽活動が極小期にむけた過渡期にあたる2004年の観測として予想に沿った結果を得た.反ヘリウム探索は,これまでのヘリウム観測の総統計量を2倍以上に高め,反ヘリウム/ヘリウム比の上限値を2.7×10^<-7>にまで押し下げた.本報告では,BESS-Polar(2004年)の成果を纏め,次期太陽活動極小期(2007年)における第二回南極周回気球実験計画を述べる.
著者
上田 裕子 小堀 壮彦
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-8, 2006-04

We examined a distributed computing middleware conformable to IEEE Standard 1516, High-Level Architecture/Run-Time Infrastructure(HLA/RTI). That is applied for parallel developments of H-IIA Transfer Vehicle(HTV) simulator by JAXA and International Space Station(ISS) simulator by NASA. A network emulation tool is used for distributed experiments to actualize reproducible network environments on various conditions. The dependencies on bandwidth and delay of the network as well as the other factors which affect the performance of applications are shown.
著者
稲富 裕光 王 躍 菊池 正則 中村 龍太 内田 祐樹 神保 至
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-18, 2005-03

本報告では,半導体結晶の溶液成長過程における以下の研究成果を述べる.(1)半導体結晶の溶液成長過程における固液界面の形態変化に及ぼす基板結晶の面方位の影響を調べるために近赤外顕微鏡を使ったその場観察実験が実施された.その結果,対流を抑制することでGaP/GaP成長界面のステップカイネティクス係数の面方位依存性が得られ,結晶成長時におけるマクロステップの挙動が評価された.また,GaAs_xP_<1-x>/GaPヘテロLPE 成長初期の固液界面の表面形態変化が基板表面の面方位依存性の視点から議論された.(2)静磁場THM 法によりTe 溶液から育成したCdZnTe 結晶の成長界面が急冷法によって調べられた.その結果,浮力対流を抑制することで速い引き下げ速度でも良質なCdZnTe 成長結晶を得られることを示した.
著者
齋藤 実穂 齋藤 義文 向井 利典 浅村 和史
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-33, 2005-11

本研究の目的は,磁気圏in-situ 高温プラズマ観測において,電子ダイナミクスを解明する高い時間分解能を得ることができる,新しい方式による検出部の開発である.MCP(microchannelplates)と位置検出マルチアノードからなり,ASIC(Application specific integrated circuit)技術を取り入れるところが新しい.ASICとマルチアノードの組み合わせは,最も高速な信号処理を可能にするだけでなく,同時に小型,軽量,低消費電力な検出部になると期待が持てる.これを可能にする基盤技術は,ASICをアノード基板(セラミック)の裏面へ直接搭載することである.アノード表面は,多数の個別アノードを構成する導体パターンが,プリントしてある.このアノード基板をはさんだ,表と裏の導体パターンによる静電容量を,信号検出に用いる.これは,アノード表面の高電圧と信号処理系を絶縁する,高電圧絶縁コンデンサーの代用である.アノード基板は,厚さ1mmのアルミナであり,導体パターンでつくる.基板利用コンデンサーの静電容量は3pFである.これは通常,信号検出に用いられる,高電圧絶縁コンデンサーの静電容量より2桁小さい.高電圧絶縁コンデンサーを,この極めて小さい静電容量で代用できるかというのは,小型化を目的としてた電子検出部として,ASICを採用できるかどうかの決定要素であった.しかしながら,われわれの実験結果は,低静電容量による信号の減衰はあっても約50%であることを示した.厚さ1mmというのは,構造強度の要求を満たすので,この基板利用コンデンサーは,衛星搭載機器に利用できる設計概念である.次に個別アノード間の静電カップリングを測定した.多くの個別アノードが有効面積を大きくとれるように互いに隣接した構造をとる.マルチアノードシステムでは,重要な検討項目である.その結果,基板利用コンデンサーを使用するアノードは,隣接する個別アノード間に10%のクロストークがあった.一方で,アノードと処理系を直結させる場合では,電気的クロストークは無視できるレベルである.よって,電気的クロストークも,基板利用コンデンサーの低い静電容量の影響である.10%のクロストークは,アノード運用時,信号レベルの適切な設定により十分回避できる大きさであるが,将来的には,静電容量を大きくとるほうが望ましく,今後の課題である.今回,ASICはローレンスバークレー研究所が開発してきたSSD用の荷電アンプ,ディスクリミネータ,カウンターまでを含むチップを用い,マルチアノードを試作した.このチップのサイズは,およそ1.2mm×1.2mmである.実際に,イオンビームを照射し,試験した結果,われわれの新しいタイプのマルチアノードは,さらに研究を進める必要があるものの将来の磁気圏ミッションで,高時間分解能な高温プラズマ観測へ適用可能できると結論する.
著者
飯嶋 一征 井筒 直樹 福家 英之
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.117-128, 2006-01

平成11年から数回にわたり東京薬科大学による航空機を用いた成層圏,対流圏での大気中粉塵のサンプリングが行われ微生物の採取が行われた.その結果,大気圏上空では地上で採取した菌よりもより強い紫外線耐性の菌が多く存在していることが明らかとなった.しかし,航空機を用いた実験では飛行高度の限界が12km であった.それ以上の上空にはより紫外線に強い菌の存在が予想される.そこで,より高高度での観測と長時間の大気採集が可能にするため大気球を用いた成層圏における微生物採集実験が計画された.宇宙科学研究本部では微生物採集装置の開発,製作を行い気球に搭載して微生物採集実験を行った.本論では新採集装置の開発,製作,本装置を使用した計2回の微生物採集実験の飛翔結果について報告する.