著者
小野澤 郁佳 久米 朋宣 小松 光 鶴田 健二 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.366-370, 2009 (Released:2010-01-26)
参考文献数
25
被引用文献数
9 10

林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが, 竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として, 樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし, モウソウチクにおいて自作の長さ1 cmのGranierセンサーによる樹液流計測, 切り竹による吸水量計測を行った。その結果, 自作センサーにより桿内の水の上昇 (以下, 樹液流と呼ぶ) の検出が可能であり, 計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には, 従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され, 新たな樹液流速換算式を提示した。以上より, 樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
著者
小松 光 久米 朋宣 大槻 恭一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.94-103, 2009-04-01
参考文献数
48
被引用文献数
3 9

針葉樹人工林の間伐による渇水緩和機能の変化を評価する一環として,小松ら(2007c)は間伐による年蒸発散量の変化を予測するためのモデルを作成した。このモデルは蒸散と遮断蒸発の部分からなり,モデルの妥当性は,1)間伐による蒸散量の不変性,2)間伐による遮断蒸発量の減少量,3)モデルの流域スケールへの適用可能性の3点から検証される必要がある。本論ではおもに2)の検証を行った。間伐による遮断蒸発量の変化を計測した7事例を文献より収集し,モデルによる予測結果と比較したところ計測値とモデル予測値は概ね一致し,2)がほぼ妥当であると思われた。3)については,流域水収支法による蒸発散量の計測データが1事例しか得られなかったが,このデータについては計測値とモデル予測値は概ね一致し,モデルが流域スケールへ適用できる可能性が示唆された。本論では1)の検証は行われておらず,3)の検証も不十分であるので,将来の検証作業で必要となるデータを列挙し,今後の計測研究に指針を示すことも行った。
著者
篠原 慶規 井手 淳一郎 東 直子 小松 光 久米 朋宣 智和 正明 大槻 恭一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.54-59, 2010 (Released:2010-04-01)
参考文献数
44
被引用文献数
12 14

近年, 管理放棄された人工林が増加している。蒸発散量は水資源量に大きな影響を与える要素であるが, 管理放棄人工林での計測事例と判断できるものはこれまでになかった。本研究では, 九州大学福岡演習林に設置された御手洗水試験流域の管理放棄されたヒノキ人工林において樹冠遮断量の計測を行い, 他の針葉樹林と比較した。本試験地の樹冠遮断率 (樹冠遮断量/降水量) は24.9%となった。他試験地の針葉樹林の樹冠遮断率は立木密度とともに増加する傾向があり, 本試験地の樹冠遮断率はその分布の範囲内に収まった。このことは, 従来報告されている樹冠遮断率と立木密度の関係が, 管理放棄人工林に対しても成り立つかどうかを判断する上で有益な情報となるであろう。
著者
相浦 英春
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.73-79, 2005-02-01
被引用文献数
2

斜面積雪の安定に必要な林分の条件を, 斜面雪圧によって立木に根返りが発生しないとともに, 林内の積雪が安定していることとし, 各種の森林における積雪の移動量や, 立木に加わる斜面雪圧などの測定を行い, そのような条件を満たす立木密度についてスギとブナを対象に検討した。その結果, 斜面雪圧によって立木の根返りが起こらない限界の立木密度は, 最大積雪深と立木の根元直径によって樹種ごとに決定された。また, 林内の積雪を安定させるためには, 立木がほぼ均等に分布していることを前提として, 立木密度400本/ha以上が必要であった。したがって, 斜面積雪の安定に必要な立木密度は, これらの条件をともに満たす値として求めることができた。
著者
小川 泰浩 清水 晃 久保寺 秀夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.329-336, 2006-10-01
被引用文献数
2

1995年に雲仙普賢岳噴火活動が終息し数年が経過した時点において,降下火山灰が堆積した林地と火砕流堆積地における火山噴出物表層の透水性変化過程を明らかにするため,表層の飽和透水試験と土壌薄片による表層の土壌微細形態を解析した。リターが地表に堆積したヒノキ林地と広葉樹林地の火山灰層では粗孔隙が分布し,透水性はリターの堆積によって向上していた。ヒノキ林地の中でもリターが地表にみられない場所の火山灰層には薄層がみられ,孔隙率と飽和透水係数はヒノキリターが堆積した火山灰層に比べ低い値を示した。この薄層は,表面流で移動した火山灰が堆積して形成された堆積クラストであると考えられた。火砕流堆積地では細粒火山灰が流出した結果,孔隙特性が良好となって表層の透水性が上昇したと推察された。噴火活動終息後数年が経過することにより,林地と火砕流堆積地における表層の透水性には違いがみられ,土壌微細形態解析によってこの違いはリターの堆積や細粒火山灰の流出に伴う表層の堆積構造の変化により引き起こされていると推察された。
著者
平岡 真合乃 恩田 裕一 加藤 弘亮 水垣 滋 五味 高志 南光 一樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.145-150, 2010 (Released:2010-08-10)
参考文献数
29
被引用文献数
14 19

ヒノキ人工林における地表の被覆物が浸透能に及ぼす影響を明らかにするために, 急峻な斜面の14地点で振動ノズル式散水装置による浸透能試験を行って最大最終浸透能を測定し, 下層植生をはじめとする地表の被覆物との間で回帰分析を行った。得られた最大最終浸透能は5∼322 mm h−1 であり, 最大最終浸透能と下層植生量, 植被率との間に有意な正の線形関係が認められた。植被率が50% を下回ると最大最終浸透能は45 mm h−1以下と低くなり, 自然降雨下においてホートン型地表流の発生する可能性の高いことが示された。また, 植被率をブラウン-ブランケの被度指標で読み替えた場合でも, 被度3以下で最大最終浸透能が急激に低下することが示された。本研究の結果から, 急峻なヒノキ林斜面では下層植生で被覆された地表面で高い浸透能を維持できること, また下層植生の被度区分を浸透能の指標とできる可能性が示唆された。したがって, ホートン型地表流を抑制する観点から浸透能の目標値を設定し, 下層植生の被度調査によってヒノキ林の荒廃度を評価できる可能性があり, 下層植生を指標とした水土保全機能の評価に基づいた, 施業計画の策定につながることが期待できる。
著者
小川 安紀子 藤原 章雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.5, pp.360-364, 2007 (Released:2008-08-19)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

アメリカ合衆国のLTERネットワーク(USLTER)では,設立以来,データ共有を基本方針の一つとして,情報マネジメントに力を入れてきた。近年では,これまで蓄積されてきたデータを統合・比較研究などに二次利用するため,メタデータを中心とするエコロジカル・インフォマティクスの最新技術の開発と情報インフラの整備に積極的に取り組んでいる。これらの技術の最近の動向を紹介する。
著者
鳥田 宏行
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.354-357, 2005-08-01
被引用文献数
2

2004年2月22日から23日にかけて,北海道日高町では雨氷による森林被害が発生した。被害面積は約163haに達し,カラマツが被害面積全体の84%を占めた。本研究では,被害発生当時の気象状況を明らかにし,数量化I類によってカラマツ林の本数被害率と林況および地況との関係について解析を行った。22日から23日にかけての気象状況は,高度400mよりも上空では0℃以上の暖気層があった可能性が高く,これが標高の高いところでは雨氷害が発生しなかった理由と考えられる。斜面方位のスコアからは,北〜北西の方位が高く,着氷後の風によって被害が拡大したことが示唆された。平均胸高直径のスコアからは,直径が25cmよりも大きくなると,被害が抑制される傾向が示された。
著者
斎藤 真己 平 英彰
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.187-191, 2006-06-01
被引用文献数
1 2

スギ採種園における園外からの花粉汚染対策として,閉鎖したガラス室内にミニチュア採種園を造成し,その得失と有効性を検討した。ガラス室内のスギの開花時期は,雄花が2月4日から3月27日であり,雌花は2月5日から3月22日であった。これに対して,野外のスギ花粉飛散は2月21日から4月6日であったことから開花時期はガラス室内の方が野外より3週間程度早かった。室内の80%以上の個体が開花した時期は,雄花が2月17日から3月13日までで,雌花が2月15日から3月3日までであり,その期間はほぼ完全に重複していた。この採種園から得られた種子の発芽率は21.4%であり,従来型の採種園から得られた自然交配種子のそれと同程度であった。以上のことから,ガラス室内ミニチュア採種園を利用することで園外からの花粉汚染を防ぎ,さらに雌雄の開花期が揃うことから確実な交配が行われると期待される。今後のスギ造林は多品種を少量面積で植栽する方向に向かうと予想されることから,このことを実現する上においても,本手法は有効な手段になると考えられた。
著者
井藤 宏香 伊藤 哲 塚本 麻衣子 中尾 登志雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.46-54, 2008-02-01
被引用文献数
3 11

二次林の遷移に伴う株構造の変化が林分構造の変化に及ぼす影響を明らかにするために,林齢の異なる照葉樹二次林で調査を行った結果,二次林の発達過程には次の三つの段階が検出された。1)伐採後18年を経た段階では,萌芽由来の照葉樹林型高木種が林冠を優占し,伐採直後に優占していた先駆種は,林冠に到達した萌芽個体の被圧によって消失したと考えられた。2)伐採後23〜46年では,林冠個体の多幹率(全個体に対する多幹個体の割合)と平均幹本数,そして実生由来の下層個体の数が減少しており,林冠が閉鎖したために,劣勢な幹の自然間引や実生の定着阻害が起きたと考えられた。3)伐採後60年を経過する段階から萌芽由来の林冠個体が減少しており,株内での幹の競争により単幹化した個体で枯死が発生していることが示唆された。同時に林床の実生も増加しており,林冠個体の枯死に伴う林冠ギャップの形成と林冠構造の複雑化により林床の光環境が好転し,再び実生が侵入したと考えられた。
著者
上村 真由子 小南 裕志 金澤 洋一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.138-144, 2005-04-01
被引用文献数
4

枯死木分解呼吸の環境要因への反応特性を調べるために, 呼吸量を自動測定するシステムを開発し, コナラの枯死木呼吸量を2年間連続測定した。日単位の呼吸量は, 枯死木表面付近の温度変化に伴い明瞭な日変化を示した。また, 降雨による含水率の上昇に伴い呼吸量は急激に減少し, 降雨後に徐々に増加する傾向がみられた。呼吸量の季節変動は, 温度に対して指数関数的な関係があり, 冬期と夏期の呼吸量の差は約8倍であった。同じ温度下における呼吸量のばらつきは主に材の含水率の変化によるものであると考えられ, 一降雨から次の降雨までの含水率の変化に対して呼吸量は平均約1.5倍程度の変化をみせた。温度を変数とした指数関数と含水率を変数とした2次式を乗じた関数を用いて日平均呼吸量の推定を行ったところ, 呼吸量のばらつきの85%を説明することができ, 温度変化に対する呼吸量の季節変化や, 含水率の変化に対する呼吸量の短期的な増減の再現が可能であった。このように, 枯死木の呼吸量は温度と含水率の時系列変化に伴い, 変化幅が約8倍の季節変化と, 変化幅が約1.5倍の含水率の変化に伴う短期的な変化と, 日変化によって複合的に構成されていることが明らかになった。
著者
韓 慶民
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.364-372, 2005-08-01
被引用文献数
2

地球規模の炭素循環過程における森林が果たす役割の評価においてリモートセンシング技術の活用が期待されている。近年,高分解能の超多波長連続分光計が開発されたことが契機となり,環境要因の変化に対する光合成活性を植生の分光反射特性によって捉えることで,光合成生産プロセスがマルチスケールで推定できるようになってきた。本稿では,植生分光反射特性に関連するキサントフィルサイクルや水-水サイクルなどの光合成防御機能について概説するとともに,正規化植生指数,植物水分状態指数および光化学反射指数を紹介し,その生理生態学的意義を検討した。また,これら分光反射指数を用いて,個葉からランドスケープスケールに至る光合成生産の時空間変化の推定について考察した。