著者
田村 典子 相京 千香 片岡 友美
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.71-75, 2007-02-01
被引用文献数
1 5

山梨県富士北麓標高約1,050mの溶岩台地に生育するアカマツ林において,2003年6月から2005年8月まで,43haの区域でニホンリスの捕獲を行った。また,同調査地の林床で,リスによって食べられたアカマツ球果の食痕数を毎月数えた。生息個体数と落下食痕数には有意な正の相関が認められ,食痕数によってリスの生息個体数の相対評価が可能であることがわかった。そこで,富士山北麓1,500haの範囲内のアカマツ林において, 30箇所の植生調査用の方形区を設置し,植生と食痕数の調査を行った。その結果,食痕数が多い方形区には,アカマツ林の中層を構成する樹種が多く,特に中層にソヨゴなどの常緑樹が多いことが明らかになった。ニホンリスにとって,中層の発達したアカマツ林がより好適な生息環境であると考えられる。
著者
石井 健 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.53-60, 2007-02-01
被引用文献数
4 3

ブナ林の組成は日本海側と太平洋側で大きく異なり,椎樹バンクは前者においてより発達しやすい。この理由として,日本海側では積雪が野ネズミによる捕食から堅果を保護していると考えた。そこで,春先に消雪速度の異なる母樹の根元付近と根元から離れた場所において,消雪過程と稚樹の分布,および播種試験による堅果の持ち去り程度を観察した。根元周辺の消雪は他の場所よりも1カ月近く早かった。これに応じて,実生は根元周辺で少なく,離れた場所で多かった。野ネズミによる堅果の持ち去りも,根元周辺で多く発生し,残存数は離れた場所と有意な差が認められた。したがって,根元で雅樹が少ないのは,消雪が早いことで春先に堅果捕食が多くなったためと推察された。このことは,積雪は野ネズミの捕食から堅果を保護することで,ブナの更新に有利に働いていることを示唆している。したがって,日本海側でブナの更新が良好なことも,積雪の保護効果が一因ではないかと考えられる。
著者
奥田 圭 關 義和 小金澤 正昭
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.236-242, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
50
被引用文献数
11 5

シカの高密度化に伴う植生改変による鳥類群集への影響を明らかにするため, 栃木県奥日光のシカ密度の異なる3地域 (各地域8地点) において植生構造と鳥類群集の種組成の関係を調べた。シカ密度と植生条件との関係を調べた結果, シカ密度と生木本数, 胸高断面積合計, 樹種数との間に負の相関がみられ, シカの高密度化により植生構造が改変していることが示唆された。次に, TWINSPANと判別分析を用い, 鳥類群集の種組成の変化要因を調べた。TWINSPANの結果, 調査地点はグループA (シカ高密度地点) とB (シカ低密度地点) に, 鳥類はグループ1∼4に分類された。開放的な環境を選好する鳥種は主にグループ1に属し, グループAに多く出現した。低木層を採食場所とする鳥種は主にグループ4に属し, グループBに多く出現した。樹洞営巣性の鳥種は主にグループ2と3に属し, グループAとBに同程度出現した。また, 判別分析の結果, グループAとBの違いを最もよく判別する植生条件は, 低木層と亜高木層の生木本数と, 低木層の樹種数であった。以上から, 本調査地の鳥類群集の種組成が変化した主要因は, シカの高密度化に伴う植生改変であると結論した。
著者
山原 美奈 河合 昌孝 大場 広輔
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.157-160, 2005-04-01 (Released:2008-05-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

コウヤマキのアーバスキュラー菌根の感染形態を明らかにするために,短根の切片を光学顕微鏡で観察した。その結果,宿主の細胞から細胞へと直接伸長する菌糸とコイル状樹枝状体,嚢状体が認められ,Paris-typeの感染形態であることが判明した。比較観察したスギとヒノキの菌根は,それぞれParis-typeとArum-typeであった。
著者
鵜川 信 藤澤 義武 大塚 次郎 近藤 禎二 生方 正俊
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.105, no.7, pp.239-244, 2023-07-01 (Released:2023-07-20)
参考文献数
33

ニホンノウサギが主軸を切断できるコウヨウザン植栽苗のサイズを明らかにすることを目的として,様々なサイズ(苗高82~197 cm)のコウヨウザン苗を鹿児島県垂水市のスギ皆伐地に60本植栽し,ノウサギによる主軸の切断を1年間にわたり観察した。実験中に15本の苗木が枯死したが,そのうちの1本は枯死前に主軸の食害を受けていた。生残苗では,25本の苗木で主軸の食害がみられた。苗木のサイズが大きくなるほど主軸の食害がみられなくなり,一般化線形モデルでは,植栽時の苗高が140 cm以上,または,高さ60 cmの幹直径が15 mmを超える苗木であれば主軸食害を受ける確率が10%まで低下することが推定された。したがって,植栽した苗木が成長し,苗高や幹直径がこれらの数値を上回れば,ノウサギによる主軸の切断を受けにくくなると考えられた。
著者
村上 智美 林田 光祐 荻山 紘一
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.174-180, 2006-06-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

サポニンを含む果皮とそれを除去するヤマガラの貯蔵行動がエゴノキ種子の発芽に及ぼす影響を明らかにするため, エゴノキの種子散布と発芽特性を東北地方の落葉広葉樹林で調べた。成熟果実は9月までにすべて樹上から消失した。4日間の観察期間中ヤマガラのみがエゴノキに飛来し, そのうちの80%で果実を運搬する行動がみられた。樹上からなくなった果実のうち, 83.0~87.2%が樹冠外に持ち出されたことから, 樹上果実の大半はヤマガラによって運搬されたと考えられる。残りの果実は自然落下したが, これらの果皮は11月中旬まで分解されずに残った。野外での発芽実験では, 果皮を除去した種子は36%の平均発芽率がみられたが, 果実は4%とわずかで, 種子の発芽率が有意に高かった。果皮に含まれるサポニンの量は果実が落下すると急激に減少することからサポニンが発芽を抑制しているとは考えにくい。ヤマガラの貯蔵行動は発芽阻害の原因となる果皮を除去するという行為を伴うので, エゴノキの種子を散布させるだけでなく, 発芽にも大きく貢献していると考えられる。
著者
小林 勇太 堀内 颯夏 鈴木 紅葉 森 章
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.168-171, 2021-04-01 (Released:2021-06-26)
参考文献数
16
被引用文献数
2

樹木の高さと太さの関係は,成長や材積の計算,群集解析,森林動態のシミュレーションに至る様々な場面で利用される重要なアロメトリー情報である。本研究では,日本全土の毎木データを収集し,約26,000 本の個体情報から75種の樹高と胸高直径の関係をChapman-Richards(von Bertalanffy)式を用いて推定した。樹種ごとの推定結果は本文中に示し,データの出典および樹高と胸高直径の散布図は電子付録に掲載した。今後の森林管理・研究のための基礎資料として広く活用していただきたい。
著者
小塩 海平 山仲 藍子 嶋田 昌彦 椎野 太二朗 鶴岡 邦昭 柴山 俊朗
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.43-47, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

オレイン酸およびオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤 (対照区 (水), ジグリセロールトリオレート5%, グリセロールジオレート5%, グリセロールモノオレート5%, ペンタエリスリトールジオレート5%, ソルビタン脂肪酸トリエステル (16, 18, 18: 1, 18: 2, 18: 3) 5%, オレイン酸5%, ソルビタントリオレート5%) をスギに散布処理し, 雄花に対する選択的褐変効果を評価した。供試した界面活性剤はいずれもスギ雄花に対する選択的褐変効果を有しており, ソルビタントリオレートはその高い褐変効果を示した。供試した界面活性剤のHLB値 (親水–親油バランス) が低いほど, スギ雄花の褐変に及ぼす影響が大きく, いずれの界面活性剤処理でも,スギ雄花からのエチレン生成が抑制された。これらのオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤処理は, 今後, スギ花粉飛散防止技術として実用化が期待される。
著者
三浦 沙織 行田 正晃 山本 格 五十嵐 正徳 平 英彰
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.1, pp.1-7, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
23
被引用文献数
8 12

四分子期に異常が発生するスギ雄性不稔4系統 (福島不稔1号, 福島不稔2号, 新大不稔11号, 新大不稔12号) の発現過程を明らかにするため, 光学顕微鏡, 蛍光顕微鏡, 走査型電子顕微鏡, 透過型電子顕微鏡を用いてそれらの雄花の内部微細構造の観察を行った。小胞子形成過程において, 4系統はすべて正常個体と同様に四分子を形成した。しかし, カロース分解後小胞子に遊離せず, 花粉飛散期には塊状となって花粉は全く飛散しなかった。これらの雄性不稔では, カロースに囲まれている間に形成される外膜の初期外膜内層が発達せず, 小胞子同士が部分的に癒着していた。カロースの分解後, タペート組織からユービッシュ体の放出は認められず, 半透明の無定型物質が放出されそれが増加していった。4系統のスギ雄性不稔性が発現する原因は, 小胞子細胞質とタペート組織が, 花粉壁の外膜を構成する物質を正常に供給せず, 異常な活動を行うためであると考えられた。
著者
小林 裕之 高岸 且 森川 英治 細野 賢一 江口 輝 小島 光平
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.1-9, 2022-02-01 (Released:2022-04-18)
参考文献数
18

低コスト2周波GNSS受信機の測位正確度を検証するため,森林外10カ所,森林内21カ所において,1カ所当たり約7時間の静止測位+PPK解析と2分30秒間のRTK測位を行った。10 m以上の大きな誤差を除外したのちの林内における平均水平誤差は,静止測位+PPK解析,RTK測位でそれぞれ1.22,1.72 mとなり,有意差がみられた。静止測位+PPK解析では,3衛星システム(GPS+QZSS+Galileo)よりも4衛星システム(3衛星システム+GLONASS)の方が,また1周波(L1)よりも2周波(L1+L2)の方が水平誤差は小さかった。衛星の仰角マスク値が20,25,30,35°と大きくなるにつれて,大きな誤差の発生頻度は減少した。RTK測位では,float解よりもfix解の方が水平誤差は小さかった。林内における平均垂直誤差は,静止測位+PPK解析,RTK測位でそれぞれ2.12,2.49 mと,水平誤差よりも大きくなった。携帯電話網圏外では静止測位+PPK解析,圏内ではRTK測位で水平位置を決定したのち,近年整備が進む高精度標高データを利用して高さを決定するのがよいと考えられた。
著者
森 康浩 上田 景子 大川 雅史 宮原 文彦
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.127-134, 2012-06-01 (Released:2012-07-05)
参考文献数
25

木材のエンドユーザーのニーズを把握するため, 一般の福岡県民にアンケートを行った結果, 木材の嫌いな点も改善すべき点も「シロアリに弱い」が最多回答であった。そこで, DNA分析で品種を明らかにしたスギの心材木粉でイエシロアリまたはヤマトシロアリを飼育し, 殺蟻性の高いスギ挿し木品種を探索した。供試品種の中ではアカバとイワオは死虫率が高く, 半数致死日数も短かったことから, 殺蟻性が高いと考えられた。特に, アカバは産地が異なっても高い殺蟻性を示した。これに対し, ホンスギは一貫して低い殺蟻牲を示した。抽出成分を除去した木粉でヤマトシロアリを飼育すると, アカバをはじめ各スギ品種の殺蟻性は大きく低下した。一方, 木粉は摂食できないが揮発性成分には曝露される条件下でヤマトシロアリを飼育しても, イワオとアカバはコントロールに比べて高い死虫率を示した。以上のように, 殺蟻性の品種特性は一定の再現性が得られ, これは揮発性成分を含む抽出成分の特性に左右されていることが示唆された。したがって, 殺蟻性の高いスギ品種を用いた挿し木林業は, エンドユーザーの求める木材を持続的に供給するための選択肢の一つになりうると考えられた。
著者
酒井 敦 野口 麻穂子 齋藤 智之 櫃間 岳 正木 隆 梶本 卓也
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.7, pp.374-379, 2022-12-28 (Released:2023-01-21)
参考文献数
25

長伐期施業は多様な森林を造成する選択肢の一つである。スギやヒノキでは高齢林の成長データが充実しているが,カラマツに関しては少ない。そこで,秋田県の120年生カラマツ人工林で成長経過を調べ,多雪地におけるカラマツ人工林の長期的な成長や適切な伐期について検討した。カラマツ林には四つの調査区が設定され,初期段階に強度の異なる間伐が実施された。120年生時の立木密度は160~240本・ha-1,胸高直径は平均45.8~56.0 cm,樹高は平均31.6~36.6 mだった。直近10年間に冠雪害による樹高成長の鈍化がみられたが,直径は旺盛に増加していた。そのため,直近の材積成長量は5.5~8.6 m3・ha-1・yr-1と120年生になっても成長を維持していた。間伐材積を含めた総材積は1,035~1,173 m3・ha-1であり,間伐強度や回数の影響は小さかった。総平均成長量は約60~90年生時に最大となり,材積成長の面から伐期の目安となり得る。
著者
TAN JIAZE 道中 哲也 立花 敏
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.74-81, 2022-04-01 (Released:2022-06-27)
参考文献数
48

世界の森林面積が減少を続ける中で,中国の森林面積は1980年代から一貫して増加している。本研究では,何がその原動力となったのかを社会経済要因に注目して明らかにする。森林資源と社会経済との関係性については多くの先行研究がある。この分野の研究に用いられる手法はパネルデータ分析を主にし,時系列データに対して単位根,共和分といった検定を行った研究蓄積は限定的である。そこで,本研究では中国の森林面積と社会経済要因に関する直近40年分の時系列データを用い,変数の定常性や共和分関係も考慮しながら自己回帰分布ラグモデルによる分析を行った。単位根検定の結果,すべての変数はI(0)過程またはI(1)過程であった。また,推定の結果,1人当たりGDP変化率は森林面積変化率に対して短期で正の影響を与えるが,長期では負の影響を与えること,農村人口変化率は短期でも長期でも負の影響を与えること,都市人口変化率と中国に対する海外直接投資については短期に正の影響を与えることがわかった。
著者
岸岡 智也 内山 愉太 香坂 玲
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.229-234, 2022-08-01 (Released:2022-10-25)
参考文献数
14
被引用文献数
2

野生鳥獣による被害は農業と同様に林業でも深刻となっている。そこで主に広域の森林環境の維持増進を目的とした府県の独自課税(県・環境税)に着目し,その財源が野生動物保護管理の全体像で占める位置を解明すべく,県・環境税を導入している全37府県のレビューと4県の担当者への聞き取り調査を行った。結果,18県で野生動物保護管理に関する事業に県・環境税を活用しており,個体数管理,被害管理,生息環境管理,その他の幅広い領域で活用されていることが判明した。また4県への聞き取り調査では,野生動物保護管理において国による交付金では支援されない領域について,各県が県・環境税を財源として専門指導員の配置など新しい事業や,特定鳥獣管理計画策定に関わる調査等,他の予算ではまかなうことができない事業に取り組むことができるようになったことが明らかとなった。
著者
糟谷 信彦 清野 薫風 横尾 謙一郎 隅田 明洋 宮藤 久士
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.343-349, 2022-12-01 (Released:2022-12-13)
参考文献数
33

センダンは成長が早く,芽かきにより通直な幹がえられることから注目されており,そのため利用可能な木質バイオマスの地上部への配分の把握が重要となるが,センダンの地上部と地下部への重量配分の測定例はまだない。そこで本研究では,13年生センダンの地上部と地下部の各器官重を把握し,乾重配分および根系分布の特徴を明らかにすることを目的とした。2016年11月に熊本県の13年生センダン林にて6個体を調べると,地上部重合計において,幹,枝,葉はそれぞれ81.5,17.4,1.1%で,地下部/地上部比(R/S比)は平均0.25であり,個体サイズが大きいほどR/S比が大きく根の成長が優先していた。センダン根系に注目すると,本調査地の黒ボク土壌では垂下根が発達し一次根の54%(重量ベース)を占め,垂下根の方が水平根より長かった。各個体の根の最大深さは平均1.9 mであった。細根は林分内で一様に分布し,膨軟な表層土壌30 cmの中で深さ0~10 cmに多かった。
著者
上田 明良 伊東 宏樹 佐藤 重穂
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.6, pp.309-320, 2022-12-01 (Released:2022-12-13)
参考文献数
59

保残伐と小面積皆伐は伐採インパクトを軽減すると考えられている。これらの施業と全面皆伐後1~3年のトドマツ人工林および非伐採林において,魚肉ベイトのピットフォールトラップを各林分に1~3基約110日間設置して環境指標性が高いとされるオサムシ科甲虫を捕獲した。全伐採地の種構成は非伐採地と異なっていて,伐採が群集を変化させていた。侵入広葉樹の一部を非伐採で残す単木保残施業区の種構成は,皆伐区のそれよりも非伐採林に近く,保残量と森林性種捕獲数の間に有意な正の関係があった。0.36 haの人工林を残した群状保残施業保残区内の森林性種捕獲数と種数は林分によって大きく異なり,明確な傾向はみられなかった。約1 haの皆伐区と6~8 haの皆伐区の間で森林性種捕獲数と種数に違いはなかった。以上から,単木保残施業には伐採インパクト軽減効果があるが,群状保残施業と小面積皆伐についてはさらに検討が必要と考えられた。本研究と同じ試験地で,伐採1年後にベイトなしトラップを各林分20基,のべ21日間設置して行った別調査との比較では,本研究の種数がわずかに少なかったが,トラップ・日当たり捕獲数は同じであった。
著者
相原 隆貴 小林 慧人 髙野(竹中) 宏平 平田 晶子 尾関 雅章 松井 哲哉
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.286-294, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
85

近年,周辺の土地への竹林の拡大が日本各地で問題となっている。竹林の適切な管理計画立案のためには,その成立を規定する地形条件の解明が必要である。先行研究において,比較的限定された地域における地形条件の解明がなされてきた一方で,広域で竹林の成立可能な気候条件(潜在生育域)下を対象とし,地形条件を解明した事例はない。本研究は長野県を対象とし,竹林の位置情報を航空写真および現地踏査によって把握し,潜在生育域と竹林の成立する土地の地形条件を県全域で比較した。その結果,竹林の潜在生育域は斜面傾斜度0°付近と30°付近に二つのピークを持ち,全方位に一様に分布するのに対し,竹林(10,523カ所,総面積1,449.0 ha)は斜面傾斜度5~20°の緩傾斜地に55.7%が,南東,南,南西向き斜面に53.5%が成立していた。この竹林の地形条件の傾向は,県内5地域(北信地域,中信地域,東信地域,南信地域,木曽地域)いずれにおいても共通であった。これらの結果から長野県内の竹林は,南向きの緩斜面の条件に多く生育しているという傾向が明らかとなり,土地利用や竹林経営の観点から現在の地形条件に植栽され残存してきたと推察された。
著者
横田 康裕
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.241-250, 2017-12-01 (Released:2018-02-01)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2

発電用木材の安定供給の要点を明らかにするため,全国的にみてもその流通が活発な宮崎県中北部の状況について,発電事業者,集荷者,出荷者,支援者に対して聞き取り調査を実施した。発電事業者・集荷者は,安定調達に向けて,集荷網の構築・維持・強化,価格の引き上げや手数料の引き下げ等による出荷者の利益増大,山土場での引き取りやA材~発電用木材の仕分け作業の引き受け等による出荷者の利便性の向上,発電用木材の自社生産,末木・枝条等の使用部位の拡大に取り組んでいた。行政・業界団体等の支援者は,発電事業者・集荷者と出荷者との間での情報・意見交換の促進および安定供給のための協議会の設立に取り組んでいた。一方,出荷者は,生産・出荷に際して,利益,利便性,所属団体の意向,発電事業者・集荷者の熱心な営業,発電事業者・集荷者との信頼関係,事業活動の安定性,取引の自由度等を考慮していた。需要者・支援者の取り組みと出荷者が重視する項目は現時点では,概ね一致していた。今後も,現在の取り組みを継続・強化すると共に,長期的な安定性確保のために出荷者の連携が重要と考えられた。
著者
孫 鵬程 柴田 昌三 貫名 涼
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.257-265, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
45
被引用文献数
1

近年,日本では竹資源の持続的利用が重要な課題となっている。本研究は鹿児島県内の竹材とタケノコ関連業者を対象に,アンケートによって竹資源利用の現状を明らかにし,竹産業の構造変化および影響要因について検討したものである。調査は2018年9月に,県内全地域の合計45の関連会社に調査票を配布して行った。回収率は64.4%,有効回答は23枚であった。解析の結果,竹製輸入品の増加,職人の高齢化などの影響が見られ,業者数が1974年から2018年にかけて大幅に減少し,多くの伝統的竹工芸品を生産してきた業者が消失していた。一方,現在も操業している業者では,竹材製品の生産は便利さや実用性を持つ現代生活にマッチした多様な製品の量産化に主たる内容が変化していた。すなわち,これらの業者は製品の改良,高付加価値化および販路の開拓を通じて経営を維持していた。今後,伝統的竹工芸品生産業者がさらに減少することが懸念される。竹産業の維持には,良質な竹材生産ができる竹林の確保,および地元特有の竹材加工技術や知恵を継承していくこと,中国などの竹製品輸出国における竹製品の生産・流通の実情を把握することが重要であると考えられた。