著者
關 義和 小金澤 正昭
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.241-246, 2010 (Released:2010-12-14)
参考文献数
33
被引用文献数
8 5

栃木県奥日光地域では, ミミズ類の現存量は防鹿柵内のササ型林床よりも柵外のシロヨメナ型林床において多いことが報告されている。本研究では, 柵外のミミズ類の増加要因について明らかにするために, ササとシロヨメナの地上部現存量とミミズ類との関係について調査を行った。表層性のミミズ類の個体数および現存量とシロヨメナの現存量との間には有意な正の相関が認められ, シロヨメナの現存量が増加してもA0層の深さの増加はみられなかった。これらのことと, 表層性のミミズ類は表層でリターを摂食することが報告されていることから, 表層種にとってのシロヨメナの嗜好性は高いと考えられる。一方, ササ型林床では, 1コドラートで1個体が採集されたのみで, ササの現存量が増加するにつれてA0層の深さは有意に増加した。これらの結果は, 表層種にとってササは餌資源として不適である可能性を示唆する。奥日光地域の柵外では, シカの食害によりササ類が全面枯死し, いまではシロヨメナが群生している。以上のことから, 本地域の柵外におけるミミズ類増加の主要因は, シカによりササ類が消失し, シロヨメナが増加したことであると結論した。
著者
益守 眞也 野川 憲夫 杉浦 心 丹下 健
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.51-56, 2014-02-01 (Released:2015-04-07)
参考文献数
6
被引用文献数
13

東京電力福島第一原子力発電所事故翌年の2012年と2013年に,福島県南相馬市の森林において,林木に含まれる放射性セシウムの分布を調べた。放射性セシウムの大部分は枝葉と樹皮に検出されたが,個体や個体内の部位によって大きな濃度差があった。スギでは幹木部でも放射性セシウム濃度が 1 Bq/g を超える試料もあった。とくに高い位置の幹木部では辺材より心材に高濃度で分布していた。事故時に根系から切り離されていた幹の木部にも含まれていたことなどから,幹木部の放射性セシウムは経根吸収したものではなく枝葉などで吸収され移行したものと推察した。
著者
升屋 勇人 山岡 裕一
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.433-445, 2009 (Released:2011-03-28)

菌類が関連していないキクイムシは存在しない。キクイムシ関連菌の中には子嚢菌類や担子菌類といった非常に多様な菌類が含まれる。その中で経済的、生態的重要性からオフィオストマキン科、クワイカビ科の菌類に関する研究が進んできた。アンブロシア菌は養菌性キクイムシと絶対的共生関係にあるが、系統的に異系のグループであることが近年になって判明してきた。またオフィオストマキン科、クワイカビ科にそれぞれ近縁であることも明らかになってきた。両科は樹皮下穿孔性キクイムシの主要な随伴菌としても知られ、直接的、間接的にさまざまな共生関係を樹皮下キクイムシと結んでいる。キクイムシは進化の過程で養菌性を複数回進化させてきたが、菌類は自身の系統とは無関係にキクイムシと共生関係を結んできたと考えられる。そして結果的に、キクイムシ随伴菌はキクイムシの主要栄養源として機能する絶対的共生関係から、宿主樹木に対する病原力をもってキクイムシの繁殖戦略に貢献する共生関係まで、非常にさまざまな関係を結ぶことになったと考えられる。
著者
江藤 寛子 佐々木 ノピア
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.88-92, 2010
被引用文献数
4

近年, 温室効果ガス削減対策の一つとして, 再生可能エネルギーであるバイオマスの利用が注目されている。本稿では, 木質バイオマス利用による発電に着目し, 発電量が堅調に増加傾向である欧州各国 (ドイツ・スウェーデン・オーストリア・イタリア) における, 再生可能エネルギー政策に関する分析を行い, 木質バイオマス利用促進のために, 日本が導入するべき政策の検討を行うことを目的としている。分析の結果, 欧州各国の共通する政策として, 電力市場の全面自由化, 再生可能エネルギー利用による電力を優遇固定価格で買い取る制度, 優遇税制措置が導入されており, 木質バイオマス発電量が増加している。一方, 日本においては, 欧州と比較して, 木質バイオマス利用における促進政策が十分ではなく, 木質バイオマス発電が普及していないと考えられるため, 実質的な優遇制度の導入が必要であると考える。
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017-10-01 (Released:2017-12-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

‘染井吉野’ は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3 集団で ‘染井吉野’ の連鎖地図に座乗するSSR マーカー 27 座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に ‘染井吉野’ のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54 個の ‘染井吉野’ 対立遺伝子のうち,44.4% がエドヒガン由来,33.3% がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2% は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は, ‘染井吉野’ の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し, ‘染井吉野’ が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。
著者
野宮 治人 山川 博美 重永 英年 伊藤 哲 平田 令子 園田 清隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.139-144, 2019-08-01 (Released:2019-10-24)
参考文献数
25
被引用文献数
4

シカ食害を潜在的に受けやすい高さの範囲と,それに与える斜面傾斜の影響を明らかにする目的で,苗高160 cmを超えるスギ大苗を植栽して1年間のシカによる枝葉採食の痕跡(食害痕)の高さを測定し,スギ植栽位置の斜面傾斜を5゜間隔で区分して比較した。斜面傾斜が急なほど食害率は低く食害痕数は少なくなる傾向がみられた。斜面傾斜が5゜以下の平坦地では高さ75~110 cmの範囲に食害痕の67.4%が集中し,食害高の中央値は96 cmであった。食害高は斜面傾斜が15゜を超えると高くなり始め,35゜を超えると食害高は平坦地に比べて40 cm以上高くなった。また,30゜を超える急傾斜地の食害痕は81~100%が樹冠の斜面上側に分布していた。以上の結果から,斜面傾斜の影響がない状態で食害痕が集中した1 m前後(75~110 cm)の高さは食害リスクが潜在的に高く,スギ樹高がこの高さより低い場合には主軸先端が最も食害を受けやすいと示唆された。スギ大苗の主軸先端への食害を回避するためには,緩傾斜地では110 cm以上の大苗,斜面傾斜が35゜を超えると少なくとも140 cm以上の大苗が必要だといえる。
著者
国武 陽子 寺田 佐恵子 馬場 友希 宮下 直
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.217-220, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
8

アオキ (Aucuba japonica) の花粉媒介様式と主要な花粉媒介者を, 網掛けによる訪花者の排除実験と訪花昆虫の観察から推定した。花序当たりの結果率は, 花序に網 (1 mmまたは3 mmメッシュ) を掛けて昆虫の接触を制限すると, 無処理区に比べて著しく低下したが, 網を掛けて人工授粉を施すと無処理区との差はみられなかった。また, 1 mmと3 mmメッシュの網では, 網掛けの効果に有意な差はみられなかった。以上の結果より, アオキの種子生産は主に虫媒依存であることが示唆された。次に訪花昆虫の同定と体サイズの測定より, 花粉媒介者は, ジョウカイボンおよびゾウムシなどのコウチュウ目や, クロバネキノコバエなどの長角亜目であることが推測された。花粉媒介はこれらの昆虫の機会的な訪花に依存していると考えられる。
著者
正木 隆 佐藤 保 杉田 久志 田中 信行 八木橋 勉 小川 みふゆ 田内 裕之 田中 浩
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.1, pp.17-23, 2012-02-01 (Released:2012-05-29)
参考文献数
19
被引用文献数
7 6

苗場山ブナ天然更新試験地の30年間のデータを解析し, 天然更新完了基準を検討した。試験地では1968年に5段階の強度 (皆伐∼対照区) での伐採, および5通りの林床処理 (刈り払い, かき起こし, 除草剤散布等) が行われ, 1978年には残存母樹も伐採された。本研究では残存母樹の伐採から4年後の1982年と2008年の植生調査 (各種の被度および最大高) および樹木の更新調査 (稚樹密度および稚樹高) の結果を解析した。高木性の樹木が更新 (2008年に高木性樹種の被度50%以上) する確率は, 1982年当時の稚樹密度・稚樹高・植生高でよく説明され, ブナに対象を限定した場合では, 稚樹の密度と高さのみでよく説明された。高木性樹種の更新の成功率は, 稚樹の密度が20万本/ha以上, かつ植生が除去された場合にようやく8割を超えると推定された。各地の広葉樹天然更新完了基準では, 稚樹高30cm, 密度5,000本/haという例が多いが, この基準は低すぎると考えられた。伐採前に前生稚樹の密度を高める等の作業を行わない限り, 天然下種によるブナ林の更新は難しいと考えられた。
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.e1, 2022-06-01 (Released:2022-07-20)

短報「生分解性不織布ポットを用いたスギ・ヒノキ苗の植栽後2年間の成長」 著者:北原文章,酒井敦,米田令仁 巻号:102巻4号263-269ページ,2020年 上記短報について,著者及び著者の所属機関から日本森林学会誌編集委員会に対し,撤回の申し出があった。 編集委員会でその内容を検討した結果,著者らによる申し出を受理し,日本森林学会誌編集委員会は当該論文を撤回する。 詳細はPDFを参照のこと。
著者
小川 秀樹 櫻井 哲史 手代木 徳弘 吉田 博久
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.3, pp.192-199, 2021-06-01 (Released:2021-08-12)
参考文献数
23
被引用文献数
4

コシアブラは人気の高い山菜の一つであるが,山菜類の中でも137Cs濃度が高いことが知られている。しかしながら,葉,幹,主根,側根といった樹体部位別ごとの137Cs分布を捉えた研究はこれまでほとんど報告されてこなかった。本研究は,部位別の137Cs分布や重量比に着目し,統計解析により,コシアブラの葉の高濃度化の要因について検討することを目的とした。2016年と2017年の春期と秋期に,福島県内に自生する小さい個体(樹高が2 m以下)のコシアブラを採取した。各部位への137Cs分布割合を,各部位の137Cs濃度と重量から算出した。春期には樹体全体に含まれる137Cs蓄積量の約50%が葉に分布した。また,いずれの採取時期においても幹より地下部に多くの137Csが分布していた。さらに,線形回帰モデルの結果,側根と幹および主根の内皮の137Cs濃度には高い正の相関が認められた。これらの結果から,137Csは内皮を通じて主根や幹へと移動した可能性が示唆された。コシアブラの葉が高濃度化する要因については,既往研究で指摘されてきた浅根性という特徴に加えて,地下部に蓄えられた137Csの内皮を通じた転流による可能性が考えられる。
著者
上田 明良 水野 孝彦 梶村 恒
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.469-478, 2009 (Released:2010-03-12)
参考文献数
81
被引用文献数
1 2

キクイムシ類 (キクイムシ亜科とナガキクイムシ亜科) の生態的多様性を, 食性, 配偶システム, 坑道型, 社会性の多様性から論じた。食性は, 植物のさまざまな部分に穿孔して基質そのものを食べるバークビートルと, 木質部へ穿孔して坑道に共生微生物を栽培しこれを食べるアンブロシアビートルに分けられる。配偶システムは, メス創設の一夫一妻, 同系交配の一夫多妻, ハーレム型一夫多妻, オス創設の一夫一妻に分けられる。また, 特異的な繁殖として, 半倍数性の産雄単為生殖と精子が必要あるいは不要の産雌単為生殖もみられた。坑道型は, 配偶システムと食性の両方の影響をうけて多様化していた。また, 社会性の発達についても論じ, ナガキクイムシ亜科のAustroplatypus incomperusのメス成虫が不妊カーストとなる真社会性の観察および, カシノナガキクイムシ (Platypus quercivorus) 幼虫の利他行動の観察例を紹介した。最後に, 直接的観察によるキクイムシの坑道内での生態解明とそのために必要な人工飼育法開発の重要性について論じた。
著者
市原 優 升屋 勇人 窪野 高徳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.100-105, 2010 (Released:2010-06-17)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1 1

日本の冷温帯の代表種であるコナラとミズナラの堅果壊死の病原菌を明らかにするために, コナラとミズナラの壊死堅果に偽菌核を形成して発生するCiboria batschianaの病原性と発生生態を調査した。C. batschianaの菌叢をコナラとミズナラの堅果に接種した結果, 両種ともに堅果は壊死し偽菌核を形成し, 接種菌が再分離されたことから, C. batschianaにはコナラとミズナラの堅果を壊死させる病原性があることが確認された。岩手県のコナラ林では, 子嚢盤が発生した9月下旬に堅果が落下し, 10月には楕円形の一部壊死が認められ, 融雪後の4月には感染堅果のほとんどが偽菌核を形成していた。本菌は秋季にコナラ堅果に感染して病斑を形成し, その後融雪時期までに堅果全体を壊死させ偽菌核を形成すると考えられた。
著者
遠藤 幸子 成瀬 真理生 近藤 博史 田村 淳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.147-156, 2020-06-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
60

人工林は日本の森林の約40%を占めており,木材供給だけでなく生物にとっての適した生息場所として機能することが期待されている。しかしながら,人工林内の生物の多様性およびその生態について十分に理解されているとはいえない。本研究ではスギ・ヒノキ人工林で観察される鳥類種を明らかにし,その生態的特徴について考察した。調査は2014年から2018年の鳥類の繁殖期にあたる5月から6月にかけて神奈川県西部の3山域57地点において実施した。観察調査から8目26科45種がスギ・ヒノキ林を利用していることが明らかとなった。確認された種数およびその種組成は,スギ林とヒノキ林との間で有意な違いはみられなかった。確認された鳥類のうち留鳥10種と夏鳥2種を含む2目9科12種は,全ての山域で年を経ても繰り返し確認されており,これらはスギ・ヒノキ人工林を利用する確率の高い種であると示唆された。これら12種のうち11種は昆虫食であった。さらに,10種は樹上と樹洞に営巣する傾向があった。このように,人工林を利用する確率の高い種では,食性と営巣場所の選択において高い共通性がみられた。
著者
小林 正秀 上田 明良
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.435-450, 2005-10-01
参考文献数
188
被引用文献数
12

カシノナガキクイムシの穿入を受けたブナ科樹木か枯死する被害が各地で拡大している。本被害に関する知見を整理し,被害発生要因について論じた。枯死木から優占的に分離されるRaffaelea quercivoraが病原菌であり,カシノナガキクイムシが病原菌のベクターである。カシノナガキクイムシの穿入を受けた樹木が枯死するのは,マスアタックによって樹体内に大量に持ち込まれた病原菌が,カシノナガキクイムシの孔道構築に伴って辺材部に蔓延し,通水機能を失った変色域が拡大するためである。未交尾雄が発散する集合フェロモンによって生じるマスアタックは,カシノナガキクイムシの個体数密度が高い場合に生じやすい。カシノナガキクイムシは,繁殖容積が大きく含水率が低下しにくい大径木や繁殖を阻害する樹液流出量が少ない倒木を好み,このような好適な寄主の存在が個体数密度を上昇させている。被害実態調査の結果,大径木が多い場所で,風倒木や伐倒木の発生後に最初の被害が発生した事例が多数確認されている。これらのことから,薪炭林の放置によって大径木が広範囲で増加しており,このような状況下で風倒木や伐倒木を繁殖源として個体数密度が急上昇したカシノナガキクイムシが生立木に穿入することで被害が発生していることが示唆された。
著者
大田 伊久雄
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.88-98, 2011 (Released:2011-06-22)
参考文献数
15

1947年にJournal of Forestry誌に掲載されたリチャード・ヴァーネイ氏の論文「日本における林務官の地位」は, 終戦後間もないわが国の国有林野の現状を鋭く捉えている。そこで本論文では, ヴァーネイ論文の邦訳を中心に, そこから学び取れる問題点を考察した。彼の論文では, 林野行政における特権的高級官僚制度こそが最大の問題点であるとの指摘がなされているが, それはわが国の林野行政にとっては現代にも相通じる警鐘であった。
著者
北島 博
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.61-69, 2008 (Released:2008-10-15)
参考文献数
136
被引用文献数
1 1

カミキリムシ類の人工飼育技術に関して,供試虫の確保,成虫,卵,幼虫,蛹の各発育ステージごとの取り扱い,および発育の斉一化方法に分けてレビューした。幼虫の餌として,一般的には天然の餌および人工飼料が用いられる。人工飼料として,寄主植物の乾燥粉末が主成分である飼料と,脱脂大豆粉末,デンプン,スクロース,および小麦胚芽が主成分で,それに寄主植物を添加した飼料が多く用いられている。また,休眠打破のための低温処理や,蛹化を斉一化させるための最適な日長条件が考案されている。人工条件下で継代飼育を行うためには,飼育の目的,労力,および設備に合わせて幼虫の飼育方法を選択し,その上で飼育計画を策定する必要がある。
著者
張 涵泳 沖井 英里香 後藤 栄治 宮原 文彦 宮崎 潤二 前田 一 古澤 英生 宮里 学 吉田 茂二郎 白石 進
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.2, pp.88-93, 2019-04-01 (Released:2019-06-01)
参考文献数
31

九州の8地域に生息するマツノザイセンチュウの遺伝的多様性と遺伝的構造の解明を10個のEST遺伝子座の塩基配列多型を用いて行った。九州全域の遺伝子分化係数(GST)は0.53で,全遺伝子多様度(HT=0.63)の半分以上が地域集団間に存在し,集団間に大きな差異があった。8地域集団のHTは0.12~0.59であり,多様性に富んでいたのは,川内,新富,松浦,唐津(0.59,0.57,0.56,0.55)で,地域集団内におけるGST(0.43,0.35,0.25,0.25)も高く,被害木内集団(亜集団)間に大きな差違があった。一方,多様性が特に低いのは,天草,宮崎(0.12,0.18)で,そのGSTも小さく(0.01,0.02),亜集団間の違いは極めて小さかった。これらの2集団の形成には,ボトルネック/創始者効果が影響していることが示唆された。九州では地域集団が保有する多様性の二極化が進行していると思われる。
著者
後藤 秀章
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.479-485, 2009 (Released:2011-03-28)

日本産キクイムシ類の分類について、これまでの研究史を述べるとともに、キクイムシ類研究の基礎的資料として、日本産キクイムシ類の学名、および和名のリストを作成し、その中で5種について新たに和名を与えた。その結果日本産のキクイムシ類はキクイムシ科302種、ナガキクイムシ科18種が記録されていることがわかった。
著者
宮本 基杖
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.226-234, 2010 (Released:2010-10-05)
参考文献数
84
被引用文献数
3 2

本稿では, 熱帯の森林減少の原因に関する近年の研究動向を整理し, とくにこれまでおもな原因として検討されてきた焼畑・人口増加・貧困・道路建設について研究の進展を概括する。「人口増加と貧困を背景に焼畑が拡大して熱帯林が減少した」という広く普及した通説は, 約20年にわたる研究成果により見直しが進んだ。農地拡大がおもな原因であることに変わりはないが, 焼畑原因説は影をひそめ, 代わって商品作物や輸出用農産物の生産拡大の影響が重要視されている。人口増加と貧困の影響については, 多くの実証研究により検証がなされたものの, 賛否両論で議論が分かれている。道路建設の影響は多くの実証研究で裏付けられており, 道路建設が森林減少を加速する仕組みについては生産物の輸送コストの低下による熱帯奥地の土地収益性 (地代) の上昇が指摘される。地代と土地利用の関係を示すチューネン・モデルが森林減少の説明に有効な概念として近年注目されているが, 他の理論で補完すべき課題もある。
著者
加藤 顕 石井 弘明 榎木 勉 大澤 晃 小林 達明 梅木 清 佐々木 剛 松英 恵吾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.168-181, 2014-06-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
176
被引用文献数
10 4

近年のレーザーリモートセンシング技術(LiDAR)の発展により,近距離レーザーを用いた森林構造の詳細なデータを迅速かつ正確に取得できるようになった。これまでは航空機レーザーによる研究が圧倒的に多かったが,地上・車載型の近距離レーザーセンサーが身近に利用可能となり,森林構造計測に利用され始めている。航空機レーザーデータから林分レベルでの平均樹高,単木の梢端,樹冠範囲,樹冠単位での単木判別,成層構造,経年的樹高成長を把握できる。一方,地上レーザーを用いることで,幹を主体とした現存量や正確な立木密度が把握できるようになった。これまで手が届かなく測定不可能であった樹冠を森林の内部から測定でき,人的測定誤差の少ない客観的なデータを取得できる。レーザーデータは森林の光・水環境の推定,森林動態の予測,森林保全などといった生態学的研究に応用されてきた。今後は,生理機能の定量化,森林動態の広域・長期モニタリング,森林保全における環境評価手法など,様々な分野での利用拡大が期待される。樹木の形状や林分の現存量を正確に計測できるだけでなく,様々な生態現象を数値的に把握できるようになることを大いに期待したい。