著者
香坂 玲 内山 愉太
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.5, pp.246-252, 2019-10-01 (Released:2019-12-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 7

2024年の森林環境税導入に先駆け,2019年度から森林環境譲与税の自治体に対する交付が開始される。国と市町村が主軸となる森林環境譲与税だが,実際には都道府県にも影響を及ぼす。第一に,森林環境譲与税は都道府県にも配分され,市町村の支援を促すよう制度設計されている。第二に,森林等の保全を目的とした37の府県の既存の超過課税との関係性が問われる。そこで本研究では,37府県を対象とし,質問票および聞き取り調査の結果を基に,森林環境譲与税導入の影響を分析する。特に導入前後での市町村への支援政策と組織形態の変化に着眼した。結果,市町村支援に関しては,「森林所有者の意向調査の支援」等に重点が置かれ,組織的な変化については,環境譲与税(と関連する経営管理制度等)の名目で担当者を増加させた府県が5割程度存在した。既存組織の名称の変更や,環境譲与税担当部署の新設も把握された。また,1県では条例レベルで県・環境税の使途の中身を改定していた。
著者
松岡 佑典 林 宇一 有賀 一広 白澤 紘明 當山 啓介 守口 海
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.416-423, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
34
被引用文献数
2

本研究では,まず都道府県が管理する民有林の森林GISと林野庁が管理する国有林の森林GISを取得し,地域森林計画を基に施業条件を設定,傾斜や起伏量といった地形量から作業システムを設定した。次に,GISを用いて収穫コストの算出,スギ・ヒノキ・マツ・カラマツの木材売上,山元立木価格,造林費を用いて収支を算出した。最後に,FITで未利用木質バイオマス発電設備に認定され,2020年6月時点で稼働している日本全国の発電所を対象に,経済的に利益が得られる小班からの供給ポテンシャルを利用可能量として推計した。その結果,供給ポテンシャルは用材65,490,336 m3/年,未利用材13,098,067 m3/年と推計された。利用可能量は用材31,080,672 m3/年,未利用材6,216,134 m3/年と推計され,供給ポテンシャルの47.5%との結果を得た。また,未利用材利用可能量と需要量を比較した結果,需要量に対する利用可能量の割合は71.6%であった。ただし,再造林を担保するために造林補助率を100%として推計したところ,全国での需要量を満たす未利用材供給が可能になると推計された。
著者
広嶋 卓也 中島 徹 鹿又 秀聡 堀田 紀文
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.409-415, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
19

再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)制度において,間伐材や林地残材からなる未利用木材による木質バイオマス発電に対して,調達価格が高値に設定されたことを受け,未利用木材の利用量は年々増加している。そして未利用木材の中で,間伐由来の原材料割合は約4割を占めることから,間伐材生産量の増減が未利用木材に与える影響は無視できない。以上を踏まえ,本研究では,既往モデルを利用して,FIT制度の電源調達期間である20年間にわたる,都道府県別・間伐材生産量のシミュレーションを行った。シミュレーションでは,47都道府県を,間伐量に応じて3グループに分類しグループごとに,モデルの主要パラメータである,間伐面積,間伐材搬出率について,2012年(実績値)から2032年にかけての変化の傾向を3通り作成した。一つは,2012年以降の時系列変化の傾向を延長した「すう勢シナリオ」で他は,パラメータの変化の増減傾向に仮定をおいた「間伐減退シナリオ」および「間伐増進シナリオ」である。これら三つのシナリオに従い,都道府県別の間伐材生産量がどのように変化するか調べた。各都道府県に共通して見られた傾向として,間伐材生産量は,間伐増進シナリオ>すう勢>間伐減退の順に大きく,2012年から2032年にかけて間伐増進シナリオは増加,すう勢は減少,間伐減退は大きく減少する結果となった。都道府県別に見ると,北海道,静岡,大分,鹿児島の4道県は,間伐材生産量が大きく,かつ今後さらに生産量を増やす余地があるという点で,今後の未利用木材の需要増に応える上で,重要度が高いと考えられた。
著者
國崎 貴嗣 白旗 学 松木 佐和子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.401-404, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
26

過密なスギ若齢,壮齢林計5林分を対象に,樹冠長と直近5年間の平均胸高直径成長量との対応関係を調べた。林木の胸高直径成長がほぼ停止する胸高直径の閾値は林分で異なるのに対し,樹冠長の閾値はいずれの林分でも4.0 mとなり,樹冠長4.0 m未満の平均胸高直径成長量は0~0.04 cm/年と,全く,あるいはほとんど成長していなかった。樹冠長が4.0 m以上の林木を対象に,樹冠長から4.0 mを減じた差引き樹冠長と直近5年間の平均胸高直径成長量との関係を共分散分析で解析し,胸高直径を共変量とした共分散分析モデルと比較した。その結果,後者の自由度調整済み決定係数は前者のそれより明らかに高かった。スギ過密林での間伐木選定にあたっては,樹冠長4.0 m未満の林木を胸高直径成長停止木,樹冠長4.0 m以上の林木については胸高直径が大きいほど活力のある林木として判断すれば良いと考えられる。
著者
千葉 翔
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.391-394, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
30

オオシラビソ種子の発芽に対する乾燥の影響を調べ,4℃および-20℃で貯蔵した種子の発芽率の推移を観察した。種子の含水率を4段階(無処理,9.9%;弱乾燥,7.1%;中乾燥,6.3%;強乾燥,5.1%)に調整して発芽実験を行ったところ,乾燥強度に応じて発芽率が低下する傾向はなく,どの処理でも7割以上の種子が発芽した。4℃で冷蔵貯蔵した種子の発芽率は,処理の違いに関わらず3年後に10%未満となった。一方,-20℃で冷凍した場合は貯蔵から3年が経過しても48.3~77.4%の種子が発芽した。以上の結果から,同種の種子は含水率を調節しての冷凍貯蔵が可能であり,2~3年とされる結実周期のカバーには氷点下での保存が有効と考えられる。
著者
井貝 紀幸
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.395-400, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
25
被引用文献数
2

森林内におけるRTK-GNSS測量の水平誤差およびその誤差の低減に受信機の設定が及ぼす影響を明らかにすることを目的として,愛知県にある豊田市市有林2カ所にて調査を行った。その結果,RTK-GNSS測量の水平誤差は中央値が0.878 m,最大値が4.011 mであり, DGNSS測量よりも小さかった。この誤差の低減に,SNRと測位時間はほとんど貢献しなかった。また,仰角25°未満の衛星を測位演算から除外した場合,誤差はわずかに小さくなったが,最大で4 mを超えることもあった。森林内の所有界の境界測量において,許容誤差は0.9 m以内と考えられることから,森林内におけるRTK-GNSS測量では,この精度を満たさない場合があると考えられた。
著者
渡辺 陽平 白濱 千紘 石田 清
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.6, pp.379-390, 2021-12-01 (Released:2022-04-08)
参考文献数
49

北日本の多雪山地における環境条件の背腹性(冬季季節風の風上・風下斜面間の環境や植生の違い)に対応した,ブナとミズナラのすみ分けの実態とその生成要因を解明することを目的に,青森県八甲田連峰内の八幡岳山稜に,稜線をまたぐように東西方向に2調査区(高木林区,低木林区)を設置し,毎木調査と生育環境の評価を行った。その結果,両調査区ともに環境条件や両種の個体数の割合に背腹性が認められ,積雪と土壌水分の多い場所にはブナが,それらが少ない場所にはミズナラが多く分布していた。また,両種の個体密度と環境要因との間の因果関係を推定するためにパス解析を行った。その結果,最大積雪深と土壌含水率,斜度が両種の個体密度に大きな影響を与え,また斜度は地形が急峻な低木林区の方が大きな影響を与えると推定された。また高木林区において,ミズナラ個体密度はブナ以外の樹種から正の影響を受けていると推定された。以上より,多雪山地における両種の局所的なすみ分けには主に積雪や土壌水分の背腹性が関与し,地形が急峻な場所では斜度も大きく影響していることが示唆される。また,他樹種がミズナラの分布に正の作用を与えている可能性が示唆される。
著者
松永 孝治 大平 峰子 倉本 哲嗣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.335-343, 2009-10-01
参考文献数
44
被引用文献数
1

効率的なクロマツさし木苗の生産方法を確立するため, 二つの実験を行った。まずさし木発根性に及ぼす穂のサイズの影響を調べるため, 5家系の5∼6年生クロマツ採穂台木各1個体から穂を採取してさし付けた。その結果, 穂が長いほど, また穂の直径が太いほど発根性が低下する傾向があった。次に, 採穂台木の剪定後に得られる萌芽枝数とそのサイズに影響する要因を明らかにするために, 5家系各3個体の4年生クロマツ採穂台木について, 剪定した枝とそこから発生した萌芽枝数とサイズの関係を調べた。その結果, 剪定枝あたりの萌芽枝数は剪定枝上で萌芽枝が発生している部位 (萌芽帯) の長さと剪定枝の直径, 萌芽枝のサイズは剪定枝の直径に強く影響された。また分散分析の結果, 萌芽枝数, 剪定枝の直径および萌芽帯の長さは家系間に有意差があった。これらの結果は家系の選抜により萌芽枝数の改良が可能であることを示唆した。
著者
原田 茜 吉田 俊也 Resco de Dios V. 野口 麻穂子 河原 輝彦
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.397-403, 2008 (Released:2011-04-05)

北海道北部の森林では、ササ地を森林化させるために掻き起こし施業が広く行われてきた。施業から6〜8年が経過した樹冠下の掻き起こし地を対象に、9種の高木性樹種を対象として樹高成長量と生存率を調べ、それらに影響する要因(植生間の競争・促進効果)を明らかにした。成長量と生存率が高かったのはキハダとナナカマド、ともに低かったのはアカエゾマツであった。多くの樹種の成長は、周囲の広葉樹または稚樹以外の下層植生の量から促進効果を受けていた。ただし、シラカンバについては、施業後3〜5年目の時点では促進効果が認められていたものの、今回の結果では競争効果に転じていた。一方、生存率については、多くの樹種について周囲の針葉樹による負の影響のみが認められた。密度または生存率の低かった多くの樹種に対して、周囲のシラカンバやササの回復が負の要因として働いていないことから、多様な樹種の定着を図るうえで、除伐や下刈りの実行は、少なくともこの段階では有効ではないと考えられた。
著者
原田 茜 吉田 俊也 Resco de Dios Victor 野口 麻穂子 河原 輝彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.397-403, 2008-12-01
参考文献数
14
被引用文献数
4

北海道北部の森林では, ササ地を森林化させるために掻き起こし施業が広く行われてきた。施業から6∼8年が経過した樹冠下の掻き起こし地を対象に, 9種の高木性樹種を対象として樹高成長量と生存率を調べ, それらに影響する要因(植生間の競争・促進効果)を明らかにした。成長量と生存率が高かったのはキハダとナナカマド, ともに低かったのはアカエゾマツであった。多くの樹種の成長は, 周囲の広葉樹または稚樹以外の下層植生の量から促進効果を受けていた。ただし, シラカンバについては, 施業後3∼5年目の時点では促進効果が認められていたものの, 今回の結果では競争効果に転じていた。一方, 生存率については, 多くの樹種について周囲の針葉樹による負の影響のみが認められた。密度または生存率の低かった多くの樹種に対して, 周囲のシラカンバやササの回復が負の要因として働いていないことから, 多様な樹種の定着を図るうえで, 除伐や下刈りの実行は, 少なくともこの段階では有効ではないと考えられた。
著者
高尾 和宏 大村 寛
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.190-193, 2008 (Released:2008-12-09)
参考文献数
13

刎橋が,江戸時代に静岡県北部,大井川の上流部に存在した。古文書の調査によれば,架橋当初の1607(慶長12)年から1692(元禄5)年まで85年間の橋長は72.8 m(40間)のままであった。ところが1692年に刎橋の10 km上流で推定3,600 haの森林が伐採され始め,1700(元禄13)年までの9年間に皆伐状態にされた。森林の伐採後,1702(元禄15)年に橋長は85.5 m(47間)となり,以後,1729(享保14)年に91.0 m(50間),1815(文政8)年に100.0 m(55間)と,架け替えのたびに長くなっている。架橋場所は橋台を建設する場所の限定から,毎回同じ場所であった。橋長の延長は,大井川の川幅の拡大によるものであろう。すなわち,洪水により流失した刎橋は,拡大した川幅に併せて架け替えされたと推測される。さらに,洪水の原因は,上流部における大規模伐採で森林の保水機能が失われたことによるものと推測される。
著者
相川 拓也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.292-298, 2012-12-01 (Released:2013-03-07)
参考文献数
52

昆虫類には体内に微生物を宿し, その微生物と共生関係を築いている種が数多く存在する。ボルバキアは昆虫を含む節足動物や線虫類に広く感染している細胞内共生細菌で, 細胞質不和合, 雄の雌化, 雄殺し, 産雌性単為生殖などの方法で宿主生物の生殖機能を操作し, 自らを効果的かつ急速に宿主個体群中に広めてゆく。これまで, マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリからもこのボルバキアの遺伝子が検出されていたことから, マツノマダラカミキリにもボルバキアが感染していることが示唆されていた。ところが, その後の研究によって, ボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく, ボルバキアの遺伝子だけがマツノマダラカミキリの常染色体上に転移していることが明らかとなった。この事実は, マツノマダラカミキリに感染していたボルバキアは, 自らのゲノムの一部を宿主に残し, その後, 宿主から消え去ったことを示唆している。本稿ではこれまでの研究で明らかにされたマツノマダラカミキリとボルバキアの間の特異的な関係を詳しく紹介するとともに, それらの知見から導かれる今後の研究の方向性についても議論する。
著者
加藤 正吾 細井 和也 川窪 伸光 小見山 章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.123-128, 2011 (Released:2011-08-31)
参考文献数
21
被引用文献数
4 5

付着根型つる植物であるキヅタ (ウコギ科) の匍匐シュートの伸長方向と光環境の関係を実験的に解析した。匍匐シュートに傾度のある光環境条件を与えた場合, 10 mm以上伸長したすべてのシュートで, キヅタは負の光屈性を示した。また, その負の光屈性は, シュートの先端が水平方向と垂直方向の光強度が均一に低下するような空間をめざして伸長するように生じていた。シュートの伸長量は光量の減少にしたがって低下したが, 20 μmol/m2/sという弱光環境においても負の光屈性は生じていた。つまり, キヅタの匍匐シュートの負の光屈性は, 単なる強光を避ける反応ではなく, 三次元空間的な光環境で暗所方向へ伸長する反応であった。この負の光屈性は, つる植物が林床の不均一な光環境下で, 支持体として有効な樹木を匍匐シュートによって探索する際に, シュート先端が登攀開始点となる暗い樹木の根元に到達する有効な生態的特性であると考えられる。
著者
樋口 有未 松本 麻子 森口 喜成 三嶋 賢太郎 田中 功二 矢田 豊 高田 克彦 渡辺 敦史 平尾 知士 津村 義彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.247-251, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
31
被引用文献数
2 3

ヒバの天然林集団と選抜集団の遺伝的多様性および集団間の遺伝構造を明らかにするため, 北海道, 青森県, 岩手県, 新潟県, 石川県のヒバ天然林集団 (1道4県7集団) と育種が盛んな青森県, 新潟県, 石川県の3県の選抜集団を対象に, 5座の核のマイクロサテライトマーカーを用いた解析を行った。青森県, 新潟県, 石川県の3県の天然林集団と選抜集団の遺伝的多様性は同程度であった。STRUCTURE解析およびNJ系統樹の結果, 新潟県と石川県の天然林集団と選抜集団がその他の集団と遺伝的に異なることが示された。NJ系統樹の結果は各集団の地理的な位置関係を反映しており, 3県の選抜集団がそれぞれの天然林集団から選抜されたことが支持された。検出されたヒバ天然林集団間の遺伝構造は, 天然林の分布変遷や選抜集団の由来に起因していると考えられた。
著者
高橋 卓也 内田 由紀子 石橋 弘之 奥田 昇
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.122-133, 2021-04-01 (Released:2021-06-26)
参考文献数
48
被引用文献数
3

森林に関わる主観的幸福度を測定し,得られた結果とその要因について検討した。滋賀県野洲川上流域を対象として,2018年に一般世帯を対象とするアンケート調査を実施した。因子分析の結果を踏まえ,森林に関する幸福度を満足度,充実感,プラスの感情,マイナスの感情の4種類に分類し,森林との関わりについての説明変数等による回帰分析を行った。農業,林業への従事は森林充実感と,個人所有林およびボランティアでの森林管理は森林満足度や充実感と正の相関が見られた。一方,地元の山の森林管理はプラスの感情と負の相関を示した。居住地域の森林比率と幸福度との間の相関は特定できなかった。森林所有は4種類すべての森林幸福度と負の関係が見られたが,これは森林の資産価値が低下し,森林管理の負担感が大きくなっていることを示すものと推測される。森林資源の量的な再生がある程度達成され,質的な面での改善が求められている日本の現状において,個々人が森林とどのように関わり,個人およびコミュニティの幸福度をいかに促進するか検討する上で,森林幸福度の構造的な(種類別の)把握が政策課題としても必要とされることを論じる。
著者
北島 博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.61-69, 2008-02-01
参考文献数
136
被引用文献数
1

カミキリムシ類の人工飼育技術に関して,供試虫の確保,成虫,卵,幼虫,蛹の各発育ステージごとの取り扱い,および発育の斉一化方法に分けてレビューした。幼虫の餌として,一般的には天然の餌および人工飼料が用いられる。人工飼料として,寄主植物の乾燥粉末が主成分である飼料と,脱脂大豆粉末,デンプン,スクロース,および小麦胚芽が主成分で,それに寄主植物を添加した飼料が多く用いられている。また,休眠打破のための低温処理や,蛹化を斉一化させるための最適な日長条件が考案されている。人工条件下で継代飼育を行うためには,飼育の目的,労力,および設備に合わせて幼虫の飼育方法を選択し,その上で飼育計画を策定する必要がある。
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017 (Released:2018-04-20)

‘染井吉野’は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3集団で‘染井吉野’の連鎖地図に座乗するSSRマーカー27座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に‘染井吉野’のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54個の‘染井吉野’対立遺伝子のうち,44.4%がエドヒガン由来,33.3%がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2%は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は,‘染井吉野’の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し,‘染井吉野’が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。
著者
鶴田 燃海 王 成 加藤 珠理 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.210-213, 2017
被引用文献数
1

<p> '染井吉野' は日本で最も親しまれているサクラの品種で,エドヒガンとオオシマザクラとの雑種といわれている。本研究はエドヒガン,オオシマザクラそれぞれ3 集団で '染井吉野' の連鎖地図に座乗するSSR マーカー 27 座の遺伝子型を決定し,この野生種における対立遺伝子頻度を基に '染井吉野' のそれぞれの対立遺伝子の起源を推定した。54 個の '染井吉野' 対立遺伝子のうち,44.4% がエドヒガン由来,33.3% がオオシマザクラ由来と推定された。残りの22.2% は,どちらの種でも頻繁にみられるまたは両種ともに稀な対立遺伝子のため,由来は不明とした。染色体ごとにみると,複数の染色体でエドヒガンとオオシマザクラに由来する領域とが混在していた。この結果は, '染井吉野' の染色体が乗り換えを経て形成されたことを意味し, '染井吉野' が1回の種間交雑による雑種ではなく,より複雑な交雑に由来することが示唆された。</p>
著者
木村 恵 中村 千賀 林部 直樹 小山 泰弘 津村 義彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.173-181, 2013-06-01 (Released:2013-07-25)
参考文献数
34
被引用文献数
6 4

多面的機能が注目される社叢林の保護と管理を行うには, その成立要因を理解する必要がある。本研究では長野県戸隠神社奥社参道のスギ並木を対象に林分構造と遺伝的多様性・特性を調べた。二山型を示す直径階分布から多くの個体は限られた時期の植林によって成立しており, 現在の樹高成長量は低く今後は補植が必要になると考えられた。核マイクロサテライトマーカー8遺伝子座での遺伝解析から多くのクローンが検出され, 挿し木による植林の可能性が示された。また奥社参道における遺伝的多様性の指数は天然林と同程度だが, 遺伝距離に基づく主座標分析では天然林とは異なる特異な遺伝的特性を示した。さらに周囲の社叢林のスギ, 在来挿し木品種クマスギを加えた解析では血縁関係 (親子, 兄弟) が検出された。天然林との特異な遺伝的関係も検出され, 限られた母樹からの苗木による創始者効果の可能性が示された。現在の遺伝的多様性・特性を維持するには, 挿し木や血縁関係にある幹の重複を避けて母樹を選定し, 苗木を生産することが有効である。また信仰的な理由で挿し木されたと考えられる個体もみられており, 戸隠神社の歴史を反映するこれらの遺伝子型の保存も重要である。
著者
林 雅秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.328-336, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
12

本研究は岩手県北部地方のウルシ所有者への聞き取り調査に基づいて,過去のウルシ植栽時にウルシとそれ以外の作物をどのように選択したかを,ウルシを植栽した際の収益性に着目して明らかにすることを目的とした。調査の結果,ウルシ植栽という選択は,雑穀・タバコ・果樹などの跡地になされる場合が多かったこと,ウルシとそれらの作物を比べると少ない労力で収益を得られる点でウルシが優れていたこと,ウルシとスギを比較した場合には収益までの期間が短い点でウルシが優れていたことなどから,土地所有者たちがウルシを選択してきたことが明らかとなった。また,ウルシ立木生産の収益性に関しては,下刈り回数が少ない場合には高い収益率を実現できることなどが明らかとなった。