著者
国武 陽子 寺田 佐恵子 馬場 友希 宮下 直
出版者
日本森林学会
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.217-220, 2010 (Released:2011-05-27)

アオキ(Aucuba japonica)の花粉媒介様式と主要な花粉媒介者を、網掛けによる訪花者の排除実験と訪花昆虫の観察から推定した。花序当たりの結果率は、花序に網(1mmまたは3mmメッシュ)を掛けて昆虫の接触を制限すると、無処理区に比べて著しく低下したが、網を掛けて人工授粉を施すと無処理区との差はみられなかった。また、1mmと3mmメッシュの網では、網掛けの効果に有意な差はみられなかった。以上の結果より、アオキの種子生産は主に虫媒依存であることが示唆された。次に訪花昆虫の同定と体サイズの測定より、花粉媒介者は、ジョウカイボンおよびゾウムシなどのコウチュウ目や、クロバネキノコバエなどの長角亜目であることが推測された。花粉媒介はこれらの昆虫の機会的な訪花に依存していると考えられる。
著者
知念 良之 芝 正己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.266-271, 2019-12-01 (Released:2020-02-01)
参考文献数
18

沖縄県における一般的な住宅構造は,鉄筋コンクリート造であったが,近年は戸建を中心に木造率が増加傾向にあり,1990年代以降は県外産プレカット材を移入する動きが報告されてきた。2015~2016年に,二つのプレカット工場が経済特区へ進出すると,木造建築はさらに活発化した。本研究では,関連事業者に対して,進出の動機や活動実態,県外出荷に係る公的助成制度の利用についてインタビュー調査を行い,沖縄県における木造住宅の拡大とプレカット工場の関係を明らかにした。プレカット工場の進出は,県内の木造需要増加への対応と遠隔地特有の流通に不利な条件を緩和する目的があった。供給する住宅には,主に人工乾燥材または集成材が使用されており,台風対策や耐震性の向上が図られていた。工場には,公的助成制度を利用して県外にも出荷するものと県内専売のものがあり,使用する主な原材料や工場の立地選択に違いがみられた。一方,県内における木材産業に対する認知度の低さや木造関連技術者の少なさから,住宅生産が制限されていた。また,ボイラー燃料需要がなく,産業廃棄物として排出されるオガ粉や端材の処理費用の負担が大きい課題があった。
著者
小野澤 郁佳 久米 朋宣 小松 光 鶴田 健二 大槻 恭一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.366-370, 2009-10-01
参考文献数
25
被引用文献数
1 10

林分蒸散量の算定において樹液流計測は有力な手法だが,竹に樹液流計測が適用可能であるかは明らかでなかった。本研究では竹林蒸散量算定の第一歩として,樹液流計測による竹の個体レベルでの蒸散量の算出方法の確立を目的とし,モウソウチクにおいて自作の長さ1cmのGranierセンサーによる樹液流計測,切り竹による吸水量計測を行った。その結果,自作センサーにより桿内の水の上昇(以下,樹液流と呼ぶ)の検出が可能であり,計測された樹液流と吸水量の時系列変化は良好に対応した。量的には,従来の樹液流速換算式によって計算される単木あたりの樹液流量が吸水量より過小となることが示され,新たな樹液流速換算式を提示した。以上より,樹液流計測によるモウソウチクの個体レベルでの蒸散量の測定が可能となった。
著者
清野 嘉之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.310-315, 2010 (Released:2011-02-16)
参考文献数
33
被引用文献数
2

スギ花粉に関する文献をレビューし, スギ林の花粉生産量を削減するためにどのような森林管理を行ったら良いか, 長期的な予測のもとに森林経営者のための指針 (案) を作成した。都府県を単位とすると, 土地面積当たりの花粉生産量の多い都府県でスギ花粉症有病率が高い傾向があることから, 花粉症対策のための森林管理の目標はスギ林面積の削減ではなく, 花粉生産量の多いスギの削減とするのが合理的である。間伐や枝打ちに大きな花粉生産量削減効果は期待できない。モデルの予測結果によると, スギ林の伐期短縮やスギ花粉を生産しない樹種への転換には大きな削減効果を期待できる。気候変化シナリオが予測する21世紀の夏の気温上昇と, 気候変化を緩和するための国策の一つとして全国的に実施されている人工林間伐の影響とにより, 花粉生産量が1割程度増加する可能性が指摘されている。この増分の削減は, 気候変化による悪影響への対策の目標になる。増分対策としてはスギ林の皆伐が有効であり, 皆伐を増やすことにより増分の相殺時期を早められる。また, 花粉生産量の多いスギ林を優先的に皆伐し, 花粉生産量の多いスギの再造林を減らすことによっても時期を早められる。
著者
河原崎 里子 杉村 乾
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.2, pp.95-99, 2012-04-01 (Released:2012-06-14)
参考文献数
27
被引用文献数
3 5

山菜やきのこは誰もが採集できる森の恵である。これらの利用と生育環境条件との関係は必ずしも十分には明らかにされていない。本研究では, これらを個人が採集したり, または, 団体 (個人以外の企業や自治体など) が広報・販売等で利用したりすることの地域性と生育環境との関係性を把握した。インターネット検索エンジンを利用し, 全国133市町村を対象に所定キーワードを与え, ヒット件数とその内容から各地の採集頻度を表す指標を算出した。この指標を市町村の人口, 森林面積, 気温, 積雪日数などで説明する重回帰モデルで解析した結果, 年平均気温が低い, または, 積雪日数が多い地域で山菜, きのこともに採集頻度が高いことが示された。また, 個人は天然林面積が大きなところで採集するのに対し, 団体ではその傾向は見られず, 様々な森林を利用していた。個人は景観が美しい場所で採集し, 採集をレジャーと捉える傾向があるのに対し, 団体は確実な採集のため対象の種の生育適地で採集すると考えられた。
著者
水谷 完治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.126-130, 2006-04-01 (Released:2008-01-11)
参考文献数
9

荒廃地における樹林化手法の開発のため, 緑化資材として粘土団子種子を用いた試験を足尾松木沢で行った。6種類の木本類を用いた播種粒数密度200粒/m2および60粒/m2では, クロマツとアカマツ合計の播種粒数密度に対する3年目の成立本数密度の割合がそれぞれ2.5%および3.7%, 成立本数密度は0.192本/m2および0.085本/m2であった。樹林化のための目安として植栽本数密度の基準を参考にし, 3年目の成立本数密度を0.4~1.2本/m2とすると, 木本類をクロマツとアカマツのみとした播種粒数密度60~200粒/m2程度で, 目安の成立本数密度に達すると試算でき, 従来の播種工よりかなり少ない播種粒数密度での樹林化の可能性を提示できた。
著者
伊藤 拓弥 榮澤 純二 矢野 宣和 松英 恵吾 内藤 健司
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.221-225, 2010
被引用文献数
4

本研究では, iPhoneにて樹高測定を行うためのソフトウェアを開発した。iPhoneをはじめとするスマートフォンは加速度センサを搭載した機種があり, デバイスの傾きを測定することができる。この加速度センサを使い三角法の原理を応用することで, iPhoneにて樹高測定が可能である。またiPhoneは優れたユーザインタフェースを有するため, 測定データの保存管理, 編集, 集計, 表示ができる。この機能を利用することで, 内業を行うことなく測定データを測定直後の現場にて即座に集計, 表示させることが可能である。またiPhoneは携帯電話回線や無線LANによって測定データを転送することができる。これらの機能によって森林調査の作業効率を大幅に向上させることができると考えられる。
著者
石崎 涼子 鹿又 秀聡 笹田 敬太郎
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.4, pp.214-222, 2022-08-01 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

全国の市町村を対象に実施したアンケート調査等の結果に基づき,森林行政の担当職員の規模と専門性の現状を明らかにし,これらが森林行政に与えうる影響について検討した。近年,市町村森林行政の業務量は職員増を遥かに上回る規模で増加したと考えられ,現在,ほとんどの市町村が人員不足を感じている。職員数が多い市町村には森林行政に関わる専門性をもつ職員がいる団体が多く,相対的に幅広い種類の業務が実施され森林に行く頻度も高いが,職員数が少ない団体以上に多くの団体が人員不足を実感している。一方,人員不足を感じていない市町村の多くは,森林関係の業務量自体が少ない団体である。更新基準となる広葉樹の識別や崩壊危険地の判別には専門的な職員がいる市町村であっても知識等の不足を感じているケースが多く,職員数が非常に少ない団体には崩壊危険地の判別等について業務を通じて意識する機会がないとする団体が一定数存在する。以上から,職員数や専門性といった人員体制は,森林行政として担う業務の範囲や,現地確認やリスク判定等をどこまで行うかといった業務のレベルに影響を与えている可能性が示唆された。
著者
高山 範理 讃井 知 山浦 悠一
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.102, no.3, pp.180-190, 2020-06-01 (Released:2020-09-16)
参考文献数
59

主伐の時代を迎えた日本で林業が社会的に受け入れられるためには,伐採地の風景的価値を考慮した上で,生物多様性の保全や林業としての経済的合理性に配慮して,適切な主伐方法を選択する必要がある。そこで本研究では,針葉樹(トドマツ)人工林の皆伐地,群状に植栽木を残した伐採地(群状保持),ha当たり10本,50本,100本の広葉樹を単木的に残した伐採地(単木保持),広葉樹老齢木を残した伐採地,伐採前の人工林の7種類の異なる林分状況からなる写真を刺激として,非専門家が伐採地に懐く風景的価値(認知・評価)を調べ,さらに非専門家と専門家間で生物多様性の保全および林業としての経済的合理性に対する伐採地の評価を比較した。その結果,1) 非専門家は皆伐や老齢木保持をポジティブに認知する一方で,群状保持はネガティブに認知する可能性があること,2) 非専門家は樹木の伐採に抵抗感があるため,主伐の実施にあたってはその必要性や生態系保全への配慮,植林の実施等の情報を供与し理解を求めることが有効であること,3) 林業としての経済的合理性の評価については,非専門家と専門家の間にギャップがあり,非専門家の理解を得るためには情報交換や議論を重ねる必要があることなどが明らかになった。
著者
長池 卓男
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.297-310, 2021-08-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
224

人工林における針葉樹外来種植栽についての現状や課題をまとめた。自生種よりも成長の良い外来種や,市場で優位的な販売性を持っている外来種などが植栽されており,気候変動に適応できる種として外来種が選択されていることもある。一方,植栽地以外への定着・拡散が確認され,地域の植生や生物相,水文や養分循環などに負の影響を及ぼしている例もある。外来種を植栽した後に侵略性が顕在化した際,その対策にはコストが非常にかかっている。外来種を導入する可否を判定するツールが開発されているが,侵略性の評価に加え,土壌や水文への影響,食植者耐性などを含めた評価が必要とされる。また,外来種は,それ自体に対する考え方やノベル・エコシステムの中での位置づけに議論が起こっている。外来種であるコウヨウザンの日本での植栽が開始されているが,原産地の中国では更新の失敗と生産性低下が課題とされており,それは根などからの他感物質が原因の一つであるとされる。人工林にどのような樹種を植栽するかは木材生産機能のみならず公益的機能に少なからず影響するため,様々な機能の面から事前の検討と影響の予測が必要であろう。
著者
松尾 晶穂 岩切 鮎佳 松下 範久 田端 雅進 福田 健二
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.254-261, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
34

ウルシの種子は,物理的休眠と生理的休眠を併せ持つ複合休眠状態にあると推測されている。ウルシ種子の発芽率を向上させるために,発芽促進に効果があると報告された方法を種子の物理的休眠と生理的休眠の打破に分けて評価した。ウルシ種子の物理的休眠の打破には,濃硫酸への60~120分の浸漬,または内果皮の一部除去が有効であった。濃硫酸に90分浸漬した後の種子では,種子の2カ所から吸水が始まることが観察された。濃硫酸浸漬後の種子に対する生理的休眠打破の方法としては,4~12週間の低温湿層処理が有効であった。しかし,内果皮を一部除去した後に低温湿層処理した種子は発芽しなかった。濃硫酸に90分浸漬させた後に8週間の低温湿層処理を行った種子の発芽率(73.2±2.7%)は,濃硫酸浸漬処理と低温湿層処理を単独で行った場合(それぞれ,0.8±1.0%,0.4±0.9%)や無処理の場合(0.0±0.0%)の発芽率よりも有意に高く,二つの処理を組み合わせた方法がウルシ種子の発芽促進に有効であることが確認された。
著者
斎藤 真己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.348-350, 2014-12-01 (Released:2015-04-02)
参考文献数
12

スギ花粉症対策の一環として,メタセコイア雄花の発育限界温度と有効積算温度を明らかにした。メタセコイアの雄花の発育限界温度はほぼ0°C となりスギと同様の値になったが,開花に要する有効積算温度は,計算上175.4°C・日となり,スギ(184~240°C・日)よりも低い値になった。次に,10°C に設定した人工気象器を用いてメタセコイアとタテヤマスギ,ボカスギで開花試験を行った結果,メタセコイアが最も早く開花した。これらの結果から,メタセコイアの花粉はスギよりも早く飛散が始まっており,その花粉はスギと共通抗原性があることから,居住区の近隣にメタセコイアがある場合,スギ花粉症患者はスギ花粉の飛散予測よりも早く花粉症を発症する可能性があると考えられた。
著者
真坂 一彦 佐藤 孝弘 棚橋 生子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.15-22, 2013-02-01 (Released:2013-03-30)
参考文献数
37
被引用文献数
1 3

養蜂業による北海道での蜜源植物の利用実態について, 北海道養蜂協会が毎年集計している「みつ源等調査報告書」をもとに分析した。主要な蜜源植物は, 蜂蜜生産量が多い順に, ニセアカシア, シナノキ, クローバー, キハダ, アザミ, ソバ, そしてトチノキの7種である。これら7種の蜂蜜生産量に占める樹木蜜源の割合は約70%で, これに森林植生であるアザミを加えると80%弱にのぼり, 森林が蜜源域として大きく貢献していた。地域性を評価するため, 振興局 (支庁) ごとに蜜源植物の利用状況についてクラスター分析したところ, 太平洋型, オホーツク型, 道北型, 道央型, そして道南型と, 北海道の地理的区分に対応した5群に分類された。シナノキとキハダについて, 各樹種の蓄積とそれらを対象にした蜂群数の関係をみたところ, 蓄積が多い地域ほど蜂群数も多い傾向が認められた。各地域の主要7蜜源植物の多様性と全蜂群数の間には有意な相関関係があり, 蜜源植物が多様な地域ほど生産性が高いことが示唆された。
著者
岩泉 正和 三浦 真弘 片桐 智之 吉岡 寿 大池 航史 杉本 博之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.3, pp.162-169, 2022-06-01 (Released:2022-07-20)
参考文献数
30

抵抗性採種園産種苗のマツノザイセンチュウ抵抗性を効果的に高める上では,これまで指摘されてきた採種園の性能に関わる諸要因を同時に評価し,その相対的な影響度を把握することが重要である。本研究では,造成年や構成系統の異なる抵抗性アカマツの6採種園を対象に,既往の抵抗性の評価値(抵抗性ランキング)の異なる22系統64母樹から得られた実生苗の抵抗性評価を行った。母樹ごとに実生家系を2カ年で育成し,線虫の接種試験を実施した結果,実生家系の健全個体率(健全率)は,多くの採種園で母樹系統の抵抗性ランキングと高い正の相関が認められた。一部の実生家系についてSSRマーカーによるDNA親子解析を行い,花粉親構成を評価した結果,特に10年生未満の園齢で採種された実生家系では園外花粉親率が高く,健全率は低かった。一般化線形混合モデルの結果では,母樹系統や花粉親の抵抗性ランキング,園齢や園内花粉親率の増加による健全率への正の効果が認められた。これらのことから抵抗性種苗の抵抗性を高める上では,①遺伝的性能の高い系統への構成木の改植,②園齢15年生以上での採種または採種園の部分的な順次更新,等の方策が重要と考えられた。
著者
相川 拓也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.292-298, 2012

昆虫類には体内に微生物を宿し, その微生物と共生関係を築いている種が数多く存在する。ボルバキアは昆虫を含む節足動物や線虫類に広く感染している細胞内共生細菌で, 細胞質不和合, 雄の雌化, 雄殺し, 産雌性単為生殖などの方法で宿主生物の生殖機能を操作し, 自らを効果的かつ急速に宿主個体群中に広めてゆく。これまで, マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウを媒介するマツノマダラカミキリからもこのボルバキアの遺伝子が検出されていたことから, マツノマダラカミキリにもボルバキアが感染していることが示唆されていた。ところが, その後の研究によって, ボルバキアがマツノマダラカミキリに感染しているのではなく, ボルバキアの遺伝子だけがマツノマダラカミキリの常染色体上に転移していることが明らかとなった。この事実は, マツノマダラカミキリに感染していたボルバキアは, 自らのゲノムの一部を宿主に残し, その後, 宿主から消え去ったことを示唆している。本稿ではこれまでの研究で明らかにされたマツノマダラカミキリとボルバキアの間の特異的な関係を詳しく紹介するとともに, それらの知見から導かれる今後の研究の方向性についても議論する。
著者
佐藤 輝明 中田 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 = Journal of the Japanese Forest Society (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.364-371, 2008-12-01
参考文献数
35
被引用文献数
2

耕作放棄後約40年が経過し、現在は森林になっている新潟県佐渡島の中山間地にある放棄棚田において、森林の成立に関わる要因を調査した。本調査地では、コナラやクリを主とした樹木の侵入が棚田の放棄前後から始まり、その後20年くらいの間に徐々に進んでいた。放棄棚田における森林の成立には、斜面位置による地下水位と、棚田面・畦・法面といった微地形による土壌の水分環境が強く影響していた。斜面上側では地下水位が低いために土壌含水率が高くなく、棚田面・畦・法面にともに樹木が生育していた。しかし、斜面下側ほど地下水位が高いために棚田面の土壌含水率が高く、樹木は過湿な土壌環境が緩和された畦や法面におもに生育し、それらによって林冠が閉鎖されていた。法面では傾斜が土壌含水率や樹木の生育に影響を与えていた。棚田の微地形間での樹種分布の違いには、種子の散布様式や土壌の水分環境に対する生理的な耐性も関係していると考えられた。
著者
村田 政穂 奈良 一秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.195-201, 2017-10-01 (Released:2017-12-01)
参考文献数
58
被引用文献数
1 3

トガサワラ林の外生菌根菌 (以下,菌根菌) の種構成や出現頻度が土壌の深さによってどのように変化するかを明らかにするため,成木の菌根と埋土胞子の種組成を調べた。奈良県三之公川のトガサワラ林内の25 地点において,四つの土壌深度区別に土壌ブロックを二つずつ採取した。二つの土壌サンプルのうち,一つからは成木菌根を取り出し,DNA 解析によって菌種同定を行った。もう一つの土壌サンプルは,埋土胞子の種組成を調べるためバイオアッセイに供試した。バイオアッセイではダグラスファーとアカマツ実生を宿主とし,育苗後にDNA 解析で菌種を同定した。その結果,成木の菌根菌の出現頻度と菌根菌種数は土壌深度が深くなるにつれて減少する傾向がみられたが,菌根菌の埋土胞子は最も深い土壌で出現頻度が高くなる傾向を示した。また,埋土胞子の菌根菌はショウロ属のみが検出され,それらの感染によって苗の成長は有意に促進された。埋土胞子は攪乱後の菌根菌の感染源として重要であるが,その垂直分布についてはこれまでに報告がなく新たな知見である。さらにトガサワラも攪乱依存種と考えられており,本種の保全において菌根菌の埋土胞子を活用できる可能性がある。
著者
中森 由美子 瀧井 忠人 三浦 覚
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.120-126, 2012-06-01 (Released:2012-07-05)
参考文献数
33
被引用文献数
5 4

急傾斜地の若齢ヒノキ人工林において, 処理の違い (皆伐, 強度間伐, 通常間伐) による表土移動量 (細土, 土砂, リター) の変化を明らかにするため, 土砂受け箱法によって, 処理前後4年間にわたる表土移動量を測定し, 処理ごとの細土, 土砂, リター移動レート (g m−1 mm−1) を比較した。細土, 土砂, リター移動レートは, 皆伐処理後に著しく増加した。一方, 強度間伐区, 通常間伐区では, 処理前後で細土, 土砂移動レートの変化は認められなかった。林内の相対照度および林床植生は, 通常間伐, 強度間伐, 皆伐の順に伐採強度が高いほど増大した。強度間伐や通常間伐が表土移動量に与える影響は, 皆伐区に比べて小さいことが明らかとなった。皆伐区や強度間伐区では, 植生回復の増加による土砂移動抑制効果が, 伐倒木処理などの人為的な地表撹乱によって相殺された可能性が考えられた。以上から, 急傾斜ヒノキ人工林で森林管理を行う場合, 作業時の地表撹乱を最小限にすることと, 速やかな植生回復を促すことを調和させることが林地の土壌を保全する上で重要であると考えられた。
著者
鍋嶋 絵里 石井 弘明
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.420-430, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
93
被引用文献数
2 2

樹高成長は, 樹種や立地条件に依存して変化し, ある高さ以上になると停止する。決定された最大樹高は, 光をめぐる資源獲得競争での優位性や群落の階層構造の発達, 森林の生産性を規定する要因として重要である。近年, 樹冠へアクセスするシステムや技術が発達し, 数十メートルにも及ぶ高木の樹冠における生理学的測定が可能となった。その結果, 土壌からの水輸送の限界による個葉光合成速度の低下や, 重力による水ポテンシャルの低下によるシュートや葉における細胞の伸長抑制などといった生理学的要因によって樹高成長が制限される可能性が示された。また理論研究や操作実験などから, 自重や風圧に対する力学的支持機能や老化による遺伝的な変化に関しては, 樹高成長の制限要因としての寄与は低いことが示唆されている。今後は樹高成長制限が天然林での遷移過程や個体間の相互作用, 群落の発達機構などにどのように影響しているかを明らかにすることで, 樹高成長の包括的な理解と森林の生産性予測などへの応用が可能になると考えられる。