著者
原嶋 寛 永長 久寛 伊藤 一秀
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.89-102, 2015 (Released:2015-12-01)
参考文献数
83
被引用文献数
1 1

除染ならびに消毒剤としてのオゾン利用は,その強い酸化力や比較的低いランニングコストといった利点より,既に長い研究蓄積があり,特に,水中での微生物に対するオゾンの反応性の高さは良く知られている。しかしながら,オゾンガスによる室内環境除染に関しては,既に実用段階にあるとは云うものの,除染や消毒,対象とする微生物の不活性化作用に関しては完全にメカニズムが解明されている訳ではなく,ある程度の安全率を考慮して使用されているのが実情である。本論では,室内環境除染へのオゾンガス利用に関して,既報研究を詳細にレビューすることで,これまでの知見と現況を整理した上で,今後の課題と展望までを整理する。加えて,本論では,除染効果の定量的な予測手法の基礎となりうる室内のオゾン濃度分布予測のための数理モデル開発の動向に関しても整理する。
著者
篠原 直秀
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.99-106, 2020 (Released:2020-08-01)
参考文献数
33
被引用文献数
1 1

2020年の春時点で, 日本を含む世界中で新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の感染が猛威を振るっており, 三密を避けることなど, より一層の感染対策が求められている。 本稿では, 室内環境における感染対策に関わる情報を収集・整理した。 感染者が呼吸・会話・咳・くしゃみなどをすると, ウィルスを含む飛沫が環境中に飛散する。 会話や咳で飛散する大きな粒子は, 多くの場合2 m以内に床面に沈着するが, 室内の気流によっては5 m程度飛散することもある。 また, 飛沫核などの小さな粒子は, 沈着せずに数時間もしくはそれ以上室内を漂う可能性がある。 室内空気中からウィルスが除去される経路としては, 床面や壁面への沈着, 換気による屋外への排出, ウィルスの不活化があるが, 無風の状態では10 μmを超えるサイズの粒子ではほぼ沈着で除去されるが, 数μm以下の粒子では換気と不活化の寄与が大きい。 室内を漂うエアロゾル上の新型コロナウィルスの不活化の半減期は1.1時間程度であり, 換気回数1回/hの場合よりも減衰への寄与は小さい。 日本の一般家屋の日常生活時の換気回数は, 春夏で1.2-1.7回/h, 秋冬で0.6回/h程度であり, 病室などで感染対策として取られる換気回数よりはるかに低い。 窓開け換気は室内濃度を低減させるのに非常に有効であるが, 屋外の風向や風速によっては十分な換気量が得られないケースもある。 空気清浄機については, コロナウィルスについての研究はないが, HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)を用いた場合には, ウィルスについても一定の効果が認められている。
著者
金 勲 林 基哉 開原 典子 大澤 元毅 阪東 美智子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.77-87, 2015 (Released:2015-12-01)
参考文献数
15
被引用文献数
4 4

日本は超高齢社会として世界で最も高齢化が進んでおり,これに伴う高齢者施設の需要が急増している。高齢者は免疫力や感受性,環境調整力が低下するため,適切な室内環境や衛生環境を提供できる体制整備が必要であるが,環境衛生の維持管理・指導の法的根拠がなく,その管理は建築物管理に専門知識・経験を有さない施設管理者・運営者に委ねられている可能性がある。本研究では,高齢者施設の実態と課題を把握し,環境改善及び対策に資することを目的とし,首都圏の高齢者施設を対象に現場設問及び冬期実測調査を行った。温度・湿度・二酸化炭素濃度の実態と湿度環境の改善に関する検討を行った結果,温度及びCO2濃度に関しては概ね良好に管理されていたが,湿度については施設側の努力にもかかわらず,全施設において冬期最低基準とされる相対湿度40%を満たせない環境にあることが明らかとなった。また,施設によって換気量にはかなりの差があることがうかがわれた。今回調査対象とした施設のなかで建築基準法改正後の施設では換気・空調による外気導入量が多いことに起因することにより,絶対湿度が低かった。測定結果から得られた絶対湿度差及びCO2濃度差の相関と人体からの水分及びCO2発生量による理論的な相関を比べることで,換気量及び加湿の実態を推察できる可能性が示された。
著者
東 賢一
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.203-208, 2019 (Released:2019-08-01)
参考文献数
22

化学物質過敏症において, どのような宿主要因, 外部環境要因, 行動に関わる要因が発症や症状の増悪に関与しているかを把握することは, 化学物質過敏症の予防において重要であり, 筆者は脳機能イメージングを用いた臨床研究やアンケートによる疫学研究を行ってこれらの要因を調査してきた。脳機能イメージング研究からは, 臭い負荷時の前頭前皮質領域における活性化状況から, 外的ストレスに対する刺激の認識や記憶と大脳辺縁系を介した作用機序が関与している可能性が考えられた。 また, 5年にわたる追跡研究からは, イライラ感, 疲労感, 不安感, 抑うつ感などの悪化した心身の状態が, 化学物質に対する感受性を増悪させる強い要因になること, 適度な運動や規則正しい生活が化学物質高感受性の改善に寄与することなどを示唆してきた。外的環境要因については, 化学物質過敏症の発症のきっかけとなった曝露イベントが化学物質過敏症患者によって異なり, 特に曝露イベント時の曝露濃度に関する知見が乏しいことなどから, 対応策の検討が困難となっている。 しかしながら, 化学物質の有害性に関する既存の科学的知見をもとに, 大多数の人たちが健康への有害な影響を受けないであろうと判断される健康リスクレベルを評価し, 私たちを取り巻く外的環境に対する指針値や基準値を策定していくことは, 化学物質過敏症の発症に対する1つの重要な予防策になると考えられる。
著者
川上 裕司
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.209-216, 2018 (Released:2019-01-09)
参考文献数
25

本号より,「室内環境の微生物に関わる最近の話題」のタイトルで微生物分科会メンバー6名によるリレー解説を開始した。室内環境における微生物の問題は年を追うごとに深刻な社会問題となっている。「カビによる室内環境の汚染が引き起こすアレルギーの問題」,「職場や公共施設での感染症やアレルギーの問題」,「近年,頻発している地震,台風,火山噴火などの自然災害に伴う仮設住宅でのアレルギーや感染症の問題」など多岐に渡っている。このリレー解説では,住宅と職場環境にスポットを当て,微生物の汚染実態,感染経路,それに伴う健康影響と対策法について解説する。序論として,住宅形態の変化と疾病について述べる。室内環境における微生物の感染経路から見ると,1)飛沫感染(droplet infection),2)空気感染(air-borne infection),3)媒介物(食物・接触)感染(vehicle-borne infection)の3つが特に重視されている。このうち空気感染は,気密性の高い住宅や公共施設など現代の室内環境で問題視すべき感染経路であり,アレルギー疾患の増加と対策においても考慮すべき事象である。実際に,幼稚園児から高校生まで鼻・副鼻腔疾患はどの年代でも罹患率が高く,特に小学生と中学生の罹患率が際立っている。また,近年65歳以上の高齢者の喘息罹患者が増加傾向にある。これらの要因として浮遊真菌の継続的な吸入が懸念されている。
著者
柳 宇
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.111-116, 2008-12-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

日本国民の1/3が何らかのアレルギーに罹患していることが知られている。アレルギーを引き起こす原因物質であるアレルゲンには様々のものがあり, その1種としてかびが挙げられる。かびに対しては環境基準を基に規制する必要があるが, 殆どのかびに関する“量一反応関係”が把握されていないため, 健康影響を基に室内かびに関する基準を制定することは難しいのが現状である。本報では, かびによる人の健康への影響, かびの健康リスクの概念とその概要を紹介した上で, 環境基準の制定方法とかびに関する基準の現状について述べる。
著者
福冨 友馬 安枝 浩 中澤 卓也 谷口 正実 秋山 一男
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-96, 2009 (Released:2012-06-01)
参考文献数
33
被引用文献数
6

本稿では,ハウスダスト中のダニと昆虫のアレルゲンとヒトのアレルギー疾患の関係を解説した。ハウスダストは多くの患者にとってアレルギー疾患の発症原因でありかつ増悪因子である。しかし,ハウスダストは極めて多種のアレルゲンの混合物であり,家屋により優位なアレルゲン種も異なり,個々の患者が影響を受けているアレルゲンは異なっている。ダニアレルゲンは,本邦においても国際的にも最も重要な気管支喘息,アレルギー性鼻炎の原因アレルゲンである。多くの研究が,室内環境中のダニアレルゲン量の増加が,喘息の発症と増悪の原因であることを示してきた。国際的にはゴキブリアレルゲンはダニと同等に重要な室内環境アレルゲンと考えられている。しかしながら本邦の室内環境では,ゴキブリアレルゲンはほとんど検出されず,ゴキブリ感作率も低い。むしろ,本邦の室内塵を調査するとチャタテムシ目や双翅目,鱗翅目などのほうが頻繁に検出され,本邦ではこれらの昆虫の方が重要性が高いと考えられている。
著者
吉川 彩 野崎 淳夫 成田 泰章
出版者
Society of Indoor Environment, Japan
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.3-13, 2011
被引用文献数
1 1

本研究では消臭剤の噴霧量,環境条件,噴霧方法について検討し,より実用的な試験評価法を提案した。また,新たな試験法を用いて,噴霧器を統一し,消臭液におけるホルムアルデヒドとVOCの除去性能を試験的に把握した。試験においては,ガス状汚染物質(ホルムアルデヒドとVOC)の初期濃度,環境条件をある一定のレベルに統一した。なお,消臭剤の噴霧は,製品記載の方法で行った。本試験では一般量販店で購入した6種類の消臭液(ホルムアルデヒド除去試験は2種類のみ)と,その性能を評価するためにコントロールとして精製水を用いた。<BR>消臭液のホルムアルデヒド除去性能(相当換気量<i>Q</i><sub>eq</sub>[m<sup>3</sup>/h])を求めた結果,35種類の植物抽出エキスを主成分とする消臭液(1),フィトンチッドを主成分とする消臭液(2)のホルムアルデヒド相当換気量は,それぞれ0.10,0.06 m<sup>3</sup>/hであり,精製水の相当換気量(0.28 m<sup>3</sup>/h)よりも小さい値であった。この値は最新の空気清浄機におけるホルムアルデヒド相当換気量(<i>Q</i><sub>eq</sub>=99.6 m<sup>3</sup>/h)と比較しても,非常に小さい値となった。本研究で対象とした消臭剤は液体であるため,親水性物質であるホルムアルデヒドの除去効果が期待されたが,精製水のみを噴霧した場合でも,大きな室内ガス状汚染物質濃度の低減効果は認められなかった。<BR>また,消臭液のVOC相当換気量(TVOC換算値)は0.40~1.11 m<sup>3</sup>/hの範囲にあった。特に消臭液(4)のVOC相当換気量(TVOC換算値)が最も大きく,精製水の相当換気量(<i>Q</i><sub>eq</sub>=0.16 m<sup>3</sup>/h)の約6.9倍であった。<BR>更に,VOC物質毎の除去性能を求めた結果,各消臭液は,17物質のうち6~11物質に対して除去効果が認められた。最も多くの物質を除去していたのは,ヒノキとユーカリの精油を主成分とする消臭液(5)であり,その相当換気量の平均は0.91 m<sup>3</sup>/hと比較的小さいが,有効成分含有率を上げることにより増大することが期待される。<BR>各消臭液の物質別相当換気量は,平均で0.44~3.85 m<sup>3</sup>/hの範囲にあり,最も大きな相当換気量を示したのは酵素を主成分とする消臭液(3)であった。しかしながら,相当換気量はガス状汚染物質の初期濃度,消臭剤の噴霧量や他の測定条件によって値は異なるため,これらの更なる検討が求められる。
著者
溝内 重和 市場 正良 宮島 徹 兒玉 宏樹 高椋 利幸 染谷 孝 上野 大介
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.69-79, 2014 (Released:2014-12-01)
参考文献数
30
被引用文献数
5

佐賀市内の小学校(35校70教室)を対象に,室内環境における未規制VOCsを測定した(2011~2013年)。化学分析の結果,すべての教室から未規制VOCsが検出され,検出された未規制VOCsの中では,2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H:0.75-160 μg/m3)が最も高濃度でかつ高頻度(100%)で検出された。続いて,グリコールエーテル類(GEs:nd-250 μg/m3),テキサノール類(Texanols:nd-150 μg/m3)が高濃度かつ高頻度(約80%)で検出された。高い濃度と検出率から,小学校室内環境におけるこれら物質の幅広い用途が示唆された。教室種間の濃度差を比較したところ,2E1Hはパソコン室がいくつかの教室(一般教室,理科室)より有意に高い傾向(p< 0.05)がみられたが,GEsは教室間での差は見られなかった(体育館を除く)。検出された濃度をLowest concentration of interest(LCI)と比較したところ,それらのハザードインデックス(HI)は1以下であった。一方で,本調査で得られた一部の教室における未規制VOCs濃度は,学校環境における2E1Hがアレルギー発症の報告値に近く,またGEs濃度範囲は子供を対象とした疫学調査におけるアレルギー疾患と関係が見られた濃度範囲と同程度であった。今後の小学校室内環境における未規制VOCsの濃度低減が望まれる。
著者
二科 妃里 杉山 紀幸 鈴木 昭人 成田 泰章 野崎 淳夫
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.15-25, 2012 (Released:2012-06-01)
参考文献数
12

近年,トイレ内臭気物質汚染の対策製品が数多く市販されているが,これらの製品性能を求めるにはトイレ内臭気物質汚染を再現する新たな技術が要求される。ヒトの屎尿排泄物は微小熱源でもあるため,屎尿排泄物から臭気物質は便器を経由して上昇拡散する。この場合,臀部や太ももの間から臭気物質は漏洩し,トイレ空間を汚染する。そのため,便器からの漏洩臭気物質による室内空気汚染を如何に再現するかが一つの課題であった。そこで,本研究では便器からの臭気物質発生法についての新たな提案と検証を行うものである。すなわち,1)排泄時の屎尿排泄物の臭気物質発生特性を有する「擬似汚物」の開発を行い,次に2)定常発生が行える「臭気ガス定常発生装置」を作製し,最後に3)非排泄時の臭気物質発生を再現する「臭気物質発生源シール」を作製した。実験的検証の結果,1)スポンジ,粘土素材によって作製した擬似汚物は,排泄時のアンモニア発生特性を再現できる。また,本擬似汚物と「臭気物質放散面積調整器」を便器に設置したところ,臭気物質汚染濃度は実際のトイレ汚染の傾向を示すものの,多少低めの値を示した。本手法は脱臭便座や消臭剤などの対策製品の性能試験に適応することできる。2)臭気ガス定常発生装置では,アンモニア濃度を長時間安定的に保持することができ,本手法は脱臭便座などの試験法に適している。3)非排泄時では便器付着物による汚染が問題となるが,「臭気物質発生源シール」でこの汚染が再現できる可能性がある。
著者
孫 旭 関根 嘉香 鈴木 路子
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.13-20, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
17

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は, 多くの人々の生活様式に変容を強いることになり, 中国東北地方の最大都市・遼寧省瀋陽市においても同様であった。本研究の目的は, 新型コロナウイルス感染症の流行により, 市民の生活習慣や環境意識がどのように変化したかを明らかにすることである。そこで, 2020年1月, 2020年7月および2021年1月に, SNSを通じて公募した瀋陽市に居住する100名に対してアンケート調査を実施した。対象者は3回の調査を通じて同一であり, 情報通信技術(ICT)リテラシーを有する50歳以上の人が主体であった。調査の結果を解析した結果, 新型コロナウイルス感染症の流行は, 市民の交通手段の選択, 調理時のマスクの着用などの生活習慣に影響した。一方, 感染症流行に伴う経済活動等の縮小によって瀋陽市の大気環境が改善され, 居住地の大気環境状況に関する不満は軽減されていた。環境汚染の原因として「環境保護への民衆の参加不足」や「環境に関する教育の不足」を指摘する人が増え, 環境保護に関する市民の意識が未だ不十分であるとの認識が浮き彫りにされた。
著者
中川 翔太郎 橋本 明憲 高橋 俊樹
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-10, 2016 (Released:2016-06-01)
参考文献数
15

窓から室内に侵入したスギ花粉挙動を,数値流体力学と粒子軌道計算の連成シミュレーションにより解析した。シミュレーションには群馬大学で開発した“数値流体力学及び浮遊粒子状物質挙動の特性解析ツール群:CAMPAS”を用いた。本研究では,窓と換気扇を有する室内を想定し,大規模な換気時の室内花粉飛散を定量的に示し,また弱換気時の空気清浄機導入による花粉捕集効果を明らかにすることを目的とした。窓を花粉の侵入源とし,窓のある壁面に対して左側面壁奥上に換気扇がついているものとモデル化した。換気回数8.3回/hの大規模換気時における花粉の室内侵入を調べるため,床面への落下率,換気扇からの排出率,または落下花粉を計算した。窓の対面壁近傍,換気扇の下などに多数の花粉が床面へ落下することがわかった。次に換気回数1回/hの弱換気時に空気清浄機を稼働した際の花粉捕集を調べた。空気清浄機の設置位置は,右側面壁中央下部とした。捕集できる花粉数は落下花粉数の半分程度であることがわかった。また,空気清浄機の生成気流により,窓から侵入した花粉を広く拡散させることも明らかになった。
著者
橋本 一浩
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.107-118, 2020 (Released:2020-08-01)
参考文献数
30

シリーズ最終回となる本解説では, 室内微生物の測定法と汚染対策法について, 著者の測定事例や最新の知見, また2020年6月現在, 世界的なパンデミックに発展している新型コロナウイルスの話題を交えて紹介する。 室内微生物の測定法として, 培養法による浮遊微生物測定, 付着微生物測定およびハウスダストのカビ分析の手法を解説する。 さらに培養を伴わない迅速測定法や, 近年, 発展が著しい分子生物学的手法による網羅的菌叢解析も併せて紹介する。 また, 室内微生物汚染の対策法として, 浮遊微生物を低減する具体的な手法や, 一般家庭で使える代表的な殺菌剤の特徴について記述する。
著者
嵐谷 奎一 松井 康人 戸次加 奈江
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-136, 2019 (Released:2019-08-01)
参考文献数
11

モデルルーム(面積:20 m2, 容積:45 m3)において, 6種の異なる暖房器具(3種の石油系暖房器具, 都市ガス及びプロパンガスヒーター, 電気ストーブ)および喫煙により発生する汚染物質の計測を行った。換気条件は, 以下に示す4種類の方法により実施した。1: 換気操作を行わない(Fan off, Door closed), 2,3: ドアの開閉により換気を行う(Fan off, Door 45°-openまたはFan off, Door 10°-open), 4: 機械換気を行う(Fan on, Door closed)。なお, 暖房時間と喫煙時間は, いずれも3時間と設定した。これらの結果から, 電気ストーブを除く暖房器具の使用により, NOおよびNO2の発生が確認され, その濃度は機種により異なることが確認された。 また, CO, CO2およびホルムアルデヒドは, 電気ストーブを除く全ての暖房器具から発生することが確認され, 粉じんと多環芳香族炭化水素(PAH)は石油系暖房器具からの発生が認められた。一方で, 喫煙による影響を評価した結果からは, NO, COおよびCO2, ホルムアルデヒド, 粉じん, PAHの濃度の上昇が認められた。これらの汚染物質は, いずれも換気操作を行うことによって濃度の低減が確認され, 暖房器具の使用時や喫煙時には, 換気を行うことが室内汚染物質除去への対処策として効果を示すことが確認された。
著者
横田 俊平 黒岩 義之
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.63-73, 2022 (Released:2022-04-01)
参考文献数
48

全身的な身体症状と登校障害を主訴に受診した学童・生徒28名の臨床症状の特徴を調査した。全身の持続的な骨格筋痛, 関節痛, 種々の頭痛が全例に認められた。睡眠障害と朝の起床困難, 倦怠感・少しの動作で感じる疲労感, 食後の胃部痛・胃もたれ, 反復性の下痢と便秘, 通常の室内環境レベルでの光・音・匂いに対する感覚過敏とそれに伴う嘔気・頭痛を認めた。登校時に体調が悪化する例では眩暈, 動悸・息苦しさ, 頭痛, 腹痛等の訴えが多かった。理学的診察では全例に身体諸筋のこわばりと圧痛を認め, 線維筋痛症18圧痛点が陽性であった。血液検査では病巣を特定できる異常所見は得られなかった。これらの所見は若年性線維筋痛症に類似し, 登校障害児には若年性線維筋痛症の未診断例が含まれる可能性がある。自律神経症状, 疼痛・感覚過敏症状, 情動症状をコアとする視床下部性ストレス不耐・疲労症候群の病像が浮き彫りになり, 概日リズムの制御破綻, エネルギー代謝系の機能不全, 内的・外的環境ストレスに対する環境過敏とストレス不耐がある。線維筋痛症成人例でPositron-Emission Tomography(PET)で, 視床とその周囲にミクログリア由来の炎症が確認されており, 登校障害児においても視床-視床下部-辺縁系に病的プロセスが推察された。健常児では全く問題とならないレベルの室内環境等の身体的ストレスや心理的ストレスが登校障害児では顕著な環境過敏・ストレス不耐と易疲労性を起こし, 不登校の原因と推察された。
著者
高橋 奎 中井 里史
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.221-229, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
7

化学物質過敏症に関しては, 臨床的また環境学的な研究は多々あるものの, 日常生活を送る中でのケアやサポートといった側面からの研究はほとんどおこなわれていない。本研究はこのような状況を考慮し, 患者のかかえる悩み等の現状, さらには身近にいて日常生活をサポートする家族との認識等の一致や違いを探り, 患者へのケアやサポートを行う際や, なんらかの改善が必要となる場合に役立ててもらうことを目的として, 化学物質過敏症患者とその家族を対象に調査票を用いた調査を行った。症状が出現する原因に関してはある程度の一致は認められたが, 日常生活で気をつけることに関しては, 患者と家族の考えに高い一致性が認められたものは必ずしも多くなかった。回収率が高くないこともあり, どの程度本研究で得られた結果を一般化できるかに課題があるが, 患者と家族の認識の一致性に関する基礎的情報をある程度得ることができた。しかし今後も, 基礎的な情報を得る努力を継続することが必要である。
著者
山岸 弘
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.73-79, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
19

私たちが生活する住宅内には様々な微生物が存在することが知られている。近年の衛生意識の向上に伴い, 住宅内の水周りである浴室やトイレにおいて, 生活者が気にする汚れは石鹸カス, 皮脂, 水垢, 尿石などだけではなく, カビやヌメリ, 雑菌, さらにはニオイにまで及んでいる。浴室の代表的な微生物汚染は床や壁に生える黒いカビや排水口に発生するピンク色のヌメリなど, 視覚的に認識されるものが多く, 生活者の不快感につながっている。本報では一般家庭の浴室における主要汚染カビやピンクヌメリ原因菌を明らかにし, カビ汚染の特徴や汚染のメカニズム, 温度湿度や汚れ成分が微生物の生育に及ぼす影響について解説すると共に, 日常の微生物対策, さらにはカビの汚染源に対処できる簡便且つ効果的なカビ対策を紹介する。一方, トイレには飛び散った尿に起因する微生物汚染やニオイ, ホコリといった様々な汚れが存在する。近年, 尿の飛び散りに対しては注目度が高く, 家庭での男性の小用スタイルの変化にも表れている。本報では尿の飛び散りや微生物汚染の実態, 微生物とニオイの関係について解説し, 併せて効果的な微生物対策について紹介する。
著者
関根 嘉香 ティースマイヤ リン
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.105-110, 2013

ミャンマー連邦共和国は2011年の新政権発足以降,民主化と経済改革に向けて変化を始めた。本稿では,環境化学者の視点から激変するミャンマーの環境事情の一端を紹介し,近い将来課題となるいくつかの環境問題について言及した。
著者
安木 真世 小村 泰浩 石上 陽平
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.241-246, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は世界的大流行を引き起こした。本ウイルスに対するワクチンの実用化が待たれる中, 感染予防対策として環境中のウイルスの不活化技術や除去技術に注目が集まっている。静電霧化装置から発生するナノサイズの帯電微粒子水は様々な細菌を不活化することが報告されている。本研究では新型コロナウイルスに対する帯電微粒子水の効果を評価した。帯電微粒子水に曝露された新型コロナウイルスは時間経過とともに有意に不活化され, 3時間後の生残ウイルスは対照群と比較して1000分の1であった。以上の結果から, 帯電微粒子水は新型コロナウイルスの不活化に有効であることが明らかとなった。
著者
安木 真世 黒田 真未 井 千尋
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.13-18, 2021 (Released:2021-04-01)
参考文献数
28
被引用文献数
2

世界的流行が続く新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスSARS-CoV-2の不活化技術として, アルコールや界面活性剤に加え, オゾン水の有効性が報告された。有機物の存在はオゾンの分解を速めて有効オゾン濃度の減衰を招くことが知られており, ウイルスが存在し得る様々な環境を想定してオゾン水の有効性を評価すること, 更には様々な環境に応じてオゾン水の使用条件を設定することが重要な課題である。本研究ではこれら課題のための基盤実験として, 有機物の影響を抑えた(ウイルス培養液の溶媒をリン酸緩衝液に置換した)条件におけるSARS-CoV-2に対するオゾン水の不活化効果を評価した。その結果, (1)タンパク質濃度3.3 μg/mlのウイルス溶液では, 0.1 mg/l濃度のオゾン水の30秒間曝露で生残ウイルス量が1000分の1に, (2)タンパク質濃度33 μg/mlのウイルス溶液では, 0.5 mg/l濃度のオゾン水の3分間曝露で生残ウイルス量が10分の1に減少し, 低濃度のオゾン水がSARS-CoV-2を有意に不活化することが明らかとなった。