著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-157, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
24

本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。
著者
澤岡 詩野
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.1-11, 2022-03-31 (Released:2022-04-20)
参考文献数
24

2020年4月に発出された1回目の緊急事態宣言以来,接触の機会が制限される生活が一年以上も続いている。特に社会関係が元の職場や学生時代を介したつきあいに限定されがちな都市部の高齢男性においては,遠方に住むことの多い他者たちと会う機会が失われた結果,高齢女性よりも深刻な影響を受けていることが予測される。本稿では,都市部の企業退職した高齢男性を対象に,社会生活のなかでのインターネット受容プロセスを明らかにしていく。調査対象は,新型コロナウィルスの感染拡大前からインターネットを使ってきた,東京都と神奈川県在住の70代前半~80代後半の企業退職した男性8人である。2020年6月25日~7月8日に,半構造化インタビューを行った。研究協力者は,コロナ禍の生活が長期化するなかで,【インターネットの限界】や直接に顔をあわせることの良さを再確認しつつも,インターネット上の【使い慣れた手段の掘り起こし】や【新しい手段を試行錯誤】して集いを代替しょうとする動きが加速していた。ただし,社会生活の全てを一つの手段で代替していたわけではなく,【課題に応じた手段の取捨選択】が行われていた。コロナ禍を通じ,交流や社会活動の手段としてのインターネットの可能性に気付いた高齢者は少なくないことが考えられる。今後は,使い方の多様性やこれらの変化を前提にした孤立化の抑止や働きかけのあり方を考えていくことが求められている。
著者
岡野 一郎
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.37-51, 2016 (Released:2017-02-03)
参考文献数
26

本稿の目的は, 情報化と呼ばれる現象を, 「情報の消費化」及び「情報の個人化」という観点から捉え直すことである。Websterが批判しているように, 情報化という要因によって社会に何か質的な変化が生じたことを示すのは困難であるし, そもそもBellらの言う物質中心の社会から情報中心の社会へという変化自体が疑わしい。むしろ検討するべきなのは, 情報に関して何が変化したのかである。本稿ではそのような変化として, 「情報の消費化」及び「情報の個人化」を検討する。まず, 情報の消費化とは, 資本主義市場がますます情報関連に広がっていくことを指す。製造業中心からサービス産業中心の社会への移行は, 市場が覆う生活の範囲の拡大として理解できる。しかし, 情報化と見える現象のすべてが「情報の消費化」で説明できるわけではない。Castellsらの言う「ネットワークされた個人主義」は, 「ネットワークの個人化」ないし「情報の個人化」として捉えることができる。Beckらは個人化を, リスク管理の責任がますます個人に課せられるようになる現象として描き出している。情報という観点からは, これは期待効用の最大化を目指すゲーム理論的人間観となる。これは「情報の消費化」と「情報の個人化」が重なることで生じたと言えるが, 進化ゲームの知見は, 私たちがゲーム理論的人間観になじまないことを示している。Beckらの示唆するシステム理論的観点からすれば, 私たちは市場のみに巻き込まれるのではなく, 多元的自己を持った存在として, 個人化の時代を生きていく必要がある。
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.15-28, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ファクトチェックは,2016年のアメリカ大統領選挙をきっかけに世界的に拡大しているが,党派的な偏りや人々に適切な情報を届ける難しさといった課題が指摘されている。国内では,政府がフェイクニュース対策のためファクトチェック推進を求めているが,課題に関する議論は置き去りとなっている。本研究では,2018年に行われた沖縄県知事選挙を対象に,地元新聞社が行ったファクトチェックに対するソーシャルメディアの反応を定性的に分析することで課題を明らかにする。その結果,一部のファクトチェック記事が党派的な反応を引き起こし,政党関係者により対立候補の攻撃に利用されていた。ファクトチェック記事を紹介するツイートとフェイクツイートの反応を比較したところ,党派的な分断が存在することが明らかになった。党派的な反応を引き起こす要因は,ファクトチェックの国際基準違反とファクトチェックとうわさ検証の区分の曖昧さにあった。ファクトチェックにおけるジャーナリズムの役割は,有権者に判断材料を提供することにある。その実現のためには,ファクトチェックという言葉を整理すること,確認・検証する対象を分かりやすく有権者に提示して透明性を高めること,ファクトチェックの取り組みが中立・公正であることを有権者が確認できる仕組みの導入が必要である。
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.125-141, 2019

<p>情報格差が拡大するなか,手軽に情報が摂取できる地上波テレビは,情報弱者にとって重要性を増している。現在,日本の地上波テレビは,大量のソフトニュースで編成されている。例えば日本テレビは,月曜から木曜の朝4時から夜7時の15時間のうち,14時間35分をソフトニュースで編成している。日本におけるソフトニュースの嚆矢は,1964年に日本教育テレビ(NET,現在のテレビ朝日)で放送が開始された《木島則夫モーニング・ショー》であるとされる。1960年代のNETは,ニュースショーというジャンルを牽引する存在であった。</p><p>本稿は,1960年代のNETという送り手を事例に,送り手がどのような意志のもとニュースショーという形式を決定していったのかを,当時の社会状況などを含めて史的に分析した。この分析から,①ニュースショーの原型は,どのような形式の番組であったのか。②ニュースショーという新しい番組形式をもたらした要因や主体は何だったのかを明らかにした。</p><p>結論は次の通りである。①内容はコーナーなどによって細部化され,教育的な内容も娯楽化されて取り込まれた。帯の生番組という編成形式は不変であり,細分化された内容は視聴率によって迅速に見直された。送り手内部では,内容と作り手が分離され,内容の見直しの自由度が向上した。②NETが商業教育局であったことが,大きな要因のひとつであった。NETにおけるニュースショーという形式は,ラジオの経験者と雑誌編集の経験者という主体によってもたらされた。NETが教育局であったために,番組種別上の「教育」と「報道」の混交が生じ,さらに「娯楽」の要素も付加されたことが,付随的に明らかになった。</p>
著者
山口 達男
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.55-70, 2021-02-28 (Released:2021-03-16)
参考文献数
24

本稿は,Z. BaumanがSNSやインターネットへのアップロードを「告白」として捉え,それらが日常的に行なわれている現代社会を「告白社会」と評したことに対して,批判的に検討する試みである。その際にまずM. Foucaultの議論を参照し,4~5世紀の修道院で行なわれていた「エグザコレウシス」や,中世以降のキリスト教における「告解」の特徴を整理することで,キリスト教的告白には「権力関係」「言表行為」「文脈依存」「秘密主義」という四つの特徴があることを明らかにした。次に,非キリスト教的な在り方を探るため,日本近代文学で描かれてきた告白についても言及した。そこでもやはり「権力関係」「言表行為」という特徴を見出すことができた。他方,インターネットをコミュニケーションの技術的な基盤としている現代社会にとって,こうした特徴はすべて無効化されてしまう。「ネットワーク」の特性として「平面化」「データ化」「脱文脈化」「透明化」を挙げることができるからだ。つまり,ネットワークの特性は告白の特徴を無化してしまうのである。したがって,ネットワーク社会の現代では,SNSやインターネット上で告白するのは不可能な営みと指摘できる。むしろ,ネットワークの特性から窺えるのは,われわれのあらゆる情報がインターネット上に〈露出〉していってしまう状況である。すなわち,われわれはインターネットに向けて何かを告白しているのではなく,ネットワークの「運動」によってわれわれの営みが露出させられているのだ。このことを踏まえると,Baumanが評したのとは異なり,現代社会は「告白社会」ではなく〈露出化社会〉と称すべきだと言い得る。
著者
吉見 憲二 上田 祥二 針尾 大嗣
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.97-113, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
16

スマートフォンやソーシャルメディアの普及を背景に,SNS等を通じた児童の被害が増加しており,青少年を取り巻く情報環境は大きなリスクと隣り合わせになっている。本研究ではその中でも近年深刻な社会病理となっている「売買春」に着目し,Twitterにおける問題投稿に付帯されるハッシュタグの特徴について計量テキスト分析の手法を用いて分析した。結果より,登場頻度の高いハッシュタグについて「エリア示唆」「援助(間接的表現)」「援助(直接的表現)」「裏アカウント示唆」「学生示唆」「性描写」「その他」の7つに分類し,その中でも地域名を明示する「エリア示唆」と売買春を間接的に示唆する「援助(間接的表現)」の共起関係が強いことが明らかとなった。こうした知見はサイバー補導における効率的な事前検知につながることが期待できる。
著者
河島 茂生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1-14, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
18

本論文は,AIやロボットが社会に普及している状況下において,また複数のAIが通信ネットワークにおいて接続していく状況下において,いかに倫理的責任の帰属を位置づけるかを検討している。ネオ・サイバネティクスの理論に依拠しつつ,EU議会における電子人間の提言への懸念を示し,AIネットワーク環境下の集合的責任ともいうべき考え方を支持した。電子人間確立の提案は,オートポイエティック・システムでないものに人格という位置を与えることであり,それは,実情に合わないのに加えて倫理的問題を引き起こしかねない。電子人間を制度的に確立しなくとも,集合的責任の制度構築により補償は可能である。近年のコンピュータ技術の動向を鑑みるに,特定の人や組織に責任を帰属できない場合が想定される。その場合は,被害者を救済し,開発者・利用者の萎縮を引き起こさないために集合的責任の導入が求められる。ただしAIネットワーク状況下における責任のありようは,集合的責任のみだけは不足である。特定の人や組織の瑕疵が明確である場合は,そこに責任を帰属させることが望まれる。これは近代以降の慣習になっており容易に変えることが難しいうえ,開発者・利用者の故意の過失もしくは怠慢,責任感の減退を防ぐためには,また技術を改善する動機の維持のためには必要であると考えられる。
著者
佐々木 加奈子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-14, 2018

<p>東日本大震災後に開始された地域情報のアーカイブ活動には,以前から複数の問題が指摘されてきた。これに加えて,近年,多くの震災アーカイブが「あの時,どう避難したのか」という被災上の教訓の伝達に焦点を当てすぎており,その土地に生きた人々の多元的なライフストーリーが省略されているとする指摘が現れた。先行研究の分析は,しかしながら,多元的なライフストーリーの生成プロセスの理論化がまだ十分ではない。佐々木(2016)では,福島県双葉郡浪江町民に焦点をあてて多元的なライフストーリーの生成を実際に試みており,「協働」の場を設定することで,その中での相互行為の中から多元的なライフストーリーが語られうることを実証的に示している。しかし,なぜその結果が得られるのか等は明らかにされていない。本論文では,行為を演技として捉えるゴフマンの演劇論的アプローチの役割概念を用いて,その仕組みを明らかにした。協働の場では,多層的なオーディエンス構造とオーディエンス・パフォーマー間の親密な関係性によって,チームパフォーマンスが促された。その際,参加者たちは自由に自身の役割を見出すことができ,メディアが設定する避難者像から距離を取ることができ,これにより新たな語りの発現に至った。</p>
著者
吉見 憲二
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.15-29, 2016-03-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
16

日本では長らくインターネットを利用した選挙活動が禁止されていたが,2013年4月の公職選挙法改正を契機にネット選挙が解禁されることとなった。ネット選挙解禁後の初の国政選挙は第23回参議院議員選挙であり,2014年12月の第47回から衆議院議員総選挙もネット選挙解禁を迎えている。本研究では,先行研究において選挙期間中の候補者のソーシャルメディアにおける投稿内容分析の手法が確立されていない一方で,新聞社により単純な単語抽出からの分析がなされている現状を問題意識とし,各政党における利用傾向の差異について検討した。分析結果より,別アカウントの利用や代理投稿,外部サービスの利用を行っている投稿が多数存在し,単純な単語抽出からではこうした特徴的な投稿の差異が十分に捉えられないことを明らかにした。加えて,こうした特徴的な投稿の利用傾向は政党間で異なっており,単純な単語抽出からの分析を政党間の比較に用いることが不適切である可能性が示された。
著者
遠藤 薫
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-17, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
16

マスメディア,ソーシャルメディア,リアル空間という異なる特性をもったメディアが重層的に併存し,緊密な相互作用を行う,現代の「間メディア社会」において,民主主義の根拠というべき「世論」は,静態的な規範ではなく,再帰的自己創出を行う動的な〈世論〉として捉えられる必要がある。本論では,この視座から,2016年前半に起こった,舛添スキャンダルの〈世論〉化をめぐる一連のスキャンダル・ポリティクスを分析し,間メディア社会における〈世論〉の動的特性を明らかにする。
著者
田畑 暁生
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.67-81, 2013

丹後半島は近畿地方の最北端に属する半島であり,近畿の中では南紀地方と並んで,京阪神から最も時間距離の遠いところと言えるだろう。平成の大合併を経て丹後半島地域は,それまでの1市10町体制から,広域合併を行った京丹後市,3町が合併してできた与謝野町と,合併をしなかった宮津市,伊根町の2市2町体制となった。本稿はこれらの自治体の地域情報化政策の特徴を調査で明らかにする。合併で成立した京丹後市,与謝野町の方が,宮津市,伊根町よりも積極的な情報化施策を行っている。京丹後市では,2006年の『京丹後市地域情報化計画』に謳われた情報基盤の整備,CATVやコミュニティFMの開局などを実現,日経の「e都市ランキング2006」では全国50位にランクインしている。与謝野町では,合併前の旧加悦町で敷設されていたCATVを全町に拡大する方針を決定,通信・放送・防災に利用し,また,2009年に策定された『与謝野町地域情報化計画』では情報ネットワークやCATVの活用を謳った。宮津市は,市が補助金を出すプロポーザル入札によって,条件不利地域に2007年度からADSLを,2009年度から光ファイバー整備を行った。また,総務省の地域ICT利活用事業で,島根県海士町と組んでソフト振興策としての映像発信事業を始めたが,残念ながら持続的な事業には至っていない。伊根町は最も小規模かつ余裕のない自治体のため,特筆すべき地域情報化政策はなく,また,自治体が行った住民アンケートでも情報化への関心は低かった。
著者
柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.61-76, 2012

日本社会は,Beck(1986=1998)らが指摘するリスク社会を東日本大震災(2011年3月11日)で経験することになった。特に,福島第一原発事故は,事故後の避難計画や除染方法,食品や水の安全性,健康被害,風評被害,政府の対策,エネルギー問題,環境問題などのさまざまな問題を提起している。人びとがこうした「新しいリスク」に対処するとき,その主要な情報源となるものがメディア報道である。本研究では,「新しいリスク」の事例として「放射性セシウム汚染牛問題」を取り上げ,メディア報道が「新しいリスク」の情報を人びとに伝える際に,どのように報道の枠組み,つまり,メディア・フレームを使用するのかを,計量テキスト分析によって探索的に検討した。その結果,「放射性セシウム汚染牛問題」の新聞報道では,「現状フレーム」,「対策フレーム」,「原因フレーム」,「要求フレーム」,「被害フレーム」,「人体への影響フレーム」,「食品フレーム」,「原発事故フレーム」の8つのメディア・フレームが強調されていた。さらに,これら8つのメディア・フレームの出現数は,時系列で変化していたことが明らかになった。以上の知見から,「放射性セシウム汚染牛問題」の報道は,8つのメディア・フレームに依拠し,そのメディア・フレームを時期的に変化させることで,リスク事象の報道内容にストーリー性をもたせ,短期間でパッケージ化されていることが見出された。しかし,短期間でのメディア・フレームのパッケージ化による情報伝達が,リスク社会下に生きる人びとに対して,「新しいリスク」の危険性を浸透させることに適しているのかといった問題点も挙げられた。
著者
陳 雅賽
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.19-37, 2016 (Released:2016-11-22)
参考文献数
20

本稿は,8・12天津爆発事故(以下8・12事故と略す)について,事故直後どのような世論がどのように形成されたのかを明らかにするために,新浪微博の公式的なニュース配信アカウント「頭条新聞」の8・12事故に関する書き込みの主題,フレーム,情報源,イメージ,批判対象及び人気書き込みに付随する人気コメントの内容を分析した。その結果明らかとなったのは以下の五点である,第一に,,新浪微博の公式的なニュース配信アカウント「頭条新聞」の書き込みは主に情報伝達機能や公権力の監視機能を果たした。それらの書き込みに対するコメントは主に公権力の監視機能を果たした。第二に,爆発原因に関する政府や瑞海集団への責任追及,消防士の不当な救援措置の指摘,死亡者数や事故による環境汚染データへの不信,メディアの報道への不満,市民による事故発生後の詐欺行為など不適切な行為への批判との世論が形成されている。第三に,政府の事故対応がどのような世論が形成されるかに大きな影響を与えている。第四に,事故経験者から発信された事故経緯など第一次情報がまとめられ,ニュースの形態で配信されたオリジナル情報が過半数であったことは,フォロワーが少ない一般ユーザーによる事故経緯などの情報が速く,広く拡散できるルートが新たに生まれたといえよう。第五に,形成されたネット世論が,死亡者数や事故による環境汚染データを隠蔽しようとした天津市政府の情報開示や中央政府が事故原因を追究したことに後押しする力になった。
著者
澁谷 遊野
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.13-30, 2022-03-31 (Released:2022-04-20)
参考文献数
52

本稿では,研究蓄積の浅い国内のFacebook上でのCOVID-19関連偽情報等の生成・流通の概要を把握することを目的に,2020年1月から2021年5月までの18ヶ月分の日本語でのCOVID-19関連Facebook投稿を記述的に分析した。その結果,国内外の関連研究で示されている他プラットフォームや他言語による偽情報の傾向と同じように,(1)少数アカウントが偽情報生成・流通で中心的な役割を担っていて, 主流メディアのアカウントと同等もしくはそれ以上の反応数を獲得するなど,COVID-19関連の投稿としては最大級の反応を得ていることが明らかになった。また,(2)偽情報の発信の動機としては,金銭的なインセンティブやイデオロギーに基づいた動機によると考えられるものがあること,(3)YouTube等の外部情報源を利用しながら偽情報を流通させていること,(4)偽情報の中心的なアカウントの周りには緩やかに繋がった大小様々なグループやアカウントが存在し協調的に偽情報の生成・流通に寄与していることが示唆された。偽情報等を展開するアカウントの中には,プラットフォーム事業者によるアカウントや投稿の削除への対策として複数アカウントを運営したり,既存コミュニティとつながることで,偽情報等を受容しやすい潜在偽情報消費者を獲得しているケースもみられた。こうしたことから,COVID-19関連偽情報を巡ってはプラットフォーム事業者等の単一的なアカウントの削除等の対応のみによる効果は限られる可能性が示唆される。今後は国内の偽情報等の生成流通は,プラットフォーム事業者側の問題やリテラシーを中心とした個々の問題としてのみ捉えるだけではなく,社会経済システムの症状としても捉え直し,その背景にある社会・経済・政治な背景や偽情報需要の増減のメカニズムやエコシステムの解明を行うなど,多面的なアプローチも必要と考えられる。
著者
佐々木 裕一 北村 智 山下 玲子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-33, 2021-09-30 (Released:2021-11-10)
参考文献数
25

本稿では,YouTubeスマートフォンアプリ利用者のアーキテクチャ利用のパターンを明らかにした上で,アーキテクチャ利用のパターンとアプリでの視聴時間および動画ジャンルの視聴頻度の関係を明らかにした。この課題に取り組んだのは,(1)インターネットサービスにおいてアーキテクチャが利用者行動に対して影響力を持ちうる,(2)個人同定と情報推奨というアーキテクチャが接触情報内容の幅を狭めるのか広げるのかという議論には決着がついていない,(3)高選択メディアにおいては視聴動画ジャンルの分断が生じうる,という主として3つの先行研究との関わりゆえである。動画サービス利用が進む中で,動画ジャンルレベルでの利用者行動についての実証研究が乏しいという背景もある。YouTubeアプリを過去7日間に1回以上利用した15〜49歳までの男女604名に対するWebアンケート調査を分析した結果,アーキテクチャ利用のパターンとして5つが確認され,この中でアプリ視聴時間の長いものは「全アーキテクチャ高頻度」群と「登録チャンネル」群であった。また動画推奨アルゴリズムが機能するアーキテクチャを高い頻度で利用する者が高頻度で視聴する動画ジャンルは「音楽」であること,登録チャンネルに重きを置いて利用する者において「スポーツ・芸能・現場映像」,「学び・社会情報」,「エンタメ」の3ジャンルの視聴頻度が平均的な利用者よりも低いことを示した。論文の最後では,この結果について議論した。
著者
山﨑 瑞紀 有川 茉里子 片野 紗恵 加藤 優花 小林 加奈 鈴木 詩織 滝 りりか 中 佑里子 成田 真裕
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-46, 2021-09-30 (Released:2021-11-10)
参考文献数
42

本研究では,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の1つであるLINEを用いたコミュニケーション場面において,大学生がLINEスタンプ(1つか2つの言葉がついたカラーのイラスト)をどのような動機で利用しているのか,を明らかにするとともに,スタンプの使用と購入を促す動機を特定した。日本人大学生212名が,チャット状況でのLINEスタンプの利用動機,LINEスタンプの利用や購入に関する質問紙に回答した。結果として,探索的因子分析及び確認的因子分析により,「雰囲気づくり」,「感情表現」,「注目誘引」,「個性表現」,「沈黙回避」の5つの利用動機が見出された。このうち,「雰囲気づくり」,「感情表現」,「沈黙回避」で女性が男性より高かった。これらの利用動機とスタンプ使用/購入の関連を重回帰分析により検討した結果,スタンプの使用を強く促す動機は「注目誘引」と「感情表現」であるのに対し,スタンプの購入を促す動機は「個性表現」であることが見出された。
著者
荻島 和真 福安 真奈 浦田 真由 遠藤 守 安田 孝美
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-16, 2016-02-29 (Released:2017-01-25)
参考文献数
15
被引用文献数
3

オープンデータを推進する方法として,開発イベントやアプリコンテストが各地で開催され,一定の効果を示している。基礎自治体によるオープンデータ推進のためには,これらの取り組みを短期集中的に実施するだけでなく,自治体の受容性を考慮した上で,日常的な自治業務にオープンデータを取り入れていく必要がある。しかし,多くの自治体は,膨大な業務の中,限られた人員やコストでオープンデータを推進している。そこで,本研究では従来の自治業務におけるオープンデータ推進の確立を目的とし,自治体が主催する観光イベントを対象にオープンデータ化の試行とアプリ開発を実践した。観光イベントについて,自治体が発信しているリーフレットの情報を整理し,オープンデータ化を試行した。これを活用して,観光イベントをガイドするモバイル端末向けアプリを開発し,アプリを利用した実証実験を,名古屋市東区で行われる「第15回 歩こう!文化のみち」にて実施した。実証実験からはアプリの有用性が明らかになり,試行した観光イベント情報のオープンデータが有用であることを示すことができた。また,本研究の成果として,「第16回 歩こう!文化のみち」の観光イベント情報が名古屋市のオープンデータとして公開されることになった。以上を踏まえ,自治体の受容性を考慮した,従来の自治業務におけるオープンデータ推進について考察した。