著者
佐々木 加奈子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.1-14, 2018 (Released:2018-05-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

東日本大震災後に開始された地域情報のアーカイブ活動には,以前から複数の問題が指摘されてきた。これに加えて,近年,多くの震災アーカイブが「あの時,どう避難したのか」という被災上の教訓の伝達に焦点を当てすぎており,その土地に生きた人々の多元的なライフストーリーが省略されているとする指摘が現れた。先行研究の分析は,しかしながら,多元的なライフストーリーの生成プロセスの理論化がまだ十分ではない。佐々木(2016)では,福島県双葉郡浪江町民に焦点をあてて多元的なライフストーリーの生成を実際に試みており,「協働」の場を設定することで,その中での相互行為の中から多元的なライフストーリーが語られうることを実証的に示している。しかし,なぜその結果が得られるのか等は明らかにされていない。本論文では,行為を演技として捉えるゴフマンの演劇論的アプローチの役割概念を用いて,その仕組みを明らかにした。協働の場では,多層的なオーディエンス構造とオーディエンス・パフォーマー間の親密な関係性によって,チームパフォーマンスが促された。その際,参加者たちは自由に自身の役割を見出すことができ,メディアが設定する避難者像から距離を取ることができ,これにより新たな語りの発現に至った。
著者
耳塚 佳代
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.29-45, 2020

<p>2016年のアメリカ大統領選を機に,「フェイクニュース」の拡散が社会問題化した。オンラインの有害な情報に対する懸念が高まり,メディアリテラシー教育にも変化が求められている。本稿は,「フェイクニュース」問題をめぐる国際的議論の方向性と海外におけるメディアリテラシーの新たな取り組みを精査し,日本の現状と課題を考察する。グローバルな議論においては,「フェイクニュース」現象が政治利用されていることから,前提として,この用語を使わずに情報区分を整理した上での偽情報・誤情報対策が主流となっている。一方,日本では依然として「フェイクニュース」がさまざまな情報を含む形で使用されている現状がある。また日本のメディアリテラシー教育は,新聞やテレビなど主にマスメディアが発信するメッセージを批判的に読み解くというアプローチが長く主流であった。しかし,党派的分断が進み,メディアに対する信頼が低下する社会においては,従来のアプローチが過度なメディア・既存体制不信と結びつき,自分の信念に合致する偏った情報のみを信じる素地にもなりかねない。こうした点を踏まえた上で,一定の効果が証明されている海外の取り組みを参考にしながら,日本のメディア環境・社会背景を考慮した「フェイクニュース」時代のメディアリテラシー教育について考えていくことが重要である。</p>
著者
鳶島 修治
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.115-128, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
34

本稿では,日工組社会安全研究財団が2014年に実施した「第5回社会生活における不安感に関するアンケート(犯罪に対する不安感に関する調査)」のデータを用いて,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に与える影響について検討する。犯罪不安の規定要因に関する研究では以前からメディア接触の影響に関心が向けられてきたが,従来の研究はマスメディア(新聞,テレビ,ラジオ)に焦点をあてており,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に影響するのかどうか(また,どのように影響するのか)は明らかにされていない。近年ではスマートフォンをはじめとしたモバイル端末の急速な普及によってインターネット上でニュースを読む機会が多くなっており,インターネットでのニュース接触が犯罪不安に与える影響を実証的に検討することは重要な課題である。犯罪不安の規定要因に関する重回帰分析の結果,インターネットでのニュース接触の頻度は本人犯罪不安および同居家族犯罪不安を高めることが示された。また,年齢層別の分析から,インターネットでのニュース接触が本人犯罪不安を高める効果をもっているのは20~39歳の若年層だけであること,40~59歳の年齢層ではテレビでのニュース接触が本人犯罪不安および同居家族犯罪不安を高める効果をもっていることが示された。他方で,60歳以上の高齢層に関しては,新聞・テレビ・インターネットでのニュース接触と本人犯罪不安の間に明確な関連が見られなかった。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.43-56, 2015-10-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
12

本研究では「ネットを介した出会い」経験者と非経験者のネット利用の差異を検討することを目的として, 公立中学校Aの生徒を対象に質問紙調査を実施した。なお, ここでは「ネットを介した出会い(以下, 括弧をはずす)」をオフライン上で交流のない者とネットを介して知り合い, 実際に会うこととする。質問紙調査の結果, ネットを介した出会い経験者は1日のネット利用時間が非経験者よりも有意に長かった。また, 出会い経験者が積極的に利用しているサイトとして「ソーシャルネットワーキングサイト(サービス)」が挙げられ, 非経験者が利用しているサイトとして「動画」が挙げられた。一方, たとえばフィルタリング導入の有無や学校生活全般への充実度について, 出会い経験者と非経験者の間に有意差はなく, また, 先行研究では男子より女子の方がネットを介した出会いを実現させていたが, 本研究において有意差はなかった。
著者
山口 達男
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.55-70, 2021

<p>本稿は,Z. BaumanがSNSやインターネットへのアップロードを「告白」として捉え,それらが日常的に行なわれている現代社会を「告白社会」と評したことに対して,批判的に検討する試みである。その際にまずM. Foucaultの議論を参照し,4~5世紀の修道院で行なわれていた「エグザコレウシス」や,中世以降のキリスト教における「告解」の特徴を整理することで,キリスト教的告白には「権力関係」「言表行為」「文脈依存」「秘密主義」という四つの特徴があることを明らかにした。次に,非キリスト教的な在り方を探るため,日本近代文学で描かれてきた告白についても言及した。そこでもやはり「権力関係」「言表行為」という特徴を見出すことができた。</p><p>他方,インターネットをコミュニケーションの技術的な基盤としている現代社会にとって,こうした特徴はすべて無効化されてしまう。「ネットワーク」の特性として「平面化」「データ化」「脱文脈化」「透明化」を挙げることができるからだ。つまり,ネットワークの特性は告白の特徴を無化してしまうのである。したがって,ネットワーク社会の現代では,SNSやインターネット上で告白するのは不可能な営みと指摘できる。むしろ,ネットワークの特性から窺えるのは,われわれのあらゆる情報がインターネット上に〈露出〉していってしまう状況である。すなわち,われわれはインターネットに向けて何かを告白しているのではなく,ネットワークの「運動」によってわれわれの営みが露出させられているのだ。このことを踏まえると,Baumanが評したのとは異なり,現代社会は「告白社会」ではなく〈露出化社会〉と称すべきだと言い得る。</p>
著者
佐々木 裕一 北村 智 山下 玲子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-33, 2021

<p>本稿では,YouTubeスマートフォンアプリ利用者のアーキテクチャ利用のパターンを明らかにした上で,アーキテクチャ利用のパターンとアプリでの視聴時間および動画ジャンルの視聴頻度の関係を明らかにした。この課題に取り組んだのは,(1)インターネットサービスにおいてアーキテクチャが利用者行動に対して影響力を持ちうる,(2)個人同定と情報推奨というアーキテクチャが接触情報内容の幅を狭めるのか広げるのかという議論には決着がついていない,(3)高選択メディアにおいては視聴動画ジャンルの分断が生じうる,という主として3つの先行研究との関わりゆえである。動画サービス利用が進む中で,動画ジャンルレベルでの利用者行動についての実証研究が乏しいという背景もある。</p><p>YouTubeアプリを過去7日間に1回以上利用した15〜49歳までの男女604名に対するWebアンケート調査を分析した結果,アーキテクチャ利用のパターンとして5つが確認され,この中でアプリ視聴時間の長いものは「全アーキテクチャ高頻度」群と「登録チャンネル」群であった。また動画推奨アルゴリズムが機能するアーキテクチャを高い頻度で利用する者が高頻度で視聴する動画ジャンルは「音楽」であること,登録チャンネルに重きを置いて利用する者において「スポーツ・芸能・現場映像」,「学び・社会情報」,「エンタメ」の3ジャンルの視聴頻度が平均的な利用者よりも低いことを示した。論文の最後では,この結果について議論した。</p>
著者
辻 和洋 中原 淳
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-16, 2021-09-30 (Released:2021-11-10)
参考文献数
31

本研究は,調査報道の困難さを乗り越え,推進していくための新聞社のデスクの役割について,ニュース制作過程を通じて検証する。その分析対象には,調査報道の決定的な事例として2004年度に新聞協会賞を受賞した北海道新聞社「北海道警裏金問題」報道を取り上げた。調査報道は一般的な報道に比べて記事化の不確実性が高く,リスクもコストも高いと言われる報道形態である。その中で調査報道の成立には,デスクが重要な役割を果たすとの指摘がある。しかし,ニュース制作過程研究において,調査報道におけるデスクの役割はほとんど実証的に明らかにされていない。そのため,デスクによる記者や上司らへの働きかけなどについて,本事例を担当したデスクと記者に半構造化インタビューを行った。調査の結果,デスクは調査報道のニュース制作過程において,取材のビジョンと目標を熟考し,明確化した上で取材班を結成するといった取材に向けての戦略を入念に立てていた。記者らに対しては取材活動の自律性を確保したり,鼓舞したりする取材に対する支援行動が見られた。また上司らに対しては社内で議論の場を積極的に設け,説明責任を果たしていた。これらの行動は先行研究において描かれていない行動であり,調査報道においてニュース制作を推進していく上で重要なデスクの役割である可能性が示唆された。
著者
小郷 直言
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-9, 2012-12-31 (Released:2017-02-04)
被引用文献数
1

かつて何かが存在したこと,あるいは,かつて何かが起こったことを示す痕跡は,情報として利用できるのではないか。痕跡を記号として読み取るまえに,痕跡がつくられてきた経過を辿ることで,より一層の意味を痕跡から読み取ることができるはずである。静的な痕跡をイキイキとした動的な風景の中で観ることができれば,痕跡を単なるインデックスとしてだけではなく,われわれの動作や仕草を誘導してくれたり,快適にしてくれたり,あるいは躊躇させたりするモノとして活用できるかもしれない。社会情報学という大枠では見過ごされやすいが,痕跡を,利用しやすい情報として緻密に外環境にデザインし,用意したなら,その世界はささやかではあるが住みやすいものになりはしないだろうか。また痕跡が繰り返し行われた行為の跡であることは貴重な情報となる。痕跡の意義とその利用方法を簡単な例示によって説明する。痕跡から見える社会情報学という論題でそんな期待を込めてみた。
著者
大澤 健司 霜山 博也 中村 啓介 井上 寛雄 米山 優
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.73-89, 2015-10-31 (Released:2017-01-25)
参考文献数
17

本研究は, サイバースペースをより魅惑的な場にすることを目的とし, そのためのヴィジョンを提示したものである。現在においてサイバースペースの問題を論じるにあたり, ビッグデータの問題は避けて通れない。しかしながらこの論点は, 主に技術的な観点からのみ扱われてしまっている。サイバースペースにおいて操作を行うのは, まさに我々なのにである。そこでWalter Benjaminの議論を参照することにより, 本論ではこの問題を我々の存在に引き付けて論じた。その際の一つの参照点として探偵小説の構造に着目し, それとサイバースペースを比較検討した。探偵が用いる痕跡の繋ぎ合わせの手法をノードの結合からなるリンク構造のアナロジーとして考察することにより, その類似を指摘しつつも, 近代的な探偵的手法をそのままサイバースペースへと転用することの限界を示した。そして, 情報の哲学を打ち立てようとしているPierre Lévyの議論を参照することにより, この議論を現代的な問題へと接続した。ここにおいてビッグデータのあり方を踏まえた上での, サイバースペースにおけるヴァーチャルな自己の存在(我々の複製としての)が素描されることになる。この存在は探偵や群衆ではなく, Benjaminの議論における遊歩者がモティーフとなっている。サイバースペースをビッグデータから構成されるヴァーチャルな自己が遊歩する空間として捉え, これを我々の経験や創造性から論じている点が, サイバースペースの今後を考察する際に有用な立脚点となる。
著者
長 広美 柳瀬 公
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.191-206, 2020

<p>本研究は,先行研究から見えた調査上の課題点を踏まえ精度の高いSNS利用状況を把握すること,各SNS利用の代替・補完性について明らかにすること,そして,SNS利用が学業成績に及ぼす影響について体系的に解明することを目的とした。SNS利用時間の測定では,調査票調査や日記式調査にみられる自己申告によるものでなく,調査対象者の大学生(<i>N</i>=153)が所持しているスマートフォンのバッテリー使用状況を用いて収集した。学業成績の測定についても,先行研究の多くが採用している自己申告GPAではなく,専門科目の学期末試験の得点を用いた。</p><p>分析の結果,LINEとInstagram,TwitterとYouTubeとの間にそれぞれ補完的な利用関係があることが明らかになった。学業成績には,LINE,Twitter,YouTubeの利用が負の影響を与えていた。つまり,これらのSNSの利用時間が増えるほど学業成績が悪くなることが示唆された。本研究結果は,SNS利用によって注意力が散漫になったり,SNSに費やす時間が学習の時間を減少させ,結果として学業成績の低下につながるという先行研究結果と整合性があるものであった。本研究では,SNS利用と学業成績との関連性の議論に実証的根拠を示すことができたとともに,当研究領域における現代社会のSNS利用行動の複雑さを解明する一つの可能性を見出した。</p>
著者
水谷 瑛嗣郎
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.47-63, 2020

<p>フェイクニュース問題は,現代における様々な情報技術の影響を受けており,「思想の自由市場」という概念それ自体の前提を揺さぶっている側面がある。「フェイクニュース(偽情報)」がもたらす危害は,本稿の視点では次の3点が特に問題となる。まず第一にデモクラシーへの影響,特に「選挙」に対する影響である。次に,同じくデモクラシーの影響の中でも,我々の民主政治体制を支える言論空間に対する影響である。そして第三に人権(human rights)に対する影響である。フェイクニュースによりもたらされるこれら「危害」の解消を図るうえで,政府,特に立法府がとり得るオプションとして真っ先に思いつくものに,虚偽情報の発信者に対するコンテンツ(内容)規制やオンライン・プラットフォームに対する規制が考えられる。しかしながらそうした方法はフェイクニュースを解消するよりも,むしろ思想の自由市場に「歪み」をもたらす可能性があることに注意を払わなければならない。本稿では,コンテンツ規制よりも表現空間へのダメージを抑える別の形態の可能性を探る観点から,選挙運動における「選挙運動の沈黙」規制や,既存の報道機関への助成策,そしてプライバシーや個人のデータ保護(例:GDPR)といった手法について検討を行っている。</p>
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-57, 2013-06-30 (Released:2017-02-04)

本研究では,出会いを「ネットを介して知り合った人と実際に会った経験」とした上で,ネットを介した出会いの過程を質的に明らかにすることを目的とし,青少年女子15名に対して半構造化面接を実施した。その結果,ネットを介した出会い経験者は8名,非経験者は7名おり,経験者は「インスタントメッセンジャー」「ソーシャルネットワーキングサイト(サービス)」「メールボックス」「BBS」を介して異性の者との出会いを実現させていた。また,経験者はネットを介した出会いを実現させる前,出会いに対して「否定的感情」を抱いているにも関わらず出会いを実現させており,その理由として,ネットの特性が影響していることが考えられる。加えて,経験者はフィルタリングが導入されていない端末から自由にネットを利用できる環境にあり,ネットを介した出会いのトラブルや事件を防ぐ為には,青少年心理を理解した上でのリスク教育とペアレンタルコントロールも必要であると言える。
著者
加藤 千枝
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.47-60, 2014-09-30 (Released:2017-02-04)

GC(ゲーテッド・コミュニティ)とは居住境界線を明確に示すコミュニティの形態である(Blakely & Snyder,1997=2004)。本研究ではSNS上のGCの分類を行い,非GCとの比較・検討をすることで,オンライン上のGCの可能性と限界を整理し,考察することが目的である。先行研究を踏まえ,SNS上の151のGCを分析した結果,「知人同士のやりとり」「見知らぬ者同士のやりとり」「個人利用」「完全非公開」の4点に分類することができた。さらに,限定的ではあるが青少年99名の自由記述から,SNS上のGC・非GC共に他者とやりとりすることでカタルシス効果が得られた。しかし,非GCでは相手に打ち明けることで関係が変容・崩壊してしまう恐れのある話題についても,打ち明けることが可能なので,そのような点がGCとの差異として見出されたと考える。
著者
板倉 陽一郎
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.99-111, 2015

<p>パーソナルデータの利活用に関する制度見直しは, 内閣官房IT総合戦略本部に設置された「パーソナルデータに関する検討会」において検討が進められ, 平成25年12月には「パーソナルデータの利活用に関する制度見直し方針」が, 平成26年6月には「パーソナルデータの制度改正大綱」が, それぞれIT総合戦略本部決定され, これを元に個人情報保護法の改正案が作成されるものと思われた。しかしながら, 平成26年12月の検討会で公表された「個人情報の保護に関する法律の一部を改正する法律案(仮称)の骨子(案)」は, 「大綱」からかけ離れた内容を含んでいる。具体的には, ①「個人情報」の定義については, 「大綱」が保護対象の見直しについては「機動的に行うことができるよう措置する」とされたものの, 政令事項となり, 更に議論しなければならない。②匿名加工情報(仮称)については, 「民間の自主規制ルール」に関する規律がほぼ無内容となった上で, 自主規制ルールではなく個人情報保護委員会規則での規律は非現実的である。③利用目的制限の緩和は, 本人の感知しないまま利用目的の変更を認めるものであり, OECDプライバシーガイドライン違反のおそれがある他, 経済界からも, 消費者の信頼を得られず, 導入できないとの声が上がっている。④外国にある第三者への提供の制限については, 一般的な第三国への移転概念と異なる日本独自の概念を創り出しており, 混乱のもとである他, 移転可能な第三国をホワイトリスト方式にすることとしており, 外交上の困難を招来するものである。</p>
著者
澤田 昂大 五十嵐 祐
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.177-189, 2020

<p>ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)において,私たちは様々な情報を発信し,周囲の人々とのコミュニケーションを行っている。その一方で,SNSで個人情報を含むセンシティブな内容を発信することは,プライバシーの懸念を高めうる。この問題に対処するため,多くのSNSでは利用者が情報の公開範囲に一定の制限を設けることのできるプライバシー設定機能が実装されている。本研究は,大学生のTwitterユーザーを対象として,ツイートの非公開設定機能の利用動機尺度を作成し,学年,性別および非公開設定機能の利用動機がプロフィール欄における個人情報の記載行動に与える影響について検討を行った。探索的因子分析の結果,「公開範囲のコントロール」,「不利益の回避」,「社会的影響」の3因子が抽出された。また,これらの下位尺度得点を含めた重回帰分析の結果,「公開範囲のコントロール」はプロフィール欄における名前の匿名化を促し,「社会的影響」は個人の特定を容易にしうる情報の記載を促進していることが示された。さらに,学年が上がるにつれてさまざまな情報の記載が抑制されていることや,女性がより積極的に情報の記載を行っていることも示された。</p>
著者
笹原 和俊 杜 宝発
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.65-77, 2019

<p>道徳は人々を結びつけ,集団を形成する原動力になる一方で,集団を敵と味方に分断し,対立を生む要因にもなる。ソーシャルメディアはこのプロセスに関与し,場合によってはそれを加速させる危険性もある。本論文では,Twitterから収集した大規模なLGBT(性的少数者)関連の投稿(ツイート)を分析し,ソーシャルメディアにおける道徳的分断の実態を調査した。LGBTをめぐる社会の動向には,多様性を目指す社会にとって重要な道徳的問題が含まれる。LGBTツイートの拡散をネットワーク分析によって調べたところ,高い道徳的類似性(ホモフィリー)を持つ少数のコミュニティが形成されていることがわかった。さらに,英語と日本語の道徳基盤辞書(MFD及びJ-MFD)を使ってLGBTツイートの投稿内容を分析したところ,英語でも日本語でも共通して,LGBTは忠誠基盤の問題,つまり,集団に関わる道徳的問題として語られていることがわかった。また,忠誠基盤に加え,あるコミュニティは擁護基盤,別のコミュティでは権威基盤という具合に,コミュニティによって異なる道徳基盤を重視する傾向があることも示された。このことが道徳的分断と関係している可能性がある。これらの結果は,ソーシャルメディア上の道徳的分断を計算社会科学のアプローチで理解し,道徳的分断を緩和するための方略を考える上で重要な示唆を与える。</p>
著者
藤代 裕之
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.143-157, 2019

<p>本研究は,2018年に行われた沖縄県知事選挙に関するフェイクニュース検証記事を事例に,地方紙である沖縄タイムスのニュース制作過程を,地方紙のニュースバリューである「地域性」,「取材先」,「社内」,「同業他社」をインターネットメディアとの関係性を考慮に入れながら明らかにしたものである。3人の記者の聞き取り調査から,フェイクニュースを取材することで,これまでは異なると考えられていた既存メディアとインターネットメディアのニュースバリューが重なり,インターネットメディアであるバズフィード日本版が「同業他社」として位置づけられたことが分かった。これにより,候補者間で偏りが生じないよう報道するという記者が捉えていた選挙報道のニュース制作過程の公平性の「原則」が揺らぐことになった。また,地理的環境に左右されないインターネットメディアにより,地方紙が重視するニュースバリュー「地域性」に二重性が生じた。これらの変化が,これまでの地方紙のニュースバリューで取材を進める記者に戸惑いを生むことになった。選挙時のフェイクニュース検証記事における課題として,公平性についての議論が必要である。本研究の調査対象者は限られており,フェイクニュース検証記事の制作過程を一般化することは難しいが,フェイクニュース検証というソーシャルメディア時代の新たなニュース制作過程を明らかにしたという点で意義がある。</p>
著者
澤田 昂大 五十嵐 祐
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.177-189, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
32

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)において,私たちは様々な情報を発信し,周囲の人々とのコミュニケーションを行っている。その一方で,SNSで個人情報を含むセンシティブな内容を発信することは,プライバシーの懸念を高めうる。この問題に対処するため,多くのSNSでは利用者が情報の公開範囲に一定の制限を設けることのできるプライバシー設定機能が実装されている。本研究は,大学生のTwitterユーザーを対象として,ツイートの非公開設定機能の利用動機尺度を作成し,学年,性別および非公開設定機能の利用動機がプロフィール欄における個人情報の記載行動に与える影響について検討を行った。探索的因子分析の結果,「公開範囲のコントロール」,「不利益の回避」,「社会的影響」の3因子が抽出された。また,これらの下位尺度得点を含めた重回帰分析の結果,「公開範囲のコントロール」はプロフィール欄における名前の匿名化を促し,「社会的影響」は個人の特定を容易にしうる情報の記載を促進していることが示された。さらに,学年が上がるにつれてさまざまな情報の記載が抑制されていることや,女性がより積極的に情報の記載を行っていることも示された。
著者
林 浩輝 梅原 英一 小川 祐樹
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.165-175, 2020

<p>本研究では,政治的コミュニケーションの新たな手段として期待されるSNSの中でもTwitterに着目し,意見の一極集中やアナウンスメント効果などの世論形成理論の成立の可能性を考察した。2015年5月に実施された大阪都構想のツイートを分析対象とし,トピック分析および新聞記事と比較することで,ツイートとアカウントを賛成と反対に分類した。これを用いて賛成および反対の投稿数及びアカウント数の推移を分析した。その結果,多数派認知がTwitterの投稿に影響を与えている可能性は確認できなかったものの,リツイートのネットワーク分析の結果では,賛成と反対が明確に分かれたネットワークが存在することが分かった。また次数中心性および媒介中心性が極端に高い少数のアカウントが存在することが確認できた。その結果,オピニオンリーダーの出現とアナウンスメント効果の成立の可能性を見出すことができた。</p>
著者
木下 浩一
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-35, 2018

<p>放送制度では多元性・多様性・地域性が重視されてきたが,地上波テレビにおいては東京一極集中が進行している。しかしながら1975年以前には,フリーネットやクロスネットが存在し,現在よりも多様性が高かった。なかでも,教育局である日本教育テレビ (NET) と準教育局である毎日放送テレビ (MBSテレビ) によるネットワークは,多様な展開をみせた。一方でNETとMBSテレビは,教育局・準教育局ゆえに,教育番組や教養番組であっても視聴率がとれる番組を追求した。その結果,1960年代末にクイズ番組が大量に編成された。「クイズ局」と呼ばれたこの現象は,商業教育局による特異なネットワークにおいて,いかにして生じたのだろうか。</p><p>本稿では,「クイズ局」という事象を史的に分析し,番組種別の規制がネットワークを通じて傘下の送り手に与えた影響を明らかにした。結論は以下の通りである。「クイズ局」という現象は,クイズ番組という形式が,教育局が量的規制をクリアしつつ高い娯楽性を実現するのに有効であったと同時に,ネットワークを組んだ在阪局が東京へ情報発信する上で有効な形式であったがために生じた。番組種別の量的規制は,規制対象の局に影響を与えるだけでなく,ネットワーク関係にある局に対しても影響を与えたことが確認された。</p>