著者
櫻井 洋一 長谷川 由美 難波 秀行 王堂 哲
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.753-762, 2018 (Released:2018-06-20)
参考文献数
37
被引用文献数
1

【目的】サルコペニア防止のための基礎的研究としてL-カルニチン(以下、LCARと略)と分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;以下、BCAAと略)を投与後に運動負荷を行い、エネルギー基質代謝、身体組成、運動後の筋肉痛に対する効果を検討した。【方法】若年健常女性12名を対象に、LCAR+BCAA投与群(n=6)と非投与群(対照群、n=6)の無作為に2群に分け、運動負荷(VO2 max 50 %、60分)前後における血清エネルギー基質濃度、身体組成、筋肉痛の程度を検討した。運動負荷前にLCAR1000 mg/dayを14日間経口投与、運動負荷2時間前にBCAA7.2 gを経口投与した。【結果】LCAR+BCAA投与群の血清遊離・アシル・総LCAR値は対照群に比較して差を認めずBCAA投与後の運動負荷前後におけるLCAR+BCAA投与群の血清BCAA値は対照群に比較し有意に高値であった(P<0.0001)が、遊離脂肪酸値は低下した。運動負荷後の体組成は両群間に差を認めなかったが、LCAR+BCAA投与群の運動負荷24、48、72時間後の筋肉痛は有意差を認めなかった。【結語】運動負荷前のLCAR+BCAA投与は運動負荷後の体組成や筋肉痛には差を認めなかったが運動後の脂肪分解亢進を減弱する可能性が示された。
著者
濵島 美穂 中野 広美 若杉 明里 潟永 大輔 萱島 涼子 松島 文子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.250-254, 2019 (Released:2019-11-20)
参考文献数
2

高齢者施設ではどのように栄養管理を行なっているのだろう。地域包括ケアシステム1)の中で住み慣れた地域での生活を目指してリハビリテーション(以下、リハビリと略)を行う場は集中治療室(intensive care unit;ICU)や急性期病棟だけでなく、回復期病棟であったり、介護老人保健施設(以下、老健施設と略)であったり、自宅であったりと必ずしも医療機関だけではない。高齢者施設とひとくちにいっても介護医療院、老健施設といった医師が常駐して医療を提供できる施設もあれば、住居としての性質を持つ有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、シニア向け分譲マンションなどもあり、制度の異なるいくつもの施設を包含している。本稿では主に老健施設におけるNST活動について述べるが、周知の通り、老健施設は介護報酬で運営するため、提供する医療も栄養管理もすべて“まるめ”で行うことになっている。栄養サポートチーム(nutrition support team;以下、NSTと略)加算のような診療報酬上の裏付けは一切ない。在宅生活、在宅療養に向けた支援を行う上で必ずしも病院から老健施設、在宅生活へとシームレスに移行できない理由がここにある。医療機関とは全く異なる仕組みでNST活動を行うことには様々な制約がある中で、キーとなるのはやはり多職種によるアセスメントとマネジメントである。NSTと摂食機能訓練を合体させたような栄養会議(nutrition congress)を発足させた我々の歩みを紹介する。医療機関のNSTとは若干異なるため上記の英語タイトルとした。
著者
茨木 あづさ
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.255-260, 2019 (Released:2019-11-20)
参考文献数
14

在宅療養者の希望する生活の質(quality of life;以下、QOLと略)を維持するためには、適切な在宅栄養管理が不可欠である。在宅栄養管理を行うためには、病態だけではなく、療養者本人のこれまで生きてきた生活様式や意思・意向を、十分に考慮しながら携わり、支援することを心掛けている。在宅療養者の今後の生活を考えるうえで重要となるのは、看取りも含め医療・福祉・介護機関やそれらの機関に従事する多職種スタッフ、家族・近隣の人たちと緊密に連携することである。連携とは結果が重要であり、栄養管理は継続できなければ意味がない。療養者の最も近くに寄り添い支援することができる、訪問看護による栄養管理が重要だと考える。連携しながら継続的に栄養管理を行い、栄養状態の悪化を予防することが必要である。医療機関に、外来通院している患者でも、食が維持できず低栄養に陥る高齢者も多い。地域や医療・福祉・介護における「地域栄養ケア」の連携、在宅療養者やその家族も対象とした訪問看護による栄養アセスメントに基づいた予防的・継続的な栄養管理が重要である。
著者
名徳 倫明
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.625-632, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
18

経腸栄養剤施用患者の薬剤投与の実態とin vitro及びin vivoでの食物繊維またはとろみ材が及ぼす薬剤吸収への影響について検討した。経腸栄養剤施用患者への薬剤投与実態に関する現状調査を行った結果、経腸栄養剤施用患者での内用薬の用法指示に対する投与タイミングは大半が指示通りであったが、異なった投与タイミングもみられた。in vitro実験において、食物繊維またはとろみ材を使用したとろみ水に混和した薬剤で、薬剤の溶出遅延がみられた。また、食物繊維やとろみ材を用いた低粘度で調整した溶液において、薬剤の吸着がみられた。さらにin vivoにおいてもカルバマセピンの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)がグアガム、キサンタンガムと同時投与にて有意に低下した。このようにとろみを含む半固形化経腸栄養剤は薬剤の吸収への影響が想定される。そのため、とろみ材等による形状変化を含む半固形経腸栄養剤施用患者に薬剤を投与する場合には、それぞれの薬剤に対して投与タイミングを考慮する必要がある。
著者
伊藤 明美
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.3-6, 2019

<p>妊娠時から産褥期における栄養管理の目的は、妊婦の健康と胎児の発育を守ることである。通常、「日本人の食事摂取基準」を満たすような食生活が理想と言える。しかし、平成29年の「国民健康・栄養調査」結果では、20歳代女性のやせ(BMI<18.5㎏/m<sup>2</sup>)の割合は21.7%と多く、カルシウム、マグネシウム、鉄は推定平均必要量を下回っている。非妊娠時のやせや妊娠時の体重増加不良は、低出生体重児のリスクが高いことが知られている。また、胎児の発育に影響を及ぼす葉酸、ビタミンA、Dのように不足と過多の両方に配慮が必要な栄養素もあり、妊娠前からの栄養教育が必要である。妊娠を機に起こりうる病態や代謝異常には、妊娠悪阻、糖代謝異常、妊娠高血圧症候群などがあり、これらの患者には特別な栄養管理が必要となる。今回、これらの妊婦の栄養サポートに関わるスタッフが知っておきたい栄養管理について概説する。</p>
著者
田中 友理 比企 直樹 小菅 敏幸 峯 真司 布部 創也
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.1137-1144, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2

【目的】胃癌術後早期は経口摂取が不十分のため、静脈栄養を併用した効果的な栄養管理が必要となる。胃癌術後に脂肪乳剤・アミノ酸・糖を含む末梢静脈栄養法を併用する新しいクリニカルパス(CP)の有用性と安全性について検討した。【対象および方法】胃癌周術期に新しい CPを使用した94例(新 CP群)と従来の CPを使用した91例(旧 CP群)を対象とし、パス完遂率、合併症率、術後在院日数、体重変化、栄養指標について後ろ向きに比較検討した。【結果】パス完遂率、合併症率、在院日数に差を認めなかった。脂肪乳剤連日投与を含む術後栄養管理で重篤な有害事象を認めなかった。新 CP群における術後1ヶ月の血清アルブミンの減少割合は有意に少なく、術後7日目の体重減少率も少なかった。【結論】胃癌術後に脂肪乳剤・アミノ酸・糖を含む末梢静脈栄養法を併用する CPは術後合併症の発生を増加させることなく、早期に栄養状態を改善し体重減少を抑制する可能性がある。
著者
関 恭子 岸井 加代子 久永 文 平手 ゆかり 長島 章 的場 是篤 金丸 太一 神前 雅彦 三好 真琴 宇佐美 眞
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.865-870, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
31

【目的】がん化学療法施行時にシンバイオティクスを併用することで、消化器症状が軽減しさらにがん化学療法のコンプライアンス保持に繋げられるのではないかと考え検討を行った。【対象及び方法】肺、胃、大腸がん患者のうちがん化学療法を行った患者を対象として、シンバイオティクス服用群9例と非服用群9例間で、消化器症状の発現頻度、がん化学療法の減量および延期の有無、体重、エネルギーと栄養素摂取量、血中 DAO活性を比較した。【結果】服用群では Grade2以上の食欲不振の発現頻度が有意に低下した (p = 0.041)。服用群では、血中 DAO活性の低下が抑制され、コース終了時の体重が維持され (p = 0.048)、がん化学療法の減量および延期症例が少なかった。【結論】がん化学療法施行時にシンバイオティクスを併用することは、食欲不振の軽減、体重の維持、がん化学療法時のコンプライアンス保持に有用であると考えられた。
著者
竹島 美香 利光 久美子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.102-106, 2019 (Released:2019-07-20)
参考文献数
17

がん患者では、がん悪液質の病態と化学療法や手術などのがん治療に伴う侵襲によって、栄養障害に陥りやすい。また、がん治療前の栄養障害は、術後の合併症や術後回復の低下、また化学療法による有害事象の発現率が増加し、治療の完遂率にも影響を及ぼす。高齢者は、一般的に加齢による基礎代謝の低下や咀嚼・嚥下機能の低下などの身体的機能の低下が見られ、さらに複数の疾患を有していることが多いため、栄養障害に陥りやすい。高齢がん患者になると、加齢による身体的機能の低下などに加えて、がん特有の代謝異常が加わることによって、若年患者と比べて容易に栄養障害をきたし易い。また、いったん栄養障害に陥ると、その回復は非常に困難となってくる。従って、栄養状態に影響しうる高齢者の特性を十分把握した上で、個々の高齢患者に即した栄養療法を行っていくことが重要である。
著者
小山 諭
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.166-172, 2019 (Released:2019-09-20)
参考文献数
18

医療安全は現代医療の根幹を支えるものであるが、すべての医療行為には何らかの危険が潜在しており、実際に100%安全な医療は存在しない。そのため様々なリスクが存在しうることを念頭に置いて、リスクを回避する、あるいはインシデントやアクシデントを最小限に留めるように対処することが大切である。そのためには適切な知識を身につけ、医療行為に潜んでいるリスクを常に頭の片隅におき、迅速に対応できるように心がけておくことが肝要である。経腸栄養は静脈栄養に比べ安価であり、感染性合併症が少なく、quality of life(以下、QOLと略)維持にも有用であり、腸管の使用が可能であれば経腸栄養を第一選択とすることが勧められている。しかし、経腸栄養においても当然、合併症は起こりうるものであり、場合によっては致命的となることもある。患者個々の状態・病態ごとに安全かつ適切に経腸栄養を施行することを心がける必要がある。
著者
堤 理恵 瀬部 真由 別府 香名 渡辺 涼乃 尾平 優 黒田 雅士 阪上 浩
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.1019-1024, 2018 (Released:2018-10-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

がんの化学療法中に味覚・嗅覚障害は頻繁に生じ、患者のquality of life(以下、QOLと略)だけでなく、体重低下や栄養状態の悪化を引き起こす深刻な副作用である。しかしながらこれまで確立された治療法や予防策はなく、食事内容や形態の工夫が主な対処法であった。味覚障害は薬剤による亜鉛のキレート化が原因であるとされているが、これに加えて味覚受容体遺伝子の発現変化や口腔粘膜障害の影響も報告されている。本稿では、化学療法中に生じる味覚・嗅覚障害の実態とともに、これに対する栄養的なアプローチを紹介する。
著者
村松 博士 田中 育太 庵原 秀之 三上 淳一 中谷 玲二 日下部 俊朗 渡辺 秀樹 北川 一彦 土田 茂 久居 弘幸 倉 敏郎 坂田 隆
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.611-616, 2018 (Released:2018-04-20)
参考文献数
32

液体栄養剤の半固形への形状変化が臨床経過に与える効果を検証する目的で無作為多施設共同比較臨床試験を行った。半固形化栄養群(以下、介入群と略)には半固形状の水分とペクチンとカルシウムを添加し半固形状とした経腸栄養剤を、液体栄養群(以下、対照群と略)には液体の水と経腸栄養剤を経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)施行翌日から胃瘻より投与開始、漸増した。介入群75例と対照群76例について術後2週間の臨床経過を比較した結果、誤嚥性肺炎の発症は介入群(1/75)で対照群(11/76)よりも有意に抑制された(p=0.0028)。また、PEG前は両群に差がなかったブリストル便形状スケールは2週間後で介入群が対照群よりも低くなり(4.9 ± 1.1 対. 5.6 ± 1.1)(p=0.00045)、便性状が改善した。PEG周術期において液体栄養剤を半固形状に変化させることによって誤嚥性肺炎と下痢を抑制した。
著者
松本 佳也 杉岡 優子 多田 昌弘 岡野 匡志 真本 建司 乾 健太郎 羽生 大記 小池 達也
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.793-797, 2015 (Released:2015-06-20)
参考文献数
15

【目的】関節リウマチ(以下、RA)患者における、サルコペニア該当者の生活習慣の特徴を抽出する。【対象及び方法】外来通院中の RA患者208名を対象とした。骨格筋量は二重エネルギー X線吸収測定法(DXA法)により測定した。四肢の骨格筋量の合計を身長で除した骨格筋指数が男性6.87 kg/m2、女性5.46 kg/m2以下である者をサルコペニアと判定した。栄養素・食事摂取量は簡易型食事歴質問票(BDHQ)を用いて調査した。【結果】RA患者においてサルコペニア該当群は非該当群と比較し疾患活動性が高く、運動制限を指導されている者が多く、日常生活動作 (ADL)が低かった。栄養面では、カルシウム摂取量が少なく、乳製品の摂取量が有意に少なかった。【結論】RA患者におけるサルコペニア該当者では、運動制限、ADLの低下、乳製品摂取量が少ないことが特徴であった。
著者
森山 明美 阿部 典子 山岸 由幸
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.959-964, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

【目的】本研究では病棟看護師が栄養管理に関する自己評価に影響する要因を検討することを目的とした。【対象及び方法】成人病棟に勤務する看護師655名に無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙は24項目からなる「看護師の栄養管理に関する自己評価尺度」を使用した。これは栄養管理全般における看護実践能力を評価するものである。【結果】合計得点は経験年数により有意差がみられた(p<0.001)。多重比較では、1-2年目は3-5年目(p<0.001)、11 年目以上(p=0.018)より有意に低かった。6-10年目は3-5年目より有意に低かった (p=0.019)。また、栄養学授業構成に関して合計得点は「講義と演習・実習」が「講義のみ・履修なし」より有意に高かった(p=0.044)。多重ロジスティック回帰分析では、栄養学授業構成において「講義と演習・実習」が「講義のみ・履修なし」より合計得点の上位群が2.05倍(オッズ比2.05,95%信頼区間1.04-4.03)であった。【結論】病棟看護師の栄養管理に関する自己評価は、経験年数や栄養学授業構成が得点と関連した。
著者
西山 順博 細見 美津子 松井 泰成 大西 延明 上坂 保恵 清水 満里子 千田 素子 松井 薫 坂口 和代 西山 直樹 西本 美和
出版者
Japanese Society for Parenteral and Enteral Nutrition
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.1119-1124, 2015

最後まで食べるためには、摂食嚥下支援を含む食支援が必要である。摂食嚥下支援には、栄養管理とリハビリテーションが重要であり、主に病院で医療職が中心の Nutrition Support Team(NST)で多職種が行うキュア要素が強い支援である。食支援は病院だけではなく、施設や在宅においても必要なものであり、医療職だけではなく、介護福祉職、ご近所さん、家族までもがチームとなって患者(利用者)をサポートできるケア要素が強い支援である。いずれの支援においても、栄養管理とリハビリテーションの両輪で最後まで食べることを支えていくことになる。十分な栄養管理をするためには、何らかの人工的水分・栄養補給法(Artificial Hydration and Nutrition;AHN)による栄養療法が必要となることがある。しかし、昨今、在宅療養でも AHNを望まないケースが増えてきている。このようなケースに対して、病院 NSTは介入を中止するのでなく、摂食嚥下支援を食支援へ上手く翻訳し、在宅 NSTへとバトンをいただきたい。また、AHNが栄養状態を改善することだけを目標とした延命治療ではなく、ある時は、緩和治療として必要栄養と水分を充足し、リハビリテーションのサポートを行い、ある時は、緩和ケアとして患者(利用者)や家族の Quality of Life(QOL)を向上するものであることを再認識していただきたい。高齢化を迎えている日本では、健康寿命を延伸することと、要介護状態(平均寿命-健康寿命)の QOLを向上させることが重要であり、それに向けた活動が評価される。在宅 NST、在宅療養サポートチーム(Home care Support Team;hST)の活動もそれを意識した取り組みを行い、成果を上げなければいけない。
著者
杉田 尚寛
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.1459-1461, 2017 (Released:2017-12-20)
参考文献数
19

水疱性類天疱瘡(Bullous Pemphigoid;以下、BPと略)は、希少難病性皮膚疾患の一つであり高齢者の発症が高く、寛解と再燃を繰り返す症例が多い。BP治療では、プレドニゾロン(PSL)やニコチン酸アミド(NA)等が大量、長期投与が行われるため薬剤師の役割は大きい。BPの予後に影響を与える要因として「高用量のステロイド剤」、「低栄養」、「高齢」がリスクとして高い。BP治療には、服薬管理、副作用回避、栄養管理、皮膚ケア等のチーム医療が重要である。
著者
越後 岳士
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.1457-1458, 2017 (Released:2017-12-20)
参考文献数
6

水疱性類天疱瘡は高齢者に多いかゆみのある水疱が多発する皮膚疾患である。日常ありふれた乾燥肌やカブレと紛らわしいことがあり、臨床所見、血液検査、病理検査から診断する。ステロイド内服・外用による治療を行うが、炎症による栄養成分の合成阻害、びらんからの滲出液の漏出、薬剤の影響などにより、栄養障害をきたすことがあり注意を要する。
著者
坂元 隆一
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.955-959, 2017 (Released:2017-06-20)
参考文献数
12

リハビリテーション介入を行い順調にADLが改善している途上で、誤嚥性肺炎をはじめとする感染症再燃により急性期病棟に戻ることは稀ではない。このような患者の多くは経口摂取が不良となっており、リハビリテーションをゼロから再スタートしなくてはならない。当科では免疫力を高めて感染に対する抵抗力をつけてもらえるように、積極的に漢方薬を取り入れている。頻用処方は不眠、睡眠障害、安神剤としての抑肝散加陳皮半夏、開腹歴やイレウスの既往のある高齢者に対する大建中湯、便秘に対する麻子仁丸、栄養改善、食欲不振に対する六君子湯、補中益気湯、誤嚥性肺炎後症例に対する半夏厚朴湯、脳外科から転科転棟してきた患者の五苓散の継続であった。西洋薬の補完としての漢方薬、特に術後や長期臥床後の体力回復目的で補中益気湯、食思不振に対して六君子湯は有用である。これらの方剤を使って患者のリハビリテーションが順調に進むようにサポートしている。
著者
池邉 一典
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.681-686, 2016 (Released:2016-04-26)
参考文献数
19

高齢者では,健康を維持し,食生活を楽しむためには,咀嚼機能がきわめて重要である.本論文では,高齢者の口のはたらき,すなわち口腔機能が,栄養摂取,さらに健康に与える影響について,これまでのエビデンスを中心に紹介した.まとめると以下の様になる.1.加齢とともに歯数は減少し,個人差も大きくなる.また,咬合力,味覚などの口腔機能が低下する.2.歯の数は,寿命に関係する様々な因子の影響を調整した上でも,長寿と関係がある.その歯と生存期間を結ぶ経路として,口腔機能低下による栄養摂取の変化が考えられる.3.歯を失うと野菜類の摂取量が減少し,抗酸化ビタミンや食物繊維などが不足し易い.また,タンパク質の摂取も減少する.4.要介護高齢者では,咀嚼や嚥下機能は低栄養と関連がある.5.我々の研究より,歯数より咬合力の方が栄養摂取(ビタミン,食物繊維,タンパク質)や運動機能に関連することが示された.
著者
髙岡 あずさ 佐々木 雅也 井上 真衣 馬場 重樹 安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.1320-1323, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
22

クローン病と潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患と称され、高率に栄養不良を認める。これにはエネルギー代謝の変化も関与しているが、十分な検討はなされておらず、一定の見解は得られていない。我々が入院時に間接熱量測定を施行した成績では、両疾患ともに健常人より安静時エネルギー消費量(REE)が有意に高かったが、両疾患に有意差はなかった。一方、疾患活動性との相関は潰瘍性大腸炎にのみ認められた。これは近年の欧米からの報告を支持する結果である。また、潰瘍性大腸炎における寛解導入前後のエネルギー代謝の変化をみると、REEは有意に低下し、呼吸商は上昇した。エネルギー代謝が変化する要因として、炎症性サイトカインとの関連について検討したところ、両疾患ともにREEとIL-6の間に正の相関が認められたが、TNF-αとの関係性は認めなかった。炎症性腸疾患では、このようなエネルギー代謝の変化に応じた栄養療法が重要である。