著者
高増 哲也
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.25-30, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
25

小児の特徴は、成長・発達することにある。出生前後の栄養の重要性は、developmental origins of health and disease(DOHaD)やエピジェネティクスという言葉で表現され、注目されている。食物アレルギー予防の観点からも、出生前後の栄養のありようが見直されつつある。また、生活習慣病の予防という意味でも、小児期の栄養の重要性が指摘されている。本稿では小児の栄養管理において必要となる、栄養状態を把握する方法、すなわち食歴聴取と、身体計測、身体の診察について述べ、必要水分量と必要栄養量の算出方法について論じた。また小児の栄養管理を行っていく上で、病態ごとに対応が大きく異なるため、それぞれ少人数からなる栄養プロジェクトチームで活動する必要があることを述べた。例として重症心身障害、摂食行動障害、先天性心疾患、小児がん、食物アレルギーを紹介し、対応方法について述べた。小児の栄養管理に関する情報は非常に不足しており、英語文献から解決策を探っている状況にある。
著者
武政 葉子 大村 健二 長岡 亜由美 有路 亜由美 板橋 弘明 山口 賢一郎 山下 恵 富田 文貞 山野井 貴彦 中熊 尊士 德永 惠子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.1348-1352, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
8
被引用文献数
1

【対象と方法】75歳以上の肺炎で医療・介護関連肺炎症例と、誤嚥性肺炎の既往または、摂食嚥下障害を疑う情報を有する症例を除く56例を対象とした。退院時に嚥下障害が残存した群(14例)と残存しなかった群(42例)を比較した。【結果】残存群は非残存群より有意に絶食食数が多かった。両群間で言語聴覚士(speech therapist;以下、STと略)の介入時期に差はなかった。理学療法の開始時期は非残存群で有意に早く、理学療法士(physical therapist;PT)介入時のBarthel Index(以下、BIと略)は残存群で有意に低値であった。退院時のBIは両群で理学療法開始時と比較して有意に増加し、両群間にあったBIの差は消失した。【結論】高齢者肺炎の治療中に発生する嚥下障害には絶食の関与が考えられた。また、理学療法開始の遅延が嚥下障害の発生と遷延に関与していると考えられた。さらに、このような嚥下障害は理学療法のみでは改善しないと考えられた。高齢者肺炎の診療では、STによる早期の嚥下機能評価、適切な栄養管理、早期に開始する理学療法が必要である。
著者
石川 達也 犬飼 道雄 森元 真理江 田中 真紀 藤田 久美子 西山 武 西山 剛史 梶谷 伸顕
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.1203-1206, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
13

【目的】高負荷運動療法施行が困難である超高齢者のサルコペニアに対して、栄養療法+低負荷運動療法を行い、プロトコールの安全性と身体に与える影響について検討した。【対象及び方法】栄養状態良好でサルコペニアと診断された76名のうち、高負荷運動療法施行が困難と判断し、栄養療法+低負荷運動療法を実施した23名を後方視的に検討した。週3回3か月間栄養療法+低負荷運動療法を行い、栄養状態や身体能力の評価を行った。【結果】完遂率91.3%、運動療法中断率5.2%、運動療法後栄養療法不能例はなかった。歩行速度、Timed Up and Go (TUG) 、Short PhysicalPerformance Battery (SPPB) で有意に改善した。【結論】栄養療法+低負荷運動療法は安全に行えたが、効果は限定的であった。
著者
松本 卓二 木村 友香子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.1211-1214, 2017 (Released:2017-08-25)
参考文献数
14

【目的】本研究では、大腿骨近位部骨折患者において、リハビリテーション後に投与する栄養補助食品の効果の比較検討を行った。【対象と方法】大腿骨近位部骨折患者67例を対象とした (栄養補助食品群26例、オレンジジュース群41例) 。栄養補助食品群にビタミンD12.5μ g、BCAA2500mgを含んだ栄養補助食品をリハビリテーション後に投与した。アルブミン、末梢血リンパ球数、総コレステロール値から求めたタンパク代謝、免疫能、脂質代謝の指標であるCONUT値を栄養評価指標とし、入院時、手術1週後、4週後に比較検討を行った。【結果】CONUT値はオレンジジュース群では有意差を認めなかったが (入院時3.3、1週間5.4、4週間4.5) 、栄養補助食品群では入院後1週で悪化した値が、4週目では有意差をもって改善していることが確認された (入院時3.8、1週間5.7、4週間3.7、p<0.05) . 【結論】以上の結果から、ビタミンD、BCAAの強化に加え、カルシウム、脂質、炭水化物、微量元素等を含んだ栄養補助食品の投与は、手術的侵襲にて栄養状態が悪化する大腿骨近位部骨折患者に対して、栄養状態を改善することが確認された。
著者
東口 髙志
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.761-764, 2015 (Released:2015-06-20)
参考文献数
8
被引用文献数
1

わが国の高齢化は歴史上類を見ない速度で進行しており、年々医療を必要とする高齢者は増加の一途をたどっている。しかも、医療施設は地域を中心に年々閉鎖を余儀なくされ、この10年間で約8,000施設にまで減少した。医療の発展とともに人々が最後の時を過ごす場所が自宅から医療施設へと大きく変遷しており、例え在宅医療が可能であっても人的資源が減少する中いったい誰が高齢家族の介護や看取りをするのか。またそれにかかる経費をどのように捻出するのかなど、深刻に老後の暮らしを危惧しなければならない。そこでその対策として、以前より、栄養状態の改善による診療成績の向上と、在宅移行を含む地域医療連携の充実や地域完結型医療の推進などを提案し、栄養管理をわが国の社会福祉・医療体制の基盤とすべく努力してきた。本稿では、将来の社会状況をふまえて患者の幸せな暮らしを第一と考え、医療の内外におよぶ在宅栄養管理の実践について論じる。
著者
甲原 芳範 管 聡
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.1150-1152, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
15

症例は82歳、女性。くも膜下出血後遺症で胃瘻より経管栄養中であった。褥瘡と貧血に対し、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸が投与されたが、貧血の改善は認められなかった。1年3ヶ月後に銅欠乏症と診断されたが、診断前の7ヶ月間の銅摂取量は推奨量を満たしていた。結果的にはそれ以前の銅摂取不足による体内銅プールの枯渇に加え、亜鉛含有薬剤、鉄剤、アスコルビン酸の継続使用による銅吸収障害が銅欠乏の遷延に関与したものと思われた。これらの薬剤を中止し経過観察したが、3ヶ月後も血清銅は改善せず、最終的には銅の経静脈的投与を要した。亜鉛含有製剤を使用中の銅欠乏症はよく知られており、本邦報告例は8例あるが、7例は胃腸手術既往例、腸瘻やPEG-Jの使用例、一日銅摂取量の不足を伴った症例で、亜鉛含有製剤の投与が銅欠乏の単独原因として考えられる症例は1例のみであった。本例も当初は亜鉛投与の関与を疑ったが、最終的には銅欠乏診断の7ヶ月以上前までの銅投与不足の影響が大きかった。また銅欠乏症の治療は体内銅プール量を考慮し、適切に銅補充を行うべきである。
著者
中西 真一 粕谷 孝光 小野 剛
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.742-747, 2016 (Released:2016-04-26)
参考文献数
6

【目的】最近は胃瘻に対して慎重であるべきとの意見が散見されるが、過去の報告で胃瘻造設をした家族の満足度は60~ 70%と決して低くない。今回胃瘻造設に対する家族と医療従事者側の考えの違いをアンケートで検討した。【対象及び方法】1) H22.4.1~ H25.3.31に当院で PEG造設術を施行した患者家族、2) 一般病棟・療養病棟に勤務している看護師・介護士、3) 老健保健施設・特別養護老人ホームに勤務している看護師・介護士・介護員を対象にアンケートを実施した。【結果】家族51人、医療従事者側213人 (一般病棟85人、療養病棟27人、老健保健施設43人、特別養護老人ホーム58人) だった。胃瘻に満足しているのは家族では74.5%で、医療従事者側の一般病棟39.0%・療養病棟30.8%・老健保健施設27.5%・特別養護老人ホーム14.3%より有意に多かった。自分自身で胃瘻を希望する家族は31.3%で、医療従事者側の3.4~ 11.1%より有意に多かった。【結論】家族は医療従事者側より、胃瘻に対して肯定的な意見が多かった。医療従事者側では、介護施設で胃瘻に対して否定的な意見が多かった。
著者
橋本 幸亜
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.1453-1455, 2017 (Released:2017-12-20)
参考文献数
9
被引用文献数
1

パーキンソン病(Parkinson's Disease;以下、PDと略)患者は、手足が震える、動きが緩慢になる、筋肉が硬直する、体のバランスが悪くなる等の症状がみられ、進行の速さは患者によって異なる。さらに、手足の筋肉だけではなく、舌の筋肉や口の周りの筋肉等、すべての筋肉の動きが悪くなるため、食べ物を噛むことも飲み込むことも難しくなる。PD 患者の栄養管理は、病勢に応じた食事形態への配慮や、薬との相互作用に注意することが大切である。
著者
荒金 英樹 巨島 文子 神山 順 豊田 義貞 堀 哲史 松本 史織 八田 理絵 仁田 美由希 山田 圭子 樋口 眞宏 山口 明浩 草野 由紀 関 道子 永見 慎介 華井 明子 竹浪 祐介 森野 彰人 樹山 敏子 和田 智仁 村田 篤彦
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.1095-1100, 2015 (Released:2015-10-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

京都では食を支える地域作りを目的に様々な連携体制の構築に取り組んでいる。医科歯科連携体制として「京都府口腔サポートセンター」、京都市山科区での多職種連携を目指した「山科地域ケア愛ステーション」、京都府、滋賀県での食支援を目的とした「京滋摂食嚥下を考える会」を紹介する。京滋摂食嚥下を考える会では地域連携の基盤として嚥下調整食共通基準の導入と独自に作成した「摂食・嚥下連絡票」を提案、京都府基準として関連職能団体等の承認を得た。この基盤を背景に、地域連携を促進するため、研修会や調理実習を各地で開催している。また、京料理をはじめとした京都の伝統食関連産業の団体と連携し、介護食を地域の食文化と発展させる活動も展開している。平成27年度からは京都府医師会などの職能団体の協力のもと、府内各地での多職種、施設間連携を促進させるため、市民向けの食支援相談窓口を設置、府民の食支援と啓蒙活動を計画している。
著者
伊藤 明美
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.3-6, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
8

妊娠時から産褥期における栄養管理の目的は、妊婦の健康と胎児の発育を守ることである。通常、「日本人の食事摂取基準」を満たすような食生活が理想と言える。しかし、平成29年の「国民健康・栄養調査」結果では、20歳代女性のやせ(BMI<18.5㎏/m2)の割合は21.7%と多く、カルシウム、マグネシウム、鉄は推定平均必要量を下回っている。非妊娠時のやせや妊娠時の体重増加不良は、低出生体重児のリスクが高いことが知られている。また、胎児の発育に影響を及ぼす葉酸、ビタミンA、Dのように不足と過多の両方に配慮が必要な栄養素もあり、妊娠前からの栄養教育が必要である。妊娠を機に起こりうる病態や代謝異常には、妊娠悪阻、糖代謝異常、妊娠高血圧症候群などがあり、これらの患者には特別な栄養管理が必要となる。今回、これらの妊婦の栄養サポートに関わるスタッフが知っておきたい栄養管理について概説する。

2 0 0 0 OA がんとEPA

著者
溝口 公士 竹山 廣光
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.941-946, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
20

n-3系不飽和多価脂肪酸の一つであるエイコサペンタエン酸(EPA)には抗炎症作用や抗がん作用があることが多くの研究で明らかとなってきている。古くはグリーンランドでの疫学調査でEPAを豊富に含む食事を摂取する人々には急性心筋梗塞の発症率が低かったとする報告により注目を浴びたのだが、それ以降の研究でEPAには様々な作用があることが解明されてきた。なかでも今回注目したがんに対する作用については日々新たな研究成果が発表され、臨床応用がなされつつある。さらなる研究によって詳細な作用機序の解明と本格的な臨床応用が待たれるところである。EPAとがんというテーマでEPA の抗がん作用に対する近年の研究を見るとともに、がんと密接な関係にある炎症、その炎症を抑える作用においてEPAより代謝される脂質メディエーターの作用についても注目し報告する。
著者
名德 倫明
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.159-165, 2019 (Released:2019-09-20)
参考文献数
18

栄養輸液である脂肪乳剤と他剤との混合による粒子径の凝集変化を評価した。各種輸液への混合では、生理食塩液や2価の陽イオンを含む輸液で脂肪粒子径の変化が観察された。一方、側管投与の想定では、短時間での接触であり、粒子径の粗大化は招きにくいことが確認できた。脂肪乳剤と抗生物質製剤との側管からの同時投与を想定した評価では、脂肪乳剤の変化に影響を来す抗生物質製剤も多数見られた。また、フルルビプロフェンアキセチル注においても、配合薬剤によって粒子径の変化が観察された。次に、末梢静脈栄養(peripheral parenteral nutrition;以下、PPNと略)輸液の種類による微生物の増殖の違いや水溶性ビタミンの影響を検討した。各種菌の増殖には、水溶性ビタミンが関与していること、また、Staphylococcus aureus NBRC 12732株ではビタミンB1及びニコチン酸、Candida albicansではビオチンが菌の増殖に特に関与していた。薬剤師は、配合変化や中心静脈栄養(total parenteral nutrition;以下、TPNと略)輸液のみならずPPN輸液においても感染管理を理解し、医療安全に積極的に関与する必要がある。
著者
堤 理恵 大藤 純 福永 佳容子 筑後 桃子 瀬部 真由 井内 茉莉奈 堤 保夫 西村 匡司 阪上 浩
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.803-806, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
12

重症患者における栄養管理の重要性は広く認識されつつある。一方で、侵襲下においては有効な栄養指標や予後指標とされるものはなく、栄養投与量や適切な栄養組成についても議論の余地が大きい。また、その栄養投与の効果をどのように評価するか、モニタリングのポイントをどこにするか、これについても十分な見解がないのが現状である。近年多くの施設で身近に使用されつつある体組成計による体組成の評価は重症患者の栄養評価に有用であろうか?あるいはどのように使いこなせばよいのだろうか?本稿では、体組成評価に着目し、重症患者における有用性と課題について概説したい。
著者
橋詰 直樹 田中 芳明 深堀 優 石井 信二 七種 伸行 古賀 義法 東舘 成希 升井 大介 坂本 早季 靍久 士保利 八木 実
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1111-1114, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
28

プロバイオティクスとプレバイオティクスは腸内細菌叢の是正を目的として古くから用いられる。新生児期から幼児期までに腸内細菌叢は多くの因子に影響を受けながら変動し形成される。新生児外科的治療後の抗菌薬使用や経腸栄養の制限、乳児期における持続性下痢症など、正常腸内細菌叢の獲得が困難な場合において、プロバイオティクスとプレバイオティクスの有効性は数多く述べられている。また消化管疾患のみではなく、アレルギー性疾患など消化管疾患以外の面でもその有効性は報告されている。今回はその活用例について報告する。
著者
馬場 重樹 佐々木 雅也 安藤 朗
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1099-1104, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
84

ヒトは腸内細菌叢と共生している。腸内細菌叢は宿主であるヒトの栄養代謝、防御機構、免疫機構の発達に大きく寄与している。ヒトの腸内細菌叢の異常はdysbiosisと呼ばれ、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群、メタボリック症候群、喘息、心血管疾患など種々の疾患との関連性が示唆されている。また、dysbiosisの原因として、抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬などの薬剤だけでなく、欧米型の食事、環境因子など種々の要因が考えられている。日本人の腸内細菌叢は他の国と比較し生体に有益な機能を有していると報告されているが、ここ数十年で炎症性腸疾患の患者数が爆発的に増加しており、欧米型の食事パターンとの密接な関連性が示唆されている。腸内細菌叢は食事内容の影響を大きく受けるためdysbiosisの原因となるライフスタイルを避ける必要がある。本稿では腸内細菌叢の機能やdysbiosisがどのような要因で生じるのかについて解説を行う。
著者
清水 健太郎 小島 将裕 小倉 裕司 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.797-802, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
52

プロバイオティクスは、「適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す生菌」、プレバイオティクスは、「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」のことである。急性期病態において腸管は全身性炎症反応の源となる傷害臓器のひとつであり、特に腸内細菌叢の崩壊は感染合併症や予後と関連している。腸内細菌叢を安定化させるプロバイオティクス・プレバイオティクス治療は、侵襲外科手術や外傷後の感染合併症予防に対して有効性が報告されており、急性期疾患での適応が広がっている。また、基礎研究の発展とともに腸内細菌叢の免疫系への深いかかわりが近年注目されている。腸内細菌叢の解析方法も培養だけなく網羅的なメタゲノム解析によって未知の原因菌が明らかになってきた。このような基礎・臨床研究によって急性期におけるプロバイオティクス・プレバイオティクス治療のメカニズムの解明と新たな治療法の開発が望まれる。
著者
長尾 恭史 小林 靖 大高 洋平 篠田 純治 小澤 竜三 水谷 佳子 田積 匡平 西嶋 久美子 長尾 徹
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.1133-1138, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
27

【目的】誤嚥性肺炎患者に対して多職種協働での包括的摂食嚥下訓練を入院初期から行い食事開始早期化の効果を検証した。【対象および方法】誤嚥性肺炎にて入院後、嚥下訓練処方の時点で絶食であった65歳以上の患者139名を対象とした。2013年9月から翌年2月までの早期介入を行った87名(86.5歳±7.0歳)を早期群、2012年9月から翌年2月までの52名(85.6歳±7.2歳)を対照群とし、両群間で帰結を比較した。【結果】入院より食事開始までの日数(早期群3日/対照群5日・中央値)、抗菌薬継続日数(8日/11日・中央値)、院内肺炎再発率(6.9%/19.2%)は早期群が有意に少なかった。また、入院より食事開始までの日数は、抗菌薬の使用短縮に関連する独立した関連因子であった(オッズ比0.96、95%信頼区間0.94-0.99、P=0.012)。【結論】誤嚥性肺炎患者に対する入院早期の食事開始は治療期間を短縮し、さらには院内肺炎を軽減する可能性が示唆された。
著者
高田 俊之 三谷 加乃代 河嶋 智子 早川 みち子
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.1361-1365, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
20

脳卒中のため摂食嚥下機能に障害を来し経腸栄養法が必要となった場合、糖尿病を有する例では標準栄養剤を使用すると血糖値が大きく変動しコントロール不良となることが多い。胃瘻にて経腸栄養中の糖尿病合併脳卒中患者に対し、標準栄養剤、low glycemic index(以下、低GIと略)栄養剤及び半固形状流動食を使用した場合の血糖変動を持続グルコースモニター(CGM)を用いて各々測定した。標準栄養剤使用時に大きく変動を認めた血糖値は、半固形状流動食では変動幅が著明に減少し、低GI栄養剤と同等以上に標準偏差値、最大血糖値、Mean Amplitude of Glycemic Excursions(MAGE)を低下させた。これは半固形状流動食により胃の蠕動運動が惹起され糖を含む栄養剤が緩やかに腸管に排出されたためと推測できる。今回の結果から半固形状流動食は糖尿病を有する嚥下障害合併脳卒中患者の血糖変動改善に有用と考えられた。
著者
岡本 浩一 二宮 致 廣瀬 淳史 中村 慶史 尾山 勝信 宮下 知治 田島 秀浩 藤村 隆 太田 哲生
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.983-987, 2017 (Released:2017-06-20)
参考文献数
15

【目的】食道癌術後縫合不全におけるCaHMB・L-アルギニン・L-グルタミン配合飲料(以下、アバンド™と略)投与の有用性につき検討した。【対象及び方法】2003年1月から2014年12月の期間に食道切除・胃管再建術を施行した食道癌205症例において、アバンド™を手術日の14日以上前から術後にかけて周術期栄養療法に追加したアバンド群55例と、非投与症例(対照群)150例における縫合不全発症率を検討した。また、保存的に治癒が得られた縫合不全症例19例(アバンド群8例と対照群11例)における縫合不全発症日数、縫合不全治癒までの期間、合併症などにつき後方視的解析を行った。【結果】両群間における縫合不全発症率に有意差は認めなかった(アバンド群14.3%、対照群7.3%、P=0.115)。縫合不全治癒期間はアバンド群で13.5±14.3日であり、対照群の35.0±17.4日と比較して有意に治療期間が短かった(P=0.043)。【結論】アバンド™は食道癌術後縫合不全の治療期間短縮に寄与する可能性が示唆された。
著者
中瀬 一 小泉 恵子 堀込 かずみ 浅川 浩樹 井出澤 剛直 飯塚 秀彦
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.972-975, 2015 (Released:2015-08-20)
参考文献数
26

長期間の経空腸的栄養投与の結果銅欠乏性貧血を呈し、ココアの投与で改善を認めた1例を経験した。症例は51歳、女性。脳出血後胃ろう栄養だったが腹膜炎による胃部分切除術で経空腸的栄養管理となった4年後に銅欠乏性貧血を発症した。1日推奨量の銅を含有する栄養剤で管理されていたが吸収不足と考え、経鼻チューブを留置し銅を多く含むココアを十二指腸に投与したところ貧血は改善したが嘔吐のためチューブを抜去し退院となった。その9ヶ月後に再び銅欠乏性貧血となりその際は経空腸的にココアを追加投与し貧血の改善を認め、退院後も続行した。その後ココア投与の一時中断により3回目の銅欠乏性貧血を認め、ココア追加で改善した。消化器外科手術歴のある患者に対し経腸栄養を選択するに当たり胃ろう以外の投与経路に頼らざるを得ない場面がある。そのような際には銅欠乏性貧血をも念頭に置いた管理が必要である。