著者
沖川 悦三
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.93-98, 2014
被引用文献数
1

チェアスキーとは車椅子ユーザーなど立位でスキーをすることができない人たちのための座位で行うアルペンスキー用具である.日本におけるチェアスキーの開発は1976 年から始った.1980 年に実用機が完成し,その後のチェアスキー用具は,チェアスキーヤーのスキー技術の向上を追うように進化していった.長野パラリンピック開催を契機に,リハエンジニアや車椅子メーカー,バイクメーカーなどが協力し,チェアスキー開発プロジェクトを結成して開発を進めた.最新チェアスキーは日本選手のみならず,多くの外国選手も使用している.本稿ではその開発過程にそってスポーツ用具としてのチェアスキーを解説する.
著者
笹川 俊
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.179-183, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1

静止立位時の身体は,絶え間なく,小さく揺れ動いている.これは,受動的には不安定な立位バランスを,我々の脳神 経系が能動的に制御している事を意味する.立位バランスの神経制御機構に関しては,古くから数多くの研究がなされているが,その多くは静止立位時の身体を,足関節を唯一の回転中心とする倒立単振子としてモデル化したものである.本稿では,静止立位姿勢の多関節モデルについて,その妥当性や制御上の特色について解説した上で,同モデルを用いた最新の研究を紹介する.
著者
朝岡 正雄 アサオカ マサオ
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.31-35, 2005-02

動きの正確な模倣は人間に固有の能力であり,他の動物には見られない.この能力が発揮される生理学的メカニズムは今日でも十分に解明されているとは言い難い状況にある.確かに,現代の科学技術を用いれば,空間内に展開される人体の運動の軌跡を正確にトレースしてそれを機械で再現することは可能であろう.しかし,スポーツにおける技能伝承の場では,他者の動きを学習者自身の身体で再現することが求められる.本論では,人間に固有の「動きの模倣」の方法を「なぞり」という視点から解説し,この延長線上に動きのイメージトレーニングが成立していることが示される.これによって,スポーツにおける想像力の役割とその重要性が明らかになれば幸いである.
著者
本多 健一郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.233-236, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

昆虫類は紫外線を見ることができる.夜行性の昆虫は紫外線を多く出す光源に良く誘引され,この性質を利用した害虫 の発生予察灯や電撃殺虫機などが開発されている.昼行性の昆虫は黄色の色彩板に誘引されることが多く,発生調査用の黄色水盤や防除用の黄色粘着板などが利用されている.黄色照明の点灯は夜行性蛾類の活動を抑制し,果樹や野菜花きの被害を減らす効果がある.近紫外線を透過させないフィルムを展張した栽培施設では,コナジラミやアザミウマなどの害虫が侵入しにくくなり,被害が減少する.光を反射する資材を圃場に設置すると,アブラムシなどの飛来を抑制できる.今後はLED など新しい光源の開発と利用が期待される.
著者
田中 悟志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.87-92, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
34
被引用文献数
2

経頭蓋直流電気刺激法(transcranial Direct Current Stimulation:tDCS)は,頭蓋の外に置いた電極から直流電流を与え,電極直下の脳活動を修飾する手法である.従来から使用されている経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation:TMS)に比べ,装置が小型で扱いやすく,また重篤な副作用の報告がないことから神経・精神疾患,脳血管障害に伴う機能障害に対する新たな電気生理学的治療法として脚光を浴びている.本稿では,tDCS による手の感覚機能の向上とその臨床応用に関して,触覚,痛覚,痒みを具体例として最新の研究についてまとめた.運動機能を対象とした研究と異なり,手の感覚を対象としたtDCS 研究は報告の数もまだ少なく,萌芽的段階にある.しかし,臨床疾患を対象とした研究では,触覚弁別能力の向上や痛覚抑制などが報告されている.今後研究成果を積み上げることで,tDCS による手の感覚の制御が可能になり,手の感覚障害を改善するための新たな機能的治療法として応用できる可能性がある.
著者
榊 泰輔 蜂須賀 研二
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.180-183, 2006 (Released:2008-06-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

急激なテンポで社会の高齢化が進む中,医療・介護の現場でロボット技術への期待が膨らんでいる.高齢者に発症が多い脳卒中では片麻痺により歩行が困難になる例が多く,自立支援・社会復帰をめざすリハビリテーションが施されるが,長時間・頻回の訓練を実現するにはロボット等の活用が考えられる.理学療法士が担当する運動療法において,特に歩行機能の回復を支援するロボットの課題について述べる.
著者
馬場 一憲
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.28-35, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
10

産婦人科では,超音波(断層)診断装置が無いと診療ができないといえるほど,超音波が活用されている.大半の症例は超音波断層法だけで診断がつくが,3 次元超音波を用いて,超音波断層法では得ることができない断面を表示したり多彩な3 次元像を表示したりすることで,診断が可能になったり診断が確定されたりする症例もある.特に,胎児の顔の形態,耳の位置や形態,四肢の形態異常の診断に,胎児体表の3 次元像が有用である. 形態だけでなく,3 次元走査と3 次元画像構築を繰り返すことで胎児の動きを立体的に捉えることができる.また,血流をカラー表示する超音波ドプラ法を3 次元超音波に応用すると血流(血管)分布を3 次元的に捉えることができる.
著者
上田 晃三 清野 佳紀
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.57-60, 2008 (Released:2010-12-06)
参考文献数
11
被引用文献数
2

骨の成長・発達は,骨格の構築とともに身体の発育において非常に重要な因子である.多くの骨はいきなり形成されるのではなく,軟骨組織による足場の形成を経て骨へと変換される.このプロセスには種々の細胞間シグナル伝達,遺伝子の転写因子といった内因性の要因や力学的付加など外因性因子を含む数多くの因子が絡み合って,骨形成に影響を与えている.骨形成の一般的な過程とともに,特徴的な症状を呈する骨疾患の成因を通じて,骨形成に関与する主要な因子を概説する.
著者
金子 文成 速水 達也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.186-190, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
21

運動感覚は,位置覚,運動覚,力覚等の統合的な感覚であり,運動感覚の形成には,主として筋紡錘からの求心性入力 が関与することが明らかにされている.筋紡錘からの求心性入力は,筋長の変化速度や筋長そのものの状態に応じて変化する.そのため,運動感覚は,筋収縮の状況に影響を受ける.本稿では,これまでの報告に基づき,筋収縮が運動感覚に対してどのような影響を及ぼすかについて解説する.
著者
柳田 益造
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.8-16, 2006 (Released:2007-10-26)
参考文献数
53

ここ20年ほどの間にコンピュータによって音楽を扱う機会が飛躍的に増えた.それはMIDI規格が浸透し,キーボード付きのシンセサイザやエレキギターあるいは一部の管楽器やドラムスまでもがMIDI規格でコンピュータに接続できて,リアルタイムで情報交換できるようになったからである.さらに,MIDI規格の音楽ソフトが多数市販され,やろうと思えば素人でも自分で「作曲」し,「演奏」できるようになった.しかし,現在,純音楽の分野でMIDI 楽器やコンピュータを使って音楽活動をしている人はほとんどいない.それはなぜか,またコンピュータは音楽,特に作曲にどこまで使えるのかを,20世紀の音楽を振り返りながら,情報科学/工学,音楽/音響工学の観点から考える.
著者
荻原 直道
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.83-88, 2019 (Released:2020-05-01)
参考文献数
40

歩行運動は,脚が地面から受ける反力を適切に作用させることによって,身体をある位置から別の位置に移動させる力学現象である.したがって,地面と直接的に接触し,環境と力のやりとりを行う足部筋骨格構造は,ヒトに特有の移動様式である直立二足歩行と密接に関係し,その生成に適応的に形づくられている.本稿では,直立二足歩行の生成に適応的と考えられているヒトの足部筋骨格構造の特徴について,生物学的に最も近縁なチンパンジーの足部との比較を通して概説する.また,近年の化石証拠から明らかになってきた,ヒトの足部構造の形態進化のプロセスについて紹介する.
著者
岸本 泰蔵
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.122-126, 2002-08-01 (Released:2016-11-01)

女性の「美しさ」とは何か.女性とともに成長することを目指す当社では,人間工学にもとづいた科学的アプローチによって女性のからだ・意識の変化をとらえ,時代をリードする美の指標を発表してきた.時代とともに女性達が追求する理想体型はゆったりであるが確実に変化している.とくに,ここ数年は急速に,身体意識が変化している.約40年間にわたる当社の女性美の研究を振りかえり,女性の「美しさ」とは何かを考察する.
著者
久野 譜也 田辺 解 吉澤 裕世
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.91-97, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
39
被引用文献数
1 2

我が国では,今後10 年間で高齢化の加速度的進行に加えて人口減がみられることにより,健康は単に個人の課題としてだけではなく大きな社会的課題となり,国民の安心及び経済力の維持という視点でも重要な課題となる.特に,生活習慣病の克服は重要な命題であるが,国民が生活習慣,特に運動と食事をうまくコントロール出来れば,それらの課題への対処法になる可能性が示唆されている.しかしながら,運動や食事コントロールの困難さは依然として解決されていない.さらに,望ましい運動量の実施ができている国民は,依然として全体の3割にすぎない.それゆえ,生活習慣予防における運動の重要性のエビデンスの蓄積をさらに拡充すること,「運動をいかに生活スタイルに溶け込ませるのか」という研究が現在求められている.

1 0 0 0 OA 疫学入門

著者
本田 靖
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.258-261, 2011 (Released:2016-04-15)
参考文献数
3
著者
春野 雅彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.172-176, 2001-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
9

我々は日常の何気ない動作の中で実に巧みに複合的で階層的な運動を行っている.例えば,テニスをするにはボールの回転や着地点といった目的が存在し,その目的を実現するための個々の動作は更に多くの要素運動の複雑な組み合わせで構成されている.本稿ではこのような階層的運動の学習機構の解明を目指し我々が計算論的立場から行っている研究について解説する.特に予測モデルを用いた行動の結果予測と,制御モデルによる実際の制御を組み合わせて学習制御を行うMOSAICアーキテクテャに焦点を絞り,その基本動作原理,シミュレーション,任意の階層構造への拡張等について紹介することとしたい.