著者
服部 元史
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.137-141, 2002
被引用文献数
1 1 1

身体の動きが表現する感情を,速さや大きさなどの基本的な運動要因によって説明したいという工学的な問題意識から,日本の伝統芸能である文楽人形の動きをmotion capture で測定して解析した.人形の動きを,慣性主軸の動きという主要な部分と,慣性主軸に対する相対運動という副次的な部分に分解し,表現したい様々な情緒に応じて国立文楽劇場の人形遣いが軸の動きを,どのように使い分けているのかを解析すると,局所的な時間的な伸縮やフレーズごとの振幅の大きさといった簡単な概念によって,かなりのレベルまで説明できた.舞踊学における動きの速遅・大小・直曲の解析も指針としながら,本稿の成果をさらに深めて行きたい.
著者
松本 浩司
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.42-47, 2009-02-01
被引用文献数
1

折りたたみ式ベビーカーで開閉時に乳幼児が手指を挟みあわや切断という事故が2件相次いで寄せられた.一方,現在販売されているベビーカーの多くはフレームが交差する構造などを有した折りたたみ式のものがほとんどであるが,その折りたたみ可動部分は手指挟み等の危害を招きやすい部分でもある.しかし,危険を回避できない乳幼児が手指をあわや切断するなどの重篤な事故が発生していることから,可能な限り製品自体の安全対策が必要と考えられた.そこで,構造を工夫することで手指挟みを防止できるのか,また,万が一挟まれても傷害の程度を軽減させることができるのかなどを調べ防止策を提案し公表した.なお,本報は,公表資料をもとに挟んだときの力に応じて変形する模擬指を用いて検討した部分を抜粋したものである.
著者
水野 幸治
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.35-41, 2009-02-01
被引用文献数
2

子どもは人体計測や解剖学的構造が大人とは異なるため,自動車衝突時に子どもに特徴的な傷害が発生する.子どもの生体力学データは限られているため,大人からのスケーリングによって子どもの傷害基準値が求められている.衝突時に子どもを保護するための拘束装置としてチャイルドシートが用いられており,事故データからもその有効性が確認されている.最近はチャイルドシートの車体への取付方法として誤使用の頻度の少ないISOFIXが普及し始めている.
著者
宮崎 信次
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-39, 2002
被引用文献数
3 1

独居高齢者の孤独死を防ぐ目的で,緊急警報システムを設計しその基本性能を調べた.エレクトレットコンデンサマイクロフォンを用いて撓骨動脈遠位の皮膚上から脈波信号を検出する.信号は増幅・フィルター処理された後,2つの比較器に入力される.第1の比較器(低い閾値をもつ)では脈波を検出し,それが5秒以上現れなかった場合に心停止の警報を出す、第2の比較器(高い閾値をもつ)は体動に由来するアーチファクトを検出し,それが15分以上現れなかった場合に意識不明の警報を出す.4人の被験者による第1段階の実験の結果は本システムの可能性を強く示唆するものであった.
著者
塩田 耕三 奥 眞純
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.99-106, 2000

スポーツ芝の歴史として,国立競技場でのアジア大会以降の変遷と,最近の主流となった砂質系床土に至る経緯を紹介すると共に,地中給排水システム(GOAL システム = Grass On Aqua Lines)の特長について説明する.芝生の床土表層に砂入り天然繊維マットを設置し,下層に砂と火山成粗粒土を混合した砂質系床土を設けることで耐固結性と保水性の向上を実現し,芝生の生育のみならず,運動競技者の身体にも適した床土構造となることを,各種の土質力学試験結果から考察する.加えて,施工事例の紹介を行う.
著者
幸村 琢
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.192-196, 2003 (Released:2004-05-21)
参考文献数
24

本稿では, コンピュータグラフィクスの動作生成手法のうちバイオメカニクスや人間工学においても応用可能である時空間制約(spacetime constraints), 逆運動学(inverse kinematics), 実時間反応動作生成について紹介する. また, これらの手法とバイオメカニクス分野で用いられる筋骨格モデルを組み合わせた筆者らの研究も紹介する. コンピュータグラフィクスにおいて人体動作を生成する手法は見た目重視だと考えられがちであるが, 近年は力学シミュレーションやバランス制御を重視した研究が多くなされており, バイオメカニクスや人間工学などへのさまざまな応用が考えられる. 以下では, そのようなトピックスをいくつか取り上げる.
著者
松丸 隆文
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.139-145, 2005-08-01
被引用文献数
3 2

人工機械システムに対する恐怖感や違和感を排除するには,外見を人間型や動物型にするだけでなく,サイズと性能・機能の関係などにおいて,人間の常識,経験知・暗黙知に合致した形態・動作が必要だと考える.具体的には,移動ロボットやヒューマノイド・ロボットにおいて,その次の行動・意図が,それを見ている周囲の人間によって予測しやすい形態・動作を考えている.本稿は,まず人間機械系の情報動作学の応用展開における研究項目と手順を説明し,つぎにこれまでに入手した資料から得られている知見のいくつかを,(1)形態からの運動予測と(2)連続動作・予備動作からの運動予測に分類し,その応用・適用方法に言及しながら論じる.
著者
久野 譜也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.148-152, 2000
参考文献数
2
被引用文献数
7 2

基本的な運動機能である走及び歩行機能に及ぼす大腰筋の重要性について概説した.走機能に関しては,陸上競技の短距離選手,サッカー選手及びコントロールにおける各被験者の疾走タイムとMRIにより求めた大腰筋横断面積の関係を検討した.その結果,陸上競技の短距離選手においてのみ両者の間に高い正の相関関係を認めた.この結果は,"速く走る"という機能に対して,大腰筋の役割の重要性を示唆するものである.次ぎに,歩行機能における大腰筋の役割を検討するために,加齢による歩行機能(速度,歩幅,前傾姿勢など)と大腰筋横断面積との関係を,20-80歳代の約200名を対象に検討した.全体的傾向としては,加齢に伴い,いずれも低下及び減少を示した.しかしながら,それらの能力は生活習慣及び運動習慣の影響を強く受け,大腰筋横断面積の維持が老化による歩行機能の低下抑制と密接な関係にあることが示唆された.
著者
福井 勉
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.153-158, 2000
参考文献数
12
被引用文献数
5 5

大腰筋は姿勢や動作に大きく関与する筋である.その長さとともに,身体における位置が非常に特異的である.身体重心位置を大きく覆っているだけでなく,身体重心高位となる骨盤には付着していない.そのため上半身と下半身に身体を分割して考えるとその間を結ぶ蝶番の機能を持つように見える.股関節制御は身体重心を移動させまいとする姿勢反応である.通常,体幹筋と大腿筋がこの制御に関係するが,大腰筋が本制御の核となっている可能性が高い.本筋筋力低下恵者に大腹筋をトレーニングすることによって身体バランスが改善する.大腰筋機能は[1]股関節制御能力,[2]股関節と腰椎の分離運動能力に集約されるのではないかと考える.
著者
浅見 高明
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.41-42, 1988-05-01
著者
松田 美佐
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.129-135, 2004-08-01
参考文献数
44

本稿では,監視社会化が進みつつある中,急増するカメラ付きケータイの「位置」を探ることを目的とする.カメラ付きケータイは個人的な「楽しみ」のために利用されているものの,監視システムがネットワーク化,データベース化する中で,結果として,監視のための「端末」となる可能性をもっている.そこで,監視カメラの遍在する現状を紹介しながら,今日的な監視システムをとらえるには相互監視モデルが有効であることを示した上で,そのようなシステムの拡がりを,「安全」「信用」「配慮」という三つのキーワードで分析し,カメラ付きケータイが占める「位置」を模索する.
著者
今水 寛
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.152-160, 2001
参考文献数
18
被引用文献数
1

人間は目や耳を通して外部世界から情報を得て,適切な情報処理を行い,外部世界の対象物に働きかけている.言語や思考など,人間に特有と考えられている高度な脳機能や知性は,氷山の一角で,海面下でそれらを支えているのは,他の動物にも遍く備わる感覚情報処理機能や運動制御機能である.特に感覚と運動を統合する機能は重要であると考えられる.筆者らは,コンピュータ7ウスと対応するカーソルの間に回転変換を入れて,わざと使いにくくしたマウス(回転マウス)の操作を,被験者がどのように学習するかを詳細に調べた.その結果は,感覚運動統合を学習する脳の仕組みと,感覚運動統合を基礎とした高次認知機能を解明する糸口となった.
著者
生田 幸士
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.141-146, 2008 (Released:2010-12-13)
参考文献数
21

新原理と新概念にこだわったマイクロ・ナノマシン技術と,数ミクロンの細胞から深部臓器まで,異なるスケールの生体を対象とした未来医用ロボティクスの世界を述べる.光で造り,光で動かすナノマシンについては,素材,作製手法,駆動制御からリアルタイムの力計測まで完成し,今や細胞の力学特性も精密に測定できるようになった.さらに,化学 ICと名づけたマイクロプラントや生分解性の人工毛細血管デバイスまで到達した.
著者
湯 海鵬 豊島 進太郎 星川 保 川端 昭夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.37-42, 2003-02-01
被引用文献数
4 5

本研究は,介護作業の中で,最も体に負担の大きいと言われる車椅子への移乗動作を三次元的撮影し,映像データに基づいて介護者の重心の変位,関節角度および身体エネルギーを算出した.理学療法士(PT)と社会福祉学専攻学生の介護動作との比較検討を行い,車椅子への移乗動作の特徴を明らかにした.学生に比べPTの作業時間と作業距離が短かった.身体の姿勢については,PTはできるだけ腰への負担を軽減するために,大腿の筋群を主に用いて被介護者を抱き上げ,腰掛けさせるという動作になっている.このような動作は,身体の上下動が大く,力学的仕事の量も多くなる可能性はあるが,腰の保護と腰痛の予防には有効な動作と考えられる.
著者
野村 歡
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.208-214, 2008 (Released:2011-05-31)
参考文献数
2
被引用文献数
1

住環境が整備されていないばかりに,数多くの高齢者や障害者が生命維持のために欠かせない排泄行為に著しく不便・不自由を感じている.不便・不自由の原因は排泄行為が「戸・扉の開閉」「衣服の脱ぎ着」「便器への座り」「後始末」などの多くの動作を狭いスペースで行なわなければならないこと,排泄は人間にとって最もプライベートな行為であるが故にトイレにはもともと「介助スペースは配慮されていない」ことなどがその原因といえる.本稿はこれらの諸動作に対する個々の住環境整備を検討しつつトイレ全体の環境整備について考察する.さらに,トイレ以外で行われる排泄行為に対する住環境整備についても言及する.