著者
持丸 正明
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.2-7, 2009 (Released:2012-01-31)
参考文献数
4

子どもの死亡原因の第1位である不慮の事故を低減するための工学的アプローチの必要性について述べる.事故の中でも,危険が潜在的であり,かつ,命に関わる重篤な傷害を引き起こす恐れのある「ハザード」をいかに発見して,いかにして取り除くかについて,病院を基点に網羅的に事故情報を集め,それらを知識化して,環境や製品の改善につなげるという「安全知識循環型社会」の考え方について述べる.これを形づくる工学的研究として,病院を基点にした事故サーベイランス技術,子どもの体形・行動の計測,子どもシミュレータによる事故原因究明の研究について概要を紹介する.また,これらの知識を,安全規格,商品開発,子どもや両親への啓蒙というかたちで社会に循環させる取り組みについて紹介する.
著者
柴 眞理子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.124-128, 2005-08-01
被引用文献数
2

現代社会における子ども達(大人にも同じことが言えるだろう)の感情表現の乏しさを象徴的に言うならば「メチャ楽しい-すぐキレル」という両極端にあり,子ども達はその間にある彩り豊かな感情に気づいていないように思われる.人間が本来もっている感情の豊かさを感じず表現できない子どもたちに,舞踊は,身体感覚や身体感情に気づかせ,それらを磨くという機能をもっている.とりわけ,舞踊運動の体感を原点とすることによって,踊る者は,自分の動きの感覚に鋭敏になり,ちょっとした動き方の違いが異なる感情体験をもたらすことを感じ取ることを可能にする.本稿では,筆者の舞踊系運動方法論実習の受講生を対象にした舞踊運動の体感に関する実験に基づいて,舞踊運動の体感の変化のプロセスは,日常気づかない感情体験の場であり,そのことによって自己理解・他者理解がもたらされ,それが豊かなコミュニケーションに繋がっていくことを解説する.
著者
宮崎 祐介
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.29-34, 2009-02-01

子どもの転倒・転落事故に対する対策は,頻度,重症度の観点から非常に重要である.子どもの転倒・転落事故被害予防を検討する上で重要な点は,実事故に基づいた事故再現を行うことにより,徹底した事故原因究明を行うとともに,それに基づく的確かつ最小限の対策を講じることで,できるだけその環境を保全することである.また,実際に発生した事故は,氷山の一角に過ぎず,それ以外の致命的なハザードを発見し,除去することも必要である.これらの課題を解決する上で子どものデジタル・ヒューマンモデルを活用した事故再現シミュレーションが有効である.本稿では転倒・転落事故解析のための子どものデジタル・ヒューマンモデルの開発およびそれを活用した転倒・転落事故の事故原因究明と対策法の検討について実解析例を交えて紹介する.
著者
藤江 正克
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.198-204, 1991

21世紀を担う人と協調できる柔軟な移動ロボット実現をめざして,そのための技術を開発し,実験によりその有効性を確認した.その技術は二つの内容から構成されている.即ち,まず,動物の巧みで柔軟な運動の定量的観察結果を基本に,事前にコンピュータシミュレーションで歩容を生成する.次に運動中に各種センサ情報により歩容を修正して,各関節,脚,移動ロボットを各レベルで独立かつ協調で実時間制御したものである.
著者
阿江 通良 岡田 英孝 尾崎 哲郎 藤井 範久
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.112-121, 1999
被引用文献数
6 4

The purpose of this study was to investigate motion patterns for elderly people stepping over obstacles with a videography by comparing with those of the young. Crossing speed, step length, and step frequency of the elderly were significantly smaller than those of the young. With an increase in obstacle heights, crossing speed and step frequency decreased in the elderly, but there was no significant change in those of the young. With increased obstacle heights, the elevation of the lead leg increased in both groups, depending more on the elevation of the thigh and the flexion of the hip and ankle joints for the elderly, and the elevation of the shank and knee flexion for the young. In the elderly, the range of motion for the upper arm was significantly smaller than that of the young, and the forward lean of the trunk increased after landing of the lead leg at high obstacle. This may have made the clearance of the trail leg easier.
著者
西井 淳
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.8-12, 2004-02-01
被引用文献数
1 2

ウマなど多くの多足歩行動物が移動速度に応じて歩容を変化させることは古くから多くの研究者の注意をひき,観察に基づく詳細な分類が行われて来た.一方で歩容が変化する理由についても多くの議論がなされながら,十分な説明はなされてこなかった.歩容の遷移の他にも,移動速度の変化に伴った脚の運動周期の変化等,多くの多足歩行パターンの特徴が様々な動物に共通に観察されている.このことは多足歩行パターンの選択において動物によらない共通の戦略が存在することを意味する.本稿では,多くの動物に共通に観察される多足歩行パターンの特徴を紹介し,それらが消費エネルギーの最小化という基準によって説明しうることを解説する.
著者
佐崎 祥子 廣川 俊二
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.227-234, 2005 (Released:2007-10-23)
参考文献数
9

工業用複合材料が主要強度材である繊維と母材の中間的強度を示すのに対し,生体複合材である腱・靭帯では主要強度材である線維束よりも靭帯複合体の力学強度が高くなり,工業材料とは逆の現象を示す.本研究では,生体軟組織の階層構造を考慮しつつ,靭帯を線維束の集合体とみなした二種類の靭帯力学モデルを構築し,上記逆転現象のメカニズムの解明を試みた.モデルには,実験結果を基に線維束の力学的不均一性や線維束・間質物質間の干渉力を表す要素を含めた.最初のモデルは線維束と靭帯の伸びだけを扱った一次元離散モデルであり,靭帯の応力-ひずみ特性に見られるつま先領域,線形領域,破断領域を区別しつつモデルを構成した.第二のモデルは超弾性体の二次元連続体モデルであり,靭帯固有の特性である有限変形,非圧縮性の条件を導入した.シミュレーション解析の結果,両モデル共に,上記逆転現象を再現し得ることを確認した.
著者
渋井 佳代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.205-209, 2005-11-01
被引用文献数
1 1

女性は,月経,妊娠・出産,閉経を通して,視床下部-下垂体-卵巣系の内分泌環境が大きく変動する.それに伴い,気分の変調や睡眠が変化することはよく知られている.月経前には,いらいら,抑うつ感を伴った日中の眠気の増加が特徴的である.妊娠中に関しては,妊娠前期に過眠がみられるが,妊娠中期には比較的安定し,妊娠後期に夜間不眠が多く経験される.睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群が発症する場合もある.産褥期には夜間睡眠の分断化が余儀なくされる.更年期には,ほてりやのぼせなど自律神経症状がきっかけとなる夜間不眠がみられる.それぞれのライフステージにおけるホルモン動態を正しく理解し,適切な対処をする必要がある.
著者
中園 嘉巳 田中 久弥 井出 英人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.23-28, 2003-02-01
被引用文献数
1

指タッピング法を用いて,予測ボタン押し動作における予測精度を測定した.被験者には,ブザー音が周期的(インターバル:0.8,1.1,1.3,1.9秒)に繰り返し呈示され,a)音を聞きながら,あるいはb)音に合わせてボタンを押しながら,最後のブザー音の後に予測したインターバルの経過を待って,指でボタンを押すように指示された.ボタンが押されるまでの時間が予測時間として,インターバルの実時間との差が予測誤差として測定された.結果,被験者15名において,インターバルの長さと予測誤差の大きさとに相関が認められた.その内9名では,インターバル1.9秒において予測時間が実時間より10%を越えて有意に減少した.音に合わせたボタン押し動作を伴った場合b),対照例a)と比較して,予測時間の変動係数(CV)が有意に減少した.つまり,周期的運動を行うことによって予測時間の精度が向上した.この結果は,心理学的時間知覚と生理学的周期運動との連関を示唆する.
著者
北崎 智之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.17-21, 2007-02-01

自動車などの乗り物による移動における「座」に求められる性能の一つに乗り心地性能がある.乗り心地性能評価は,振動データ計測とそれを感覚量に変換する定量化プロセスから構成される.データ計測については,フロアやシートなど人間〜車両インターフェースにおける人体入力振動を計測する.このとき人体が単なる質量体ではなく,振動系として挙動することを考慮することが重要である.定量化手法については,British Standard 6841などで規定されている手法を用いることで,快/不快の一次元尺度上での指標化を行うことができる.実際の自動車の乗り心地性能評価においては,さらに細分化された周波数に依存した様々な振動感覚の定量化が行われており,対応する様々な部品特性の改善によって,バランスを取りながら性能向上を図っている.
著者
岩田 洋夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.78-81, 2007 (Released:2008-07-04)
参考文献数
3
被引用文献数
4

体性感覚とは,皮膚に分布した感覚受容器の検出する情報(皮膚感覚)と,筋肉や関節にかかる力の感覚(深部感覚)が複雑に合わさったものである.これらの感覚に合成的な情報を提示するためには,機械的な装置が必要であり,実装には多くの困難が伴う.本稿では,手による物体操作と足による歩行に着目し,体性感覚呈示技術の現状と課題を紹介する.
著者
繁成 剛
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.81-85, 2002
参考文献数
5

福祉関係者の立場から言及すると,バイオメカニズム教育に重要な視点は,生活, QOL (Quality of Life),バリアフリー,支援技術,ユニバーサルデザイン,ノーマライゼーション(normalization)についての理解と実践であると考える.具体例として,重度障害児に対するシーティングシステムはバイオメカニズムと生活支援技術を駆使することによって成り立っている.シーティングの理論と技術は,固定的な姿勢保持からダイナミックで柔軟な姿勢保持へと発展してきた.シーティングに限らず,福祉や医療の領域ではまだ十分に研究されていないテーマが多く存在しているが,実際には歩行分析や動作解析などの分野に限局されている.結論として,バイオメカニズムを福祉の領域で活かすためには,福祉関係者と当事者である障害者,高齢者の現状を知ることと同時に,専門の研究分野からどのようなアプローチが可能かを検討し,実際の現場で応用できるような成果を導き出すことであろう.
著者
西原 克成
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.221-225, 1999

脊椎動物を規定する物質的根拠からこの宗族の進化という現象を観察すると,最も劇的な体制の変化が進化の第二革命の上陸において発生していることが明らかとなる.この変化は主に呼吸系,骨格系,皮膚において生ずるもので,この変化の原因を宇宙を構成する構成則から考慮すると,時間と空間と質量のないエネルギーおよび,質量のある物質によって同じ遺伝形質のまま形態と機能が変化することが明らかとなる.用不用の法則と生命発生原則に,分子遺伝子学と生体力学を導入し,この第二革命で発生する骨髄造血の人工モデルを用いて進化の法則について検証したので解説する.
著者
小野 古志郎
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.110-115, 2003 (Released:2004-02-27)
参考文献数
12

自動車乗員保護のためのバイオメカニクス研究は, 衝撃などの外力条件の違いによって発生する人体の傷害あるいは生命の危険性を如何に防護あるいは保護するかといった方策を適切に知る手段と言える. 本解説では, 1)自動車安全性向上におけるバイオメカニクス研究の位置づけを行い, 2)人体傷害の捉え方, 3)人体傷害度のスケーリング, 4)後遺障害度のスケーリング, 5)人体傷害と衝撃応答, 6)加齢あるいは性別による人体衝撃耐性の違い, 7)傷害評価ツールとしての人体モデルの現状について概説する.
著者
北野 利夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.61-64, 2008-05-01

DNAに込められた成長・発達のプログラム,外的環境への適応,変形に対する自家矯正などの発育期における現象を理解するために,四肢の関節,筋肉の成長・発達について解説する.筋の発達は筋の構成単位としての筋線維や臓器としての筋組織の発達と神経系支配により高度に統合された関節の運動制御機構としての発達として理解する.四肢の関節を構成する骨の両側には,成長軟骨板が骨端と骨幹端の間に形成され,関節の横径および長袖方向の成長を担う.この関節内の解剖学的特徴から,関節を含め四肢が成長し,同時に形状が変化してゆく.生理的な成長とそれに伴う形態的変化と,成長に伴う非生理的な形態的変化についての実例を挙げ解説し,最後に,矯正についての考え方と成長・発達の人工的な制御について触れる.
著者
小林 吉之 嶺也 守寛 藤本 浩志
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.85-92, 2006-05-01
被引用文献数
4 3

水平ではない障害物が跨ぎ越え動作に与える影響を評価するため,若年成人被験者に高さの異なる水平な障害物と角度の異なる前額面上で傾いた障害物を跨いで越えさせ,その際の歩容を3次元動態計測装置VICON-512を用いて計測した.計測したデータより外側及び内側MP関節に貼付したマーカから障害物までの距離をそれぞれ外側つま先クリアランス,内側つま先クリアランスと定義し,水平な障害物及び前額面上で傾いた障害物間で比較を行った.その結果,高さの異なる水平な障害物間では外側内側共につま先クリアランスに有意な差が認められなかった.一方前額面上で傾いた障害物を跨いで越えた際には外側つま先クリアランスが有意に減少した.これらのことからヒトが前額面上で傾いた障害物を跨いで越える際には,水平な障害物を跨いで越えるときほど余裕を持ってつま先を持ち上げておらず,障害物につまずく可能性が増加していることが示唆された.