著者
岡本 淳
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.59-62, 2017 (Released:2018-05-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

手術室には多くのパッシブな装置が導入されている.手術中に機器を任意の位置に位置決めするニーズが多いこと,本質的に安全な装置で手術を行いたいこと,そもそもアクティブな装置を使うことが難しい特殊環境であることなどがその理由である.本解説では,手術室の機器としてパッシブなメカニズムが採用されている手術顕微鏡,機器の位置決め装置,定位脳手術・穿刺支援装置,執刀医の支援装置について紹介する.手術顕微鏡は微細な手術には必須の医療機器であり,顕微鏡本体はオーバーヘッド型のパッシブアームに吊り下げられている.また,汎用の位置決め装置や,内視鏡保持アームなども同様にパッシブアームが用いられている.精密な位置決めが必要な定位脳手術等でも,パッシブな位置決め装置が使われている.これは術前計画に合わせて機構の位置姿勢を調節する方法であり,近年はナビゲーション誘導で行うタイプも登場している.執刀医のサポートを行うパッシブアームも登場しており,iArmS® はスイッチレスでアームのロック・フリーを切り替える新規のインテリジェント手台装置である.「手術室で使われているパッシブな装置」という分野においては我が国の独特な技術が世界をリードしているといえる.
著者
福井 信行
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.25-30, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

近年では,欧州を中心に自動車の内装質感に対するお客様の期待が高まり,自動車メーカーではどのように質感を向上 させるかが課題となっている.一方,以前のマツダ車の内装質感は,市場からの評価が低く厳しい状況であった.1999年より, 全社一体で「クラフトマンシップ」向上の取り組みをスタートさせ,評価の体系化や基準設定を行い,コンセプト,戦略作成 も含め活動してきた.その中で,感性工学を適用した質感の定量化や質感向上の技術開発を積み重ねてきている.それらの技 術をマツダ車へ織り込むことで,少しずつではあるが,お客様からの評価も向上してきた.実際の自動車の内装開発の現場で 行ってきた,感性工学の適用事例の一部を紹介する.
著者
高木 斗希夫 藤井 範久 小池 関也 阿江 通良
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.216-224, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
21
被引用文献数
10 1

本研究では,野球における速度の異なるボールに対する打撃動作に影響を及ぼす力学的要因を明らかにすることを目的とした.速度の異なるボール(75-80km/h,100-105km/h,125-130km/h)を被験者に打撃させ,3 次元自動動作分析システムを用いて動作を計測するとともに,2 台のフォースプラットフォームを用いて両足下の地面反力を計測した.下肢及び体幹部に作用する関節力および関節トルク,さらに股関節トルクを下胴の長軸周りの軸へ投影した成分(下胴回転成分)などを算出した.その結果,ボール速度の大きい条件では,投手方向への身体の移動に関与する力積が小さく,この要因として踏出足接地から身体重心速度が最大値に到達する時点までの動作時間の短さが大きく影響を及ぼしていた.また,ボール速度の大きい条件では,軸足側では股関節外転トルクの下胴回転成分,踏出足側では股関節屈曲トルクの下胴回転成分が大きく作用していた.
著者
西崎 友規子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.229-234, 2019 (Released:2020-11-11)
参考文献数
34
被引用文献数
1

ユーザ視点に立つ製品開発場面では,個々のユーザに合致した製品やサービスの提供がのぞまれ,ユーザ特性の分析と 分類が必要とされている.本稿は,自動車運転者を主体とした車載機器や搭載システム,運転支援システムの開発や評価場面 で必要とされる,運転者特性の分類方法を紹介し,運転行動の個人差を特徴づけると想定される心理特性(不安傾向,リスク 回避-志向傾向,認知的熟慮性-衝動性,自尊感情,相互独立性-相互協調的自己感,規範意識),ならびに認知機能特性(ワー キングメモリ,注意機能,距離把握力,大局的処理-局所的処理傾向,社会的認知力)を概観する.
著者
高木 斗希夫 藤井 範久 小池 関也 阿江 通良
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.158-166, 2008 (Released:2010-12-13)
参考文献数
22
被引用文献数
16 5

本研究では,球速の異なるボールに対する野球の打撃動作の特徴を明らかにすることで,打撃の正確性に影響を及ぼす動作要因について検討することを目的とした.球速の異なるボール( 75km/h,100km/h,125km/h)を被験者に打撃させ, 3次元自動動作分析システムを用いて動作を計測した.打撃の正確性を評価する指標としてインパクト角を用いて,身体の並進および回転動作と打撃の正確性との関連について検討を加えた.その結果,ボール速度が大きい条件( 125km/h)においては,身体重心の並進移動距離を小さくするとともに,上胴部およびバットの回転動作範囲を小さくすることが打撃の正確性を高める動作であると考えられた.さらに,体幹の捻り角度および捻り戻しの角速度の最大値にはボール速度条件による有意な差は認められなかったため,これらの動作はボール速度に関わらずスイングに必要な動作であると考えられた.
著者
森下 はるみ
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.132-136, 2002
参考文献数
9
被引用文献数
2

本論は,伝統芸能,バレエなど型や様式の決まっている舞踊について,身体訓練,身体意識,基本的な姿勢,跳躍・歩行・手や足使いの特徴をのべた.また演舞の生理的・運動的・心的階層を呼吸や心拍数・舞踊動作・自己意識との対応から考察した.対象は憑依舞踊から名人による至芸にわたる.さらに舞踊における「美しさ」とはなにかを論じた.
著者
廣瀬 通孝
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.71-74, 2007
被引用文献数
4 2

「五感情報通信技術」とは,これまで視覚や聴覚に限定されていたコンピュータ・インタフェースをそれ以外の感覚にも拡大すること,五感の感じた情報をコンピュータが取得,処理,表示すること,などを目指した技術である.感覚というキーワードをコンピュータ技術に取り込み,さらに新しい領域を発展させていこうという目的を持つ,新世紀の技術であるといってよいだろう.本稿では VR技術を中心に,五感情報技術の現状とその周辺の話題について紹介する.
著者
増田 正
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.88-92, 2001-05-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
8
被引用文献数
3 2
著者
山内 繁
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.268-273, 2019 (Released:2020-11-11)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1
著者
田口 周 橋本 晋吾 長谷 公隆
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.23-28, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
13

超高齢社会は我が国において重大な問題の1 つであり,その進展に伴う課題点として認知症患者の増加が挙げられる.認知症対策に関する様々な取り組みが試みられているが,それに関連して認知機能評価および訓練は重要である.また,近年,Virtual Reality を始めとした先端技術が医療及び介護分野も含めて様々な領域で応用されている.その先端技術の1 つとして近年注目されているMixed Reality を認知機能などに対して応用する試みについて紹介する.
著者
村田 哲
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.14-19, 2005 (Released:2007-02-23)
参考文献数
31
被引用文献数
4 1

模倣の神経回路の脳内局在は,腹側運動前野,下頭頂小葉,およびSTS周辺など関わっていることが,イメージングのデータによって示されている.こうした模倣の神経生理学的な基盤として考えられているのは,ミラーニューロンである.この特集にあるように,模倣は言語,心の理論,コミュニケーション,社会的行動,自閉症などと結びつけて考えられているが,ミラーニューロンが記録されたマカクザルの持っている能力と結びつけることには批判もある.そうした中で,いずれの機能も自己と他者が重要なキーワードとなっていると考えられる.本稿では,ミラーニューロンの機能を自己身体感覚と結びつけ,模倣の神経回路との関連を探る.
著者
河野 由 小笠原 一生 水村(久埜) 真由美
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.205-212, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
7

バレエにおいて上肢の動きは,豊かな表現を実現する上で欠かせない.しかし,表現を伴う上肢動作の3 次元的な運動学的特徴を報告した研究はなく,表現に必要なスキルの詳細は不明である.そこで本研究では,白鳥の羽ばたきを模した上肢動作の3 次元的な運動学的特徴を明らかにすることを目的とした.バレエ熟練者5 名とバレエ未経験者9 名に白鳥の羽ばたきを模した上肢動作を実施させ,その際の肩,肘,手関節角度および各関節運動の運動範囲と,上肢挙上または下降局面の肩,肘,手関節角度の極値が出現する時間差を算出した.その結果,バレエ熟練者は,バレエ未経験者よりも前額面の運動および上肢の回旋運動が有意に大きく,上肢挙上局面では肘関節が肩関節や手関節に先行して動き,上肢下降局面では上肢が近位部から遠位部へとしなるように動くことが示された.
著者
山口 仁一
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.123-127, 2006-08-01
被引用文献数
1 2

近年,ロボットによる二足歩行実現技術は大きく進展を見せているが,その技術群の全体構成を外から知ることは困難であった.これは,同技術の進歩を担っていた組織が大学等から民間企業等にその主軸が移り,学会等での技術発表が積極的には行われなかったことに基因するものと思われる.しかしながら,年月が経ち,民間企業等における技術も,公開特許公報や特許公報としてその多くのものが公開されるようになってきた.そこで,本解説では,筆者とソニー株式会社が共有名義・共有権利持分で出願した,脚式移動ロボット関連の安定歩行実現技術について,資質を与える技術,体だけで動く技術,考えて動く技術に分類し,各技術を代表的な特許技術を例に挙げながらその全体構成を概説する.
著者
八島 建樹 高木 敏行 出江 紳 一 永富 良一 浅尾 章彦 森 仁 阿部 利彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.103-109, 2016 (Released:2017-01-15)
参考文献数
24
被引用文献数
4 5

著者らが開発した末梢神経を刺激することを目的とした磁気刺激装置を用いて,健常者の橈側手根伸筋を刺激し,これ によって誘発される手関節の背屈運動と刺激条件との関係を調べた.磁気刺激の条件として,磁場強度を3 段階,刺激周波数を10 ~ 50 Hz の5 段階,刺激時間を0.5 ~ 2.0 s の4 段階に変化させ,前腕を刺激した.この時に誘発される手関節の運動角度を電子角度計を用いて計測した.刺激条件に応じて,手関節の背屈角度はごくわずかな動きから100 度を超える大きな動きまで誘発できることが明らかになった.
著者
長谷 公隆
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.199-204, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

中枢神経疾患における上位運動ニューロン症候群の陽性徴候(positive symptoms)である痙縮は,腱反射亢進を伴う緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性亢進と定義され,運動麻痺症状の増悪や異常肢位,痛みを招いて日常生活に悪影響を及ぼす.伸張反射の受容器である筋紡錘の感受性は錘内筋線維を支配するγ運動ニューロンによって制御される.痙縮筋には自発性運動単位発火がみられ,その頻度は中枢神経損傷後の回復とともに増大する.このα運動ニューロンの興奮性増大を説明する機序として,γ錐内運動システムや脊髄運動ニューロンの内在的特性,シナプス前抑制機構や相反抑制の減弱を含めた脊髄介在ニューロンの変化が考えられている.しかしながら,痙縮に伴う足クローヌスや痙縮の構造特性を含めて,明確な機序は明らかになっておらず,その病態生理の解明が望まれる.