著者
松岡 絵美 前野 聖子 島田 将尚
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.55, 2007

【はじめに】<BR> 臨床場面にて、トイレの介助量の軽減、又は自立を機に活動意欲やリハビリ(以下リハ)に対する意欲が高まり自立心が強くなる症例に多く出会う。また、当院通所リハ利用者の家族に対する介護負担アンケートをとった結果セルフケア、特にトイレ介助に対する負担の声が多く聞かれた。トイレ動作の早期自立がリハの進行に大きく関わり、在宅生活においても重要になるのではないかと考えた。しかし、何をもってトイレ動作自立と判断するか細かな尺度がなく、当院スタッフ間でも判断に差があり曖昧であった。そこで今回当院で対象の多い整形外科疾患に対するトイレ動作の評価スケールを作成した。<BR>【目的】<BR> トイレ動作の評価スケールを作成する事で問題点を明確にし早期自立を目指す。トイレ動作介助量の統一化を図り、できるADL・しているADLの差をなくす。<BR>【方法】<BR> トイレ動作を身体機能別、動作能力別に細分化し評価スケールを作成する。今回は身体機能面、動作能力面に限定し認知機能、高次脳機能に障害がある症例に関しては対象外とした。 <BR>【評価スケール内容】<BR> 身体機能:上肢・下肢・体幹の可動域制限の有無、筋力に関する項目を設定。バランス能力:座位バランス、立位バランスに関する項目を設定。移動能力:トイレまでの移動能力、移乗動作能力に関する項目を設定。一連のトイレ動作:動作を細分化した項目を設定。<BR>【考察】<BR> セルフケアやADLに関する評価尺度は数多くあるがトイレ動作独自の一般的な評価スケールを見ない。臨床場面でよく用いられるBarthel indexは移乗と後始末に限られており自立か介助かの大まかな評価項目しかない。FIMでは排泄コントロール、トイレ動作に細かく分けられ具体例も明記されているが、点数で表記する為、第三者がその点数表記を見たときに「何ができて、何ができないか」という事が分かりづらい。<BR> 今回作成した評価スケールはトイレ個室に入り出るまでの一連の動作を細分化し、できる動作、できない動作を明確に表記している。試験的に評価スケールを導入してみたところ、問題点を抽出し易くなった。そうする事で、トイレ動作自立に対する目標設定、プログラムの組み立てが容易になり、早期にトイレ動作を習得できるのではないかと考える。またチェック方式で表記するため簡便に評価できる。この結果をリハスタッフ間、病棟スタッフ間で共有する事で介助方法の統一も図れるのではないかと考える。<BR>【今後の課題】<BR> 今回はスケールの作成に留まっている。今後スケールの再現性、妥当性の検証を行い必要に応じ改良していく必要がある。作成したスケールを導入し、データを蓄積、点数化、統計処理を行いトイレ動作の自立ラインの設定を目指す。その結果をトイレ動作自立と判断し、監視を外す指標としていきたい。
著者
川畑 智
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.73, 2008

【目的】<BR>あそびRe(リ)パークは、環境省国立水俣病総合研究センターの介護予防等在宅支援モデル事業を受託し、平成18年度より「ゲーム機」を用いた取り組みを展開している。今回、その事業運営の中で身体反応速度と認知機能との関係性を研究し、一定の知見を得たのでここに報告する。<BR>【方法】<BR>芦北町のグループホーム入所者(認知症群)13名(男2名、女11名平均年齢84.2±6.3歳)と、同町内に在住する一般高齢者56名(男性11名、女性45名、平均年齢76.9±6.2歳)を対象とした。<BR>認知機能評価として、一般高齢者には、かなひろいテストを実施し、年齢別認知症境界域数値から、健常群51名と認知症疑い群5名の2群に分類した。<BR>また、認知症群には、改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を用いた(HDS-R平均4.7±4.2点)。<BR>これらの3群において、身体反応速度を簡易に点数化できる、株式会社ナムコのリハビリテーションマシン「ワニワニパニックRT」(以下、ワニ叩き)に取り組んでもらい、ゲーム得点と認知機能を比較した。<BR>統計処理は、Bartlett検定で分散の均一性を確認し、一元配置分散分析、多重比較検定(Scheffe法)を用い、各群間の有意差を判定した。なお、全ての統計手法とも、有意水準は1%未満とした。<BR>【結果】<BR>ワニ叩きゲームの得点は、健常群で70.2±11.3点、認知症疑い群で26.8±5.8点、認知症群で22.8±15.1点であった。統計処理の結果、健常群と比べ認知症群ではワニ叩きの得点が有意に低かった(p<0.01)。<BR>また、認知症疑い群においても健常群と比べ、ワニ叩きの得点が有意に低かった(p<0.01)。<BR>これに対し、認知症群と認知症疑い群の比較では、ワニ叩きの得点に有意な差は認められなかった。<BR>【考察】<BR>ワニ叩きは、制限時間内に可能な限り出てくるワニを叩くゲームであり、ワニ出現を瞬時に認知・判断し、叩打反応として適応する動作の反復作業である。<BR>健常群と比べ、認知症群や認知症疑い群において有意に得点が低い結果となったが、この理由として「動作の不活発性」や「注意の集中力減退」などが考えられる。また、ワニ叩きの得点で40点未満の場合、HDS-Rや、かなひろいテストなどのスクリーニングで認知症と疑われる可能性があることも考えられる。<BR>【まとめ】<BR>今回の研究で、身体反応速度と認知機能との関係が明らかとなった。今後は、症例数を増やし、認知症スクリーニングとの関係性や身体反応速度を高めるリハビリテーション手法が認知機能にどれほどの効果を及ぼすかを検証していきたい。
著者
金子 政彦 中村 誠寿
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.6, 2004

【はじめに】<BR> 当園では、1997年より地域療育等支援事業を行っており、施設機能を活用して在宅重症心身障害児(者)(以下在宅重症児者と略す)への療育、相談、指導を提供している。この中、作業療法士はリハビリテーションの実施のみならず、家屋改造や生活に即した各種福祉用具製作等に関わりを持っている。<BR>今回、当園の通園事業を利用していた進行性の疾患を持つ対象者について、経時的な状態低下から生活様式が変容し、これに必要な生活援助をその都度検討して作業療法アプローチを行ったので報告する。<BR>【症例紹介】<BR> 脊髄小脳変性症、精神発達遅滞、てんかんを基礎疾患にもつ19歳の女性。身長163cm、体重40kg。家族構成は父母と8歳上の姉(同疾患で、H医療センター入所中)。40週、体重3230gで出生し出生時異常なし。4歳時、痙攣発作、物につまづく、持っているものを落とすなどの症状により発症。5歳時、性格変化、社会的な不適応行動が見られるようになる。10歳時、S医大で検査入院の結果、脊髄小脳変性症の診断があり、身障手帳1級、療育手帳Aの交付を受ける。<BR>【作業療法評価】<BR> 頚座不安定で、自力での姿勢変換は困難。寝たきりであり、随意的な動きはほとんど無く、関節拘縮と非対称肢位での固定化が進んでいる。感情表出に乏しく、外部からの働きかけに対する反応がほとんどない。光に対して痙攣発作を起こす為、日中も遮光カーテンの中で過ごす。摂食機能も近年低下し、誤嚥性肺炎から胃ろうによる栄養管理となっている。日常生活活動はすべて全介助である。<BR>【経過及び作業療法アプローチ】<BR> 1995年(11歳):姉がH医療センター入院。通園が始まる。歩行困難となったため作業療法士による機能訓練を重点的に行う。また、当園の短期入所利用がある。<BR>1998年(14歳):つかまり立ちが困難となる。母の介護負担が増え、通園への出席が困難となる。地域支援事業に登録し、ボランティアによる外出時の付き添いが開始される。作業療法士による訓練は外来にて継続された。<BR>1999年(15歳):痙攣重積し、長期臥床が余儀なくされる。母の介護負担は一層増加し、来園困難となる。外来訓練が中止となるが機能訓練に対する家族の希望から、地域支援事業での訪問リハビリテーションが開始となる。<BR>2000年(16歳):養護高等学校訪問教育となる。家庭での良姿勢保持の為、室内用座位保持装置とトイレチェアを作製。母の介護負担、腰痛、膝痛が悪化し、介護の方法に関する相談がある。高さ可変式のギャッジベッドを導入する事で介護負担の軽減を図る。また、父が踵骨骨折し、父母で行っていた入浴介助が困難となる。浴室改造(居室から浴室までの段差解消と入浴リフト)とシャワーチェアの作製希望あり。地元の訪問看護にて入浴サービスが開始。年末に、浴室改造完了し、シャワーチェア納品。<BR>2001年(17歳)自力での姿勢変換困難となり、寝たきりの状態となる。摂食機能の低下が進み、誤嚥性肺炎を頻発、経鼻管栄養を経て、胃ろう造設術施行。自家用車が介護用のリフトカーになり、車に合わせる形で外出用(通院用)の座位保持装置を作製する。<BR>2002年(18歳):過労により、母が体調不良となる。短期入所サービスの利用がある。コーディネータと利用可能な社会資源の検討を行う。<BR>2003年(19歳):養護高等学校卒業。居住地であるN市の障害者支援センターから、訪問保育2回/月、訪問リハ2回/月、ホームヘルプ1回/週が開始となる。地元施設が支援事業を開始した為、高校卒業を機に、遠隔である当園のサービスを地元施設に移行する見直しを行い、訓練頻度を1回/月とする。<BR>【考察・まとめ】<BR> 今回、当症例に対して様々な作業療法を提供するに至ったが、進行性の疾患で機能低下が進む事、介護者が高齢化する事、取り巻く環境が整備されていない事など数多くの問題が相互に影響を及ぼし、在宅生活の遂行を妨げる要因となって表面化した。これに対して機能低下を緩徐にし、『出来るADL』維持に努めたが、目的達成には至らなかったように思われる。しかし、介護者の高齢化による負担増加や腰痛などの介護疾病に対して各福祉機器の導入や家屋改造あるいは訪問看護といった社会資源を活用することで在宅生活の維持につながったものと考える。この中、作業療法士は症例の身体機能に即した福祉用具の製作や浴室内リフターの導入に関わり、実際の介護をシミュレーションして介護負担の軽減に努めた。<BR> このように在宅重症児者とその家族が在宅生活を続けていく為には、施設の役割として各専門職において症例の生活全般の評価を共通認識し、長期的な予後予測をもとに、生活援助を行なう必要があると考える。また、施設機能として地域で可能となる他の社会資源に繋ぐ役割も特に重要と考える。
著者
村上 淳也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.164, 2016

<p>【はじめに】</p><p>一般的にCRPS(complex regional pain syndrome:複合性局所疼痛症候群)症例には循環改善や交感神経抑制を目的として,温熱療法,経皮的電気刺激,交代浴,星状神経節レーザー治療等の物理療法を併用した治療介入が挙げられる.今回,骨折とは不釣り合いな疼痛が残存したCRPS症例を担当し,物理療法を実施したが疼痛軽減に至らなかった.そこで,振動刺激を併用した治療介入を行った結果,疼痛に改善が認められたため報告する.</p><p>【方法】</p><p>症例は20代女性.車同士の交通事故により救急搬送.右距骨外側突起骨折,右腸骨翼骨折を認めたが,保存的加療適応の判断で右下肢免荷にてリハビリ開始.24病日,回復期病院へ転院.その後66病日でFWB.111病日で退院の運びとなったが,疼痛残存のため114病日に当院受診し外来リハビリ開始となった.リハビリは週4回の頻度で実施した.外来リハビリ開始時,主訴は「足をつくだけで痛くて歩けない」であった.理学所見では関節可動域制限(足関節背屈0°,底屈15°),持続性ないし不釣合いな疼痛・知覚過敏(足底,足背,下腿の触覚による疼痛NRS5/10),発汗の亢進,浮腫を認めCRPSが示唆された.またSF-MPQ2(Short Form-McGill Questionnaire2:マクギル疼痛質問表簡易版2)より心因性疼痛の寄与が少ないことが示唆された.振動刺激はハンディマッサージャー(大東電機工業株式会社製)を使用した.周波数は50Hzとし,足底に対し手を介した間接振動から開始し,徐々に直接振動へ切り替え10分間施行した.</p><p>【経過及び結果】</p><p>114病日より物理療法を併用した運動療法を開始したが,疼痛の改善は認められなかった.127病日に振動刺激を併用した治療介入を実施した.実施直後より疼痛の訴えがNRS5/10からNRS3/10と改善を認めたため,継続して施行した.135病日,触覚での疼痛がNRS2/10,足関節背屈5°,底屈30°であった.触覚への過敏性が軽減したため,積極的な神経モビライゼーション及び関節可動域練習を開始した.148病日で浮腫や発汗亢進はみられなくなり,触覚での疼痛がNRS0/10,足関節背屈15°,底屈45°と改善が認められた.疼痛と関節可動域改善に伴い10m歩行が26秒14(26歩)から8秒30(21歩)と向上した.</p><p>【考察】</p><p>本症例は距骨外側骨折とは不釣り合いな疼痛が長期に残存しており,中枢性感作が考えられた.今回,CRPSに対して一般的な物理療法では改善が認められなかった.これは本症例の疼痛として循環,交感神経の要因が少なかったことが考えられる.そこで127病日より振動刺激を併用した治療介入を開始したところ疼痛に改善が認められた.濵上は振動刺激による感覚入力を行うことで慢性疼痛や不動による障害に対しての効果を報告している.兒玉らは振動刺激による感覚運動領野との関連を報告している.今井らは一次運動野の興奮は帯状回を正常に活性化させ,中脳中心灰白質を活動させる.これにより下行性疼痛抑制によるオピオイドシステムが作動し鎮痛効果が得られると述べている.以上の機序により本症例において疼痛の改善がみられたと考える.本症例の経過より,CRPSに対して振動刺激が有効であった.今後は症例数を増やし,振動刺激が有効なCRPS症例の特異性を見つけていきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例には,本発表の主旨と倫理的配慮に関して説明し,紙面にて同意を得た.</p>
著者
赤木 勇規 平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.212, 2008

【はじめに】<BR>小脳出血後右片麻痺に加え頚部運動時に眩暈、眼振が出現する症例に対し、認知運動療法を試みたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>49歳女性。小脳出血発症から2週間経過後に理学療法を開始、右片麻痺に加え頚部運動時に眩暈を認め、当初立ち上がり、歩行は監視であったが自立に達し4ヶ月後自宅退院。しかし、退院後も強い眩暈、眼振続き認知運動療法による介入を試みた。<BR>【理学療法評価】<BR>外来治療開始時、感覚検査は異常なし。注意障害、右上下肢の運動単位動員異常、失調症状が認められた。頚部筋緊張が高く、常に固定し動きは乏しく「首の後ろから頭が痺れてアルミ棒がある様で硬い。髪の量が多く頭自体も大きく感じて、後ろに引かれるみたい」等の発言がみられた。頚部運動は非常にぎこちなく動揺やスピードの遅さみられ、眩暈の訴え、眼振が出現し特に坐位から背臥位になる際や後屈、回旋時に顕著であり「無理に曲げないといけない」「後ろに引っ張られる」「首を回す時、雑巾を絞る様に無理に捻る感じ」と発言される。歩行時も方向転換や立ち止まる時にふらつきや眩暈が出現「カーブの時は眩暈が出そうでふらつく」「立ち止まると髪の毛を後ろに引っ張られる感じ」等の発言がみられた。なお眼球運動のみでは眩暈、眼振は見られなかった。<BR>【病態解釈とアプローチ】<BR> (1)小脳出血及び手術侵襲により頚部の表象が変質しているのではないか(2)先の問題により頚部運動時、頚部の動きが予測出来ないことで眼球も協調的な働きが出来ず、眩暈、眼振が出現しているのではないかと考えた。そこで頚部の表象を再構築する目的でスポンジを用いた接触課題、筋感覚的な頚部の運動イメージの再構築を図った。これにより頚部運動の予測が可能となり、眼球運動とも協調的な活動が可能となるのではないかと考えた。介入に際し注意障害の影響が強く直接的に一人称イメージを用いた介入が難しく予測や結果との照合に困難を呈した。そこで視覚的イメージや目的部位以外での運動イメージを用いることで頚部への変換を促した。<BR>【結果】<BR>「頭を引っ張られなく軽くスムーズに動かせる」「眩暈や違和感が出るって思っていたけど今はない」等の記述がみられ、眩暈、眼振は頚部運動のみの場面では消失しその他でも軽減した。<BR>【考察】<BR>小脳は前庭神経核を介し眼球と頚部の協調的な働きに関与すると言われている。今回、眼球運動のみでは眩暈、眼振が見られなかった事から頚部表象の変質によって運動予測が出来ず眩暈、眼振が出現していたものと考えられる。また介入において小脳損傷による注意障害の為、非目的部位や視覚的イメージを目的部位である頚部の一人称イメージへ変換するという観点からアプローチを進めたことで頚部運動の予測が可能となり眼球運動とも協調的な活動が可能となったと考えられる。
著者
吉田 純一 北村 久美子 箭内 公一 安河内 淑子 石内 愛美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.69, 2016

<p>【はじめに】</p><p>日本においては、障がい者を取り巻く環境が急速に変化してきている。粕屋町では「障がい者が、安心して共に暮らせるやさしいまち」を基本理念とする障害者計画を策定しており、関係機関と行政が一体となって連携し、障害福祉計画推進協議会(以下、推進協)が中心となり計画内容を推進している。今回、地域住民の障がいや障がい者に対する理解を確認するためアンケートを実施した。アンケート結果から地域の方の声を聴き、今後の推進協の取り組みについて考察したので報告する。</p><p>【方法】</p><p>人権週間および障がい者週間である平成27年12月6日に開催された粕屋町介護福祉課主催障がい者啓発事業「人権を尊重する町民のつどい」にてアンケートを実施。参加者のうち244名よりアンケートの記載をいただいた。なお、アンケート実施に際し、趣旨、内容、結果の取り扱いについて書類を用いて説明し同意を得た。</p><p>【結果】</p><p>アンケート記載者244名(男性140名、女性99名、無回答5名)の年齢は、~20歳代11.1%、30~40歳代23.4%、50歳~60歳代47.1%、70歳~80歳代15.9%、無回答2.5%であった。設問1「日頃障がいをお持ちの方に接する機会はありますか?」に対し、はい50.8%、いいえ45.9%、無回答3.3%となった。設問2「粕屋町は障がい者が安心して共に暮らせるやさしいまちだと思いますか?」に対し、はい26.6%、いいえ11.1%、わからない59.8%、無回答2.5%という結果となった。設問3自由記載欄では、「町内の小学生と障害施設児童との交流の場を作り、子供たちの心を育てることもよいのでは」や「町民運動会等の町の行事で啓発をもっと行ってみては」など様々な意見をいただいた。</p><p>【考察】</p><p>年齢別でみると、参加者の約半数が50歳から60代で20歳代以下の参加状況が特に低い結果となった。このことから小・中学校等の教育機関と連携をとり、若い世代に対する啓発活動をより行っていく必要があると考えられる。設問1に対し障がい者と接する機会があると答えた方は全体の約半数であった。しかし、参加者には障害福祉関係の仕事に従事している方も多く、地域住民が障がい者と接している機会はより低いと考えられる。また、設問3自由記載欄の意見も踏まえると、障がい者の理解と交流の推進のためにも障がい者団体等と協力し、交流の場を確保していく必要があるといえる。設問2に対し「はい」と回答したのは全体の1/4程度の26.6%であった。この結果が示すように「障がい者が安心して共に暮らせるやさしいまち」とはまだ言い難い現状であり、推進協としても今後さらなる取り組みを行っていくべきであると考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>推進協の取り組みとしては、現在の問題点を把握した上で、教育機関や関連団体との連携が重要となってくるといえる。今後は、若い世代への啓発活動や障がい者との交流の場の充実など、より地域に密着した活動を行っていき、今よりも障がい者が安心して共に暮らせるやさしいまちを目指していきたいと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>アンケート実施に際し、趣旨、内容、結果の取り扱いについて書類を用いて説明し同意を得た。</p>
著者
木村 幸太 松谷 信也 長野 浩子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.47, 2005

【はじめに】作業療法は「その人らしい生活の再構築」の援助を行う。歴史をみると「医の倫理」から、1960年代に入り、障害者側が主体である「生命倫理」が強く叫ばれるようになった。このような歴史的背景の中で作業療法では、「クライエント中心」という考え方は重要であり、その人らしさを知ることが必要と考える。今回健常人を対象とし、生活をセルフケア・仕事・レジャーの3つに大別し、各人における生活(作業)の違い、障害を持ったときの生活の意味の違いについてアンケート調査する機会を得たので報告する。【対象】当院リハビリ部、22から52歳の男女職員、65/97名【方法】1.一日の生活リズム2.セルフケア・仕事・レジャーの意味3.障害後(仮定)でのセルフケア・仕事・レジャーの意味4.平日と休日の作業(セルフケア)の意味の較差、について自由記述方式でのアンケートを実施。【結果及び考察】1.平日では一日の大半を仕事又はセルフケアに費やし、休日ではレジャーが大半を占めていた。2.セルフケア・仕事・レジャーに個々で意味の違いが認められた。意味のばらつきは個人の作業に対する価値感の違いであり、作業の意味を統一することは困難と考える。3.障害前のセルフケアでは「おしゃれ」「リフレッシュ」などの楽しみ的な意味が含まれていたが、障害後は楽しみといった返答は減少し、生理的欲求の意味が強い。障害前の仕事は「生活のため」が51%、障害後は「やりがい」が61%を占めた。障害前のレジャーは「気分転換」が84%、障害後は「気分転換」62%、「生きがい」が27%と変化した。まとめて考えると「セルフケア」が生きるための生理的欲求としてより強くなり、役割的であった「仕事」が、できなくなることにより「レジャー」と同様に「生きがい」として意味が変化したと考えられる。4.平日と休日の差では、平日に生理的欲求、社会生活上で求められる最低限のマナーとしての意味合いが強いのに対し、休日は楽しみ的要素や個人の価値観に基づいた意味が強い。これは、休日には買い物に行く、遊びに行くなどにより「おしゃれをしたい」「周りからよく見られたい」「おいしいものを食べたい」といったセルフケアを楽しむことや、リフレッシュするなどの意味が強くなったためと考えられる。【まとめ】今回の調査により、個人での作業の意味には差があること、平日と休日では同じ作業でも意味に差があること、障害を受けることで作業の意味が変化することが分かった。カナダ作業遂行モデルの中でも、『作業遂行は、本人の経験に基づいて各個人によって定義されるものである。』とあり、今回の調査結果と一致する点があった。このように「クライエント中心」の視点では各個人の作業の意味を理解し、適する作業を探していくことが重要である。今後は今回の結果をもとにさらに幅広く、様々な作業の「意味」について考えたい。
著者
原田 洋平 森﨑 みなみ 松尾 隆徳 内田 美代子 阿佐美 美保子 井戸 裕彦 洲加本 節子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.87, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】当院では、自閉スペクトラム症児に対し、主に対人意識を高めることを目的に、ESDMを参考にした小集団での療育を実施している。療育の効果判定として、PEP-Ⅲを使用し、療育効果について検討したので報告する。今回の報告について対象者へ口頭で説明を行い了解を得ている。【対象】平成25~27年度に、当院通院中の児の中で、早期集団療育開始時、終了時にPEP-Ⅲによる評価ができた、自閉スペクトラム症児33名(男性21名、女性12名)。開始評価時平均月例29.1±6.66、終了評価時平均月例34.2±4.45。全例とも「呼びかけても反応しない」「視線が合わない」など、行動面や対人面における対応能力の低さから、集団生活場面で困り感がある場合が多かった。【方法】1回約1時間の療育を週1回の頻度で、12~24回実施。1グループ最大3名の児に「児の対人意識、特に保護者への意識を高め、愛着形成を促すこと」「保護者が児の特性を理解し、適切な対応方法を学び、実戦できるようになること」を目標に実施。感覚運動遊び等の自由遊び(スイング、すべり台、ラダー、トンネル等)、挨拶、名前呼び、親子遊び(リトミックやマッサージ等)、保護者への振り返り等を行った。保育士、言語聴覚士、心理士合計6名でグループ活動を行い、作業療法士は、言語聴覚士と交互に、隔週で活動に入り、感覚面や姿勢運動面を中心にアセスメントや保護者へのライブコーチングを行った。アセスメント結果に基づく目標設定やホームエクササイズ等について、スタッフや保護者へアドバイスを行った。【方法】療育開始時と終了時にPEP-Ⅲと養育者レポート評価を実施し、比較検討した。有意差検定はT検定により行い、解析にはFree JSTATversion13.0を使用した。【結果】PEP-Ⅲの10領域のうち「認知/前言語」「表出言語」「理解言語」「微細運動」「粗大運動」「視覚―運動模倣」「感情表出」「対人的相互性」「運動面の特徴」「言語面の特徴」の10領域において効果が得られた(有意差1%未満)。特に「粗大運動」「視覚―運動模倣」では、4ヶ月以上の発達年齢向上が見られた。養育者レポートの3領域のうちでは、「適応行動」においてのみ、有意水準1%で効果が得られた。「気になる行動」「身辺自立」において、特に有意差は見られなかった。【考察】感覚運動遊び等の自由遊びをとおして、心身の発達が促され、空間内でダイナミックに自己の身体を利用した運動の経験をとおして、PEP-Ⅲのスコア向上に繋がった可能性がある。特にスタッフや保護者や他児の遊びを模倣すること、援助要求のやりとりを行うこと、モデルを見ながらの集団活動の経験をとおして、「対人的相互性」のスコア向上に繋がったと思われる。養育者レポートの「適応行動」に有意差が見られた背景としては、「ホームワーク等をとおして、生活場面において養育者の対象児への関わりがなされやすくなった。PEP-Ⅲは視覚的検査課題が多く盛り込まれており、視覚課題での効果判定がしやすい反面、言語課題等での効果判定がしにくい一面もあると思われ、今回の報告の限界であると考える。【まとめ】主に対人意識を高めることを目的とした小集団での療育によって、PEP-Ⅲのスコアにおいて変化が見られ、有意な効果が見られた。その長期効果については、今後も検討が必要。症例数を増やし、生活場面での変化や長期的なスコアの変化を追跡していくことが必要。【倫理的配慮,説明と同意】今回の報告について対象者へ口頭で説明を行い了解を得ている。
著者
西田 充征 濱崎 千賀子 平田 未来子 小塚 みち子 林 和江
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.73, 2006

【はじめに】<br>平成16年10月より熊本市中央地区の公立保育園にて、発達に不安を抱える保護者とその児を対象に児童デイサービス事業(以下児童デイ)が実施されている。児童デイにOTも関わり、保育士などの他職種と連携を図り療育を行っている。今回、児童デイでのOT活動の経過もふまえ保護者に対してアンケートを実施した。活動に対する保護者の満足度と今後の児童デイにおけるOTの課題について検討したので報告する。<br>【療育内容】<br>月曜日_から_金曜日の週5日間活動。定員は一日5名程度。対象児は、0歳児から就学前の支援費受給者証を持つ児童で、基本的に母子通園を原則とする。午前9時30分登園、諸活動・昼食を行い母子は午後1時に降園。スタッフは保育士のほかOTもしくはST等の1日2名。「一人ひとりの子供の成長発達を見極め、子ども自身のもつ育つ力を支え、伸ばすと共に親子のふれあいを大切にする」を療育目標としている。<br>【OT活動】<br>activityは週1回実施。自閉性障害を伴う情緒障害児が大半。オープングループにて実施し、可能な範囲で児を活動に参加させる。活動時に個別療法は行わず、必要に応じて援助・指導を行う。OTは40分程度の時間を頂き活動を行う。平成17年4月から平成18年3月まで6テーマ(シャボン玉遊び・紙遊び等)の活動を実施した。微細運動を促し、遊び時の児の姿勢に対しても着目できるように活動の企画を行い、個別課題を目的とした遊びと、集団で行う粗大運動の遊びを実施した。活動における発達的関わりを明確にするため、保護者に対して活動の目的・遊びの効果を説明・提示を行い、理解を促した。また、保護者に対し「おしゃべりサロン(講話)」の時間を頂き、目と手の協調性に関わるテーマで治療的側面の理解を図り、家庭でもできる遊びの提供を行った。<br>【結果】<br>活動に対し、未経験な感覚や対象物に適応できず拒否を示す児もみられたが、殆どが保護者及びスタッフの援助にて、活動に対し興味を示す児が多くみられた。アンケート結果においては「OT活動の目的を理解できていますか?」理解している53.8%・少し理解している38,9%。「OT活動に満足していますか?」満足している77,3%・普通13,6%・不満4,5%。「OTについて理解していますか?」理解している38,7%・少し理解している76,9%と結果を得た。<br>【考察】<br>保護者から「家庭では行えない遊びなので楽しい」「遊びの幅が広がった」「色々な動きがあるのでよい」と意見を頂いた。活動の企画において対象が絞りにくいが保育士との検討で、児の反応を導きやすい遊びを提示できていると考えている。多くの経験と共に、児の反応が食事場面においてスプーンの握りが、つまみへ移行し、箸へと移行する児もみられた。活動においては、保護者から姿勢や生活動作についての相談内容もきくことができた。今後活動場面を通し、児同士の相互作用の働きについて分析をすすめ、保護者へ集団での関わりについての理解を深めたいと考える。
著者
大堀 洋平 小林 豊和 黒田 良
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.89, 2011

【はじめに】<BR> 疲労性骨膜炎・疲労骨折は,スポーツ選手によく起こる疾患である.理学療法評価において,疲労性骨膜炎・疲労骨折の病態を示唆する評価法は散見するばかりである.今回、骨に直接的にストレスを加える評価法を考案した.その評価法を用い,アプローチの結果,良好な結果が得られたので,ここに報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 小学生(高学年),男性,野球選手(軟式・センター/ショート・右投げ左打ち).診断名は,右脛骨疲労性骨膜炎.レントゲンは,異常所見なし.現病歴は,当院受診約3週間前,走行時に右下腿内側に疼痛出現.疼痛軽減しないため,当院受診した.受診時の主訴は,歩行時痛であった.<BR>【理学療法評価】<BR> 圧痛は右脛骨近位内側にあり,歩行時に疼痛出現.立位アライメントは,右足位やや外転位,両膝顆間距離2横指,右骨盤やや前方回旋位,体幹やや右側屈位.脛骨ストレステスト(徒手で脛骨に外反・内反,前弯・後弯,外旋・内旋ストレスを加える)実施(以下,疼痛出現時,+と表記する).外反ストレス(++),前弯ストレス(+),外旋(遠位)ストレス(+).スクワッティングテストは,knee in時疼痛出現.歩行において,initial contactからmid stanceにかけて遅延し、骨盤・下腿外方移動不十分であった.<BR>【アプローチ】<BR> 当院初診時;右足部に内側縦アーチサポーター(ソルボ素材)装着.<BR> 約1週間後;サポーターに,後足部横アーチパッド1mm追加.<BR>【経過】<BR> 理学療法開始(当院初診)時,右足部への内側縦アーチサポーター装着にて,歩行時痛消失.練習は,走行・ノック禁止.約1週間後,走行時痛は10点法にて2点と軽減し,後足部横アーチパッド1mmを追加にて走行時痛消失.翌日には,制限なく練習参加.約3週間後来院し,圧痛・動作時痛消失を確認し,終了.<BR>【考察】<BR> 本症例は,動作時,脛骨近位内側に疼痛が出現していた.疲労性骨膜炎・疲労骨折は,疼痛部位にどのようなストレスが加わり生じたのかを把握することが重要と考える.どのようなストレス(方向・種類)かを示唆する評価として,脛骨へ直接的にストレスを加えた.その結果,脛骨外反・前弯・外旋(遠位部)ストレスにて,疼痛出現した.荷重位にて,スクワッティングテストを行い,knee inにて疼痛出現し,歩行時立脚期において,骨盤・下腿外方移動不十分であった.以上を解釈すると,本症例の疲労性骨膜炎は,立脚期における下腿の前内方への動きが脛骨近位内側への離開ストレスとなり,疼痛を発生させていたのではないかと考える.よって,右足内側縦アーチサポーターを装着することで,立脚期に下腿を後外方へ誘導し,離開ストレスを軽減させ,疼痛軽減に至ったと考える.<BR>【おわりに】<BR> 疲労性骨膜炎・疲労骨折の理学療法において,骨への直接的ストレステストは病態を示唆する有効な評価法であり,サポーターの適切な選択,運動療法の一助となると考える.今後,ストレステストと動作の関係を検討していきたいと考える.
著者
長友 拓憲 川平 和美 弓場 裕之 佐々木 聡 伊藤 可奈子 長谷場 純仁
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.149, 2006

【はじめに】<BR> 転落によりTh12からL2(L1粉砕骨折)の損傷による脊髄損傷患者に対し、両側KAFOの膝継手として、Spring assisted extension knee joint:伸展補助装置付膝継手(以下SPEX:アドバンフィット社製)を処方し、歩行の実用性に改善がみられたため報告する。SPEXの特性として、筋力に応じた膝伸展補助装置機能があり、伸展位固定でも軽度の屈伸の可動性が得られ、膝折れを予防する効果がある。そのため立脚初期に軽度の膝屈曲が出現し、二重膝作用が働き正常に近いスムーズな交互歩行が可能となる。リングロック固定式にも使用でき、無段階の可動域調整が可能である。また屈曲拘縮の矯正が0°から60°の範囲で一定のトルク負荷が可能であり、コイルスプリングをスチールロッドと交換し屈曲制限及び固定として使用可能である。適応は、脳卒中片麻痺、脊髄損傷、大腿四頭筋筋力低下、膝及び肘関節拘縮、進行性筋ジストロフィーに用いられる。<BR>【症例・理学療法経過】<BR>50才女性。転落によるTh12からL2(L1粉砕骨折)の損傷。胸腰椎骨折固定術施行。入院時評価:American Spinal Injury Association(以下ASIA)は運動C、感覚C。下肢は不全麻痺が両側に残存し、MMTにて股関節外転右2+、左2+、膝関節右伸展4左3+であった。歩行に関しては、膝折れが見られ、平行棒内軽介助レベルにて可能。ADLに関しては、移乗は軽介助レベル、寝返り・起き上がりは自立、座位保持は長座位自立、端座位は自立。立位は両上肢支持にて自立レベル。随意的な膝関節の屈伸運動が可能であるため、SPEXを用い下肢筋力増強、屋内歩行動作獲得を目標に用いた。約2ヶ月間理学療法を施行した。下肢の筋力増強プログラムと併用し、歩行期間に関しては約1ヶ月平行棒内、歩行器での歩行練習をコイルスプリングによる伸展補助力を微調整しながら施行した。退院時評価:ASIAは変化なし。下肢筋力が股関節外転右3+、左3+、膝関節右伸展4、左4に改善した。ADLは、車椅子への移乗が自立レベルに改善した。歩行に関しては、SPEX使用にて平行棒内歩行自立レベル、屋内歩行を歩行器にて監視レベルにて可能となった。<BR>【考察】<BR>今回はSPEXのコイルスプリングによる伸展補助力の微調整と足継手(ダブルクレンザック)の調整を行っていきながら歩行練習を行っていき、膝関節の屈伸運動を可能とし、随意的な収縮がみられたため、また自主練習にて平行棒内歩行練習を加え、通常のプログラムによる筋力増強運動も併用し、股関節・膝関節周囲筋の筋力増強がより効果的になり、歩行の実用性につながったと示唆される。<BR>【終わりに】<BR>今回はSPEXのコイルスプリングによる伸展補助力の微調整と足継手(ダブルクレンザック)の微調整をしながら、歩行練習を行ったが、下肢伸展筋力の個人差に対して、コイルスプリングの強度調整が困難であった。また歩行のアライメント調整のため、膝継手と足継手で通常は約2:1の割合で角度調整が求められるが、患者自身の能力、歩行練習中での問診、分析に応じて調整が求められる。今後症例を重ねて客観的な有効性を検討していく。
著者
浅田 悠幹
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.153, 2016

<p>【背景】</p><p>現在,児童の生活を見ていると,外遊びをしていて他の子と衝突してしまう子や運動会の練習で体を支持できず転倒し骨折してしまう子など身体の使い方やバランス,姿勢の乱れに起因する怪我等が後を絶たない,改めて,体幹やバランス,瞬発力,体力面などを計画的に鍛える指導の必要性を感じている.また,教職員への体つくり運動の指導の在り方や必要性から児童の主体性を育む指導法の工夫について検討し,教職員の資質向上,指導の充実等を高める必要があると考える.そこで,平成27年度佐賀県の取り組みとして佐賀県武道等指導・充実資質向上支援事業へ当院が携わる機会があった為以下に報告する.</p><p>【目的】</p><p>児童に対し,体つくり運動を行うことで基礎体力の向上,身体の柔軟性の向上を目的に行う.また,実際に武道等及び課題が見られる領域の指導を担う資質向上,さらに指導の充実等を図るため,指導力向上のための研修の実施や専門性のある外部指導者と連携した実践研究を行う.</p><p>【方法】</p><p>対象者,佐賀県鳥栖市立弥生が丘小学校に所属する小学5年生(男子:71名,女子:79名 合計:150名),小学6年生(男子:77名,女子:77 合計:154名).期間H27年10月8~11月13日.(うち各学年各クラスにオリエンテーション,体つくり運動は各学年2クラスずつ90分2回実施).</p><p>【結果】</p><p>授業前後の結果を比較するとアンケート結果から,1,体を動かすのは好きですかに対して,「はい」56→60%と向上.「あまり」11→6%と減少を認めた.また、柔軟性のテストでは,立位体前屈は「つく(あがらない)」61%→92%.腸腰筋(背臥位での股関節屈曲)は31→77%.大腿四頭筋(腹臥位での膝屈曲)は58→85%,と向上を認めた.</p><p>【考察】</p><p>アンケート結果より,体つくり運動を通して,体を動かすことや体育の授業,体つくり運動に対する意識の向上がみられた.また,休み時間児童が積極的に外で運動を始めたりと運動に対して児童の変化も見受けられた為,これからの日常生活にも影響していくことが考えられ,運動への意識の変化があることで運動の機会が増え,児童の体力向上へ繋がることが推測される.柔軟性のテストでは,各ストレッチ動作全て向上がみられた.これは,外部講師が入ることで適切なストレッチ方法,ストレッチで意識する事を伝え取り組んだ結果,筋が適切に伸長され,筋の柔軟性向上ができたのではないかと考える.しかし,今回は90分間の体つくり運動を各学年2回ずつしか行えていない.2回の頻度では,児童への継続的な働き掛けは困難だと考える.そのため,継続的に効果を出すためには教職員へのレクチャーが必要不可欠である.</p><p>【まとめ】</p><p>今回の取り組みより,体つくり運動を実施した後児童の身体への影響として柔軟性の向上を獲得することができた.また,運動への意識の変化がみられ日常生活への働き掛けが可能となった.教職員に対しては,児童への体つくり運動を通し,適切なストレッチ方法,トレーニングの際に気を付ける点を伝えることで指導力向上を図ることができた.今後,さらに,図示等によりそれぞれ筋の役割や実施したトレーニングの効果等を示しながら実施していく事で児童及び教職員に対しても更なる効果が得られるのではないかと考える.このような取り組みを継続していくために佐賀県また鳥栖市との連携をどのように築いていくかが今後の課題として取り組む必要がある.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本件の計画立案に際し、事前に佐賀県より当院・佐賀県鳥栖市立弥生が丘小学校へ依頼あり.小学5・6年生へ教職員より説明.共々承認。児童への運動実施は十分な説行い同意を得た。</p>
著者
山田 泰士 志垣 竹弥 金澤 親良 安野 嘉郎 浪本 正晴
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.97, 2009

【はじめに】<BR> 左片麻痺により起居動作や歩行の円滑性が妨げてられている症例に対して、その原因の一つとなっている肩関節亜脱臼(以下肩亜脱臼)と上肢屈筋痙性を軽減する目的で、上肢装具を試作し一定の効果を得ることができたので報告する。<BR>【対象】<BR> 視床出血により左片麻痺を呈した45歳男性。理学療法所見では、左上肢Brunnstrom Stage2~3で左肩亜脱臼が認められた。また動作時に左上下肢の痙性を認め、左上肢は屈曲肢位を呈し、生活動作全般で非対称姿勢が生じていた。深部腱反射は左上腕二頭筋と左上腕三頭筋においてやや亢進状態であった。<BR>【上肢装具】<BR> ネオプレーン生地3mmを使用し肩全体を包み込み、烏口突起から後方に固定用補強ベルト付けた。前腕部からのベルトを前腕外側から上腕内側に螺旋状に走らせ、腕全体を引き上げて肩関節後方で止めた。<BR>【方法】<BR> 1肩亜脱臼:単純X線撮影による骨頭下降率を計測した。2動作分析:起居動作と杖歩行の動作分析を行った。また歩行は、10m歩行の速度、歩幅、歩数を計測した。(1,2共に装具非装着時、装着時計測)<BR>【結果】<BR> 1肩亜脱臼:骨頭降下率は非装着時で20%、装着時で6%と亜脱臼の改善を認めた。<BR> 2動作分析:1)起居動作、非装着時:左肩甲帯は後退し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。装着時:左肘関節は連合反応により軽度屈曲位であったが、左肩甲帯は中間位となり、手指は若干伸展位を認めた。2)杖歩行、非装着時:左肩甲帯は前傾し、左肘関節と手指は連合反応により屈曲を呈している。体幹は右偏側位で非対称的であり、左下肢への荷重が不十分である。10m歩行:速度平均62秒、歩幅平均40cm、歩数平均55歩。装着時:左肘関節と手指は若干屈曲を呈しているが装着前と比較し手指は伸展位を認めた。左肩甲帯は中間位となり、体幹はほぼ正中位で保持され対称的となった。そのため左側への重心移動が可能となった。10m歩行:速度平均59秒、歩幅平均42cm、歩数平均52歩。<BR>【考察】<BR> 本装具では、前腕部からベルトを螺旋状に走らせ、上肢を外旋・伸展位に保持し上肢全体を引き上げることを可能にした。このことにより関節窩での上腕骨頭の位置の改善や左上肢下垂位により生じる上腕二頭筋の伸張反射亢進、連合反応による左上肢屈筋痙性の高まりを軽減できたと考える。また左肩甲帯を中間位に矯正したことも過剰な連合反応の抑制にも繋がった。これらにより、姿勢が対称的となり起居動作や歩行時の動作改善に繋がったと推察された。そして、本装具を常時装着することは、疼痛軽減や関節拘縮の予防を促し、また麻痺側上肢の痙性を抑制し、麻痺側上肢自体の使用頻度増加による機能回復が促される可能性があるために、今後一人で本装具を着脱できるよう改良する予定である。
著者
田代 耕一 遠藤 正英 川﨑 恭太郎 猪野 嘉一 森 政雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.77-77, 2016

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中片麻痺患者(以下:CVA患者)において歩行の獲得は日常生活動作(以下:ADL)に大きく影響を及ぼす。歩行の獲得には杖や補装具といった歩行補助具の役割が重要となる。特に杖は麻痺側下肢に代わる体重の支持、歩行中のバランス保持などを目的に使用される。そして臨床上、杖の高さの違いによって歩容が変化することを経験する。いくつかの教本によると、杖の高さは大腿骨大転子部の高さとされているが、CVA患者の歩行において大転子の高さでは合わないことも経験する。そのため実際、杖の高さの設定はセラピストの視覚的評価に頼っており、力学的評価を簡易的に測定することは困難である。</p><p>そこでグリップの把持により上肢荷重量が測定可能なリハビリ支援ツールTree(リーフ株式会社製)、足圧インソールモニター(以下:Pit)(リーフ株式会社製)を使用し、グリップの高さの違いがCVA患者の歩行における非麻痺側上肢の荷重量(以下:上肢荷重量)、麻痺側下肢の立脚期荷重量(以下:立脚期荷重量)に与える影響について検討した。</p><p>【方法】</p><p>対象は脳卒中左片麻痺患者1名であり、Brunnstrom recovery stage上肢Ⅲ手指Ⅱ下肢Ⅲ、歩行はT杖、短下肢装具を装着し2動作前型で自立であった。その対象者に対し、Treeのグリップの高さを変更しつつTree使用下での歩行を3回実施した。グリップの高さは、対象者が日常的に使用している杖の高さである90cm、その高さから上下に5cmずつ変更した場合の3条件とした。Treeの設定はフリー走行モードとし、速度は10m歩行にて抽出した快適歩行速度0.35m/sとした。また、測定は85cm、90cm、95cmの順で実施した。そして各3条件においてグリップを把持する上肢荷重量(kg)、立脚期荷重量(%)をそれぞれ測定した。上肢荷重量は全歩行周期における平均値を算出し、立脚期荷重量は連続する3歩行周期における平均値を抽出した。立脚期荷重量はPitを使用し、立脚期は1歩行周期における麻痺側下肢の踵接地からつま先離地とした。Pitでの計測数値は対象者の全体重を100%とし算出した。</p><p>【結果】</p><p> グリップの高さ85cmの場合、上肢荷重量の平均値が1.87kg、立脚期荷重量が53.4±28.2%であった。90cmの場合、上肢荷重量の平均値が1.62kg、立脚期荷重量が50.1±26.5%であった。95cmの場合、上肢荷重量が1.34kg、立脚期荷重量が62.0±31.1%であった。</p><p>【考察】</p><p>グリップが高くなるにつれて上肢荷重量は減少する傾向がみられた。これはグリップが高くなるにつれて、上肢の下方への支持が難しくなったためと考える。</p><p>また立脚期荷重量においては、自身の杖の高さとは異なる場合に増加する傾向がみられた。85cmの場合は、90cmの場合と比較して左下肢前遊脚期に体幹・骨盤帯の右回旋が増加し、さらに体幹の前屈を生じるため股関節屈曲位での振り出しとなる。結果的に屈筋共同運動が誘発され、床から足底までの距離が大きくなる。そのため左立脚期における衝撃が大きくなり、立脚期荷重量が増加したと考える。95cmの場合は、85cm、90cmの場合と比較して左下肢前遊脚期に体幹の前屈・右回旋が減少し麻痺側への重心移動が容易となったため、麻痺側への重心移動が大きくなり立脚期荷重量が増加したのではないかと考える。以上のことから、杖の高さによって上肢荷重量、立脚期荷重量に変化を示し杖の高さが歩行時の重心移動に影響することが考えられる。しかし、Treeのグリップは杖と同機能ではない。そこで今後は症例数を増やし杖使用時、Tree使用時の比較を含めた検証を行っていく。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>対象には本研究の内容を説明し同意を得た。また当院倫理審査委員会にて承認を得ている。(2016040402番)</p>
著者
岩永 健之 吉村 修 中島 新助 釜田 良介 倉吉 真吾 楠元 正順 倉橋 宏和 廣永 沙織 草場 公平 福満 なぎさ 井上 貴仁 中村 かほり
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.112, 2006

【はじめに】<br>スポーツ活動を行うにあたってスポーツ外傷・障害はつきものである。スポーツ外傷・障害により、治療期間が必要となり競技復帰に対して様々な問題が生じている。当院では、平成15年8月より近隣の小学生から高校生におけるスポーツ選手を対象に障害予防を目的としたスポーツ外来を実施している。今回、当院を受診しているスポーツ選手を対象に実態調査を行った。その結果を踏まえ、今後の当院における地域スポーツ活動へのかかわりについて検討したのでここに報告する。 <br>【対象】<br>平成15年8月から平成18年3月末までに当院に初診来院した学生スポーツ選手、男子228名、女子64名の計292名が行っている競技の中で、競技者の数が20名以上のもの野球(141名/48%)・サッカー(41名14%)・バスケットボール(29名/10%)の計211名を対象とした。<br>【分析方法】<br>単純集計を用いて年代(小学生・中学生・高校生)、スポーツ外傷・障害、競技種目、診断名の関連性を分析・考察した。<br>【結果】<br>1.全体の外傷・障害の発生比率は、障害77%・外傷23%であった。2.年代別の外傷発生比率は、外傷は小学生(16%)→中学生(19%)→高校生(25%)の順に高くなっていた。逆に障害は小学生(84%)→中学生(81%)→高校生(75%)と徐々に低くなっていた。3.競技別の発生比率は、外傷は野球→サッカー→バスケットボールの順に高い。障害はバスケット→サッカー→野球の順に高い。<br>【考察】<br>成長期では骨と筋、腱の長育・幅育は必ずしも一致していない。その為、成長期には筋の発達が骨の急速な伸びに追いつけないため、スポーツ障害を引き起こしやすいと言われている。今回の調査でもそのことが結果として得られた。競技別ではサッカー、バスケットボールでは外傷発生比率が高く、野球では障害の発生比率が高いことがあげられる。そのため、サッカー、バスケットボールでは中学生以降ではテーピング等を予防策として用い、外傷を未然に防いでいく必要がある。野球に関しては、診断名よりover-useによるもの(リトルリーグショルダー、野球肘など)が多いため選手だけでなく監督・ 保護者に向けての指導が必要となると考える。スポーツ外傷・障害別では年代が高くなるにつれ、外傷の発生比率が高くなったことである。これは年代が高くなるにつれスピードのある激しいプレーやボディーコンタクトが多くなってくることが関係していると考える。今後は、年代別の院内外の評価項目の再検討をおこなっていきたい。
著者
羽野 裕介 大里 浩之 高辻 勇太 松崎 秀隆 副島 修
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.88, 2011

【はじめに】<BR> 投球時のlagging back現象によって、肘関節外反が誘発され発生する内側型野球肘は成長期投球障害の代表例の一つである。本疾患においては、尺側手根屈筋や浅指屈筋が外反に抗する内反トルクとして動的に肘関節外反制動に寄与するとの報告がある。また、成長過程にあるジュニア期においては、その影響はより大きなものであると考えられる。これら症例において、当院では前腕屈筋群、特に尺側手根屈筋、円回内筋に圧痛を認める例が多く、投球過多やオーバーユースなど筋疲労が背景にあると考えている。<BR>【目的】<BR> 当院で内側型野球肘と診断されたジュニア期選手は、軟式野球競技者およびソフトボール競技者であった。ポジション別では、軟式野球競技者はピッチャー、ソフトボール競技者は野手に多いという特徴を認めた。今回これら症例の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動に着目し、軟式球およびソフトボールの違い、ボール把持の違いが肘関節外反ストレスに影響をおよぼすのかを検討した。<BR>【対象】<BR> 上肢に手術などの既往がない健常成人男性7例7肢、平均年齢は26.7±3.1歳、利き腕を調査対象とした。対象者には研究参加への任意性と同意撤回の自由について承諾を得て実施した。<BR>【方法】<BR> 体幹、下肢の影響を一定にするため直立姿勢とし、肩関節外転、外旋90° および肘関節屈曲90° 、前腕中間位、手関節中間位にて手掌部に対し肩関節外旋方向へ2kgの負荷をかけ10秒間固定、その時期の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量をノラクソン社製筋電図モニターを用いて導出し、比較検討した。測定には軟式球とソフトボールを使用し、母指~中指の3指で把持する野球ボール把持のものと、母指~小指の5指で把時するソフトボール把持のものを用いた。それぞれのボールで2回の測定を実施し、その平均値を測定値としてMann-Whitney検定を用いて有意差検定を行った。<BR>【結果および考察】<BR> 軟式球を5指で把持した場合、同様にソフトボールを把持した場合よりも尺側手根屈筋の筋活動が有意に増加することが示唆された。一方、3指の把持において有意な違いを認めなかった。一般的にジュニア期では軟式球は3指で把時し、ソフトボールは5指で把持することが多い。今回の結果から、ボール把持の違いが肘関節外反時の尺側手根屈筋、円回内筋の筋活動量に影響を与えないことが示唆された。今回、肘関節外反制動の影響を前腕筋の筋出力で検討を行ったが、今後は投球動作として動的な要因の関連を研究していく必要がある。
著者
入口 晴香 森 勉 甲斐 裕介 長田 真由美 大垣 敏弘 佐藤 孝臣
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.214, 2009

【はじめに】<BR> 左片麻痺を呈しながらも主婦として家事全般に取り組んでいる女性(以下、A氏)と出会った。A氏は高い能力を持ちながらも、生活や人生に対して悲観的であり、背景に「効率の良い家事ができていない。」という質に対する不満を抱いていることが伺えた。<BR> そこで、家事動作の質の向上を目標とした環境作りや心身機能の促進を行い、活動・参加の質の向上に繋げることができた。さらに、このことが希望を持って前向きに生きるきっかけとなり、様々なことに挑戦を始めるという良い循環を作ることができた。以下、経過をふまえ事例報告をする。<BR>【事例紹介】<BR> 60代女性。H20.2脳梗塞を発症し左片麻痺を呈する。K病院、Y病院を経てH20.7自宅退院。要介護1の認定を受け、H20.9より当施設利用開始(2回/週)。夫・息子と3人暮らしの現役主婦。以前より多趣味で洋裁・踊りなどをしていた。地区の民生委員を務めるなど社会参加も活発であった。<BR>【利用開始時評価】<BR> BRS(Rt):下肢-上肢-手指:VI-VI-II。Mental:認知症なし。感情失禁あり。「誰とも会いたくない」「迷惑がかかる」と悲観的な思考・発言多い。移動は両側金属支柱付き短下肢装具・T-cane使用にて自立だが立位・歩行時の不安定さあり。5m歩行:23.59秒。3m折り返し歩行:24.59秒。立ち上がり10回:24.59秒。握力:右18.5kg。FIM:107/126点。<BR>【経過と変化】<BR> 利用初期より意図的に、脳卒中後遺症を呈する主婦や障害受容の進んでいる利用者と過ごし意見交換、共感、叱咤激励を受けられるよう環境設定をした。そのような環境の中で、A氏は徐々に自己の障害と向き合い、希望を口にするようになった。同時に立位・歩行の安定性向上を目指した運動を取り入れ、まずは家事動作においての上肢の自由度向上に繋げることを目標とした。半年後、身体機能に関しては5m歩行:9.44秒。3m折り返し歩行:18.4秒。立ち上がり10回:10.63秒。握力:右25kg。と向上し、屋内移動が両側金属支柱付き短下肢装具使用での独歩自立となり、立位・歩行も安定した。上肢の自由度も増し家事における速度や効率が向上し、「皿洗いがしやすくなった。」「中腰で草取りをしている。」などの報告が聞かれた。更に現在、発症以前に行っていた洋裁、友人との散歩などを楽しまれている。また、「今後したいこと」として自らの生活をまとめた冊子作り、ミシンがけなどが挙げられている。<BR>【考察】<BR> 今回A氏は、まず利用者との関わりで希望を持つきっかけができた。加えて、活動性の向上により、実際の家事場面において効率が上がったことを実感した。そして現在、生活の多岐に渡り工夫を凝らしながら前向きに取り組み、できることを増やしつつある。今後、A氏との出会いによってまた新たな希望が生まれていくことを期待している。A氏の生活の質の向上が、脳卒中片麻痺を呈する主婦の方々の希望となることがA氏の望みでもある。
著者
和田 卓也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.270-270, 2016

<p>【はじめに】</p><p>サッカー競技は、スプリント動作やカッティング動作の反復、下肢でのボールコントロールなどの競技特性から下肢障害が多いとされている。また、障害の中でも股関節周辺部の問題(肉離れ、鼠径部痛症候群など)は多く発症しており、障害予防的な観点からも注目すべき点である。そこで今回、股関節機能に焦点を合わし、高校サッカー選手にメディカルチェック(以下、MDC)を実施した。その結果から、股関節つまり感の存在とその障害との関連を検討することを目的とした。</p><p>【対象と方法】</p><p>対象は、高校男子サッカー部員20名40脚中、立位股関節屈曲角度(以下SHF角度)時に股関節つまり感があった11名17脚(年齢16.2±0.6歳、身長171±7.3cm、体重61.4±7.6kg、競技歴9.3±1.9年、利き足:右10名 左1名)とした。MDC測定項目は、指床間距離(以下FFD)、踵殿間距離(以下HBD)、Thomas‐T、Anterior impingement(以下AI)、SHF角度、股関節屈曲・外旋・内旋可動域を測定した。さらに障害歴(現在も症状があるもの)についても問診にて聴取した。これらの各項目間での関係性を統計ソフトR version2.8.1を使用し、シャピロウィルク検定、スピアマンの順位相関係数を用いて算出した。</p><p>【結果】</p><p>統計の結果、FFD・HBD・Thomas‐T・SHF角度・股屈曲角度は相関がみられなかったが、股外旋と股内旋(r‐0.74、p<0.01)で相関がみられた。各項目の結果は、FFD 5.4±5.7cm、HBD -11.4±1.8cm、Thomas‐T -5.4±1.6cm、AI陽性 2名、SHF角度 101.5±6.6度、股関節可動域 屈曲129.4±6.3度、外旋45.9±7.3度、内旋36.5±6.1度、利き足側10名、軸足側5名、両側6名。障害がある選手は8名で、障害歴は、大腿部肉離れ5件、足関節捻挫4件、シンスプリント1件、鼠径部痛1件、腓骨筋腱損傷1件、肋骨痛1件。また、過去に骨盤帯骨折(坐骨骨折、恥骨剥離骨折)の経験ありが2件であった。</p><p>【考察】</p><p>股関節外内旋可動域において負の相関が得られた。これは、外旋可動域が大きく内旋可動域が小さく、その差が大きいことを示している。外旋筋群短縮により股関節の求心位が失われることで、代償筋の過活動や腸腰筋の機能不全が起こり、それが股関節屈曲時のつまり感として現れている可能性が考えられる。また、障害歴は大腿部肉離れや足関節捻挫の件数が多い結果となった。AIに関しては、2名中1名はつまり感と骨盤帯の骨折既往を同時に抱えており、つまり感は器質的疾患の存在も判断し得る可能性が示唆された。以上のことから、股関節のつまり感は、股関節に何らかの機能不全があることを示しており、下肢の土台とされる股関節が機能不全となることで、膝関節や足関節の連動性に問題が生じ、障害に繋がるのではないかと考える。</p><p>【理学療法学研究としての意義】</p><p>MDCの結果、実際につまり感を抱えながら競技を行っている選手の存在が明らかになった。つまり感の有無は、器質的疾患や股関節の機能不全が存在している選手の簡易的な選別になる可能性があり、これに対して、適切な評価と選手へのフィードバックを行うことで、二次障害の予防やパフォーマンス向上に繋がると考える。今後、MDCの測定項目などをさらに検討し、つまり感と障害との関係について探求していきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>対象者およびサッカー部所属の監督とコーチには、ヘルシンキ宣言に基づき、事前にMDCの目的と内容を文書及び口頭で十分説明し、同意を得た。</p>