著者
田和 康太 槐 ちがや 中村 圭吾
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.1-9, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
27

本研究では,利根川水系小貝川支流の大谷川において季節的に形成された小規模な河道内湿地(たまり)に着目し,そこに生息する水生動物群集を8 月に調査した.調査の結果,たまりではホソセスジゲンゴロウ成虫やヒメガムシ成虫,ニホンアマガエル,トウキョウダルマガエルなどの在来の止水性水生動物が採集された一方で,採集個体数の大半は環境省により生態系被害防止外来種に指定されているカラドジョウとアメリカザリガニで占められた.大半のカラドジョウについては,その体長分布から2020 年の繁殖期に生まれた当年個体と推察された.カラドジョウやアメリカザリガニは湿地生態系への負の影響が指摘されていることから,本調査地のようなたまりは在来の湿地性水生動物群集の生息場所となる一方で,湿地性外来種の温床ともなりうることを認識する必要がある.
著者
太田 啓佑 谷口 倫太郎 金光 隼平
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.131-137, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
14

2019 年から2020 年にかけて高知県物部川水系においてゼゼラBiwia zezera を採集した.本種の高知県内での記録は1972 年から1979 年にかけて鏡川水系と物部川水系で確認されているが,近年の高知県内における本種の生息状況に関する知見は乏しく,河川水辺の国勢調査においても生息が確認されていない.高知県内における本種の分布は琵琶湖由来の移入であると考えられるが,今後,物部川水系における本種の生息状況および生態,遺伝子分析に関する研究が必要である.
著者
長谷川 政智 森 晃 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.59-66, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
4

宮城県北部の河川・水路ならびにため池で2014~2015年に淡水エビ類の分布調査を実施した.調査の結果,在来種のスジエビPalaemon paucidens に酷似したエビを確認し,同定したところ,その形態的特徴から,外来種のPalaemonetes sinensis であることを確認した.今回,2箇所の調査地でP.sinensis の生息を確認し,再生産して定着していることも確認した.宮城県においてP.sinensis の発見とその定着を確認した報告は初めてである.
著者
萩原 富司
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.75-81, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
18

霞ヶ浦の江戸崎入り奥部において2009~2017 年の期間に中国原産のコイ科魚類ダントウボウMegalobrama amblycephala が7個体採集された.このうち2016~2017年の短期間に採集された4個体の体長からは2年連続して再生産されており,本種はすでに霞ヶ浦で再生産しているであろう.関東地域において霞ヶ浦は高い生物多様性を有し,多くの希少種の生息地である.このため本種の定着と増殖により在来生態系に予知できない影響が及ぶ恐れもあり,増殖と他水域への拡散を防止するための漁業者や釣り人への周知と早期防除が望まれる.
著者
萩原 富司 白井 亮久 諸澤 崇裕 熊谷 正裕 荒井 聡
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.139-149, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
28

イケチョウガイ(琵琶湖固有種)と中国産ヒレイケチョウガイとの交雑種(ヒレイケチョウガイ交雑種)は霞ヶ浦において真珠養殖に用いられてきた.特にヒレイケチョウガイ交雑種は水質汚濁に強いとされ,養殖施設からの幼生の拡散による水域への定着が危惧される.そこで交雑種の逸出状況を把握するため,野生個体を採集し,外部形態を養殖のヒレイケチョウガイ交雑種やイケチョウガイと比較した.真珠養殖場近傍で採集された野生個体は採取地点,殻の形態から養殖されているヒレイケチョウガイ交雑種と同様であると判断された.これらのヒレイケチョウガイ交雑種の成貝の形状は三角形で,後背縁から殻頂にかけて翼状突起が顕著であり,翼長卵形のイケチョウガイと区別できることがわかった.また,ヒレイケチョウガイ交雑種とイケチョウガイの殻の形態を共分散分析により検討した結果,殻長に対する殻高の比率について,両者に有意差が認められた.1936 年以降,霞ヶ浦に放流されたイケチョウガイは現地に定着・増加し1963 年以降真珠養殖に利用されたが,水質汚濁に弱く1980 年以降減少した.一方1988 年に作出されたヒレイケチョウガイ交雑種は水質汚濁に強く,真珠養殖規模の拡大とともに,現地に定着したことを本研究は示した.しかし近年ではこの交雑種も養殖場でたびたび死滅する事例が確認されており,現在の霞ヶ浦は淡水二枚貝類の生息環境として適していないと推察された.
著者
石崎 大介 淀 太我
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.63-71, 2018-10-24 (Released:2018-10-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1

感潮域に生息するニゴイ類が塩分環境を経験しているのかを明らかにするため,三重県宮川の感潮域で採捕したニゴイ類を用いて耳石微量元素分析を実施した.分析した成魚7 個体のうち1 個体は,耳石中心から縁辺部まで一貫して低い耳石Sr: Ca 比を示したことから,一生を淡水環境で生活したと考えられた.他の6 個体は,耳石中心から縁辺部までの間で耳石Sr: Ca 比が上昇し,変動したことから,塩分環境を経験したと考えられた.いずれの個体も,中心付近は低い耳石Sr: Ca比を示したことから,孵化後しばらく淡水域で生活した後,塩分のある水域に降下したものと推察される.また,縁辺部のみ高い耳石Sr: Ca比を示した個体,耳石中心から縁辺部までの中ほどで耳石Sr: Ca比が上昇し縁辺部まで高い値を維持した個体,1 度耳石Sr: Ca 比が上昇したが再び縁辺部では低い値を示した個体が存在した.このように耳石Sr: Ca 比の変動パターンは個体によって様々であったことから,個体によって塩分環境利用様式が異なることが推察されるほか,成魚も塩分のある水域で生活していると考えられた.本研究によりニゴイ類が塩分のある環境で生息することが明らかになった.
著者
今村 彰生
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-8, 2013 (Released:2017-11-10)
参考文献数
9

琵琶湖淀川水系上流域の大堰川の上位捕食者であるナマズが,どのような条件下で捕食対象を追尾し捕食するのか,擬似餌を用いた釣りにより,釣果を応答変数として検討した.一般化線形モデル(GLM)と赤池情報量規準(AIC)を用い,説明変数に開始時刻,当日の天気,当日の平均気温,当日の最大風速,前日の降水量,気圧,月齢を用い,釣行時間を補正項として解析した.その結果,当日の天気が選択されたことに加えて,風速が高いことが捕食行動に正の影響を与えているという新たな発見が得られた.一方で,開始時刻,当日の平均気温,当日の最大風速,前日の降水量,気圧,月齢が選択されなかった.
著者
舟木 匡志 内田 大貴 久保田 潤一
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.61-77, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
57

狭山丘陵は,埼玉県と東京都の県境に位置する,豊かな自然環境が広がる首都圏有数の丘陵地のひとつであり,現在も豊富な水資源に由来する谷戸やため池,湿地が点在し,多様な水生生物の生息が確認されている.本報告では,2020 年に狭山丘陵の都立公園内の水域で,水生甲虫類と水生半翅類を対象として調査を実施した.その結果,水生甲虫類8 種,水生半翅類13 種の計21 種が採集・確認された.そのうちレッドデータブック東京2013 選定種はヒメガムシ,オオアメンボの2 種であり,東京都初記録がツヤナガアシドロムシの1 種であった.
著者
旗 薫
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.69-80, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
48

2009 年から2019 年にかけて,宮城県内の河川で暖水性魚類4 種を採集した.テングヨウジMicrophis (Oostethus) brachyurus brachyurus,オオクチユゴイKuhlia rupestris,クロホシマンジュウダイScatophagus argus は宮城県初記録ならびに標本に基づく北限記録となる.これらは黒潮がもたらした無効分散による出現であったと考えられる.一方,複数河川から採集されたボウズハゼSicyopterus japonicus には越冬個体が含まれた.
著者
萩原 富司 田中 利勝 鈴木 盛智 古川 大恭 森 晃
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.27-35, 2018-10-24 (Released:2018-10-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

関東地方にはかつて利根川の氾濫原を中心に多くの河川・池沼が点在し,カラスガイ,イシガイ,ドブガイ類が生息していた.しかし近年,特にカラスガイの生息数の減少が顕著であり,各県のレッドリストにおいて,絶滅危惧種に指定されており,地域個体群の絶滅が危惧されている.2017 年3 月11 日に,渡良瀬遊水地内の水路においてカラスガイを採集した.カラスガイの殻長は180–300mm の範囲であり,同所的に生息するドブガイ類と異なり小型個体は見られなかった.カラスガイは新規加入がほとんどなく老齢個体だけが生き残っている状態と思われる.本種の分布や生息地に関する報告が非常に少ない現在,既報に記載された生息地の再確認を行うとともに,関東地方には過去に琵琶湖産二枚貝類の移植に伴ってカラスガイが持ち込まれた可能性もあるため,自然分布域の遺伝子を分析して地域ごとの遺伝子型を調べておくことが急がれる.
著者
竹本 淳史 伊藤 寿茂
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.57-62, 2023-07-11 (Released:2023-07-11)
参考文献数
15

2022 年7 月23 日に神奈川県相模原市中央区の水田周辺においてヌマガエルFejerverya kawamurai の幼体を採集した.ヌマガエルは関東地方において国内外来種となるが,これが相模川流域における本種の初記録となる.
著者
横山 亜紀子 横山 潤
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.25-30, 2009 (Released:2017-11-10)
参考文献数
12

伊豆沼の砂泥サンプルを実験室内で静置したところヒカリモが発生した.光学顕微鏡による形態観察の結果,黄金色藻特有の色調をもった浮遊相細胞と,長短2本の鞭毛をもつ遊泳細胞を確認した.遊泳細胞を単離培養し,詳細な形態観察を行なった結果,本藻は葉緑体に半埋没するピレノイドをもっていた.これらの形態的特徴はChromophyton vischeri (=Ochromonas vischeri ) と一致した.単離培養株から18SrRNA遺伝子の塩基配列を決定し,既報配列と比較したところ,C. cf. rosanofii CCMP2751株と99.9%の相同性を持つことがわかった.自然状態での発生ではないものの,伊豆沼は現在報告されているヒカリモの発生地の中では最北限となる.
著者
石田 奈那 長谷川 雅美 尾崎 真澄
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.91-102, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
19

東アジア原産のコウライギギTachysurus fulvidraco は2008 年に日本で初めて発見され, 2016 年に特定外来生物に指定された.本種による生態系や社会経済への影響が懸念されているが,その実態はいまだ明らかではない.そこで,本種の侵入が確認された印旛沼を対象に,その生息状況と水産業への影響について調査した.本研究では2018 年5 月から12 月に採捕された試料の生殖腺指数や体サイズの変動から,繁殖期が少なくとも5 月から7 月頃であると推定された.さらに漁業で混獲される個体の多くは,食品への混入リスクが高い当歳魚であることがわかった.また本種による水産業への被害の有無を明らかにするため,アンケート調査を行った.その結果,本種の鋭い棘条によって漁業者や水産加工業者が怪我をするほか,加工原料となる小魚に混入し仕分け作業が増加するといった被害が明らかになった.
著者
嶋田 哲郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-14, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
52

伊豆沼・内沼はガンカモ類の国内最大級の生息地のひとつである.ガンカモ類は,植物を中心に魚類,甲殻類などその地域の生態系の基盤を構成する多様な資源を食物とするため,その地域の生態系の変化を指標しやすい種群である.ここでは,伊豆沼・内沼を代表する鳥類であるガンカモ類について,主要なハクチョウ類,ガン類,カモ類の個体数変動や越冬生態,環境変化に対する応答について総括を行うとともに,鳥インフルエンザや地球温暖化などの保全上の課題について整理した.
著者
溝口(久保) 和子
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.35-43, 2014 (Released:2017-11-10)
参考文献数
5

ハゼ科魚類のアベハゼは,特に高密度での飼育下で,長時間空気中で過ごすことがしばしばある.その生態的理由を探るため陸上部を備えた2種類の実験水槽を用意し,その中でのアベハゼの行動を断続的に目視観察した.スロープ状の陸地で区切られた大小2つの水域をもつ水槽で,小水域にのみ多数のアベハゼを入れて極端な高密度状態にすると,ほぼ1日以内に約8割の個体が水際近くに上陸した.数日後には,上陸個体のいくつかが陸上を通過して対岸の水域に移動した.水域を分けず水面の一部を覆う形で陸上部を設置した水槽での観察(密度は1/4程度)でも上陸は速やかに行なわれたが,水中に留まる個体数は増えた.上陸割合の変化は飼育水の汚れの進行とは無関係なようであった.これらの観察から,アベハゼは過密状態緩和のために上陸すると思われる.また陸上移動行動には,生息域を広げるという意義もありそうだ.
著者
堀江 真子 伊藤 玄
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.63-72, 2022-07-31 (Released:2022-07-31)
参考文献数
15

2021 年11 月に岐阜県美濃市の用水路から74 個体のメダカ類が採集された.採集されたメダカ類の形態的特徴を観察したところ,このうち24 個体は,背側に虹色素胞が集まり光る形質(体外光)を有していた.この形態的特徴は,体外光メダカ(幹之メダカ)の特徴と一致したため,観賞魚メダカであると判断された.また,青体色のメダカ(青メダカ)や体側面に虹色素胞が集まり光る鱗を多数有するメダカ(ラメメダカ)などの観賞魚メダカも採集された.採集された個体は,市場価値の低い特徴も観察されたため,育種選抜時に不要となり,野外に遺棄された個体であると推測された.
著者
伊藤 寿茂
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.55-61, 2020 (Released:2020-08-20)
参考文献数
22

キイロホソゴミムシがヨコバイ科2種(ツマグロヨコバイとクワキヨコバイ属の1種)を捕食対象とすることが,飼育下で観察されたので報告する.餌候補の昆虫を水槽に収容すると,キイロホソゴミムシの一部の個体がそれらを顎で捕獲し,そのまま咀嚼して食べ続けた.キイロホソゴミムシについて観察された捕食行動としては,2 例目となる.捕食対象となったこれらの昆虫は,自然下においてもその主食として機能している可能性がある.
著者
熊谷 正裕 萩原 富司
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.17-22, 2013 (Released:2017-11-10)
参考文献数
13
被引用文献数
2

青森県のタビラの生息に関しては,日本海に注ぐ岩木川水系と太平洋に注ぐ高瀬川水系で報告されているが,亜種名が不明瞭であり,在来種かは明らかではない.高瀬川水系で2009年6月に採集した雄は,アカヒレタビラ特有の明瞭な婚姻色を発現していた.雌から搾取した卵22個はすべて鶏卵形で,長径/短径は1.75±0.090であり,アカヒレタビラA. t. erythropterusについての記載と一致した.高瀬川水系は本種の産地と隣接しており,北限の生息地と考えられる.一方岩木川水系で2005年9月に採集した雄は,尻鰭が白色に発現し,シロヒレタビラ特有の明瞭な婚姻色を呈していた.体高/体長は0.351±0.014でシロヒレタビラA. t. tabiraについての記載とほぼ一致した.関西地方に産する本亜種は,岩木川水系においては国内外来種と思われる.
著者
上田 紘司 芦澤 淳 藤本 泰文 嶋田 哲郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-37, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

宮城県北部の伊豆沼・内沼およびその周辺地域において2014年にトンボ目の成虫を対象とした定性調査を行なった.本調査では,10科37種のトンボ目成虫の生息が確認され,このうち3種は新たに確認された.過去の調査では合計10科44種のトンボ目成虫が確認されている.過去の調査で確認され,今回の調査で確認されなかった10種のうち7種は,宮城県レッドリスト又は環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている種であった.これらの結果から伊豆沼・内沼およびその周辺地域には,30種以上のトンボ目が生息可能な環境が現在も残ってはいるものの,環境変化に弱い絶滅危惧種からトンボ目が姿を消しつつある状況にあると言える.
著者
藤本 泰文 川岸 基能 進東 健太郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-25, 2008 (Released:2017-11-10)
参考文献数
37
被引用文献数
9

伊豆沼・内沼と集水域内の流入河川や池で魚類相を調査した.合計12科36種の魚類の生息を確認した.集水域の魚類相は,東日本固有種であるゼニタナゴ,タナゴ,シナイモツゴやギバチなどを含む,純淡水魚類を中心に構成されていた.開放水域である伊豆沼・内沼と流入河川では,かつて高密度に生息していた在来の小型魚種の生息数は僅かであった.一方,外来魚であるオオクチバスは数多く生息し,その影響が示唆された.池ではオオクチバスの生息の有無によって,魚類相に大きな違いがみられた.在来魚の生息種数は,オオクチバスが生息していない池で多かった.これらの池では,ここ十数年の間に伊豆沼・内沼から姿を消した数種の在来種を再確認した.開放水域である伊豆沼や河川の魚類相は,オオクチバスの侵入による影響が著しく,閉鎖水域である池では,在来魚が保存されているケースがあることが示された.本研究の結果は,集水域を単位とした魚類調査が,在来魚の再確認や防除が望ましい外来魚の分布の把握を通じ,その集水域での魚類相の復元に寄与する可能性を示した.