著者
則武 良英 武井 祐子 寺崎 正治 門田 昌子 竹内 いつ子 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-146, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本研究の目的は,ハイプレッシャー状況がワーキングメモリに及ぼす影響を明らかにすることと,ハイプレッシャー状況が引き起こす負の影響に対する短期筆記開示介入の効果を明らかにすることであった。研究1では,大学生を対象としてハイプレッシャー状況下でワーキングメモリ課題の遂行を求めた。研究1の結果から,ハイプレッシャー状況下ではワーキングメモリ課題成績が低下することが示された。研究2では,ハイプレッシャー状況でワーキングメモリ課題を遂行する直前に,参加者に短期筆記開示の実施を求めた。また,ネガティブな感情を扱う短期筆記開示に対して,研究2ではポジティブ感情を扱う短期利益筆記介入を開発し,2つの介入の効果を比較した。研究2の結果から,短期筆記開示はプレッシャーの負の影響を緩和して,ワーキングメモリ課題成績低下を一部緩和することが示唆された。特に,短期利益筆記は短期筆記開示と比較して,介入効果が安定することが示された。従来の短期筆記開示と比較して,本研究の短期利益筆記は子どもへの適用可能性が高いため,今後は教育現場における本介入の有効性を明らかにしていく必要があると考えられる。
著者
湯澤 美紀 湯澤 正通 齊藤 智 河村 暁
出版者
ノートルダム清心女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,学習に困難を抱える子どもの読み書きに関する能力の向上を目指し,ワーキングメモリならびに音韻認識に着目した学習支援の研究を行った。まず,個人のワーキングメモリのプロフィールを測定するために,オートメーティッド・ワーキングメモリ・アセスメント(以下AWMA)の日本語版を作成した(2009年)。次に, AWMAを用い,特別支援学級に所属する児童10名のワーキングメモリのプロフィールを測定した(2010年)。次に,英語の活動を週1回, 14カ月(2010年~2011年)の長期にわたって実施した。学習支援プログラムについては, (1)ワーキングメモリの小ささに由来するエラーの軽減(2)ワーキングメモリプロフィールに応じた支援(3)音韻認識に着目したプログラム内容を目指し,構成した。結果,子どもたちの英語の音韻認識に向上が見られ,最終的には,英語の読み能力を身につけ,主体的に学習に取り組む姿が見られた。
著者
則武 良英 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.290-302, 2022-09-30 (Released:2022-10-20)
参考文献数
51

高テスト不安者は,試験中に心配思考が生起して成績低下が生じる。テスト不安が最も高まるのは中学2年生ごろの生徒であるが,中学生のテスト不安を緩和するための介入方法はない。本研究の目的は,短期構造化筆記を作成し,中学生のテスト不安と数学期末試験成績に及ぼす影響を調べることであった。研究1では,短期構造化筆記を作成し,予備調査として35名の中学生の日常不安を対象にした介入実験を行なった。その結果,中学生に対する高い適用可能性が示された。そこで研究2では,141名の中学生を対象に,実際の期末試験に対するテスト不安を対象に介入実験を行なった。その結果,本介入により中学生の多様な感情制御が促進され,テスト不安が緩和されたことが示された。さらに,数学期末試験成績に対する効果を調べた結果,高テスト不安中学生において不安減少量が大きい者ほど成績が高かったことが示された。本研究の結果をまとめると,本介入により中学生の感情制御が促進され,テスト不安が緩和されることで,数学期末試験成績の低下が緩和されたことが示された。今後は,介入によって生起する感情制御プロセスの更なる解明が望まれる。
著者
湯澤 正通 湯澤 美紀 関口 道彦 李 思嫻
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.60-69, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

本研究では, 日本人幼児, 中国人幼児, 国際幼稚園の日本人幼児による英語非単語反復を比較し, 日本人幼児における英語音韻習得の制約を検討した。非単語反復とは, ある言語の典型的な音韻から構成された非単語を子どもに聴覚提示し, 即時反復させるものであり, その言語の音韻習得能力の指標と見なされている。2~5音節の英語非単語が反復刺激として, 日本人幼児46名, 中国人幼児63名, 国際幼稚園の日本人幼児29名に与えられた。その結果, 中国人幼児では, 非単語の音節数が増加するとともに, 完全正答数が減少し, 逆に, 音節再生数が増加した。一方, 日本人幼児では, 非単語の音節数の増加に伴う完全正答数の減少や音節再生数の増加は, 3音節で天井または床効果を示した。また, 国際幼稚園の日本人幼児では, 完全正答数や音節再生数は, 多かったが, 音節再生数の増加は, 一般の日本人と同様, 3音節で天井効果を示した。これらの結果から, 日本人幼児が, 英語の非単語の反復に, より多くの負荷をかけるような処理を行っていること, また, このような制約が早期の英語経験によって変化しにくいことが示唆された。
著者
湯澤 正通 山本 泰昌
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.377-387, 2002-09-30
被引用文献数
8

本研究では,理科と数学の関連づけの仕方を変えた授業が,生徒の学習にどのように影響するかを調べた。公立中学校の2年生が金属の酸化に関して定比例の法則(化合する物質の質量比は一定である)を2種類の授業方法で学習した。実験群の生徒は,最初に,定比例の法則を原子モデルから演繹した後,数学で学習した比例の知識を用いて,酸化前後の金属の質量比を求める課題を2回行った。その際,理科と数学の教師がチームで指導に当たった。他方,統制群の生徒は,マグネシウムの酸化の実験を行い,そこから,定比例の法則を帰納した。また,酸化前後の金属の質量比を求める課題を1回行い,すべて理科の教師から指導を受けた。その結果,成績高群の場合,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,授業後のテストで,数学の関数の知識を用いて,酸化前後の金属の質量関係を予測し,計算する得点が高かった。また,実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,誤差のある測定値を適切に理解することができた。
著者
湯澤 正通 湯澤 美紀 関口 道彦 李 思嫻 齊藤 智
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.491-502, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
12
被引用文献数
3 2

本研究では, 日本語母語者の音韻処理特徴に応じた年少児向けの英語音韻習得方法の効果を検討した。本研究で検討したのは, 英語の音素を表現する手段として文字, 絵, 動作を学習し, それらの多感覚的な手段を用いて英単語の音声を分析したり, 音素から英単語の音声に統合したりする活動を行うという方法(多感覚音韻認識プログラム)であった。多感覚音韻認識プログラムに基づいた活動を継続的に行った多感覚認識I(5~6歳児35名), メディアを用いて, 英語の音素や単語の発声, 英語の歌の活動を行った音声体験(4~6歳児26名), 音声体験プログラムに続けて, 多感覚音韻認識プログラムに基づいた活動を行った多感覚認識II(4~6歳児22名), 同年齢の統制について, 英語音韻習得能力の指標となる3つの課題の成績を比較した。その結果, 1)多感覚認識IIは, 他の群よりも音韻認識課題の成績が良かった。2)多感覚認識I, 多感覚認識IIは, 統制よりも, また, 多感覚認識IIは, 音声体験よりも, 1音節反復課題の成績が良かった。3)多感覚認識IIは, 他の群より非単語反復課題の正答数や音節再生数が多かった。
著者
湯澤 美紀 湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本保育学会
雑誌
保育学研究 (ISSN:13409808)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.36-46, 2010-08-30 (Released:2017-08-04)

本研究では,信頼関係のある保育者に支えられたアスペルガー症候群の男児の活動を観察し,アスペルガー症候群の男児とクラスの子どもたちが共に成長するための体験を明らかにした。保育者の働きかけは,アスペルガー症候群の男児を含めて成員一人ひとりがもてる特性を認め合うという保育の文脈を生成した。アスペルガー症候群の男児の体験は,他の子どもに共有され,また,アスペルガー症候群の男児に関わる問題を一緒に考え,解決した体験は,自身の問題解決へと生かされた。アスペルガー症候群の子どもの特性を生かした保育の重要性が示唆された。
著者
湯澤 正通
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.166-179, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
76

1970年代以降,ピアジェの領域普遍的な発達理論が批判され,認知心理学研究の発展に伴い,問題解決における領域固有な知識の重要性が認識されるようになった。そのような中,概念変化は,領域固有な理論の発達に依存すると考えられるようになった。さらに,社会文化的理論の進展により,概念変化は,その概念が使用される文脈に参加できるようになったり,その文脈や対話の仕方が変化したりすることであるという見方も提案されている。そのような中,概念変化を目指した実験研究の多くは,個別の領域での発達や問題解決を丁寧に記述するというアプローチをとっている。他方で,近年,メタ認知,アーギュメントスキル,ワーキングメモリといった領域普遍的なスキルが,新しい概念を学び,生成するソースとして注目されている。中でもワーキングメモリは,発達障がいや学習遅滞と密接にかかわることが明らかになっており,膨大な実験的研究や脳科学的研究の蓄積のうえに立った教育への応用が期待されている。発達障がいを抱える子どもの発達特性を踏まえた学習への参加の支援が成功しつつある現在,ワーキングメモリ理論は,その次のステップである理解や習得への糸口としてその研究の進展が期待される。
著者
則武良英 武井裕子# 寺崎正治# 門田昌子# 竹内いつ子# 湯澤正通
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

問題と目的 プレッシャーとは課題遂行者の遂行成績の重要性を高める要因であり (Baumeister, 1984),ワーキングメモリ (以下WM) の働きを阻害することで,課題成績低下を引き起こす (則武他,2017)。そのためプレッシャーの影響を緩和する介入が求められる。Ramirez & Beilock (2011) は,筆記開示を短期的に使用し,高プレッシャー状況下での算数課題成績低下の緩和効果があることを示した。その緩和効果の背景として,認知的再体制化によってネガティブな情動が低減され,WMへの影響が緩和されたとされている。しかし,実際にWMへの影響が緩和されたのかどうかについては未解明である。そこで本研究の第1の目的は,プレッシャーにより引き起こされたWM課題成績低下に対する筆記開示の効果を調べることである。 他方で,筆記開示には情動を一時的にネガティブにさせる可能性が指摘されている (King & Minner, 2000)。そこで本研究では,ポジティブな感情を扱い,明示的に認知的再体制化を促進する利益焦点化筆記開示(Benefit-Focused writing: 以下BFW) (Facchin et al., 2013)の効果を調べることを第2の目的とする。BFWと区別するために,通常の筆記開示を情動暴露筆記開示(Emotional disclosure writing;以下EDW)と呼称する。方 法実験参加者: 大学生61名(EDW群20名,BFW群21名,統制群20名)を対象とした。課題:言語性WM課題として,図形の計数を記名・再生するCounting span(Conway et al., 2005)を使用した。視空間性WM課題として,反転・回転したアルファベットの方向を記名・再生するSpatial span (Shah & Miyake, 1999)を使用した。質問紙:主観的プレッシャーの程度を測定するために,大学生用日本語版The State-Trait Anxiety Inventoryの状態不安指標(清水・今栄, 1981)と,主観的プレッシャー指標(DeCaro et al. (2010)を使用した。筆記開示:EDW群は高プレッシャー状況下で課題に取り組むこと関する思考や感情を自由に筆記した。BFW群は高プレッシャー状況下で課題に取り組むことに関するポジティブな側面だけを筆記した。統制群は実験後の予定を,感情を交えずに筆記した。 手続き:全ての実験参加者は,プレ条件で言語・視空間性WM課題の遂行と,各WM課題の遂行前に状態不安指標,遂行後に主観的プレッシャー指標に回答した。プレ条件終了後に,プレッシャーシナリオ (DeCaro et al., 2010) ((1)プレ条件と比較して,ポスト条件の課題成績が20%以上向上した場合のみ報酬が得られる。(2)ペアが設定されており,自分とペアの両方が(1)の条件を達成すると追加報酬が得られ,ペアは既に(1)を達成している。(3)遂行の様子をビデオカメラで撮影し映像は分析される)が提示された。その後,実験参加者は各群の筆記開示を7分間行った。ポスト条件ではプレ条件と同様に,WM課題の遂行と質問紙の回答をした。結 果 言語性WM課題得点を従属変数として,ブロック (プレ・ポスト)×グループ (EDW群・BFW群・統制群) の2要因の分散分析を実施した結果,交互作用が有意であった (F (2, 58) = 7.49, p < .01)。単純主効果検定の結果,EDW群 (F (1, 58) = 4.42, p < .05) とBFW群 (F (1, 58) = 27.49, p < .01) でブロックの単純主効果が有意であった。統制群では統計的に有意な差は示されなかった。視空間性WM課題得点を従属変数として,ブロック×グループの2要因の分散分析を実施した結果,交互作用が有意であった (F (2, 58) = 18.82, p < .01)。単純主効果検定の結果,EDW群(F (1, 58) = 13.86, p < .01)とBFW群 (F (1, 58) = 8.27, p < .01) と統制群(F (1, 58) = 17.54, p < .01)でブロックの単純主効果が有意であった。 状態不安指標得点と主観的プレッシャー指標得点を従属変数とするブロック×グループの2要因の分散分析を実施した結果,有意な交互作用はみられなかった。考 察 EDWとBFWはプレッシャーが引き起こすWM課題成績低下の影響を緩和することが示された。今後の課題として,主観的プレッシャーの測定方法の改善,認知的再体制化の程度の測定が挙げられる。
著者
林 智幸 湯澤 正通
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.554-559, 2006-02-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

This study investigated what dimensions young children's trait concepts have for real peers at their nursery school. Teachers of nursery school rated children's personality characteristics in terms of each dimension of the Big Five, and children were selected who showed different behavioral characteristics in those the five dimensions. Five- and six-year-old children (26 participants: 14 boys and 12 girls) evaluated those selected peers' personality. It was found that young children made different evaluations between extroversion and the other four traits (agreeableness, conscientiousness, emotional stability, and intellect), and between agreeableness and intellect. The results suggested that young children's trait concepts have a dimension of extroversion, in addition to a general dimension of goodness-badness.
著者
牧 亮太 海田 梨香子 湯澤 正通
出版者
広島大学大学院教育学研究科心理学講座
雑誌
広島大学心理学研究 (ISSN:13471619)
巻号頁・発行日
no.10, pp.71-80, 2010

本研究では, 内閣府(2010)のひきこもり実態調査で用いられた質問項目を使用し, 一般大学生を, ひきこもりに対して肯定的態度を示す者(ひきこもり親和性高群)とそうでない者(ひきこもり親和性低群)に分け, ひきこもり親和性高群における心理的特徴(友人関係, 不快情動回避傾向, 早期完了特徴)について検討した。その結果, ひきこもり親和性高群には, 友人関係における自己閉鎖的な傾向が見られること, 男性に限っては友人に対して積極的な関与を回避する傾向にあることが示された。また, 不快情動の回避傾向, および早期完了特徴にはひきこもり親和性の高低による違いは見られなかった。これらの結果より, ひきこもり親和性の高い大学生が, 必ずしもひきこもりに陥りやすいというわけではなく, むしろ友人関係に困難を抱えながらも, 不快な情動と向き合いつつ, 社会に適応している可能性が示された。深刻なひきこもり状態を回避iする要因を探るうえで, ひきこもりに肯定的な態度を示す人たちに注目することの重要性が示唆された。
著者
湯澤 正通 渡辺 大介 水口 啓吾 森田 愛子 湯澤 美紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.380-390, 2013 (Released:2015-09-21)
参考文献数
13

本研究では,小学校1年のクラスでワーキングメモリの相対的に小さい児童の授業観察を行い,そのような観察対象児の授業中における態度の特徴を調べ,その教育的,発達的意味,および授業参加の支援方法についての考察を行った。小学校1年生2クラスを対象にコンピュータベースのワーキングメモリテストを行い,テスト成績の最下位の児童をそれぞれのクラスで3名ずつ選び,国語と算数の授業37時間で観察を行った。ワーキングメモリの小さい児童の授業態度は,個人によって違いが見られたが,挙手をほとんどしない児童が含まれ,全般に,課題や教材についての教師の説明や,他児の発言を聞くことが容易でないことが示唆された。挙手をほとんどしない観察対象児が挙手する場面を検討したところ,a) 発問の前に児童に考える時間を与えてから発問する,b) 発問をもう一度繰り返す,c)いくつかの具体的な選択肢を教師が提示した上で発問するといった場面で,他の場面よりも挙手率が有意に高かった。ワーキングメモリに発達的な個人差がある中で,ワーキングメモリの相対的に小さい児童にとって授業への参加は不利になること,そのため,教師は,ワーキングメモリの小さい児童を意識した支援方法を意図的に用いる必要があることが考察された。
著者
渡辺 大介 湯澤 正通 水口 啓吾
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.87-94, 2014

本研究では,小学校2,3年生(N=160)による減算の求補場面と求差場面の作問課題における言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの役割を検討した。言語性ワーキングメモリおよび視空間性ワーキングメモリの高低群によって作問課題に対する解答内容の違いを調べた結果,求補場面では,言語性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,視空間性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。他方,求差場面では,視空間性ワーキングメモリ得点の高い児童は低い児童に比べて,式と絵の両方に対応している解答を多く行った。一方,言語性ワーキングメモリにおいては,このような偏りは見られなかった。これらの結果から,求補場面と求差場面の作問課題においてそれぞれ言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリが異なる働きをしていること,これらの問題理解の支援において異なるアプローチをとる必要がある可能性が示唆された。