著者
深田 三徳
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.2369-2411, 2007-03

本稿は、近年、司法制度改革などとの関連で学問的関心を集めている法の支配について、法哲学の視角から考察しようとするものである。「人の支配」「力の支配」と対比される「法の支配」は多義的であるが、まず英米独仏における近代憲法上の法の支配(ないし法治国家)の歴史的展開について概観している。その後、その影響を受けている日本国憲法上の法の支配とそれをめぐる議論について検討している。そして善き統治・政府のあり方、善き法(システム)のあり方に関係する政治理念(ないし法理念)としての法の支配に照準を合わせ、それを形式的考え方と実質的考え方に区分している。その後で、とくに法の支配の形式的考え方に関連して、L.L.フラー、J.ラズ、R.S.サマーズの見解を比較しながら検討している。
著者
石井 忠雄
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.122-129, 1982-07-31

判例研究
著者
櫻井 利江
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.1807-1867, 2011-11

論説(Article)国家の所属集団に対する深刻な人権侵害から、自決権に基づいて同集団を救済することができるとする理論は救済的分離と呼ばれる。救済的分離権が認められるための条件は、所属政府によって集団が差別的に扱われ、人権が重大かつ深刻な状態にまで侵害され、国家の政策決定にその意見が反映されていないという状況が存在し(実体的条件)、および人権回復のためのあらゆる手段を尽くしたが、最終的手段として分離しか残されていないという状況が存在すること(手続的条件)である。 本件手続きにおいては立法論としての救済的分離に関する諸国家の見解が表明され、コソボ支持諸国およびセルビア支持諸国の双方に、救済的分離を国際法上の権利として認める諸国が存在することが確認された。また勧告的意見は救済的分離に関する実体的要件および手続的要件のそれぞれに含まれる要素が、本件において存在したことを間接的に認めている。また独立宣言立案者は「コソボ人民によって民主的に選出された人々」と判断した。そしてコソボ独立宣言に関して、一般国際法にも安保理決議一二四四にも違反しないと結論づけた。領土保全原則は分離権の存在を否定する根拠とされたが、勧告的意見は分離集団のような非国家主体には適用されないと判断した。勧告的意見が領土保全原則を分離の対抗概念として捉えていないことは、一般国際法における分離の禁止規則の不存在を示唆するであろう。本件手続きは救済的分離の権利としての発展状況を検証する場となった。
著者
國府 剛
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.94-106, 1969-06-30

判例研究
著者
石田 信平
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.1941-2025, 2006-11

営業秘密は退職後の労働者による競争会社への漏洩によってその財産的価値が滅失する場合がある。そのため、多くの企業が退職後の競業避止特約を締結することによって、その漏洩を防止しようとしている。しかしながら問題は、こうした退職後の競業避止特約が労働者の職業選択の自由と衝突する点にある。 本稿では、以上のような営業秘密保護と退職後の競業規制について、アメリカの不可避的開示論の形成と展開を踏まえた検討を行った。ここで不可避的開示論とは、あるときは、わが国の不正競争防止法と類似する統一営業秘密法から直接競業差止という法的効果を導出する機能を果たし、あるときは、競業避止特約と秘密保持特約の限界を問う機能を果たす法理論であり、以上の問題に考察を加えるにあたって非常に示唆に富む議論を含んでいる。 本稿では、こうした不可避的開示論に関する裁判例、学説を分析し、日本の競業避止義務の課題と方向性を抽出することを試みたところ、労働者の競業避止義務には、労働者の背信性を軸とした「公正競争」の原理から要請されるものと、代償と軸とした「契約」の原理から要請されるものがあるという仮説を得た。わが国の裁判例は競業避止特約について明確な要件、効果が設定しているとは言いがたく、本稿では、この二つの原理によって、要件、効果を精緻化していくべきであるということを示唆した。
著者
坂田 雅夫
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.931-960, 2006-06

各国が締結してきた投資保護条約の多くには、「他の締約国の国民との間で負った義務の遵守」を確約する条項(「傘条項」)が含まれている。この条項は、それが対象としている義務や義務違反行為の性質を条文上何ら限定していないことから、国家が条約の他の締約国の国民との間の契約に反する行為は、全て同時に投資保護条約のこの種の条項の違反になると解されてきた。近年、この「傘条項」を根拠に、投資保護条約が定める仲裁手続きを利用されることが急増し、仲裁付託数の抑制を図るために、この種の条項の適用対象を制限しようとする新たな解釈が判例及び学説において模索されてきている。それらの新たな解釈のなかでも有力なものとなりつつあるのが、国家が立法権や行政権を行使して外国私人との間の契約を無効化した場合のように、国家がその権力を濫用し、通常私人たる契約当事者なら取り柄ない行為を、国家が執った場合にのみ「傘条項」の違反が成立するという解釈(主権的権限論)である。本稿は、この主権的権限論の法的根拠について批判的に検討したものである。Most of the investment protection treaties have the clause (so-called "Umbrella Clause") which promises the observance of commitments entered with the investors of any other contracting party of the treaty. It is generally accepted that this clause protects the investor's contractual rights against any interference which might be caused by either a simple breach of contract or administrative or legislative acts. It is said that this clause is of particular importance because that it is not entirely clear under general international law whether such measures constitute breaches of an international obligation. In recent articles and arbitral awards published in these three years, a different interpretation of the Umbrella Clause is proposed. This newly advanced interpretation say that the government would breach the Umbrella Clause when it abuses its governmental powers to escape from its contractual obligations, and that the Umbrella Clause has no rule about normal contract disputes which the state acts as contractor, not as regulators relying its sovereign powers. Thomas W. Wälde, a most influential writer about investment protection treaties, powerfully argued for this new interpretation at recent article published in 2005. This article critically examines the legal grounds of this newly advanced interpretation of Umbrella Clause. Umbrella Clause was introduced to private drafts of the investment protection treaty in the 1950's and spread from 1959 to many contemporary investment protection treaties. Thomas W. Wälde argued that implied "Original Intention" of drafters of this clause in the 1950's was to internationalize the protection of investment (then mainly concession) contracts with governments against abusive governmental abrogation. And so it would not cover the dispute over contractual performance that are the "merely commercial", with the State not relying on its sovereign powers. But the research of intentions of relatively many members of drafters of Umbrella clause shows that this clause could cover also the small and purely contractual disputes. Many articles and textbook mention the Umbrella Clause also covering the "mere" or "simple" breach of contract. It is of particular importance that, from 1950's to nowadays, text of The Umbrella Clause of Investment Protection Treaties provide that "any" obligations should be observed and don't restrict the Clause to limited disputes. If the implied intention of drafters and contracting States is to limit the Umbrella Clause to the disputes of governmental power's abuses, it would be curious that in recent investment treaties States don't limit the Umbrella Clause application by clear provision in spite of many commentaries in articles and textbook contrary to their implied intentions.
著者
ゼラート ウルテ 黒田 忠史
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.335-366, 2006-05

ドイツの連邦憲法裁判所は、1987年7月14日の決定でもって従来の判決を完全にくつがえし、弁護士の職業上の自由への介入は、弁護士会が定めた「身分倫理指針」のようなものではなく、憲法に従った民主的な決定手続をへて制定された法的規定(法律または規則)に基づいて行われるべきであるとの判断を示した。その後、1994年9月20日に連邦弁護士法の改正法、すなわち「職業法(BRAO)の新規定に関する法律」が、そして1996年12月に「弁護士職務法」(BORA)と「専門弁護士法」(1997年3月発効)が制定された。従って今日では、弁護士の職業上の義務と身分[倫理]上の義務との間には区別がなく、弁護士の職業上の義務の多くは後者BORAの中に含まれている。ドイツの弁護士が遵守すべき職業上の義務としては、職業上の独立性、守秘義務、ザッハリヒカイト、双方代理の禁止、預った財産の注意深い管理、継続研修義務、広告制限、相手方弁護士迂回の禁止、民事事件の訴訟代理受任義務、相談支援・刑事弁護受任義務、欠席判決請求の事前通知義務、代理人変更の迅速通知義務、成功報酬および紹介料の受領禁止、弁護士活動記録書類の引渡し義務、職業賠償保険加入義務、法服着用義務、他の法律職従事者として同一事件の扱うことの禁止などが重要である。近年ドイツの弁護士のこのような職務上の義務は、欧州統合やグローバル化の進展、弁護数の急増と競争激化のなかで、絶えず見直されなければならなかったのである。In völliger Abkehr seiner bisherigen Rechtsprechung entschied das Bundesverfassungsgericht mit den Beschlüssen vom 14.7.1987, dass Eingriffe in die Berufsfreiheit eines Rechtsanwalts Regelungen voraussetze, die durch demokratische Entscheidungen entsprechend der Verfassung zustande gekommen sind, nicht aber durch Standesrichtlinien. In der Folgezeit kam es zur Novellierung der Bundesrechtsanwaltsordnung, nähmlich zum Gesetz über die Neuordnung des Berufsrechts(BRAO) vom 2.9.1994 und auch zur Berufsordnung für Rechtsanwälte(BORA). Daher wird heute nicht mehr zwischen den Berufs- und den Standespflichten eines Rechtsanwalts unterschieden und die Mehrzahl anwaltlicher Berufspflichten ist in BORA enthalten. Unter den Berufspflichten der deutschen Rechtanwälten sind berufliche Unabhängigkeit, Verschwiegenheitspflicht, Sachlichkeit, Verbot der Vertretung der widerstreitenden Interessen, sorgfältige Behandlung der ihm anvertrauten Vermögenswerte, Fortbildungspflicht, begrenzte Werbung, Pflicht zur Übernahme der Prozessvertretung in Zivilsachen, Pflicht zur Beratungshilfe und zur Strafverteidigung, begrenzte Werbung, Verbot der Umgehung des Gegenanwalts, zuvor angekündigter Versäumnisurteil, unverzügliche Mitteilung des Mandatswechsel, Verbot des Erfolgshonorars wie der Provision, Herausgabe der Handakten, Berufshaftpflichtversicherung, Berufstracht, Versagen jeglicher Berufstätigkeit u.s.w. vor allem wichtig. Diese Berufspflicten der deutschen Rechtsanwälten sollten in den letzten Jahren sowohl durch EG-Integration und Globalisierun wie auch durch Steigerung der Anzahl der Rechtsanwälte und die größere Konkurrenz immer wieder geprüft werden.訳:黒田忠史
著者
スピンドラー ジェラルド 早川 勝
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.2440-2431, 2010-03

翻訳(Translation)2004年のSE規則は、当初の構想と異なり、枠組み法であって、基本的な骨組みを定めるにすぎず、その肉付けは、EU加盟国の国内法によるため、極端な場合は、加盟国数に相応したSEが存在することになる。当初慎重であったドイツ・オーストリアでは、少しずつSEを創設してきているが、超国家性という特色を生かすというよりも、ヨーロッパブランドという側面を重視している。訳:早川勝
著者
メストメッカー エルンスト-ヨアヒム 早川 勝[訳]
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.1426-1404, 2011-07

万人の万人に対する競争(Bellum omnium contra omnes)? -自然状態における競争について 放牧地で時を過ごす羊の平穏は、比較的な自己愛と競争を欠いているひとの社会に関してカントが述べた比喩である。どうもうな狼の食欲は、市民社会における安全と安寧の自由をあきらめさせる自然状態におけるひとに対するホッブスが述べた比喩である。これらの見解は、自由と平等に関する正反対の原則を教える。カントにとっては、個人の自由は、対立する自由であって、この自由は、法の支配の下での平等な自由と共存することができる。これに対して、トーマス・ホッブスの明らかに反対の立場では、デヴィッド・ヒュームの法と社会の研究およびアダム・スミスの法と経済学の研究を意識しかつ考慮に入れた法と社会の諸原則が展開される。ホッブスは、法と経済を動かす力としての幸福に関するかれの功利主義の解釈と同じ様に、法実証主義に関するベンサムの基本的な説明を採り入れた。それは、法と幸福主義との同一視であり、競争と競争法に関するひとつの重要な論争に導く。つまり、個々人の競争的行為に対する貢献を結果として生じる幸福のプラスまたはマイナスの成果と同一視できるかという問題である。この論争は、ドイツでは、カルテルの禁止かまたはカルテルに対する濫用規制なのかという二者択一の問題を支配した。それに対して、米国では、成果に関する評価審査が有効競争理論のひとつの論点であった。つまり、この論争は、福利のマイナスの成果について特別な立証(specific proof of negative welfare effects)がなされない場合には、伝統的な反トラスト法違反を弁明することができないと主張する反トラストシカゴ学派によってもたらされた。欧州では、それは、もちろん、競争ルールに関する解釈についてより経済的なアプローチをするEU委員会の解釈によって、消費者に対する福利審査(consumer welfare test)の実行可能性に関する論争について終止符が打たれた。それは、デヴィッド・ヒュームの理論の伝統を引き継ぎながら、特別な競争行為の福利に関する成果審査では解明できない理由を説明する制度複合現象理論を展開したF.A.フォン・ハイエクの理論である。筆者は、本稿では、競争ルールが、契約の自由、個人の財産権に関する私法制度の一部であるとして、また、競争を発見手続きとして解している。競争の自由に関する個人の権利は、競争過程における公益とそれに対して適用できるルールを形成するのである。
著者
倉見 智亮 土田 道夫
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.2943-2963, 2007-03

本稿は、就業規則・競業避止義務等契約に定められている秘密保持義務・競業避止義務の有効性及び当該義務違反の有無、並びに在職中における従業員の引抜き・集団退職の相当性が争われた判例(アイメックス事件)について評釈したものである。本稿では、以下に関連する近年の裁判例・学説の整理・分析を通じて、本判決を考察した。1、在職中・退職後の秘密保持義務の有効性及び当該義務違反の有無 2、退職後の競業避止義務の有効性(代償措置、背信性、合理的限定解釈) 3、競業避止義務違反の有無(在職中における従業員の引抜き・集団退職) 4、従業員の引抜き・集団退職と損害との因果関係
著者
児玉 昌己
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.181-216, 2011-06

ArticleEUは近年ヒトモノカネの自由移動に成功し、それに伴い、異文化、異民族、外国人の流入で、加盟各国でナショナリズムを刺激し、排外主義的極右勢力が台頭している。本稿では、欧州議会の統合推進派の欧州人民党、欧州社会党など主流派がどのようにこの事態に対処しているのかを、ルペンの暫定議長就任阻止と政党形成要件の厳格化について、欧州議会議院規則の改正を事例に見る。The continuing electoral success of far-right populist parties across the Member States of the EU, much of it stemming from fears associated with the free movement of people which remains one of the four freedoms and esprit of the EU founding Treaties, has also translated into an increasing presence in the European Parliament. The goal of this article is to analyze how the European Parliament has sought to tackle and address this trend within its own institutional arena. In so doing, the paper will address two recent events and the political response of the mainstream political groups.
著者
渡邉 泰彦
出版者
同志社大学
雑誌
同志社法學 (ISSN:03877612)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.3351-3394, 2009-02

論説(article)性同一性障害者性別取扱特例法3条1項2号の「現に婚姻していないこと」の要件について、ドイツ連邦憲法裁判所2005年12月6日決定、同2008年5月27日決定を紹介することで、婚姻保護と憲法の問題を検討する。日本とドイツにおける議論の状況を対比することで、憲法による婚姻の保護という視点から、婚姻法と憲法との関係を考える。§3 I Nr. 2 Japanischer TSG verlangt als Voraussetzung für die Feststellung und rechtliche Anerkennung der anderen Geschlechtszugehörigkeit , dass der antragstellende Transsexuelle nicht verheiratet ist. In Deutschland kam der Bundesverfassungsgericht zu dem Ergebnis, dass § 8 Abs. 1 Nr. 2 TSG verfassungswidrig ist.§3 I Nr. 2 Japanischer TSG wird in diesem Aufsatz dardurch wiederprüfen, zu feststellen, ob Eheschutz auch in der Japanischen Verfassung gewährleistet ist.