- 著者
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齊藤 育子
- 出版者
- 山梨英和大学
- 雑誌
- 山梨英和短期大学紀要 (ISSN:02862360)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, pp.110-98, 1992-12-10
信頼は、あらゆる人間的生の欠くべからざる前提である。にも拘らず、現代は正に信頼の喪失によって特徴づけられる。今日頻発している無漸で冷酷・非道な大小各種の犯罪も、所詮はこの信頼喪失の必然的結果である。この危機から脱出可能な道があるとすれば,それは本質的に、他者に対する、そして文化と生の全体に対する新たな信頼関係を獲得し直す以外にはあるまい。それゆえ、信頼の本質とその人間形成上の決定的役割について省察することは、現代の中心的課題である。わけても、教育実践の場における教師と生徒との信板関係の再構築は急務である。そこで本稿では、人間存在(人間であること)と人間形成(人間たらしめること)にとって必須・不可欠の信頼について、第一節では、その端緒としての「母と子」の生理・心理・精神的関係を、第二節では、子供の生活圏の拡大に伴う信板の展開を、第三節では、シュタンツにおけるペスタロッツィの教育実践の具体相の分析を通じて、信頼の教育的意味を、そして最終節では、特に教師の側に焦点をおいて,信板をめぐる本質的諸問題を考究した。