著者
佐々木 全 我妻 則明 SASAKI Zen AZUMA Noriaki
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.435-439, 2015-03-01

平成19年に「特別支援教育」が学校教育法に位置付けられ,通常学級に在籍している発達障害児童生徒も支援の対象として公的な認知がなされた。以来,通常学級における特別支援教育に関する実践研究への関心が高まっている。岩手県では,「いわて特別支援教育推進プラン」(岩手県教育委員会,2013)によって,インクルーシブ教育を推進し,通常学級における特別支援教育についても,小中学校のみならず,高等学校での普及,定着をめざしている。また,障害者権利条約批准によって,インクルーシブ教育は後押しされ,通常学級における特別支援教育の精度向上が動機づけられている(たとえば,特別支援教育の在り方に関する特別委員会,2011,2012)。第一筆者は,通常学級における特別支援教育に三つの立場でかかわってきた。具体的には,①親の会等市民活動団体による実践者の立場でもある。これは1990年代半ばから現在に至る。特にも,放課後・休日活動支援に取り組んでいる(例えば,佐々木,伊藤,名古屋,2014)。②特別支援学校のセンター的機能の実務担当者の立場である。これは,2000年代半ばから2010年代に至った。特にも,巡回相談にて,小中高等学校の通常学級に在籍する発達障害児童生徒の支援に携わった。また,それに資する地域支援の開拓にも取組んだ(例えば,佐々木,2012)。③通常学級の担任及び教育相談担当者の立場である。これは2013年から現在に至る。特にも,高等学校において学級担任と特別支援教育コーディネーターを兼務し,発達障害生徒を擁する学級経営,教科指導,かつ,特別な支援の必要を伴う教育相談を担当し,面談や関係機関との連携等のケースワークを行なった(例えば,佐々木,2013)。本稿では,これらの立場によって得た実践経験に基づき,発達障害を巡る動向とその支援における実践上の課題について,それらの変遷を回顧的・逸話的に整理し,現在の課題を明確化する。
著者
宮川 洋一 山崎 浩二 名越 利幸 渡瀬 典子 ホール ジェームズ 土屋 明広 田中 吉兵衛 立花 正男 山本 奬 今野 日出晴 川口 明子 田代 高章 藤井 知弘 長澤 由喜子 遠藤 孝夫 MIYAGAWA Yoichi YAMAZAKI Kouji NAGOSHI Toshiyuki WATASE Noriko James M HALL TSUCHIYA Akihiro TANAKA Kichibei TACHIBANA Masao YAMAMOTO Susumu KONNO Hideharu KAWAGUCHI Akiko TASHIRO Takaaki FUJII Tomohiro NAGASAWA Yukiko ENDOU Takao
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.14, pp.219-230, 2015

本研究の目的は,4年次後期に必修となった教職実践演習における模擬授業のあり方を検討し,評価基準を策定することにある。そのうえで,ICTを活用して,組織的に評価を行うシステムを構築し,試験的運用を行うことである。「教職実践演習」は,「教育職員免許法施行規則の一部を改正する省令」により,平成22年(2010)年度入学生から導入される教員免許必修科目であり,学生が最終的に身につけた資質能力を,大学が自らの養成教員像や到達目標に照らして最終的に確認することを目的としている。中教審による「今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)」(2006)によると,教職実践演習の授業内容は,①使命感や責任感,教育的愛情に関する事項,②社会性や対人関係能力に関する事項,③幼児児童生徒理解や学級経営に関する事項,④教科・保育内容等の指導力に関する事項を含めること,が適当であるとされている。そして,教職実践演習の実施にあたっての留意事項として,授業の方法は演習を中心とすること,役割演技(ロールプレーイング),事例研究,現地調査(フィールドワーク),模擬授業等も積極的に取り入れることが望ましいこと等が示されており1),極めて実践的・実務的色彩の強い内容となっている。
著者
木村 直弘 KIMURA Naohiro
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.115-136, 2015-03-01 (Released:2016-05-17)

宮崎駿と並ぶ日本アニメ映画界の「レジェンド」で1998年には紫綬褒章を受章し,2015年には『かぐや姫の物語』で第87回アカデミー賞長編アニメーション部門にもノミネートされるなど今日国際的な評価を得ている高畑勲監督(1935年生)は,2014年10月,NHKテレビのインタビュー(1)で,宮澤賢治作品をアニメ化することについて問われた際,「僕にとっては,畏れ多い」と答えている。以前,5年の月日を費やしてアニメ映画『セロ弾きのゴーシュ』を自主制作したこともある高畑に賢治作品への畏敬の念が本当にあったかどうかについてはさて措き(2),賢治作品について高畑がこのようなイメージをもつに至ったのは,1939年,賢治没後初めて出版された子ども向け童話集『風の又三郎』(坪田譲治解説,小穴隆一画,羽田書店)を読んだという彼の最初の賢治体験に依るところが大きい。羽田書店は,この前年,賢治の盛岡高等農林学校時代の後輩でその思想に多いに影響を受け農村劇活動などを実践した松田甚次郎の『土に叫ぶ』を刊行し,ベストセラーになった。同店はその余勢を駆って,松田編の『宮澤賢治名作選』を1939年3月に刊行,これが賢治の童話作家としての名声が広まる大きなきっかけとなったことはよく知られている。このいわば大人向けの選集の好評を受け,さらに同年12月に子ども向けとして刊行されたのが童話6編を収めた前掲『風の又三郎』で,当時文部省推薦図書指定を受け,これも多くの子どもたちに読まれた。さらに,翌1940年10月には,日活によって映画化された『風の又三郎』(監督:島耕二)が公開され,「はじめての児童映画の誕生」ともてはやされ「文部省推薦映画」となり,映画文部大臣賞を受賞,宮澤賢治の名は人口に膾炙することになる。同年,小学校三年生の時に故郷岡崎で観たこの映画や小学校六年生の時に読んだ〈銀河鉄道の夜〉の「すごくメタリックに光る,キラキラした印象」(3)をもとに,名実ともに「一大交響楽」(4)を作曲したのが,高畑より3歳年上のもう一人の「勲」,すなわち,数多くの映画音楽やテレビ番組の音楽を手がけ,またシンセサイザー音楽で世界的に評価されている作曲家・冨田勲(賢治没年の前年である1932年生)である。
著者
大河原 清 苅間澤 勇人
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.10, pp.95-137, 2011

同じ書名『ジャックと豆の木』の2冊の本を高校2年生に読んでもらった。最初にミルクを出さなくなったので、牛を市場に売りに行く本である。この本の冒頭部分について、できるだけ数多くの疑問点、不思議な点、矛盾点を個人的立場で列挙してもらった。続いて、小グループを作って、グループ内で疑問点、不思議点、矛盾点を披露し合い、自分では気づかないことを、友達の発言の中に発見させた。これらの疑問点などをグループ毎に黒板に掲示して、競わせて得点づけをした。最後にこれまで出された疑問点などの解決が図られるような、別バージョンの本『ジャックと豆の木』を読んでもらった。高校生86人は、普段、グループでの話し合いをする経験が少ないことからか、82.5%の71人が読書への興味を持った。 本論で提案する同じ書名の本の読み比べ法について、高校生は次の通り述べていた。「一つの物語を、様々な目線から見たり、読み比べをしたりして、自分の疑問などを見つけ、真相に向かって行くのが、これほど楽しいということを知らなかった。また、他人の主張なども聞いて他人の考え方や人柄までも知ることができて、とても楽しかった。/意見を出し合ったりするのは、苦手なので、不安だったが、自分が考えつかなかった意見がたくさん聞けて、面白かった。『ジャックと豆の木』をもっと読みたくなった。自分とは違う考えや、自分が知らなかったことを学ぶことが楽しいと初めて思った」
著者
安井 萠 YASUI Moyuru
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.12, pp.29-40, 2013

世界史(外国史)の授業は一般に、時代や地域ごとに史実を概説する形で行われる。こうしたやり方に多大な利点があることはなるほど間違いない。だが私見によれば、学習者の思考力を高める上で、時に時代や地域の枠を越えた「大きな絵」を描いてみることも大切ではないかと思われる。本稿では、そのような認識のもと筆者が企画・試行したある授業を、一つの実例として紹介したいと思う。紹介するのは「共和政の歴史的展開」と題する授業である。これは、西洋世界における共和政の理念ならびに共和政国家(共和国)の展開の歴史を古代から近代までたどるという内容のもので、この授業を通じ学習者が西洋史の全体的なつながりを意識するようになることを狙いとしている。筆者はもともとこれを大学の講義用に作成した。しかしその後高校世界史にも応用できるよう手直しし、まず岩手大学教育学部世界史研究室のゼミで試行的に授業を行った。そしてさらに岩手大学世界史研究会の例会で発表し、高校教員の会員から意見を聞いた。以下では、これら二度の試行を踏まえて仕上げた授業の原稿を掲げ、関係者の参考に供することとしたい。(授業の言葉づかいは、冗長を避けるため「である」調とした。本文の見出しと註は今回新たに付したものである。)
著者
大河原 清 OOKAWARA Kiyoshi
出版者
岩手大学
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.65-78, 2004

地元盛岡市内にある円光寺にまつわる伝説「お蓮女と首塚」を題材として、小・中・高校教員を対象に、物語の創作を3回実施した。第1回では、51名中約75%の教員が物語の創作が楽しかったと報告した。第2回、第3回を実施し5段階のアンケート調査結果も、「どちらでもない(3)」と比べると、「物語の創作が楽しかった」は第2回の44名の平均値が4.5、第3回の21名のそれが4.7と高く、その他の項目も3より大きく好意的な回答が多かった。創作活動を観察した結果からは、教員同士のグループ活動が活性化すると共に、地元の歴史的事象に対して関心を深めていることが分かった。地元伝説をネタに物語創作をする方法(一種の再話に相当)は、「総合的な学習の時間」における調べ学習に適用できるのではないかと思う。調べ学習において、課題として、調べた内容をネタに新たに物語を創作することを導入することで、深い調べ方が身につくのではないかと想定するためである。
著者
佐々木 全 加藤 義男 SASAKI Zen KATOU Yoshio
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.9, pp.175-190, 2010

高機能広汎性発達障害を含む,いわゆる発達障害のある児者に対する教育や福祉の制度による支援は,充実・発展に向かいつつも,開発の途上にあると思われる.そこにインフォーマルな支援グループが力を発揮する余地がある.その活動分野に関する一例として,放課後・休日活動の提供と支援があるだろう(佐々木,加藤 2007)1). 障害のある児の放課後・休日活動については,一般的にも関心が高まっており,文部科学省委託による調査や研究実践の報告がなされており,今後の開発・普及と拡充が望まれる分野といえる(例えば,NPO法人大塚クラブ,2008 2); 東京学芸大学特別支援教育研究会,2009 3)). 岩手県内では,いわゆる発達障害のある児童に特化した「通所支援教室」が療育を志向しつつはじまり,近年に至り放課後・休日活動を志向するようになった.その先駆けであり, 年以来取組まれている「なずな教室」では,ソーシャルスキルやアカデミックスキルの習得を志向した時期(例えば,佐々木,2000)4);佐々木,2002)5)があったが,近年は放課後活動を志向している(例えば,森山,2008)6)筆者らが1998年以来取組んでいる「エブリ教室」は, 高機能広汎性発達障害(知的障害のない自閉症,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害を包括する概念)のある小学生を対象とし,月一回第4土曜日に開催の取組みであるが,ここでも近年は休日活動の充実を志向し始めた.すなわち,エブリ教室では,参加児童にとっての豊かな休日活動をねがう.ここでいう豊かさとは,参加児童にとっての自己実現であり,自立的・主体的な活動の実現である.その実現に向けた実践的課題として,佐々木,加藤(2008a 7))は,以下を指摘している.すなわち,①中心活動(単元化された活動内容)に沿った「一人一人のための支援計画(通称,IEP)」の作成と活用のあり方に関する検討,②ねがいの実現と支援方法の機能の関係性の分析,である.なお,「単元化」とは一定期間同一内容の活動をテーマとして取組む展開方法である.エブリ教室の実践においては,これら①,②を活動の留意点とし,活動計画及び実践とその記録・評価に反映している.
著者
佐々木 全 加藤 義男 SASAKI Zen KATOU Yoshio
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.245-262, 2009

高機能広汎性発達障害を含む,いわゆる発達障害児者に対する教育や福祉の制度による支援は,充実・発展に向かいつつも,開発の途上にあると思われる.そこにインフォーマルな支援グループが力を発揮する余地がある.その一例として,休日や放課後の活動の提供と支援があるだろう(佐々木,加藤2007).そして,これに当たる実践として,「適所支援教室」があり,岩手県内各地で成果を挙げている(はままき軽度発達障害児の教育と生活を考える会,2005 ; 2006 ; 2007 ; 2008).筆者らが1998年以来取組んでいる「エブリ教室」もその一つである.エブリ教室は,高機能広汎性発達障害のある小学生を対象とし,月一回第4土曜日に開催の実践である.ここでいう高機能広汎性発達障害とは,知的障害のない自閉症(いわゆる「高機能自閉症」),アスベルガー障害,特定不能の広汎性発達障害を包括する概念である. 筆者らは,エブリ教室において,参加児童にとっての豊かな休日活動をねがう.ここでいう豊かさとは,参加児童にとっての自己実現であり,自立的・主体的な活動の実現である.佐々木,加藤(2008a ; 2008b)は,その実現に向けた実践的課題として以下を指摘している.すなわち,(1) 中心活動(単元化された活動内容)に沿った「一人一人のための支援計画(通称, IEP)」の作成と活用のあり方に関する検討,(2) ねがいの実現と支援方法の機能の関係性の分析,である.
著者
佐々木 正輝 菅原 正和 SASAKI Masaki SUGAWARA Masakazu
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
no.8, pp.107-117, 2009

文部科学省のアンケート調査(2008)では,いじめられたことを親や教師にいう児童は約3割弱,いじめられた児童が在籍する学級の担任教師の約4割が「自分の学級にいじめはない」と答えている現状を指摘している。教師が日常の教育実践の中で行う児童理解は,日常観察や言葉かけなどの面接法が主となっており、児童の表面的な行動や態度だけを見て「自分の学級にいじめはない」などと判断するのは危険である。いじめや不登校等の問題が生じてからから対応する後追い型の指導-ではなく,児童同士のふれあいを深め,問題を起こさない予防的指導の重要性が指摘されている。囲分.・中野(2000),図分.・図分(2004)の「育てるカウンセリング」は,いじめや不登校の予防を意識して考案されたカウンセリング技法である。学級における望ましい人間関係づくりに有効と思われる構成的グループ.・エンカウンター(SGE)のねらいは,エンカウンターの具体的な体験である自己知覚,感情表現,自己主張,他者受容,宿頼感,そして役割遂行をとおして,参加者間の人間関係をつくり,参加者の自己発見を促進し,人間関係を援助することである。本研究は,SGEの継続的な実施によって,小学生の学校生活満足度や,学校生活意欲度に及ぼす影響を検証し,学校心理士やスクールカウンセラー(SC)の介入法の一助になることを目指している。 SGEの実施効果を検証した報告は多数あるが<例えば,石隈,1999 ; 四杉・加藤,2003 ; 田上,2003a,2003b>,本研究の特徴は,(i)学級担任以外のリーダーが学級のアセスメントを行い,SGE実施後の学級担任-のコンサルテーションの有効性を検証していることと,(ii)学校現場は,即効性.・実効性をどうしても求めるので,吹の3点を注視しながら,SGEが学校生活満足度,学校生活意欲度の向上にどの程度影響を及ぼすかを分析した点にある。 (1) 3校10クラスにおいてSGEエクササイズを学級活動や道徳活動に盛り込み,約1か月程度の短期集中プログラムとした。 (2) 実施前(Pre),実施後(Post),フォローアップ(For)データを取り,各クラスの担任の先生方とコンサルテーションを行い,効果を確認しながら実施した。 (3) 担任以外の外部講師(学校心理士:筆者)が仝10クラスを3時間ずつ(45×3)sGEを実施。これによりスクールカウンセラー(SC)等の学級への介入の方法を探った。