著者
木村 祐哉
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.357-362, 2009-05-01
被引用文献数
3

少子高齢化の進む現代の日本において,ペットは家族の一員として重要な存在となっている.そのようなペットの喪失によって強い悲嘆が生じうることは,「ペットロス」という言葉とともに知られるようになったが,十分な社会的理解が得られるには至っていない.本稿では,ペットロスに伴う悲嘆反応とそれに対する支援について諸文献から考察した.ペットロスは対象喪失の一種であり,親しい人物との死別の場合と同様の悲嘆のプロセスを経るとされる.専門的介入もまた有効であると考えられているが,安楽死の決定にかかわる罪悪感や,周囲との認識の違いによる孤独感など,ペットロスに特異的な状況が存在するということにも注意する必要がある.本稿ではさらに,日本におけるペットロスの現状について触れ,今後の研究に求められる課題を明らかにすることを試みた.
著者
城下 彰宏 片岡 裕貴
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.694-700, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
2
被引用文献数
1

メタアナリシスとは,各研究の効果から普遍的な集団(母集団)での効果を推定するために各研究の効果を統合する統計学的手法である.メタアナリシスでは,サンプルサイズによらず各研究の結果を比較可能な形に変換した効果量(エフェクトサイズ)と呼ばれる指標を用いる.エフェクトサイズの統合は,各研究がどの程度確からしいか(標準誤差)に応じて重み付けをしてから平均する.重み付けの方法は「真の値はただ1つである」と仮定するfixed effect modelと,「真の値は幅があるもの」と考えるrandom-effects modelに分けられる.一般的にはrandom-effects modelのほうが保守的な結果になるため推奨される.本稿では,Yangらの論文を例として,エフェクトサイズの代表であるmean differenceとstandardized mean differenceの算出方法,結果の統合方法(fixed effect modelとrandom-effects model),統計学的異質性について解説する.
著者
林 果林 端 こず恵 神前 裕子 土川 怜 浅海 敬子 齋木 厚人 龍野 一郎 白井 厚治 藤井 悠 黒木 宣夫 桂川 修一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.920-930, 2016 (Released:2016-09-01)
参考文献数
39

目的 : 肥満症患者において心理的側面は病態と大きく関与している. その重要性を明らかにするため, 肥満症患者群とコントロール群で, ロールシャッハテストの変数を比較分析した. またその結果から, 肥満症患者の心理的側面について, 7クラスターに分類し検討した.  方法 : 肥満症患者群103名 (男性52名, 31.8±6.7歳/女性51名, 32.1±5.9歳) およびコントロール群160名 (男性61名, 30.8±9.7歳/女性99名, 30.4±9.7歳) のロールシャッハ変数を比較検討した.  結果 : コントロール群と比較したロールシャッハ変数109のうち, EA, EB, Lambda, DQ+, DQv, DQo, DQv/+, Populars, X+%, X−%, M, a, WsumC, CF, SumT, SumV, SumY, Afr, All H Cont, COP, FDを含む47で変数に有意差が認められた.  結語 : 肥満症患者は, 社会生活上求められる資質不足から, 物事の意思決定や行動選択において対処困難を伴いやすく, 自身の感情を把握し調節・表出する力が未熟な傾向にある. そのため自己防衛として, ①刺激を単純化して受け取ることで心理的な距離をとり安定をはかる, ②感情コントロール不全を避けるため, 感情そのものを否認する, ③対人場面では可能な範囲で他者とのかかわりを回避するという3点に集約できる. このような特性を治療者が認識し, 心身の状況を踏まえたうえで集学的治療を行うことが重要である.
著者
武藤 崇 三田村 仰
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1105-1110, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22
被引用文献数
4

本稿の目的は,「第3世代」の代表的な認知/行動療法である「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」(Acceptance and Commitment Therapy:ACT)」を概観することである.そのため,本稿は,(1)マインドフルネスやアクセプタンスなどが認知/行動療法に組み込まれるようになった背景を「臨床行動分析」に基づいて概観する,(2)「臨床行動分析」(Clinical Behavior Analysis)に基づいて開発されたACTのトリートメント・モデルを紹介する,(3)ACTのエビデンスとその特徴を概観する,(4)その特徴に含まれるACTの新たな提言や展開を明示する,という内容で構成されている.
著者
今井 正司 今井 千鶴子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.1098-1104, 2011-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

本論では,Wellsが開発したメタ認知療法(Metacognitive Therapy:MCT)の理論的背景とその技法について概観した.はじめに,MCTの中核的な理論である自己調節実行(Self-Regulatory Executive Function:S-REF)モデルについて論じた.S-REFモデルは,メタシステム(metasystem unit),下位処理ユニット(low-level processing unit),S-REFユニット(S-REF unit)で構成されており,すべての感情障害に関連してみられる認知注意症候群(Cognitive Attention Syndrome:CAS)と呼ばれる非適応的な認知処理様式について説明するモデルである.CASへの主要な介入としては,メタ認知的信念を変容させる方法と,注意の柔軟性を向上させる方法がある.メタ認知的信念に介入する方法については,全般性不安障害の患者さんを例に,「心配の内容」ではなく「心配の機能」に着目する必要があることを論じた.注意の柔軟性に介入する方法としては,注意訓練(Attention Training:ATT)の理論的背景とその技法について,S-REFモデルを用いて論じた.最後に,MCTの効果的な適用とその基礎モデルの発展に関して考察がなされた.
著者
樋町 美華
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1245-1251, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
36

皮膚科における心理士の役割はさまざま考えられるが, 通常行われなければならない皮膚科治療や日常生活の妨げになりうる心理的問題へのサポートが重要と考えられる. 皮膚科において心理面からのサポートが必要な疾患は種々あるとされているが, 心身医学の側面からみた場合, 心身相関を伴う皮膚疾患に対する心理的サポートについて考える必要があるだろう. そこで本稿では, 最初に心と身体のつながりが密接であるとされているアトピー性皮膚炎およびざ瘡患者が抱える心理的問題について概観する. そして, 心理士の立場からアトピー性皮膚炎およびざ瘡患者への心理的サポートの必要性および具体的内容について解説する.
著者
町田 英世 長瀬 信子 内藤 ゆみ 木場 律志 永岡 三穂 吉川 悟
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.9, pp.1055-1063, 2015-09-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

近年,成人期まで障害が気づかれずに経過してきたと考えられる成人期の発達障害への関心が高まっている.発達障害は社会性や対人関係での困難さを伴うため,精神および身体問題を起こしやすい.今回,学生時代から過敏性腸症候群症状が認められ,成長とともに症状の悪化をみた発達障害例を経験した.当初は心身症においてしばしば観察されるアレキシサイミアの特徴を有すると症例と考えていたが,途中で発達障害の診断に至ったことで大きな治療変化をみた.特に,精神症候が目立たずに長期または難治化している身体症候例では,幼少期からの発達歴を含めた縦断的な考察が必要である.
著者
松永 昌宏 金子 宏 坪井 宏仁 川西 陽子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.135-140, 2011-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本研究では「幸福感」に着目し,幸福感の脳神経基盤および幸福感が脳と身体の機能的関連に及ぼす影響を明らかにすることを試みた.実験の結果,高幸福群では低幸福群に比べて,ポジティブ感情喚起時の内側前頭前野・腹側線条体(脳内報酬系)活動が有意に高く,報酬系活動を抑制する末梢炎症性サイトカイン濃度が低いことが明らかとなった.また,カンナビノイド受容体遺伝子多型と幸福感との関連を解析した結果,カンナビノイドの受容体に対する結合能が高いCC/CT遺伝子型群では,TT群よりも主観的幸福感が高いこと,末梢炎症性サイトカイン濃度が低いこと,そして内側前頭前野活性が高いことが示された.本研究から,幸福感を維持するメカニズムとして脳内報酬系機能,炎症性サイトカイン,内因性カンナビノイドの関連が示唆された.本研究の研究成果から,今後心身の健康を維持するための予防医学的アプローチなどが展開されていくことが期待される.
著者
臼田 謙太郎 西 大輔 松岡 豊
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.849-855, 2014-09-01 (Released:2017-08-01)

妊娠うつ病はおよそ10%の有病率があるとされ,決してまれな疾患ではない.しかし妊婦の多くは,薬物治療を希望しないため,より安全性が担保されている非薬物療法の開発の必要性は高いと考えられる.そしてうつ病の補完代替療法の中でもこれまでに最もエビデンスが蓄積されてきたものの一つにω3系脂肪酸がある.本稿ではω3系脂肪酸とうつ病に関する疫学研究の知見,ランダム化比較試験とそのメタ解析の結果,妊娠うつ病に対するω3系脂肪酸のこれまでのエビデンスをまとめた.ω3系脂肪酸は魚に多く含まれ,日常の食生活の影響を多く受ける可能性があり,今後はわが国での実証的な研究が望まれる.
著者
篠永 正道
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1026-1033, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

脳脊髄液減少症と心身症には3つのかかわりがある.第一に心身症と診断されている脳脊髄液減少症患者が少なくないこと,第二に脳脊髄液減少症の症状に心身症的な症状が含まれていること,第三に脳脊髄液減少症の治療には心身症的な治療が必要であること,である.脳脊髄液減少症は主として脳脊髄液が漏出して脳脊髄液が減少することにより頭痛,めまい,視覚障害,記憶力低下,倦怠など多彩な症状が持続する疾患である.原因が不明の特発性と外傷性があるが,心身症的症状を呈するのは外傷性に多い.診断は体位により変化する多彩な症状とMRIや放射性同位元素(RI)脳槽シンチグラフィー・CTミエログラフィーなどの画像診断によってなされる.治療は減少した脳脊髄液量を増やすことであるが,漏れを止めるためには自家血を脊髄硬膜外に注入するブラッドパッチ治療が効果的である.
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01 (Released:2017-08-01)

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
気賀沢 一輝
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.467-472, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
国里 愛彦 遠山 朝子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.8, pp.689-693, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
9

科学における再現性の危機に対して,Goodmanらによる方法・結果・推論の再現可能性の観点から,問題点と解決法について整理した.再現可能性問題への解決法としては,仮説検証を適切に行うために研究者の自由度を低める事前登録,データ・解析コード・マテリアルなどを公開するオープンサイエンス実践がある.本稿では,これらの研究実践が『BioPsychoSocial Medicine』誌においてどの程度行われているか調査を行った.その結果,臨床試験は事前登録されているが,それ以外の研究デザインでは少ないこと,データやコードを外部リポジトリや雑誌サイトで公開することは少ないことが示された.オープンサイエンス実践は研究公正に必要であり,今後の普及が期待される.
著者
島田 章 高野 正博 松尾 雄三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.41-47, 1990-01-08 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
4

Takano Hospital is a coloproctological surgical center in Kumamoto, Japan. The department of psychosomatic medicine was started in April 1986 to approach to psychosomatic problems in the field. Psychosomatic aspects of adolescents with irritable bowel syndrome were studied in twenty-two patients aged 13-19 yrs, who visited the department of psychosomatic medicine during a two year period of April, 1986-March, 1988. During the same period, the numbers of the whole patients who visited our department were 167. The results are summarized as follows : 1) Twenty-two adolescent patients, 3 males and 19 females with irritable bowel syndrome took up 77.3% of the whole adolescent patients in the department of psychosomatic medicine. 2) In the clinical patterns of adolescent patients with irritable bowel syndrome the "gas" pattern was dominant (59.1%). Patients with the gas pattern have mainly severe symptoms of flatus, fullness, rumbling sound and abdominal pain as well as bowel dysfunction, diarrhea and constipation. A decline in the incidence of the gas pattern of irritable bowel syndrome was evident for other generations as there were none in childhood, 15.0% in 20-39yrs, 11.1% in 40-59yrs, 33.3% in 60yrs-. 3) School-maladjustment (53.8%) and anthropophobia (53.8%) were found in the adolescent patients with the gas pattern. The results indicate the presence of an adolescent crisis caused by gas symptoms. 4) Gas symptoms in irritable bowel syndrome could easily be distinguished from a phobia associated with self-odor by the absence of paranoid conditions. 5) It is concluded that the irritable bowel syndrome in adolescence is mainly characterized by "gas". We need a new recognition of gas in the irritable bowel syndrome in adolescence.
著者
荒井 弘和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.15-21, 2019 (Released:2019-01-01)
参考文献数
27

2020年に東京でオリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるなど, わが国のスポーツは最盛期を迎えている. しかし, その主役であるアスリートについては, 心身医学的な問題を抱えていることも少なくない. そのため, アスリートには心身医学的支援が必要である. わが国では, 日本スポーツ心理学会が認定しているスポーツメンタルトレーニング指導士が活躍している. そこで, 心身医学の専門家とスポーツメンタルトレーニング指導士との緊密で継続的な連携・協働が期待される. そのために, わが国の臨床スポーツ心理学の土台を広げる必要がある. 2020年以降も見据えた, 心身医学とスポーツ心理学の連携・協働が期待される.
著者
芦原 睦 荒木 登茂子 松野 俊夫 江花 昭一 坂野 雄二 鈴木 理俊 菊池 浩光
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.745-753, 2004-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

医療における心理士の資格について議論されて久しい. 本学会においても, 1995年の第36回日本心身医学会総会(末松弘行会長)の際にワークショップ「臨床心理の現状と今後の課題」で取り上げられて以来, ほぼ毎年議論が続けられている. さらに, 2000年6月にはコメディカルスタッフ認定制度委員会が発足し, 具体的な医療心理士(仮称)制度の制定と運用に関する議論を重ねてきた. 同委員会の2001年12月までの活動報告は, 本誌42巻8号「医療における心理士の資格-現状と現実的問題点を含めて」に記載したので参考にされたい. 今回は, その後の議論を含め, 第44回日本心身医学会総会(石津宏会長)での, パネルディスカッションにおける各パネリストの発表をもとにした総説としたい. まず, 医療心理士の現状と研修という点から, 心理士と医師の各々の立場から述べた松野論文と江花論文を掲載したい.
著者
富岡 光直
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1025-1031, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
8

ストレス関連疾患あるいは心身症では, 心理社会的要因により否定的な情動や身体的緊張が持続するため, 持続, 増悪するメカニズムが存在する. リラクセーション法はストレス刺激による心理・生理的反応を緩和・緩衝する技法である. 広義には心身医学領域で用いられている心理療法全般が含まれることになるが, ここでは身体的緊張を改善する目的で用いられている技法に焦点を絞る.心身医学領域で用いられている主な技法には, 漸進的筋弛緩法, 自律訓練法, バイオフィードバック法, 呼吸法などがある. これらの技法がストレス関連疾患の治療に用いられる場合には, リラックス状態を得ることに加え, 心身の状態への気づきを高めること, セルフコントロール力を身につけること, 再発を防止することまでを視野に入れて指導が行われる (松岡, 2006).講習会では, 代表的な技法の概略を示し, 治療の中でどのように用いられているのかを解説した.
著者
小柳 憲司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.625-628, 1998-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
7

鉄欠乏性貧血による異食症の影響が大きいと考えられた抜毛癖の症例を経験した.患児は毛髪を抜いては口に入れる行為を繰り返していたが, 経過中, 抜毛できないように髪を短くカットしたところ, 飼い犬の毛を切ってまで口に入れる行為が出現したため, 鉄欠乏性貧血の存在が疑われた.そして, 鉄剤の投与によって, 抜毛および(毛髪)異食症は急速に改善した.一般に, 抜毛癖は体毛を抜くという行為自体が快感であると考えられているが, 本症例の場合には, 抜く時の感覚そのものより, 抜いた体毛を口に入れる行為を快感に感じていたと思われる点で, 抜毛癖としてはやや特異なカテゴリーに入るといえるだろう.
著者
清水 夏恵 村松 芳幸 成田 一衛
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-35, 2013-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1

糖尿病患者では高血糖や神経障害などが不眠を認める原因と考えられており,一方で睡眠時間の低下や質の低下が糖尿病を引き起こす可能性も指摘され,相互に影響を及ぼしあっていると考えられている.また睡眠時無呼吸症候群や,抑うつや不安など精神症状を合併しやすいため睡眠障害をきたしやすいとも指摘されている.糖尿病患者の多くは矢感情症,失体感症の存在が明らかであることも指摘されており,不眠を自覚せず訴えがないため医療者側は治療対象にしていない場合もあると考えられる.糖尿病患者の睡眠障害を医療者側が意識的に診断し,良好な血糖コントロール管理に加え併存する症状に対しても,心身医学的な視点をもって適切な治療を行うことが重要である.