著者
千々岩 武陽 伊藤 隆 須藤 信行 金光 芳郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.1056-1062, 2017 (Released:2017-10-01)
参考文献数
14

心身医学の臨床では, 薬物療法や心理療法を用いても十分な治療効果が得られにくい, 抑うつ状態を呈した症例に遭遇することが少なくない. しかし, これらに対して 「温補」 という漢方医学的アプローチを用いることで, 奏効するケースが存在する. 今回, 抑うつ症状に対して漢方薬による温補療法が奏効した3症例について報告する.症例1は66歳, 女性. ストーマ造設術後から気分が落ち込むようになり, 吐き気, 食欲低下を主訴に外来を受診した. 「全身が冷える」 という訴えを重視して, 真武湯と人参湯エキスの併用を開始した結果, 内服2週間後には全身が温まる感覚とともに, 食欲と気分の著明な改善がみられた. 症例2は33歳, 女性. 微熱, 下痢, 抑うつを主訴に外来を受診した. 電気温鍼の結果を参考に通脈四逆湯 (煎薬) を処方した結果, 手足が温まるとともに, 心理テストのスコアは大きく改善した. 症例3は35歳, 女性. 4年前からうつ病と診断され, 各種抗うつ薬, 漢方薬に効果がみられないため, 筆者の外来を受診した. 通脈四逆湯を処方したところ, 内服2日後から外出が可能となり, 2週後には食欲と冷えが改善, 6週後には睡眠薬を必要とせずに良眠が得られるようになった.現代医学的に治療抵抗性がみられる抑うつや精神不穏を呈するケースの中には, 裏寒すなわち 「臓腑の冷え」 が病態を修飾しているものがある. その場合, 漢方薬による温補療法は心身医学領域においても有効な治療手段であることが示唆された.
著者
小林 伸行 高野 正博 金澤 嘉昭 濱川 文彦 中島 みどり 霜村 歩 西尾 幸博 山田 一隆
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1018-1024, 2013-11-01
被引用文献数
1

肛門からガスが漏れていると信じる自己臭症(自臭)患者に対して,肛門括約筋を強化するバイオフィードバック(BF)訓練を行った.対象と方法:大腸肛門科を受診した自臭患者でBF治療に同意した20名(男性9名,女性11名,平均年齢36.4±12.9歳)を対象とした. BF前後にWexnerスコアの算定,肛門内圧検査を行った.患者の自己申告をもとに総合改善度を評価した.結果:13.4±8.6回のBFを行い,自覚的漏れはWexnerスコアで8.1±3.7点から5.8±3.2へと有意に改善した(p<0.01).最大肛門静止圧は治療前後で差はなく,最大随意圧(MSP)は男性では325.2±57.6cmH_2Oから424.4±105.8へと有意に増加したが(p<0.05),女性では差はなかった.総合改善度は消失5名,改善11名,不変4名であったが, MSPの増加量とは相関しなかった.結語:自臭患者にBFを行い80%に有効であった. BFの直接的効果ではなく治療構造自体が治療的と考えられた.妄想が強くても適応可能な新しい試みである.
著者
舘野 歩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1224-1229, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
7

神経因性頻尿に対する精神療法の中では, 森田的志向のカウンセリングが基本であると笠原は述べている. しかし神経因性頻尿に対する森田療法を実施した報告は今までにない. そこで今回入院森田療法により軽快した広場恐怖を伴う神経因性頻尿の1症例を報告した. 入院後約1カ月間は尿意を感じつつ生活に必要な行動を優先して動ける体験ができた. 次に患者自身に作業の負担が増えると自己決断ができず頻尿や身体症状が出現した. 入院後出現した身体症状の心性は, 頻尿の背後の対人恐怖心性と共通していると理解された. 今までは頻尿と身体症状の背後にある対人恐怖心性からさまざまな場面を回避してきたが, 入院森田療法の中で対人緊張がありつつその場面を避けずに自分の意見を言えるようになっていったことが退院後良好な経過をたどったと考えられる.
著者
中村 和弘
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.203-209, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
22

心理ストレスは脳の交感神経調節系に作用してさまざまな生理反応を生じさせる. 体温の上昇は顕著な生理反応の1つであり, 強い心理ストレスが心因性発熱と呼ばれる高体温症状を引き起こすこともある. こうしたストレス反応は基本的な生理反応だが, その中枢神経機序は研究途上である. ストレス性体温上昇とよく似た体温上昇である感染性発熱の神経回路機序と比較すると, どちらも視床下部背内側部から吻側延髄縫線核を介した交感神経駆動経路を通じて褐色脂肪熱産生が亢進することで生じる. しかし, 視床下部背内側部を興奮させる仕組みがストレス性体温上昇と感染性発熱とでは異なる. 感染性発熱は, 視索前野でのプロスタグランジンE2作用を介した神経伝達変化が視床下部背内側部を興奮させることで惹起される一方, ストレス性体温上昇は, 皮質辺縁系から視床下部背内側部へのストレス信号入力によって視床下部背内側部ニューロンが興奮することで惹起される.
著者
吉野 槇一 中村 洋 判治 直人 黄田 道信
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.559-564, 1996-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

RA患者と健常者の笑いによる神経内分泌-免疫系の変化を, 落語観賞前後で調査した。その結果, RA患者の血漿中メチオニン-エンケファリン, ACTH, IL-6,IFN-γが, また健常者の血漿中メチオニン-エンケファリン, サブスタンスP, ノルエピネフリン, ACTH, CD4/CD8,%CD57,IFN-γが落語後に変化した。特に, RA患者で疾患の活動性に相関するIL-6値が, 落語後には落語前の1/3に低下し, 健常者の値に近づいた。これらより, 楽しい笑いは神経内分泌-免疫系に作用し, RAの活動性を改善させうることが示唆された。

5 0 0 0 OA 頭痛

著者
端詰 勝敬 都田 淳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.833-838, 2016 (Released:2016-08-01)
参考文献数
7

5 0 0 0 OA 笑いと免疫能

著者
伊丹 仁朗 昇 幹夫 手嶋 秀毅
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.565-571, 1994-10-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
4

This experiment was conducted to clarify the influence of laughter on the immune system. Nineteen volunteer subjects were taken to a variety theater to experience laughter for three hours. Blood samples were taken from the subjects immediately before and after the performance. The NK activity and CD 4/8 ratio of these blood samples were examined. Without exception, in those subjects with NK activity levels which were below average before the performance, there was a significant increase in these activity levels, and in the CD 4/8 ratiosimmediately after the performance (p<0. 05,Wilcoxon's rank-sum test). In all the subjects who had CD 4/8 ratios that were above the standard level immediately before the performance, there was a significant decrease of these ratios immediately after the performance (p<0. 05,t-test). From these findings it is concluded that laughing increases the NK activity of people whose ac- tivity levels are below average and normalizes the CD 4/8 ratios of people whose ratios are above or below the standard levels.
著者
松原 慎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.993-1000, 2016 (Released:2016-10-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

機能性消化管疾患 : 診療ガイドライン2014が上梓された. その中でも過敏性腸症候群 (IBS) の治療の第3段階においては, 催眠療法, 認知行動療法 (CBT), 弛緩法がエビデンスのある有効な治療として推奨された1) . これらは心身医学の専門医が積極的に適用すべき治療法である. しかし一方で, 第3段階の治療を複数はおろか一つでも縦横に使いこなせる心療内科医もまだ十分には育成されていないと思われる. 従来の常識とは異なり, 現代の催眠は, オーダーメイドが可能なことから自律訓練法 (AT) より支配性が少なく安全に用いることができる. しかし, エビデンスのある腸指向催眠療法 (GDH) は伝統的催眠の手法を用いている. またCBTも瞑想およびリラクセーションを取り入れ, 催眠もCBTも変性意識を扱うようである. 本稿では, 催眠療法およびその近縁であるATとCBTのエビデンスの紹介および実践上の注意点, 各治療法の長短について, 横断的に比較検討して概説した.
著者
北岡 志保 古屋敷 智之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.922-928, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
21

社会や環境から受けるストレスは内分泌系, 免疫系, 自律神経系を介したストレス応答を惹起する. しかし, これらのストレス応答がいかに統合されて情動変容や精神疾患を促すかには不明な点が多い. 近年ストレスによる情動変容における炎症様反応の重要性が確立され, この炎症様反応における内分泌系, 免疫系, 自律神経系の関与が調べられている. 末梢では, ストレスによる内分泌応答は骨髄系細胞を活性化し血中の炎症性サイトカインを上昇させ, 交感神経の活性化は血中の顆粒球・単球を増加させる. また, ストレスは腸内細菌叢を変化させ免疫系を活性化する. 脳内では, ストレスはミクログリアを活性化し炎症関連分子を介して前頭前皮質のドパミン系を抑制する. これらの知見は, 多様なストレス応答が脳内外の炎症様反応に収斂して情動変容や精神疾患を促すことを示唆しており, ストレスによる炎症様反応を標的とした新規抗うつ薬の開発を期待させる.
著者
富田 望 嶋 大樹 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.65-73, 2018 (Released:2018-01-01)
参考文献数
18

本研究では, 社交不安症における心的視点を測定する尺度を作成し, 信頼性と妥当性を確認することを目的とした. Field視点 (F視点), Observer視点 (O視点), Detached Mindfulness視点 (DM視点) の3因子構造を想定した17項目の尺度を作成し, 学生283名に対して質問紙調査を実施した. 因子分析によって項目を抽出し, 内的整合性を確認するためにα係数を算出した. また, 構成概念妥当性を検討するために, 3下位尺度と, それぞれに類似する概念もしくは異なる概念を測定する尺度との相関係数を算出した. さらに, 再検査信頼性を検証するために2週間の間隔をあけた再テスト法を用いた. その結果, F視点, O視点, DM視点の3因子13項目から構成される質問紙が作成された. また, 十分な内的整合性, 再検査信頼性, 構成概念妥当性が示された.
著者
岡本 百合 三宅 典恵 香川 芙美 吉原 正治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.423-428, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
12

近年, 受診する成人の背景に自閉症スペクトラム障害 (autism spectrum disorder : ASD) をもつ例が多いことがいわれている. 大学の中にも, 自閉症スペクトラム (autism spectrum : AS) 特性を背景として, 併存症や不適応問題を抱えて来談・受診する学生が増加している. 保健管理センターに来談・受診する学生に, 厳密にASD診断がつく者は一定割合はいるものの, 多くはグレイゾーンの学生たちである. 今回は, 広い意味でAS特性をもつ大学生の臨床像について報告した. 障害学生支援については, 2016年 (平成28年) 4月に障害者差別解消法の合理的配慮規定などが施行され, 修学上の支援は充実されつつある. しかしながら, 修学上の問題以外の不適応問題に取り組む必要がある. また, 大学生活への適応だけでなく, 卒業後の方向性もふまえて支援していくことが重要と思われた.
著者
楠 裕明 山下 直人 本多 啓介 井上 和彦 石井 学 今村 祐司 眞部 紀明 鎌田 智有 塩谷 昭子 春間 賢
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.10, pp.949-954, 2010-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

炎症性腸疾患であるクローン病や潰瘍性大腸炎は消化器心身症の代表的存在として扱われてきた.われわれは現在の炎症性腸疾患と心身医学の関係について総説した.潰瘍性大腸炎はその発症に心理社会的因子は高率に関与するとした報告もあり,患者本人のストレスを受けやすい強迫的性格もみられ,症状の増悪や再燃などの長期経過にも関連性が強い.クローン病も潰瘍性大腸炎より低率であるが心理社会的因子は発症に関連し,患者にストレスを受けやすい強迫的性格が多く,長期経過にも心理的因子は関連性が強かった.治療に関しては,潰瘍性大腸炎では心身医学的なアプローチが行われる症例もみられるが,クローン病ではあまり行われていない.
著者
田中 輝明 小山 司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.979-985, 2009-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

単極性うつ病と双極性うつ病では治療アプローチが異なるため,「うつ病」診療においては早期診断が重要な鍵となる.抑うつ症状のみで鑑別することは困難であるが,双極性うつ病では非定型症状や躁成分の混入が診断の手掛かりとなることもある.双極性障害の診断には(軽)躁病エピソードの存在が必須であるが,患者の認識は乏しく,周囲からも注意深く(軽)躁症状の有無を聴取する必要がある.双極性障害のスクリーニングには自記式質問紙票も有用である.また,パーソナリティ障害や薬物依存などの併存も多く,複雑な病像を呈するため注意を要する.双極スペクトラムの観点から,双極性障害の家族歴や抗うつ薬による躁転などbipolarityについても確認することが望ましい.双極性障害の薬物治療としては,エピソードにかかわらず気分安定薬が第一選択であり,有効性や副作用(躁転や急速交代化)の面から,抗うつ薬の使用には慎重さが求められる.
著者
岩橋 成寿 國井 啓子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.143-149, 2005-02-01

対麻痺を繰り返し神経内科で多発性硬化症が疑われた症例に二次的疾病利得を認め, 直面化技法を行い, これが奏効したので報告する. 患者は38歳, 大学工学部卒の男性. 突然の両下肢の知覚消失と麻痺が生じ, 多発性硬化症を疑われて神経内科に入院, ステロイド療法を施行された. 過去に2度, 7年前と8年前に対麻痩のため, それぞれ前脊髄動脈症候群, 横断性脊髄炎の診断で6カ付き間の神経内科入院歴があった. 脳と脊髄のMRI所見に異常を認めず, 症状と神経学的所見の解離を認められて第18病日に心療内科に紹介された. 家族面接により, 患者は職場での使い込みと借金を繰り返し, その度に親が責任を問わずに返済していたこと, 今回の発症も使い込みの露見直後である事実が判明し, 使い込みの責任を疾病によって回避するという二次的疾病利得の存在が明らかになった. 診断は転換性障害と詐病の判別が極めて困難であった. 生育歴上, 両親に溺愛され, 父性原理が欠如した養育を受けており, 超自我が未発達と思われた. 父親から「借金の後始末は今回が最後で, 次回は刑事責任も自分でとれ」と通告された後に対麻痺は消失し, 3日後に退院した.
著者
仲 紘嗣
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.737-747, 2011-08-01

「心身(シンシン)一如」は心身医学で重要な概念であるが,この言葉の由来は従来から「道元の言葉"身心(シンジン)一如"とされ,」とあいまいである.近年は栄西の言葉「心身(シンジン)一如」とする説もある.栄西(1141〜1215年)は1198年に『興禅護国論』を執筆しているが,その原本は紛失して現存していない.現在,われわれが一般に読むことができるのは1778年以降の校訂本である.その校訂本では,「心身一如」を含む前後の句を『禅苑清規』(1103年,中国の文献:禅僧の生活規範が記してある)から引用して示している.しかし,『禅苑清規』には「心身一如」ではなくて「身心一如」と記載されている.したがって,栄西の執筆時の言葉は「身心一如」であったと推測される.一方,道元(1200〜1253年)の言葉「身心一如」の出典は『正法眼蔵』「辧道話」(1231年)である.道元の言葉を今日用いている「心身一如」の由来とするには身と心の語順の逆転が問題となるが,そのことに関しては本文で示した理由により納得できるものであった.以上,これらの言葉の出典や原典の検討から,今日用いている「心身一如」の由来は道元の言葉「身心一如」であって,また,「身心一如」は推測ながら栄西の執筆時の言葉でもあったであろう.道元・栄西それぞれの言葉の意味するところは本文で示した.歴史的には「身心一如」は身を重視し「心身(シンシン)一如」は心を重んじてきた.「心身一如」の本来の意味は身を重視した「身心一如」にあり,この概念は心身医学分野ですでに生かされているが,いっそうこの点を念頭に置いて研究・診療にあたるべきであろう.