著者
轟 眞市
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.79-86, 2012 (Released:2012-05-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

研究成果著作物のセルフアーカイビングが,専門分野を越えて幅広い読者を対象とするアウトリーチ活動として機能した例を紹介する。所属機関のリポジトリで公開した2つの英文原著論文の著者最終稿のダウンロード数が,出版してから3年経つにも関わらず,それに続く3年間で約1,500に達した。どちらも掲載雑誌を購読していない読者からのものと考えられ,研究従事者に広く興味を引きやすい内容を有していたことや,実験ビデオ映像をYouTubeで公開して文献に誘導したことが功を奏したと思われる。機関リポジトリの登録文書数を研究者の協力を得て拡大しようとするならば,研究者に登録文書への反響を知る楽しみを認識してもらった上で,自発的にセルフアーカイビングしたくなる環境を構築するのが早道であろう。そのためには,登録した文書に対するアクセス統計が欲しいときにすぐ見られるサービスが求められる。
著者
江渡 浩一郎 土井 裕人
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.666-675, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

筆者らはユーザー参加型研究の場として2011年11月にニコニコ学会βを立ち上げ,所期の5年間の活動期間を終えて次の段階に移行することになった。この間,全9回の総計・約65万人がインターネットで視聴した大規模なシンポジウムを開催して科学技術コミュニケーションに新展開をもたらした。中でも特筆すべきはニコニコ学会βが共創型イノベーションを創出する場となったことである。それを実現する方法論がアンカンファレンスとハッカソンなどといった共創型イベントであり,日常的なマインドから参加者を解放して新たなアイデアを生み出すことに成功している。以上のようなニコニコ学会βの成果は,「共創的科学技術イノベーションの推進」として第5期科学技術基本計画に反映され,文科省の参考資料に取り上げられることとなった。筆者らはニコニコ学会βを先駆的事例として,共創による科学技術イノベーションを今後よりいっそう積極的に後押ししたいと考えている。
著者
廣川 佐千男 伊東 栄典 馬場 謙介
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.447-454, 2015-09-01 (Released:2015-09-01)
参考文献数
7

科学技術の加速度的発達により,一般社会と専門家の乖離(かいり)は大きく,若者の理系離れも問題となっている。専門家であっても,複合領域や未知の分野の調査は容易ではない。本稿では,わが国の科学技術の基本情報である科学研究費の研究成果の概要を対象とした検索可視化システムを紹介する。本システムでは,概要に現れる単語だけでなく,キーワード,分野,研究者,研究者所属,年度などの単語を異なる色の関連語マップ(Mind Map:マインドマップ)として表示する。単語の属性識別により関連解釈が可能となり,知りたいテーマに関連して,「だれが,どこで,どんな」研究活動を行っているかを把握できる。本稿ではシステムの概要と,探索的検索の事例を紹介する。
著者
宮原 志津子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.457-467, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
29

本稿では,シンガポール国立図書館庁(NLB)による図書館情報政策Libraries for Life(Library 2020)と,シンガポールの公共図書館が目指す次の時代の図書館のあり方について検討を行った。シンガポールではこれまでに,2つの図書館情報政策が策定されている。最初のLibrary 2000(1994年)では公共図書館インフラの整備が主に行われ,次のLibrary 2010(2005年)では,電子図書館やインターネットサービスの推進が積極的に行われた。2011年に発表されたLibrary 2020では,図書館のもっとも基本的なサービスである読書を推進するプログラムに焦点が絞られている。これからの時代を担う公共図書館の役割は,多様な背景をもつシンガポール人のコミュニティーをつなぐ場所であり,図書館にはシンガポール文化を掘り起こし,さらに新たに創出する期待が込められているのである。
著者
福島 真司
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.2-11, 2015-04-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
5
被引用文献数
4

エンロールメント・マネジメント(EM)の要諦は,データ分析等の科学的マーケティング手法を用いて,大学マネジメントのPDCAサイクルを永続させることである。マーケティングの現代的な意味は,学生募集や寄付募集だけをさすのではなく,学生の価値を創造し,その価値の最大化を実現し続けるための組織一体となった活動をさす。そこにはインスティテューショナル・リサーチ(IR)が欠かせない。入学前の接触情報から,入試成績,入学時の期待,在学中の成績,教育内容や学生生活の満足度,就職状況,卒業後の大学教育への満足度等を調査分析することなしには,学生を知り抜くことはできない。山形大学EM部では,2010年度より学生データを統合して分析するため「総合的学生情報データ分析システム」の構築を始めた。本稿は,実践事例をもとに,大学マネジメントのPDCAサイクルにIRをいかに実際的に機能させるのかを目的として論じるものである。
著者
伊藤 伸介
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.836-843, 2016-02-01 (Released:2016-02-01)
参考文献数
12

本稿では,政府統計に関するデータシェアリングに焦点を当て,わが国における政府統計のデータシェアリングの現状と今後の方向性について述べた。政府統計データにおいては,統計表の公表だけでなく,匿名化ミクロデータの提供,個票データの提供,オーダーメード集計,オンデマンド型の提供サービス,オープンデータ化といったように,データの秘匿性と利用者のニーズに合わせた形で,さまざまな形態による提供が行われてきた。他方,政府統計に関するデータシェアリングをさらに展開するうえでは,異種の統計調査のデータリンケージ,ビッグデータとしての政府統計の利用可能性,メタデータの整備といった課題についてさらなる検討が必要だと考える。
著者
谷口 祥一
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.20-27, 2015-04-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
7

新たな図書館目録のメタデータ作成基準・規則であるRDAを採用するにあたって,メタデータの構成と構文を規定するメタデータスキーマが必要となる。現在,従来のMARC21を修正したものが欧米では暫定的に使用されているが,それを置換するものとしてBIBFRAMEが検討されている。本稿は,現在提案されているBIBFRAMEの概要とそれが内包する論点や問題点について論じた。BIBFRAME提案の背景と経緯をまず簡単に取り上げた後,BIBFRAMEの概要を要求定義,概念モデル,メタデータエレメントと語彙(ごい)の定義,エンコーディング方式に分け解説した。次に,BIBFRAMEの問題点と課題を,1)RDAメタデータ作成スキーマの観点,2)複数コミュニティーの共通スキーマの観点,3)実質的に「リンクする」メタデータの観点のそれぞれから整理し論じた。
著者
大向 一輝
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.440-447, 2013-10-01 (Released:2013-10-01)
被引用文献数
1 1 3

政府・地方自治体・公的機関による情報公開の取り組みの一環として「オープンデータ」が注目を集めている。欧米の動きと比較すると,日本におけるオープンデータの普及が遅れていることは確かであるが,行政機関や市民の努力によって,急速にデータの質・量ともに充実が進んでいる。本稿では国内における先進例を紹介し,今後の展望について議論する。
著者
中村 伊知哉
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.891-898, 2013-03-01 (Released:2013-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

デジタルサイネージは,かつて電子看板と呼ばれていたが,屋内でも,小型の画面でも使われ,広告以外の多様な情報も発信されるようになり,新しいメディアとして発展が期待されている。最近の動向としては,(1)パーソナル:家庭にも普及を始めている,(2)パブリック:学校,病院,役所などで公共的な情報の共有手段になりつつある,(3)ポップ:目を引く楽しいコンテンツが増加している,の3点が挙げられる。さらに,(1)べんり=役立つメディアへの進化,(2)つながる=ネットワーク化,(3)みんな=ソーシャルメディアとの連動,という傾向を強めるとともに,自動販売機,ケータイ,カラオケなど日本が強みを持つ機器・ビジネスとの連動も目立っている。
著者
小林 麻実
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.545-554, 2011 (Released:2011-12-01)
参考文献数
3
被引用文献数
2

2003年東京都港区に私立会員制図書館として創設されたアカデミーヒルズ六本木ライブラリーの理念と実践を紹介する。著者は,図書館の意義を「過去の先人の残した知見や同時代の他者が持つ知識・経験といった情報を共有することにより,新たなイノベーションを個人が創り出していく場」ととらえ,新しい学びや協働を育む「場」を社会人に対して提供してきた。組織を離れた個人としてのつながりや情報交換が図書館内に生まれるように8年にわたってさまざまな工夫を重ねている。その結果としてラーニングコモンズやコワーキングという言葉が生まれる以前に,その内容を実践してきた。
著者
岡本 真
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.632-643, 2007 (Released:2007-02-01)
参考文献数
8

「Web2.0」時代における学術情報発信のあり方について展望と課題を示す。まず「Web2.0」の理解の仕方を説き,続いてブログにおける学術情報発信の実例に基づいて「Web2.0」が学術情報発信にもたらす価値を説く。特にユーザー参加の拡大と参加拡大のためのデータ開放の意義を強調する。同時にユーザー参加による学術情報発信の活性化を阻む要因の存在を指摘し,現時点におけるブログを中心としたWebでの学術情報発信におけるコミュニケーションモデルの限界を示唆する。最後に課題を解決するための方策として,学術情報発信組織が有する大規模データの開放を提案する。
著者
原田 隆史
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.725-737, 2012 (Released:2012-02-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

Project Next-Lは,次世代の図書館システム開発の主導権を図書館関係者自身の手に取り戻し,オープンソースによる図書館システムの仕様を図書館員が共同で作成することを目指すプロジェクトである。Project Next-Lの仕様をもとに開発された統合図書館管理システムNext-L Enjuは,一般的な図書館システムの機能を備えるほか,Web2.0に対応した各種の新機能,図書と電子ジャーナルなどの電子的情報資源を一元的に管理する機能,FRBRに対応した書誌レコードを管理する機能など,数多くの新しいサービスに対応する仕組みを備えている。また,Next-L Enjuはオープンソース・ソフトウェアとして公開されており,自由に利用することができるという点も大きな特徴である。Next-L Enjuは2012年1月から正式公開された国立国会図書館(NDL)サーチのベースとして採用されているほか,物質・材料研究機構の図書館や南三陸町図書館で実際に稼働しはじめるなど利用が広がりつつある。