著者
照屋 信治
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 2009-03-31 (Released:2017-11-28)

従来、近代沖縄教育史研究は「皇民化教育」「同化教育」という用語で、近代沖縄教育の基本的性格を言い表し、明治国家の教育政策の抑圧性を批判する視座が支配的であった。そのような研究視座は、「同化教育」「皇民化教育」の抑圧性を強調するあまり、沖縄人の主体的営為への着眼が薄いという問題を抱えてきた。そこで、本稿では「嚏(くしゃみ)する事まで他府県の通りにする」と発言し「皇民化教育」「同化教育」の象徴的存在とされてきた新聞人・太田朝敷(1865-1938)の沖縄教育に関する思想や「新沖縄」の構想を再検討した。「同化」概念の多義性に留意しつつ、教育会を抗争の舞台ととらえることにより、太田が、「大和化」には回収されない「文明化」の回路を提示し、「沖縄人」意識の存立基盤を提供したことを明らかにした。
著者
田中 智輝
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.461-473, 2016

<p> 本稿の目的は、H.アレントの暴力論と教育論における「権威」をめぐる議論を整合的に解釈することを通じて、政治的主体の育成における教育者の「権威」のあり方を考察することである。教育と政治の緊張関係においてなぜ、いかなる「権威」が要請されるのか。本稿では、教育、政治、そして「権威」の関係を根本的に問い直すことを通して、政治的中立性や教師のポジショナリティの問題への示唆を試みる。</p>
著者
高田 一宏
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.180-191, 2008-06-30 (Released:2017-11-28)

教育をめぐる社会的不平等の克服をめざして、同和教育は学力保障の実践を積み重ねてきた。しかし、近年の調査によると、同和地区の子どもの学力低下は著しく、地区内外の学力格差は拡大する傾向にある。この論文では、先行研究を参照しつつ、同和地区の子どもの低学力要因と諸要因の関連構造を示した。さらに、学力保障の展望を探るべく、学校と家庭・地域の連携から生み出される社会関係資本の意義について述べた。同和地区の子どもの低学力は、不平等な機会構造、同和地区の下位文化と学校文化の不連続性、学校による下位文化の「再創造」、同和地区人口の流出入と若年層における就労の不安定化、消費社会化といった要因が複合的に作用した結果だと考えられる。地区の子どもの低学力問題の克服は容易ではないが、「効果のある学校」においては、学校・家庭・地域の信頼・協力関係が、学校内外の文化変容と取り組みの相乗効果をもたらしている。
著者
鈴木 正敏
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.460-472, 2014 (Released:2015-06-25)
参考文献数
25

幼児教育・保育については、対投資効果の点でその重要性が世界各国で認識されている。本稿では、各国での優れた実践とその評価方法に着目した。その上で、1)幼児教育・保育が投資するに値する重要なものとして社会全体が認知すること、2)幼児教育・保育の質の改善のためのシステムを新たに構築すること、3)その効果を立証するために、保育学と教育学が恊働して長期にわたる縦断的研究を行う必要があること、が示唆された。
著者
林 明子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.13-24, 2012-03-30 (Released:2017-11-28)
被引用文献数
2

本稿の目的は、経済的に不利な状況におかれている家庭の子どもたちが日常生活と進路選択をどのように経験しているのかを解明し、なぜ彼/彼女らが相対的に低位の進路にたどり着くのかに迫ることにある。ライフストーリーに着目し分析をおこなったところ、子どもたちは家庭の困難により学校では周辺的な位置におかれる一方で、家庭がよりどころとなり「家庭への準拠」を強めていた。その帰結として、子どもたちは低位の進路を選択することになったのである。
著者
南 相瓔
出版者
日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.p121-131, 1991-06

金沢大学大学院人間社会研究域経済学経営学系
著者
村上 祐介
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.398-410, 2011-12-29 (Released:2018-12-26)
被引用文献数
1

少数または単一の事例を分析する定性的研究には、個性記述的・差異化志向と、法則定立的・一般化志向の2つのタイプがある。現在の教育学は理論化志向の弱さや、量的研究対質的研究の二分法的枠組みが強いため、一般化志向の事例研究が少ない。それゆえ、個別の事例研究が体系的な理論構築に結びついていない。本論では社会科学方法論の知見から、抽象(理論)と具体(経験)の循環という基本に立ち返った事例研究の方法論を提示する。
著者
山根 栄次
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.274-283, 1983-09-30 (Released:2009-01-13)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
河原 国男
出版者
日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.147-155, 2002-03

本稿はヴェーバーの「比較宗教社会学」のなかの中国儒教論をとり上げ、ピューリタン的合理主義(現世支配的合理主義)と儒教的合理主義(現世適応的合理主義)との比較を通じて、それぞれに基づく教育観の特質を明らかにし、その上で、この二つの類型を封建日本論と関連づけながら、ヴェーバーによるこの合理主義の対比が同じく儒教の展開した日本近世の教育思想史にどのような教育上の見通しを提起するものであったかを考察した。その結果、つぎのことが仮説として明らかになった。1)たしかに日本近世儒教の教育理念には、客観的で非人格的な(没我的)性格(即事性)の使命(日常的課題)を有するピューリタン的合理主義から隔てられるという仮説が成り立つ部分がある。二つの点がある。第一に前者の場合、非客観性(「非即事性」)として特徴づけられ、情誼的な所与の人間関係、とくに「孝」を枢要徳とする「人間関係優先主義」ではないか。第二に封建社会の倫理として、「騎士的人間形成」を目標としている前者は「人格的なもの」の崇拝として特徴づけられるのではないか。こうした点で、日本儒教は、中国儒教の特質と接近する。2)しかし、他方では、封建日本の倫理が、中国儒教と違って、プロテスタンティズムの現世支配的合理主義と類似するという仮説も、同時に成り立っていた。二つの点がある。第一に、封建日本の枢要徳が、個人的自発性(覚悟・決断)に根ざして、封臣の主君に対する忠誠を重んじていること、第二に、「貴族主義」に通ずる「距離感と品位」の貴族的感覚を育むとともに、動物的衝動性に対する自己規律としても特徴づけられる、「遊技」を重んじていることである。こうした諸特性は、禁欲的プロテスタンティズムの自己支配と共通していた。ここにヴェーバーの論説から導かれる上の推測から、一つの問いを提示することができる。いったい日本近世の思想史において、実質的に人間形成の思想はどのような内容を示したか。要するに、a)現世支配的な合理主義が展開したのか、それともb)現世適応的な合理主義が展開したのか、このような合理主義の両概念は根本的な教育態度と緊密に結びついていた。前者は人間形成における「即事性」主義で、後者は「人間関係主義」である。どちらの教育的合理主義がその思想史において優勢だったか。このような問いをわれわれは「ヴェーバー問題」の一つとして特徴づけることができる。この問いは、日本の精神的な近代化の見地から重要である。a)のケースとして荻生徂徠、b)のケースとして徂徠以後の朱子学、を想定することができるだろう。
著者
今津 孝次郎
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.439-449, 2011

教育の臨床的研究にとって「インターベンション=介入参画」は重要な方法である。学校臨床社会学では、この方法を5段階に分けて捉える。《A問題把握と課題設定》《B事前診断と介入参加計画》《C問題解決に向けた「介入参画」》《D援助実践に基づく対象学校の組織文化の検討》《E事後評価》。これらの諸段階は実践的研究過程を対象化して検討するためのもので、教師と研究者との互恵関係を中心とした調査研究倫理を省察する際の規準となる。