著者
山本 崇記
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.2-18, 2012-06-30 (Released:2013-11-22)
参考文献数
46
被引用文献数
2 2

本稿では, 京都市のスラム地域を事例に, 住民の主体形成の論理と構造を分析する. 京都市のスラム地域は被差別部落と隣接し, 同和行政を通じて空間的に分断されてきた. この分断は, 在日朝鮮人集住地域であるスラムと, 被差別部落民を中心とする同和地区との間に, 在日と部落という対立構図を作る. しかし, スラムには被差別部落出身者が流入し, 在日と部落が混住するなかから共同性が育まれ, 繰り返し住民の主体形成が行われてきた. このような実態は, スラムと同和地区の分断のなかにひそむ人や施策の横断の実態をみない旧来の差別論や社会政策論に欠落している点である. 本稿では, スラム地域における住民の主体形成における立脚点と選択する組織形態の関係性を検討し, 住民の力が発揮される主体の再編・結合条件を明らかにする. 結論的にいえば, 流動性の高いスラム地域において, 住民の立脚点となってきたのは, 部落と在日を共約化しうる住民という共通項であり, 属性と地域への差別に抗う指向性にある. これらに立脚しながら, リジッドな地縁組織である自治会・町内会, 柔軟でフラットな青年組織, 社会事業を通じて両者を媒介するキリスト者が, 複層的な関係を形成し, 行政との緊張・対立を通じて, スラム改善の実施と地域社会の自立性を維持してきたのである.
著者
茂木 伸之 鈴木 一弥 山本 崇之 岸 一晃 浅田 晴之
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.94, no.2, pp.27-38, 2018 (Released:2019-12-10)
参考文献数
21

近年,長時間の座位姿勢の継続による健康リスク対策として,立位姿勢で作業を挿入する方法(sit-stand workstation)が提案されている。本研究は立位姿勢を挿入する適切な時間範囲を導くために,2時間のコンピュータ(文章入力)作業を(1)10分立位と50分座位の繰り返し,(2)40分立位と20分座位の繰り返し,(3)座位条件で比較した。測定項目は下腿周囲長,主観的疲労感,身体違和感,反応時間課題であった。その結果,10分立位条件は有効であった。一方,40分の立位姿勢の継続は下肢の負担が生じる条件となった。立位姿勢の適切な挿入時間は10分から30分になった。作業パフォーマンスは男性の10分立位条件の姿勢転換後にリフレッシュ効果が示唆された。(図6 表1)
著者
桑名 義晴 岸本 寿生 山本 崇雄
出版者
消費者金融サービス研究学会
雑誌
消費者金融サービス研究学会年報 (ISSN:13493965)
巻号頁・発行日
no.6, pp.43-52, 2005

近年、日本の消費者金融サービス業は急速に成長・発展を遂げたが、その反面成熟段階を迎えつつあるのも事実である。このため、日本の消費者金融企業は多角化や国際化で新たな活路を見出さなければならなくなっている。前者については、すでに多くの企業が試みつつあるが、後者については、ごく一部の企業が挑戦しているとはいえ、これからの課題となっている。もし日本の消費者金融企業が海外展開するとすれば、どの地域が有望となるか。それは、いうまでもなくアジア地域であろう。そこで本稿では、アジア地域でも経済、とりわけ金融市場が発展している台湾と香港を研究対象にして、そこでの消費者金融サービス業の発展、現状と特徴、および問題点を考察し、日本企業の進出の可能性、条件、方法などを明らかにすることにした。台湾では、近年消費者金融サービス業が急速に発展しているが、現在の段階では銀行しかそのビジネスを行なうことができない。このため、もし日本企業が台湾に進出するとしても、銀行などと提携して進出しなければならないだろう。一方、香港では消費者金融サービス業は比較的早くから発展してきているため、現在専業、カード会社、銀行との間で過当競争がみられる。したがって、香港での消費者金融ビジネスの展開にはかなり厳しいものが予想される。しかし台湾と香港においては、まだ日本におけるような消費者金融サービス業のビジネス・モデルが十分に確立されていないので、日本の消費者金融企業の進出の可能性が残されていると思う。日本の消費者金融企業は、多くの優れたノウハウやスキルを有しているので、両地域でもそれらをうまく活用すれば成功する可能性が大きい。
著者
山本 崇記
出版者
Japan Association for Urban Sociology
雑誌
日本都市社会学会年報 (ISSN:13414585)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.27, pp.61-76, 2009 (Released:2011-10-07)
参考文献数
29
被引用文献数
3 2

This paper focuses on a squatter area in Kyoto City to clarify the conditions under which a residents movement can develop. My first purpose is to examine the difficulties of making residents' association in the underclass. In squatter areas, population fluidity is so high that it's difficult to make residents' association, so there are few research results about residents movements in lower class. Second is to approach minority and residents movements at the same time. The residents in the squatter area consist mainly of the Korean ethnic minority. For this reason, previous research has given more weight to ethnicity than to the viewpoints of the residents. This paper takes up a residents movement in a squatter area called ″40-banchi″ in Higashi-kujo. A marginal area, Higashi-kujo is located in south of Kyoto Station and is a Korean slum. Additionally, the slum is adjacent to a Buraku area. In fact, 40-banchi is lower than a slum or Buraku. Compared with these areas, it has stayed undeveloped and has been neglected by the local administration for a long time. 40-banchi is located in a river area between Takase and Kamo River, a substandard living environment where many shanties are squeezed together and which suffers damage from floods and fires frequently. The administration regarded 40-banchi as an illegal area. One could assume that making residents' association is difficult in such an area. But a powerful residents movement has risen up since the 1970s. In the 1990s, it made the administration build public housing that maintained characteristics of the community in the squatter area. The secretariat of the residents' association formed an NPO and is in charge of managing the housing. Thereby the practices in 40-banchi can be considered as an advanced reference point for community building of slums and Buraku.
著者
菅原 貴志 高里 良男 正岡 博幸 太田 禎久 早川 隆宣 八ツ繁 寛 今江 省吾 山本 崇裕 武川 麻紀
出版者
一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
雑誌
脳卒中の外科 (ISSN:09145508)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.294-298, 2006 (Released:2008-08-08)
参考文献数
7

Generally vitreous hemorrhage (VH) is detected in 2.2% to 13% of subarachnoid hemorrhage (SAH) patients. VH with SAH (Terson's syndrome) is known to occur frequently in patients with severe SAH or re-ruptured aneurysms. We retrospectively analyzed 20 patients diagnosed with Terson's syndrome out of a total of 881 patients treated for SAH in our department from July 1995 to October 2004. Our study group comprised 15 male and 5 female patients ranging in age from 38 to 77 years (mean 51.2 years). Each patient was classified in Hunt & Kosnik (H&K) grades on admission. One patient was classified in Grade 2, 3 patients in Grade 3, 7 patients in Grade 4 and 9 patients in Grade 5. Each patient was further classified in a Fisher group: 1 patient was in Group 2, 9 patients in Group 3, and 10 patients in Group 4. Regarding the aneurysmal location, 4 cases had ICA aneurysms, 6 had AcomA aneurysms, 4 had MCA aneurysms, 4 had VA or BA aneurysms, and 2 had ACA aneurysms. Re-rupture of aneurysm occurred in 4 cases. Two patients underwent external ventricular drainage because of acute hydrocephalus immediately after CT on admission. Seventeen aneurysms were treated by surgical neck clipping, and 3 aneurysms were treated by intra-aneurysmal coil embolization as the final treatment. Seven patients underwent external decompression because of severe brain swelling, and 6 patients underwent V-P shunt for chronic hydrocephalus. Symptomatic vasospasm occurred in 1 case. Glasgow Outcome Scale (GOS) at discharge showed that 8 patients were GR, 10 were MD, and 2 were SD. VH occurred in only 1 patient on the contralateral side to the ruptured aneurysm among those who had obvious hemilateral VH. Vitrectomy was performed for the 17 VH of 10 patients, and the duration from VH onset to treatment was 8-24 weeks (mean 16.4 weeks). Conservative therapy was done for 15 VH of 10 patients, and the follow-up duration was 12-102 weeks (mean 27.0 weeks). Comparing these 20 VH patients with 311 favorable-outcome (GR or MD) patients who were not considered to have VH, H&K grade or Fisher group scales were significantly higher in VH patients. No significant difference existed between the groups with regard to the number of ruptures or the location of the ruptured aneurysms.
著者
吉川 聡 渡辺 晃宏 綾村 宏 永村 眞 遠藤 基郎 山本 崇 馬場 基 光谷 拓実 島田 敏男 坂東 俊彦 浅野 啓介 石田 俊 宇佐美 倫太郎 海原 靖子 大田 壮一郎 葛本 隆将 黒岩 康博 桑田 訓也 古藤 真平 小原 嘉記 坂本 亮太 島津 良子 高田 祐一 高橋 大樹 竹貫 友佳子 谷本 啓 徳永 誓子 富田 正弘 中町 美香子 長村 祥知 根ヶ 山 泰史 林 晃弘 藤本 仁文 水谷 友紀 山田 淳平 山田 徹 山本 倫弘 横内 裕人 栗山 雅夫 佃 幹雄
出版者
独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

東大寺図書館が所蔵する未整理文書のうち、中村純一寄贈文書と、新修東大寺文書聖教第46函~第77函を調査検討し、それぞれについて報告書を公刊した。中村文書は内容的には興福寺の承仕のもとに集積された資料群であり、その中には明治維新期の詳細な日記があったので、その一部を翻刻・公表した。また中村文書以外の新修東大寺文書からは、年預所など複数の寺内組織の近世資料群が、元来の整理形態を保って保存されている様相がうかがえた。また、新出の中世東大寺文書を把握することができた。
著者
鈴木 一弥 落合 信寿 茂木 伸之 山本 崇之 岸 一晃 浅田 晴之
出版者
公益財団法人大原記念労働科学研究所
雑誌
労働科学 (ISSN:0022443X)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.117-129, 2014 (Released:2016-03-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

高さが可変できるデスクを使用した立位の挿入がデスクの作業者の下腿周径,主観的疲労感,作業パフォーマンスに及ぼす影響を検討した。12名(男性6名,女性6名)の被検者が実験に参加した。2時間のパソコン作業(文章転写)を(1)座位条件,(2)20分間の立位と40分間の座位の繰り返し(転換条件),(3)立位条件,の3条件で実施した。左足の下腿周径,主観的疲労感,身体違和感,反応時間課題が作業開始前,作業開始後20分,60分,80分,120分に測定された。左足・足首および膝・下腿の違和感は立位と比較して座位および転換条件で有意に低下した。臀部の違和感は座位条件と比較して立位および転換で低下した。眠気の平均評定値は,座位>転換の傾向差を示した。下腿周径は,座位と比較して転換条件で有意に低下した。(図8)
著者
藤井 朋之 東郷 敬一郎 山本 崇博 鈴木 幸則 島村 佳伸 尾嶋 良文
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.770-777, 2013-12-15 (Released:2013-12-20)
参考文献数
11
被引用文献数
4 5

In this paper, fatigue tests and finite element analysis are carried out on spot weld-bonded joints of mild steel (270MPa class) and ultra-high strength steel (980MPa class) in order to investigate influence of strength level of base steels on fatigue strength and fatigue fracture behavior of spot weld-bonded joints. From the fatigue tests and finite element analysis, the following results are obtained : (1) The fatigue strength of the spot weld-bonded specimen is higher than that of the spot welded specimen. (2) The fatigue limit of the spot weld-bonded specimens of the ultra-high strength steel is higher than that of the mild steel. (3) The interfacial debonding propagates from the adhesive edge to a nugget edge, and the fatigue crack initiates at the nugget edge in both steels. (4) The fatigue strength of spot weld-bonded specimens is improved because the stress concentration at the nugget edge is reduced by adhesive bonding during large part of fatigue life.
著者
宮崎 晃亘 小林 淳一 山本 崇 道振 義貴 佐々木 敬則 仲盛 健治 廣橋 良彦 鳥越 俊彦 佐藤 昇志 平塚 博義
出版者
一般社団法人 日本口腔腫瘍学会
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.117-122, 2011-12-15 (Released:2012-01-24)
参考文献数
7

Survivinはinhibitor of apoptosis protein(IAP)ファミリーに属する分子で,各種悪性腫瘍において強い発現を認めるが,成人正常臓器ではほとんど発現を認めない。われわれはサバイビンが理想的がん抗原であり,survivin由来のHLA-A24拘束性survivin-2B80-88(AYACNTSTL)がcytotoxic T lymphocyte(CTL)応答を誘導することを以前に報告した。この研究結果をもとに,2003年9月に進行・再発口腔がん患者に対してsurvivin-2Bペプチドを用いた臨床試験を開始し,安全性と抗腫瘍効果を評価した。survivin-2Bペプチドは14日間隔で計6回接種した。その結果,口腔がん患者に対するペプチド単剤投与の安全性が確認されるとともに,その有効性が示唆された。さらに,2006年9月にsurvivin-2Bペプチドに不完全フロイントアジュバント(IFA)とinterferon(IFN)-αを併用した臨床試験を開始した。survivin-2BペプチドとIFAの混合液を14日間隔で計4回接種し,IFN-αは週2回あるいは1回皮下投与した。現在のところ,重篤な有害事象は出現していない。IFAとIFN-αを併用した臨床試験では,単剤投与と比較してペプチド特異的CTLを効率良く誘導し,安全性も容認されることが示唆された。本療法は口腔がん患者に対する新たな治療法の一つとして有用と考えられた。
著者
勝連城二 永久 龍彦 山本 崇夫 長岡 恭弘 米澤 浩和 冨田 泰弘 渡里 滋 國信 茂郎
雑誌
情報処理学会研究報告計算機アーキテクチャ(ARC)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.51(1990-ARC-062), pp.1-6, 1990-06-22

RISC型マイクロプロセッサ(105)は、SPARCアーキテクチャを採用した64ビットMPUでその高機能化及び高集積化を実現することにより1チップ内のトランジスタ数は約100万個に達する。その内部は、整数演算、浮動小数点演算、命令キャッシュ、データキャッシュ、メモリ管理及びバスコントロールの6個の機能モジュールから構成され、40MHzの動作周波数で、40MIPS/20MFLOPSのピーク性能を達成している。このような大規模なチップの開発において我々は、テスト容易化設計によるテスティングの効率化や高速な内部信号のタイミングの検益のための新たな故障解析手法を採用し、さらにMPUのテス卜・デバッグをより効率的にかつ高度に解析可能な環境としてEBテスタを中心とするテスト・デバッグシステムを構築した。
著者
渡辺 晃宏 馬場 基 市 大樹 山田 奨治 中川 正樹 柴山 守 山本 崇 鈴木 卓治
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2003

奈良文化財研究所では、1961年に平城宮跡で初めて木簡を発掘調査して以来、20万点を超える木簡を調査・研究してきた。今回の研究では、この蓄積と、文字認識や情報処理に関する最新の情報学・情報工学との連携を図り、(1)木簡の情報を簡易にデジタル化するシステムの開発、(2)木簡の文字画像データベースの作成、(3)木簡解読支援データベース群の構築、(4)木簡の文字自動認識システム(OCR)の開発の4点を軸に研究を進め、木簡の文字画像データベース「木簡字典」と、木簡の文字解読支援システム「Mokkan Shop」(モッカンショップ)を開発した。「木簡字典」には、カラー・モノクロ・赤外線写真・記帳ノート(木簡の読み取り記録)の4種類の画像を掲載しており、これまでに約1,200字種、約20,000文字を収録した。「Mokkan Shop」には、今回開発した墨の部分を抽出するための画像処理手法や欠損文字に有効な文字認識システム、及び今回入力した古代の地名・人名・物品名のデータベースに基づく文脈処理モジュールを搭載し、解読の有効性を高めることができた。これにより、全体が残るとは限らない、また劣化の著しい、いわば不完全な状態にあるのを特徴とする木簡を対象とする、画期的な文字の自動認識システムの実用化に成功した。「木簡字典」と「Mokkan Shop」は、木簡など出土文字資料の総合的研究拠点構築のための有力なツールであり、当該史料の研究だけでなく、歴史学・史料学の研究を大きく前進させることが期待される。なお、今回の研究成果の公開を含めて木簡に関する情報を広く共有するために総合情報サイト「木簡ひろば」を奈良文化財研究所のホームページ上に開設した。また、WEB公開する木簡字典とは別に、『平城宮木簡』所収木簡を対象とした印刷版「木簡字典」として、『日本古代木簡字典』を刊行した。
著者
山川 啓介 山本 崇史 桂 大詞 井上 実 畠山 望 三浦 隆治 岡島 淳之介 稲葉 賢二 石澤 由紀江 遊川 秀幸 伊東 博之 石元 孝佳 大下 浄治
出版者
公益社団法人 自動車技術会
雑誌
自動車技術会論文集 (ISSN:02878321)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.886-891, 2022 (Released:2022-08-23)
参考文献数
11

革新的な多機能材料を効率的に開発するために、モデルベースリサーチ(MBR)の考え方に基づいて、これまでに多孔質材料の吸遮音機能と断熱機能を設計する微視構造設計モデル技術を開発した。今回、構成素材の防振機能を設計可能とするモデル技術を構築したので報告する。
著者
山本 崇記
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.72-85, 2009 (Released:2020-03-09)

近年の社会運動とその研究の(再)活性化に比して、社会運動研究においてこそ問われるべき課題が十分に深められていない状況がある。その課題とは第一に、実践的問題意識を持ちながらも社会運動との緊張関係を通じて研究を練成する方法論とはどのようなものかという点である(課題①)。第二に、現実に生じている社会運動の背景にある具体的な歴史的文脈をどのように対象化するのかという点である(課題②)。これらの課題は、かつて日高六郎が社会運動研究の社会学的課題として指摘した点と重なっており、社会運動とその研究が活性化していた1970年代にこれらの課題に否応なく取り組まざるを得なかった研究史に遡及する必要性をも示している。本稿では、似田貝香門と中野卓による「調査者一被調査者論争」をその参照点として位置付ける。「論争」の過程で、似田貝が活動者の「総括」という行為に「調査モノグラフ」を通じて参与する「共同行為」を研究者の主体性確立の条件としたことを、課題①を深めた議論と評価する。また、中野のライフヒストリー研究を、集団ではなく個人生活史を通じて社会を捉え返すことで課題②に応じつつその先に進んだものと評価する。それ故に逆説的にも研究と運動の担い手が固定化し、理論(研究者)/実践(活動者)及び活動者(中心)/生活者(周縁)という認識枠組が再生産され、社会運動の実態から研究が議離する危険性を抱えていったのだと論じる(課題③)。