著者
別所 康太郎
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.はじめに気象庁の静止気象衛星ひまわり8号は、2015年7月より運用を開始し、同9号についても2017年3月よりバックアップ機としての運用を開始している。両号は、2022年頃にその役割を交代しつつ、2029年頃まで運用を続ける予定である。ひまわりについては、2018年からは、アジア太平洋諸国の気象水文機関の要望に応じて領域観測を行う「ひまわりリクエスト」を開始したり、フルディスク・領域観測の結果から海上付近の風分布を推定し、台風の強風域を推定する手法の現業運用を始めるなど、気象業務での利活用を着実に進めている。また、気象集誌2018年特別号「静止気象衛星『ひまわり8号』を用いた気象学・気候変動研究」や、気象研究ノート第238号「静止気象衛星ひまわり8号・9号とその利用」が刊行されるなど、学術面での利用も進められている。特にPutri et al. (2018)にあるように、メソスケール現象の解析をひまわり8号の高頻度・高解像度の観測結果を利用して行うなど、いわば「メソスケール衛星気象学」とでも呼べるような新しいパラダイム構築の動きが見られる。一方、宇宙開発戦略本部で決定された宇宙基本計画工程表では、ひまわり8号・9号の後継の静止気象衛星は、遅くとも2023年度までに製造に着手し、2029年度頃に運用を開始することを目指す、とされている。2018年、気象庁ではひまわり8号・9号の後継衛星について、その仕様などの検討を開始した。本発表では、後継衛星の観測性能の仕様に関する検討状況を報告する。2.検討中の観測性能静止気象衛星については、世界気象機関が2040年には具備するのが望ましい要件として、高頻度観測機能を備えた多バンドの可視・赤外イメージャや、ハイパースペクトル赤外サウンダ、雷イメージャ、紫外/可視/近赤外サウンダを列挙している。このうち可視・赤外イメージャについては、後継衛星では、現行の8号・9号の観測性能からの機能強化ができないかを検討している。具体的にはバンドの追加や、領域観測の拡大、観測・処理時間の短縮、精度の向上などである。ハイパースペクトル赤外サウンダについては、これまでのひまわりには搭載されていないため、当庁としてはその搭載の可能性について、一から検討を始めている。同センサーについては、欧州気象衛星開発機構が次の静止気象衛星に搭載を予定しており、その経験に学びつつ、当庁でも数値予報に与える効果を見極めるために観測システムシミュレーション実験を実施している。また、実況監視・ナウキャスト等にも利用できないか調査を行っている。雷イメージャについては、航空ユーザーへの情報提供や、台風の強度予報への活用などが考えられるが、こちらもこれまでのひまわりには搭載されていない。米国の新しい静止気象衛星には搭載され、観測データも公開が始まっているため、それらのデータを利用して、同センサーの性能や利用法などについて調査検討を進める予定である。紫外/可視/近赤外サウンダについては、オゾン、微量気体、エーロゾルの監視などに主として利用される。こちらも当庁では利用した経験がないため、基礎的なところから調査を始めている。また、ひまわりの後継衛星については、想定される運用開始年まで10年ほどしかないため、現業運用という意味ではとても間に合わないと思われるが、マイクロ波サウンダを搭載した静止気象衛星や、同じくマイクロ波サウンダを搭載した小型衛星群によるコンステレーション観測についても、もっと先の将来を見越して、この機会にあわせて検討している。マイクロ波サウンダなどで得られる大気下層の水蒸気分布は、集中豪雨や台風をより高精度に予測するためには不可欠な情報であるにも関わらず、地上・衛星を含めた現行の観測システムでは、広く一様に常時監視することができない。特に現行のマイクロ波サウンダは極軌道衛星に搭載されているため、衛星直下の観測領域を1日2回程度しか観測できない。マイクロ波サウンダを搭載した静止気象衛星や小型衛星群は、どちらも下層の水蒸気分布をどのような状態でもあまねく観測できるシステムであり、実現すれば実況監視・ナウキャストや数値予報に与える効果は絶大であろう。3.おわりにひまわりは気象業務だけでなく、国民にひろく利用されており、我が国の重要な社会資本となっている。その一方、気象庁では後継衛星の検討を始めたばかりであるが、その仕様検討のための時間は限られたものとなっている。本発表を機会に、気象学会の会員諸氏からの積極的な情報提供や、コメント、あるいは具体的な利用目的にもとづく要望などを期待している。
著者
加藤 護
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

高校地学では地球内部構造を地震波を用いて知ることができることを学ぶ。この中で地球中心核の発見が扱われ、シャドーゾーンなどの概念が扱われる。しかし地球深部を伝播する地震波の挙動を直感的に理解することは簡単ではなく、教えにくい話題の一つとも言える。本発表では簡略化した地球速度構造モデルを用いて地球中心核が地震波伝播に与える影響を整理する。提案するのは三角関数を用いた図解法である。これは地震波形データを用いて地球に核があることを初めて提案したOldhamや内核の存在を示したLehmannが用いた方法に倣ったものである。高校地学では核の存在を地震学史と関連づけて教えることも多いが、この図解法を用いることでその関連を強くすることが可能となる。発表では簡略化した地球速度構造モデルを用いて、中心核がある場合の走時曲線を図示と三角関数を用いて求める。その上で核の影響がどのように観測されるかのエッセンスを整理する。
著者
三木 悠登
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

1.背景火山灰土は世界の地表の1%にも満たない非常に稀な土壌であり、特殊な土壌として認識されている。しかし日本では火山灰土は国土の25%を占めており豊富に存在する。火山灰土は軽く、保水性があり一見扱いやすい土であるが一概にそうとは言えない。火山灰土は鉄とアルミニウムが主成分であり、養分が少ない、酸性に傾きやすい、微生物が少ないという特徴がある。アルミニウムは酸性で溶解し肥料のリンと結合する。リン酸アルミニウムは栄養にならない上に、アルミニウムは植物の根等に損傷を与える。これらの問題を改善するために本研究では火山灰からアルミニウムをとりだすことに注目した。上記でも述べた通り火山灰は扱いやすい上に多量に存在する土である反面、世界的な絶対数が少ないことから研究される機会も少なく、肥料の過剰施用などの一時的な対策により回復の兆しが見えない火山灰土も増えている。これらの問題を解決すれば食料自給率の改善や経済基盤の安定などの日本に利益を与えると考えた。 2.研究目的(1)火山灰による植物生育 火山灰だけで植物を育て,植物の栄養欠乏症状を調べることで植物的視点による栄養の欠乏を調べる。(2)土壌の基礎調査 火山灰(桜島・三宅島)と火山灰土(鹿沼土)の組成の調査として,pH測定,定性と定量を行う。(3)アルミニウムの溶出実験土壌中のAlのpHに対する溶解度関係の調査としてAlの定性と定量を行った。 3.研究方法 (1)火山灰による植物生育火山灰(桜島・三宅島)、火山灰土にそれぞれ小松菜と二十日大根を植えた。人工気象気を用いて、温度は25℃設定にし、純水 20mlを与えた。(2)Ⅰ.土壌のpH測定火山灰(三宅島・桜島)、火山灰土 20gと純水 50mlを振とうビンに入れ、振とうを30分間行った。Ⅱ.土壌中元素の定性と定量火山灰(三宅島・桜島)、火山灰土 20gと純水 50mlを浸透ビンにいれ、振とうを30分間行った。その後、蛍光X線分析装置(EDX)によって定性定量を行った。(3)アルミニウム溶出実験Alを溶出させる溶媒として、pH5.8,pH4.3,1mol/Lの塩酸 100mlと火山灰(三宅島・桜島)、火山灰土それぞれ50gを250rpmで振とうを24時間行った。それらをパックテストと蛍光X線分析装置(EDX)により定性と定量を行った。 4.研究結果(1)火山灰による植物生育 二週間以内に全て枯れ、症状として葉が小さい、葉が黄色い、赤色に染まる、茎が弱いなどの症状が出た。(2)Ⅰ.pHの測定全体としてpHが下げられたことが確認できた。火山灰・桜島では4.8、火山灰・三宅島では4.0、火山灰土では6.63である。Ⅱ. 土壌の定性、定量の結果Si,Fe,Al,Ca,K,Sなどの定性ができた。特に、Si、Fe、Alが多く定量された。(3)アルミニウム溶出実験①パックテストによる定性・定量5.8 塩酸 + 火山灰土 0.1ppm4.3 塩酸 + 火山灰土 0.2ppm1mol/L 塩酸 + 火山灰土 1ppm以上 ②EDXによる定性・定量5.8 塩酸 + 火山灰土 1%4.3 塩酸 + 火山灰土 5%1mol/L 塩酸 + 火山灰土 94% 4.考察(1)結果で挙げた症状はすべて、P,N,Kから来る欠乏症状であり、三大要素が全て足りていないと考えられる。(2) 火山灰土はアロフェンに構成されておりCECが高く、肥料がないので塩基飽和度が低かった為pHが低いと考えられる。また、火山灰は斑状組織でSi,Fe,Al,Sなどが存在する為、構成元素が定性できたと考察できる。また、火山灰土はアロフェン(SiO2・Al2O3・nH2O)で構成されるため構成元素が多く定量できたと考えられる。(3)金属個体のAlと同様にアロフェン中のAlにおいてもpHが低いと溶けだしやすいという相関関係が確認できたと考えられる。また、作成した溶液においてpHが全て5.5付近に集中したことから火山灰土の緩衝性の強さが伺えた。 5.参考文献・R.L.Parfitt,1984, Estimation of allophane and halloysite in three sequences of volcanic soils・農林水産省,土壌分析法・土壌中における重金属の動態・土壌-河川-湖沼系におけるアルミニウムの動態と化学
著者
庄子 聖人 中田 裕之 鷹野 敏明 大矢 浩代 津川 卓也 西岡 未知
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地震や台風、火山噴火などの下層の現象に伴い、大気波動が生じ、これによって電離圏擾乱が引き起こされることが知られている。火山噴火に伴い、大気波動が生じることは知られているが,火山噴火に伴う電離圏擾乱の観測事例はそれほど多くない。そこで本研究では、火山噴火に伴う電離圏の変動について、全電子数(Total Electron Content(以下TEC))を用いて解析を行った。本研究では、国土地理院のGNSS連続観測システム(GNSS Earth Observation Network : GEONET)より導出されたTECデータを使用した。また、電離圏貫通点は300kmと仮定した。解析に用いたデータは、GEONETの受信点1200点、衛星仰角30度以上の30秒値である。解析対象は桜島で発生した火山噴火4事例(2009年10月3日7時45分(UT)、2012年9月19日1時7分(UT)、2012年12月9日20時25分(UT)、2014年2月12日20時21分(UT))である。噴火の規模は東郡元における空振計データにより評価した。それぞれの事例においてTEC変動を抽出したところ、空振計の圧力変動が大きいほど、TEC変動が大きい事例が多かった。エネルギーが火口からの距離応じて減衰していくため電離圏の変動が火口からの距離と逆相関関係を取ると考えられる。そのため、TEC変動と火口から貫通点までの距離との相関を求めた。その結果、4事例中1事例で距離との逆相関関係はみられたが、3事例は相関関係がはっきりしなかった。これは磁場の影響と、変動の波面と衛星-受信機の視線方向が直角でない2つの影響によるものであると考えられる。これらの影響を取り除くために音波レイトレーシングのデータを算出し補正行った。補正したデータに対し、補正前のデータと同様にTEC変動と火口から貫通点までの距離との相関を求めたところ、4事例中3事例で補正前と比べTEC変動と火口からの距離との間に強い逆相関関係が確認された。しかし、補正したデータにおいて全体の傾向と比べ高い値を示したデータがいくつかみられた。これらのデータはTEC変動に対する磁場の影響を取り除くための補正が他のデータと比べ大きくかかっている傾向がみられたため、補正が効きすぎているのではないかと考えられる。以上の結果より、火山噴火の規模とTEC変動の間には定量的な関係があると考えられるが、多くの場合は磁場と視線方向の影響を補正する必要があることが明らかとなった。
著者
柴田 翔平 長谷川 健
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

摩周火山は,北海道東部に位置し,山頂部に径7.5 km×5.5 kmのカルデラを有する.このカルデラは約7,600年前の大規模噴火(噴出量約20 km3)によって形成された(岸本ほか,2009,山元ほか,2010).従来の研究によるカルデラ形成噴出物の層序は,降下火砕堆積物(Ma-j~Ma-g)とそれを覆う火砕流堆積物(Ma-f)からなる(Katsui et al.1975).摩周カルデラ形成噴火の推移は,岸本ほか(2009)によって,マグマ水蒸気噴火(Ma-j)からはじまり,プリニー式噴火に移行,3層の降下軽石(Ma-i~Ma-g)を堆積させた後,噴煙柱崩壊による火砕流(Ma-f)が流下,摩周カルデラが形成されたと考えられている.一方,長谷川ほか(2017)は,Ma-fを層相の違いから7層(上位からMa-f1~Ma-f7)に細分し,摩周カルデラ形成噴火は従来の噴火推移よりも複雑であった可能性を指摘した.そこで,著者らは地質調査,カルデラ形成噴出物の粒度分析および構成物分析を行い摩周カルデラ形成噴火の推移を再検討した.粒度分析は-5Φ~4Φまでの範囲を1Φ間隔で行い,構成物分析は2~32 mmの粒子を肉眼観察で分類し,重量%を求めた.Ma-f6,Ma-f7は層相の類似する火砕物密度流堆積物(以下,堆積物を省略)で灰色軽石,縞状軽石に富み(それぞれ40~60wt%,5~21wt%),中央粒径(以下,MdΦ)は-1.00Φ~0.89Φ である.Ma-f5(降下火砕物)およびMa-f4(火砕物密度流)は火山豆石を多く含み(それぞれ89wt%,82wt%),軽石,石質岩片には例外なくシルト質火山灰が付着し,マグマ水蒸気噴火堆積物の特徴を有する.Ma-f4のMdΦは,-0.55Φ~3.22Φ であり,下位のMa-f6,Ma-f7よりも細粒な火砕物密度流である.Ma-f3は石質岩片を大量に含む(90wt%以上)礫支持の火砕物密度流で,デイサイト質岩片のほか,深成岩片,変質岩片も含み,しばしば下位層を著しく削り込む.MdΦは,-3.47Φ~-1.37Φ で,極細粒砂~シルト粒子を欠く.Ma-f2はしばしば斜交葉理をともなう火砕物密度流で,細礫サイズの石質岩片を多く含み(70wt%),軽石も含まれる(30wt%).MdΦは,-1.84Φ~1.16Φである.Ma-f1は褐色の火山灰層で,軽石および石質岩片を含み(それぞれ52wt%,48wt%),Ma-f2との層境界は不明瞭で漸移的に色調・粒径が変化する.MdΦは,-1.22Φ~1.80Φである.Ma-f3の上位には例外なくMa-f2,Ma-f1が堆積し,これらは分布域の広さからMa-fの体積の大部分を占めることが分かる.Ma-f下位の降下火砕物の構成物に目を向けると,Ma-i~Ma-gにかけて優勢な本質物質が白色軽石から,縞状軽石,灰色軽石へと変化する.Ma-f1~Ma-f7は,粒度組成および構成物組成からMa-f7~6,Ma-f5~4,Ma-f3~1にグループ分けすることができ,それぞれの境界で噴火様式が変化したと考えられる.Ma-f7~6は灰色軽石と縞状軽石が優勢で,これは下位のMa-i~Ma-gにかけて見られる本質物質の量比変化と連続的であることや石質岩片の種類も一致することから,Ma-i~Ma-f6までは一連の噴出物であると考えられる.噴出率の低下により噴煙柱が崩壊し,Ma-f7,6が流下したと考えられるが,その後,火道への外来水の相対的な流入量が増加し,噴火様式がマグマ水蒸気噴火に変化してMa-f5~4を発生したと考えられる.つづくMa-f3~1では石質岩片量が急増することと, Ma-fの大部分を占めることからカルデラ陥没開始が示唆される。Ma-f3の上位にはMa-f2,Ma-f1が例外なく堆積しており,これらに含まれる構成物は石質岩片の量比が変化するものの,その種類は変化せず,上位にかけてMdΦが細粒になることから,Ma-f3~Ma-f1は高速の火砕物密度流の流動単位,Layer 1~Layer 3(Wilson,1985)に対応すると考えられる.従来の噴火推移と合わせると,摩周カルデラ形成噴火はマグマ水蒸気噴火(Ma-j)にはじまり,プリニー式噴火に移行,降下軽石(Ma-i~Ma-g)を堆積させ,噴煙柱崩壊による火砕物密度流(Ma-f7~Ma-f6)を流下させた.その後,マグマ水蒸気噴火に移行(Ma-f5~Ma-f4),カルデラ陥没にともなう岩塊の放出と火砕物密度流が流下し(Ma-f3~Ma-f1),摩周カルデラが形成されたと考えられる.
著者
鈴木 雄大 吉岡 和夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

水星は非常に希薄な大気(~1e-10 Pa)を保持しているが、常時強い太陽光圧や太陽風に晒されている上に重力が小さいため、非常に多くの気体が宇宙空間へと散逸している。外気圏が地表に直接接続しているため、水星大気の生成量・散逸量は周囲の環境に応じて劇的に変化する。 外気圏を構成する元素は主にNa, Mg, H, K, Ca, He等であるが、このうちH, Heは太陽風、それ以外の元素は水星表面からの脱離によって供給されると考えられている。脱離プロセスとしては例えば熱脱離、光励起脱離、イオンスパッタリング、微小隕石衝突等が考えられている。熱脱離量は公転に伴う太陽-水星間距離の変動による表面温度の変化、光励起脱離量は太陽活動度の変化による太陽放射の変動、イオンスパッタリングによる脱離量は太陽風の変動や太陽フレアによる水星周辺のプラズマ量の変化、微小隕石衝突による脱離量は水星周辺のダスト量によって変動する。従って、それぞれの過程による水星大気の生成量を推定することは太陽系内縁環境の理解に繋がる。 生成過程ごとに放出される粒子の速度分布が異なるため、現在はMESSENGER探査機の観測データから得られる大気鉛直密度分布から放出温度を推定し、水星大気生成への各過程の寄与を推定することが多い。しかし、特に高温成分の気体の存在量の推定精度に問題があるほか、探査機の軌道の都合上、中緯度帯および北半球高緯度の大気生成過程の推定が非常に困難である。 熱脱離は、粒子に与えるエネルギーが小さく、放出粒子が再度地表に戻るまでのタイムスケールが水星の自公転周期に比べて十分に短くなる(~10分)ので、地表面におけるNa原子の分布を支配していると考えられる。また、イオンスパッタリングは中高緯度で多く生じるため、MESSENGERが苦手とする中緯度および北半球高緯度における大気の生成にも大きく寄与していると考えられる。本研究では特に熱脱離とイオンスパッタリングに着目して水星における中性Na粒子の生成から散逸までの挙動をモンテカルロ法によりシミュレーションする。さらにこの結果とMESSENGER MASCS UVVSの観測データを比較し、熱脱離とイオンスパッタリングの水星大気生成への寄与について議論する。
著者
Tamas Bodai Matyas Herein Gabor Drotos
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

We frame the forced response of the climate system in terms of an ensemble that represents the so-called snapshot/pullback attractor, and explore the implications and power of this approach. Teleconnections as cross-correlations can be defined in the ensemble-based framework by evaluating the correlations over ensemble members. As a specific example, we studied the teleconnection between the El Niño–Southern Oscillation (ENSO) and the Indian summer monsoon in ensemble simulations from state-of-the-art climate models, the Max Planck Institute Earth System Model (MPI-ESM) and the Community Earth System Model (CESM). We detect an increase in the strength of the teleconnection in the MPI-ESM under historical forcing between 1890 and 2005, which is in contrast with scientific consensus. In the MPI-ESM no similar increase is present between 2006 and 2099 under the Representative Concentration Pathway 8.5 (RCP8.5), and in a 110-year-long 1-percent pure CO2 scenario; neither is in the CESM between 1960 and 2100 with historical forcing and RCP8.5. This is also a puzzling result inasmuch as the historical forcing is the weakest. Accordingly, we evaluated that the static susceptibility of the strength of the teleconnection with respect to radiative forcing (assuming an instantaneous and linear response) is at least three times larger in the historical MPI-ESM ensemble than in the others.
著者
栗田 敬 熊谷 一郎 市原 美恵 小川 歩実 熊谷 美智世 永田 裕作 香西 みどり
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Karinto is one of the typical traditional sweets, which is classified as a puffed confectionery. When we examine the cross section of karinto we can recognize amazing resemblance to the texture of vesiculated pyroclastic materials. This gives us an idea that the formation mechanism of karinto seems collateral to that of pumice and scoria in volcanic process and it would help deep understanding of magmatic vesiculation process. This is the starting point of our research on karinto.Here we report experimental investigation on the formation of karinto,cooking process. Particularly we focus on the sound generation during the cooking to characterize vesiculation process. The basic material of the starting dough is flour,baking soda,sugar and water. Baking soda and water determine volatility of the sample. Heating induces vaporization of water and thermal decomposition of baking soda, which result in volume-expansion and create a peculiar vesiculated texture. To see the control of this we tested following 4 sets of the composition;Sample A:flour 50g,baking soda 2g,sugar 10g,water 25gSample B:flour 50g,baking soda 0g,sugar 0g,water 25gSample C:flour 50g,baking soda 2g,sugar 0g,water 25gSample E:flour 50g,baking soda 0g,sugar 0g,water 30gSample A is based on the standard recipe of karinto. Sample C and E seem interesting to see the effect of volatile components.In the cooking experiment we put the dough of 50mm in length x 10mm in width x 6mm in thickness into hot oil at 180-170C. Soon after start of deep frying familiar cooking sound becomes audible. We recorded this and took movie by high speed camera to inspect size and location of bubbles which emanate from the dough. Common to all the composition the sound changes systematically; in the first several minutes continuous sound with flat spectrum to 25KHz emanates while after this high frequency component gradually decreases and prominent peaks in the spectrum appear in several hundreds Hz, which sound as "chant d'Oiseau". Associated with this transition size of bubbles which appear on the surface of dough changes from broad distribution to homogeneous. Also the vesiculation points become localized. All these observations are consistently interpreted that after 4-5minutes steady paths of the gas emission from the inside have been set up. The talented experienced patissier could discriminate the difference of the sound to inspect maturity.Only in the case of Sample E destructive explosions were observed at about 2 minutes from the start. During heating two competing processes are working inside the dough:solidification which proceeds from the outside and gas formation. Both are driven by higher temperature. When the solidification advances ahead hard shell is formed to impede escape of gas, which results in accumulation of high vapour pressure inside. This is the cause of the explosion. The standard recipe smartly avoids this route by arranging combination of the ingredients but in our experiments we seek the condition for explosion.In the presentation we report progressive evolution of the spectrum of cooking sound with textural evolution in relation with magmatic process.
著者
青木 寿篤
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

2011年に起きた東日本大震災の津波の影響によって、約30万戸の建物が被害を受け、約1万6000人の死者を出した。今日、このような津波の被害を食い止めるために通常よりも大きい“巨大防潮堤”の建設が進んでいる。人々の命を守る上ではこの防潮堤はとても重要な役割を果たすが、とても高い防潮堤を建設することによって、景観が阻害され、観光業を財源としている自治体にとっては大きなダメージを負ってしまう。この2つの問題を解決するために、私の研究は「高さを変えずに従来の防潮堤での強化」するため、「堀」を防潮堤に組み合わせることを考えた。堀というアイデアは、宮城県の被災地を訪れた際、被災された方から「元々の波は高かったけれども、目の前に川があったおかげで波の威力が弱まった」という話を聞き、そこで私は、「川のようなものを防潮堤の後ろに取り付ければ、波の威力を軽減できるかもしれない」と考えた。水槽(約1.2m)と発泡スチロールでモデルを作り模擬的に波を発生させ、波の高さと到達距離を測定し、堀の奥行きを対照区として実験を行った。波の高さを定量化し、再現性を高めるために、波の起こすための水量を一定化させ、実験を行った。はじめに、どの程度の奥行が効果的であるのかを調査するために、奥行を3段階(0,5,10,15cm)にわけそれぞれ5回ずつ波の高さと到達の有無(波が水槽の端に届いた回数)を計測した。結果、どの程度の奥行が効果的であるかは不明であったが、堀がない場合よりも堀がある場合のほうが波の到達距離を軽減できることが分かった。次に、データ数の増加を図り堀の奥行を5cmに絞って48回実験を行った。今度は、到達距離を数値化しより細かくデータを採取した。その結果を用いて散布図(横軸が波の高さ、縦軸が到達距離)を作成し、近似直線を描いた(y=1.9592x-33.27 相関係数は0.73)。この数式を、実物大に拡張し、防潮堤の高さ5m、堀の奥行2mに固定して計算した。すると、堀がないとき6mの波に対して10m以上到達してしまう(最初の実験の堀無のデータを用いた)に対し、堀があると10mの波が押し寄せたとしても、5.3mの到達距離で済むという結果が得られた。しかしながらこの実験にはいくつかの問題点があり、1つ目は津波本来の波長は数㎞から数百㎞に対し、研究装置が2mに満たないためこの結果が津波に対して有効であるかは疑問が残る。さらに、この実験には変数がとても多い(堤防の傾斜、高さ、堀の奥行、深さ、波の高さなど)ので条件を変えた時の変化は予想が難しい今後の展望として、この実験をパソコン内で再現し、より多くの条件のもとでシミュレーションを行うことを考えている。
著者
Loren Joy De Vera Estrebillo Mitsuteru Sato Yukihiro Takahashi Hisayuki Kubota Kozo Yamashita Junichi Hamada Joel Marciano
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

The Philippines is one of the most disaster-hit countries in the world. Its location in the western North Pacific (WNP) subjects it to numerous tropical cyclones (TC) each year that pose risk to lives, properties and infrastructures. There has been a significant development in the accuracy of TC track forecast that cross and/or make landfall within the Philippine Area of Responsibility (PAR) over the years with the use of ground-based synoptic observations, weather radars, and meteorological satellites. However, prediction of TC intensity remains a significant challenge. Lightning activity is an indicator of the dynamics and microphysics in thunderstorms, as well as severe weather phenomena, such as TCs and torrential rainfall among others. Recent studies suggest that lightning activity in tropical cyclones can give predictive information about its intensity development. Thus, a ground-based lightning observation system (V-POTEKA) has been developed, and it has been installed at three stations in the Philippines, Guam, and Palau to continuously monitor lightning activity in the WNP region since September 2017. The V-POTEKA system uses an event-trigger method that detects radio wave pulses from lightning discharges in the very low frequency (VLF) range of 1-50 kHz. It also consists of an automatic weather station (AWS), VLF sensors, and an automatic data-processing unit. The V-POTEKA system analyzes lightning data, extracts pertinent information, i.e., peak amplitude and time of the triggered waveform, and transmits data to a server through 3G communication. A geolocation software using the time-of-arrival method is being developed using the 3 sites along the WNP region. Further analysis will be conducted by incorporating data from other stations (Sapporo, Japan and Los Banos, Philippines), and an improved geolocation software will be used to investigate the relationship between the lightning activity and typhoon intensification during the dropsonde observation campaign conducted in September 2018.
著者
髙柳 春希
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

要約 ゆざわジオパークの川原毛地獄の噴気孔付近にはヤマタヌキラン (Carex angustisquama) が生息し,特有の豪雪帯にはユキツバキ (Camellia rusticana) が生息する.これに対し「二種にとりそこが好ましい環境だからそこに生息する」という説明がよくなされるが,過去のいくつかの報告と照らし合わせながら考えてみると,二種の分布がその環境にのみ制限される理由についてうまく説明できておらず問題がある.本発表では,二種の分布が制限される理由を,ヤマタヌキランとタヌキラン (Carex podogyna),ユキツバキとヤブツバキ (Camellia japonica) といった同属近縁種間で引き起こされる繁殖干渉によるものと位置付け,その内容を説くとともに,学術的な信憑性を重んずるジオパークのガイド案内の難しさについても考えていく.概要 豊富な地熱や雪を有するゆざわジオパークでは,ジオ多様性の高さから,多様な生物が生息している.例えば,地熱および雪・天水等の影響で生じる川原毛地獄の噴気孔は,噴気ガスに含まれる硫化水素ガスにより,多くの動植物の生息を妨げる一方,希少種ヤマタヌキラン (C. angustisquama) を優占的に生息させる.また,ゆざわジオパークの豪雪は,雪圧による枝折れの少ないユキツバキ (C. rusticana) を生息させる.噴気孔付近など酸性の高い土壌でしかみられないヤマタヌキラン (辻村1982),日本海側の雪が降る地域でしかみられないユキツバキ (酒井1977) は,いわば,その地域の特色を語る上で重要な存在と言える. 一方で,劣悪と考えられる環境に二種が生息する理由を,「その環境が,二種にとっては好ましい環境だから」あるいは,「二種の生育がその環境に対してのみ適しているから」と説明する様子が散見されるが,果たしてこういった説明は正しいのだろうか.誤りや説明の不足する部分はないだろうか.確かに,二種がその地域のみに生息する様子を見ると,あたかもその地域が二種の生育に適した地域のように見える.しかし,ヤマタヌキランを畑の土で育てたところよく育つという報告 (湯沢市立須川中学校2011) や,ユキツバキが太平洋側の植物園で育成されている事例 (例えば,小石川植物園2019) を鑑みると,少なくとも人工的におかれた環境下においては,二種にとって,噴気孔や豪雪の存在は必ずしも必要ないように考えられる.湯沢市立須川中学校 (2011) が行った川原毛地獄におけるヤマタヌキランの生育調査によると,噴気孔から遠く,かつ土壌pHが中性に近くなるほどヤマタヌキランの生育が旺盛になると示唆されている.すなわち,噴気孔に由来する土壌の酸性化はヤマタヌキランの生育に対して良い影響ではなく悪影響を及ぼすと言える.このことから,噴気孔はヤマタヌキランに悪影響を及ぼすと言えるし,雪崩を引き起こすような豪雪もユキツバキにとってけっして好適なものとは言い難いだろう.以上の観点を踏まえ,二種はこれら悪影響を上回るような周囲からの悪影響を被っているためにそこでの生息を余儀なくされているのだと判断した.二種の分布はある要因によって不適な環境に追いやられているのだ. 二種の分布が劣悪な環境に制限される理由を,ユキツバキと太平洋側の陸地に生息するヤブツバキ (C. japonica,酒井1977),ないしは,ヤマタヌキランと広域分布種タヌキラン (C. podogyna,藤原1997) との強い負の種間相互作用,特に繁殖干渉 (高倉・西田2018) により説明できると考えた.本発表では,繁殖干渉の概念を説くとともに,学術的な信憑性を重んずるジオパークのガイド案内の難しさについても考えていく.引用文献藤原陸夫 (1997) 秋田県植物分布図.秋田県環境と文化のむら協会.小石川植物園 (2019) 花ごよみ:ツバキ園.URL: https://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/koyomi/camellia.html (2019年2月1日アクセス)酒井 昭 (1977) 植物の積雪に対する適応. 低温科學. 生物篇34: 47-76.高倉耕一・西田隆義 (2018) 繁殖干渉:理論と実態.名古屋大学出版会.辻村東國 (1982) 硫気孔原植物ヤマタヌキランの生態学的研究: I. コロニー形成. 日本生態学会誌 32(2): 213-218.湯沢市立須川中学校 川原毛地獄自然観察クラブ (2011) ジオサイト川原毛地獄の植生について.平成23年度斎藤憲三奨励賞金賞 (秋田県最優秀賞) 受賞報告書.
著者
川井 彩音 熊谷 道夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

1. はじめに ミクラステリアス・ハーディは近年琵琶湖で発見された外来種のプランクトンであり2016年に琵琶湖で大発生し、2017年には小康状態となったが、2018年には再び大増殖した。 ミクラステリアス・ハーディは緑藻類ホシミドロ目ツヅミモ科ミクラステリアス属に位置付けられる。2つの半細胞で構成され、中央部に深い切れ込みがあり、この半細胞の側裂部は6本に見えるが大きく分けると3組の椀状突起からなっている。琵琶湖でもよく見られるミクラステリアス・マハブレッシュワレンシスと比較するとやや椀状突起が細くて、長いのが特徴である(一瀬諭 2016)。 これまでにミクラステリアス・ハーディの形状(大きさの計測)・鉛直分布(クロロフィルa濃度)・沈降速度について調べてきた。ミクラステリアス・ハーディが急激に増えたのは、近年の水温上昇と関連があるかもしれないと考えたので、本研究ではミクラステリアス・ハーディの水温依存性について培養実験を行った。2. 方法 キャピラリーを用いて試験管にミクラステリアス・ハーディを10個体ずつ入れ、その試験管を水温の違う水槽に入れ、1日おきに5回、全体で10日間の計測を行った。試験管の水には琵琶湖の水を100㎛でろ過したものを使用した。さらに、水槽ろ過装置を用いて水槽内に穏やかな水の動きを発生させ試験管を常時小さく揺らし続けた。◎準備したもの水槽3つ、試験管15本、試験管立て3つ、温度計、ミクラステリアス・ハーディ150個体、水温コントローラー2台、水槽ろ過装置3つ、キャピラリー琵琶湖の水1.5L(100mL×15本)、顕微鏡(実体顕微鏡・光学顕微鏡)3. 結果 ・2日目…室温:10個体 25℃:14個体 30℃:10個体 ・4日目…室温:14個体 25℃:27個体 30℃:18個体 ・6日目…室温:43個体 25℃:28個体 30℃:22個体 ・8日目…室温:28個体 25℃:12個体 30℃:22個体 ・10日目…室温:12個体 25℃:21個体 30℃:108個体 2日目から4日目にかけて25℃が14個体、27個体と順調に増え続けていたが、6日目に室温(18℃)が14個体から43個体と急激に増加した。30℃では8日目までは他の水温に比べて大きくは増殖しなかったが、10日目に大きく増殖した(8日目との個体差86個体)。また、クンショウモの仲間がとても多く増殖していた(20ml中に1047個体)。室温(18℃)では最初、増加傾向にあったものの6日目を境に減少した。100mlのサンプル1本を計測するのに3時間程度かかり、3本を計測しきるのにかなり時間がかかってしまった。4. 考察 ミクラステリアス・ハーディには水温によって増加の傾向が大きく異なる特性が見られることが分かった。ただ、試験管によって栄養の量が少しずつ違い、増殖スピードがずれた可能性があり、個々の試験管の個体数が変化したのかもしれない。30℃の試験管の8日目から10日目に大きく増殖したことから、増え続ける可能性がるため、10日目以降も調べてみたいと思った。30℃の試験管に多くクンショウモが増殖したことから、クンショウモの適性水温に近いのではないかと推測できた。5. 今後の展望 培養実験で個体数が減少するとは予想出来なかったので今後、深く突き詰めたいと思う。さらに、30℃の試験管でクンショウモが大きく増殖した原因を調査してみたい。また、今年は琵琶湖の呼吸ともいわれる全循環が各地点で十分に行われていないので、鉛直分布調査や観察を続け、ミクラステリアス・ハーディだけでなく琵琶湖のプランクトンやそれを取り巻く環境に及ぼす影響について調査していきたい。さらに、観察していく中で稀に見る奇形のミクラステリアス・ハーディの割合も調査してみたいと、とても興味をもった。沈降実験についても新たな実験方法を模索中であり、実験と同時にミクラステリアス・ハーディの体積なども調査できたらよいと思う。
著者
中村 千怜 辻 智大 四国西予ジオパーク推進協議会
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

黒瀬川構造帯は主に大陸地殻を構成する岩石(花崗岩・変成岩)や大陸周辺の浅い海で堆積した地層(凝灰岩・石灰岩など)からなる.赤道近くにあった超大陸パンゲアが分裂した破片がプレートにのって大陸に衝突したものと考えられている.愛媛県の南西,西予市三瓶町にある須崎海岸は四国西予ジオパークのジオサイトである.ここでは,黒瀬川構造帯に属する4億年前の酸性凝灰岩の地層を,国内で唯一,遊歩道沿いに300mにも渡って観察でき,縦じまの地層によるダイナミックな景観を体感することができる.加えて,凝灰角礫岩や貫入岩が凝灰岩中に見られ,様々なイベントがあったことを示唆する.本発表では,これらの地層の見どころを紹介し,どのように地層が形成されたかを解説する.【酸性凝灰岩】凝灰岩層は火山灰が固まってできた岩石であり,泥質部と砂質部の互層をなしている.級化や荷重痕といった混濁流堆積物(タービダイト)に見られる構造が見られる.槙坂・加藤(1983)で凝灰岩は北東側ほど上位層であると推定され、今回薄片においても級下を確認し,追認することができた.細粒な凝灰岩中に粗粒な火山灰由来の長石などの粒子が観察された.これらのことから,火山活動が活発な大陸もしくは成熟した島弧の近海で凝灰岩は形成されたと推定される.凝灰岩が300mも堆積したということは,長期にわたる火成活動が安定してあったことを意味する.また,保存状態の良い放散虫化石が認められる層準もあるため,放散虫化石の年代から火成活動の時期の特定が期待される.【凝灰角礫岩】浅海に生息するサンゴの化石を含む凝灰角礫岩が不整合で凝灰岩を覆う.凝灰角礫岩層は淘汰が悪く,塊状無層理で,基底部に上方粗粒化が見られる.このことから,凝灰角礫岩層は山体崩壊あるいは海底地すべりで形成された崩壊堆積物であり,それらがより深海底に流れ込んだものであると推定される.【貫入岩】遊歩道の西部にて,いくつかの貫入岩が見られた.貫入岩は凝灰岩層の層状構造を切り,塊状で板状節理が発達している.また,細粒で均質な組織を示す.貫入岩の存在は,酸性凝灰岩堆積場において火成活動があったことを意味するため,今後の詳細な検討が望まれる.このように,須崎海岸では大陸ないし島弧周辺の海域で凝灰岩が堆積した様子を見ることができる大変珍しい場所である.須崎海岸は日本列島の生い立ちを解明するために学術的に重要な地質であるとともに,一般の方にも魅力を感じていただけるジオサイトでもある.発表では,その他にも須崎海岸で見られる様々な地球科学的な見どころを紹介する.【引用文献】槇坂・加藤(1983)愛媛県三瓶町より中期古生代サンゴ化石の発見.地質学雑誌,89,723-726.
著者
大見 士朗
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.地震活動の概要飛騨山脈南部の岐阜・長野県境に位置する焼岳火山の近傍において、2018年11月22日午前から同12月5日頃にかけて群発地震活動が発生した。一連の地震活動は11月22日午前から始まり、翌日11月23日から活発化した後に約10日間にわたり継続し、12月2日頃までにはほぼ終息した(以下、シリーズAとよぶ)。その後12月4日夕方から一時的に焼岳の東側にあたる上高地側で小規模な地震活動がみられた(同、シリーズB)。シリーズAの群発地震活動の震央は焼岳山頂の西約1.5kmから2kmの、深さ(海抜下)3kmから4kmに分布している。これは、2011年3月から4月に発生した群発地震の震源域の南西延長にあたる場所である。12月4日以降に上高地側で発生したシリーズBの地震は焼岳西側のそれに比べて若干震源が深い。その後、2019年1月末に、当初の焼岳西麓よりもさらに西側(同、シリーズC)で、また、2019年2月上旬には焼岳南部の飛騨山脈の稜線下(同、シリーズD)でそれぞれ小規模な地震活動がみられている。 飛騨山脈南部の群発地震活動は、同地域で京都大学が地震観測を開始した1970年代後半以降は、主な群発地震の震源域は互いに重ならず、いわば「棲み分け」をしている傾向が認められ、2018年11月末の焼岳西麓に集中するシリーズAの地震活動もその例外ではない。 また、シリーズAには明瞭な震源移動は認められなかったが、上述のように、シリーズB、C、Dのようにそれぞれ異なる領域で小規模な活動がみられるなど、焼岳の周辺域で地震活動の活発化が認められる。2.発震機構についてシリーズAの主たる地震の発震機構は、北西-南東圧縮の応力場を示す逆断層タイプのものが多い印象があるが、シリーズBの上高地側での地震にはこの地域では珍しい正断層型の地震が含まれる。また、シリーズCの地震は、観測点分布のためか、発震機構の決定が困難なイベントが散見され、精査が必要である。また、シリーズDのイベントは北西-南東の圧縮場を示すものが支配的にみえる。2.現地有感地震について同地域では、気象庁により奥飛騨温泉郷栃尾における震度情報が発表されるが、防災研究所附属地震予知研究センター上宝観測所では、さらに飛騨山脈の脊梁部に近い地域での揺れの状況を把握するために2011年秋から奥飛騨温泉郷中尾地区のDP.YAKE観測点にも強震計を設置して有感地震の観測を継続している。今回の地震活動における、DP.YAKEにおいて現地有感と考えられる地震は11月23日18時から12月16日0時までの期間に合計約340回を数えた。また、11月25日にはDP.YAKEにおいて震度4相当のゆれを観測した地震が3回発生した。なお、12月4日夕方からの上高地側での地震活動の際には15個程度の現地有感地震が観測され、そのうち12月4日22時50分の地震では震度4相当のゆれを観測した。 飛騨山脈南部の脊梁部付近で発生する地震が奥飛騨温泉郷中尾において現地有感になる例は、これまでも2011年3月や2014年5月の群発地震の際にも認められており、今回も同様の現象が観測されていると考えられる。中尾地区では気象庁の公式発表震度よりも有意に大きな揺れが観測されていることがあるので注意が必要である。3.焼岳の火山活動との関連焼岳山頂、焼岳中尾峠などに設置してある、温度計、地殻変動、地磁気等の観測データには季節変動以上の異常値は見られず、たとえ変動があったとしても検出限界以下であった。
著者
坂本 祐二 桒原 聡文 藤田 伸哉
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

東北大学が主として開発または協力した3衛星、DIWATA-2、RISESAT、ALE-1が2018年10月からの3か月間で、立て続けに打ち上げられた。東北大学構内に設置している2.4m口径パラボラアンテナを有する地上局を用いて、3衛星を日々観測している。本講演では、2009年より継続・発展してきた運用システムをハード・ソフトの両面で解説する。また、フィリピン、スウェーデン、函館、福井など、連携中または準備中の地上局ネットワークについても紹介する。 本地上局は、東北大学の1号機衛星SPRITE-SATのために整備され、超小型衛星を対象として使用を開始した。基本的に低高度地球周回衛星が対象であり、約10~12分のパスにおいて、アンテナ指向方向を制御し、送受信機の周波数を制御して、通信を確立する。衛星追尾は対象衛星を登録するだけで、自動的に最新の軌道を収集し、上空通過時に自動追跡を開始・終了する。運用者は、衛星との通信に集中し、地上局の管理に気を払う必要はない。 現在、前期の最新3衛星に加え、DIWATA-1、RISING-2、SPRITE-SATとの通信も不定期に実施している。本地上局が対応できる通信仕様は、ITU国際通信連合にJCUBES-Bの群衛星として登録されており、今後も兄弟衛星が打ち上げられる予定である。国際機関への電波申請には申請準備も含めて、1年以上の時間を要する。企画から打上まで1年半以内で実現できる現状において、電波申請作業はプロジェクトにおいてトラブル要因となりうる。本地上局を使用する衛星ネットワークの輪が広がることで、衛星開発者に大きなメリットをもたらすと考えている。
著者
小口 高 西村 雄一郎 河本 大地 新名 阿津子 齋藤 仁
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本地理学会が運用しているツイッターアカウント(@ajgeog)は約1万5千人がフォローしており、諸学会のアカウントの中でも知名度が高く、一定の影響力を持っている。このアカウントは多くの学会のアカウントとは異なり、地理学に関連した一般的なツイートを多数リツイートしたり、フォローを返したりすることが多い。アカウントの運用は同学会の広報専門委員会が担当しており、過去5年間以上にわたり地理学に関する情報の伝達に継続的に寄与してきた。本発表では、2012年9月の同アカウントの開設と、その後の初期運用において中心的な役割を担った5名が、当時の経緯と背後で行われていた議論の内容を紹介する。
著者
吉川 澄夫
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

平成7年兵庫県南部地震(M7.3)は,本震前に地殻変動,地下水,電磁気などの様々な変化を伴い,地震活動の異常が観測されたことが知られる地震である.特に茂木(1995)は長期的・広域的な視野で地震活動の空白域と静穏化現象を指摘している.吉田(1995)は地震活動の先行現象の広域性を指摘し,震源域よりも広い領域が地震発生プロセスに関わっていることを示した.そこで何らかの予知手法を想定した場合,このような広域の先行現象を根拠にどの程度の確度で評価可能かが問題となる.eMAP は地震発生率をポアソン確率により評価するツールである(吉川・他,2017).個々の震源毎に領域を設定し,全ての領域の異常の度合いを表示することがこの方法の特徴である.上述の問題を考える為,この方法による広域地震活動の診断の可能性を検討した.兵庫県南部地震の際の広域の地震活動静穏化・活発化現象を,近畿・中国・四国地方を中心に解析したところ,以下の特徴が見出された.当時の気象庁震源カタログは一元化処理開始前であり,1988年以降の検知力はM2.0程度と考えられる.本震の5〜6年前までは,地震活動の空間的な分布が比較的短期間に変化し安定したパターンが見られないが,本震の約2年前,兵庫県東部で約50kmの範囲にわたり静穏化現象が確認される.そして本震約1年前から発生時まで,震源域とそれを囲む広い範囲の複数地域で活発化の状況を示した.これは諸々の活断層・構造線沿いに小規模な前震的活動が起きていたことによるものと思われる.この地震活動の時間的推移に基づいて予測手法を想定すれば次のようになる.まず静穏化現象の場所と広がりを把握することにより本震の発生場所と規模を想定し(吉川,2015),次に広域の地震活動の時間変化の同時性を検知することにより,相関解析などの手法をもって時期を推定するというものである.
著者
大澤 拓未 山本 伸次
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

マントル内部物資循環において海洋地殻、大陸地殻が海洋プレート沈み込みによりマントル内へリサイクルし、マントル対流を通して地殻物質がマントル内に混染している可能性が指摘されているW.Xu et al.,(2008)。しかしその実態は不明であり、マントル-地殻鉱物大循環の解明のためリサイクル地殻鉱物を用いた物質科学的制約が急務である。北海道日高山脈に位置するマントル由来造山帯かんらん岩の幌満かんらん岩は蛇紋岩化していない新鮮なかんらん岩として知られ、メルトマントル反応による交代作用からレールゾライト、ハルツバージャイトの顕著な層序構造を示す。近年、Li et al.,(2017)により幌満かんらん岩からジルコンやルチル、低い炭素同位体比を有するダイヤモンドの産出が報告されており、幌満かんらん岩中に地殻由来鉱物が存在することが示唆されている。しかし問題点としてかんらん岩中の地殻鉱物は回収例が少なく、その起源に関しても不明確であるため、かんらん岩中に残存する地殻鉱物分離技術の改善・分離回収された鉱物の記載を目的とする。本研究では、東邦オリビン工業(株)の採石場より採取したかんらん岩試料、ハルツバージャイト 764㎏、レールゾライト 954㎏、それぞれを板状に切断し移送したものを用いた。ジョークラッシャーおよび連続式粉砕機を用いて0、1㎜大まで粉砕した後、粒度分離、比重分離、磁選処理を行い、ハンドピッキングおよびエポキシ樹脂への包埋、研磨を行った。レールゾライト内からジルコン6粒、ルチル(TiO₂) 1粒が回収された。一方で、ハルツバージャイト内から非磁性鉱物を濃集させた粒子を樹脂に包埋し、EPMA(YNU機器分析評価センター)を用いた鉱物探査・鉱物同定を行った結果、コランダム(Al₂O₃) 12粒が分離回収され、包有物および付着鉱物が共生している様子が観察された。コランダム6粒子のSEM-EDS分析から、これらは①Si-Al-Kに富む珪酸塩相 ②Ti-Zr酸化物 ③Si-Ti合金 からなる包有物が確認された。Morishita et al.,(1998; 2000)より幌満かんらん岩体ポンサヌシベツ川流域のハンレイ岩転石中から微量のCrを含むコランダムの産出が報告されている。本研究で得られたコランダムは、①Crがほぼ含まれない、②TiO2を最大で2.3 wt%程度含む、③Ti-Zr酸化物やSi-Ti合金といった特異な包有物を含む事などから異なる起源のコランダムであることが考えられる。世界中のコランダムの産出を比較した結果(Griffine et al.,2016; 2018)よりイスラエルMt.Carmelのアルカリ玄武岩由来捕獲鉱物中コランダム内に特異な包有物として(Ti-Zr酸化物、Si-Ti合金)が報告されている。また高いTiO2濃度(最大2,6wt%)、捕獲結晶としてダイヤモンドの産出も報告され、リサイクル海洋地殻玄武岩由来であると考えられている。以上より本研究で幌満ハルツバージャイトから分離回収されたコランダムとGriffine et al.,(2016; 2018)で報告されたコランダムは組成も共存鉱物も非常に類似していることから同様の起源を持つことを意味し、幌満ハルツバージャイト中コランダムもリサイクル海洋地殻由来コランダムであり、幌満かんらん岩中に鉱物レベルで地殻鉱物が存在することを示唆する。引用文献Griffin1,William L. (2016) “Deep-earth methane and mantle dynamics: insights from northern Israel, southern Tibet and Kamchatka,” JOURNAL & PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY OF NEW SOUTH WALES, VOL. 149,PARTS 1 & 2, 2016, PP. 17-33Yibing Li. The mineralogical and chronological evidences of subducted continent material in deep mantle: diamond, zircon and rutile separated from the Horoman peridotite of Japan. AGU. FALL MEETING 2017. AGU Contact Technical Support AGU Privacy Policy. https://agu.confex.com/agu/fm17/meetingapp.cgi/Paper/222963 [2019/02/19].Morishita, T., 1998, ”finding of corundum-bearing gabbro boulder possibly derived from the Horoman Peridotitie complex, Hokkaido, northern Japan, ”JOURNAL OF MINERALOGY, PETROLOGY AND ECONOMIC GEOLOGY, 93(2), 52-63.
著者
新中 善晴 亀田 真吾 笠原 慧 河北 秀世 小林 正規 船瀬 龍 吉川 一朗 ジェライント ジョーンズ スノッドグラス コリン
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Comet Interceptor' is a proposed mission to the recent European Space Agency (ESA) call for F-class ('fast') missions. This is one of six mission concepts invited to submit detailed proposals. A decision is expected until late July 2019. The purpus of our misson is to characterise a dynamically-new comet or interstellar object like 'Oumuamua, which are visiting the inner Solar System for the first time, including its surface composition, shape, and structure, the composition of its gas coma for the first time. Our mission will launch to the Sun-Earth L2 point, where it will be stayed in a stable L2 halo orbit for a period of up to 2-3 years, until a suitable opportunity for a flyby mission to a dynamically new comet presents itself. Suitable targets will be comets that will have a perihelion distance closer than ~1.2 au and an ecliptic plane crossing time and location reachable with ~1.5 km/s delta-v from L2. Once a target is found, which expected to be within a few years based on predictions for comet discovery rates with the Large Synoptic Survey Telescope (LSST), the spacecraft will depart on an intercept trajectory. Before the flyby, the main spacecraft will resease at least two sub-spacecraft, parallel paths through the coma and past the nucleus to be sampled. This mission will give us a 3D snapshot of the cometary nucleus at the time of the flyby, testing spatial coma inhomogeneity, interaction with the solar wind on many scales, and monitoring of Lyα coma. This mission will be a unique measurement that was not possible with previous missions, in addition to the fact that we will target a dynamicall new comet, which will allow interesting comparisons to be made with the results from Rosetta target comet 67P/Churyumov-Gerasimenko. It is expected that the proposed mission includes contributions from Japan as well as ESA member countries.
著者
藤間 藍 日色 知也 地震火山子供サマースクール 運営委員会
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地震火山こどもサマースクールは、日本地震学会, 日本火山学会, 日本地質学会を主催として、1999 年から毎年夏休みに全国各地で開催されている. このイベントの目的は, 研究の最前線にいる専門 家が、 こどもたちに地震・火山現象の発生要因と自然の大きな恵みについてわかりやすく伝えるこ とである(日色ほか, 2018)。平成 30 年度は伊豆大島を舞台に地元の小学生から高校生まで 34 名を迎え実施した。 当初8 月 7 日, 8 日の 2 日間の開催を予定していたが、天候不順のため, 8 月 7 日の 1 日間に短縮しての開催とした。伊豆大島は, 一般に伊豆・小笠原弧上に位置し、太平洋プレートの沈み込みに伴うマグマの発生に より、現在まで火山活動が生じている火山島であると考えられている。最近の火山活動としては、1986 年の三原山噴火が挙げられる。今回は「火山島 伊豆大島のヒミツ」をテーマに、島の誕生から現在までの歴史やそこに成立した 地域社会との関係について、野外観察や身近な材料を使った実験, 研究者との対話を通して、こどもたちが火山噴火の仕組みを理解し、自然の恵みや観光, 自然災害についての理解を深めるとともに、島の過去, 現在, そして未来を考えることを活動の目的とした。こどもたちは1日の中で地形, 地層, および溶岩に関する野外観察, 室内実験と講義を通じて学習し、島の成り立ちについて理解を深めた。地形観察では、伊豆大島西側の溶岩台地や元町地区の街並み、カルデラ内部の構造を観察し、自分た ちが住んでいる島の土地について学んだ。地層観察では、 大島温泉ホテル付近の露頭にて火山灰を観察した。 火山灰中には神津島由来の灰白 色の火山灰が挟まれており、短い期間に別の島でも噴火していたことを学んだ。溶岩の観察では、パホイホイ溶岩とアア溶岩の産状の違いについて学んだ。室内では、カルデラ形成のメカニズムを再現したカルデラ実験, マグマの性質と上昇過程を再現し たマグマだまり実験, パホイホイ溶岩の移動と形成を再現した溶岩実験, 炭酸を用いて噴火様式に ついて再現した噴火実験を行った。1日の最後には、こどもたちはチームごとに学んだことをまとめ, 発表を行った。今回のサマースクール終了後、実行委員会はこどもたちからのアンケートや発表内容、および携 わったスタッフの意見をもとに、来年度のサマースクールの方針を議論した。実行委員会のスタッフの意見では、地元スタッフの長年の経験や機転の利いた行動で、運営をス ムーズに進められたことが挙げられた。また、こどもたちのアンケート結果からは、 4つの実験のうち3つで「よかった」と回答した人が 80%を超えており、こどもたちは実験に対して高い関心があったことを示している。さらに、地形および地層の観察でも 22 人(65%)が「よかった」と回答しており、地形地質学的な 諸現象への関心の高さがうかがえる。こどもたちの発表では、活火山は常に活動しており、生活する上で不便なこともあるが、温泉や良い 漁場など多くの恩恵の受けているという意見が挙げられた。毎年2日間かけて行われるプログラムを1日に短縮しての開催となったが、こどもたちは観察や 実験、講義を通して火山現象の発生要因を解き明かし, 火山島で住むことで得られる自然の恵み, 自然災害との共生のしかた, 伊豆大島の過去, 現在, そして未来について考え、有意義なサマース クールとなったと考えられる。