著者
小倉 拓郎 早川 裕弌 田村 裕彦 小口 千明 守田 正志 清水 きさら 緒方 啓介 山内 啓之
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

小学校の総合的な学習の時間では,身の回りにある様々な問題状況について,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすることを目標としている(文部科学省 2008).この目標を達成するために,地域や学校の実態に応じて,自然体験や観察・実験などの体験的学習や,地域との連携を積極的に行うことが求められている.演者らは,自然地理学・地理教育・空間情報科学・建築学・歴史学・文化財科学などの専門分野を生かし,横浜市登録地域文化財に指定されている「田谷の洞窟」保存プロジェクトを実施している.このなかで,UAS(Unmanned Aerial System,通称ドローン)を用いたSfM多視点ステレオ写真測量や,地上レーザ測量(TLS: Terrestrial Laser Scanning)などを用いた高精細地表情報を基盤に,洞窟保全や文化財保護などの研究を通して,地域の地表・地下環境情報のアーカイブに取り組んでいる.本研究では,横浜市田谷町「田谷の洞窟」とその周辺域を対象とし,高精細地表情報の取得方法や利活用事例に触れることを通した課題発見型・体験型の地域学習を実践し,児童たちの学習効果について検証する. 本授業は,横浜市立千秀小学校第6学年の総合的な学習の時間および図画工作科を利用して実施した.当該校では,田谷の洞窟を主題として,1年間を通して地域の歴史や文化財の保存,環境についての学習を発展させてきた.学習のまとめとして,3学期にUAS-SfMやTLS由来の地表データから大型3D地形模型を製作した.地形模型作成プロセスを通して,児童たちは地形の凹凸や微細な構造を手で感じ取り,1・2学期に学習した地域学習の内容を喚起させた.その上で,デジタルで高精細な地形モデルや,アナログな立体模型を自由に俯瞰したり,近づいて観察したりすることで,さまざまなスケールにおける地域の構造物や自然環境の位置関係,規模について再認識することができた. 本授業のまとめとして地域で報告会を開催し,作成した大型3D地形模型を利用しながら地域住民や参画する大学教員・大学院生と意見交換を行った.生徒たちは意見交換を通して1年間の学習の整理だけでなく,多様な学問分野の視点や時空間スケールで地域を見つめなおし,自ら立てた課題の再考察や新たな課題を発見することができた.
著者
平野 史朗 川方 裕則 土井 一生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Revisiting earthquake catalogs have revealed that 40% or more of major earthquakes are accompanied by foreshock activities, at least in California [Abercrombie & Mori 1996 Nature] and Japan [Tamaribuchi et al. 2018 EPS].To investigate whether the foreshocks are magnification and activation of background seismicity, we have to compare waveforms due to the foreshocks and background events that might be sometimes uncataloged because of their small sizes.We can mine even small seismic signals similar to some template waveforms from continuous waveform records by using a matched-filter analysis based on cross-correlation coefficients (CC) between the template waveforms and continuous records.However, in the conventional analysis, we have to define a threshold of CC to detect similar seismic waveforms, which have been chosen subjectively and empirically.Then, we propose a threshold-free method to detect outliers from the empirical distribution of CC among seismic waveforms.In our framework, empirical distributions of the coefficients are modeled by the theory of extreme value statistics, and the detectability is automatically determined from Akaike's Information Criterion (AIC), depending on data.We applied the method of seismic signal detection to 2-years-continuous records before an M5.4 earthquake in Nagano, Japan (June 30, 2011) that followed 27 foreshocks cataloged by JMA.First, we found that the empirical frequency distribution of CC between the continuous records and foreshocks did not follow a normal distribution, which means that we cannot estimate the possibility of a false positive by assuming the normal distribution as a model.Instead, we also found that the maximum value of CC in every few seconds follow the Gumbel distribution after elimination of some outliers.The elimination can be achieved by comparing AICs of data including and excluding the outlier candidates.Given this method, we found a similar event ~2 months before the mainshock and 3 similar events 3-4 days before the mainshock.This result implies that the foreshocks were not similar to background events, and hence, not magnification or activation of them.
著者
遠田 晋次
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.はじめに 伏在断層による内陸大地震(浅部地殻内地震)が発生するたびに「日本列島どこでも震度6弱以上の揺れに見舞われてもおかしくない」という論調が繰り返される.本当だろうか.グローバルにみると列島全体が沈み込み変動帯に位置しているので,地震から無縁の地はないように見える.検知能力の著しく向上した気象庁一元化ネットワークで地震が捉えられない地域はあるのか.日本列島に「プチ安定地塊」は存在するのであろうか.逆説的であるが,「地震が起こらない」理由を考えることは,地震発生メカニズムを理解するために重要であろう.2.天草上島・下島の地震活動と地質構造,測地歪み1923年〜2018年1月の気象庁一元化震源の浅部地震活動(深さ30km以浅)を調べると,日本列島内陸でも震央が全くプロットされない地域がわずかにある.そのうちの1つが天草諸島の上島・下島である.両島を中心とする約2000km^2の地域ではほとんど地震が発生していない(図1a).日本被害地震総覧(宇佐美ほか,2013)にも両島を震源とする被害地震は全く記載がない.地震活動から見たこの地域の特徴は単に地震活動がきわめて低調であるだけではなく,囲碁の黒石に囲まれた白石のように,熊本地震余震域を含め周辺を地震活動活発域に囲まれているのが特徴である.北〜北西は雲仙岳直下から橘湾,天草灘へ抜ける北東—南東走向の地震帯(天草灘地溝),東には島原湾東部〜熊本平野〜八代〜八代海沿い(八代海地溝)の熊本地震余震域を含む地震帯,南は阿久根市西方沖に広がる多数の北東—南西走向の地震クラスター群に囲まれる.これらの周辺活発域の地震のメカニズムは北東—南西走向の横ずれか,東西走向の正断層解が卓越する.当地域は高重力異常で特徴付けられ,基盤は下島西岸に露出している長崎変成岩類が予想される.ただし,実際に地表に露出している地層としては,主として上部白亜系および古第三系の堆積岩類である(図1b, 産総研シームレス地質図).これらの堆積岩類には主として北北東—南南西の褶曲軸を持つ褶曲構造が著しく,天草褶曲運動とも称される.また,これらの褶曲を胴切りにする西北西走向の多数の高角横ずれ断層が並走する(天草型構造ともよばれる)が,一連の構造は中新世中期頃に形成されたと考えられている(高井・佐藤,1982).少なくとも,上記の西北西走向の断層群沿いに活構造を示唆する変動地形はみあたらない.当該地域には「新編日本の活断層」に活断層が6箇所ほど示されているが,いずれも4km以下で確実度II〜IIIとされている.ただし,上島北部から下島北部には海成段丘が発達し,両島南部はリアス式海岸で特徴付けられることから,第四紀後期に北高南低の地殻運動が続いていると推定されている(町田ほか,2001).なお,国土地理院(2018)による電子基準点による観測では,熊本地震の余効変動の影響はあるものの,当該地域は0.1ppm程度の東西圧縮・南北引張の場にある.日本列島の他の地域と比べて,歪速度が小さな地域に含まれる.3.議論なぜ,天草上島・下島では地震が発生しないのか.第四紀後期を通じて恒久的な非地震域であるかどうかは不明であるが,少なくとも顕著な活断層も分布しない.測地学的にも少なくとも内部での歪みはきわめて小さく,周辺を活発な地震帯に囲まれることから,この部分が内部歪みを生じないようにブロック状に振る舞っている可能性が推測される.テクトニックな観点からは,別府—島原地溝帯外(南側)にあること,天草灘—橘湾沿いに指摘されている沖縄トラフの九州上陸部からも外れていること,日奈久断層帯からある程度の離隔距離があること,などから,すべての主要変動帯から逃れている可能性がある.実際,下島の一部を除いて後期中新世以降に堆積物がほとんどみられず,全域が安定か長期的に緩やかに隆起する傾向にあった可能性がある(ただし,第四紀後期に南部はおそらく沈降している). なお,同様に地震活動域に囲まれる非地震域として面積こそ小さいが,琵琶湖直下がある.日本列島内陸で非地震域を生じるためには,周りを主要活構造に囲まれるのが条件なのかもしれない.そのような地域は超長期的なストレスシャドウに置かれていると考えられる.文献: 活断層研究会(1991)新編日本の活断層;国土地理院(2018)地震予知連絡会会報,99巻;町田ほか(2011)日本の地形「九州・南西諸島」; Mogi, K. (1969) Bull. Earthq.Res.Inst., 47, 397-417; 産業技術総合研究所(2018)日本シームレス地質図;高井保明・佐藤博之(1982)5万分の1図幅「魚貫崎及び牛深地域の地質」;宇佐美ほか(2013)「日本被害地震総覧」.
著者
原田 智也 西山 昭仁 佐竹 健治 古村 孝志
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

慶長十六年十月二十八日(1611年12月2日)の三陸地震(以下,「慶長三陸地震」)は,地震動による被害の記録は未発見だが,東北地方・北海道の太平洋岸で津波による犠牲者が多数出たと記録されている.この特徴が,1896年明治三陸地震(M8.1)や1933年昭和三陸地震(M8.1)の特徴と似ていることから,慶長地震は,これらと同タイプの地震であったと考えられてきた(羽鳥,1975;相田,1977;渡辺,1998).ところが,2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0;以下,「東北地震」)の発生後,慶長三陸地震による津波が,東北地震による津波と同様に広域的に高かったと判断し(例えば,蝦名,2014;岩本,2013),この津波を再現するためには,東北地震と同規模の断層面を持つプレート間地震(Mw8.4〜8.7)(今井・他,2015),あるいは,Mw9.0の津波地震(福原・谷岡,2017)を考える必要があることを,津波シミュレーションに基づき議論している.この判断は,三陸地方や仙台平野に伝わる津波の伝説や伝承を含む歴史記録に基づく津波高や浸水範囲(例えば,羽鳥,1975;都司・他,2011;蝦名・今井,2014)の推定が,東北地震と同等以上であることを主な根拠としている.しかし,津波高や浸水域の推定方法,推定に使われた歴史記録の信頼性について十分な検討が行われたとは言い難く,歴史研究者からも疑問が呈されている(例えば,菅野,2014;佐々木,2014;斎野,2017). そこで本研究では,同時代史料による慶長地震の特徴と東北地震を比較することにより,慶長三陸地震の震源像を考察した. 東北地震の発生時,東京は震度5弱〜5強の強い揺れに長時間見舞われ,本震後24時間以内の有感地震は200回を越えた(気象庁震度データベースによる).さらに,長野県北部でMw6.7,静岡県東部でMw6.4の誘発地震が発生し,被害も出た.よって,慶長三陸地震が東北地震と同規模のプレート間地震であれば,江戸では長時間の強い揺れとそれに伴う大被害,さらに,数日以上にわたる余震・誘発地震による揺れが記録されている可能性がある.実際に,寛政五年一月七日(1793年2月17日)の宮城県沖の地震(M8.0〜8.4)では,江戸で小被害と地震後2日間で約50回の有感地震が記録されている(宇佐美・他,2013). 慶長三陸地震発生時の江戸には,京都の公家の山科言緒と舟橋秀賢が滞在しており,それぞれ,『言緒卿記』に「(廿八日)辰刻大地振,(廿九日)至夜地動」,『慶長日件録』に「(廿八日)午刻地震,(廿九日)丑刻地動」と記している.本震の震度は3程度と推定され,長時間揺れたという記述はない.また,余震によると思われる揺れは,本震翌日の“地動”が1回記録されているのみである.さらに,両日記には,地震翌日に武蔵野見物に行った様子が記されており,有感地震が続発した状況はみられない.『駿府記』によれば,徳川家康は十月廿六日以降に現埼玉県内で何事もなく鷹狩りを挙行している.また,東北地震後のような誘発被害地震の記録もない.したがって,関東において,本震の揺れが弱く,活発な余震活動や誘発地震の記録がない慶長三陸地震が,東北地震と同規模の断層面を持つプレート間地震であったとは考え難い. 斎野(2017)によれば,仙台平野の考古遺跡からは,岩沼市の高大瀬遺跡を除いてこの地震によると考えられる津波堆積物は確認されていない.また,岩手県宮古市の沼の浜,福島県南相馬市の井田川低地においても確認されておらず(Goto et al. 2019; Kusumoto et al. 2018),慶長三陸地震の津波の規模は東北地震より小さかった可能性が高い. 以上より,この地震は,三陸海岸で10m以上の高い津波を発生させたが,東京において本震の揺れが弱く,余震もほぼ感じられなかった明治三陸地震か昭和三陸地震と同タイプの地震であった可能性が高い. なお,後世に成立した史料や成立年不明の史料の中には,慶長三陸地震の5年後の元和二年(1616年)十月廿八日に地震と津波があったことを示す史料が含まれる.例えば,『大槌古館由来記』では「元和二年丙辰年大津波,其日十月廿八日八日市日ニて,朝よりゆり出度々地震仕候,」の記述がある. 元和二年には,七月廿八日に仙台城の石垣・櫓に大被害を与えた大地震が記録されており,(『伊達治家記録』),時刻は異なるが江戸における長時間の地震の揺れの記述もある(『イギリス商館長日記』).商館長日記には,翌日にも江戸で2,3回の地震があったと記述されている.したがって,『大槌古館由来記』のような史料では,慶長三陸地震と元和二年の大地震とが混同されている可能性がある.今後,慶長三陸地震の地震像を考えるに当たり,元和二年の大地震を含めた検討が必要である.
著者
辻森 樹 原 智美 進士 優朱輝 石坂 知裕 宮島 宏 木村 純一 青木 翔吾 青木 一勝
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Nunakawaite' (strontiojoaquinite) is an orthorhombic variety of strontiojoaquinite [Sr2Ba2(Na,Fe)2Ti2[Si4O12]2O2(O,OH)2·H2O]; it is a rare joaquinite group mineral that is only found in a riebeckite-bearing albitite in the serpentinite-matrix mélange of the Itoigawa–Omi area. The mineral was originally named after 'Princess Nunakawa' (nunakawa hime) in the Japanese Shinto mythology 'Kojiki'.'Nunakawaite' is characterized by remarkably high Ba, Zr, Nb, Zn, LREEs, MREEs, and enriched in U (35.8–721 µg·g-1), Pb (2.2–31 µg·g-1), and Th (7.42–2365 µg·g-1). LA-ICPMS analyses show highly variable U/Pb (238U/206Pb = 9.245–68.98) and Pb (207Pb/206Pb = 0.0758–0.756) isotope ratios, and the scattered trend define an isochron line with a lower intercept at 89.19 ± 1.07 Ma. The 'nunakawaite' U–Pb age confirms that the 'nunakawaite'-hosted riebeckite-bearing albitite formed at late Cretaceous. This implies that the serpentinite-matrix mélange unit with early Paleozoic jadeitites and late Paleozoic blueschist, eclogite and amphibolite was reactivated by a significantly younger tectonic event.In-situ Sr-Pb isotope analyses show two different isotope trends between Sr-rich accessory minerals in riebeckite-bearing albitite ('nunakawaite' and ohmilite) and those in jadeitite (itoigawaite, stronalsite, vesvianite, Sr-rich epidote). The Sr-Pb isotopes also support the idea that the riebeckite-bearing albitite formed by a fluid-induced metasomatic event different from the jadeitite-forming metasomatism at early Paleozoic. The formation of riebeckite-bearing albitite at ~90 Ma is coeval with late Cretaceous granitic intrusion of the Omi area (youngest zircon U–Pb: 90.8 ± 1.1 Ma: Nagamori et al. 2018). The granitic intrusion might have acted an important role in the formation of 'nunakawaite'. In other words, reactivation of metasomatic mineralization in the Paleozoic serpentinite mélange is recorded in the Cretaceous riebeckite-bearing albitite.
著者
市原 美恵 山河 和也 岩橋 くるみ 西條 祥 菅野 洋
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

酢と重曹の反応による発泡を利用した噴火の模擬実験は,簡単な実験ながら,様々な噴火様式を発生させることができる(竹内, 2006).我々は,この実験を発展させ,噴火前後のマグマ溜りの圧力変化や噴出に伴う空振に相当する信号をモニターしながら実験を進める試みを重ねてきた.また,「マグマの混合から噴火へ」というシナリオを再現するため,酢(クエン酸)と重曹(炭酸水素ナトリウム)をそれぞれ混入した2つの水あめ水溶液をボトル内で混合し,噴火を導く,という方式を採用した.この実験は,研究のアウトリーチ活動だけでなく,火山研究の種となる興味深い現象の発見にも役立っている(Kanno and Ichihara, 2018).今回新たに加えた改良により,より実現象に近い形で噴火の多様性を実現することが可能になった.模擬火山は,マグマだまりに相当するペットボトルと,火道に相当する透明耐圧チューブからなる.ボトルのキャップに,特製のコネクタを取り付け,火道チューブを接続する.チューブ先端はゴム栓で閉じ,発泡によってボトル内の圧力が高まると自然に開栓して噴出が始まる.これまでの方法は,2つの点で実現象との乖離があるという指摘がされてきた.第一に,「マグマを注いでペットボトルの蓋を閉じる」という実験手順が,いかにも人為的であった.第二に,ボトル内部にもチューブを伸ばした構造が不自然な印象を与えるが,これがなければ,ボトル上部のガスだけが噴出し,噴火を継続させることができなかった.火山噴火のメカニズムという点では,それぞれに対応する現象は考えられる.しかし,専門知識,言い換えれば,先入観を持たずに噴火実験を見た場合,実際の火山現象を模擬するプロセスと実験の便宜上の手続きの間の切り分けが難しく,まして,便宜上の手続きの背後にある実現象を想像することは不可能である.従って,できる限り,人工的な部分を排して,マグマ混合から噴火までの一連の現象を模擬する実験が望ましい.以上の必要性から,マグマの注入口と火道への流出口の2系統を,ペットボトルキャップの限られたスペースに配置するコネクタを考案した.これにより,マグマ溜りの底部から新しいマグマが供給され,上部から火道に出て行く場合など,任意に設定することができる.そして,多様な噴火様式を,より制御して,自然に近い(と思われる)形で再現することが可能となった.本システムを,「次世代火山研究者人材育成コンソーシアム」の一環として開催される実験火山学セミナーにおいて使用する予定である.本発表では,その結果や効果についても報告する.
著者
阿部 なつ江
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

地球のマントルについてどのようなイメージを持っているかと尋ねると、大抵の一般の方々は、「ドロドロしたマグマ」と回答する。これは、テレビなどで繰り返し放送されるプレート境界地震の説明アニメーションや、「地底探検(ジュール・ヴェルヌ)」や「日本沈没(小松左京)」に代表される小説や数多くの映画(センター・オブ・ジ・アースなど)の影響が強いのであろう。一般的に地下深くには「熱い物質」があるという意識から、地殻の下の“マントル”はドロドロと溶けていて、そのドロドロが何かの拍子で地表まで達すると、赤く熱せられたマグマとして噴火するのだと思われているようだ。そのようなイメージを持っているからか、2011年3月11日の東日本大震災後に数多く発生した余震を経験した関東の方達の中には、「このまま日本列島の地面がバキバキと割れて、ドロドロのマグマ(=誤った認識の“マントル“)の中へ沈んでしまうのではないか?という恐怖感に真剣に駆られている方が複数居たことに、私はその時大きな衝撃を受けた。地球惑星科学の研究を行っている我々は、日本列島が目に見える時間スケールで割れてマントルの中へ完全に沈んでしまい、今すぐ消滅するようなことはない、ということを知っている。この基礎知識を持っているというだけで、誤った恐怖感を持つことはないし、また地震などの自然災害にどう対処したら良いかも、おそらく一般の方々よりは心得ているのではないだろうか。また我々地球科学者は、自然に災害に対して、一般の方々の規範となる行動や準備を心がけている必要があると、私は考えている。本公演では、筆写がこれまでに行ってきた講義や一般への講演・普及活動でのこのような反応などを参考事例としてお話ししたい。 マントル物質の岩石学的研究を行う者として、中学理科や高校の「地学」(「地学基礎」)においては、「自然災害を正しく恐れてそれに備える」ことができる最低限の知識と、またその感覚(イメージ)が持てる教育内容を期待する。それは、現在「地学基礎」を履修する主に文系の生徒のみならず、「地学」関連以外の学科を志望する理系の生徒も含めて、少なくとも日本列島に住む者として身につけておくべき最低限の知識(地学リテラシー)を、できれば高校時代までに必修科目として身につけておいて欲しいという願いがある。現在高校「地学基礎」の範囲で網羅している内容は、必要十分であるが、地学(さらに地理)に限らず、自ら考え行動するための知識としての「科学リテラシー」を身につける教育を切に望んでいる。これは、2016年の日本学術会議提言「これからの高校理科教育のあり方」*1において「理科基礎(仮称)」を必修科目として新設すべきであるという提言を行っている完全に沿うものである。また、防災・減災のみならず、ブラタモリで証明済みの娯楽としての、そしてその先にある歴史を紐解くツールとしての地学・地理学の奥深さを、味わって欲しいと願っている。
著者
星野 健 大竹 真紀子 唐牛 譲 白石 浩章
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Introduction:Recently, it has been suggested that water ice might be present in the lunar polar region based on spectral measurements of artificial-impact-induced plumes in the permanently shadowed region, and remote sensing observation of the lunar surface using a neutron spectrometer [1], [2] and visible to infrared spectrometer [3]. In addition to the scientific interest about the origin and concentration mechanism of the water ice, there is strong interest in using water ice (if present) as an in-situ resources. Specifically, using water ice as a propellant will significantly affect future exploration scenarios and activities because the propellant generated from the water can be used for ascent from the lunar surface and can reduce the mass of the launched spacecraft of lunar landing missions.However, currently it is unclear if water ice is really present in the polar region because of the currently limited available data. Therefore, we need to learn that by directly measuring on the lunar surface. If there is water ice, we also need to know it’s quantity (how much), quality (is it pure water or does it contain other phases such as CO2 and CH4), and usability (how deep do we need to drill or how much energy is required to derive the water) for assessing if we can use it as resources. Therefore, JAXA is studying a lunar polar exploration mission that aims to gain the above information and to establish the technology for planetary surface exploration [4]. JAXA is also studying possibility of implementing it within the framework of international collaboration with Indian Space Research Organisation (ISRO).Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Landing site selection:Considering the mission objectives and condition of the lunar polar region, we listed the following parameters as constraints.- Presence of water- Surface topography- Communication capability- Duration of sunshineAs a first trial of the landing site selection, sunshine is simulated using digital elevation models to obtain the sunlight days per year and the number of continuous sunshine periods at each site. Also, slope and the simulated communication visibility map from the Earth are created. These conditions can be superimposed to select the landing site candidate.Current status:Recently, we finished joint mission definition review (JMDR) with ISRO, in which JAXA provide a launch rocket and a rover while ISRO provide a lander system. Related to the instruments which will be carried on the rover or the lander, JAXA selected several candidate instrument study teams for accelerating development of these instruments. In this presentation, we are going to introduce current status of the mission planning.References:[1] Feldman W. C. et al. (1998) Science, 281, 1496-1500.[2] Sanin A. B. et al. (2017) Icarus, 283, 20-30.[3] Pieters C. M. et al. (2009) Science, 326, 568-572.[4] Hoshino T. et al. (2017) 68th IAC, IAC-17-3.2B.4.
著者
Bahareh Kamranzad Nobuhito Mori
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Indian Ocean experiences intensive tropical cyclones in both northern and southern parts. The Northern Indian Ocean (NIO) includes 7% of the global tropical cyclones which results in generating severe wave climate during the extreme events. In this study, future change of tropical cyclone-induced waves due to climate change is assessed in terms of change in the spatial distribution patterns and magnitude. The cyclone seasons in NIO are divided by pre-monsoon (especially May) and northeast monsoon (October–December). Moreover, there are few cyclones form the southwest monsoon during June and September. Hence, the assessment of future change of intensity of tropical cyclones and the generated waves is necessary to be performed on a monthly scale. For this purpose, wind field obtained from super-high-resolution atmospheric global climate model MRI-AGCM3.2S of the Japan Meteorological Agency (JMA) -with horizontal spatial and temporal output resolutions of 20 km and 1 hr., respectively- was used to force a numerical wave model (SWAN) in historical (1979-2003) and future (2075-2099) periods (based on Representative Concentration Pathway (RCP) 8.5 scenario).Spatial distribution of annual extreme events in the domain shows that the concentration of tropical cyclones is in the NIO and around Madagascar (located in the Southern Indian Ocean (SIO)) generating high waves of the magnitudes of around 20 m during the events. Spatial distribution of monthly maximum values of the historical and future wind speed (WS) and significant wave height (SWH) indicates that according to historical projection, intense cyclones happen during May and June in NIO, while they can be observed mostly during December to April in the SIO. The future monthly distribution of cyclone induced waves in SIO shows a similar pattern to the historical events, except for winter tropical cyclones (November and December), which are decreased in the future, while increasing in the intensity can be observed during October and April in NIO.Monthly variation of maximum events in the domain was assessed in the NIO and SIO, separately. According to the past studies, due to the global warming, tropical cyclones of hurricane intensity -which currently occur only in the pre and post-monsoon seasons- will likely be formed even during the summer monsoon in NIO. Our results illustrate an increase in the intensity of cyclones in the future, not only during the summer monsoon (July) but also during the winter monsoon (September and October). Results show that the range of change in the highest SWH in NIO is between -27% (in February) and +26% (in October). In the northern part of SIO, the intensity of future tropical cyclones will increase during the southwestern inter-monsoon season (March and April), whereas it will decrease at the end of southwestern monsoon season (September). In the southern part of SIO, the intensity of tropical cyclones will increase around 20% during northeastern monsoon (February and March), which results in a future increase of 40% in maximum SWH in February. Generally, change in highest SWH in the future follows the pattern of WS except for the northern parts of SIO when the highest increase in maximum SWH (21%) occurs in March whereas the highest increase in maximum WS occurs in April (25%). There is a 20% increase in maximum WS during February in southern parts of SIO which can be a reason for the increase of SWH during March in northern parts. It can be concluded that the change in the intensity of future tropical cyclones in NIO is higher than SIO. The range of change in highest SWH in NIO is larger than SIO, except for February when the maximum wave height in southern parts of SIO will increase about 40% in the future. Furthermore, the change in maximum SWH in northern parts of SIO seems to be affected by the change of tropical cyclones in southern parts of SIO.
著者
山内 啓之 小口 高 早川 裕弌 飯塚 浩太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

Free and open source GIS software has been utilized for GIS education all over the world. However, as far as we recognize, GIS education in many Japanese universities underutilize such software packages. Therefore, we developed GIS exercise materials explaining spatial data analyses using free and open-source GIS. We have been providing these materials for higher education and designated them as the GIS Open Educational Resources. We used the materials in a university exercise class, which was held as an intensive course for three days at The University of Tokyo. During the exercise, we have conducted questionnaire surveys to clarify the three criteria: difficulty, understanding and satisfactory levels of the students. The results showed that the students felt difficulty in some situations such as the utilization of GIS for the first time and complex operations using different types of data. The contents of the exercise syllabus and materials were improved based on the feedback. We conducted another GIS exercise class at the university to verify the utility of improvements. In this presentation, we show the improvements in the exercise syllabus and the comparison of educational effects on students before and after the improvements.
著者
宋 苑瑞 西浦 忠輝 小口 千明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沖縄の首里城公園内にある園比屋武御嶽石門は「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」の一カ所として2000年に世界遺産に登録された.石門とその奥の森を園比屋武御嶽といい,琉球王国の国王が外出するときに安全を祈願する礼拝所として使われてきた.1519年に琉球石灰岩で建てられ,1933年には旧国宝に指定されたが沖縄戦で大破され,1957年に復元された後に解体修理し1986年に完成し,1972年国指定建造物になった.解体修理時には古い屋根石を使用したが,この際にクリーニングや撥水性シリコーン樹脂の含浸や表面の穴埋めを行った.現在は図1でも確認できるように,石門全体の色は黒っぽくなり,屋根(右側が古屋根材を使用したところ)の部分の穴埋め箇所とオリジナル石材とは色の差も目立つようになっている.穴埋めとシリコーン樹脂塗布から30年後の状況を色彩計を用いて定量的に把握し,今後の修理処置に役立てられることを本研究の目的とする. 修復された屋根の表面の色や石門の全体的な色の把握するために,石門の表面の51か所で分光測色計(コニカミノルタ社製,CM-700d,測定径Φ8mm)を用いて定量的測定を行った.この測定器は,測定時間はわずか1秒程度で,簡便に携帯できる特徴があり,多様な分野で使用されている.石門の正面から見た際に黒色化した部分の割合をPhotoshopを用いて求めた.石門の表面温度を測定擦るため,FLIR社製の熱カメラを用いて,表面の温度分布を把握した.一年中の気温と湿度の変化を把握するために,那覇市市民文化部文化財課の許可を得て,ボタン型温湿度測定器(ハイグロクロン)を石門の南側の左上の方に設置し,観測を行った. 分光測色計による測定の結果,修復当時は石灰岩の色が明るく,屋根部分に修復材とほぼ同じ色だったが,30年後は変色速度や状況が異なり,修復材の方は灰色に,本来の石材はより黒色になっている箇所が多かったことが分かった.園比屋武御嶽石門の屋根の下で観測された年間平均気温は24℃,平均湿度は81.5%で,高温多湿な亜熱帯気候の特徴が見られた.冬季の平均気温も22.1℃で,湿度も80%に至り,最低気温も8.5℃だった.そのため,植生の成長がとても速く,建物の表面の色に影響を与えた可能性がある.
著者
武村 俊介 松澤 孝紀 野田 朱美 利根川 貴志 浅野 陽一 木村 武志 汐見 勝彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沈み込みプレート境界浅部で発生するスロー地震は、プレート境界の摩擦状態などの構造的特徴を知る鍵となる(例えば、Saffer and Wallace, 2015 Nature Geo.)。本研究では、室戸岬沖から紀伊半島南東沖にかけての領域で発生した浅部超低周波地震に着目し、浅部超低周波地震の活動の空間変化から発生域の構造的特徴を明らかにすることを目的とする。Asano et al. (2008 EPS)の手法で得られた浅部超低周波地震の検知時刻周辺を解析時間窓として、周期20-50秒の帯域のF-net速度波形に対してTakemura et al. (2018 GRL)のCMT解析を行い、浅部超低周波地震の発震時刻、震央位置、地震モーメントおよび震源時間関数のパルス幅を推定した。CMT解析のためのGreen関数は、Takemura et al. (2019 PAGEOPH)の3次元不均質構造モデルを仮定した地震動シミュレーションにより評価した。2003年6月から2018年5月の期間に検知された浅部超低周波地震に対してCMT解析を行ったところ、室戸岬沖、紀伊水道沖および紀伊半島南東沖のトラフ軸付近に低角逆断層の解が多く推定された。得られたCMTカタログから、それぞれの領域における積算モーメントを評価し、その空間変化を調べた。室戸岬沖、紀伊水道沖および紀伊半島南東沖の領域で積算モーメントが高く、紀伊半島南方沖では小さいことがわかった。浅部超低周波地震の活動域の構造的特徴を明らかにするため、得られた積算モーメントの空間変化と、すべり欠損速度(Noda et al. 2018 JGR)およびS波速度構造(Tonegawa et al. 2017 Nature Comm.)を比較した。浅部超低周波地震の積算モーメントが高い領域は、すべり欠損速度が大きい領域の周囲に位置し、プレート境界直上に顕著な低速度領域が存在することがわかった。低速度領域から流体の存在が示唆され、浅部超低周波地震の発生は流体とすべり欠損速度の両方が鍵をにぎると考えられる。謝辞F-netの広帯域速度波形記録を使用しました.スロー地震学のスロー地震データベースよりカタログをダウンロードしました(Kano et al., 2018 SRL).地震動計算には地球シミュレータを利用しました.
著者
小宮 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本で近代科学が産声をあげて約150年、この間、日本の研究者は公的資金を用いて国内外から、非常に多くの地球試料や隕石、地質・地形情報など(宇宙・地球研究資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究のために資料を保管し、キュレーションするといった設備の整備が極めて立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い試料や大きな発見につながった科学的遺産試料でさえ放置・紛失・廃棄されてきた。さらに、開発や紛争などによって試料採取が不可能になるケースや各国で岩石・生物・化石試料の採取や輸出が制限されるケースが年を追うごとに増加し、研究試料の確保の困難が浮き彫りになってきた。 しかし、カンブリア爆発を創出したバージェス頁岩や最近注目を集める希土類元素に富む深海泥の研究は、30〜50年もの長い間、公的機関に保管された試料の研究から始まっている。さらに、現時点では不可能な古代ゲノム研究、岩石・化石試料の超微量分析、東日本地震を引き起こした断層岩の極微量・微小解析なども、急速に進歩する研究技術の進展を考えると、近い将来可能となることが期待されるが、その時には対象の試料を確保することがもはやできないといった問題に直面することが危惧される。 また最近、科学の社会的還元や信頼性の保証のため、論文やデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性がヨーロッパ諸国から強く唱えられ、今や中国さえもそのような国際的な取り組みに主体的に参加する大きな潮流が生まれている。しかし、日本では、このような世界的動向に主導的に参画するための基盤的設備が立ち遅れてしまっている。 我々は、現在、分散保管されている宇宙・地球研究資料を一つのプラットフォームでアーカイブし、公開・キュレーションすることと、それらを保管する施設を建設することを提案する。過去に採取した試料を保管することは一見、生産性が無く、浪費と見なされがちであるが、上述の深海泥を採取するには30以上の航海を必要とし、多大な費用がかかり、今や現実的でない。さらに、基本記載の済んだ資料は研究の進展を迅速にする。つまり、将来の研究のために資料を保管することは金銭的にも十分見合う投資となる。そこで、我々はそのような保管・頒布体系を早急に構築することで、100年後を見据えた科学の発展に寄与することを目指す。 実施主体:産総研・地質調査所。提案・支援機関:地質学会、国立極地研究所、国立科学博物館、海洋研究開発機構、神奈川県立博物館、各大学の地球惑星関連専攻、各自然史系博物館など。事業期間は10年間で、その後は地質調査所の敷地内で保管する。費用は、施設費に100億円、アーカイブ化のため、各大学に人員を配置する人件費として200億円を見込む。
著者
吉田 聡
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

2018年7月豪雨は気象庁が豪雨発生前の7月5日14時に「西日本と東日本における8日頃にかけての大雨について」という報道発表を行っており、実際の雨も8日まで持続した。本研究では気象庁週間アンサンブル予報データと気象庁長期再解析データJRA-55を用いて、梅雨前線の形成要因である対流圏中層ジェットと下層水蒸気フラックスに着目し、この豪雨の始まりと持続の予測を左右した要因について解析した。豪雨発生期では、対流圏中層ジェットの南下の予測可能性が低く、予測のばらつきが小さくなったのは6月30日以降であった。これは中国大陸から伝搬してくるトラフの発達が関係していた。一方、対流圏下層水蒸気フラックスはその時点では東シナ海に流れ込む予測で、7月1日に台風7号の位置が定まった時点で西日本への流入が予測された。しかしまだ豪雨の持続と終息時期については、バイアスと不確実性が大きく、中層ジェット、水蒸気フラックスともに7月2日まで予測精度が低かった。特に水蒸気フラックスについては、台風7号の発達とユーラシア大陸上からのリッジの伝搬が関係しており、予測を難しくしていた。
著者
関澤 偲温 宮坂 貴文 中村 尚 Akihiko Shinpo Kazuto Takemura 前田 修平
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Western Japan experienced torrential rainfall in early July 2018, which caused severe floods and landslides especially over western Japan. Japan Meteorological Agency (JMA) reported that this extreme event was associated with extreme enhancement of northward moisture flux and its convergence over western Japan. Some recent studies have pointed out an essential role of surrounding oceans for extreme rainfall events through the anomalous heat and moisture supply to the warm, moist monsoonal airflow. This study investigates anomalous oceanic evaporation during the torrential rainfall event over western Japan based on the objective analysis data from the JMA Meso-Scale Model. We have found that the heavy rainfall was associated with enhanced oceanic evaporation extensively around Japan, especially along the Kuroshio and entirely over the Japan Sea. We then conducted a linear decomposition of local surface latent heat flux anomalies based on the bulk formula to determine factors for the enhanced evaporation. Our results show that the enhanced evaporation under the pronounced southerly inflow toward the extreme rainfall region was mainly due to increase in the surface wind speed along the Kuroshio south of Japan, with an additional contribution from warm SST anomalies to the enhanced moisture inflow into central Japan. In order to quantitatively assess contribution of the enhanced evaporation to anomalous moisture transport in the mixed layer, we also performed a backward trajectory analysis for moist air parcels. It reveals that anomalous moisture supply from the ocean to air parcels along trajectories is dominated by enhanced evaporation due to the stronger surface wind speed, which corresponds to about 20 % of the column water vapor anomaly and about 5 % of the total column water vapor.
著者
為栗 健 井口 正人 真木 雅之 中道 治久 味喜 大介
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

桜島火山では1955年以降、山頂火口においてブルカノ式と呼ばれる爆発的噴火を繰り返している。東側山腹の昭和火口では2006年に58年ぶりに噴火が再開し、2009年以降は特に噴火活動が活発化していた。2018年以降は昭和火口から南岳山頂火口に噴火活動が再度移行している。爆発的噴火の特徴として、火山弾の放出、衝撃波の発生、急激な火山灰や火山ガスの放出が上げられる。他にも、頻度は少ないものの南岳山頂火口や昭和火口の爆発的噴火では小規模な火砕流の発生が上げられる。火砕流は高温の火砕物や火山ガスが山腹斜面を高速で流れ下るもので、火山噴火の中で最も危険な現象の一つであり、火山防災上、その発生予測は必要不可欠である。1967年以降~1985年の間に南岳山頂火口における噴火に伴い7回の火砕流が確認されている(加茂・石原,1986)。さらに、気象庁によると2006年~2014年に昭和火口の噴火に伴い37回の火砕流発生が報告されている。いずれの火砕流も流下距離は2km未満で小規模なものであった。活発な噴火活動を続ける桜島であるが、火砕流はすべての噴火に伴うわけではなく、同規模の噴火でも火砕流が発生しない場合が多く、桜島における火砕流発生メカニズムの解明には至っていない。今後、噴火活動が活発化した際には大規模な火砕流の発生も考慮する必要があり、火砕流を伴う噴火の発生メカニズムの解明と噴火の前兆現象から火砕流が発生した場合の規模予測をすることが重要である。本研究では2012年~2018年に昭和火口で発生した火砕流、および2018年6月16日に南岳山頂火口において発生した爆発的噴火に伴う火砕流について前兆地震活動や地盤変動データの特徴を明らかにする。また、観測される前兆地震や地盤変動から火砕流が発生した場合の流下予測が可能かについて検証を行う。6月16日に発生した南岳山頂火口における爆発的噴火では噴煙高度4700mに達した。噴石が6合目まで飛散し、火砕流が南西方向に1.3 km流下した。噴火の発生約18時間前から地盤の膨張が観測されていた。噴火の1時間ほど前から散発的に前駆地震が発生していたが、昭和火口の噴火の際に観測される前駆地震と比較するとあまり明瞭な群発活動ではなかった。噴火時の映像から火砕流は噴煙が上昇し始めた約1分後に噴煙柱の根元から降下した噴出物が斜面に流れ下って発生していたことが分かる。火砕流は噴火と同時に発生しているわけではなく、これは南岳活動期に発生していた火砕流と同じ特徴を持っている(加茂・石原,1986)。噴火による地盤変動の収縮量から噴出物量は28万m3と推定される。それら噴出物の全てが火砕流となるわけではなく、火山灰として飛散していくものもある。地盤変動の膨張量から噴火による噴出物量の予測は可能であるが、火砕流の流下予測を行うためには斜面を流下する噴出物量を推定する必要がある。気象レーダーを使用した空中に放出された火山灰量の測定や降下火山灰の実測値などから火砕流となった噴出物量の推定を行うことが可能である。これにより前兆現象である地盤膨張量から火砕流発生時の最大流下距離の予測を行う。
著者
中田 節也
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本の火山研究者、特に若い科学者は、IAVCEIとIUGGの関係をよく認識していないようだ。その理由は、IAVCEIと比較して、IUGGが彼らには可視的ではないためである。彼らが最初に挑戦することができるという国際会議としてIAVCEIが指導教官から紹介されることが多い。IAVCEIの存在は彼らが会員である日本火山学会(VSJ)でもよく見えている。この100年間、IAVCEIに対しては、久野 久、荒牧重雄、中田節也らの会長など、日本の研究者がIAVCEI理事を務め、IAVCEI学術総会が1962年に東京、1981年に東京・箱根、2013年に鹿児島で開催された。IAVCEIの2番目に大きい会議である火山都市国際会議(COV)は、科学者と非科学者が集って火山災害を軽減するために議論するフォーラムで、1998年以降、IAVCEI総会と学術総会の合間の2年ごとに開催されるものであるが、1988年に鹿児島市で開催された国際火山会議に端を発するものである。2007年には島原市で第5回COVを開催した。IUGG総会は2003年に札幌で開催されたが、それでもIUGGは若い火山研究者、ひょっとしたら中堅の研究者の間でもあまり知られていない。例えば、最近のIAVCEI学術総会は1000人以上の参加者を集めるが、IUGG総会時のIAVCEI総会には300人程度の参加者しかいない。この数は最近のCOVの約1000人の参加者よりはるかに少ない。この理由の1つはIUGG総会では組織される火山巡検がないということがあるかもしれないが、それよりも単純に会議の規模が理由であろう。IUGGの各アソシエーション自体の研究分野が十分に広いので、8アソシエーションの集まりは若い研究者が参加するには分野が広すぎる。彼らは、自分たちの学会では心地よく感じるが、AGUやEGUではビジネスライクに映るかもしれない。これはJpGUと個々の国内学会との関係にも似ているかもしれない。私たちは多くの分野のアソシエーションが集まって会議を開催することのメリットを確認し共有することが必要であろう。さらに、IUGGや国際学術会議(ISC)のような政府が分担金を払う団体の役割についても私たちの間で確認し直すべきである。この場合、会議への参加者数を増やすことが優先課題ではない。地球規模の気候変動、および大地震や火山噴火などの地域の地質学的危害は、リスクを軽減するために世界的に最優先課題となっている。このような状況の下で、国連は2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)を明確にしており、政府によって活動が保証されているIUGGやISCの任務はこれらの課題解決でも拡大しているといえる。