著者
光石 亜由美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.34-44, 2009-11-10 (Released:2017-08-01)

一九一〇〜二〇年代のモダニズムの一面を変態や異常を消費する人々の出現として捉え、<女装><変態><犯罪>というキーワードで谷崎潤一郎「秘密」(一九一一年)に描かれた女装を分析した。「秘密」では、セクソロジーの言説を背景に、<女装すること>ではなく、<女装という変態を演じること>に快楽を見出し、女装をロマン化する。しかし、同時に、着脱可能な<表層>のドラマとしての女装が「秘密」以後の映画や探偵小説の中で消費されることも暗示している。
著者
渡辺 麻里子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.58-68, 2014

<p>談義や論義の場で生まれた書物には、時折、その場を彷彿とさせる表現が見られる。論義書の伝静明作『天台問要自在房(百題自在房)』十巻は、「申されずるでそう」「申されまじいて候」等、口語表現が多用されている点でも注目されてきた。本稿では、本書の他に、『鷲林拾葉鈔』や『轍塵抄』などの談義書について取り上げ、談義書に特徴的な表現について論じる。また、漢字の表記、特に読み方にこだわる表記をめぐる問題について検討する。</p>
著者
栗田 廣美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.52-60, 1985-07-10

明治四十三年に書かれた『叛逆者』は、クロポトキンの『相互扶助論』(MutualAid)を密かになぞりつつ、国家主義的<現代文明>への痛烈な批判を内在させた、有島の大逆事件への回答だと言える。それは、作家的出発に際しての<芸術宣言>でもあるが、その論理は、少年時代以来、有島の内部に育ちつづけた歴史意識-<中世への共感>に支えられていた。有島にとっての<歴史>の意味は、彼の芸術の生成を考える上で、重要なものである。
著者
吉田 司雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.30-44, 2001-04-10

江戸川乱歩「二銭銅貨」、坂口安吾「アンゴウ」、大岡昇平「暗号手」。これら「暗号」解読を作中に組み込んだ作品群は、テクストを読むという行為自体を問題化している。メッセージの送信者が目指した受信者としてではなく、いわば「選ばれなかった読者」としてメッセージに向かい合う時、情報伝達行為の問題性もまた明らかになる。そこから、情報化社会における文学研究のありようを考える手掛かりを探ってみたい。
著者
石川 巧
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.61-72, 2014-01-10 (Released:2019-01-26)

本稿は、日本の高等教育機関において近代文学という学問が正式に承認され、汎用性のある教科書が編まれるようになったのはいつ頃からか? という問いを立てることから出発し、明治・大正期から昭和戦前期に至る教科書の変遷を追跡したものである。特に、大学講義用教科書の定義を明確にし、詳細な文献調査にもとづいてその起源を明らかにすることに力を注ぐとともに、それぞれの教科書がどのような目的と方法をもって学生の文学的リテラシーを涵養しようとしたかを考察している。
著者
跡上 史郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.31-40, 1996-06-10 (Released:2017-08-01)

物語は物語を批判し、留保や注釈をつけながら、物語ならざるなにものかの相貌をまとってあらわれてくる。物語からは原理的に逃れられないのだとすれば、物語との緊張関係を生きるための知が必要なのではないだろうか。澁澤龍彦は、一九八〇年代に流行した「物語批判」に関心を寄せつつ、「反物語」「反反物語」を試みた。物語の知の可能性を、九〇年代のいまなお潜在的にも顕在的にも影響力を行使している「物語批判」の側面から逆照射する。
著者
小二田 誠二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.49-59, 1987-12-10 (Released:2017-08-01)

馬場文耕作とされる「皿屋舗辯疑録」の構成要素の検討を通して、皿屋敷伝承の実録化に関与した文化圏について考察する。この伝承は、巡国の聖や祐天説話を生んだような浄土宗門の説教僧の手を経て実録化されたと考えられる。この事情は、本作が、説教から近世的な講談への過渡的な意味を持つことを示すと共に、講釈師の文化圏が、説教者達と、かなり深く重なり合って、近世口承文芸、舌耕文芸の形成に関って来た事も示唆している。
著者
一柳 廣孝
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.30-38, 2001-11-10

「週刊少年マガジン」に連載されたつのだじろう「うしろの百太郎」は、心霊学にもとづいて心霊の知識を教授する場として機能し、七〇年代以降のオカルト・ブームに大きな影響を与えた。本稿では主として「うしろの百太郎」連載時に反響を呼んだ「コックリさん」、超能力をめぐる動的な様態に注目し、この特異な場に働いたさまざまな「力」の諸相について、いささかの考察を試みた。
著者
中川 成美
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.2-15, 2011 (Released:2016-12-09)

真に文学的な想像力とはどのようなものなのだろうか。文学は言語を媒介とする表現様式と認知されているが、読書行為の推移のなかで見出される非言語的なイマージュの躍動に対して、文学研究においてはこれまで「表象」化という概念に貼りつかせて、言語的行為と捉えてきた。しかし、G・ドゥルーズが指摘するように、言語を超えてイマージュそのものを身体的に感知する「精神的自動機械(automate spirituel)によって見出す「外の思考」をここで考えていくならば、非言語としての図象的想像力とは、あらゆる思考の生産のなかに発動の契機を持つであろう。そしてその中で文学によってしか存立しない想像力、「文学的想像力」としか名付け得ない領域が開かれているのではないかと考えている。本発表ではその立場から、想像力が言語、非言語に関わらず喚起されていく経緯を現代文学作品から考察し、特に視覚性(Visuality)という身体の経験との往還によって見出される想像力が、文学のなかに基層的に封じ込められていることに言及したい。
著者
小二田 誠二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.34-43, 2012-01-10 (Released:2017-08-01)

近世の実録は、実在の事件に取材しながら、書写、伝承していく過程で、場合によっては荒唐無稽と思われるような変容を遂げる。それは、現代の科学的思考から見れば「非・事実」、「虚構」である。しかし、そうした虚構によってこそ「事実」は言語化できるとも考えられる。具体的な資料を検証できる実録を材料とすることで、我々にとっての事実とは何か、記録する営みとは何か、と言う文学の根源的な課題に近づくことができるだろう。
著者
高山 裕行
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.12, pp.70-75, 1985-12-10 (Released:2017-08-01)

太宰治「走れメロス」は、シラーの"Die Burgschaft"を下敷きとして書かれている。相馬正一氏をはじめ研究者諸氏がとり上げているその訳文は、木村謹治訳又は手塚富雄訳であるが、いずれも主人公は「ダーモン」である。では、太宰はどの翻訳を読んで作品化したのだろうか。それは小栗孝則訳「人質」(『新編シラー詩抄』所収)である。この訳文は主人公が「メロス」であり、本稿では小栗訳「人質」と「走れメロス」との関係を分析した。
著者
岩佐 美代子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.33-42, 2006-07-10

西園寺公宗の宝、日野名子の日記「竹むきが記」は、皇統・公家社会・婚姻形態にかかわる三つの危機を乗越え、これに鍛えられた女性によって書かれた作品である。困難きわまる時代の中で、夫を失い、その家に乗込んで遺児を育て上げ、家門を守った彼女は、同時に自らの判断で信仰の道を定め、在俗修行に徹する。中世までの自立性高い女性と、近世の夫に従属し家を守る女性の分岐点に立つ本記は、危機を描く文学として価値高いものである。新たな見直しを期待したい。
著者
岡部 隆志
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.1-10, 1999-05-10

記紀や風土記には、神婚の物語が多数含まれる。それらの神婚譚は、人々の幻想が生み出したものにせよ、神の妻として世間から認知される巫女の憑依体験が内在されていると考えられる。神の憑依にはレギュラーとイレギュラーとがある。イレギュラーの憑依体験は人間に「畏れ」を抱かせるが、その意味では、イレギュラーの憑依体験が、一般的な神の子の物語とはならない異類婚姻譚などの、人間の側の「畏れ」を内在させた物語を生み出す契機になっているのではないか。
著者
北條 勝貴
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.20-35, 2004-05-10 (Released:2017-08-01)

大殿祭は、忌部(斎部)宿禰の主催する希有な宮廷祭祀である。「大殿祭祝詞」や『古語拾遺』は、同祭が、山中での採材から柱立てに至る一連の伐木・建築祭儀と内的連関にあることを主張する。事実、伊勢神宮の年中行事や遷宮諸祭、大嘗祭にも、これと同種の儀礼体系が共通して存在し、忌部の関与が濃厚に確認できる。これら忌部と樹木との密接な関係は、忌部宿禰の品部である紀伊忌部が同国固有の環境において醸成してきた、樹木に宿る宗教性(木霊・山神の力)を殿舎の守護神へ転化する、木霊鎮めの技法に基づいている。「祝詞」にのみ登場する大殿祭の祭神屋船命は、忌部が樹木との直接的交感を通じて生み出した独自の神格であり、「事問ひし」自然との葛藤を体現する物語りなのである。
著者
兼岡 理恵
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.2-9, 2013 (Released:2018-05-18)

環境をどのように表現するか。特に自然環境においては、実際の景・事象を客観的に描く立場と、理想の景・イメージとして文芸的に表現する、という二つの立場がある。古代散文における雪の記事をみると、たとえば六国史の雪は、災厄の予兆・雪害から儀式に関するものへと変容しており、朝廷における雪への関心の変化が窺える。一方『摂津国風土記』逸文には、鹿の背に積もる雪が塩の譬喩として表現されるが、その聯想の背景には、野に降り積む雪の文芸的イメージ、さらに同地の地理的環境がふまえられており、文芸的観点から雪を描いた記事といえる。
著者
篠崎 美生子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.38-47, 2005-01-10

「鼻」は、王の「内面」(=人間の弱点)を書き/読む小説である。物語内容の上では、王権と弱い「内面」は両立を許されないのだが、読書行為の中では、内供は同情され、救済されてしまった。こうして王に感情移入する読書のレッスンのほか御製、教育勅語等の効力が相俟って、人々に王の「人間宣言」という矛盾を受け入れさせる要因になったのではないか。