著者
木下 恒雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.607-611, 1994-04-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
2

柴葛解肌湯 (浅田家方) は小柴胡湯と葛根湯の合方から人参と大棗を去り石膏を加えた合方的薬方であり, 薬方の構成や出典の記載内容から太陽病と裏的少陽証の併病に運用されるべきものと思われる。一方, 併病の治療において, このような病態に対しては太陽病と陽明病の治療原則に倣い先表後裏で対応するのが原則と思われるが, 本方証では例外的に表裏双解的効果を狙ったものと思われる。呈示した, かぜ症候群の症例は当初麻黄湯証と思われたが, 初診の翌日には裏的少陽証への転属すなわち太陽病と裏的少陽証の併病に移行したと診断した。そこで本方を用いたところ, 短時日で症状軽快をみた。このことは太陽病と裏的少陽証の併病の一病態に対する本方の有意性の一端を示すものではないかと思われる。併病治療に際しては治療原則を勘案の上, 本方証の如き例外的な薬方の運用もあることを念頭に置いておくべきではないかと思う。
著者
白尾 一定 前之原 茂穂 愛甲 孝
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.309-313, 1995-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
6

消化器外科に入院した患者84例を対象として, 栄養状態と虚実証の関連について検討した。虚実証の判定は, 大竹の虚実判定スコアーを用いて行った。癌患者の%理想体重は, 非癌患者より有意に低値であった (p<0.01)。癌患者と非癌患者の虚実証の頻度に差は認められなかった。虚実判定スコアーは握力 (r=0.6), %理想体重 (r=0.29), 血清アルブミン (r=0.27) との有意の相関が認められた (p<0.05~0.01)。とくに, 握力は一元配置分析にて虚証, 中間証と実証の3群間に有意差が認められた (p<0.01)。虚実判定スコアーは栄養評価の一つとして有用と思われた。
著者
松本 克彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.241-248, 1998-09-20 (Released:2010-03-12)

滋陰とは陰を潤すという意味で, 結局は体液を補う方剤ということになる。このような方剤群を歴史を追って整理すると, まず金匱要略に麦門冬湯, 白虎加人参湯があり, また陰陽双補剤と考えられる八味丸がある。次いで和剤局方には清心蓮子飲があり, ほぼ同年代の小児薬証直訣では六味丸が八味丸の受方として独立する。その後明代に滋陰清熱の概念が確立するとともに, 多くの処方が現れるが, 代表的なものとしては万病回春の滋陰降火湯があげられよう。これらの滋陰剤の適応となる陰虚証の診断には, 望診でるい痩, 皮膚の乾燥, 問診で口渇,足腰の弱り, 粘稠な痰などがあるが, 舌苔の減少, 舌質の萎縮を主とする舌診所見が最も簡単である。陰虚証は老化, 糖尿病, 慢性炎症性諸疾患等に一般的に見られ, 今後の高齢化時代における漢方治療に極めて重要な意味を持つと考えられる。
著者
沢井 かおり 渡辺 賢治
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.278-281, 2013 (Released:2014-02-28)
参考文献数
15
被引用文献数
1

関節痛は,種々の整形外科的疾患や免疫性疾患などで生じるが,原因不明の場合,西洋医学的治療は限られる。今回,原因不明の多発関節痛が,補中益気湯で著明に軽快した症例を経験したので報告する。症例は48歳女性,4,5年前から易疲労感,3ヵ月前から多発関節痛がある。関節痛に関する内科的検査で異常はなかったが,疲れと肩・手首などのこわばりや痛みが持続していた。虚実・寒熱の偏りが乏しく,気虚・気滞と診断し,易疲労を重視して補中益気湯を処方したところ,3週後には関節のこわばりや痛みがほとんどなくなった。関節リウマチを含む多発関節痛が補中益気湯で軽快した報告はごく少ない。本症例では,慢性疲労症候群に準じた病態に対して,補中益気湯が補気剤として奏効した可能性が示唆された。原因不明の多発関節痛では,関節痛に多用される処方以外も選択肢として考えることが重要である。
著者
中西 美保 岸田 友紀 田上 真次 馬場 孝輔 萩原 圭祐
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.352-357, 2017 (Released:2018-02-07)
参考文献数
21

妄想型統合失調症の治療中に出現した,無為,自閉,倦怠感,抑うつ等の陰性症状に対して,加味逍遥散と補中益気湯が奏功した症例を経験した。陰性症状に対する治療は,薬物療法や心理社会的療法の有効性が示されつつあるが,これらの治療に抵抗性を示す症例も多い。統合失調症に対する漢方薬治療は,従来の陽性症状に対する補助的治療に留まらず,陰性症状にも幅広く有用な治療であると考えられた。
著者
橋爪 圭司 山上 裕章 塩見 由紀代 古家 仁
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.833-836, 1997-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

中枢神経 (脳・脊髄) の障害に起因する持続性の下肢痙性に, 芍薬甘草湯 (エキス剤) が有効であった2例を経験した。症例1は, 脊髄炎後遺症の61歳女性で, 冬期に左下肢の痙縮が増強し, 左膝の屈曲困難・歩行困難となった。症例2は, 痙直型脳性麻痺の29歳女性で, 坐骨神経痛の悪化と共に, 足尖の痙縮が増強し, 歩行困難となった。いずれも各種筋弛緩薬の効果が不十分であったが, 芍薬甘草湯の定期的投与により, 短期間で著明な痙性の改善を認め, 歩行が容易になった。
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.1101-1116, 2001-03-20 (Released:2010-03-12)
被引用文献数
2 2
著者
三浦 於菟 松岡 尚則 河野 吉成 板倉 英俊 田中 耕一郎 植松 海雲 奈良 和彦 芹沢 敬子 中山 あすか 橋口 亮 福島 厚 小菅 孝明 斉藤 輝夫
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.1-14, 2012 (Released:2012-08-24)
参考文献数
53

盗汗病態理論の史的変遷を中国医書に基づいて検討した。隋代まで,盗汗と自汗の病態は同様であり,主に体表の気虚によって出現すると考えられていた。唐代には,盗汗と自汗の病態の相違性が指摘され,盗汗は熱によって出現するとされた。宋金代には,血虚や陰虚の熱が盗汗を出現させるとされた。金代には,寒邪などの外邪によっても盗汗は起こるとの実証盗汗理論が提唱された。元代と明代の初期には,盗汗は陰虚,自汗は陽虚という学説の完成をみた。明代中期には,盗汗は陽虚でも出現する事があり,病態によって盗汗と自汗を把握すべきだという新学説が登場した。清代には,外邪のみならず湿熱,食積,瘀血によっても盗汗は出現するという実証の盗汗,部位別盗汗病態などの新しい学説が登場した。また温病盗汗は傷寒とは異なり陰虚によるとの学説もみられた。盗汗学説は古きに知恵を求めながら発展したといえる。
著者
小野 孝彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.10-15, 2013
被引用文献数
2

近年,糖尿病性腎症,慢性腎炎,腎硬化症など各種の腎疾患をひとまとめにして慢性腎臓病と呼んでいる。レニン・アンジオテンシン系に働く治療薬は慢性腎臓病治療の第1選択とされているが,七物降下湯は併用効果が期待される。基礎的研究では糖尿病性腎症の進展に八味地黄丸の抑制効果がある。近年の研究から腎炎や一次性ネフローゼ症候群において,柴苓湯はステロイドや免疫抑制薬の減量効果が期待される。慢性腎炎やネフローゼ症候群の背景となる病態として,柴朴湯の治療は頻回の上気道炎を減少させ,柴苓湯はアレルギーの関与が考えられるネフローゼ症候群に対して効果的な場合が見られる。小児の IgA 腎症に対して,前向きの臨床試験による柴苓湯効果のエビデンスも得られている。透析に至る前の慢性腎不全に対して温脾湯は,透析導入への延長効果が知られている。五苓散は血液透析時の透析困難を改善し,腹膜透析においては腹膜線維化の問題点に対して柴苓湯の改善効果が期待される。
著者
和久田 哲司
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1-2, pp.71-75, 2002-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22

漢代に成立した『黄帝内経』の以前もしくは以後の関係文献から, 手技 (按摩) 療法の発祥及び発展状況を考察したところ, 次の事項を確認した。中国における按摩療法の起源は, 甲骨文や『周禮』の記述から殷周代に求められ,『扁鵲伝』に按摩治法の名やその治効作用が示されていることから, その発祥を春秋戦国期に遡ることが出来る。また,『五十二病方』に按摩療法の記述が見られることは, 按摩治法が既に秦漢以前に行われていたことを実証するものである。そして『養生方』『神農本草経』などの薬物書において「摩」の術が膏薬と共に用いられていたことは,『黄帝内経』での「按」の術との表現が異なってはいるが, 按摩施術が存在していたことを裏付けている。以上のことから按摩療法は少なくとも周代には既に他の治法と共に併用されていた。しかし「按」と「摩」の術としての発展過程の相違が伺われ, 今後この点の検討を要する。
著者
越田 全彦 山崎 武俊
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.134-139, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

症例は特記すべき既往のない19歳男子大学生。16歳の時に明らかな誘因なく1日に10回以上嘔吐を繰り返し,経口摂取不能のため近医入院の上,点滴加療を受けた。発作間欠期にはほぼ無症状だが,以後年に2~3回,激しい嘔吐のために1週間程度入院するようになった。その都度精査を受けたが,脱水を認めるのみで他に明らかな異常を認めなかった。19歳を過ぎた頃より毎月入院するようになったため,精査目的に当院紹介受診となった。西洋医学的には特記すべき異常を認めず,周期性嘔吐症候群と診断した。漢方医学的には,気鬱・気逆と診断した。半夏厚朴湯を処方したところ,自覚症状は著明に改善し,内服開始から半年が経過したが嘔吐発作は出現していない。 気鬱・気逆を伴う強い嘔吐症状を半夏厚朴湯が予防する可能性があり,機能性消化管障害に対する漢方薬の有効性が示唆された。
著者
金田 康秀
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.278-286, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
60

Vogt-小柳-原田病(原田病)は,本邦では2番目に多いぶどう膜炎である。自己のメラノサイトに対する自己免疫性疾患と考えられており,汎ぶどう膜炎に加え,中枢神経症状,内耳症状,皮膚症状をきたすことが特徴的である。標準治療は全身的なステロイド大量療法である。更に不十分なステロイド剤使用は再燃や遷延化を招く。今回,B 型肝炎ウイルスキャリアに初発した原田病に対し,ステロイド剤を一切使用せずに竜胆瀉肝湯(一貫堂)と五苓散の併用が奏効した一例を経験したので報告する。症例:40歳男性。両)霧視を主訴に近医眼科を受診し,両)黄斑症を認め当科に紹介。原田病と診断し,和漢診療学的に軽度の水滞・瘀血を伴う足厥陰肝経の湿熱と捉え,竜胆瀉肝湯(一貫堂)と五苓散を投与した。結果,翌日から徐々に視力が改善し始め,ステロイド剤を使用することなく治癒した。原田病に漢方単独の治療が選択肢になり得ることが示唆された。
著者
光藤 英彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.363-375, 1994-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
14

鍼灸医学における穴位主治の伝承は, 古方における方と証に匹敵すると考えられる。しかし唐代以後, その伝承の整理にはほとんど手がつけられなかった。その最大の理由は, 明堂経の亡佚である。近年, 黄帝内経明堂類成の一部が我が国の仁和寺において発見され, この研究に端緒が生まれた。1980年代の善本の復刻事業がこの方面の研究に拍車をかけた。私共の研究も, この流れの一端に位置する。私共の研究の特徴は, 穴位主治条文の字列構成を解析するという方法論を用いている点と, 医心方穴位主治の執筆者の見識を研究対象にしている点にある。私共は, この2つの視点から, 穴位主治の伝承を整理し, 伝承の本来の姿を明らかにすることを試みた。
著者
王 元武 赤堀 幸男
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.49-64, 1988-07-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
29

中国の薬酒は疾病の治療・予防のために創製された方剤であり, 中医弁証に基づく組方原則により組成され, 多くの種類の疾病に対応できる方剤体糸を構成する。このような中国薬酒の本質を解明するために, 歴代典籍の記述を参照して, 酒と薬酒の歴史を考証し, 酒の種類・薬性・宜忌についての記述を引用して酒の本性と特徴を詳しく論述した。これら基礎資料をもとにして, 中医学基礎理論の組方原則に基づく薬酒方剤の組成解析を実施し, 薬酒中における酒の地位は君・使両薬としての二重性を持つことを明らかにした。君薬とは定義通りの主薬であり, 使薬とは引薬・行薬勢・薬性制約・薬効改変の四種の作用を包含する。この方中地位の二重性は, 極めて特殊な事例であり, 薬酒方剤の特質を構成する最も本質的な因子である。さらに, 薬酒方剤の分類を提示し, 著名な薬酒についての解説を行い, 薬酒使用上の注意点を指摘して安全有効な使用法を提言した。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.391-395, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
15

気管支喘息に対する漢方治療では,咳や痰の性状や呼吸困難の程度などを指標として,通常,臓腑の立場からは「肺」へのアプローチをを選択することが多いと思われる。さらに,気管支喘息の増悪因子がある場合は,その要因を排除することも大切である。今回,便通異常を伴って気管支喘息の症状が悪化した患者において,便通の改善を図ったところ,患者の咳嗽や呼吸困難などの症状が軽快した3症例を経験したので報告した。漢方では「肺」と「大腸」は表裏関係をなすとされるが,どのような気管支喘息患者の場合に,便通調整を考慮するのが有効であるかを検討した報告は少ない。今回の3症例から,便通が安定している軽症の気管支喘息患者が,突然,気管支喘息症状の悪化とともに便通異常を認めた場合に,「肺」に直接作用する処方だけではなく,その表裏関係にある「大腸」の作用を整える治療をすることが有効であるのではないかと推測された。
著者
千々岩 武陽 伊藤 隆 菅生 昌高 仙田 晶子 大川原 健 海老澤 茂 王子 剛 島田 博文
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.840-846, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
15
被引用文献数
1

桂枝加桂湯が奏効した奔豚気病と思われる身体表現性障害の3症例を経験した。第1例は34歳男性。頭痛,動悸,「胸から頭に何かが突きあがってくる感じ」を奔豚気と捉えて桂枝加桂湯を開始したところ,内服1週間後に頭痛,4週間後には動悸や耳鳴りが著明に改善した。第2例は22歳男性,主訴は緊張感,全身倦怠感。下肢の冷え,発作的な頭痛のエピソードを奔豚気と解釈し,桂枝加桂湯を開始したところ,自覚症状と心理テストの大幅な改善を認めた。第3例は75歳女性。自宅のリフォームを契機に激しい頭痛と動悸が出現した。桂枝加桂湯開始により,内服3週間後には症状の消失を認めた。近年,奔豚気病はパニック障害と比較されることが多かったが,身体表現性障害と称される一群の中にも奔豚気病の症例が含まれている可能性がある。頭痛や動悸など身体愁訴の背景に奔豚気病の存在を疑うことが,桂枝加桂湯の処方選択に有用であると考えられた。
著者
三浦 於菟
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.821-827, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
22

東洋医学の独特な理論である気の概念を,主に近世中国の医書より再検討した。気とは,万物を成立させ,生命現象をおこさせるものである。東洋医学の特色である全体観・統一観は,この気の概念によってその根拠が与えられた。生体の機能を気,肉体を形成するものを血と呼ぶ。血とは滋養分であり,気より形成されたものとされ,いわば異名同類のものである。気と血の概念により,体全体を考慮した疾病把握,各臓器相互の関連性の重視,機能と物質(肉体)は分離できないという認識を生み出させた。気は消化管と肺(後天の気),生まれ持った気(先天の気)から形成される。「こころ」は気によって出現し,気の概念によって「こころ」と身体の関連性,一体化が理論化された。気の病態は,(1)気の能力の低下(気虚と陽虚)と(2)気の循環失調(気滞・気逆)の二つに分類される。これらを合わせた病態に中気下陥がある。気とは,現実的かつ有用性がある東洋医学独自の生理病態観といえる。