著者
西本 哲昭 塩崎 正雄 山本 肇 石塚 和裕
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.7, pp.257-265, 1982-07-25

1977〜1978年の有珠山噴火によって林地に堆積した噴出物と, それによって埋没した林地土壌が時間の経過とともにどのように変化していくかを, 5か所に固定調査地を設けて3年間にわたって調査した。1)一般に噴出物に含まれる水溶性成分は時間とともに減っていき, 埋没土壌では一度増加したあとで減少に向かう。すたわち, 上層から下層への流下が考えられる。その速さは陽イオンについてはNa>K・Mg>Caで, 陰イオンについてはCl>SO_4である。2)埋没土壌のECが一時的に増加したが, その値は1m mho/cmを越えることはなく, 森林への影響は考えられない。3)噴出物のpHは初め7〜8であったが, しだいに低下して4〜7になった。埋没土壌への影響は小さかった。4)噴出物のリン酸は, より難溶性へと変化した。5)噴出物層の細菌数は埋没土壌での値に近かったが, 放線菌と糸状菌数はきわめて少なかった。埋没土壌での微生物相の変化は初期にのみ認められた。6)噴出物の厚さに比例して土壌のガス拡散が抑制されており, 林木の根が呼吸障害を起こしている可能性がある。
著者
鈴木 雅一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.115-125, 1985-04-25
被引用文献数
18

長期間にわたって水収支観測がなされている日本各地の森林流域の記録をもとに, 短期水収支法を用いて流域の蒸発散量とその季節変化を求めた。検討には桐生, 川向, 竜の口山, 釜淵, 去川の5試験地, 9流域のそれぞれ10年から40年間の日雨量, 日流出量記録が用いられた。短期水収支法では, 渇水による蒸発散低下は水収支期間内の最小流量に対応して生じ, 蒸発散低下をもたらす限界流量が流域ごとに定められた。渇水による蒸発低下の例を除外して求めた蒸発散量季節変化は, 植生が著しく変わらないとき集計期間が異なってもほぼ同様の結果となった。森林の伐採や山火事によって蒸発散量が減少する傾向は各流域とも同様であるが, その変化が通年にわたり生じた流域とおもに夏期に生じた流域があった。求められた蒸発散量とその季節変化は各流域の気象, 植生を反映する値として, 森林流域の蒸発散量推定式作成の基礎資料になるといえる。
著者
佐藤 清左衛門
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.298-304, 1960-08-25

1. ヨーロツパアカマツとヨーロツパトウヒの稚苗で1月30日から11月24日まで約10ヵ月間肥料3要素と長日処理の効果を検討した。2. 3要素試験は佐藤・武藤氏培養液で砂耕法によつて試験し, 長日処理は1月30日から4月8日まで室内で昼間補光を含めて約18時間処理し, 5月21日からはガラス室で自然日長より5時間日照時間を延長する方法をとつた。3. 3要素試験の結果, 窒素, 燐酸の欠亡は生育に悪影響を及ぼし, 無肥料とほとんど変りがなかつたが, 加里欠亡の影響はほとんど認められなかつた。そして要素欠亡の影響はヨーロツパアカマツで強く現われ, 窒素, 燐酸欠亡区の重量は, 完全区, 加里欠亡区の約1/7(自然日長区)〜1/10(長日区)であり, ヨーロツパトウヒの場合はそれほど強くなく, 約2/3(自然日長区)〜4/9(長日区)であつた。4. ヨーロツパアカマツ, ヨーロツパトウヒともに自然日長区の加里欠亡区が完全栄養区より重量の上回つている原因はよくわからない。5. 長日処理すれば両樹種とも完全栄養区の生長は促進するが他の要素欠亡区はほとんど促進しなかつた。促進効果はヨーロツパアカマツよりもヨーロツパトウヒの場合に著しく, アカマツの場合は茎の生長を73%促進し, トウヒでは茎を160%促進し, とくに根の生長を213%促進したのは注目される。6. 長日の効果に強く影響する肥料要素は窒素と加里で, 燐酸はややすくないようである。
著者
西村 正史
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.100-104, 1973-03-25
被引用文献数
4

1971,1972の両年, マツノマダラカミキリ成虫の行動の日周性を中心に連続観察したが, その結果はつぎのとおりである。1.後食, 交尾, 飛翔, 産卵, 歩行活動は照度が0である夜8時から明け方4時もしくは5時までに集中しており, 明らかに夜間活動型の昆虫である。ただし, 後食活動は昼間にもかなり観察された。2.羽化脱出後の経過日数に伴って, 歩行, 交尾活動および後食, 歩行活動している雌雄の割合が変化するが, 後食活動に関してはあまり変化しない。3.活動に影響を与える要因のうち, 温度は最も重要な要因の一つである。
著者
末田 達彦 梅村 武夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.459-464, 1980-12-25

2種類の理論的樹高曲線を誘導した。第1の樹高曲線は林木の樹高生長および直径生長がともに時間に関するミッチャーリッヒ式に従うと仮定したときに得られるもので, 異齢林の樹高曲線を与える。第2の樹高曲線は同齢林のそれを表わすもので, 単純同齢林を構成する個々の林木の樹高および直径の生長が, 各林木の生育環境条件に対し, 収量逓減の法則に従い反応するという仮説より導かれるものである。これら2種類の樹高曲線の数学的表現形式はまったく同じであるが, それぞれの式の意味, したがって係数の生物学的な意味は異なる。
著者
中島 敦司 永田 洋
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.254-259, 1995-05-01
被引用文献数
3

サザンカの開花に及ぼす温度の影響を調べる目的で、4年生のサザンカをフラッシュ開始直後の5月10日から、25℃恒温(18時間日長)のグロースチャンバーに搬入し0、15、30、45、60、75、90、105、120ならびに135日間置き、その後18℃恒温(18時間日長)のチャンバーへ移動させたところ、いずれの処理区でも花芽は同じように形成されたが、25℃が90日間以上の処理区で開花率が高くなった。一方、供試植物を5月10日に18℃のチャンバーに搬入し、5月24日、6月9日、6月24日、7月9日から、25℃のチャンバーに、それぞれ15、30、45ならびに60日間ずつ置き、その後、再び18℃のチャンバーに戻す実験を行ったところ、7月初旬から8月初旬までの期間、25℃に置かれていないと開花率が低下した。そして、雄ずい、雌ずいの発達と開花率の間には正の相関関係が認められ、7月上句から8月下句の時期のなかで、15日間は25℃を経過しないと、これら生殖器官は発達しなかった。また、18℃と25℃におかれた供試植物については、花芽の形成時期などに違いが示されなかったが、5月10日から10℃恒温のチャンバーで育成したところ、花芽がまったく形成されなかった。さらに、10℃では、8月中旬に87.1%の頂芽が二次成長(土用芽)を示した。なお、土用芽は、他のいくつかの温度条件下でもみられたが、発生割合は低く(5%未満)、いずれも花芽の形成されなかった頂芽においてのみ認められた。
著者
野堀 嘉裕 永田 義明 法島 良治 戸巻 邦男 幸田 秀穂 千葉 茂
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.339-343, 1991-09-01
被引用文献数
2

アカエゾマツは北海道の主要造林樹種であるが, 材の性質に関する基礎的データは現時点ではわずかである。材の性質が明らかとなれば造林, 間伐など人工林施業の計画を有利に推進, 実行することができる。本研究では軟X線デンシトメトリーを用い, アカエゾマツ造林木の容積密度数に関する基礎的データを示した。その結果, アカエゾマツ樹幹の容積密度数の分布は均質であり, 容積密度数を高める要因は早材部の容積密度数と晩材率が同時に影響することがわかった。また, 早材部容積密度数は遺伝的要因に直接的に支配されるが, 晩材率は間接的に直径成長の影響を受けることがわかった。これらのことから, 早材部の容積密度数が高いクローンを造林すれば, 重い材が短期間に収穫できる可能性がある。
著者
古川 忠
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.158-162, 1966-04-25

昭和3年にカラマツの産地別試験地が長野営林局塩野苗畑に設定されたが, 昭和34年の伊勢湾台風でその一部が倒れた。そこで2,3種類のカラマツを試験材料にえらび各種類毎に大中小径木から最下部円板を取り, 樹皮側から5年輪おきに分割し, そこに含まれる無機養分濃度を測定した。(1)窒素の濃度 : 八ケ岳産カラマツの樹皮では大径木より小径木に窒素の濃度は高くなる傾向がみられるが, チョウセンカラマツおよび未詳種カラマツでははっきりした傾向はみられない。木部の辺材部では各樹種とも小径木に高くなる傾向がみられるが, 心材部では大小径木の間にほとんど差がみられない。またこれを樹種別に比較した場合, チョウセンカラマツおよび未詳種カラマツは八ケ岳産カラマツより高い傾向がみられる。(2)燐酸の濃度 : 八ケ岳産カラマツでは樹皮, 木部とも大小径木間に差はみられないが, チョウセンカラマツおよび未詳種カラヤツでは小径木にやや高い傾向がみられる。なお心材部における燐酸の濃度は非常に低い。(3)加里の濃度 : 各樹種とも樹皮および辺材部において大径木にやや高い傾向がみられるが, 心材部でははっきりした差はみられない。樹種別による差もわずか未詳種カラマツに高い程度で大きなちがいはないようである。(4)石灰の濃度 : 樹皮では大小径木間にはつきりした差はみられないが, 木部では明らかに小径木間にはつきりした差はみられないが, 木部では明らかに小径木に高い傾向がみられる。樹種別にみた場合, チョウセンカラマツおよび未詳種カラマツは八ケ岳産カラマツに比較して著しく高いことがわかる。カラマツの幹に含まれる無機養分について筆者はこれまでに1,2測定したことがあるが今回は長野営林局管内塩野苗畑にあるカラマツの産地別試験地から材料を取ることができたので, それらの幹に蓄積する無機養分濃度について報告する。木に高い傾向がみられる。樹種別にみた場合, チョウセンカラマツおよび未詳種カラマツは八ケ岳産カラマツに比較して著しく高いことがわかる。
著者
寺嶋 芳江
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.359-363, 1992-09-01

ナメコ2品種を用いて, 未利用樹種であるマテバシイについて培地基材としての適性をブナを対照として検討した。菌糸体伸長および腐朽については, マテバシイはブナよりも劣っていた。しかし, 米ぬかを10%加えた培地における収量性, 収量パターンおよび子実体の品質についてはブナと差はなかった。さらに, 培地添加物の量を増したり, 種類を変えることにより, 収量を増すことができた。マテバシイの鋸屑製造時に10%程度の樹皮が混入しても大きな影響はなく, ブナの代用基材としてマテバシイの価値は高いものと推察された。
著者
浅川 澄彦
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-5, 1955-01-25

ヤチダモのタネは, かわつた発芽のシカタをするが, この性質は, わが国にあるほかのトネリコ属の種にはないことがわかつた。1.タネのなかの肉眼でみられる形態によつて, この属の種は2つの群にわけられる。(I)胚は十分成長していて, 形態も完全である。…頂生花序節のわが国のすべての種, 側生花序節のシオジ・ペンシルバニヤシオジ・アメリカシオジ。(II)胚は十分成長していないし, 形態もやや不完全である。…側生花序節のヤチダモ・オウシウヤチダモ。2.さらにIの群の種は, タネの生理的な性質によつてつぎのようにわけられる。(a)胚は休眠していない。(α)果皮をとらなくても発芽する。…アラゲアオダモ。(β)果皮があると発芽しにくい。…トネリコ・シオジ。(γ)種皮・胚乳が発芽をおくらせている。…ペンシルバニヤシオジ。(b)胚は休眠している。…アメリカシオジ。IIの群の胚も休眠しているが, そんなにふかくない。これらの観察結果と外国の文献などから, II型のタネのかわつた形態と, ヤチダモのタネにみられるようなかわつた発芽のシカタとは, Bumelioides亜節の特性とおもわれ, またシオジはMelioides亜節の種とおもわれる。
著者
後藤 義明 金子 真司 池田 武文 深山 貴文 玉井 幸治 小南 裕志 古澤 仁美
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.327-336, 2004-11-16
参考文献数
36

人工的に調整した海水をクヌギ林に散布して,空中消火による海水の散布が森林に及ぼす影響を調査した。海水散布後の樹冠通過雨の導電率(EC)およびNa^+,Cl^-濃度は急激に上昇したが,降雨とともに低下し,2カ月後には平常の状態に回復した。土壌抽出水のECは海水散布の1週間後にピークに達し,その後は徐々に低下していった。土壌抽出水のECが最も高かった1週間後であっても土壌に残留する塩分は植物に障害を与えることはないであろうと判断された。海水散布の2日後には葉に褐変が現れ,11日後にはほとんどの葉に壊死が生じた。木部圧ポテンシャルの測定から,この褐変は葉が水ストレス状態になったことによる萎凋ではなく,海水による葉への直接的な影響によるものと考えられた。海水散布後の5カ月間は落葉量が増加したが,それ以降は海水散布の影響は現れなかった。胸高直径および樹高成長,堅果生産量にも海水散布の影響は現れなかった。今回の実験により,海水16mm(16Lm^<-2>,散布時間約10分)程度の散布量であれば,クヌギの生育に大きな影響を及ぼすことはないと判断された。
著者
柳井 清治 永田 光博 長坂 有 佐藤 弘和 宮本 真人 大久保 進一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.340-346, 2001-11-16
参考文献数
23
被引用文献数
4

北海道南西部を流れる積丹川において, 冬期間のサクラマス幼魚の生息環境と河畔植生の関係を1995年と1996年の2ヵ年にわたって調査した。調査方法として, 河川を1 m四方のメッシュに区切り幼魚の分布と物理環境を調べたところ, 川岸よりの流れが緩く積雪により押しつぶされた植生下で多く捕獲された。具体的な越冬環境の物理条件としては流速が0.2 m/s以下で高いカバー被覆率がある細粒の底質が好まれており, 水深に関しては一定の深さを好む傾向が見られなかった。さらに越冬時のサクラマス幼魚の胃内容物を調べたところ, 夏と比べて胃内容物指数が小さく, 周辺に生息する小型の水生昆虫をわずかに摂食しているにすぎなかった。メッシュを幼魚の密度により3タイプに分類し判別分析を行なったところ, 水中カバー, ついで表面流速などの環境因子が越冬場を決定する重要な要因として選択された。以上のことから, 冬季間サクラマス幼魚は流速の緩い積雪に覆われたカバー下を主に利用しており, こうした環境を創る上で倒木や河畔林から伸びる枝はきわめて重要な要素となることがわかった。