著者
上田 明良 小林 正秀
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.77-83, 2001-05-16
参考文献数
22
被引用文献数
3

生立木へのカシノナガキクイムシの飛来消長を樹幹に巻き付けた粘着紙による捕獲で調べたところ, 最初の穿孔が観察された直後に雌雄の飛来数がピークに達し, その後急速に減少した。衰弱または枯死した木に対してはこれ以後の飛来はほとんどなかったが, 健全木では飛来が継続し, 8月中・下旬から9月中旬にかけて再び増加した。飛来数の合計はコナラ健全木で多かった。しかし, 最初のピークにおける飛来数は, 同所で同時に穿孔を受け始め, その後生残したコナラと枯死したミズナラでは, 枯死したミズナラの方が多かった。飛来数は1.6m高よりも0.5m高の方がいずれの調査木でも多かった。ヨシブエナガキクイムシはカシノナガキクイムシよりも飛来が1〜2週間遅れた。捕獲数は全ての枯死木で多かったが, 健全木の中にも多いものがあった。捕獲された高さについては傾向がなかった。
著者
鈴木 雅一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.261-268, 1988-06-01
被引用文献数
11

山地流域からの流出に与える森林の影響を評価するために, 流況曲線を用いて流況を定量的に比較する流況解析法を提案した。この解析法は, 安定した水利用の水準を示す指標として, 水不足量W_d, 水不足率W_d^*を流況曲線より定義し, 新たに導入された目標利水率α, 無次元貯水容量S_M^*に対する水不足率W_d^*のふるまいを調べるものである。桐生試験地, 竜の口山試験地, 油日の森林流域とゴルフ場芝地流域の流出記録にこの流況解析を適用し, 森林流域の流況安定と蒸発散量の関係について検討した。安定した水利用のために, 大容量貯水池と蒸発散抑制で対処する方策と, 降雨流出過程の出水遅延による流況の一様化で対処する方策がある。目標利水率αが大きく集約的な水利用をはかるとき前者の方策が, αが小さい領域では後者の方策が有効である。
著者
野村 一高 岸田 昭雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.273-280, 1978-08-25

先枯病抵抗性の差異とフェノール性成分の季節的変化との関連を明らかにするため, 抵抗性と罹病性各4クローンの当年生枝中のフェノール性成分を1976年6月17日から10月16日までガスクロマトグラフィーで分析した。抵抗性の2クローンは6月から9月までtaxifolin-3'-O-glucosideを, また抵抗性の1クローンは8月から10月までafzelechinを含んでいたが, これらの成分は他のクローンでは見られなかった。抵抗性4クローンのcatechin含有量は6月から9月まで罹病性4クローンより多く, 抵抗性3クローンのtaxifolinは7月から9月にかけて増加し, 9月には罹病性4クローンの7倍以上の含有量となった。抵抗性2クローンの全フェノール含有量は常に罹病性の2倍以上で, また他の1クローンは6〜7月は罹病性と同程度であったが, その後急激に増加し, 9月には罹病性の2倍程度となった。また抵抗性クローンと同程度の濃度のcatechin と taxifolinは, 培地上で本菌の生育に対し抑制作用を示した。
著者
浅川 澄彦
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.125-129, 1956-04-25

クミアワセ層積法によつて チヨウセンマツのタネの発芽をいちじるしく促進することができたが, このキキメの1つはタネの吸水力をおおきくすることであるようにおもわれた。おなじ五葉松の2,3の種のタネについて, 発芽遅延が種皮の性質と関係があることが報告されていたので, この点をたしかめるために チヨウセンマツのタネの吸水経過をしらべた。このタネの吸水経過は クロマツやアカマツなどとおなじように3段階にわけられる。すなわち(1)発芽床においてから2,3日間の急にオモサがふえる時期, (2)ゆつくりふえるか またはほとんどかわらない時期, および(3)ふたたび急にふえる時期である。たいていのタネは(2)の段階にかなりながいあいだとどまつているが, 適当な前処理をおこなえば(3)の段階にはやくうつることができる。(3)でのオモサの増加は(1)での増加にほとんどひとしい。外種皮をとりのぞくと, たいていのタネはおよそ2週間で発芽しおわるが, 内種皮ものぞけばもつとはやく発芽させることができる。種皮をのぞいたときすぐ発芽するタネの胚は 休眠していないとおもわれ, こういうタネが(2)から(3)にうつれない原因は おもに外種皮にあるものとおもわれる。
著者
田中 広樹 太田 岳史 檜山 哲哉 Maximov Trofim C.
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.259-267, 2000-08-16
被引用文献数
1

北方落葉樹林における光合成・蒸散特性を明らかにするために, シベリアタイガのカラマツ林樹冠上でのCO_2・H_2Oフラックス観測を行った。開葉前にはフラックスは検出されず, 夏期には正午または正午直前にピークを持つ日周変化が見られた。高温乾燥による光合成抑制は見られたが, 蒸散抑制は明らかではなかった。また, 光合成・蒸散活動は開葉の時期に急激に活性化し, 夏期の終りに向かって緩やかに減衰した。更に, 観測されたフラックスから気象環境の季節変化の効果を取り除き, その時点での光合成・蒸散特性を評価するために, 樹冠単層モデルを用いて光合成・蒸散特性を表現する最小群落抵抗, クロロフィル密度, 光量子捕捉率などのパラメータを抽出した。パラメータの変化から, 開葉期の特性の変化が明瞭に表現された。蒸散活性と光合成活性には開葉後も2週間程度の成熟期があることが示唆され, クロロフィル密度のような量的特性は比較的早く定常に達することが示唆された。
著者
蔵治 光一郎 田中 延亮
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.18-28, 2003-02-16
参考文献数
100
被引用文献数
2

日林誌85:18〜28,2003 これまで世界の熱帯林で行われてきた樹冠遮断量の観測事例を調査した。30の国と地域で73地点,106の観測事例を集め,その中から比較的精度のよい事例を抽出し,樹冠遮断率や樹冠遮断量の気候タイプ,植生タイプ,標高との関係,および蒸発散量と樹冠遮断量の関係について考察した。樹冠遮断率は,気候区分,植生区分,標高にかかわらず,おおむね10〜20%の範囲に入っていた。一方,観測精度に十分な注意が払われているにもかかわらず,この範囲から大きく外れ,非常に大きい樹冠遮断率が観測される事例や,非常に小さい樹冠遮新率が観測される事例が存在することがわかった。
著者
小見山 章 井上 昭二 石川 達芳
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.379-385, 1987-10-25
被引用文献数
3

岐阜県荘川村の落葉広葉樹林で, バンド型デンドロメータを25種の落葉広葉樹に装着して1985年度の肥大生長の季節的過程を樹種間で比較した。肥大生長の過程を単純ロジスチック曲線に当てはめたところ, 19樹種はこの関係をほぼ満足した。他の6樹種はいずれも小径木にデンドロメータを装着したために, 測定結果のばらつきが大きかった。同曲線のパラメータから肥大生長の開始時期と終了時期, 生長速度が極大となる時期, および生長の立上りの緩急の程度を求めた。その結果, 肥大生長の開始時期はキハダの4月16日が最も早くミズキの6月7日が最も遅かった。ミズナラ, コナラ, クリなどの環孔材樹種の開始時期は散孔材樹種のそれよりも早かった。生長速度が極大となる時期はキハダの6月8日が最も早かったが, 他の樹種のそれは7月の梅雨期に集中していた。生長期間はミズキの81日間が最も短くミズナラの171日間が最も長かった。当地の落葉広葉樹は生長期間が長くしかも緩生長を行う樹種群と, 生長期間が短く急生長を行う樹種群とに分けられた。
著者
中島 敦司 万木 豊 永田 洋
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.584-589, 1994-11-01
被引用文献数
5

サザンカの開花に及ぼす初夏以降の温度の影響を調べる目的で、3年生のサザンカを6月5日から25℃に0、15、30、ならびに45日間置き、その後18℃の条件へ移動させた。この結果、25℃の期間が長くなるほど開花率が高くなった。一方、同様の日程で18℃から25℃に移動させる実験を行ったところ、10月中旬にはすべての花芽が落下し、開花はみられなかった。そして、生殖にかかわる雄ずい、雌ずいの発達は8月中旬までの積算温度と正の相関関係にあった。また、野外において、6月5日から日長を8、20時間に調節し、自然日長と比較して、開花と日長の関連について検討したところ、短日区で開花が早くなったが開花率は日長の影響を受けなかった。
著者
山口 伊佐夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.351-357, 1966-09-25

昭和40年9月福井県真名川流域の豪雨は日雨量870mm以上を示し, この地帯としても, また我が国としてもまれにみる大雨量であった。幸い本流域の源流部附近に設置してある笹生川ダム, 雲川ダムにおいて雨量およびダム水位, 放流量等が観測されたのでダム流入量すなわち流域のHydrographを誘導し, 豪雨の特性と豪雨にもとづく山地帯Hydrographの特性について2,3の検討を加えた。
著者
箕輪 光博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.410-412, 1979-11-25

A new sampling technique for deriving stand volume through the estimation of the sum of critical heights by STRAND'S method is proposed. This technique is characterized by double counting based on both KITAMURA'S critical height method and STRAND'S vertical line sampling, the latter of which is modified to something like point sampling in this paper. First, two parallel lines are selected in the stand, each of which has a random point as its center and is perpendicular to the segment formed by the two center-points. Next, double counting (horizontal counting followed by vertical counting) from each center-point is made for all surrounding trees, allowing an unbiased estimate of stand volume to be formed by the average tree count per point-line multiplied by a constant factor associated with a pair of given horizontal and vertical angles. It should be noted that the vertical angle used at each point is not constant but is a variable angle associated with the horizontal angle that is between the corresponding line and the line sighted from the point to the surrounding tree. This procedure, however, offers the possibility of reducing the difficulties encountered in the direct measurements of critical heights notwithstanding the above additional work.
著者
荒木 真之
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.143-149, 1969-06-25

1967年4月から11月にわたって, 3段階の大きさのカラマツ苗を相対照度が100%, 約72%, 約55%, 約33%, 約28%, 約17%の6個の庇陰格子下で育てた。苗の掘り取り調査は4月18日, 6月23日, 8月29日, 11月6日の4回行ない, 各個体の部分絶乾重と根元直径(d), 苗高(h)を求めた。各時期について, d^2hと部分重および個休全重との間の相対生長式を処理ごとに計算した。さらに各部分および全重の相対生長率を各期間について各処理ごとに求めた。これら相対生長率と各期間当初の全重との関係は直線式によくあてはまった。照度および時期が個体の生長におよぼす影響を, 個体の大きさに関連させて解析するため, 生育開始時の大きさをかえて, さきの相対生長式, および相対生長率と全重の関係式をつかって, 生長過程をモデル的に計算した。その結果, 個体重および部分重が最大となる明るさは時期が進むにつれ, 暗い方に移る。これには相対生長率が時期が進むにつれ急激におちること, また時期が進むにつれ, 相対生長率が最大となる明るさが, 暗い方へ移ること, 個体重が大きいほど相対生長率が小さいことなどが関係している。
著者
二宮 生夫 穗積 和夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.8-18, 1981-01-25
被引用文献数
4

名古屋大学構内に植栽された7〜11年生のアイグロマツ(1978年現在)の呼吸速度を1977年10月から1979年3月まで各月ごとに立木密閉法を用いて測定した。単木地上部呼吸速度の夜間の経時変化は夕刻に高く深夜にかけて徐々に低くたる傾向を示した。またその季節変化はほぼ外気温の変化と対応していたが, 8月に乾燥のためと思われる低下が見られた。温度係数(Q_<10>)の値は4月から10月の高温月で1.14〜1.79,11月から3月の低温月で4.27〜9.81であった。単木地上部呼吸量とその大きさとの間にべき乗関係が成立し, とくに地上部乾重との関係ではべき指数が約1となり両者は正比例関係にあると推定された。年間の群落地上部呼吸量は9.22t CO_2/ha yr, 5.66t dry matter/ha yrと推定された。以上のような結果をもとに, 方法論, 呼吸速度の夜間変化, 季節変化, 呼吸速度と現存量との関係, 林分地上部の年間呼吸消費量, 現存量, 現存量増分の相互関係が考察された。
著者
横井 秀一 山口 清
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.15-19, 2000-02-16
被引用文献数
5

積雪地帯では, スギ不成績造林地の発生による経済的な損失と林地の公益的機能の低下が問題となっている。そこで, 既存のスギ人工林の成林状況(成林度)に影響する立地環境を解析し, 造林限界の再検討を行った。調査は岐阜県飛騨地方の最深積雪1.0〜3.0mの地域で行い, 成林度と立地要因の関係は数量化I類を用いて解析した。成林度に最も強く影響した要因は最深積雪で, 積雪深が大きいほど成林度は低くなった。成林度の出現頻度分布を最深積雪深ごとに検討した結果, スギの造林は最深積雪1.5m未満で可能, 2.5m以上では困難であると考えられた。最深積雪1.5〜2.5mの地帯では, 最深積雪とともに斜面の傾斜と縦断面の形状が成林度に影響し, 急傾斜や凹地形の斜面で成林度が低かった。したがって, この地帯でのスギ造林では, このような地形を避ける必要があると考えられた。
著者
中井 裕一郎 坂本 知己 寺嶋 智巳 北村 兼三
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.581-588, 1995-11-01
被引用文献数
2

常緑針葉樹林では森林樹冠層の冠雪量が多いことから,降雪期における遮断蒸発量が大きくなる可能性がある。これは水資源としての積雪水量の損失であり,このような降雪の遮断蒸発量を気候条件や森林状態によって評価することが森林管理上重要である。このため,降雪の遮断蒸発量を調べることを目的として,札幌市の密な21年生トドマツ林において冠雪量の収支に関する観測を行った。まず,冠雪重量の連続測定の結果,冠雪量の時間変化から蒸発量の日変化および冠雪量の冬期間を通じた変動特性が得られた。冠雪としての保水量は最大20mm以上になった。真冬日の連続する厳冬期は冠雪が長期間継続して維持されたが,より温暖な時期には降雪中と降雪直後をのぞいて冠雪の完全な消失がしばしばみられた。次に,森林内外の降水量の収支によって1〜2月の8〜14日間ごとの積算蒸発量を求めた結果,各期間の平均蒸発量は0.7〜2.3mm・d^<-1>の範囲にあった。
著者
酒井 昭 高樋 勇 渡辺 富夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.412-420, 1963-12-25

寒風害の原因を明らかにする目的で2年間にわたって, 支笏湖に面するアカエゾマツの植栽地で被害調査を行なうとともに, 現地および札幌で2,3の関連実験を行なった。1.寒風害のあらわれる時期は土壌の凍結開始時期, 凍結深度, 外気温, 風の強さ, 積雪量等によって異なるが, 害がもっとも進行するのは厳寒期である。2.アカエゾマツでは害は最初葉に現われ, 葉の色は濃緑色から黄緑色, ついで黄または黄褐色に変わる。葉の変化の度合がすすむにつれて落葉も著しくなる。苗の風のあたる側の枝の裏葉が最初に害を受ける。なお害の度合に対応して葉や枝の含有量が低下するが, 主幹, 根の含水量は著しい害を受けても正常なものとほとんど変らない。3.植栽地の被害調査の結果, 防風帯のない地区では大部分の苗木が枯れているが, 防風帯の風下の地区では害がほとんど認められない。また苗木が雪で埋まりやすい凹地では害が少なく突出部では害が著しい。4.葉や枝に流動パラフィンを塗布して水分の蒸散を抑えた苗では害が少なかった。以上の結果から寒風害は土壌凍結のため水分が地上部に補給されがたい状態にある苗が冬季間の風のために, 水をうばわれやすい葉, 頂芽, 側枝等が耐えうる限界を越えて脱水されるためにおこると考えられる。
著者
薄井 宏
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.332-342, 1958-08-25
被引用文献数
4

1. この報告は奥日光森林植生調査の第二報で男体山を除く全域についての調査をとりまとめた。2. 奥日光は夏雨型の太平洋型気候と冬雨型の日本海型気候とが共に支配する境界域であつて, その境界線はミヤコザサとチマキザサの分布境界と一致する。即ち刈込湖, 湯元, 小田代ガ原, 千手ガ原を結ぶ線である。3. ミヤマハンノキ=オノエガリヤス林は高山帯の崩壊地に発達する二次林で, そのススキ=スゲ型林床は男体山大薙崩壊地の二次林, ヤシヤブシ=トウヒレン群集と同一の植生類型を示す。4. ウラジロモミ林は奥日光においては, 噴出の比較的新しい男体山にのみみられる群落である。第三紀地質の山では, コメツガ林とブナ林とは直接に接続して, その中間にウラジロモミ林はみられない。これは第三紀地質の山では侵蝕作用がすすみ, 地形が急なためにツガ型森林が下降してブナ林と接続することによる。5. 太平洋側に発達するブナ林は, ブナ=スズタケ群集と呼ばれる如く, スズタケを林床にもつ場合が多い。しかし今回の調査によつて太平洋岸内陸部山地のブナ林では, ミヤコザサの勢力が圧倒的に強いことが明らかにされた。その原因は, 雪の少ない寒さのきびしい冬の気候がスズタケの生育地を局所的に積雪の多い山足地あるいは谷すじに限定し, 代つてミヤコザサがその半地中植物的な寒さに有利な形質をもつ故に, 殆んど全域にわたる程の広い分布領域を穫得できたからであろう。なぜならばミヤコザサはその上半部の稈節に芽を欠如しており, この形質が地上冬芽の生活形から半地中植物的な生活形への変化を表示するからである。6. 植生調査の結果は次の如き群集にまとめられる。高山帯 : 1. ハイマツ=コケモモ群集のダケカンバ亜群集 2. ミヤマハンノキ林 亜高山帯 : 3. コメツガ群集 A.アスナロ亜群集 4. ヒメコマツ=シヤクナゲ群集(新称) 5. ウラジロモミ林 山地帯 : 6. ブナ=スズタケ群集のミヤコザサ, フアシース 7. ハルニレ群集 8. オオバヤナギ林 9. カラマツ=シラカンバ林