著者
川村 健介 橋本 靖 酒井 徹 秋山 侃
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.231-237, 2001-08-16
被引用文献数
6

林床の光の分布は, 空間的, 季節的に不均一であることが知られている。そこで本研究では林床の光環境に最も影響を与えると思われる林冠構成樹種のリーフフェノロジーを調査し, 同時に測定した林床の光環境の季節変化との関係を比較した。調査林分で優占している樹種ごとの葉の開葉から落葉までの季節変化は, 経時的な観察と, 各樹種葉の採取によって得られた葉面積の季節変化から調べた。試験林内各点の光の量的変化は簡易積算フィルム日射計を用いて, 経時的, 定量的に測定した。その結果, 調査林の優占種のうちダケカンバとシラカンバのカンバ類は, ミズナラより開葉および落葉時期が数日早いことが明らかになった。また, 調査林内で優占樹種が異なる場所の間での相対日射量の季節変化に違いがみられた。すなわち開葉期にはカンバ類が優占する場所がミズナラが優占する場所よりも早く暗くなり, 落葉期では反対に早く明るくなった。これは林冠の優占樹種のリーフフェノロジーを反映していると思われた。開葉の完了した夏期においては, 優占樹種が異なっていても相対日射量の値に違いはみられなかった。以上より, 林床の光環境は優占する林冠構成樹種のリーフフェノロジーの違いによって, 春期と秋期に影響を受けていると考えられた。
著者
越智 鬼志夫
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.188-192, 1969

本報告は,マツ類を加害する穿孔性害虫である<i>Monochamus</i>属2種,すなわち,マツノマダラカミキリ<i>M.alternatus</i> HOPE, カラフトヒゲナガカミキリ<i>M. saltuarius</i> GEBLERについて,主として飼育によってえられた成虫の羽化脱出から産卵までの生態を比較対照して論じたものである。<br> 1. 成虫の羽化脱出は,カラフトヒゲナガカミキリが4月中旬~5月上旬,マツノマダラカミキリは6月上旬~7月下旬であった。<br> 2. 後食は両種とも羽化脱出後,マッ類の芽や新条,古い枝の樹皮などで行なわれるが,マツノマダラカミキリのほうが古い枝などの樹皮を多く食べる。<br> 3. 後食を行ない,生殖器官の成熟が完了した成虫は,羽化脱出後3週間前後で産卵をはじめる。産卵は,樹皮をかじってかみ傷をつけた白色の内樹皮の間に行なわれる。<br> 4. 産卵期間は,マツノマダラカミキリが約2ヵ月,カラフトヒゲナガカミキリが約1ヵ月である。<br> 5. 1雌当たりの卵数は,卵巣小管の数では両種とも平均で21.7であったが,産卵数はマツノマダヲカミキ9が59~184, カラフトヒゲナガカミキリでは44~122であった。<br> 6. 卵期間は, 5~lO日であった。
著者
倉田 益二郎
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-34, 1949-02-28
被引用文献数
4

1) Introduction : The new theory on natural regeneration of forest by the prevention of bacterial injury dealt with in this treatise, is a hypothesis established on the supposition that, if the bacterial injury or damping-off is prevented, seeds and seedlings will sprout and grow well and lead to the luxury and growth of forest, in the meanwhile, if they suffer the injury of bacteria for lack of the prevention, they will not sprout and results in the ruin of forest in next generation. 2) Outline of Existing Theories on Natural Regeneration : No established theory seems to have been advanced yet on the cause for the formation of natural forest. There are, however, two theories, positive and negative. The positive one asserts the possibility of regeneration of forest by human power, the negative one insits upon the difficulty of artificial regeneration. Recently Dr, Yataro Sato has succeeded in his test on"Sugi"(Cryptomeria japonica. D. DON). Besides this, there are some other instances of success. 3) Result of Experiment : Dr. Hasegawa and others pointed out that the majority of the seedlings sprouting from the numerous seeds which fall in natural forests, perish through the infection of microbes. I, the researcher, ascertained this fact in a wood of"Kiri"(Paulownia tomentosa. STEUD.) first of all. As for the particulars, I refer to"The Journal of the Japanese Forestry Society". To sum up, I found that the seedling of Kiri thrives in such places as the burnt spot, the old seat of charcoal kiln, the moss-grown spot, the spot under eaves, the earthen wall, the straw thatched roof, the tile roof, the stony place, the railway track, the cleared spot in the wood, the reclaimed ground, etc. where anthracnose, the dreadful enemy of the young seedling can be avoided. The experiment on"Himeyashabushi"(Alnus firma. SIED. et ZUCC. var. Sieboldiana. WINKL.) proved the following facts ; a. Fusarium. bacteria kill the young seedling. b. The rainy weather and wet place are hot beds of diseases. The experiments on"Akamatsu"(Pinus densiflora SIED. et ZUCC.) and"Sugi"proved the following facts : a. Fusarium bacteria kill the young seedling. b. Diseases seldom break out in the clayey or the dry zones. c. Bacteria, though scattered, often fail to cause diseases in the clayey zone. d. Rain and humidity help the prevalence of diseases. e. In the sterilized or bacteria-proof zone, no seedling dies from want of sunlight even at a very dark place. 4) Disease Endurance and Shade Endurance : It seems that the"intolerant tree"is an appellation for the specie with weak endurance against diseases, while the"tolerant tree"is an appellation for"one with strong endurance against them". The seedling can easily avoid the bacterial injury at a place which is unfavourable or almost unfit for the breeding of bacteria such as the dry slope or hill top, the sterilc soil containing little humus, the sunny place, etc. But at a place of the opposite condition it falls a easy victim to the bacterial injury. It seems to me that the species with the above property is called"intolerant tree"or"one with weak shade endurance", while the another specie which can thrive under the same conditions enduring against diseases, is called the"tolerant tree"one with strong shade endurance."5) Cause for the Formation of Natural Forest : The natural forest may have deen formed as the result of various requisites having been met. The most important factor among these requisites is the prevention of bacterial injury from the seedling. If the seedling suffers the bacterial injury no forest will come into existence no matter how favourable other circumstances may be. "Akamatsu"is the weakest against the bacterial injury, but it regenerates well in the burnt place, the sterile soil, the spot of land slide, the hilltop, etc. "Sugi"is a little stronger than Akamatsu against diseases, but it is believed that it can thrive well in the above mentioned places where the bacterial injury can easily b
著者
斉藤 正一 中村 人史 三浦 直美 三河 孝一 小野瀬 浩司
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.58-61, 2001-02-16
被引用文献数
4

山形県内のナラ類の集団枯損被害地で, カシノナガキクイムシの脱出状況と被害木の枯死経過を6年間調査し, カシノナガキクイムシと枯死に関与する特定の菌類(仮称ナラ菌)の動態に関する試験を行って, これらの相互関係を検討した。カシノナガキクイムシは, 6月下旬に短期間かつ大量に羽化脱出し健全木に穿入して, 8月上旬に被害木は枯死することが確認された。また, 羽化脱出初期の時期と枯死に関する時間的経過との間には有意な関係が見出された。ナラ菌伝搬に関する実験と時期別のナラ菌の接種試験の結果から, カシノナガキクイムシは枯死に関与するナラ菌を樹幹内に伝搬し, 羽化脱出初期の時期と同様の接種時期にのみ枯死が発生したことから, ナラ類の枯死経過には, カシノナガキクイムシの穿入と伝搬されたナラ菌の樹幹内での動態が関連することが強く示唆された。
著者
伊藤 進一郎 窪野 高徳 佐橋 憲生 山田 利博
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.170-175, 1998-08-16
被引用文献数
18

1980年以降, 日本海側の各地において, ナラ類(コナラとミズナラ)の集団的な枯死が発生して問題となっている。枯死木には, 例外なくカシノナガキクイムシの穿入が認められるのが共通した現象である。このナガキクイムシは, 一般的には衰弱木や枯死木に加害するとされており, 枯死原因は現在まだ明らかでない。この被害に菌類が関与している可能性を検討するため, 野外での菌害調査と被害木から病原微生物の分離試験を行った。被害発生地における調査では, 枯死木の樹皮上にCryphonectoria sp.の子実体が多数形成されているのが観察された。しかしながら, 日本海側の6県にわたる調査地に共通する他の病害, 例えばならたけ病や葉枯・枝枯性病害の発生は観察されなかった。そこで, 枯死木やカシノナガキクイムシが穿入している被害木から病原微生物の分離試験を行った。その結果, 変色材部, 壊死した内樹皮, 孔道壁から褐色の未同定菌(ナラ菌と仮称)が高率で分離されることが明らかとなった。この菌は, 各地の被害地から採集した枯死木からも優占的に分離されることがわかった。また本菌は, カシノナガキクイムシ幼虫, 成虫体表や雌成虫の胞子貯蔵器官からも分離された。分離菌を用いたミズナラに対する接種試験の結果, ナラ菌の接種において枯死したのに対し, 他の処理では枯死は認められなかった。これらの結果から, この未同定菌は, ナラ類集団枯損被害に深く関与しているものと判断した。本菌は, 母細胞に形成された孔口から出芽的(Blastic)に形成されるポロ(Polo)型分生子を持つことがわかったが, 現在その所属については検討中である。
著者
大宜見 朝栄 久保 芳文 樋口 浩 瀧川 雄一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.17-22, 1990-01-01
被引用文献数
3

沖縄, 鹿児島, 宮崎および高知県内のヒメユズリハの幹, 枝にこぶ(癌腫)を形成する新しい細菌による病害が発見された。こぶの大きさは, 小豆大から拳大で, こぶの表層は淡褐色ないし黒褐色で, 不規則な割裂を伴い粗造である。こぶ形成後の病徴の進展は, 枝幹をほぼ水平方向に巻く傾向がうかがわれた。こぶ組織から分離された病原細菌の細菌学的性質は, 木本植物にこぶ形成能のあるPseudomonas syringae VAN HALL の既知病原型にきわめて類似していた。しかし, 本菌はヒメユズリハにのみ病原性を有し, 宿主範囲が他の病原型とは明瞭に異なった。これらの結果からヒメユズリハのこぶ病菌をPseudomonas syringae pv. daphniphylli pv. nov. と命名し, 病名を新たにヒメユズリハこぶ病Bacterialgalldiseaseofhimeyuzuriha(Daphniphyllum teijsmanni ZOLL.)と呼称することを提案した。本菌のpathotype strainとしてDAT 1 (ATCC49211,NCPPB3617,1CMP 9757)を指定した。
著者
安藤 愛次
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.265-268, 1960

6月から8月にかけて, 5日ごとにニホンギリの伸びをはかり,そのときの気象条件との相関性をしらべた。くらべた気象の因子は貝平均気温,最高,最低気湿,降水量および雲量とである。<br> 相関関係のみとめられた因子は気温,ことに平均,最高気温であり,キリの伸びと降水量および雲量との相関性はみとめられなかつた。伸びの量と気温との回帰式から,この地方の台切りしたキリの上長生長において,貝平均の気温が1°Cたかいときには13cmおおくのびて2.6mとなることが推定された。
著者
野手 啓行 沖津 進 百原 新
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.236-244, 1999-08-16
被引用文献数
2

ヤツガタケトウヒとヒメバラモミの生育立地の特性を, それらと混生する樹種の立地と比較することにより明らかにした。赤石山脈北西部巫女淵山中(標高1,300〜1,800m)の64地点で, 四分法調査, 斜面傾斜と露岩被度の計測, 実生調査を行った。64地点全体における胸高断面積合計比ではコメツガが25%で最も優占し, ウラジロモミが続いた。ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, いずれも14%程度を占めるにすぎず, 分布が斜面傾斜36°以上, 露岩被度31%以上の岩塊急斜面にほぼ限られた。これに対し, コメツガの分布は斜面傾斜, 露岩被度に関係なく一様であった。ウラジロモミは露岩被度20%以下の腐植土が被覆する立地に集中した。一方, 実生についてみると, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは母樹周辺の露岩面上に集中した。コメツガは腐朽倒木・根株上に, ウラジロモミは腐植土面上にそれぞれ多かった。以上より, ヤツガタケトウヒとヒメバラモミは, 種子散布が母樹周辺に限られることと実生の定着が露岩面上にほぼ限られることによって, 岩塊急斜面以外の地形では個体群の維持が困難であると考えられた。
著者
恩田 裕一 湯川 典子
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.5, pp.399-407, 1995-09-01
被引用文献数
22

われわれは第1報において,ヒノキ林において下層植生の失われたところではクラストがあり,浸透能が低いことを示した。そこで,室内実験において,下層植生のクラスト形成抑止効果に関する実験を試みた。実験材料は現場A層(鈴鹿山地の花崗岩土壌および古生層土壌)を4mmの篩でふるったものを用い,28.5cm×17.0cm×14.0cmの容器にさまざまな植生を植えて降雨実験を行った。その結果,花崗岩土壌では,被度と浸透能の相関が高いことがわかった。一方, 古生層土壌では, 被度と浸透能の相関は低いが,それぞれの植生の葉面積と浸透能の関係には高い相関が認められた。中古生層土壌の方が団粒百分率が大きく,クラストが形成されやすいと考えられることから,雨滴エネルギーを抑止しクラスト形成を妨げる効果は,被度により支配されるが,葉の面積が大きいほど効果的であることがわかった。
著者
湯川 典子 恩田 裕一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.224-231, 1995-05-01
被引用文献数
33

下層植生が失われた林地における浸透能の低下の現状と原因を明らかにするために、三重県の鈴鹿山地の下層植生の被覆状態がさまざまなヒノキ林において、土壌の浸透能と土壌物理性の測定を行った。浸透能測定には、雨滴衝撃の少ない散水型浸透計を使用した。測定から、下層植生が失われた林分は、下層植生の繁茂する林分と比較して浸透能が低く、粗孔隙率が高いという結果を得た。また、林床の裸地化したヒノキ林では、土壌硬度が高く浸透能が低い特徴をもった乾燥した皮膜が観察された。この皮膜は、雨滴衝撃による団粒構造の破壊によってできるクラストであると考えられた。以上のことから、下層植生の失われた林地においては、粗孔隙率よりクラストの有無が浸透能に影響を与えることが推察された。
著者
佐藤 邦彦 太田 昇 庄司 次男
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.533-537, 1955-12-25

MH-30の葉面撒布はスギ苗の秋伸び抑制にきわめて有効であり, 0.12%の濃度では根切りによると同じ程度の効果があり, とくに根切りとの併用はきわめて効果が大きかつた。MH-30によつて成長抑制を行つた苗は初霜の被害がきわめて少なく, 根切り区よりもまさつた。塩素酸カリ溶液による耐寒性の検定結果は, 圃場における結果と一致しなかつた。Botrytis cinereaとSclerotinia Kitajimanaの接種試験結果は, 霜害の発生とほぼ同じ傾向を示し, 処理苗はいちじるしく罹病が少なかつた。処理苗の圃場における越冬中の灰色黴病の発生についてもMH-30の処理はきわめて防除効果があり, とくに根切りとの併用区がいちじるしく, また根切りも効果が大きかつた。MH-30はB. cinerea, S. KitajimanaおよびRhizoctonia solaniの菌糸の発育とB. cinereaの胞子の発芽を阻害する。MH-30の処理苗は翌春成長開始期になると, 一且苗の先端が枯れて新に不定芽を生じて成長を開始する。しかし枯損率には有意差が認められない。
著者
大石 康彦 金濱 聖子 比屋根 哲 田口 春孝
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.70-77, 2003-02-16
被引用文献数
14

日林誌85:70〜77,2003 森林環境のイメージと気分を比較検討することを目的に,5種類の森林と対照区(森林外)で実験を行った。各実験区においては被験者(n=44)に10分間の自由行動を与えた後にPOMSおよびSD法により評価させ,最後に5種類の森林を順位付けさせた。POMSの結果,活気を除く5尺度(緊張,抑うつ,怒り,疲労,混乱)に森林外と各実験区の間に有意差が認められたが,5実験区相互の間では一部を除き有意差が認められなかった。SD法の結果,価値因子,空間因子が認められた。価値因子においては,2区が最高,1区が最低の評価を得た。空間因子においては,1区が最も開放的な評価を得,4区が最も閉鎖的な評価を得た。好みの順位は2区-5区-4区-3区-1区であった。POMS尺度,SD法因子,好みの順位の結果からSpiamanの順位相関係数を求めた。POMSの活気尺度と好みの順位の間にプラスの相関が,疲労尺度と好みの順位の間にマイナスの相関が認められた。
著者
高原 光 伊藤 孝美 竹岡 政治
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.143-150, 1988-04-01
被引用文献数
3

福井県三方郡三方町黒田の水田下から掘り出された食痕のある2本の埋没木について, ^<14>C年代測定および材組織による樹種の同定を行った。また, 材に残されていた食痕および幼虫の頭殻についてスギカミキリのものと形態の比較を行った。さらに, これらの材が埋没していた泥炭層の花粉分析を行い当時の森林構成を調べた。その結果, 過湿な立地上に形成されたハンノキ属の樹木をともなうスギの天然林において, 少なくとも約3,000年前にスギカミキリが生息し, スギに加害していたことを認めることができた。このスギカミキリ被害材はこれまでに発見されたもののなかで最も古い年代のものであった。さらに, スギカミキリは少なくとも完新世後期には, すでに日本に生息していた昆虫であると考えられた。
著者
水本 晋
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.437-439, 1956-11-25

コゲイロカイガラタケ, ヒロハノキカイガラタケ, キチリメンタケ及びキカイガラタケの侵害を受けて木材が腐朽する場合に, 温度によつて如何なる影響を受けるかを知らんとし, アカマツ, ツガ及びモミの材片を用いて実験を試みた結果, コゲイロカイガラタケでは28℃, ヒロハノカイガラタケ, キチリメンタケ及びキカイガラタケでは何れも32℃で腐朽の最大値を示した。菌糸の発育に対する適温はコゲイロカイガラタケが26°〜28℃, ヒロハノキカイガラタケ外2菌が32°〜34℃であつたところからして, これら4種の菌では腐朽に対する適温と菌糸の発育に対する適温とがほぼ一致するものと見なされた。
著者
中路 達郎 武田 知己 向井 譲 小池 孝良 小熊 宏之 藤沼 康実
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.205-213, 2003-08-16
被引用文献数
3

4年生ニホンカラマツ(Larix kaempferi Sarg.)植林地において,夏季の葉群の分光反射率と,純光合成速度,クロロフィル蛍光および葉内色素の日変化を同時に観測し,葉内色素量や光合成活性と分光反射指標(NDVIおよびPRI)の関係を検討した。日変動を示したNDVIとPRIはともに,葉内のクロロフィル濃度や総カロテノイド濃度と有意な相関関係になかった。NDVIは,純光合成速度との間には正の相関が認められたが,弱光条件下では,その関係にばらつきが生じた。PRIはキサントフィルサイクルの酸化還元状態を反映し,光合成における光利用効率と光化学系II量子収率の日変動との間に正の相関関係にあった。光合成活性との間の相関係数は,NDVIよりもPRIで高い値が得られた。以上の結果より,カラマツの光合成の日変化に注目した場合,リモートセンシングによって得られるPRIは,光合成の光利用効率を評価する指標として有効であることが明らかになった。
著者
藤井 禧雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-5, 1969-01-25

二脚の台の上に置かれた角材を, さまざまの条件下で(Table 1参照)鋸手に支えられたチェンソーで玉切った。そしてその際チェンソーのハンドル部位に生ずる振動加速度(G表示)を, 非接着型加速度変換器を通して, おのおのが直角な三方向別に記録し, それらを分散分析法を用いて解析した。実験は二段階に分かれている。第1段階は, チェンソー自体の特性(その馬力数, 原動力の種類)がチェンソーの振動におよぼす影響を考察するために, スティール(6馬力型), ホームライト(5馬力型), 電動型(1.35馬力)を用いて予備実験を行なった。そして次の点を明らかにした(Table 2参照)。1.チェンソーに生ずる振動は, チェンソーの馬力数や原動力の種類によって大きく支配されている。2.切削時に比べれば低いけれども, しかし空転時ですでにかなり高い振動加速度が生じている。3.左右切歯の各角度およびデップス量の不揃いは, 振動加速度を増加させる。第2段階は主実験で, 供試機としてホームライトZIPを用い, Table 1の因子を直交配列表L_<64>, に割付けて64のさまざまな切削条件下で玉切実験を行なった。その結果は次のとおりである。1.あらゆる切削条件を通じての平均振動加速度は8.4Gであり, 最大値は12.9G, 最小値は5.1Gであった。この平均値を方向別に示すと, Cμ : P. : C_⊥=2.9G : 4.0G : 6.7Gであった。2.角材の木口幅, デップス量, 樹種, エンジンの回転数, 交互作用角度i×回転数は1%の危険率で有意であったが, 最も興味のあった角度β, iおよびその交互作用は有意でなく, 他の因子に比べればチェンソーの振動にさしたる影響を与えるものではないことが明らかになった。3.しかし, 両角度の16の組み合わせごとの振動加速度を見ると, β=55°, i=5°の場合の7.5Gから, β=85°, i=50°の9.8Gまで2.3Gの差が現われた(Fig.2参照)。したがって結論としていえば, チェンソーに生ずる振動の大部分は両角度以外の要因に影響されるものであるが, チェンソーの稼動時の振動をより少なくするためには, 均一な, しかも適正な角度とデップス量を保持することも必要であるといえる。
著者
高木 正博 野上 寛五郎 仲川 泰則
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.279-282, 2004-08-16
被引用文献数
5

南日本太平洋側の温暖多雨な気候と急峻な地形が山地小流域の降水に伴う増水時の渓流水の無機成分濃度の変動パターンに及ぼす影響を把捉するために,宮崎平野の西端の丘陵地帯に位置する面積2.4haの針葉樹人工林小流域において,1年間にわたり12の増水イベントの観測を行った。その結果,1)季節,降水量,先行降雨指数および増水前流量に依存しない増水時のEC,pH,Na^+,Mg^<2+>,Ca^<2+>,およびCl^-の減少とNO_3^-の増加,2)夏期の増水時の硝酸濃度の顕著な上昇,3)明瞭なフラッシング,の3点が特徴として明らかになった。1点目は急峻な地形による卓越しやすい土壌水の影響が,2点目は国内でも著しいこの地域の夏期の高温と多雨の影響が表れていると推測された。
著者
岩本 慎吾 佐野 淳之
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.311-318, 1998-11-16
被引用文献数
6

鳥取大学蒜山演習林の落葉性広葉樹二次林のササ型林床における稚樹の成育様式について解析した。樹高2 m以上の上木の出現種数は25種で, 樹高2 m未満の稚樹はカエデ類を始めとする17種が出現した。チシマザサの桿密度(平均±標準偏差)は23.4±9.0 m^<-2>, 桿高は121.0±14.9 cm, 乾燥重量は453.9±260.5 g・m^<-2>であった。稚樹の分布様式は集中分布で, ササ現存量と負の分布相関を示した。稚樹の樹齢構造より, ウリハダカエデとミズナラに比べ, イタヤカエデ, コハウチワカエデ, ヤマモミジ, ウワミズザクラは耐陰性が高いと考えられた。伸長成長量は, 最も高いウワミズザクラで2.81±1.35 cm・year^<-1>と低く, ササ高を超えるには数十年を要するため, これらの稚樹がササの被圧から抜け出すのは難しいと推察された。稚樹密度のピークは, ササ量指数3,000 cm・m^<-2>(乾燥重量466.3 g・m^<-2>)未満にあり, ササ現存量をこれ以下にコントロールすることが, ササ型林床における天然更新の条件になると考えられる。