著者
神農 泰生 岸本 麻実 穴吹 優佳 神谷 絵里子 大前 正範 西谷 佳浩 吉山 昌宏
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.622-629, 2008-12-31 (Released:2018-03-30)
参考文献数
31

複雑な窩洞に緊密な充填を行うことができるフロアブルレジンは,MIの概念の普及とともに重要な材料として注目されており,さらに,臼歯適応フロアブルレジンが製品化されることで,その重要性は増してきている.しかし,臼歯適応フロアブルレジンは比較的新しく,その基本的物性や,口腔内環境での物性変化に関する報告は少ない.そこで,臼歯用フロアブルレジンと従来型のペーストタイプのコンポジットレジンの物性を比較するとともに,口腔内pHサイクルの一端のモデルとして,脱灰・再石灰化溶液への浸漬による物性の変化を,曲げ強さならびに圧縮強さで検討した.フロアブルタイプとして,クリアフィルマジェスティLV(ML),ユニフィルローフロープラス(LP),エステライトフロークイック(FQ)を,ペーストタイプとして,クリアフィルAP-X(AP),Majesty Posterior(MP),ソラーレP(SP),グラディアダイレクト(GD),ビューティフィルII(BF),エステライトPクイック(PQ)を用いた.圧縮強さおよび曲げ強さ試験は,それぞれ円柱試料,棒状試料を作製し,負荷条件として脱イオン水,クエン酸水溶液および再石灰化溶液に1週間浸漬した後,オートグラフを用いて測定した.摩耗量試験は円柱試料を脱イオン水に1週間浸漬し,摩耗量を測定した.圧縮強さの試験の結果,フロアブルタイプのFQ,MLは,脱イオン水群でペーストタイプのPQ,MPに次ぐ高い値を示した.クエン酸水溶液群ではFQは最も高い値を示し,MLもFQ,AP,MP,PQにわずかに劣るものの高い値を示した.再石灰化溶液群ではMLが最も高い値を示し,FQはML,MP,PQ,APに次ぐ高い値を示した.MP,ML,BF,FQ,PQは,負荷条件下で圧縮強さに有意な差が認められた.曲げ強さの試験の結果,MLは脱イオン水群でMP,PQ,APに次ぐ値を示し,BF,FQと続いた.クエン酸水溶液群では,ML,FQともにMP,PQに次ぐ高い値を示し,再石灰化溶液群でもクエン酸水溶液群と同様の傾向がみられた.また,MP,ML,FQ,PQは,負荷条件下で曲げ強さに有意な差が認められた.摩耗量試験の結果,SP,LPはほかのものに比べ,摩耗量が有意に大きかった.以上より,臼歯適用フロアブルレジンの圧縮強さ,曲げ強さはペーストタイプとほぼ同等であり,また負荷条件下での圧縮強さ,曲げ強さに大きな変化は認められなかった.
著者
田本 晃生 作 誠太郎 山本 宏治
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.658-668, 2006
参考文献数
43
被引用文献数
10

Objective: This study examined the characteristics of flowable composite-resins containing improved S-PRG filler. Materials and Methods: The tested materials were Beautifil High flow F10 (BF10-resin) and Beautifil Low Flow F02 (BF02-resin), both of them containing improved S-PRG filler, and the control materials were Unifil Flow (Un-resin) and Metafil Flo (Me-resin). Resin blocks were prepared using a metal mold followed by their bonding on both upper first molars. The blocks were debonded at 8, 12 and 24 hrs, respectively and antiplaque test was carried out including SEM observation and energy dispersive X-ray micro analysis. Furthermore, observation of saliva proteins on each resin surface and albumin adsorption probe was performed. Concerning the cavity wall adaptability test, cavities were prepared in two different manners: by Er: YAG laser and diamond burr mounted in a high-speed hand-piece. Then the preparations were filled with the corresponding material according to each manufacturer's recommendation and the cavity wall adaptability was analyzed. Results: One of the most important findings was that BF10 and BF02-resing exhibited almost no bacterial adhesion. The energy dispersive X-ray micro analysis revealed the presence of elements such as Al, Si, and Sr of the improved S-PRG filler. Also, only in BF10 and BF02-resins the film layer was observed on their surfaces soaked in albumin solution. The albumin adsorption was higher in BF10 and BF02-resins than control materials. Overall, the cavity wall adaptation was suitable for all materials, unless BF02-resin showed a creck when the cavity was prepared by Er: YAG laser. Conclusions: BF10 and BF02-resins presented appropriate characteristics and were useful for the treatment of caries; moreover they offered an anti-plaque property suggestion that the application of these materials is suitable as a minimal intervention approach.
著者
両角 祐子 山下 穣 阿部 祐三 安川 俊之 竹田 まゆ 宇野 清博 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.219-225, 2009-04-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
33

本研究は,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を用いた歯肉縁上の洗浄が歯肉縁下に及ぼす影響を,歯周組織および歯肉縁下細菌叢の変化で検討した.全身疾患を有さない男性4名,女性4名を対象とし,手用歯ブラシとジェットチップ®を装着した口腔洗浄器具(ウォーターピック®ウルトラJET:WP-10-J,Water Pik,USA)を併用した場合と,手用歯ブラシのみの場合を比較検討した.口腔洗浄器具の使用は,1日1回就寝前,600mlの水道水にて行った.検査項目は,Plaque Index(以下,P1I),Plaque Control Record(以下,PCR),Gingival Index(以下,GI),Bleeding on Probing(以下,BOP),Probing Depth(以下,PD)とし,実験開始時と1,2週間後に測定を行った.細菌学的検索としては,Polymerase Chain Reaction法を用い,Porphyromonas gingivalisの検出を行った.結果,口腔洗浄器具を併用した場合,手用歯ブラシのみの場合と比較し,PCR,P1Iで2週間後に有意な減少を認めた.GI,BOPにおいても口腔洗浄器具を用いた場合のほうが改善がみられた.細菌学的検索では,口腔洗浄器具の併用において,P.gingivalisの検出部位が少なかった.以上の結果から,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を併用した場合,臨床的にプラークの抑制効果があることが示された.また,歯肉溝内の歯周病原細菌の抑制効果があることも示された.これらのことから,脈動ジェット水流式口腔洗浄器具を用いた歯肉縁上の洗浄の歯肉縁下に対する有効性が示された.
著者
寺沼 浩 村井 宏隆
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.81-93, 2009-02-28
被引用文献数
1

近年,コンポジットレジンの接着性の向上や患者の審美的要求の高まり,Minimal Intervention(MI)の概念などから,コンポジットレジンを用いた審美修復が多用されるようになってきている.より高度な審美修復を行うための一つとして,周囲の色がコンポジットレジンに与える影響を考慮した色調選択が重要であると思われる.審美的要求の高まりから充填に使用されるコンポジットレジンも,積層して使用するものやカメレオン効果により,より天然歯の色調に近い修復が可能になった.しかし,実際に色調を調和させるためには,さまざまな条件を踏まえたシェードの選択や形態の回復が必要であり,熟練が要求される.そこで今回,コンポジットレジンの色調に有彩色が与える影響について実験を行った.本実験には,コンポジットレジンとしてエステライトΣ(トクヤマデンタル),ビューティフィルII(松風),フィルテック_<TM>シュープリームDL(3M ESPE,USA),テトリックセラム(Ivoclar Vivadent,Liechtenstein)のA3色,背景として標準白色板と黒色板,低発泡塩化ビニル板(アクリサンデー)の白,黒,黄,赤,青,緑を使用した.直径8mm,高さ1mmの円盤状試料を作製し,各背景の上に載せ,分光測色器Spectra Scan PR650(Photo research,USA)において,色の測定を行った.算出したコンポジットレジンの色調から背景のL^*値は,黒,赤,青,緑,黄,白の順に高くなり,a^*値は,赤で最大,緑で最小,b^*値は,黄で最大,青で最小であった.標準白色板と各背景との色差ΔE^*abは,白,緑,青,黄,赤,黒の順に高くなった.各コンポジットレジンにおいて,標準白色板上で測定した色調をコントロールとして各背景上で測定した色調から色差ΔE^*abを比較すると,4種類のコンポジットレジンともに,白,黄,赤,緑,黒,青の順に高くなった.背景の色差と異なる色の背景上におけるコンポジットレジンの色差に差を認めることから,背景の明度だけでなく彩度もコンポジットレジンの色調に影響を与えること,また色差からコンポジットレジンは,特に背景の赤あるいは緑色系の影響を受けにくいことが示唆された.
著者
八島 章博 鈴木 琢磨 松島 友二 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.314-320, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
23

目的 : 音波歯ブラシは高振動によるキャビテーション効果により, 毛先から離れた部位のプラーク除去にも効果があるとされるが, 深い歯周ポケットに対してはその効果を十分発揮するのは難しい. しかし, 歯周ポケット内の歯周病原細菌をコントロールすることはきわめて重要であると考えられる. そこでわれわれは, 音波歯ブラシと水流洗浄器を併用した場合の歯周ポケット内細菌に与える影響について検討した.  材料と方法 : 4~5mmの歯周ポケットを有する患者18名を無作為に2群に分け, 実験群は被験歯に音波歯ブラシで頰側・口蓋側から10秒ずつブラッシング後含嗽し, 水流洗浄器で頰側・口蓋側から10秒ずつ洗浄を行った. 細菌は術前後に採取した. 対照群は音波歯ブラシでブラッシング, 含嗽後に細菌を採取した. 採取した細菌はPCR-Invader法にて, 定量・定性分析を行った.  結果 : 個々の歯周病原細菌の術前後の菌数変化に有意な差を認めなかったが, 全歯周病原細菌の平均で評価すると, 実験群では術前と比較して術後に有意な減少を認めたのに対し, 対照群では有意差を認めなかった. また, 歯周病原細菌数の減少率を比較すると, 実験群は対照群に比べて約4倍の歯周病原細菌の除去効果が認められた.  考察 : 以上の結果より, 音波歯ブラシによる液体流動力と水流洗浄器が発生させるバブル水流の併用は, 歯周ポケット内の歯周病原細菌の除去に有効であることが示唆された.
著者
島村 穣 高橋 史典 竹中 宏隆 吉田 ふみ 池田 昌彦 森 健太郎 黒川 弘康 安藤 進 宮崎 真至
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.333-339, 2012
参考文献数
26

目的:OCTイメージへの影響因子として,歯質の乾燥状態がOCTイメージおよび信号強度に及ぼす影響について検討した.材料と方法:実験には,光源に中心波長1,310nmのSuper Luminescent Diodeを用いたTime-Domain型OCT装置(モリタ東京製作所)を用いた.測定においては,ヒト抜去歯を精製水から取り出し,サンプルステージに静置直後の歯質表面が湿潤している条件,エアブローを10秒間行うことによって歯質表面の水分を除去した条件,エアブロー後1,5分あるいは10分間放置した条件の合計5条件を設定した.以上の条件で得られたOCTイメージおよび信号強度を比較検討した.成績:いずれのOCTイメージにおいても,内部断層構造の観察が可能であり,エナメル質および象牙質が色調の違いとして識別できた.湿潤条件においては歯質表面付近に2本の高輝度のラインが観察されたのに対して,ほかの条件のいずれにおいても高輝度のラインは1本のみ観察された.また,湿潤条件においてはエアブロー条件と比較して得られたOCTイメージが不明瞭であったのに対し,放置条件では放置時間の経過とともに歯質表面の信号強度が強くなる傾向を示した.結論:歯質の乾燥状態は,OCTによって得られる画像に影響を及ぼすことが明らかとなった.臨床的には,観察部表面に対してエアブローを10秒間行うことによって可及的に水分を除去することで,より鮮明なOCTイメージが得られることが示唆された.
著者
小山 征哉 小倉 陽子 勝海 一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.688-697, 2007
参考文献数
41
被引用文献数
3

この研究の目的は,エンジン用の根管拡大形成器具で根管形成を行ったことを想定したテーパーが6/100の樹脂性湾曲根管模型に,材質,サイズが異なる8種のスプレダーを用い側方加圧充填法による根管充填を行い,湾曲根管におけるスプレダーの種類によるガッタパーチャポイントの圧接の違いを評価することにある.すなわちDentalEZの2種のステンレススチール製スプレダー(Star Dental D11T〔S-D11Tと略〕,Star Dental D11〔S-D11と略〕,と,Roekoの4種のニッケルチタン製スプレダー(NiTi #15〔R-15と略〕,NiTi #25〔R-25と略〕,NiTi #35〔R-35と略〕,NiTi D11T〔R-D11Tと略〕),Brasselerの2種のニッケルチタン製スプレダー(Navi-flex NT D11T〔B-D11Tと略〕,Naviflex NT 4SP〔B-4SPと略〕)を用い,側方加圧充填法による根管充填を行った.圧接状態の評価は,マイクロフォーカスX線CT装置により撮影された根尖から1,2,3,4,5,6,7mmの各位置の根管断面に占めるガッタパーチャポイントの割合(ガッタパーチャ充塞率)を求めることにより,各スプレダーの圧接状態の分析を行い,以下の結論を得た.1〜7mmの全断層像におけるガッタパーチャ充塞率の平均は,S-D11Tスプレダーが93.9%と最も高く,次いでB-D11Tが93.7%,S-D11が86.1%,R-25が85.3%,R-D11Tが85.2%,R-15が82.9%,R-35が76.8%,B-4SPが76.2%の順に低下し,根管の封鎖は不十分となった.なおスプレダーの種類が,ガッタパーチャ充塞率に及ぼす影響については高度に有意であることが認められた.1〜7mmの各断層位置における断層像のガッタパーチャ充塞率は,S-D11Tが各断層位置で90.8%以上の,またB-D11Tが90.5%以上の高い値を示した.これに対しR-35は断層位置6mmで65.9%,B-4SPは4mmで69.4%の低い値を示し,充塞率が船底型に大きく落ち込む現象が認められた.なお,R-25,R-15,R-D11T,S-D11でも,充塞率が局所的に低下する落ち込み現象がみられた.以上の結果より,湾曲根管におけるスプレダーの選択に際しては,材質によるしなやかさよりもスプレダーの径やテーパーによる根管への挿入性や圧接性を優先し,選択すべきであることがわかった.
著者
勝海 一郎 山崎 孝子 都築 民幸 北村 和夫 石井 隆資 前田 宗宏 小倉 陽子 好士 連太郎 阿川 透久 宮里 尚幸 大島 克郎 大村 朋己 丸山 博吉 木津喜 美香 小山 征哉 遠藤 春江
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.846-853, 2006
参考文献数
32
被引用文献数
1

On 6 types of Ni-Ti spreader (Roeko NiTi # 15; Roeko NiTi # 25; Roeko NiTi # 35; Roeko NiTi D11T; Brasseler Naviflex NT D11T; Brasseler Naviflex NT 4SP), dimensions were measured under digital microscope, and a load application test was performed in the axial direction of the spreader. The results were as follows: 1. In Roeko NiTi # 15, D<sub>3</sub> was 0.38 mm, D<sub>16</sub> was 0.61 mm, taper was 0.018, and tip angle was 28.9°. Similarly, the above values were 0.32 mm, 0.68 mm, 0.027, and 28.0° respectively in Roeko NiTi # 25. The values were 0.50 mm, 0.70 mm, 0.016, and 32.5° respectively in Roeko NiTi # 35, and the values were 0.37 mm, 0.88 mm, 0.039, and 10.6° respectively in Roeko NiTi D11T. The values were 0.27 mm, 0.77 mm, 0.038, and 29.9° respectively in Brasseler Naviflex NT D11T, and 0.30 mm, 1.06 mm, 0.059, and 35.9° respectively in Brasseler Naviflex NT 4SP. 2. When a load was applied in the axial direction of the spreader, the load was 0.56 kgf in case the portion of 16 mm in length from the tip in Roeko NiTi # 15 was bent at a stroke. When the portion of 5 mm in length from the tip was fixed and the portion of 11 mm in length from the tip was bent at a stroke, the load was 4.32 kgf. The above values were 1.13 kgf and 7.52 kgf respectively in Roeko NiTi # 25, 1.24 kgf and 8.58 kgf in Roeko NiTi # 35, 0.82 kgf and 10.28 kgf in Roeko NiTi D11T, 0.63 kgf and 7.27 kgf in Brasseler Naviflex NT D11t, and 1.02 kgf and 17.61 kgf in Brasseler Naviflex NT 4SP. 3. The Ni-Ti spreader has super-elasticity and is flexible. Thus, it is difficult to apply pressure on it in the axial direction, during lateral condensation. However, this study revealed that sudden bending may be avoided if at least the tip portion of 5 mm in length from the tip is inserted into the root canal.
著者
烏帽子田 敬 勝海 一郎
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.570-581, 2007-10-31
被引用文献数
4

この研究の目的は,エンジン用器具で拡大形成を行ったことを前提にしたテーパーが6/100の樹脂製直線根管模型に,材質,サイズが異なる各種のスプレダーを用い側方加圧充填法による根管充填を行い,ガッタパーチャポイントの圧接状態を評価するとともに,評価方法を比較検討することにある.すなわち1種のステンレススチール製スプレダーDentalEZのStar Dental D11T(S-D11T)と6種のニッケルチタン製スプレダー〔RoekoのNiTi#15(R-15)とNiTi #25(R-25), NiTi #35(R-35)およびNiTi D11T(R-D11T),BrasselerのNaviflex NT D11T(B-D11T)とNaviflex NT 4SP(B-4SP)〕を用い,側方加圧充填法による根管充填を同一スプレダーごとに模型3個ずつ行った.圧接状態の評価は,根尖側6mmの根管壁面に残存する厚さ5μm以下のシーラーの占める割合(GP圧接率),マイクロフォーカスX線CT装置により撮影した根尖から1,2,3,4,5,6mmの全断層面におけるガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP/CT充塞率),根尖から1,2,3,4,5,6mmの全根管切断面におけるガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP総充塞率),各切断位置ごとのガッタパーチャポイントの占める割合の平均(GP位置充塞率)を求め評価するとともに,評価方法の比較検討を行うことにより以下の結論を得た.残存シーラーによるGP圧接率は,B-D11Tが92.1%と最も高く,次いでR-D11T,S-D11T,R-15とR-25,R-35の順で,B-4SPは57.9%と最も低い値を示した.マイクロフォーカスX線CT装置によるGP/CT充塞率は,S-D11Tが96.6%と最も高く,次いでB-D11T,R-D11T,R-25,R-35,R-15の順で,B-4SPは88.9%と最も低い値を示した.根管切断面によるGP総充塞率は, S-D11Tが97.9%と最も高く,次いでB-D11T,R-D11T,R-25,B-4SP,R-15の順で,R-35は90.4%と最も低い値を示した.根管切断面の切断位置によるGP位置充塞率は,S-D11Tが各切断位置で96.9%以上の高い値を示したが,B-D11TはS-D11Tよりも根管先端部での圧接がやや劣り,またR-D11T,R-25,R-15,B-4SP,R-35の順に,根管中ほどで充塞率が低下する現象がみられた.以上の結果より,S-D11T,R-D11T,B-D11Tは良好にガッタパーチャポイントの圧接を行うことができたが,R-35,B-4SPでは十分に圧接を行えないことがわかった.またマイクロフォーカスX線CT装置によるGP/CT充塞率と切断面によるGP総充塞率の評価法については,両者に統計学的な有意差は認められず,マイクロフォーカスX線CT装置による評価の信頼性,有用性が確認できた.
著者
川守田 暢 安田 善之 新田 督 泉川 昌宣 斎藤 隆史
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.359-366, 2010-08-31 (Released:2018-03-28)
参考文献数
24

キシリトールは,齲蝕原因菌に酸を産生させないことから非齲蝕性甘味料として使用されている.本研究の目的は,キシリトール溶液にて4週間洗口を行った場合の齲蝕予防効果を検討することである.はじめに,in vitroにおいてキシリトールの齲蝕原因菌の増殖への影響を調べた.キシリトールは濃度依存性にStreptococcus mutansやStreptococcus sobrinusの増殖を抑制したが,ソルビトールはほとんど影響がなかった.Lactobacillus caseiの増殖にはキシリトールとソルビトールはともに影響を与えなかった.次に,計40名の被験者を2群に分け,5%キシリトール溶液もしくは5%ソルビトール溶液にて洗口後の唾液中S.mutansレベルとプラーク付着率を調べた.キシリトール溶液の洗口4週後の唾液中S.mutans菌数は洗口開始前と比べて約65%減少したが,ソルビトール溶液の洗口4週後では約10%減少した.さらに,キシリトール溶液の洗口4週後ではプラーク付着率はソルビトール溶液の洗口に比べて約45%有意に低下した.以上の結果から,キシリトール溶液の洗口は唾液中のS.mutans菌数を減少させ,齲蝕予防に有効である可能性が示唆された.
著者
下地 伸司 小田中 瞳 宮田 一生 菅谷 勉 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.431-441, 2013

目的:歯周治療を安心・安全に行うためには,その治療が全身状態に及ぼす影響を解明することが重要である.そこで著者らは,歯科治療の影響を評価するための自律神経活動モニターシステムを開発してきた.本研究ではパイロットスタディとして,新規開発モニターシステムを用いて健全な20歳代のボランティアに対して歯周基本治療を行った際の自律神経活動の変化について検討を行うとともに,システム自体の使用感についても評価を行った.対象と方法:10名(25.4±1.4歳)のボランティアに対して口腔内検査,歯周ポケット検査,スケーリングおよび印象採得を行った際の血圧,心拍数,経皮的動脈血酸素飽和度および自律神経活動について,新規開発モニターシステムを用いて評価した.自律神経活動は,心電図のR-R間隔を高周波成分と低周波成分に周波数解析することで,交感神経活動および副交感神経活動を評価した.またシステム自体の使用感については,質問票による調査を行った.成績:質問票への回答から,システムを装着すること自体をつらいと感じる者はいなかった.血圧,心拍数および経皮的動脈血酸素飽和度については,歯周基本治療時には処置開始前と比べてほとんど変化がなく,有意な差は認められなかった.交感神経活動は,処置前のユニット着席時や処置の開始直後に上昇する傾向がみられた.このことから,健全な20歳代に対する歯周基本治療では,処置中の侵害刺激の影響よりも精神的なストレスの影響が大きい可能性が示唆された.結論:新規開発自律神経モニターシステムを用いることで,簡便かつ非侵襲的にストレスなく歯科治療が自律神経活動に及ぼす影響を評価することができる.また,健全な20歳代に対して歯周基本治療を行うと,実際の処置中よりも処置を待つ開始直前や処置開始直後に交感神経活動が活発になる傾向がある.
著者
小澤 寿子 中野 雅子 新井 高 前田 伸子 斎藤 一郎
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.363-369, 2009-08-31
被引用文献数
3

歯科ユニット給水系(DUWS)からタービンやシリンジなどを介して流出する水は,多くの微生物に汚染され,水回路チューブ内表面に形成されたバイオフィルムにより,多くの細菌数が検出されることが報告されている.米国においては歯科ユニット給水系の水質基準として,Centers for Disease Control and Preventionが500CFU/ml以下を推奨し,American Dental Associationでは200CFU/ml以下を基準としている.しかしながら,日本では水質基準は提示されていない.われわれは,2003年に鶴見大学歯学部附属病院内の17台の歯科用ユニット水について微生物による汚染状況調査を行った.さらにDUWS用洗浄剤の選択,洗浄剤の安全性確認,洗浄消毒方法を検討した.次いで,「ショックトリートメント」(DUWSチューブ内のバイオフィルムを除去する化学的洗浄方法)を2004年より実践した.このショックトリートメントとは,診療終了後にDUWS用洗浄液をDUWS内に流入し,洗浄液を満たして一晩放置する.翌日診療開始前に洗浄液を通常のフラッシングの要領で排出する.これを連続して3日間繰り返し行う.ショックトリートメント実施前には,フィルターや逆流防止装置などの設置の有無にかかわらず,全ユニットから2.4×10^2〜6.1×10^4CFU/mlの微生物が検出された.またフラッシングにより汚染度は減少したが,フラッシング後もなお汚染が確認されたユニットもあった.ショックトリートメントを実施した後に同様な微生物による汚染状況調査を行った結果では,DUWSの水の汚染は著しく改善していた.しかしながら,DUWS水回路流入元へのコックの取付けや流入装置の準備,詰まりや水漏れに対する対策が必要であった.また定期的に洗浄消毒を繰り返す必要があることがわかったため,現在も引き続きショックトリートメントを実施中である.