著者
渡邊 紳一郎 木村 文宏 喜屋武 淳 鈴木 智史 中島 史雄 早川 正道 中村 宏
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.1137-1141, 1995-06-20
被引用文献数
11 1

1991年から1994年の間に経験したFournier's gangrene患者5名について, 年齢, 基礎疾患, 誘因, 病変の範囲, 検出された細菌, 治療法及び予後について検討した.患者の平均年齢は47歳で, 基礎疾患として糖尿病2名, 全身性エリテマトーデス1名, 慢性アルコール中毒1名, 末期の多発性骨髄腫1名であった.発症の誘因は創感染が2名, 尿道留置カテーテルが2名であり, 1名では明らかなものはなかった.外科的処置として, 2名に広範囲のデブリードマンを施行し, 後に分割植皮術を要した.3名では, 最小限の壊死組織除去後に罹患部皮下に多数のペンローズ・ドレーンを留置し, 消毒液で洗浄した.このうち2名は病変の発赤, 腫脹が急速に軽減し, 皮膚欠損を残さずに治癒した.1名は末期の多発性骨髄腫患者で全身状態は極めて不良であり, ドレーン留置後, 炎症所見は軽減傾向にあったが, 敗血症, DICを併発して死亡した.外科的処置として広範囲のデブリードマンが一般的に施行されているが, 皮膚欠損を生じることが多く, 皮膚移植の必要性や二次的創感染等の欠点を有する.壊死組織の限局的な除去と皮下への多数のドレーンの留置の組み合わせは, 皮膚欠損も最小限で済み, 治療効果も広範囲のデブリドマンと比べて遜色がなかった.本法は, 広範囲デブリードマンに変えて選択しうる有効な治療法であると思われた.
著者
内田 豊昭 足立 功一 青 輝昭 藤野 淡人 横山 英二 小俣 二也 吉沢 一彦 黒川 純 門脇 和臣 庄司 清 真下 節夫 遠藤 忠雄 小柴 健
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.84, no.5, pp.890-896, 1993-05-20
被引用文献数
4 6

1971年8月から1991年7月までの20年間に北里大学病院泌尿器科において経験した経尿道的手術は3,215例であった.その内訳は,前立腺肥大症2,008例,膀胱腫瘍692例,前立腺癌258例,膀胱頸部硬化症167例,尿道狭窄38例,慢性前立腺炎20例,他の泌尿器疾患32例という順であった.このうち下部尿路通過障害を主訴としてTURPを施行した前立腺肥大症2,008例と前立腺癌258例の計2,266例について臨床統計的に検討した.2,266例の年齢は44歳から96歳(平均70.1歳)で,切除時間は最短9分から最長245分(平均73.0分)切除量は最小1gから最大177g(平均27.0g),使用灌流液量は最小4Lから92L(平均25.0L)であった.術後の膀胱カテーテルの留置日数は3日間から44聞間(平均4.1日間),入院日数は最短10日間から最長81日間(平均12.1日間),術中・術後合併症は合計308例(13.6%),輸血症例は305例(13.5%),死亡例は1例(0.04%)に認められた.それぞれの項目につき,疾患別,切除量別,切除時間別に検討したところ,疾患別では前立腺肥大症群が切除量,切除時間,灌流液量,術後カテーテル留置期問,合併症率が高く,前立腺癌群に入院期間と輸血例が多く認められた.また切除時間,切除量が増大するにつれ各項目とも比例増大した.
著者
秋山 昭人 大久保 雄平 高嶋 力彌 古堅 進亮 栃本 真人 土屋 哲
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.85, no.8, pp.1269-1272, 1994-08-20
被引用文献数
4 1

骨盤内悪性腫瘍に対する放射線照射に起因する出血性膀胱炎はしばしば難治性であり,これまでのところ決定的な治療法が確立されていないのが現状である.今回我々は他の保存的治療が無効であった2例の重篤な放射線性出血性膀胱炎に対し高圧酸素療法による止血を試み,良好な成績を得た.治療は,症例1に対しては2絶対気圧下100%酸素吸入・120分間・計60回,症例2に対しては3絶対気圧下100%酸素吸入・90分間・計30回というスケジュールで行った.両症例とも血尿は消失し,膀胱鏡所見も著明に改善した.明らかな副作用は認められなかった.治療後3年(症例1),および4ヵ月(症例2)の現在まで,再発は認められていない.高圧酸素療法は他の分野においてその方法や効果についてはすでに確立されており,本疾患においてもそれらの方法にしたがって施行すれば患者の負担も少なく,根治的な治療効果が期待できることから,従来の治療法に代わって第一選択の治療となり得るものと考えられた.
著者
荒木 博孝
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.72, no.11, pp.1477-1491, 1981-11-20
被引用文献数
2

前立腺肥大症患者100例と年齢および居住地を一致させた正常対照者100例を対象に,独自の質問用紙を用いて,インタビュー方式による疫学的調査を行い,matched pair analysisを用いたcase control studyを行った.この結果,前立腺肥大症患者における疫学上重要な特徴は,つぎのごとくであると考えられた.すなわち,社会経済的にはより学歴が高く,年収もそこそこ多く,環境汚染のない職場で働いている.結婚状況や性生活においては,多くの子供を持ち,より早く第1回射精を経験し,1ヵ月以上のインポテンツの経験を持たない.すなわち,精力的な性生活のパターンを有している.また,淋疾,尿道炎,前立腺炎,および梅毒といった慢性尿路感染症に,より多く罹患している.食生活においては,毎日肉類を食べ,牛乳または山羊乳を飲み,緑黄色野菜や漬物の摂取量がより少ない,すなわち,西欧風の食生活のパターンを有している.
著者
梶川 恒雄 野沢 立 尾張 幸久 藤澤 宏光 金子 卓司 野呂 一夫 高田 耕
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.586-588, 2001-07-20
被引用文献数
2 2

左尿管結石に対するESWLにより,腸管穿孔を起こした症例を経験したので報告する.症例は69歳,男性で,1996年3月に両側総腸骨動脈瘤に対してグラフト置換術を受けていた.1999年2月,左側腹部痛が出現,レントゲン検査で左尿管結石の診断となった(lt.U1,14×8mm).結石は骨盤部まで下降後,下降しなくなったため,入院の上,3月30日,腹臥位でESWLを施行した.終了直後より左下腹部痛を訴え,鎮痛剤で治まらないため,3月31日,CTを施行した.明らかな異常所見を認めなかったが,その後も痛みが続き,4月2日には,筋性防御も認めるようになった.再度CTを施行したところ,free air,イレウス所見を認めたため,緊急手術を施行した.トライツ靭帯から130cmの空腸に,2mm大の穿孔を2カ所認め,ESWLによる腸管穿孔と診断した.術後経過は良好で,4月23日,退院となった.ESWLによる腸管穿孔は,極めて稀な合併症であるが,腸管の癒着の可能性のある既往歴,腹臥位でのESWLは,リスクファクターと考えられた.
著者
鈴木 伸和 熊本 悦明
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.1088-1097, 1995-06-20
被引用文献数
6

男性透析患者に性機能障害が起こることはよく知られている.透析患者の性機能障害を詳細に検討するため, われわれは札幌医大式性機能質問紙を用いて性機能調査を行った.対象は外来透析をうけている男性205例であり, 糖尿病症例および重度貧血症例 (ヘモグロビン濃度8g/dl未満の症例) は今回の検討から除外した.質問紙の性機能評価にあたって, 当教室ですでに同質問紙を施行していた, 3462例の健康男性のデータをコントロール群として比較検討した.男性透析症例のうち, 性欲は33.7%が健康男性の下方10%領域に, 勃起能は44.4%が健康男性の下方10%領域に含まれており, いずれも加齢とともに著しい低下を認めた.射精能は自覚的勃起機能と連動した動きをみせており, 加齢とともに低下する傾向を認めた.性交頻度を透析症例と健康男性とで比較したが, 性交渉を有していないものが, 30歳代では透析症例12.9%に対して健康男性3.5%, 同様に40歳代では22.4%に対して3.0%, 50歳代では52.2%に対して7.5%, 60歳代では89.3%に対して18.0%と, 透析症例では, 各年代とも健康男性に比べて性交頻度が低下しており, しかも加齢に伴う低下が著しかった.
著者
片岡 喜代徳 梅川 徹 片山 孔一 石川 泰章 児玉 光正 高村 知諭 高田 昌彦 加藤 良成 郡 健二郎 井口 正典 栗田 学
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.799-803, 1991-05-20
被引用文献数
1

上部尿路結石患者と健常人の尿中の蓚酸カルシウム結晶量と尿中諸物質濃度を測定し,重回帰分析することによりそれらの影響力を検討した.1.結石患者の尿では説明変数としては蓚酸,ナトリウム, カルシウム,尿酸,マグネシウムが採択されそれぞれの偏相関係数は0.67,0.28,0.18,0.18,-0.10であった.CaOx結晶量の回帰式はCaOx Crystal量(×10^6μm^3/ml)=3.59×10^2Ox(mM/ι)+4.72×10^<-3> Ca(mM/ι)+4.52x10^<-3>Na(mM/ι)+2.51×10^<-4>UA(mM/ι)-2.39x10^<-2>Mg(mM/ι)-1.65で,重相関係数は0.759であった.結石患者の尿では結晶形成は蓚酸濃度に最も依存し,ナトリウム,カルシウム,尿酸が結晶形成促進因子として働き,マグネシウムが阻止因子として作用していた.2.健常人の尿では説明変数として蓚酸と無機燐が採択されそれぞれの偏相関係数はO.51,-0.24であった.CaOx結晶量の回帰式はCaOx Crystal量 (×10^6μm^3/ml)=1.91×10^<-2>Ox(mM/ι)-3,43x10^<-4>P(mM/ι)+0.29で,重相関係数は0.525であった健常人の尿でも結晶形成は蔭酸濃度に依存していたが,他に促進因子 は明らかではなかった.阻止因子としての作用は無機燐に認められた.健常人では結石愚老に比べ重相関係数も低く,結晶形成に他の不明の多くの諸物質の関与が推察された.
著者
河村 信夫
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.70, no.9, pp.986-988, 1979-09-20

大型の人体寄生虫は今日の日本に於いてはまれになり,小型の寄生虫でも生命に影響を及ぼすようなものはめったに見られない. また泌尿生殖器は消化器等にくらべて,寄生虫感染の起こりにくい臓器でもある. しかし一旦,低開発国に目をむけると,アフリカのピルハルツ住血吸虫,ヨーロッパのエキノコックス等,生命に危険を及ぼすものがあり,アフリカ,中近東,東南アジア,中南米の寄生虫疾患罹患率は,考えられぬ程高い. また今迄あまり問題にされなかった寄生虫が,免疫不全症候群,担癌患者,移植患者などでは重篤な感染を起こす例もみられるようになった. さらに,多くの人には生命に影響を与えず,症状も起こさぬので放置されているような寄生虫の感染は,文明国でも拡がり,一部の人だけが発症するという状態を作っている. さらに最近の交通の発達,海外へ往来する日本人の増加は,想像しなかったような外国の寄生虫が急速に日本に持ち込まれる状態をもたらすようになった. 一方に於いて抗寄生虫薬は副作用の強いものが多く,薬害訴訟などが広く行われはじめると,メーカーも製造を中止てしまったり,国内での発売を停止されたりということがおこってきている. 例えばキニーネ,塩酸クロロキンが国内で使えなくなったことは,海外でマラリアに罹患した日本人の治療に非常に不便をもたらしている. 外国で作った薬品の持ち込みがみとめられぬとしたら,罹患した日本人は外国へ行って治療Lてもらうとか,または国内でしずかに死ぬのを持つということになる. このような現状の下で,泌尿器科医が稀に遭遇する寄生虫疾患についての知識をまとめ,かつ,演者の数年来の研究の結果もあわせて発表することにした.
著者
山田 哲夫 船橋 亮 村山 鐵郎
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.96, no.5, pp.554-559, 2005-07-20
参考文献数
14
被引用文献数
1

(目的)線維筋痛症(FM)は米国において間質性膀胱炎(IC)の約10%に合併するとされているが本邦ではほとんど知られていない.我々も米国とほぼ同様な割合で合併例を経験した.合併例の実情と意義について報告する.(患者と方法)患者はICに関する1987年National Institute of Diabetes, Digestive and Kidney Diseases (NIDDK)とFMに関するAmerican College of Rheumatology (ACR)の診断基準を満たした過去4年間における30例で, これらの臨床所見の検討を行った.(結果)ICのsymptom indexとproblem indexの平均は各々14.9と14.6で, ACRの診断基準における圧痛点の平均は16カ所であった.患者全体で9カ所の診療科を受診し, 患者の38%が精神病でないにも関わらず精神科受診を余儀無くされていた.両疾患は疼痛閾値の低下やび漫性の痛み, 症状の増悪因子, 治療法などに類似点が認められた.(結論)ICの約11%がFMを合併し, 合併例は病状を理解されず全身の激しい痛みに耐えていた.ICとFM患者の臨床所見において共通点が多く認められた.