著者
島田 淳
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.45-50, 2021-08-20 (Released:2022-02-20)
参考文献数
9

顎関節症は,顎関節,咀嚼筋など運動器の機能障害であり,機能回復には運動療法が有用であるとされている。しかし顎関節症の病態に即した運動療法の手技および指導法について明確にされておらず,手技および指導法を確立していくためには症例数を増やし,それぞれの病態を詳しく評価する必要がある。そこで今回,食事のときに口が閉じなくなることを主訴に来院し,左側非復位性顎関節円板障害と診断された症例と,食事のときに口が大きく開かなくなることを主訴に来院し,左側復位性顎関節円板障害(間欠ロック),右側復位性顎関節円板障害と診断された症例に対して,開閉口運動検査時に,閉口および開口が障害された状態を再現させ,円板障害が生じる位置を確認し,その状態から関節可動域を増やすことを目的とした運動療法として関節可動域訓練を指導した。さらに術者による顎関節腔および関節可動域の拡大を目的とした運動療法として顎関節徒手的授動術を行ったところ,両者とも,閉口障害,開口障害が消失した。これらのことから,顎関節円板障害において,開口運動の量だけでなく,開閉口運動の質の評価を行い,画一的な運動療法ではなく,問題点を明確にして運動療法に反映させることが重要ではないかと思われた。
著者
野田 佳江 中筋 幾子 清水 幹雄 栗田 賢一 宮澤 健 後藤 滋巳 泉 雅浩
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-4, 2009 (Released:2012-02-15)
参考文献数
6

両側の下顎頭吸収が起き,これに継発して前歯部が開咬を呈する症例に対し,Indirect Bonded Splint(IBS)を用いた顎間牽引を行い,良好な結果を得られた。 患者は42歳の女性で,1年前より右側顎関節部の軽度の疼痛と前歯部の開咬を自覚していた。開咬は除々に増悪し,来院時にはoverjet+1.0mm,overbite-3.5mmとなっていた。開口域は46mmであった。CTでは両側下顎頭の平坦化がみられ,左側下顎頭海綿骨の緻密化および関節結節部にはエロージョンを認めた。そこで,IBSを歯列に装着し,ゴムにて顎間牽引を行った。顎間牽引終了8か月後,前歯部開咬は改善し,CTでは左右下顎頭および左側関節結節の皮質骨の再生が確認できた。 IBSを用いた顎間牽引は開咬を伴う変形性顎関節症に対する保存的療法の有用な一手段である。
著者
和気 裕之 小見山 道
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.183-190, 2014

顎関節症診療における歯科医師と精神科医の連携について述べた。顎関節症診療では,有病率の高い精神疾患に遭遇する機会が少なくない。そして,心身症の概念は身体疾患と精神疾患の境界領域の病態を理解するうえで重要である。歯科心身症には定義がなく,臨床では狭義と広義の概念で用いられている。狭義の歯科心身症は,日本心身医学会(1991)の定義に該当する歯科領域の病態を指す。一方,広義の歯科心身症は,「臨床的に説明困難な症状」や,「心身両面からの評価と対応を要する患者」などに対して用いられているが,リエゾン診療では,その70%以上が身体表現性障害に該当する。顎関節症は多因子性の疾患であるが,そのなかの心理社会的因子には不安・抑うつなどの心理状態,性格傾向,ストレス,精神疾患などがあり,これらは診断と治療を行ううえで重要である。歯科医師は顎関節症診療で,傾聴,受容,共感,支持,保証を基本姿勢としてBio-psychosocialな評価を行い,精神科との連携を要する症例は,心身医学的な医療面接から検討する。また,特に診察と検査から他覚所見がみつからない症例,あるいは自覚症状と他覚所見に乖離のある症例では注意が必要であり,単独で診療が可能か連携して診療すべきかを判断することが重要である。
著者
地挽 雅人 浅田 洸一 豊田 長隆 菊地 健太郎 荒井 智彦 平下 光輝 野上 喜史 石橋 克禮 小林 馨
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.60-71, 1997-06-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
17
被引用文献数
2

MR画像におけるjoint effusion (以下effusion) と臨床症状との関連, 特に経時的変化について検討した。対象は1993年10月から96年4月までに撮影したMR画像のうちeffusionを認めた33例で, その臨床診断は顎関節症29例, リウマチ性顎関節炎1例, 陳旧性脱臼1例, synovial osteochondromatosis 1例, 下顎骨周囲炎に後遺する下顎頭萎縮1例であった。男性5例, 女性28例, 年齢は14-65歳, 平均38.9歳であった。effusionは矢状面SE法MR撮像T2画像で上または下関節腔に, 高信号を示し, かつT1画像で低信号を示すものとした。臨床症状, X線写真所見, 円板動態との関連と, このうち16例20関節は2か月から1年9か月後に経時的変化について検討した。その結果, 初回MR所見でeffusionを認めた部位は上関節腔37, 下関節腔2関節で, 溝口らの分類によると帯状17, 太線状7, 線状7, 点状8関節であった。主訴は顎関節部の疼痛が多かった。また復位を伴わない円板前方転位例に多く, 特に帯状の例にその傾向が強かった。開口度は16-54mm, 平均37.3mmであった。X線写真所見で骨変形を認めた例にやや多いが, 約半数の関節では骨構成体に変化はなかった。経時的にはeffusionが消失したもの7関節, 大きさが縮小したもの5関節, 変化のないもの7関節, 性状が変化しているもの1関節であった。この像は下顎頭が, 滑膜表面に大きな応力が加わることによって, 滑膜や関節構成組織より, 組織液や何らかの融解産物が滑液中に浸出した結果と考えられた。
著者
宮岡 等 宮地 英雄
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.191-195, 2014-12-20 (Released:2015-02-20)
参考文献数
8

歯科口腔外科医と連携して診療や研究に当たってきた精神科医の立場から,「精神科医が歯科医に求めるもの」と題して,気になる点を挙げた。1.安易に「精神的なもの」,「ストレス性」,「心身症」などと説明しない,2.他覚所見のない身体愁訴において鑑別すべき疾患は非常に多い,3.基本的な医療面接のルールを守る,4.治療は適切なインフォームドコンセントの下に行う,5.向精神薬は慎重に用いる,6.紹介する精神科医を選ぶ。
著者
大野 健二 住友 伸一郎 毛利 謙三 桑島 広太郎 高井 良招
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.215-217, 2005-12-20 (Released:2010-06-28)
参考文献数
7
被引用文献数
1

陳旧性顎関節脱臼とは関節脱臼後, 整復されず3~4週間放置され, 顎関節に器質的変化が生じ, 整復が困難になる疾患である。患者は26歳の男性。1か月半に及ぶ陳旧性顎関節前方脱臼の整復を求めて紹介来院した。徒手整復のみでの整復は不能であったが, 上関節腔のパンピング療法を施行した後に, 再度ヒポクラテス法を施行することで整復可能であった。
著者
川上 哲司 都築 正史 藤田 宏人 高山 賢一 大河内 則昌 馬場 雅渡 杉村 正仁
出版者
The Japanese Society for Temporomandibular Joint
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.554-561, 1997

上関節腔への顎関節鏡視下剥離授動術の臨床的評価を行った。手術に際して, 生体に侵襲性の少ないホルミウム・ヤグ (Holmium: YAG) レーザーを応用した。対象症例は, 保存療法に抵抗性の慢性クローズドロック症例または有痛性間欠的クローズドロック症例32症例・37関節に施行した。剥離授動・前外側関節包靱帯および関節形成に際して, ホルミウム・ヤグ (Holmium: YAG) レーザー (コヒーレント社製バーサパルス・セレクト22) およびパワーシェーバー (ストライカー社製マイクロデブリッダー・スモールジョイント・アースロプラスティーシステム) を使用した。これらに加え, われわれが考案した顎関節洗浄システムを併用し, より効果的で, 洗浄効果が増強された。すべての症例において, 最大開口度は, 40mm以上, 前方・側方運動量は, 10mm以上となり, 外科療法後の奏功率は, 96.9%であった。咀噛感も改善され, 術後の合併症もなかった。
著者
細木 真紀 西川 啓介 前田 直樹 細木 秀彦 松香 芳三
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.261-265, 2018-12-20 (Released:2019-02-04)
参考文献数
6

患者は68歳の女性であり,初診約10年前に自律神経失調症の診断を受けた。同時期より頸部の違和感のために週2回程度,カイロプラクティックで施術を受けていた。4~5年前から嚙みにくさを自覚し,右側で嚙めなくなったため,2013年に開業歯科医で下顎右側臼歯部に暫間被覆冠が装着された。経過観察されていたが,右側臼歯部の離開が進むため,2015年に徳島大学病院に紹介された。臨床所見としては,左側顎関節雑音を認め,開口制限や頭頸部の圧痛は認めなかった。パノラマエックス線写真では,両側下顎頭の吸収と下顎枝の短縮を認め,CT画像では両側下顎頭と下顎窩の著しい形態異常を認めた。かかりつけ内科の検査ではリウマトイド因子は陰性で,本院整形外科においても軽度頸椎症の診断であった。両側変形性顎関節症と診断し,スタビライゼーション型スプリントを装着し,経過観察後,歯冠修復を行った。本症例ではスプリントを用いた咬合接触の安定化と段階的な補綴治療が咬合状態の改善に効果的であった。
著者
小林 大輔 清水 博之 杉崎 正志 重松 司朗
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.232-239, 2016-12-20 (Released:2017-02-13)
参考文献数
23

顎関節症発症に関与する因子は多因子性であり睡眠障害もその一因とされているが,その因果関係についての研究は少なく十分に解明されていない点も多い。顎関節症患者,特に咀嚼筋痛障害を有する患者に対し睡眠障害との関連性について質問票を用いて検討を行った。対象は,2015年4月1日より2016年3月31日までに当科を受診した,咀嚼筋痛障害を有する顎関節症女性患者40名とし,顎関節症症状のない女性30名を対照群とした。睡眠障害に関してはピッツバーグ睡眠質問票日本語版(以下PSQI-J)を用いて評価した。患者群に対する調査項目は咬筋部圧痛,開口時咬筋部痛,無痛自力最大開口量,日常生活支障度とした。2群を比較した結果,PSQI-Jスコアは有意に患者群のほうが高かった。またPSQI-Jの各項目と各症状との関連を調べた結果では,<睡眠の質>では咬筋部圧痛(p=0.036),<入眠時間>では咬筋部圧痛(p=0.009),<睡眠時間>では日常生活支障度(p=0.021),<眠剤の使用>では開口時咬筋部痛(p=0.026),および咬筋部圧痛(p=0.024)が有意な関連を認めた。また患者群におけるPSQI-J合計スコアと咬筋部圧痛に有意な関連を認めた(p=0.003)。睡眠障害が顎関節症,特に咀嚼筋痛障害の発症に関連をもつことが改めて示唆された。
著者
井川 雅子
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.44-50, 2018-04-20 (Released:2018-05-14)
参考文献数
17

2014年に発表されたDiagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)には「顎関節症による頭痛」が含まれており,顎関節症専門医が本頭痛の診断と治療をすることが期待されている。しかしながら,実際に診断を行おうとした場合,頭痛の非専門医である歯科医師にとって最も困難な作業は,診断決定樹や診断基準の最後に記されている,他の頭痛との鑑別であろう。顎関節症による頭痛と鑑別が必要な頭痛は多数あるが,本稿では,歯科医師の盲点となりやすい「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:Medication-overuse headache:MOH)」について解説する。MOHは片頭痛あるいは緊張型頭痛を基礎疾患に有する,いわゆる「頭痛もち」の人が,急性期頭痛薬(鎮痛薬など)を頻回に服用することにより,慢性的に頭痛を呈するようになった状態である。頭痛は明け方,起き抜け時から生じ,締めつけられるような痛みや頭重感が毎日続き,顔面に痛みが拡大した場合は筋性の顎関節症,すなわち「顎関節症による頭痛」のようにみえることがある。薬に耐性が生じるため,原因薬物である鎮痛薬を服用しても頭痛は改善しない。3か月を超えて月15日以上頭痛がある人々の約半数はMOHであるため,該当する場合は鎮痛薬の使用状況を詳細に問診する必要がある。起因薬剤として,最も多いのは市販の鎮痛薬であり,次いで医療機関で処方される非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)が多い。治療は,①原因薬物の中止,②薬剤投与中止後に生じる反跳頭痛に対する治療,③頭痛の予防薬投与の3点が中心となる。「顎関節症による頭痛」にMOHが併存する場合は,本疾患の経験が豊富な頭痛専門医と連携して治療を行う必要がある。
著者
村上 拓也 越沼 伸也 肥後 智樹 山本 学
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.87-91, 2013 (Released:2013-10-15)
参考文献数
9

下顎骨関節突起骨折において,コントラアングルドライバーを用いた口内法による観血的整復固定術を施行した1例を報告した。顎顔面領域における骨折のなかでは下顎骨骨折が最も多くみられる。観血的整復固定術を行うには,口外法と口内法があるが,口外法は,顔面神経麻痺や皮膚瘢痕などのリスクがある。一方,口内法は皮膚切開,皮弁挙上の必要がなく,顔面神経麻痺や皮膚瘢痕が生じない。術野の明示は口外法に比較するとやや困難となるが,侵襲を最小限に抑えることが可能であり,今回の症例においては術後の機能障害もなく良好な結果となった。以上のことから,骨折部位が関節突起基底部より低位である症例では,コントラアングルドライバーを用いた口内法による観血的整復固定術は有用な方法であると考えられた。
著者
瀬上 夏樹
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.14-21, 2016-04-20 (Released:2016-05-23)
参考文献数
13

顎関節脱臼は,高齢認知症患者で激増し社会問題化しつつある。一方で本症に対する外科療法は枚挙に暇がなく,一定の適応基準も策定されていない。そこで以下の問題提起と外科療法の適応フローチャートを提唱するために,自験的,文献的検討を行った。まず,本邦では顎関節脱臼に対して外科療法を含む総括的診療の専門施設がほとんどなく,患者がある意味で難民化していることである。これを早急に解決すべく学会主導による病院間の連携システムを構築することを提案する。次に,これまで行われてきた手術法は,大別して運動平滑化法と運動抑制法であり,前者は関節結節削除術(Eminectomy)で,後者はLeClerc氏手術,捕縛拘束術である。当科で過去20年間に手術を施行した77例のうち,関節鏡視下結節形成術16例を除く61例で奏効率は87%であった。8例の再発例はすべてEminectomy単独施行例で,円板切除あるいは高位下顎頭切除を加えた群では再発はなかった。陳旧性,習慣性の両群でも差はなかった。また鎮静局麻下で施行可能な直達アプローチの成績も良好であった。周術期偶発症は術中17%,術後20%と高かった。以上の経験ならびに文献的考察より,顎関節脱臼患者に対する診断・外科療法チャートを提唱した。まず,基礎的全身疾患,認知症の有無の診査と専門医への対診を行う。またジストニアの合併や可能性の評価からEminectomyあるいはLeClerc氏手術の判断を行い,次にpneumatizationなど局所状況を評価して各手術の適応判断を行うことで良好な外科療法の適応が遂行できると考えられた。当然,高齢ハイリスク患者の手術であるから,致命的なものを含めた合併症への対策と説明は必須となる。
著者
大西 正俊 大月 佳代子 松本 有史 若尾 徳男 笠井 隆司
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.62-77, 1993

下顎骨関節突起骨折の治療法としては, 従来より, 保存療法あるいは, 皮膚切開による観血的整復術が行われている。その治療法の選択は, 骨折様式, 年齢などの条件により決定されるが, 顎関節周囲の解剖学的, 機能的な複雑さ, そして観血整復時の皮膚切開とその瘢痕の残存, 耳下腺, 顔面神経損傷の危険性などのわずらわしさから, 従来より保存療法が選択されることが多い。しかし骨折治療の原則は解剖学的位置への骨片の整復と固定であり, 必要な症例については外科療法を行うべきであるとの立場から, 我々はよりよい方法として, 口内法によるアプローチでの下顎骨関節突起骨折の観血的整復術を検討してきた。<br>術式は口腔内, 下顎枝前縁部の粘膜切開から, 下顎枝内側面を関節突起部まで剥離し, 明視下で骨折部を整復するものである。同部の固定はチタン製ミニプレートでの固定かあるいは我々の考案したメタルバンドにより関節突起から筋突起までをはちまき状に包み込んで行った。考案したメタルバンドは純チタン製で, 巾6-8mm, 厚さ0.3mmの板状であり厚紙様の容易な操作が得られた。本法の利点として皮膚切開が不要な葦め, 皮膚瘢痕が残らない, 関節突起基部への下方向からのアプローチによる処置であり関節構造への侵襲が少ない, そして耳下腺, 顔面神経損傷の危険性が少ないなどである。
著者
兒玉 直紀 築山 能大 有馬 太郎 市川 哲雄 窪木 拓男 佐久間 重光 新谷 明喜 高津 匡樹 津賀 一弘 坪井 明人 中野 雅徳 成田 紀之 波多野 泰夫 藤澤 政紀 船登 雅彦 鱒見 進一 松香 芳三 皆木 省吾
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.222-227, 2009 (Released:2012-03-29)
参考文献数
8

目的:顎関節症患者に対する受診ごとの診療時間に関する報告はない。今回,大学病院顎関節症外来ならびに一般開業歯科医院を対象に顎関節症のスプリント治療に要する時間について調査を行い,その特性を明らかにすることを目的とした。 方法:大学病院顎関節症外来14施設および一般開業歯科医院33施設にて2か月間の調査を行った。スプリント治療を選択された顎関節症患者を対象に,スプリントの種類,各診療内容および要した時間を調査項目として施設間で比較検討した。 結果:1回当たりの診療時間に関して,大学病院顎関節症外来受診患者(以下,大学群と略す)のほうが一般開業歯科医院受診患者(以下,開業医群と略す)に比べて有意に長かった。また,初診時の診療時間についても大学群のほうが開業医群に比べて長い時間を要した。しかし,スプリント装着および調整に要する時間について有意差は認められなかった。 結論:顎関節症患者の1回当たりの診療に要する時間は両施設ともに比較的長時間であることがわかった。スプリント装着に30分以上要する割合は大学群においては44%であり,開業医群においては22%であった。スプリント調整に20分以上要する割合は,大学群においては48%であり,開業医群においては33%であった。
著者
山口 賀大 佐久間 重光 遠渡 将輝 坂口 晃平 田口 慧 小林 里奈 足立 充 伊藤 裕 田口 望 日比 英晴
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.126-134, 2016-08-20 (Released:2016-10-14)
参考文献数
34

運動療法は,施術直後より関節可動域を増大し,疼痛を早期に軽減させ病悩期間を短縮するものの,その効果について定量的な評価を行った研究は少ない。本研究では,術者が行う顎関節可動化療法と患者が行う自己牽引療法を1つの運動療法プログラムとして捉え,非復位性関節円板前方転位症例に実施した際の短期的治療効果を検討した。顎関節機能に中等度以上の障害が認められた45例を対象として運動療法を施行し,初診時とその約2週間後の初回再来時における臨床症状(最大開口域,安静時痛,開閉口時痛,咀嚼時痛および日常生活支障度)について評価した。その結果,最大開口域,開閉口時痛,咀嚼時痛および日常生活支障度において有意な改善を認めた(p<0.001)。これら症状の改善は,運動療法により関節可動域が改善され,関節腔が拡大されることで下顎頭の動きが改善したものと考える。したがって,本運動療法プログラムは,非復位性関節円板前方転位に伴う諸症状を短期間に軽減させる有効な保存療法になる可能性が示唆された。
著者
武田 友孝 石上 惠一 青野 晃 高橋 伸尚 星野 浩之 高山 和比古 宮田 正則 月村 直樹 佐藤 武司 島田 淳 早川 譲吉 大木 一三
出版者
一般社団法人 日本顎関節学会
雑誌
日本顎関節学会雑誌 (ISSN:09153004)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.254-267, 1991-11-25 (Released:2010-08-06)
参考文献数
35

顎関節は, 蝸牛, 耳小骨などの聴生感覚器および聴覚伝導路と発生学的, 解剖学的および神経生理学的に関連が深く, 顎関節症など咀嚼系の異常が聴覚系に多大な影響を及ぼしていることが推察される。そこで, 当教室で行っている顎口腔系状態と全身状態との関連に関する研究の一つとして, 外耳への音刺激により, 早期に上行性聴覚路より誘発される活動電位で, その起源が明瞭なところから, 異常の局在診断に有用とされ, 神経学的検査などに用いられている聴性脳幹反応に注目し, 本研究に応用している。今回, 著者らが, 顎関節症患者と健常者の聴性脳幹反応について, 比較検討を行ったところ, 聴関節症患者では, 健常者に比ベピーク潜時の延長およびピーク潜時の左右差が認められた。従って, 顎関節症患者は, 顎口腔系のみならず, 聴覚系および脳幹などにも影響を及ぼしている可能性が大であり, 今後さらに, これらについて詳細に究明していくとともに, 顎関節症の診査, 診断および治療にあたって, これらの領域との関連にも十分な注意を払うことが必要と考えられる。また, 顎口腔系機能の障害と全身機能との関係について, 多方面から検討を加えていくことも必要であると思われる。