著者
野島 真美 岡本 博照 神山 麻由子 和田 貴子 角田 透
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.13-23, 2013 (Released:2013-04-25)
参考文献数
24
被引用文献数
4

平成23年3月11日に発生した東日本大震災の被災地に派遣された消防官の惨事ストレスとメンタルヘルスを把握する目的で,平成23年8月,他県から派遣された消防官178人に対して出来事インパクト尺度改訂版(IES- R)などを使用して調査した。有効回答者は126人,全員男性で,平均年齢は40.9歳(22~58歳),被災者の救援活動任務が85人,派遣職員の後方支援任務は41人であった。派遣回数は平均1.6回(1~6回)であった。IES-R得点の平均は4.0±4.9点(0~21点)で,心的外傷後ストレス障害(PTSD)の危険性が指摘される25点以上の職員の存在は認めなかった。その理由として,被災地外である居住地に帰還して惨事ストレス曝露の機会が無くなった可能性が考えられた。IES-R 得点に対する惨事ストレス要因ごとでの比較検討した結果,派遣消防官のメンタルヘルスの危険因子として「派遣回数の多さ」,「災害発生当日の派遣」,「救援活動任務」のほか,新たに「被害甚大な被災地での滞在」が示唆された。
著者
渡辺 熙 岡田 純一郎 竹内 一夫 豊田 博
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-31, 1980

1953年にLichtensteinがeosinophilic granuloma, Hand-Schuller-Christian病Letterer-Siwe病の3疾患を包括して, Histiocytosis Xなる語を提唱した事は周知の事実である。今回, 我々は9才女児の後頭頭頂部の軽度圧痛を初発症状として発症した頭蓋骨の単発性eosinophilic granulomaを経験した。そこでこの症例の臨床経過を述べ, 更に若干の文献的考察を加える。
著者
下島 裕美 三浦 雅文 門馬 博 齋藤 昭彦 蒲生 忍
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.3-10, 2015 (Released:2015-03-30)
参考文献数
22

医療チームは,医師,看護師,臨床検査技師,理学療法士,作業療法士,臨床工学士,放射線技師,薬剤師,介護士,社会福祉士など多様な職種から構成される。更には患者とその家族もまた自身の治療プロセスの決定に参加する権利を持っている。多様な価値観をもった人々が一つのチームとして一人の患者の治療にあたるためには,自分の視点と他者の視点の共通点・相違点を認識した上で,患者にとって最善の意思決定を俯瞰的な視点で追及する姿勢が必要であろう。この俯瞰的な視点の教育には,心理学におけるメタ認知と呼ばれる概念が有効であると考えられる。そこで本論文では,医療倫理における意思決定を促進する方法である4ボックス法(4 box method, 四分割法)をメタ認知という視点から考察する。個人レベルと集団レベルにおけるメタ認知教育の効果と,熟達化におけるメタ認知教育の効果を提案する。
著者
堀口 幸太郎 舘野 こずえ 長谷川 瑠美 瀧上 周 大迫 俊二
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.137-143, 2014 (Released:2014-12-26)
参考文献数
30

下垂体前葉はホルモンを産生し,成長・生殖・代謝・行動などを含めた生体維持に関わる重要な内分泌器官である。前葉組織は5種類のホルモン産生細胞とホルモンを産生しないS100βタンパクをマーカーとするS100βタンパク陽性細胞(S100β+細胞),毛細血管を構成する内皮細胞および周皮細胞で構成される。この中でS100β+細胞は,突起状の細胞質を伸ばして互いに接着し偽濾胞を形成するなどの形態的特徴から濾胞星状細胞とも呼ばれる。機能的には組織幹細胞,樹状細胞,支持細胞,アストロサイト様の機能などが想定されているものの,不均一性(heterogeneity)を示し多様性が高いため機能はおろか発生起源など不明な点が多い。そのためS100β+細胞の機能を明らかにするには,サブタイプごとに細胞を分離し解析していくことが必要となる。本総説では樹状細胞様のS100β+細胞を単離する我々の新たな方法と,単離した細胞の機能解析についてこれまで明らかにした点を述べる。
著者
太田 ひろみ
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.101-104, 2014 (Released:2014-09-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

都市部の合計特殊出生率は全国平均より低く,特に東京都は全国でも最低の数値にとどまっている。都市部の出生率が低いことの背景には,現代の子育てをめぐる特徴的な課題が存在することが考えられる。都市部の子育てをめぐる課題として1.家族形態の変化,2.地域のつながりの希薄化,3.女性の社会参加などの要因が存在する。大学が行う子育て支援活動として,地域のニーズに応じた大学だからこそ可能な独自性のある支援を行うことが期待されている。大学が有する物的・人的資源を開放し提供することや,地域住民や当事者を含む地域資源との協働や連携のシステムを構築することなどが子育て支援活動として可能であろう。
著者
甲能 直幸
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.85-91, 2014 (Released:2014-09-30)
著者
太田 信夫 加藤 正 向後 博 布田 由之 望月 一男 永田 善郎 河路 渡
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.183-188, 1976

日常診療において, 腰痛患者に接することは多く, 腰椎レントゲン上, 移行椎を見る事もまた多い。古くより両者の因果関係が多く論じられて来ているが, 今回少数ではあるが, 腰痛者, 非腰痛者の腰椎レントゲン写真を比較検討し, 腰痛と移行椎がはたして, かかわりあいを持つものかどうか改めて統計的考察を試てみたいと思う。
著者
平野 浩一
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.53-60, 2017 (Released:2017-03-31)
参考文献数
5

甲状腺・副甲状腺の画像診断では超音波検査は第一選択である。本検査は対象をリアルタイムに連続して観察出来る非常に優れた検査法である。ただし,検査には限界も当然存在する。それを理解した上で,種々の病変の超音波像を習得し,臨床に役立てることが,甲状腺・副甲状腺外科では非常に重要である。
著者
佐藤 泰司 東 昇吾 竹内 隆治 川島 帝都夫 高藤 豊治 戸澤 孝夫 池谷 知格
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.161-169, 1986-06-30 (Released:2017-02-13)

副第5指屈筋はヒトの足底で観察出来る小型の破格筋で, 本筋の起源については古くから多くの論説のある興味深い筋である。著者らは日本人成人遺体10体(男6体, 女4体)を検索し, 4体・6体側例の副第5指屈筋を認めた。体側別出現頻度は両側2体, 左側1体および右側1体で, 性別出現頻度は男3体, 女1体であった。また, 1例は副第5指屈筋, 副第4指屈筋および副第3指屈筋の共存する非常に稀な破格であった。破格筋の支配神経については1例のみ外側足底神経の筋枝を確認することが出来た。
著者
橋本 直也 山下 晃司 首藤 淳 中西 章仁
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.147-152, 2021-09-29 (Released:2021-09-29)
参考文献数
5

X線撮影は,胸腹部及び椎体部や四肢部などあらゆる部位に対して撮影を行うことが出来る。また,形態的な異常を発見し,初期診断や定期的な経過観察に用いられている。今回新しく開発されたデジタルX線動画撮影システム(動態撮影装置)は,連続するパルス状のX線をある一定時間(~20秒間)照射することにより連続したX線画像(X線動画像)を比較的低線量(約1.5mGy)で撮影ができる。従来のX線撮影同様に低侵襲・低被ばくで,簡便にX線動画像を撮影することが可能である。更に,X線動画像専用の動画解析ワークステーションに搭載された胸部動態解析アプリケーションを用いることで肺換気や肺血流を反映する画像を作成することが可能であり,形態情報のみだけではなく肺機能の可視化も可能となっている1)。 当院では,2020年5月に動態撮影装置が導入され主に胸部を対象として撮影を行っている。 本稿では,動態撮影装置の機能を紹介し,専用ワークステーションの特徴や臨床の取り組みについて述べる。
著者
長瀬 美樹
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.147-152, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
6

杏林大学医学部肉眼解剖学教室は,良医の育成に役立つ解剖学教育を目指している。解剖学実習では,本学で開発した,ホルマリン・フリーで組織や関節の柔軟性が保たれるピロリドン固定法を用いて,「臨床手技を体験しつつ当該部位の構造を学ぶ」という新しいスタイルの解剖学特別実習の実現に向けて検討を重ねてきた。そして2022年度,麻酔科学教室と連携して解剖学実習にご遺体を用いた気管挿管ハンズオンセミナーを導入し,気管挿管手技を全学生に体験してもらうと同時に,口腔側からみた喉頭の構造を理解してもらうことができた。また,医学部と保健学部のコラボレーションにより解剖体のオートプシーイメージングに着手し,解剖学実習に全身CT・脳MRI画像を取り入れる「解剖学実習と医用画像読影の統合的教育」を開始した。この取り組みにより,人体構造の三次元的理解が深まり,CTとMRIの正常画像を系統的に学ぶ機会が得られ,学習意欲の向上につながっているようである。今後,医用画像読影能力の高い学生・医師の育成に役立つことを期待している。いずれも先進的な取り組みであり,今後改良を重ね,よりよい解剖学教育を実践していきたい。
著者
新井 治美
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.303-313, 1983-09-30 (Released:2017-02-13)

35例の病的宗教体験を示した症例を通じて, 精神病理現象としての宗教体験の現代日本における物質について研究を行なった。対象となった患者は杏林大学精神神経科および他の3つの病院に入院または外来通院したものである。その結果, 現代日本における特徴である宗教の多様性と新宗教の抬頭という現象が対象例に反映されていた。また診断名に関しては精神分裂症32例, 心因反応2例, 非定型精神病1例であり, 男女比は男11例, 女24例であった。状態像についてみると錯乱と憑依を呈した症例が多数を占めたが, そのうち憑依現象は12例と多く, わが国における病的宗教体験のひとつの特徴と考えられた。また現代日本において病的宗教体験が出現する際にはその民族の心性に結びつくような基本的な内容が露出する可能性が強いと考えられた。
著者
三栗谷 久敏
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.459-474, 1997-12-31 (Released:2017-02-13)
参考文献数
40
被引用文献数
1

黄色ブドウ球菌エンテロトキシン(エンテロトキシン)の催吐作用について,食虫目のスンクス(Suncus murinus)を用いて検討した。スンクスはエンテロトキシン,特にエンテロトキシンA(SEA)の腹腔内投与に対して感受性が高く,低濃度で再現性のある嘔吐作用を示した。SEAによる嘔吐のED_<100>は雄スンクス10μg/kg体重,雌スンクス22.5μg/kg体重であった。スンクスのSEAによる嘔吐は,腹腔内の迷走神経切断(Vagotomy)により阻止され,セロトニン5-HT_3阻害薬によって用量依存性に抑制された。さらに,セロトニン枯渇薬の投与によっても嘔吐は阻止された。これらのことから,スンクスのSEAによる嘔吐は,腸管に多く存在する腸クロム親和性細胞から放出されたセロトニンが,腹部迷走神経末端にあるセロトニン5-HT_3受容体を活性化し,その刺激が嘔吐中枢に伝達され,惹起されると考えられた。スンクスにおけるSEAによる嘔吐の誘発に,免疫系の関与は明らかでなかった。
著者
西山 耕一郎
出版者
The Kyorin Medical Society
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.75-81, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
21

我国は高齢者嚥下障害例が急増している。誤嚥(嚥下)性肺炎の原因は,食物誤嚥,唾液誤嚥,胃食道逆流誤嚥がある。食物を誤嚥すると気道で炎症が起きて,びまん性嚥下性細気管支炎を発症し,さらに進行すると誤嚥性肺炎を発症する。嚥下障害の主因は咽頭期であり,口腔ケアとアイスマッサージだけでは嚥下機能の改善は期待出来ず,咽頭期の訓練や呼吸機能訓練が推奨されている。具体的には,喉頭挙上訓練として,嚥下おでこ体操,顎持ち上げ体操,発声訓練として音読やカラオケ,呼吸機能訓練として,口すぼめ呼吸などである。また高齢者の誤嚥性肺炎は,治らないから治療しないという意見もあるが,嚥下機能障害の病態や重症度を正しく評価し,嚥下機能に対応した食事形態や栄養管理を指導し,かつ嚥下自主訓練を毎日行うことで,誤嚥性肺炎による入院を減らし,医療費の削減を期待できる点に注目したい。
著者
山下 真理子 田中 伸一郎 大瀧 純一 古賀 良彦
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.15-25, 2016 (Released:2016-03-31)
参考文献数
41

本研究は,外来受診中のうつ病患者を「職場関連群」と「非職場関連群」に分類し,精神状態と性格要因・環境要因との関連を検討することを目的とした。A大学病院精神科外来を受診したうつ病患者にHAM-D評価面接とY-G性格検査,診療録より背景調査を実施した。結果,HAM-D得点は,「職場関連群」1点から28点(mean±SD 13.5±6.6点),「非職場関連群」3点から29点(mean±SD 15.4±9.8点)。Y-G性格検査は,「職場関連群」でA型5名(38.5%),E型4名(30.8%),D型2名(15.4%),B型1名(7.7%),C型1名(7.7%)。またHAM-D得点とD抑うつ性,I劣等感に正の相関が見られた。 「職場関連性」のうつ病ではA型とE型が多く見られ,それぞれの環境への適応性を考慮すると,A 型は従来の休息と薬物療法を主とした介入で改善することが見込まれるが,元々不適応を起こしやすいE型は,劣等感を和らげるようなアプローチを含む認知行動療法等を積極的に行う必要性が高いと考えられた。
著者
阪井 哲男 橋本 佳美
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.591-596, 2000-12-31 (Released:2017-02-13)
参考文献数
23

発熱を主訴に一般外来や救急外来を受診する小児は依然として多く,発熱のみでも,救急車で来院するケースさえいまだに存在する。今回,小児の発熱についての理解の程度を調査することを目的とし,両親,看護学生に対して,アンケート調査を行った。ほとんどの場合, 「高熱」ではない体温でも心配し,発熱自体が中枢神経障害の原因となると考え,不必要に解熱剤の投与,冷却を行っていた。両親は発熱に対する知識を医療従事者から,学生は両親より得ていることが多かった。学生に関して,正常の体温,発熱のメカニズムに関して,ほとんど正しい知識を持っていなかった。両親の発熱に関する考えは間違っているが,この点で正しい知識を与えていない小児科医を初めとする医療者側にも責任の一端がある。発熱に対する正しい概念を, 4ヶ月時と18ヶ月時の乳児健診で説明するなどの啓蒙活動が必要である。また,日常の診療の場で,医療従事者は,「熱」に対する過剰な反応をせず,熱よりも他の症状がより重要であることを説明することが必要である。
著者
稲垣 伸介
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.73-82, 1994-03-31 (Released:2017-02-13)

われわれは,三次元再構築法を用い,back to backの頻度や血管と腺管の関係について形態学的分析を試みた。この研究に用いた検体の組織学的診断は,正常増殖期内膜10例,腺腫性増殖症14例,異型増殖症3例,高分化型腺癌10例である。1つの腺管に4個以上の腺管がback to backで接合した所見は高分化型腺癌以外に認められなかった。弱拡大1視野中の血管数は,腺腫性増殖症で39.9,異型増殖症で46.3,高分化型腺癌で12.7であったが,腺管と結合した血管数は増殖症に比べ高分化型腺癌で増加した。血管に2個以上の腺管が接合した所見は高分化型腺癌以外に認められなかった。三次元再構築において,腺管の歪みは増殖症に比べ高分化型腺癌で増大し,血管が多数の腺管に包囲される所見は高分化型腺癌以外に認められなかった。以上の結果より,細胞診において血管と上皮集塊が接合した所見は高分化型腺癌の鑑別に重要であることが確認された。