著者
石野 貴久 寺田 珠実 鮫島 正浩 鴨田 重裕
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.45-58, 2012-02-25

イチイ属樹木特有の抽出成分として知られるタキソールは,幅広い癌に効果のある強力な抗癌剤であるが,供給不足のため依然として高価な薬剤である。この供給不足解消の新たな手段として,内生菌の利用に着目した。イチイに加え,同じイチイ科であるカヤの内生菌の単離同定を行い,そのタキソール生産可能性についてタキソール生成酵素遺伝子の有無という観点から検討を行った。まず,イチイからは一Phomopsis属を中心に10種類の菌が,カヤはXylaria属を中心に11種類の菌が単離された。次に,既知のタキソール生合成関連酵素の内,特に利用性の高いTXS(taxadienesynthase), BAPT(3-amino-3-phenylpropanoyl-13-O-transeferase),TαH(taxadiene 13α hydroxylase)という3つの酵素遺伝子の存在可能性を,ドットプロットハイブリダイゼーション法を行うことで調べ,一次スクリーニングとした。その結果,イチイ内生菌[Collelotrichum gloeosporioides],[Paraconiothyrium microdiplodia],カヤ内生菌[Xylariaceae sp, Cordyceps diplerigene],[Sordariomycete]の4菌種において,3種全てのプローブでハイブリダイズした。このうち,カヤ内生菌のCordyceps dipterigeneに注目して,サザンハイブリダイゼーションを行ったところ,上記3種の酵素のプローブでバンドが確認できた。その部分をゲル抽出してテンプレートとし,PCRを行い,塩基配列を読んだところ,上記3つの酵素遺伝子と95%以上の高い相同性を示し,タキソール生成酵素遺伝子を有する微生物を初めて発見することができた。
著者
大宮 直記
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.94, pp.125-176, 1995

本研究は,今後の風景計画の検討に資するために,社会において共有される風景の捉え方の様式の存在を確認し,その近代から現代における変遷を明らかにして,変化の潮流について考察を行った。「序章」においては,背景,目的,対象,方法について述べた。近年まちづくりにおけるアメニティを考えるに際し,市民個々人の思い出や価値観を反映させた「景観づくり」,「風景づくり」の重要性が益々高まってきた。しかし一方で,そのような人それぞれの主観性に基づく風景論的立場では,普遍的結論へと帰納することが難しいともされてきた。しかしながら,デュルケムを中心とする社会学者らにより,個人を越え,集合的に共有される社会的意識である「集合意識」が提唱されており,風景の捉え方においても,そうした社会に共通する部分が存在することが明らかになれば,新しい風景計画に役立つと考え,研究を進めた。
著者
朴 相俊 岩岡 正博 酒井 秀夫 小林 洋司
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.92, pp.p175-197, 1994-12

近年,全国各地で高性能林業機械を導入して新たな林業を展開している。今回はそのなかで地形が急峻な山岳林における間伐材搬出等の集材作業仕組みとして評価が高い,タワーヤーダによる間伐作業における適切な作業システムと適正路網密度について調査し,結果を得た。即ち,間伐では単木材積が大きいほど能率的であり,またクランプ式搬器によって集材作業功程が高くなり,横取り作業の効率も3倍程度向上することが分かった。タワーヤーダによる集材作業システムを前提にした適正路網密度は40m/ha以上の高密度となった。Recentry, high quality forest machines like harvesters, feller-bunchers, processors and mobile tower-yarders have been used in Japanese forest since several years ago in order to improve its difficult forest operational conditions. In this paper we introduce an outline and results of thinning operation systems with a mobile tower-yader and a profitable forestroad density, that were performed in Tokyo University Forest at Chichibu and Chiba. A profitable forest-road density is over 40 m/ha for thinning operation systems with a mobile tower-yarder in study area A, B.
著者
YOKOTA Shun-ichi
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.165-171, 1956

It is natural that butt rot fungi should invade healthy trees through scars on the trunk. Besides, one of the modes of infection and propagation of butt rot was discovered by dissecting in detail decayed butts and roots of Sakhalin fir (Abies sachalinensis MAST.) grown in the natural forest in the Tokyo University Forest, Hokkaido.
著者
奥山 洋一郎
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.151-201, 1999

大学演習林は約130,000haという広大な面積を持つが,その広大な面積の必要性や一部大学への集中に対しては,戦後の演習林水平化運動,共同研究利用林構想という演習林当局の議論や行政監察による勧告でも問題とされてきた。本研究では演習林がこのような大面積を持つに至った経緯を明らかにすることを目的として,戦前期における社会の要請と演習林の対応の経緯について検証を行った。そこから現代につながる課題を考察した。資料としては東大演習林所蔵の各種往復文書,書類綴り,予算関係書類等の資料を用いて実証的に分析した。対象時期は演習林が創設された1894(明治27)年から戦前期までであり,特に1921(大正10)年から1934(昭和9)年までに行われた国有財産整理事業による演習林縮小の議論を中心とした。1921(大正10)年に成立した「国有財産法」により,それまで各省庁が独自に管理を行っていた国有財産について初めて統一的に規定された。同法は,国有財産の内で利用が本来の目的から逸脱したり,意義を失ったものについては処分を行うとした。そして,各省庁国有財産の評価を行う国有財産調査会が設置されて,国有財産整理事業が実施された。同事業は財政一元化を目指す大蔵省と各省庁の既得権益確保のせめぎ合いであり,公用財産として陸軍省演習地に次ぐ大面積であった演習林にも,厳しい縮小要求がなされた。北海道所在国有財産を対象とした「国有財産整理案(第一次)」(1921年11月9日閣議決定)では,東大(約25,000ha),北大(約60,000ha(4カ所))の演習林を一演習林当たり1,000ha程度へと縮小するように要求された。これに対して,東大側は林学に関する教育研究には保続的林業経営が可能な面積が必要であり,東大北海道演習林は北海道内国有林の一施業区と面積がほぼ等しく縮小は不可能と主張した。同様の縮小要求は台湾,樺太演習林にもなされて,その後,国有財産調査会において演習林の帝国大学への集中,所在地域の偏りについて共同利用化の検討や,同時に演習林の名称を変更して経営面に配慮をするべきだとする意見が採択された。東大側は教育研究における演習林の重要性を主張して,演習林の集中,偏りについては学生数や全学の予算規模から考えるなら東大は他大学の2倍の面積を持つ必要があり,演習林の財産価値が高まったのは多年の投資や努力の結果であるとした。このような大学,文部省側の抵抗で演習林の縮小は進行せず,その後,戦争という時局の変化で国有財産整理事業は1936年に打ち切られて,演習林縮小や名称変更は実行されなかった。そして,戦時体制へ移行して,海外占領地への演習林拡大が行われたのである。
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.197-240, 2005

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。
著者
根岸 賢一郎 八木 喜徳郎
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.75, pp.p11-31, 1986-01
被引用文献数
1

アカマツ,スギ,ヒノキの1年生苗を5月16日から9月30日まで,相対日射量100,77,55,39,26,13%のもとで育て,被陰が上長生長,重量生長にあたえる影響をしらべた。被陰がつよくなるほど重量生長は低下するが,その理由についてRGR,NAR,LWRや,光合成生産の面からの検討をこころみた。被陰による重量生長の低下は,地上部より地下部でいちじるしいので,被陰区の苗はT/R率が高い。被陰によってRGRが低下するが,それは主としてNARの低下,すなわち光不足による光合成生産の低下によるものである。相対日射量13%の被陰区での光合成生産の日補償点は,対照区(裸地)の日射量で,アカマツ400,スギ350,ヒノキ330g cal・cm-2・day-1である。処理期間中に日補償点に達しなかった日が,アカマツで61,スギで51,ヒノキで47日間あったと推定される。To study the effects of shading on growth among the different tree species, 1-year-old Pinus densiflora, Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa seedlings were grown under the six different light conditions, 100, 77, 55, 39, 26, and 13% in relative radiation intensity, respectively, for the periods May 16 to September 30, 1962 and 1963. The growth in dry weight decreased with shading, and the RGR, NAR, LWR, and photosynthetic production rate in the shaded plots were compared with those in the open plots. The decrease in dry weight growth with shading was remarkable in the root as compared with in the top, and the top root ratio was higher in the seedlings of the shaded plots. The depression in RGR in the shaded plots was mainly caused by the depression in NAR, that is, by the reduction in photosynthesis rate under the shadings. The daily light compensation points in photosynthetic production in the shading plot of 13% in relative radiation intensity were 400g cal・cm-2・day-1 of radiation intensity in the open in P. densiflora, 350 in Cr. japonica, and 330 in Ch. obtusa, respectively. The days below these compensation points were estimated to amount to 61 days in P. densiflora, 51 days in Cr. japonica, and 47 days in Ch. obtusa during the shading period, respectively.
著者
梶 幹男 沢田 晴雄 斉藤 俊浩 斉藤 登 中山 勇 赤岩 朋敏 伊藤 幸也
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.85, pp.p49-66, 1991-07
被引用文献数
1

1989年2月25日から26日にかけて東京大学秩父演習林栃本作業所管内の森林に大きな雨氷害が発生し,人工造林地での被害は本数18,931本,材積3,711m3,面積は23.6haに及んだ。しかも被害の発生した標高域はほぼ900~1,450mの範囲に限られていた。そこで雨氷現出の原因となったと思われる要因解析を行った。まず滑沢(標高1,150m),突出峠(1,650m)両地点の自記々録を比較した結果,この頃ここに明かな気温の逆転を生じていたことが判明した。しかも同じ時間帯に少し下方の栃本観測所(標高770m)で34.5mmの降雨が記録されていた。従って,雨氷害発生の経過についてこの時のこの雨が冷たい気層の中を落下する間に十分に冷やされて過冷却状態になり,それが枝,葉に当って瞬時に氷結し,着氷量を増加させていった。そしてこの着氷の荷重によって幹や枝が損傷を受け,雨氷後の強風がその被害を一層大きくしたものと推定された。また造林樹種のうち,カラマツが本数,材積ともに最も大きな被害を受け,総被害量の76%を占めた。被害形態を樹冠部の折損,幹の傾斜・湾曲,主幹の折れ,根倒れの四つに区分し,樹種別の被害率を求めた結果,樹冠部の折損はヒノキ,幹の傾斜・湾曲はカラマツ,主幹の折れは二葉松類,根倒れはスギでそれぞれ最も高い値を示した。そこで,カラマツ,スギ,ヒノキのそれぞれについて,雨氷害と地況および林況要因との関係を明かにするため,数量化I類による多変量解析を行った。解析に用いた七つのアイテムのうち,六つには樹種間で一定の傾向は認められなかったが,標高のみで,3樹種とも1,100~1,200mの範囲を中心に高いスコア値が認められた。このことは,今回の雨氷害の中心がこの標高域にあり,そこで着氷量が最も多かったことを示唆するものである。The glaze occurred at various places in Kanto from the 25th. to the 26th. in February, 1989 gave heavy damages to the manmade forests in Tochimoto District of the Tokyo University Forests in Chichibu, totals of 18,931 in the number, of 3,711m3 in the stem volume and of 23.6ha in the area (Table 2, 3). And most of these damages were found in restricted altitude ranges from 900 to 1,450m a.s.l.. For the purpose to search out main factors having caused these glaze damages, various analyses were carried out. The comparison of the temperature records taken from Namesawa (1,150m a.s.l.) and Tsundashitouge (1,650m a.s.l.) during the period concerned obviously clarified that the invasion of temperature occurred between these two altitudes (Fig.1). On the other hand, the rainfall of 34.5mm was recorded at Tochimoto observatory (770m a.s.l.) during the same period (Fig.3). It can be supposed from these two facts that the rain water was cooled to the over-cooled condition fallen passing through cold atmospheric layer below, and consequently it was frozen and turned to ice as soon as it dropped on branches and leaves, and fixed and accumulated on them. Therefore, stems and branches were broken by the heavy load of ice, and furthermore the damages were enlarged by strong wind blown after the glaze (Table 1). Among the manmade forests of different species, stands of Japanese larch (Larix kaempferi) were nost severely damaged showing 76 per cent of the total damage both in the number and the stem volume. Having classified the damages of stand trees into four types, i.e., crown breakage, stem leaning, stem breakage and up rooting and surveyed the degrees of damage of every tree species, it was known that the percentage of crown breakage was the highest in the stands of hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa), that of stem leaning in Japanese larch, that of stem breakage in the species of hard pines, and that of up rooting in cryptomeria (Cryptomeria japonica), respectively. For the purpose of analysis of causal relations between the degree of glaze damage and the factors of topographical and or stand conditions, several stands of Japanese larch, cryptomeria and hinoki cypress were subjected to quantification analysis Quant-1, for which five items for topographical factors and two items for stand conditions were selected (Table 6-8). Among the seven items, six did not present any obvious relation among the stands. But a category of 1,100-1,200m in the item of altitude alone was significantly related to the occurrence of glaze damage in the stands of every species. This fact suggests that the amount of ice deposition was the largest in this range of altitude which caused heavy damages.
著者
鈴木 和夫 福田 健二 梶 幹男 紙谷 智彦
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.80, pp.p1-23, 1988-12
被引用文献数
6

漏脂病はヒノキやヒノキアスナロ(アテ)の生立木樹幹から樹脂が異常に流出する現象であって,大正初期から林業上問題とされてきた。本病の病因については,いままでに雪圧説,害虫説,病原菌説などがあって,充分に納得できる説明が得られていなかった。ヒノキやヒノキアスナロの漏脂病の発生実態について詳細に調査した結果,漏脂病の病徴には,初期病徴として樹脂流出型,初期病徴の癒合・進展した型として漏脂型,さらにこれらの病患部に菌類が関与した溝腐型があり,この3つが漏脂病の典型的な病徴と考えられた。このような病徴を示す病患部は,地上1~2mの高さに最も多くみられた。このような病患部の樹幹上における発生状況は,積雪深と関係が深く,経時的に推移するものと考えられた。漏脂病の発生誘因について検討した結果,漏脂病は雪や寒さといった気象的因子を誘因として,内樹皮に傷害樹脂道を異常形成させて,樹脂流出型の初期病徴が形成されるものと考えられた。ヒノキやヒノキアスナロ生立木が,このような環境ストレスを引き続いて被るか,あるいは初期病徴が癒合・拡大して漏脂型へと進展し,また,凍裂などの物理的損傷部位や漏脂型病徴を呈する部位に菌類が関与すると,溝腐型病徴へ移行するものと考えられた。そして,このようなヒノキやヒノキアスナロ生立木からは,樹脂が異常に流下し続けるものと考えられた。The "Rooshi" pitch canker of Hinoki (Chamaecyparis obtusa) and Ate (Thujopsis dolabrata var. Hondai) is frequently observed in heavy snowfall regions as well as the northern part of Japan. Reforestation with Hinoki has become so widespread that the pitch canker is becoming one of the most serious disease. Empirically, the "Rooshi" pitch canker of Hinoki is supposed to be one of the restriction factors on natural distribution of Hinoki forest in Japan. However, there are few scientific papers on the disease. The cause of the disease has not been explained enough. From our survey, the "Rooshi" pitch canker is considered to be a disease complex rather than a discrete canker disease. The classic symptoms of the disease are classified into three types, that is, a bleeding type, a resinous sink type, and a grooved pitch canker type on the trunk of living tree. In this study, we discussed on the mechanisms of the development of "Rooshi" pitch canker. A bleeding type is supposed to be an incipient stage of "Rooshi" pitch canker and caused by abiotic stress factors such as cold and snowfall. This incipient stage of the disease develops to a resinous sink type on the trunk. And, finally, a grooved pitch canker is formed on the trunk accompanying fungi such as Sarea resinae and Pezicula livida (Cryptosporiopsis abietina).
著者
本田 裕子 林 宇一 玖須 博一 前田 剛 佐々木 真二郎
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.122, pp.41-64, 2010-03-25

ツシマヤマネコは,長崎県対馬市にのみ生息し,野生復帰の将来的な実施が検討されている。ツシマヤマネコ及び野生復帰計画を含めツシマヤマネコの保護を住民がどのように捉えているのか,本研究ではその住民意識を探る。本研究は検討段階を対象としており,野生復帰直前・直後を対象としていた先行研究に対して新規性がある。方法は,長崎県対馬市全域住民のうちの20歳以上79歳以下の男女1000人を対象とし,住民基本台帳使用による無作為抽出郵送方式を採用,回収率は48.8%であった。住民によるツシマヤマネコの捉え方は,「対馬にだけ生息する生き物」「対馬を象徴するもの」として,その固有性が評価された。検討されている野生復帰に関しては,実施場所としては検討されている下島が適当とする回答は少なかったが,野生復帰そのものに関しては全体として肯定的に捉えられていた。ツシマヤマネコは,ほとんど目撃されない存在でありながら,主に交通事故対策を中心とした保護活動の展開や新聞テレビ報道によって,「対馬にのみ生息する」や「絶滅のおそれがある」という認識は普及していることが背景にあると考えられる。ただし,生活とは遠い存在であるがゆえに利害関係が想像されにくく,保護活動が肯定的に受け入れられているとも考えられる。
著者
真板 昭夫
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.107, pp.127-223, 2002-06
被引用文献数
1

本研究のねらいは,里地の代表的な生物の生息環境を今後維持していくためにどのような社会運営システムを構築していく必要があるか,を考えることにある。そのために里地の生き物で最も環境変化の影響を受けやすい小水系に生息する淡水魚類であるミヤコタナゴをとりあげ,今日まで生息してきた社会的な要因を明らかにし,そのモデル化の考察を行ったものである。本論文は,序章,終章を含む6章で構成されている。The aim of this study is to examine the type of social management system that needs to be constructed in order to maintain the habitat of one the most representative organisms living in satochi. For this purpose I have selected as an example of such organisms the freshwater fish known as miyako-tanago, which dwell in small water systems easily influenced by changes in the environment. I have attempted to bring to light the social factors under which these fish have lived until the present day, and have considered how to construct a related model.
著者
酒井 秀夫 南方 康 伊藤 幸也 仁多見 俊夫 岩岡 正博
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.78, pp.p1-8, 1988-02

最近になって,わが国でもようやくグラップルクレーンが普及し始めている。グラップルクレーンを中心に木材積込作業について調査した結果,積込作業能率はグラップルクレーンが20.405m3/人時,小型ウィンチクレーンが6.217m3/人時,手積が0.867m3/人時となり,グラップルクレーンが非常に高能率であることが確認された。手積作業では,トラックまでの材の木寄せならびに椪の整理に,積込時間の64%を要していた。小型ウィンチクレーンは林内作業車の付属クレーンではあったが,スリングロープのつけかえが,積込作業の53%を占めていた。積込作業の費用は,試算の結果,人件費がグラップルクレーン83円/m3,小型ウィンチクレーン273円/m3,手積1961円/m3となり,グラップルクレーンのベースマシーン代,クレーン代および燃料油脂費は,高能率のためそれぞれ,40円/m3,21円/m3,6円/m3となり,人件費と合計しても手積作業の僅かに1割である。事業量によっては積込作業で節減できた費用によって,積込作業とつりあいがとれるような他の高度な機械投資を可能ならしめるものである。さらに,グラップルクレーンによれば,単に木材積込費用の低減のみならず,トラック運材の待ち時間を利用して,土場整理や,土場における造材作業補助を高能率に進めることができ,集材工程も円滑ならしめる。作業現場の位置によっては,貯木場までの1日当りのトリップ数を稼ぐことも可能であり,作業システムの総合評価の見地からも,間接的な経費節減は非常に大きい。Recently, hydraulic grapple-cranes have come into use in Japan. The log-loading productivity of our experiments with three methods was 20.405m3/man-hour by hydraulic grapple-crane, 6.217m3/man-hour by small winch-crane, and 0.867m3/man-hour manually, thus recognizing that the hydraulic grapple-crane is the most efficient. Handling logs from decks to the truck and arranging decks required 64% of the manual loading time. Hooking and unhooking sling ropes of a small winch-crane attached to a light forwarder required 53% of loading time. Hydraulic grapple-cranes can eliminate this additional work. Labor cost of loading was 83 yen/m3 by the hydraulic grapple-crane, 273 yen/m3 by the small winch-crane, and 1961 yen/m3 manually. Base-machine cost, crane cost, and fuel and oil cost of the hydraulic grapple-crane were only 40 yen/m3, 21 yen/m3, and 6 yen/m3, respectively, because of the high productivity. The total cost was only 10% of that of manual loading. The lower costs of hydraulic grapple-cranes enable the introduction of other high-performance logging-machines. Additionally, hydraulic grapple-cranes may reduce logging costs indirectly. For example, a hydraulic grapple-crane mounted on a back-hoe not only lowers the loading cost but also is useful for decking logs at the landing, which will bring about smoother logging operations. In some cases, it may enable an increase in the number of trips per day to the market.
著者
友松 昭雄 岡野 健 浅野 猪久夫
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.73, pp.p263-275, 1984-01
被引用文献数
1

A lot of Ezomatsu trees (Picea jezoensis) and Todomatsu trees (Abies sachalinensis) grown in the Hokkaido experimental forest of the University of Tokyo were damaged by the No.15 typhoon in 1981. By the features of the trees in the forest they were classified into three types of damage: a) stem-broken, b) uprooted, and c) survived standing. Twenty-five number of trees of Ezomatsu and Todomatsu, of which diameter were as shown in Table 1, were collected for investigation of wood quality and bending properties. Observation of existence of compression failure, decay, and stain and measurement of bending properties were carried. Results of the observation and the bending tests were discussed in related to the type of damage and summarized as follows. 1. Neither significant difference of specific gravity in air dry nor that of annual ring width was found among stem-broken, uprooted, and survived standing trees. Three fourth of the stem-broken trees of both Ezomatsu and Todomatsu fairly showed decay in the center part of the logs. Consequently the decay will be a cause of stem-broken. 2. Compression failure was observed in the stem-broken trees of three fourth of Ezomatsu, two fourth of Todomatsu, respectively. It was also observed in the uprooted tree of only one fourth Ezomatsu and one fifth of Todomatsu, respectively. But with the case of Todomatsu the failure seemed to be formed by the impact when the tree was uprooted. In the survived standing trees no trace of compression failure was observed. It was observed that compression failures were often around knots and extended tangentially and fairly deeply through radially. 3. No significant difference of bending strength, modulus of elasticity in bending, and absorbed energy in impact bending was observed among the type of damage when test specimens were prepared free from any defects such as compression failure. The values obtained in this research were likely to be identical with those of references, which were absolutely free from any defect or any damage by typhoon. Though little change of modulus of elasticity in bending, compression failure decrease bending strength and absorbed energy in impact bending. Consequently, sawn timber from stem-broken and also uprooted provided with compression failure must not be used as a structural member in construction.
著者
仁王 以智夫 春田 泰次 川上 日出国
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.81, pp.p21-37, 1989-09
被引用文献数
2

スギ落葉の分解過程を,特に初期の微生物,生物活性,および成分の変化を中心に検討した。東京大学愛知演習林内のスギ林の林床に落葉をつめたポットを置き,雨水がポット内を自由に通過できるようにして分解させた。実験開始後,二酸化炭素放出量は急速に高まり,これとともに糸状菌数が増加して56日目(8月9日)に最大値を示した。糸状菌が減少するにつれて一般細菌数が増加し,169日目(11月30日)に最大値に達し,以後減少した。翌年には糸状菌と細菌の顕著な増大はなかった。分解期間を通じてリター中に安定して存在していたマンガン量を基準とし,分解にともなう重量の変化を間接的に求めた。重量は56日目から急速に減少し,冬季の休止期を除いて減少を続けた。重量とC/N比の間には高い相関があった。このようにして求めた重量変化と採取した試料の成分分析結果から,落葉を構成する各成分の分解にともなう量的変化を求めた。アルコール・ベンゼン混液可溶区分は実験開始直後から減少し,これは糸状菌の増殖時期と一致していた。クチン酸およびセルロースは56日以降になって減少した。カルボキシメチルセルロースを基質とするセルラーゼ活性はセルロースの減少,一般細菌数およびセルロース分解菌数の増加の時期と対応していた。窒素固定活性は30日目から56日目にかけて増大し,冬季を除いて翌年秋の504日目(10月31日)まで持続したが,それ以降はほとんど存在しなかった。初年度の窒素固定活性の高まりの時期は一般細菌数および窒素固定細菌数の増加の時期と一致していた。また,窒素の無機化活性および硝化活性は窒素固定活性の存在する期間には検出されず,それ以降(3年目)になって出現した。成分量や活性の変化とこれに関する微生物数の変化とは2年目にはほとんど対応せず,これは分解に関与する生物相の交代を示唆するものと考えられた。走査型電子顕微鏡による観察結果は,分解初期の糸状菌から細菌への変化の少なくとも一部は細菌による糸状菌菌体の成分を利用したものであることを示していた。また,2年目には組織に多くのこまかい穴がみられ,C/N比やセルロースの顕著な減少と合わせて,落葉組織の本格的な分解が進行することを示していた。これらの結果から,スギ落葉の分解過程は少なくとも以下の3段階に分けられることが示された。第1期:最初の約2か月。含水率の増加と有機溶媒可溶物質の顕著な減少,糸状菌の増殖。第2期:それ以降翌年の末まで。C/N比,クチン酸,セルロースの減少など落葉組織の分解,窒素固定活性の出現,および細菌への微生物相の交代。この時期においては後半になって優勢な生物相はさらに変化する可能性がある。第3期:分解3年目以降。窒素の有機化から無機化への転換の期間。Decomposition process of Japanese cedar (Crypotomeria japonica) leaf litter was examined during the initial 504 days with special reference to the changes in biological activities and microflora relating them, and the amount of certain main components of the litter. Immediately after the beginning of the experiment rapid increase of carbon dioxide release and concomitant growth of fungi were observed. After 56 days (Aug. 9) fungi reduced and the number of bacteria began to increase. Bacteria reached maximun at 169th days (Nov. 30). Growth of bacteria was accompanied with nitrogen-fixing and cellulolytic activities. Nitrogen-fixing activities appeared in 30 to 56 days of the decomposition, and continued, except during the winter, until October of the next year. The activity disappeared in the third and following years. Activities for mineralization of nitrogen and subsequent nitrification appeared only at the third year. Weight decrease of the decomposing litter was estimated indirectly by measuring the amount of manganese in the litter, for the amount of manganese flowed into and out of the litter was negligible through out the experimental period. High correlation was present between the weight and C/N ratio of the litter. The weight of the litter began to reduce after 56 days, and except in the winter it decreased continuously during the experiment. By multiplying relative weight of the litter by the amount of each component, quantitative changs in some main components during the decomposition were obtained. Alcohol-benzene-soluble matters decreased soon after the beginning, corresponding to the period of fungal growth. Cutin acids and holo-and α-cellulose decreased after 56 days. Growth of cellulolytic bacteria in the first year coincided with the rise of cellulase activity and the decrease of cellulose, while in the second year the activity did not correlate with the number of the bacteria. Scanning electron microscopic observation indicated that, at the time of fungal decrease in the initial stage, fungal mycelia were covered with bacterial cells, suggesting that at least a part of the growth of bacteria depended on the fungal components. From the results obtained in this experiment, at least three stages of the decomposition were recognized. First stage was characterized by the increase of moisture content, decrease of organic solvent-soluble matter, and growth of fungi. At the second stage fungi were replaced by bacteria. C/N ratio decreased and some main components of the litter, cutin acids and cellulose, decreased and nitrogen-fixing activity appeared. This stage continued until the next year, although microflora dominant in the litter might change. The third stage was the third year and thereafter, which was characterized by mineralization of nitrogen and nitrification. At this stage loss of nitrogen from the litter was suggested to proceed.
著者
久保島 吉貴 大崎 久司 沢田 知世 折口 和宏 吉原 浩 岡野 健
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.103, pp.243-306, 2000-06
被引用文献数
3

東京大学農学部附属千葉演習林牛蒡沢産の86年生のスギの材質試験を行った。結果の概要を以下に示す。1)各物性値の半径方向の変動(髄→樹皮方向)は,多くの場合,以下のa)のような傾向を示した。一部はb)のような傾向であった。a)・髄付近では大体の場合,安定あるいは増大,一部極大値があった。・心材部あるいは心辺材境界部分で極大値が存在した。・辺材部では減少した。b)髄付近から心材部にかけて安定していた。2)本実験に用いられた丸太には直径が約30cmまたは50cmの2種類存在したが,太さによって物性値の半径方向の変動のパターンが変わっているとは言えなかった。3)各物性値と密度ならびに弾性率との相関関係を表2に示す。多くの場合密度や弾性率と相関関係が認められた。Properties of 86-year-old sugi wood (Cryptomeria japonica D. Don) planted at Gobozawa in Tokyo University Forest in Chiba were tested. Five logs were used. The tests and the measured properties were as follows: 1) Soft X-ray measurement: density variation in the radial direction 2) Static bending test: Young's modulus, proportional limit, bending strength, and bending work 3) Impact bending test: absorbed energy in impact bending 4) Compression test: Young's moduli in longitudinal (L), radial (R), and tangential (T) directions, proportional limits in L, R, and T-directions, and longitudinal compression strength 5) Torsion test: shear moduli of the LT and LR-planes 6) Shear test: shear strength of the LT-plane 7) Hardness test: hardness of the RT, LT, and LR-planes 8) Shrinking test: percent shrinkage in the L, R, and T-directions The results were as follows: 1) The patterns of variation of the measured wood properties in the R-direction (from pith to bark) mainly followed pattern (a) but some cases followed pattern (b). a) Around the pith: the values of the properties increased or did not change in most cases, and sometimes had peaks. Heartwood region, and boundary between heartwood and sapwood: the properties exhibited peaks. Sapwood region: the properties decreased. b) They were stable at the pith and heartwood regions. 2) The pattern of variation did not change with the diameter of the logs. 3) The wood properties were related to density and moduli of elasticity at the 1% or 5% significant level in almost all of the cases.
著者
芝野 博文
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.78, pp.p379-412, 1988-02

流出モデルは流出過程に固有のパラメータが随伴することになる。このパラメータによって降雨が各過程に配分され時間的な遅延を受け,後に総合されてハイドログラフが形成される。それゆえパラメータは流域特性と深く結びついている。パラメータを流域特性から推定する手法が確立されれば任意の流域で任意の降雨から自由にハイドログラフを誘導できることになる。本論文ではこの種のモデルとしてADTモデルを試験流域での資料を基礎に提案した。A runoff model accompanied by specific parameters of runoff processes. With these parameters, precipitation is distributed over each processes, and integrated into a hydrograph later. Therefore, parameters are related closely to the characteristics of drainage basins. If parameters are predicted from the basin characteristics, we can develop hydrographs easily from arbitrarily set precipitation over arbitrarily selected drainage basins.
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.113, pp.197-239, 2005-06
被引用文献数
3

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。An observational study on throughfall, stemflow in mature Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands were conducted at Fukuroyamasawa watershed in Tokyo Univertsity Forest in Chiba. Relationships between throughfall (Tf) and rainfall (P) in both forestswere expressed by regression lines on an event basis: Tf = 0.877 P – 2.443 for the Cryptomeria japonica stand, Tf = 0.825 P – 2.178 for the Chamaecyparis obtusa stand. Ratios of total observed Tf to total P were 79 and 74 % in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands, respectively. Stemflow by upper story trees (Sf) in the both stands were estimated using relationships between stemflow coefficients and tree sizes, which were shown by a previous study on stemflow volume in the same stands. The results showed that Sf could be expressed by equations on an event basis: Sf =0.064 P – 0.447 for the Cryptomeria japonica stand and Sf =0.114 P – 0.798 for the Chamaecyparis obtusa stand. Total stemflow fractions to total rainfall were 5 and 10 % for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. Periodic rainfall interception for six months or twelve months usually accounted 17 and 16-18 % of total rainfall for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. The amounts and coefficients of Tf and Sf in the two mature stands were compared with those reported by previous interception studies in Japanese conifer forests. Also, this study showed that stemflow generated by understory trees in the two stands were less than 1 % of total rainfall. The stemflow coefficients of the understory trees were compared with those obtained at a mixed-stand of Japanese pine and Japanese cypress, and with those observed in a Bornean lowland tropical forest. Moreover, an attempt of this study to evaluate interception loss by the canopies of understory trees indicated that the maximum possible periodic interception rate were 0.3 and 1.2 % of total rainfall in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. These small proportions suggested that further analysis were necessary to understand whether the installations of this study for monitoring interception loss by understory trees could detect the small amount or not. In any case, the effects of understory trees on the water balance in raintime were not significant at the two stands.
著者
井出 雄二 山本 茂弘
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.85, pp.p27-42, 1991-07
被引用文献数
1

ウダイカンバ及びダケカンバ冬芽を供試体としての培養を行った。培養試験は,外植体として用いる冬芽の,採取時期及び枝上での位置の違いによる,シュートの伸長経過の違いを検討した。それぞれの樹種2個体について,10月下旬から3月下旬まで,ほぼ1ヵ月おきに6回にわたり,時期をかえて培養を行った。改変ANDERSON培地にBAP(6-benzylaminopurine)を1.6mg/l添加した培地に,鱗片を除いた冬芽を置床し培養した結果,両樹種についてつぎのことが明らかになった。1)培養開始時期が遅くなるにつれて,シュートの形成が悪くなる傾向が認められ,両種共1月以降の培養ではシュートは得られなかった。すなわち,発根培地に移殖可能なシュートを得るためには,北海道においては遅くとも11月下旬までに培養を開始する必要があり,効率的な増殖のためには,本試験の範囲では10月下旬の培養が適当である。これは,静岡での試験との関係でみると,冬芽形成後月平均気温が5℃を下回らない時期が適当であると示唆される。2)シュートの形成及び伸長は,枝の上部に位置する冬芽では旺盛であったが下部の冬芽からは少なかった。この結果,ウダイカンバでは一年生枝先端の仮頂芽及び2番目の冬芽を,ダケカンバでは仮頂芽のみを用いた場合に,良好なシュートの形成が期待される。なお,シュートの伸長は個体間差が大きく,新しい個体の培養に際しては,培地に添加するBAPの量などの培養条件について,個体毎に検討が必要である。3)両樹種とも,10mm以上に伸長したシュートを切り取って改変したANDERSON培地に,IBA(Indolebutylic acid)を0.5mg/l,NAA(α-naphtylacetic acid)を0.02mg/l添加した発根培地に移植することにより,発根個体を得ることが出来た。これにより,ミズメ,ウダイカンバに次いでダケカンバにおいても冬芽の培養による,植物体再生が可能であることが明らかになった。Effects of seasonal and positional difference of winter buds on shoot elongation were examined in vitro winter bud culture of Betula maximowicziana REGEL and B. ermanii CHAM. Two 30-year-old mature individuals growing in the university forest in Hokkaido were used as the source of explants for each species, respectively. Inoculations were carried out six times from October, 1989 to Mach, 1990 at an interval of about a month. Winter buds which scales had been removed were cultured on modified ANDERSON's medium with 1.6mg/l of BAP (6-benzylaminopurine). Shoot formation and elongation was reduced with the advance of inoculation season. It was concluded that winter bud culture of these two species should start at the end of November at latest. And the end of October was thought to be most favorite time for starting culture as far as this experiment concerned. Active shoot formation and elongation was expected from winter buds which were attached on the upper part of one-year-old twigs. Then upper two winter bud including pseudo-terminal bud for B. maximowicziana and only pseudo-terminal buds for B. ermanii supposed to be appropriate for the explandts. Shoot elongation varied seriously from indiviaual to individual in both species. There-for experiments for determination of appropriate culture conditions such as concentration of BAP would be necessay for the propagation of new individual. Shoots which elongated over 10mm were cut and placed on rooting medium which was modified ANDERSON's medium containing 0.5mg/l of IBA (indolebutylic acid) and 0.02mg/l of NAA (α-naphtylacetic acid) after 90 days of inoculation. Rooting were occurred in both species and regenerated plantlets in a few weeks. This is the first report of in vitro plantlet tegeneration of B. ermanii.
著者
OGIHARA Sadao
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.147-151, 1966

降雨と流出量との関係を考えるに当り同じ期間内のものの対比がよく行なわれるが,1年といったような長期ならばともかく1ヵ月とか1日とかの短期のものの意味は少ない。それは降雨と流出の間に遅れがあるからである。1つの降雨からの流出量―対応流出量と呼ぶ―が求められれば,この両者の対比は充分の意味を持つ。その関係の表現には慣習的な公式x=降雨量,y=対応流出量としてy=ax,y=x-b,y=ax-b,y=axbなどが一応考えられるであろう。これらの実験式は実測値の範囲内ではそれなりの利用価値を持っている。しかし実測値の範囲外までの応用価値を望むならば,その公式の型が全体として推論上の合理性を持つものでなければならない。一方,降雨と流出量の関係の研究は瞬間的な降雨に対するそれの解明を最終目標とする。今日ただちにこの問題と取組むには多くの難関があるので本報告では日単位のものを取扱った。降雨強度の統一化の考え方の1つとしてである。なお対応流出量の求め方については完全とはいえないにしても,数と種類の点で豊富なデーターを得るための実際的な方法を提案した。上記の観点から結論として次の関係式を誘導し,実測値に適用して式の妥当性の吟味を行なった。y=x・exp(a-1x-1)y=x・exp(a-1x-b)流域の乾湿状態を表わすのに降雨前日の日流出量wを採用し,y=x・exp(a-1c-wx-b)とした。