著者
太田 祐子 Yuko Ota 独立行政法大森林総合研究所 Forestry and Forest Products Research Institute
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-10, 2006-03-31

ナラタケ属菌は亜寒帯から亜熱帯にいたる世界中の森林に広く分布する菌であり,広葉樹および針葉樹に重大な根株腐朽病害をおこす病原菌を含むことが知られている.最近広く用いられるようになった分子生物学的手法によって,ナラタケ属菌の種間の系統関係や生態学的研究に新たな知見が得られた.本稿では,ナラタケ属菌の分類,系統関係,生態およびならたけ病の防除について概説する.また防除に関する話題として,近年緑地などでマルチ用資材として利用されている木材チップとナラタケ属菌について最近の研究を紹介する.
著者
髙橋 由紀子 升屋 勇人 窪野 高徳
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-7, 2017-01-31 (Released:2018-01-31)
参考文献数
16

Sydowia japonicaはスギ雄花に選好的に寄生し,スギ花粉の飛散を阻害することから,スギ花粉症対策の生物資材として期待が寄せられている.本研究では,生物資材としての効果の持続性や二次感染の可能性評価のための基礎的情報を得ることを目的として,国内2箇所のスギ人工林において,S. japonicaの雄花序における感染率と感染雄花からの分離頻度を調査した.健全雄花序数と感染雄花序数を形成年ごとにそれぞれ計数し,各枝における感染率を算出した結果,雄花序の形成数と感染率は調査地毎にかなりばらついたが,当年感染雄花序数は当年雄花序数と前年以前感染雄花序数のそれぞれと正の相関があった.このことから,当年形成した雄花序が多く,前年以前に感染した雄花序が多いほど当年の感染数は多くなると考えられた.また組織分離の結果,感染雄花からのS. japonicaの分離頻度は,感染から2年以上経過すると低下したが,感染から2年後までは雄花内で生存可能であることが明らかになった.
著者
井沼 崇 間佐古 将則 中島 千晴
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.133-138, 2015

<p>2012年8月,和歌山県のユーカリ栽培圃場に植栽されているユーカリ'銀世界'(<i>Eucalyptus pulverulenta</i>)に葉枯れ症状が発生し,症状が進展したものでは,茎部まで枯死した個体が見いだされた.葉および茎の病斑部には分生子殻が多数形成され,その内部に形成された分生子を用いて,単胞子分離を行い,菌株を確立した.この分離株上に形成された分生子を用いて調製した分生子懸濁液を2種のユーカリ属植物の葉に無傷で接種したところ,原病徴を再現,病斑からは接種菌が再分離され,病原性が確認された.また,形態的特徴,rDNA ITS領域および<i>β</i>チューブリン遺伝子の塩基配列より<i>Pseudoplagiostoma eucalypti</i>と同定した.培養菌叢は15~35℃で生育し,適温は25~30℃であった.</p>
著者
小田 麻代 山本 福壽
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.99-103, 2002-09-30
参考文献数
20

水耕栽培法を用い、培地に添加したアルミニウムがクヌギ(Quercus acutissima Carr.)、クスノキ(Cinnamomum camphora (L.) Sieb.)およびユーカリ(Eucalyptus viminalis Labill.)の2年生苗木の成長とバイオマス配分におよぼす影響を調べた。苗木は0、0.027、0.27、2.7、および27mMのアルミニウムを添加した改良Hoagland培地を用いて水耕栽培した。2.7mMのアルミニウム処理をした苗木は、バイオマスの増加が認められ、新根の形成による増加は他の器官での増加に比べて顕著であった。これらの結果から、樹木のアルミニウム耐性には根量増加が重要な役割を果たしているものと考えられた。
著者
小田 麻代 山本 福壽
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.79-84, 2008-04-30
参考文献数
18

我が国の森林土壌は,一般に弱酸性であり,特に針葉樹林では酸性土壌(pH4-5)が見られることがある.土壌酸性化の過程では,カルシウム,マグネシウム,ナトリウム,カリウムなどの陽イオン溶脱の後に,アルミニウムの滲出が生じ,それによる植物への毒性が指摘されている.作物の研究ではアルミニウム感受性の植物で,アルミニウムによるリン欠乏症などのほかに,根における細胞膜や細胞分裂への影響があることが知られている.一方で,アルミニウム耐性植物の報告もいくつかおり,チャノキやユーカリの一種は酸性土壌に適応し,アルミニウム解毒能があるとされている.我々の過去の実験では,シラカシ,ミズメ,ユーカリ(Eucalyptus viminalis),オオバヤシャブシ,クヌギ,クスノキなどでアルミニウムによる著しい発根が確認されている.そこで本研究では,クヌギ実生苗に及ぼす酸とアルミニウムの影響を,伸長成長,根の伸長,光学顕微鏡による根の細胞の観察,サイトカイニン様物質の分析により調べた.一年生のクヌギ実生苗をpH5.8の1/5濃度のHoagland培地で水耕栽培し,対照区とした.また,1/5濃度Hoagland培地にpH4.0及び2.7mMの酸とアルミニウム添加処理を行い,処理後4週間の伸長,肥大成長及び根の伸長量を計測した.同じ苗木から光学顕微鏡による観察用の根の切片を採取した.また,4週間後の各器官の乾物重量を測定した.その結果,2.7mMのアルミニウム処理によって,葉と茎の乾物重は減少した.しかしながら,対照区の根の伸長が8.5cmであったのに対し,2.7mMのアルミニウム処理区の根の伸長はおよそ31cmであった.また,2.7mMアルミニウム処理区の根の木部と師部の細胞数は増加し,水平方向の表皮細胞数も増加した.表皮細胞の直径と長さ,および表皮の幅も2.7mMアルミニウム処理区で増加し,根の直径と木部及び師部の幅も増加した.また,一部のサイトカイニン様物質にもアルミニウム処理によって増加したものがあった.これらのアルミニウムによるクヌギ実生苗の根量の増大は,根細胞にアルミニウムを蓄積し,地上部へのアルミニウム毒性の発現を抑制する機能であると予測している.
著者
中山 義治
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.105-107, 2006-09-30
著者
鈴木 覚
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.15-22, 2012-01-31
参考文献数
41
著者
小林 享夫 高橋 幸吉
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-20, 2002-03-31
参考文献数
20

関東地方の茨城・埼玉・千葉の各県において1997年以降ナツツバキに未記録の斑点性病害の発生が見られ、特に2000年にはヒメシャラも含めて激しい発生と落葉被害が起こった。病斑は褐色小円斑から拡大し、周囲は紅色に呈色し、間もなく落葉する。病斑裏面が白色微粉状の分生子柄と分生子塊に覆われる。菌叢磨砕液または分生子浮遊液の噴霧によりナツツバキ、ヒメシャラとも無傷葉に多数の病斑を形成、分生子の形成と落葉が起きた。Stewartia属では未記録の病気であり、病徴から紅斑病と命名した。病原菌は新種と思われ、 Ramularia属の概念に定説はないが、とりあえずRamulana sp.として、解明を待って記載したい。
著者
清水 淳子 林 康夫 福田 健二
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.128-129, 2007-07-31
被引用文献数
2
著者
伊藤 進一郎
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.57-60, 2008-04-30
著者
春日 速水 井口 和信 松井 理生 富樫 一巳
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.174-179, 2010-10-31

シラフヨツボシヒゲナガカミキリ成虫の日周性を明らかにするために,北海道で7月下旬と8月下旬に日中約1時間ごとにトドマツとエゾマツの切株上の成虫数と行動を観察した.晴れた日と薄曇りの日には,成虫は午前中に切株に出現しはじめ,個体数は午後に最大となり,その後減少した.このことから,成虫は昼行性であることが示された.性比は雄に偏っていた.多くの成虫は単独またはマウントをしながら静止していた.雨天時に成虫は出現しなかった.25℃,16時間明期8時間暗期の条件下では,成虫の行動に明期と暗期の間で有意な差は見られなかった.これまでに研究されたヒゲナガカミキリ属3種の比較から,ある種が野外条件下で昼行性であるか夜行性であるかは光条件ではなく,活動に適した体温によって決まることが示唆された.
著者
塚本 こなみ 鈴木 清
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.180-182, 2011-10-31
著者
加賀谷 悦子
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 2005-03-31
被引用文献数
2

近年,生態学分野で急速に分子マーカーの利用が進んでおり,森林昆虫研究に関してもさまざまな成果が報告され始めた.本総説は,分子マーカーの手法と森林昆虫研究に関する国内外の研究事例を紹介するものである.手法として,シーケンシンダ,PCR-RFLP,SSCP,マイクロサテライト,SNPs,RAPD,AFLP,アロザイム,を解説した.上記の手法を用いたマイマイガ(Lymantria dispar)やタイリクヤツバキクイムシ(Ips typographies)などに関する国外の研究事例と,スギカミキリ(Semanotus japonicus)についての国内の研究事例を紹介し,地理的変異の解析をはじめ,近縁種との識別や,個体群間の移動実態の推定に分子マーカーが有用であることを示した.また,DNA解析に供する標本の保存法を説明した.