著者
玉手 慎太郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.339-354, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
38

本稿はアマルティア・センが提唱した「基礎的ケイパビリティの平等」について論じるものである.センの規範理論はしばしばケイパビリティの平等と混同されており,われわれの間で明確な理解がなされているとは言えない.また「基礎的ケイパビリティの平等」は,厳密に考察するならば,自由をどの程度まで保障するのかについて明確でないという問題を抱えていることがわかる.本稿は,自由を二重の重要性を持つものとして捉えるセン自身の考え方に即して「基礎的ケイパビリティの平等」を定式化し,この理論をケイパビリティの平等と明確に区別して示すとともに,保障範囲に関して明示的に理論に取り入れる.保障範囲の問題はいま広く議論されている責任の概念につながるものであり,この点について,本稿の定式化の含意として,責任平等主義に対するエリザベス・アンダーソンからの批判に応答が可能となることを示したい.
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.87-102, 1992-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
2

本稿は、宮台が構想する「権力の予期理論」について、権力現象の背後にある個々人の「了解」の構造に着目することにより、予期理論の方法論を支えている理論的基盤を析出することを目的とする。予期理論の最大の特徴は、権力現象に対してある1人の個人の了解に準拠して接近するという理論上の戦略にある。しかし、社会状況のもとでは、個々人の了解の相互的な読み込みということが生じるがゆえに、この予期理論の戦略は無条件には成立しない。本稿では、まず、「共有知識」という概念についてのAumannの定式化に依拠して、予期理論の戦略が成立するための一般的な条件を考察する。その際、個々人の個別的な了解から、了解の相互的な読み込みを通じて、全ての個人の「共有了解」が導出される過程を記述するための形式的なモデルを提示する。そしてそれに基づいて、予期理論の戦略が成立するための条件は、個人の内的宇宙において、自己の了解が全ての個人の共有了解になっていることであることを論証する。しかし、このことから逆に、現実の社会状況において個人が自己の了解に基づいて行為を選択することは、一般的には不可能であるという結論が導出されてしまう。したがって結局、予期理論の戦略の有効性は、共有了解に関する疑似的な解決の可能性に依存することになる。
著者
七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.253-270, 2011 (Released:2012-09-01)
参考文献数
14

数理社会学における数理モデルと経済学におけるゲーム理論を対比しながら,社会学としての数理モデルについて論じる.意識変数を取り扱う等,主観的領域に一歩踏み込むのが社会学における数理モデルの特徴であると論じ,そのようなモデルは,たとえ,ゲーム理論の均衡分析で人々の行動を記述できる場合でも有意義であると論じる.さらに,数理社会学において土台となる基本原則を持つことを提案し,具体的に,三つの基本原則を使い,いくつかの数理モデルが,基本原則の派生型と解釈できる事を示す.
著者
玉手 慎太郎
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.339-354, 2011

本稿はアマルティア・センが提唱した「基礎的ケイパビリティの平等」について論じるものである.センの規範理論はしばしばケイパビリティの平等と混同されており,われわれの間で明確な理解がなされているとは言えない.また「基礎的ケイパビリティの平等」は,厳密に考察するならば,自由をどの程度まで保障するのかについて明確でないという問題を抱えていることがわかる.本稿は,自由を二重の重要性を持つものとして捉えるセン自身の考え方に即して「基礎的ケイパビリティの平等」を定式化し,この理論をケイパビリティの平等と明確に区別して示すとともに,保障範囲に関して明示的に理論に取り入れる.保障範囲の問題はいま広く議論されている責任の概念につながるものであり,この点について,本稿の定式化の含意として,責任平等主義に対するエリザベス・アンダーソンからの批判に応答が可能となることを示したい.
著者
佐藤 俊樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.3-20, 1990

プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだか? この問いは現在の社会学の出発点である。だが、Weber自身のを含めて、従来の答えはすべて失敗している。経営の規律性や強い拡大志向、資本計算などは日本をはじめ多くの社会に見出されるからだ。この論考では、まずそれを実証的に示し、その上で、プロテスタンティズムの倫理が「禁欲」を通じて真に創出したものは何かを問う。<BR> それは合理的な資本計算や心理的起動力などではない。個人経営においても、経営体(組織)と個人の人格とを原理的に分離可能にしたことである。この分離と両者を規則を通じて再結合する回路こそ、日本の経営体に決定的に欠けているものであった。なぜなら、それが近代の合理的組織の母型になったのだから。その意味においてはじめて、プロテスタンティズムの倫理は近代資本主義を生んだといえるのだ。
著者
Jeong-Yoo KIM
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.95-106, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
15
被引用文献数
1 4

I consider the issue of optimal targeting in information diffusion networks. The initial information possessor is to target a single node so as to diffuse the information to all other nodes most effectively. For the purpose, the concept of closeness centrality may be useful, but if the value from delayed information is discounted by a discount factor, the concept should be properly modified. With this respect, I propose a modified concept of closeness centrality which I will call δ-(closeness)-centrality. The δ-centrality of a node is defined by the sum of discounted values generated from information transmission starting from the node given discount factor δ. Some advantages of δ-centrality over the closeness centrality are discussed.
著者
樋口 耕一
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.161-176, 2004-09-30
被引用文献数
3

社会調査において内容分析(content analysis)という方法が用いられるようになった当初から、新聞記事は重要な分析対象として取り上げられ、様々な分析が行われてきた。コンピュータの発達やデータベースの整備が進む現在、この新聞記事の分析にあたってコンピュータを用いることが容易になりつつある。それに加えて、新聞記事のようなテキスト型データを、コンピュータを用いて計量的に分析する方法も提案されている。そこで本稿では、1991年以降の『毎日新聞』から「サラリーマン」に言及した記事を取り出し、コンピュータを利用した分析を試験的に行うことで、以下の2点についての確認・検討を行った。第一に、コンピュータを用いても、伝統的な手作業による分析と同じ結果が得られるかどうかを確認することを試みた。第二に、テキスト型データ一般を分析するための半ば汎用的な方法として提案されている方法を、各種のテキスト型データの中でもとりわけ新聞記事の分析に用いた場合、いかなる長所短所が生じるのかを検討した。
著者
尾嶋 史章
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.179-181, 2010 (Released:2011-03-12)
参考文献数
3
著者
辻 竜平 針原 素子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.31-47, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
20

成人までの発達段階の途中にある中学生に,さまざまな人間関係についての認知と評価を問う質問紙調査を行った.認知については,9つの人間関係のカテゴリについてトライアド・テストとコレスポンデンス分析を,評価については,それらのカテゴリについて「身近さ」と「信頼」という側面から評価する尺度を,それぞれ用いて測定した.その結果,第1に,トライアド・テストとコレスポンデンス分析によって得られる「第1次元」が,特に「身近さ」や「信頼」の評価と関係が強く重要であることが示された.第2に,その「第1次元」・「身近さ」・「信頼」と「一般的信頼」との相関を見たところ,「友だち」「クラスメイト」「中学校」のカテゴリにおいて強い正相関が見られた.ここから,中学生という発達段階においては,いわゆる「還元アプローチ」の過程によって一般的信頼が形成されていることが示唆された.
著者
林 拓也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.125-143, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
18

職業志向性を測定するために用いられてきたこれまでの研究における方法は,大きく「特性重視方式」と「特性-選好関連方式」に分けることができる.しかし,用いる方式によって結果がどのように異なるのかについての経験的な検討は行われてこなかった.本稿では,両方式による志向導出が可能であり,「特性-選好関連方式」における具体的対象として,豊富な情報を含む「キャリアモデル」が提示されている調査に着目して,この課題についての分析を展開する.データは,アデコ株式会社が2003年に実施した『「はたらく」意識に関するアンケート』による二次データを利用し,キャリア形成途上にあると想定される40歳未満の男女を分析対象とした.志向性を構成する次元を析出するための手法を用いた上で,それぞれの方式による結果を検討したところ,一部は近似した志向を示す次元であることが確認されたが,異なる志向を示す次元や,回答者集団の志向性が異なって解釈されるケースもあった.分析結果をふまえた上で,調査方法上の観点からそれぞれの方式の特質について検討を加えた
著者
浜田 宏 七條 達弘
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.107-123, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
12
被引用文献数
1

Boudon (1982)および Kosaka (1986)によって定式化された相対的剥奪の数理モデルは,主に同質なメンバーからなる集団のみを分析の対象としていたが,Yamaguchi (1998)およびReyniers(1998)の発展モデルにより,異質な成員からなる社会での相対的剥奪を分析できるようになった.本稿ではこれらのモデルを統合してさらに一般化することで,『アメリカ兵』に代表される経験的データをより体系的に説明することを目指す.モデルを分析した結果,投資コストについて恵まれた集団のほうが,恵まれていない集団に比して相対的剥奪率が常に高いという命題が得られ,この命題はデータによっても支持された.また理論的には,コストが連続分布に従う場合でも相対的剥奪率が昇進率の増加関数となる領域ならびに減少関数となる領域が存在する,というインプリケーションが得られた.
著者
金井 雅之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.49-64, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
21
被引用文献数
1

個々の行為主体がもつ個別財としての社会関係資本と,ある集団に存在する集合財としての社会関係資本との相互関係は,社会学理論におけるマイクロ-マクロ連関の一例として理解することができる.「機会と制約の構造(マクロな集合的社会関係資本)が合理的行為(マイクロな個別的社会関係資本)に影響する」側面と「合理的行為の集積が社会的な構造を生み出す」側面は,相互に循環して社会的世界を形成しているはずである.本稿では,温泉地の観光まちづくりに関する社会調査データを,観光まちづくりの発展段階という動的な過程の存在を仮定した上で分析し,この2つの側面のどちらがより強くデータから支持されるかを検証した.結果は前者の存在を強く示唆するものであり,後者の側面は支持されなかった.これは,社会的な構造を合理的行為の集積として説明することのむずかしさを改めて示す結果である.
著者
Masaki TOMOCHI
出版者
Japanese Association For Mathematical Sociology
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.19-29, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
20
被引用文献数
1

The “small-world experiments” by Milgram et al. and the “β model” of small-world networks by Watts et al. are reviewed. Based on the criticism on the “small-world problem” provided by Kleinfeld, a model of a large-scale acquaintance network is constructed under the assumption that the stratified attributes of the nodes affect network formation. The model possesses a feature of self-similarity where connection of several local small-world networks forms a nested small-world network in global.
著者
三隅 一人
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-14, 2010-03-31 (Released:2010-10-03)
参考文献数
60
被引用文献数
1

Mathematical sociology provides a nice crossroad for multi-disciplinary communication. For an additional driver for the communication toward theory construction, I propose ‘triple-formalization’ that consists of three elements: classical theory, typification, and case study.     Formalization of classical sociology has been emphasized by T. J. Fararo as neo-classical formalization. Our standpoint is very close to him; however, I additionally emphasize on coming and going before hurrying to unification. In this case, I mean to replace contemporary implications of formalization of a classical theory in a different classical tradition or in a broader (or a different) context of the same tradition. The linkage will bring us, not only a new insight for model specification, but also a new perspective for extending a theory to cover more complex processes.     Many classical studies utilize typification in theory construction. However, it is so often difficult to capture logical construction of processes, in terms of which the researchers should define each conceptual axis and the relationship between them in their typification frameworks. Formalization of typification process is important here, not only because sociological theory is deeply related with such processes behind typification, but also because mathematical sociology is promised to contribute on clarifying such processes. Moreover, focusing on typification will make it easier to consider linkage with case study.     In fact, as many classical studies rely on case study, the comparative secondary analysis of the cases could have great significance. In this case, formalization of typification process will provide generalized frameworks for interpretive comparative analysis and contribute to deepen theoretical implications of the cases. This approach that I call formalization of interpretive analysis of cases could be applied to methodological generalization of counterfactual analysis of a single case.     For an illustration, I introduce the model of complementarity of role expectations. This model synthesizes Parsons and Heider traditions, and provides generalized typification for role relationships. Then, I will focus on some contradictory types and consider cases that could appear in the real world.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.317-332, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
15

非協力N人ジレンマゲームは全員が裏切り戦略を選択するという支配戦略解を持つ.本稿では,全員が協力戦略を選択する状態がどのような条件の下で実現するのかという問題を,提携をとおして考える.まずN人ジレンマゲームを提携形ゲームに変換し,全体提携下で全員が協力戦略を選択する条件/一部が選択する条件を示す.次に特性関数をマキシミン値で定義するとコアが存在し,マキシマックス値で定義するとコアが存在しないことを示す.そして提携外のプレイヤーが協力戦略を選択する主観的確率を提携外信頼と定義して,この値によりコアの存在条件を一般化する.その結果,提携外信頼が大きすぎると単独提携への逸脱が生じ,コアが空になることが分かった.
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.301-316, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
25

本稿の目的は,平等主義やマクシミン主義や競争主義など,他者配慮にかんする豊かな意味内容をもった二者関係における評価関数を,公理論的に導くことにある.この評価関数は,自他の利得差の絶対値を含むやや複雑な形をしているが,形式的かつ単純な仮定から導かれる.具体的にはこれらの仮定は,(1)自他の利得が比較できる,(2)利得と評価のそれぞれの(選好)順序が正アフィン変換によっても変わらない,というものである.これらの仮定は平等的な性質をもっていないようにみえるが,演繹的に導出される評価関数は平等主義的なものを含むのである.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.57-75, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
15
被引用文献数
4

教育達成の不平等を説明するBreen and Goldthorpeの相対リスク回避モデルを一般化して、上層出身者の進学率が中層出身者の進学率を上回る条件を示す。上・中層出身者の進学率をパラメータの明示的な関数として示すことで、教育達成格差をオッズ比として表し、解析的に分析する。また高校進学後に大学進学の分岐が続く場合のように、学歴の推移が連続して生じる状況をモデル化して、理論的な進学率を導出する方法を定式化する。拡張した数理モデルを用いて、教育水準が高くなるほど出身階層の影響が弱くなる階層効果逓減現象が、どのような条件で生じるのかを示す。オッズ比の低下は中層出身者が上層到達を選好する場合は高等教育段階での進学率が上層出身者の進学率に追いつくことによってもたらされる。無差別のときは中層進学率が定数になる一方で、教育水準の上昇により進学後の主観的成功確率の分布がマイナス方向にシフトして、上層出身者のみ進学率が減少することによってオッズ比が減少する、という予想が得られた。
著者
瀧川 裕貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.21-39, 2009-05-25 (Released:2010-01-08)
参考文献数
35
被引用文献数
2

本稿の目的は互恵性基底的平等の規範理論を提案することである。互恵性基底的平等の理論は、現在の主流理論たる平等の権利モデルに対する代替案となることをめざしている。互恵性をゲーム理論の形式を用いて定式化した後に、権利モデルとの対比において互恵性基底的理論の特質として次の3点を抽出する。それは、(1)相互行為的、(2)他者関与的、(3)対他責任、の3つである。その上で、互恵性と平等との関係について考察する。中心的に問われるのは、互恵性が自然的能力の不平等を再生産するという理解は正しいかどうかということ、互恵性原理には分配的平等を支持する側面が存在するのかどうかということ、である。前者の問いには否定的に答えられることを、後者に関しては価値としての互恵性という考えを用いて肯定的に答えられることを論じる。このようにして互恵性から出発して平等の理論を構築する方向性が示される。
著者
鹿又 伸夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_65-2_83, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
30

日本における世代間移動の出身―到達機会格差について、独自の階層的地位として扱われてこなかった非正規雇用と無職を含む階層分類をもちいて、女性に焦点をあてながら性別比較をおこなった。この性別比較では、第1に出身―到達格差に男女間の明瞭な相違があるのか、第2に、多くの既存研究で時代的変化がないとされてきた男性と同様に、女性の機会格差にも時代的変化がないといえるかを検討課題とした。仮説的な議論として、前者については女性の出身―到達格差が男性より小さいことが予想されたが、後者の変化については格差の安定的持続、拡大、減少の3通りを予測することができた。2005年SSM調査の職歴データを活用して分析した結果、女性の出身―到達格差は、とくに38歳以降そして最大格差で、男性よりも小さく予測に合致した。また非移動については、男性では時代的変化がなかったが、女性では暦年にともなう変化が確認された。しかしその暦年変化は、階層によって安定的持続、増大および減少の趨勢そして増減の曲線的変化などがみられ、3つの変化予測のいずれとも一致しなかった。
著者
村井 源 山本 竜大 徃住 彰文
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.111-128, 2008-06-30 (Released:2008-08-11)
参考文献数
9

複雑な人間関係を数理的に解析するために、近年ネットワーク解析が盛んに用いられるようになった。また、解析用のネットワークを構築するための基礎データとして、WWWのハイパーリンクが用いられるケースが増えてきている。本論文では政治家間の人間関係を示すネットワーク構造の構築に、ハイパーリンク関係を用いる妥当性を検討するため、日本の国会議員のWebページをデータとして用い、議員間のハイパーリンクと議員の名前のテキスト上での言及関係によって二種類のネットワークを構築した。また、得られたネットワークに対してネットワーク解析の手法中心性とクリーク分析の解析を適用し、結果を比較した。得られた結果より、言及関係によるネットワークは、集団における重要性を表す指標としての妥当性があり、ハイパーリンクによるネットワークでは派閥の分析が可能であることが分かった。現状として、大規模政党においては、比較的Webの利用は進んでいないが、今後政治領域でもWebの利用がより一般化することが期待される。このため、将来的にはより多様な関係性の計量的解析にWebデータが利用可能になると考えられる。